海域生態系に関する様々な環境保全措置を対象として、既存事例の効果や問題点、課題等についてレビューを行いながら、環境保全措置の検討、実施上の留意点を整理することを目的として、今回はそのための検討材料となるいくつかの事例を既往資料より取り上げ整理した。
取り上げた事例の概要を表3-1に、各事例の詳細については表3-2~表3-7に示す。
表3-1 海域における環境保全措置事例の概要
事業名 | 環境保全措置の対象 | 環境保全措置の目的 | 環境保全措置の内容 | 事後調査内容等 | 課題 |
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広島港五日市地区 人工干潟造成 (表3-2参照) |
水鳥生息地 | ・水鳥類の望ましい環境条件の回復 | 【存在】 ・埋立により消失する干潟の代替として同程度の面積の人工干潟を造成した。 |
・人工干潟造成による環境保全効果 (環境調査:鳥類ベントス、粒度組成) ・人工干潟の工学的安定性 (沈下量調査) |
・干潟の維持 (圧密沈下の進行、波浪による浸食等により干潟の横断形状が完成時と比較して相当変化している) ・生物生息空間としての改良 (水鳥の生態に即した環境づくりやより多様な干潟生物が生息する環境づくりが必要である) |
中城湾港(新港地区)公有水面埋立 (表3-3参照) |
事業トカゲハゼ等の干潟生物や鳥類 | ・生息環境の保全・創出 | 【港湾計画改訂段階】 ・既存の陸域から約70~280mの範囲の埋立を回避 【工事中・存在】 ・トカゲハゼ゙が生息している干潟の地形、水質、底質の保全に努め、本事業の進捗に応じて新たな生息地(泥地)の創出に努める。 ・仔稚魚の移動を阻害しないために、埋立工事の進捗に併せて澪筋となる水路を沖合海域まで連続させる。 ・護岸付近にヒルギ゙類等の植裁を行う他、既存陸域の内陸側の湿地帯の保全、野鳥等の生息環境の保全に努める。 ・埋立計画地の水路内護岸については、石積の緩傾斜型護岸を採用し、親水機能及び潮間帯生物の生息場としての機能に配慮する。 【供用】 ・トカゲハゼ゙が生息している干潟の地形、水質、底質の保全に努め、環境監視調査の結果を勘案して新たな生息地の創出にも努めていく。 ・護岸付近に植裁したヒレギ類等の維持管理を行う他、既存陸域護岸の内陸側の湿地帯の保全、水路内干潟域を利用した野生生物の学習・観察地の管理を十分に行い、野鳥等の生息環境の保全に努める。 |
【工事中・供用】 ・環境監視計画 (水質調査、海生生物(トカゲハゼ、サンゴ)) 備考:人工干潟試験造成地の追跡調査 (底質調査、干潟生物調査(トカゲハゼ調査)) |
(人工干潟試験造成地について) ・成魚の安定した生息と産卵までの生息条件の整備 ・トカゲハゼの生態については、解明すべき事項が残されていることから、引き続き調査・研究を行う必要がある |
羽田沖浅場造成事業 (表3-4参照) |
魚介類の多い豊かな自然環境 | ・水生生物が生息しやすい環境の回復 | ・羽田空港拡張に伴う埋立によって陸化浅場(-10m以浅)と同程度の浅場(面積約250ha)を新埋立地前面に確保 | ・魚類調査 | ・水生生物の生息環境を良好な状態に維持・管理すること |
熊本県樋合漁港海岸環境整備事業 (表3-5参照) |
アマモ | ・当該海域の生態系に重要な藻場としての機能の保全 | ・海水浴場建設により消滅するアマモ場1,900m2の生育地を計画地内に代替造成し、そこにアマモを移植するミチゲーションの実施 | ・アマモの生育状況 ・海域生物(魚類調査 ・魚卵、仔稚魚調査 |
・移植マウンド゙の洗堀や移植アマモの着生が課題としてあげられたが、追跡調査の結果、洗堀は確認されず、種子からの発芽個体加入が行われ、長期的に分布域が拡大していると考えられる |
関西国際空港護岸 (表3-6参照) |
海域生物 | ・周囲の海域環境に与える影響の軽減 ・新たな生育場の創出 |
・空港島の埋立護岸全長の約80%を占める約8.7kmに緩傾斜石積護岸設置 | ・藻類着生試験(移植対象種:ガラモ場、海中林) ・藻類分布調査 |
・空港島全体の生物的効果 (定量的な調査及び底生性魚類等も含めた多角的な調査を今後継続的に進めることが必要) |
中部国際空港建設事業及び空港島地域開発用地埋立事業 (表3-7参照) |
海域環境 | ・海域環境の変化の影響の 低減 |
【基本構想段階】 ・空港島と対岸部との最小海域幅を約1.1km確保 ・空港島の形状に曲線を取り入れ、空港島と対岸部との海域幅を拡大 ・隅角部の曲線 |
- | 環境庁長官意見(H12.6)) ・空港対岸部地域開発用地の工事途中の早期段階のうちに、環境影響等の検討結果についてレビューを行うとともに、その結果を踏まえて、著しい環境影響が生じると懸念される場合にあっては、埋立面積、護岸や防波堤の形状の変更も含め、環境保全上適切な対策を講じること ・工事中における環境監視を空港対岸部地域開発用地周辺も含め計画的に実施し、この結果環境保全上問題がある場合は、必要に応じ、埋立工事の変更を含め環境保全上適切な対策を講じること ・事業実施後の事後調査において、空港島及び空港対岸部地域開発用地の周辺において、地形の変化、有機物の海底への堆積等により環境の変化が生じた場合、環境保全に配慮しつつ、当該部分を浚渫するなど、適切な環境保全措置を講じること 等 ○その他、研究者より砂質浅海域生態系の喪失を代償するために岩礁域生態系を創出することへの疑問等の意見が出されている |
水生生物(海域生物)とアマモ、干潟 | ・空港島周辺海域の流況、水質分布等海域環境の変化の影響の低減 ・海域生物に及ぼす影響の低減 |
【存在・供用】 ・空港島形状のさらなる曲線化 ・捨石式傾斜堤護岸における岩礁性藻場の創出 |
【工事中及び存在・供用】 ・環境監視調査 (水質、底質、地形・地質、海域生物、海浜生物、鳥類) |
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陸生生物(鳥類) | ・鳥類の採餌に関する影響の低減 ・航空機との衝突を回避・低減 |
【存在・供用】 ・捨石式傾斜堤護岸における岩礁性藻場の創出 ・空港島におけるバードパトロールの実施 ・航空機に対する鳥類の渡りに関する管制情報の提供 |
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生態系 | ・空港島周辺海域の流況、水質分布等海域環境の変化の影響の低減 ・海域生物に及ぼす影響の低減 |
【存在・供用】 ・空港島形状のさらなる曲線化 ・捨石式傾斜堤護岸における岩礁性藻場の創出 |
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動物・植物(陸生生物、水生生物)、生態系 セイタイケイ | ・空港島周辺海域の水質への影響の低減 | 【工事中】 ・護岸等の概成後に埋立工事を実施 ・埋立工事の最大工事量の分散化 ・汚濁負荷量の小さい材料の使用増加 ・余水吐からの排水のpH調整 |
注)この表の内容は、「中部国際空港建設事業及び空港島地域開発用地埋立事業」の課題の“○”の事項を除き、公表資料の記載内容を抽出したものである。
表3-3(1) 中城港湾新港地区公有水面埋立事業(人工干潟試験造成地)
表3-3(2) 中城港湾新港地区公有水面埋立事業(人工干潟試験造成地)
表3-3(3) 中城港湾新港地区公有水面埋立事業(人工干潟試験造成地)
表3-3(4) 中城港湾新港地区公有水面埋立事業(人工干潟試験造成地)
表3-3(5) 中城港湾新港地区公有水面埋立事業(人工干潟試験造成地)
表3-7(1) 中部国際空港建設事業及び空港島地域開発用地埋立事業
表3-7(2) 中部国際空港建設事業及び空港島地域開発用地埋立事業
表3-7(3) 中部国際空港建設事業及び空港島地域開発用地埋立事業