生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会報告書
生物の多様性分野の環境影響評価技術(III) 生態系アセスメントの進め方について(平成13年9月)

生物の多様性分野の環境影響評価技術(III)TOPへ戻る

はじめに 目的と経緯

1 目的

 環境影響評価法の成立、公布(平成9年6月)を受け、環境影響評価に関する基本的事項が平成9年12月に、また主務省庁が定める技術指針等(主務省令)が平成10年6月に定められた。

 環境影響評価の技術手法については、基本的事項、技術指針等に関する基本的な考え方や留意事項が示されているが、今後、環境要素ごとに国内外の最新の科学的知見や事例を収集・整理し、技術手法のレビューをおこなうとともに、技術手法の開発・改良のための検討をおこない、我が国の環境影響評価技術の向上を図る必要がある。さらに、その結果に基づき、必要に応じて基本的事項等を改訂していく必要がある。

 これらの点を踏まえ、本検討会は生物の多様性分野に関する環境影響評価技術の向上を図ることを目的として、環境影響評価の効果的な技術手法について学識経験者による専門的な立場からの検討をおこなうものである。検討成果については事業者、地方公共団体、国民、国の関係行政機関など環境影響評価に関わる様々な主体が参考とできるよう、取りまとめ公表する。

 平成10年度から3ヶ年計画で検討を開始し、平成11年6月に「自然環境のアセスメント技術(I)」、平成12年8月に「自然環境のアセスメント技術(II)」として中間報告書を取りまとめた。最終年にあたる平成12年度は環境影響評価制度の中で最も重要な部分にあたる環境保全措置を中心に検討をおこない、その成果を報告書として取りまとめた。これにより、生物の多様性の保全という視点のもと、新たに環境影響評価の対象項目として追加された生態系に関して、環境影響評価の技術手法が一通り整理されたことになる。

なお、本検討会では陸域、陸水域、海域の3つの生態系に大別してそれぞれの生態系の特性に応じた環境影響評価の技術手法の検討をおこなってきたが、実際の環境影響評価に際して、この陸域、陸水域、海域の生態系を別々に分けて生態系項目の環境影響評価をおこなわなければならないということではない。例えば、陸域生態系と陸水域生態系にまたがるダム事業や陸水域生態系にも影響が及ぶ面整備事業の場合には、陸域生態系と陸水域生態系の双方の視点からとらえるべき影響を検討するなど、生態系項目として一体的に環境影響評価をおこなう必要がある。

 

2 検討体制

 環境省総合環境政策局長の委嘱により、生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会を設置して検討をおこなった。検討にあたっては、それぞれの生態系の特性に応じた検討をおこなうため、前年度に引き続き検討会のもとに陸域、陸水域、海域の3つの分科会を設けた。

 なお、検討会事務局は環境省総合環境政策局環境影響評価課があたり、検討のために必要な作業は各分科会のもとにワーキンググループを設置しておこなった。

【生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会 検討員名簿】

  氏  名

          所  属

  分  科  会

陸 域

陸水域

海 域

  阿部 學

  石川 公敏

  磯部 雅彦

  岩田 明久

  上野 俊一

☆ 大島 康行

  大森 浩二

沖野 外輝夫※

  奥田 重俊

  小倉 紀雄

  尾崎 清明

★ 小野 勇一

  亀山 章

  楠田 哲也

  栗原 康

  小泉 武栄

  幸丸 政明

★ 清水 誠

  須藤 隆一

  谷田 一三

  辻本 哲郎

  中越 信和

  中田 英昭

  中西 弘

  福嶋 悟

  風呂田 利夫

  細谷 和海

  松川 康夫

  森下 郁子

  横浜 康継

  鷲谷 いづみ

  渡邉 信

  渡辺 正孝

国際湿地連合日本委員会副会長

産業技術総合研究所環境管理研究部門主任研究員

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科助教授

国立科学博物館名誉研究員

(財)自然環境研究センター理事長

愛媛大学沿岸環境科学研究センター助教授

信州大学理学部長

横浜国立大学名誉教授

東京農工大学大学院農学研究科教授

(財)山階鳥類研究所標識研究室長

北九州市自然史博物館長

東京農工大学農学部教授

九州大学大学院工学研究科教授

東北大学名誉教授

東京学芸大学教育学部教授

岩手県立大学総合政策学部教授

東京大学名誉教授

生態工学研究所代表

大阪府立大学総合科学部教授

名古屋大学大学院工学研究科教授

広島大学総合科学部教授

長崎大学水産学部教授

山口大学名誉教授

横浜市環境科学研究所基礎研究部門主任

東邦大学理学部教授

近畿大学農学部水産学科教授

中央水産研究所海洋生産部低次生産研究室長

(社)淡水生物研究所長

志津川町自然環境活用センター長

東京大学大学院農学生命科学研究科教授

国立環境研究所生物圏環境研究領域長

国立環境研究所水土壌圏環境研究領域長

 ○

 

 

 ○

 ◎

 

 ○

 ○

 ○

 ○

 

 ○

 ○

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                       (50音順)  ☆:検討会座長、★:検討会座長代理、◎分科会座長 ※:平成12年3月まで検討員

【ワーキンググループ 名簿】

氏  名

所  属

分  科  会

陸 域

陸水域

海 域

  有本 誠

  川瀬 恵一

  畠瀬 頼子

  日笠 睦

  塚本 吉雄

  小栗 太郎

  野谷 靖浩

  豊田 治

  平井 正風

  夏戸 園子

  渡辺 晋

  井上 慎吾

  松尾 章子

  井上 雄二郎

(財)自然環境研究センター研究主幹

(財)自然環境研究センター上席研究員

(財)自然環境研究センター研究員

(財)自然環境研究センター研究員

アジア航測(株)環境部部長

アジア航測(株)環境部環境1課主任技師

アジア航測(株)環境部環境1課係長

アジア航測(株)環境部環境2課係長

三洋テクノマリン(株)環境コンサルタント部部長

国土環境(株)環境技術本部環境技術グループ部長

国土環境(株)環境技術本部環境技術グループ長

国土環境(株)環境技術本部環境技術グループ主査研究員

国土環境(株)環境技術本部環境技術グループ研究員

国土環境(株)環境技術本部環境技術グループ研究員

 

 

 

 

 

 

 

 

3 経緯

3-1 経緯

(1)10年度の検討内容

生物の多様性分野のスコーピングの進め方

 10年度は生物の多様性分野の環境影響評価として、新たに評価対象となった「生態系」項目のスコーピングを中心に検討をおこなった。環境影響評価法に基づく基本的事項のひとつの手法として例示された上位性、典型性、特殊性の視点からの注目種・群集の考え方について整理するとともに、陸域および海域生態系に分けて、それぞれの生態系の特性に応じたスコーピングの進め方について検討し、取りまとめた。具体的にはスコーピングにおける作業の流れを整理するとともに、地域概況調査から陸域・海域の類型区分、評価する上で重要な類型の選定、生態系の構造・機能の検討、注目種・群集の抽出、調査・予測・評価手法の選定に至るスコーピングの一連の作業内容について検討した。

 また、「生態系」項目と同じく生物の多様性分野の評価対象である「植物」「動物」項目並びにこれらと関連の深い「地形・地質」項目のスコーピングの進め方についても併せて検討をおこない、取りまとめた。

(2)11年度の検討内容

 11年度は検討対象として陸域および海域生態系に陸水域生態系を加え、それぞれの生態系の環境影響評価手法について、検討会のもとに設けた3つの分科会において検討をおこなった。

[1]環境影響評価の進め方(陸域および海域生態系)

 10年度のスコーピングに関する検討を受けて、まず、環境影響評価の実施段階の調査・予測・評価の基本的な考え方を整理した上で、それぞれの生態系に関する調査・予測手法を中心に検討し、効果的な調査・予測作業の進め方、実施上の留意点、準備書などへの記載上の留意点などを取りまとめた。

 このうち陸域生態系の調査・予測手法については、陸域生態系の類型ごとに基盤環境や生物群集の関係、事業によるそれらへの影響を整理した上で、注目種・群集からみた陸域生態系への影響をとらえていく手法について検討した。

 一方、海域生態系の調査・予測手法については、注目種・群集からみた海域生態系への影響だけではなく、物質循環や生物の育成場など海域生態系が有する重要な機能に及ぼす影響についても併せてとらえていくための手法を検討した。

 なお、生態系へ与える影響の整理方法や調査地域の設定方法などはスコーピング段階に関わる内容であるが、前年度十分な検討ができなかった事項については、併せて補完的な検討をおこない、スコーピング段階の作業手順の再整理をおこなった。

また、11年度は総論として示す環境影響評価の一般的な考え方や留意点をより良く理解できるように、架空の環境と事業を設定し、ケーススタディをおこなった。陸域生態系に関しては関東地方の丘陵地(里山地域)における面整備事業を、海域生態系に関しては本州太平洋沿岸中部の比較的大きな内湾での砂泥底海域における埋立事業をケーススタディとして設定し、スコーピングの結果を受けてどのような道筋で調査・予測の作業を進めていくかについて具体的に例を示した。

[2]陸水域生態系のスコーピングの進め方

 陸水域生態系に関しては、11年度から、前年度の陸域および海域生態系と同様、スコーピングの進め方について検討をおこなった。具体的には陸水域生態系の特性や本分科会で検討する陸水域生態系の範囲について整理した上で、事業の影響要因の整理、地域概況調査による地域特性の把握・整理、陸水域生態系の類型区分、評価する上で重要な類型の選定、生態系の構造・機能の検討、注目種・群集の抽出、調査・予測・評価手法の選定といったスコーピングの作業の流れと一連の作業内容について検討した。検討に際しては、水の作用を通じた変動性と連続性という陸水域生態系の特性を踏まえたスコーピングの方法となるよう留意した。また、上位性、典型性、特殊性の視点からの注目種・群集の抽出についても陸水域生態系の特性に応じた考え方や留意点を整理した。

 さらに、地域特性の把握結果を踏まえ、注目種・群集を抽出するためのモデル的な手順について作業例を示した。

(3)12年度の検討内容

 11年度に引き続き、陸域、陸水域、海域のそれぞれの生態系を対象として、検討会のもとに設けた3つの分科会において検討を進めた。

[1]陸水域生態系の環境影響評価の進め方

 11年度のスコーピングに関する検討を受けて、まず、環境影響評価の実施段階の調査・予測・評価の基本的な考え方を整理した。その上で陸水域生態系に関する調査・予測手法を中心に検討し、効果的な調査・予測作業の進め方、実施上の留意点、準備書などへの記載上の留意点などを取りまとめた。

 陸水域生態系の調査・予測手法については、陸水域生態系の場の成り立ち、連続性、変動性などの特性に対してどのような影響が及ぶのかといった視点から検討した。

また、12年度は総論として示す環境影響評価の一般的な考え方や留意点をより良く理解できるように、架空の環境と事業を設定し、ケーススタディをおこなった。陸水域生態系については、本州中部の太平洋側に流入する河川における河口堰事業をケーススタディとして設定し、スコーピングの結果を受けてどのような道筋で調査・予測の作業を進めていくかについて具体的に例を示した。さらに、河川上流域における環境影響評価上の留意点についても、河川上流域におけるダム事業を例として主なものを取りまとめた。

[2]生態系項目の環境保全措置・評価・事後調査の進め方

 陸域、陸水域、海域のそれぞれの生態系における調査・予測手法に関する検討を受けて、まず、環境保全措置の立案と調査・予測・評価などの関係を整理し、その上で、それぞれの生態系に関する環境保全措置について検討をおこなった。具体的には環境保全措置の優先順位、立案の手順および内容、留意点などをそれぞれの生態系の特性を踏まえ取りまとめた。また、環境影響の回避または低減に関する評価についても、その考え方などを取りまとめるとともに、事後調査についても、検討内容や手順などを取りまとめた。さらに12年度も総論として示す環境影響評価の一般的な考え方や留意点をよりよく理解できるように、架空の環境と事業を設定し、ケーススタディをおこなった。いずれの生態系も調査・予測手法の際に用いたケースを前提条件として設定し、どのような道筋で環境保全措置、評価、事後調査の作業を進めていくのかについて具体的に例を示した。

 また、学術上および希少性の観点から重要な「地形・地質」「植物」「動物」項目の調査・予測・環境保全措置などに関する留意点についても検討をおこなった。

 さらに、生物の多様性分野の環境影響評価に関する3ヶ年にわたる検討を踏まえ、環境影響評価のより良い運用に向けて検討が望まれる事項についても、幅広い観点から課題の整理をおこなった。 

 

3-2 検討会の開催日程

  

 陸域、陸水域、海域のそれぞれの分科会を下記の日程で開催した。

○陸域分科会

平成12年11月28日/平成13年2月16日/平成13年5月30日

○陸水域分科会

平成12年11月17日/平成13年3月1日/平成13年5月11日/平成13年7月13日

○海域分科会

平成12年12月4日/平成13年2月20日/平成13年6月8日

 

3-3 報告書の構成

 12年度の検討成果を本検討会の3年度目の報告書(自然環境のアセスメント技術(III))として取りまとめた。

 本報告書は以下のような構成とした。

はじめに 目的と経緯

第I部  陸水域生態系の環境影響評価の進め方

第II部  「生態系」項目の環境保全措置・評価・事後調査の進め方

第III部  「地形・地質」「植物」「動物」項目の調査・予測・環境保全措置などに

      関する留意点

環境影響評価のより良い運用に向けて

 

 

 最後に、この報告書の取りまとめにあたっては、検討会の各委員、ワーキンググループの構成員のほか、地方公共団体、研究者、環境コンサルタント、民間団体など多くの方々に貴重なご意見や資料の提供をいただいた。特に第III部の取りまとめにあたっては、青木淳一氏(神奈川県立生命の星・地球博物館長)、垰田宏氏(独立行政法人森林総合研究所四国支所長)、武田正倫氏(国立科学博物館研究員)、南佳典氏(玉川大学講師)よりご指導や資料の提供をいただいた。また、「地形・地質」項目については、滝口善博氏並びに岩渕靖子氏(アジア航測(株))の協力を得た。

生物の多様性分野の環境影響評価技術(III)TOPへ戻る