環境影響評価制度総合研究会報告書(平成8年6月)
環境影響評価制度の現状と課題について

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3-9 国と地方との関係


 3-9-1 国の制度における地方公共団体の役割


 閣議アセス手続において、地方公共団体については、以下の役割が位置付けられている。


・ 関係都道府県知事及び関係市町村長は、事業者の求めに応じ、準備書又は評価書作成に必要と認める範囲において、資料の提供について協力すること。

・ 関係都道府県知事及び関係市町村長は、準備書及び評価書の送付を事業者から受けるとともに、これらを公告、縦覧する場合に協力すること。

・ 関係都道府県知事は、事業者から、準備書についての環境保全上の見地からの意見を、関係市町村長の意見を聴いた上で、住民意見の概要の送付を受けた日から3か月以内に述べるよう求められた場合に協力すること。

・ 都道府県等は、事業者との協議に基づき、説明会の開催等の委託を受けること。


 事業者に対する資料提供については、事業者が環境影響評価準備書を作成するに当たり、事業者が把握することが困難な情報もあり、また、関係都道府県知事及び関係市町村長が地域の環境に関する広範な情報を有していることから、事業者の求めに応じ、関係都道府県知事及び関係市町村長による、準備書又は評価書の作成に必要と認める範囲における資料の提供について協力を依頼しているものである。


 また、事業者が実施する公告については、地方公共団体が公報等公告に適した手段を有すること、これまでの環境影響評価の経験において地方公共団体が公告を行っている場合があること等から、また、縦覧についても、地方公共団体が庁舎等縦覧に適した場所を有していること、これまでの環境影響評価の経験において地方公共団体が縦覧を行っている場合があること等から、それぞれ関係都道府県知事及び関係市町村長に対し協力を依頼しているものである。


 なお、旧法案においては、環境影響評価手続の信頼性の確保の観点から、準備書及び評価書の公告・縦覧を都道府県知事が行うこと等環境影響評価に関する手続の進行管理の役割が位置づけられていたところであるが、閣議アセスについては、閣議決定という形式のため、旧法案のように都道府県知事の事務として位置づけるのではなく、これらは事業者が行い、地方公共団体はそれに協力する立場とされている(P.54参照)。ただし、この点については、地方分権の動きに留意しつつ検討する必要がある。


 関係都道府県知事に対し、準備書に対する意見を求めることとしているのは、地域の環境保全に関する事務を所掌する関係都道府県知事及び関係市町村長の意見は、事業者が手続を進める過程において公害の防止等の配慮を行う上で重要なものであるからである。

 また、関係市町村長の意見については、閣議アセスの対象事業が、大規模で広域にわたること、関係都道府県知事は地域の環境保全の要であり、関係市町村長の意見を踏まえた広域的見地からの意見が期待できること等から、関係都道府県知事に対して述べることとされている。


 以上のように、閣議アセスの手続において地方公共団体は、地域の環境保全に関する事務を所掌し、地域の環境について広範な情報を保有する立場から、準備書に意見を述べ、関連情報を提供するとともに、関係住民への周知手段を有し、その利用の便宜を図れる立場から、公告、縦覧及び説明会の手続に協力することが期待されている。


 また、閣議アセスにおいて、都市計画に係る建設省所管事業に関し環境影響評価を行う場合には、都市計画決定権者たる都道府県知事又は市町村長が都市計画を定める手続等により環境影響評価を実施することとなる。


 閣議決定要綱以外の国レベルの制度においては、整備五新幹線アセスにおいても、準備書に相当する環境影響評価報告書案について知事等の意見提出が位置付けられている。具体的には、事業者は環境影響評価報告書案を関係都道府県知事に送付し、関係市町村長及び関係地域の住民の意見を反映させた関係都道府県知事の意見を求めることとされている。関係都道府県知事及び関係市町村長の意見は、閣議アセスと同様に事業者に対して提出される。なお、関係都道府県知事の意見提出期間は規定上明記されていない。


 一方、発電所アセスにおいては、閣議アセスとは異なり、関係都道府県知事及び関係市町村長の意見提出手続は規定されていないが、情報の交換、各種手続に関する連絡等関係自治体との連携の確保の規定や環境影響調査書及び修正環境影響調査書等の写しの送付の規定はある。

 また、発電所の立地に関しては、通産省の環境審査の過程で開催される電源開発調整審議会の審議を経る必要があり、その際に関係都道府県知事の同意が要件とされている。


 3-9-2 国の制度と地方公共団体の制度との関係


 昭和59年環境事務次官通知においては、閣議決定要綱と地方公共団体の施策について、「本閣議決定は、地方公共団体が環境影響評価制度について条例等の施策を講ずることを妨げるものではなく、地方公共団体が環境影響評価について施策を講ずるか否か、またその内容については、地域の実情に応じ、当該地方公共団体が自主的に判断するものであるが、環境影響評価の円滑な実施を図るためには、国、地方を通じた手続等の整合性が必要である。このため、地方公共団体に対して、政府として統一した手続等を定めた閣議決定の趣旨を尊重し、条例等の施策について実施要綱との整合性に配意するよう要請するものである。」とされている。


 このように閣議決定要綱は、地方公共団体における環境影響評価条例等の制定を妨げるものではないが、手続の二度手間を避ける観点から、地方公共団体に閣議決定手続との整合性を図るよう求めている。


 なお、旧法案においては、法対象事業については法律のみが適用され、条例の該当部分は法令に抵触するものとして失効するとの解釈が示されていた。具体的には、法対象事業と同一の事業種で対象規模要件にも該当するものに関する環境影響評価手続の上乗せについては、法令に抵触するものとされ、法対象事業と同一の事業種で対象規模要件未満のもの(裾だし)と法対象事業以外の事業(横だし)については、条例で必要な手続を定めることができるとの解釈であった。また、日照、電波障害等、公害の防止及び自然環境の保全以外の観点から行われる環境影響評価については、法令に抵触しないこととされていた。


 昭和59年の閣議決定以降、地方公共団体が環境影響評価制度について条例等の施策を講ずることを妨げるものではないとの次官通知の趣旨も踏まえて、各都道府県・政令市において、環境影響評価条例等が順次制定され、現在、条例6団体、要綱等44団体の計50団体で環境影響評価制度が導入されている。また、現在制度を持たない9団体においても、6団体で制度化の予定を有しており、当面制度化の予定を持たない3団体も環境基本条例等の策定を踏まえ、又は国の動向を踏まえて検討することとしている(P.5参照)


 地方アセス所管部局に対する環境庁の調査(複数回答)によれば、地方制度の制定理由をみてみると、50団体のすべてが「国で対象とならない事業をアセスするため」との理由を挙げたほか、19団体で「国制度より幅広い評価項目でアセスするため」、15団体で「国制度の対象事業に地方公共団体の関与を徹底するため」、8団体で「国制度より住民関与を徹底させるため」との理由が挙げられた。


 地方アセスにおいて、同一の事業に閣議決定要綱手続をはじめとする国制度と地方制度手続が重複してかかる場合の調整について、関係規定を有する団体は、制度を有する50都道府県市の74%に当たる37団体(31都道府県と6政令市)である。また、関係規定がなくとも運用上主体的に調整している団体が12団体ある。

 具体的な調整の方法は、資料45に掲げるとおりであり、国の制度で行われたものについては地方の制度を適用しないこととする(地方制度で行われたものと見なすものを含む)団体が26団体ある一方、事業者との協議等により何らかの手続の調整を行うこととしている団体が、運用上調整している場合を含め、22団体みられる。


 また、閣議アセスの対象事業か否かに関わらず、国又は特殊法人が行う事業について、地方公共団体がどのように関与するかという点について、調整規定を有する団体は、全体の9割に当たる45団体(38都道府県と7政令市)である。

 具体的な調整の方法は、資料46に掲げるとおりであり、ほとんどの団体が知事(市長)と国の機関等との協議により定めることとしている。


 さらに、都市計画における環境影響評価については、昭和60年の建設省局長通達において、都市計画を定める者(都市計画決定権者)が、都市計画を定める際に行うこととされており、この場合についても、手続きの重複関係が生ずるおそれがあるが、このための調整規定を有している団体は、全体の82%に当たる41団体(35都道府県と6政令市)である。

 具体的な調整の方法は、資料47に掲げるとおりであり、都市計画手続に従って実施し、当団体の制度は適用しないとする団体が多いが、二つの手続を併せて行うこととしている団体が7団体、何らかの調整を行っている団体が12団体みられる。


 これらのように、現在、国の制度と地方の制度との間でさまざまな調整が行われているが、国の制度が行政指導にとどまっているため、その調整に統一的なルールがなく、また、案件により複数の手続が重複して行われる場合もあり、国の制度と地方の制度の分担・調整のあり方について検討することが課題となっている。


 国と地方の役割分担については、平成7年5月に制定された「地方分権推進法」において、「国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施その他国が本来果たすべき役割を重点的に担い、地方公共団体においては住民に身近な行政は住民に身近な地方公共団体において処理する」との観点が示されている。


 また、地方アセス所管部局に対する環境庁の調査によれば、国に対する要望として、地域の実情に応じた環境影響評価が可能となるように配慮すること、地方公共団体の主体性と自主性を尊重すること、地方公共団体における環境影響評価制度が後退することのないように配慮すること等の意見が多くみられた。


 国の制度と地方の制度の分担・調整のあり方の検討に当たっては、これらの状況や、地方公共団体において独自の制度化がほぼ行き渡ったという状況の変化等を踏まえて検討することが必要となる。


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