環境影響評価制度総合研究会報告書(平成8年6月)
環境影響評価制度の現状と課題について

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4.まとめ


 これまで、環境影響評価に関する内外の動向を概観し、環境影響評価をめぐる現状と課題を分析・整理した。以上を踏まえて、今後の我が国の環境影響評価制度のあり方を検討する上で重要と考えられるものについてまとめると、次のとおりである。


4-1 環境影響評価制度に関する内外の動向


 昭和59年に行われた「環境影響評価の実施について」の閣議決定(閣議アセス)は、制定以来、10余年を経過し、その実績は着実に積み重ねられてきている。

 閣議アセスは、多様な事業に関し包括的に環境影響評価手続を規定するものであるが、現在、公有水面埋立法、港湾法等個別法に基づく環境影響評価手続、通商産業省省議決定による発電所アセス手続、運輸大臣通達による整備五新幹線アセスの手続も行われている。


 地方公共団体においては、平成7年7月末現在、都道府県・政令市計59団体中、条例制定団体6、要綱等制定団体44、計50団体が、独自の環境影響評価制度を有するに至っている。また、現在制度を持たない9団体においても、6団体で制度化の予定を有しており、当面制度化の予定がない3団体も環境基本条例等の策定を踏まえ、又は国の動向を踏まえて検討するとしている。このように、国における閣議アセスの導入の後、地方公共団体における制度化がほぼ全国的に広がり、定着してきている。


 諸外国では、現在、OECD加盟国27カ国中、日本を除く26カ国のすべてが、環境影響評価の一般的な手続を規定する何らかの法制度を有するに至っている。その他の国においても環境影響評価制度の法制化は広がりを見せており、環境庁調査によれば、全世界で50カ国以上が関連法制を備えていることが確認されている。なお、近年諸外国では、政府機関が行う各種の政策立案、計画策定等についての環境影響評価の重要性が認識されつつあり、戦略的環境アセスメント(SEA)の概念のもとでその実施例がみられつつある。


 国際条約・議定書、国際機構の決定・勧告・宣言、開発援助に際するガイドライン、海外での事業活動に際してのガイドライン等、国際的な取組においても、環境影響評価の考え方は、1980年代以降、定着してきており、また、近年では、各種条約・議定書にも具体的に取り入れられるようになってきている状況にあり、我が国としても対応を求められている。


4-2 早期段階での環境配慮と環境影響評価の実施時期


 我が国の環境影響評価は、事業の立地地点や基本的諸元等事業の概略が固まった段階で、手続が開始されているが、この段階では環境影響評価の結果が事業内容の変更等に反映されにくい等の指摘がある。とりわけ、自然環境については、具体的な改変が行われてからでは、影響の修正や代償を行うことが困難であり、早い段階から調査を行い、対策を検討することが重要となる。一方、具体的な事業の諸元が明らかにされていない段階では、環境影響の調査・予測に限界が生じるため、効果的な環境影響評価を行うためには、環境影響評価手続が開始される前に、ある程度、具体的な事業の諸元が明確にされることが必要との要請がある。事業の熟度を高めていく過程は各事業種ごとに異なっており、最も適切に環境影響影響評価を行いうる時期を各事業種ごとに具体的に検討する必要がある。また、主要諸国や我が国の地方公共団体においては、環境影響評価準備書の作成のための調査を開始する前にスコーピング手続や環境影響評価の実施計画書の提出などの事前手続を導入することが広まりつつある。このような事前手続は、論点を絞り、効率的でメリハリの効いた予測評価や関係者の理解の促進、作業の手戻りの防止等の効果が期待されるとともに、調査の開始から準備書の提出までの間にはかなりの期間を要する場合もあり、提供された有益な情報がこの間に活用できることから、事業計画の早期段階での環境配慮に資することが期待される。一方、事前手続において、時間や事務量のいたずらな増大を懸念する指摘もある。また、用地取得の前に事業計画を公表することは、事業内容によっては、用地の取得を困難とし、地価の上昇を招くなど、国土が狭隘な我が国においては、結果として事業の遂行を困難にするという意見もある。

 また、主要諸国においては、個別事業段階での環境影響評価については、経済社会の持続可能性の評価など社会経済活動に伴う環境影響の総体としての評価や累積的な影響の把握などに限界があることなどから、国際的には、上位計画や政策レベルでの戦略的環境アセスメントへの取組が進みつつある。このような国際的動向や我が国での現状を踏まえて、上位計画・政策段階での環境配慮方策を検討することが必要である。


4-3 対象事業


(対象事業を定める形式)


 環境影響評価が必要な事業を限定列記する方式は、事業者に対して予見可能性を与えることができる。一方、環境影響の重大性は個別の事業や事業の行われる地域によって大きな差があることから、個別判断の余地を残さないことは、環境影響が重大な場合を見過ごしてしまうおそれがある。この点に関して、主要諸国においては、個別の事業ごとに、事業の内容、地域の特性等に関する情報を踏まえて、環境影響の程度を簡易に推定して、詳細な環境影響評価を実施する対象とするかどうかを、関係機関等への意見照会により判断する手続(スクリーニング)が取り入れられつつある。


(対象事業を選ぶ視点)


 閣議アセスの対象事業は、[1]国が実施し、又は免許等により国が関与するもの、[2]規模が大きく、その実施により環境に著しい影響を及ぼすものという二つの視点で選定されている。[1]については、主要諸国のほとんどで国関与要件を備えているが、地方アセスでは、ゴルフ場やスキー場のように事業実施自体が法的な許認可等の対象にならない事業も対象としている例がみられる。事業に係る既存の国の関与は必ずしも環境保全の観点から設けられているものではないため、既存の許認可の枠にとらわれずに、環境保全の見地から問題となりうる事業については、環境影響評価手続を行うこととするべきだとの考え方がある。この場合、既存の国の関与がない事業については、環境影響評価の適切な実施を期するため、当該事業に対する新たな監督・規制の仕組みが必要となる。一方、この点については規制緩和や地方分権の流れを踏まえて検討することが必要であり、国による許認可等の制度が備えられているものについて国が責任を負い、その他については国が殊更に関与を設けるべきではないとの考え方がある。[2]について、内外の制度を見ると、事業規模、地域特性、影響特性という三つの視点で対象事業が選定されている。閣議アセスについては、事業種ごとに規模要件が定められているが、地域特性を勘案した規模要件等は取り入れられていない。また汚染物質の排出等に着目した事業種の選定は基本的には行われていない。


(対象とする事業種と環境影響評価の実施状況)


 閣議アセスにおいては、11の事業が対象とされ、平成6年度末までに279件の環境影響評価が実施されている。地方アセスにおいては、レクリエーション施設や廃棄物処理施設等、国の制度で対象としていない事業や、国の制度に比べ小規模なものも対象となっているが、その実施状況を見ると、ゴルフ場を中心とするレクリエーション施設の実施件数が最も多く、各種土地造成事業、道路事業などがそれに引き続いている。

 我が国と欧米諸国の環境影響評価の実施状況は、母数となる事業の総数、社会経済情勢、さらには環境影響評価制度自体が各国で異なっているため、一概には比較できないが、各国の実施件数を国内総生産、人口、国土面積との比率で見ると、我が国は全体的にみればあまり高くない状況と言えそうである。


(国外での事業の扱い)


 我が国の開発援助に際しての環境影響評価については、国際協力事業団等がガイドラインを策定して取り組んでいる。また、企業の海外進出に関しては、経済団体連合会が定めた地球環境憲章において、環境アセスメントを十分に行って適切な対応策を講ずるものとされている。主要諸国における自国の海外活動に関する環境影響評価の取扱としてはアメリカでは他の主権国の領土内でのNEPAの適用は極めて難しいとの解釈が通説となりつつある。カナダでは、各国の主権を尊重しつつ、カナダ環境アセスメント法の特例を設けることを検討中である。

4-4 評価対象

(評価対象等を定める形式)

 閣議アセスでは、主務大臣が定めた技術指針に調査等の対象範囲が具体的に列挙され、実際の予測評価は、各技術指針の枠内で行われている。一方、主要諸国では、制度上は調査等の対象とする環境要素やその範囲についてその選定の考え方や例示を示すことにより包括的に規定するにとどめ、具体的には各案件ごとにその特性に応じて絞り込んでいく手続(スコーピング)が広く取り入れられている。また、地方アセスにおいても、環境影響評価実施計画書の提出等を通じ、調査等を行う項目やその留意点等につき、事業者を個別に指導する機会を確保している例がみられる。このようなスコーピングの手続は、その地域において課題となる環境要素の範囲とそれぞれの重要度を早い段階から明らかにすることによって、論点が絞られたメリハリの効いた予測評価を行うことができる効果を有することが期待される。また、地域住民、専門家、研究団体等の意見・情報を予め幅広く収集しつつスコーピングを行うことにより、より幅広い情報をもとに調査等が実施できるとともに、関係者の理解が促進され、作業の手戻り等を防止することを通じて、無駄な作業を省いた効率的なアセスメントを行うことができることが期待される。一方、スコーピングにおいて、手続にいたずらに時間を要したり、公衆参加を求める場合に際限のない調査等の要求が出る等、かえって非効率となることを懸念する意見もある。


(評価対象の内容)


 閣議決定要綱では、基本的事項により対象を典型7公害(大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、悪臭、地盤沈下、土壌汚染)及び自然環境保全に係る5要素(動物、植物、地形・地質、景観、野外レクリエーション地)に限っている。一方、地方アセス、発電所アセス及び整備五新幹線アセスでは、これら12要素以外に日照阻害、電波障害、風害、史跡・文化財、低周波空気振動、廃棄物、水象、気象等を対象としているものもある。国内の制度における対象の要素の列挙方法としては、公害等に係る要素及び自然環境の保全に係る要素を並列に列挙する「公害・自然区分型」、影響を受ける環境圏である「気圏、地圏、水圏及び生物圏」という区分の下に環境影響現象を列挙する「環境圏区分型」がある。

 近年、環境基本法の制定により、公害と自然という区分を超えた統一的な枠組みが形成されたこと、生物の多様性の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの場としての保全の視点が必要とされるようになってきたことなど、環境の保全に関する新たなニーズが生じてきている。また、地球の温暖化をはじめとする地球環境保全、廃棄物の発生の抑制などに関しても、環境の保全の対象として従前にも増して認識されてきた。さらに、生物多様性条約や気候変動枠組み条約への対応も必要となる。このような新たなニーズに適切に対応できるように、評価対象とする環境要素について検討することが課題となっている。


 また、主要諸国において広く取り扱われている累積的影響については、[1]当該事業以外の活動による影響の重合、[2]汚染物質の環境中での蓄積や複合化による影響の発現、[3]温室効果ガス排出による気候変化などの地球規模の環境影響などを内容とするものである。このような累積的影響について、閣議アセスでは、[1]については、バックグラウンドの状況の調査・予測に含めて取り扱われている。また、[2]や[3]の場合は環境の状態を予測評価することが困難であるが、排出される汚染物質の量や資源・エネルギーの消費量等、算定手法等の明確な指標により、環境への負荷段階の予測評価を行うことが可能な場合もあり、この点の取扱を検討することが必要となっている。


4-5 評価の実施


(評価書の作成主体)


 閣議アセスでは、準備書や評価書の作成は事業者が行うこととされているが、このことについては、事業者自身の責任と負担で環境への影響について配慮することが適当であること、環境影響評価の結果を事業計画や環境保全対策等に反映できること等が理由とされている。主要諸国においても、アメリカでは連邦政府機関の責任のもとに環境影響評価書を作成することとされているものの、その他の国においては原則として事業者が環境影響評価書を作成することとされている。環境基本法は、このような状況を前提として、調査・予測・評価の主体は事業者であるとしている。事業者が、評価書を作成することとする場合には、作成主体以外の者による評価の審査等により、国民等からの信頼性を確保することが重要である。


(評価の視点)


 国内の制度では、環境の保全上の支障を防止するという観点から、各環境要素毎に得られた予測結果を、あらかじめ事業者によって設定された環境保全目標に照らして事業者の見解を明らかにすることを、準備書・評価書における「評価」の内容とするという考え方が基本となっている。

 環境保全目標については、環境基準値等具体的な数値を示す定量的な目標と、「著しい支障を生じないこと」等のように具体的な数値を示さない定性的な目標の二種類が用いられている。特に、自然環境要素では、多様な価値軸があり、しかも地域特性により価値付けが異なるような要素については、類型化され全国で一律に利用できるような尺度が求め難く、国内の制度では、3又は4段階のランク付けに応じた保全目標を設定して、評価を行っていることが多い。この際、生物の予測評価では、学術上重要な動植物の種及びその生息・生育環境の保全を重視してきており、景観及び野外レクリエーション地の予測評価では、既存法令等で保全されているものを重視してきている現状にある。


 主要諸国の制度においては、我が国のように、「環境保全目標に照らして評価を行うこと」に類するような規定はみられず、評価の視点は、事業者がとり得る実行可能な範囲内で環境影響を最小化するものか否かという点に置かれている。実行可能な範囲内で環境影響を最小化するものであるか否かを判断する手法として、主要諸国ではどの代替案がより望ましいかという観点で実行可能な代替案の比較検討を取り入れている場合が多い。国内の制度においても、東京都、大阪府等の一部の地方公共団体において、代替案の検討に関する規定を、技術指針に取り入れているものがある。また、代替案の比較検討によらずに、事業者にとって実行可能な最善の努力が講じられているかどうかを判断する場合もある。


 環境基準や行政上の指針値を環境保全目標とすることは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。一方、一定の目標を達成するか否かを評価の基準とすることについては、環境影響評価を一種の安全宣言的なものとし、恵み豊かな環境を維持し、環境への負荷をできる限り低減しようとする自主的かつ積極的な取組に対するインセンティブが働きにくいという指摘がある。さらに、環境保全目標の水準を環境基準や行政上の指針値とすることについては、例えば現況で環境基準より清浄な地域において、そこまでは許容される汚染レベルととられることを懸念する指摘もある。したがって、主要諸国のように、実行可能な範囲内で環境への影響を回避し最小化するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが必要との考え方がある。

 また、生物の多様性の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの場としての保全や地球環境の保全など、環境基本法等によって認識されている環境の保全に関する新たなニーズについては、画一的な環境保全目標にはなじみ難い場合が多く、この観点から、個別案件に応じて、実行可能な対応がなされているかどうかを評価する手法の導入が効果的であるという考え方もある。これについては、実行可能な範囲であるかどうかを評価することが困難な場合、事業者に過度の負担が生じるのではないかとの指摘がある。また、景観、自然との触れ合い等、環境に接する者の主観に依拠する環境項目については地域住民、学識経験者、関係機関等の意見を集約しつつ目標を形成するべきであるという考え方もある。

 一方、主要諸国においてみられる代替案の検討については、立地決定の以前に代替案を含めて公表して議論を行うことは、我が国の場合、環境影響以外の利害を含んだ議論をより際だった形で誘発するおそれや事業内容によっては地域間の対立を生じ混乱を発生させるおそれ等から、実際問題として難しいという意見がある。これに対し、立地決定に至る過程で事業者によって複数の案が環境保全上の観点を含めて検討されることが必要であり、このため検討された代替案の内容、環境への影響等について、準備書等に記載することが重要であるという指摘もある。


 なお、事業の公益性・社会的必要性等、環境の保全以外の観点に係る評価を併せて評価することも概念上考えられるが、主要な内外の環境影響評価制度においては、環境影響の一環として社会的・経済的影響等を取り扱う制度がみられるものの、事業自体の必要性を直接に評価する枠組みとなっているものは見あたらなかった。


(評価の前提)


 環境影響評価が科学的知見に基づいて適切に行われるためには、環境影響に関する調査・予測・評価を行う技術手法が重要である。このような技術手法は近年さらに発展してきており、その成果を環境影響評価において活用され、よりよい環境配慮が行えるよう、技術手法に関する情報の収集、継続的な評価及び検証、その結果の幅広い提供・普及に努めることが重要である。また、近年の環境保全行政の取り組みの拡充が反映されるよう、技術指針等での扱いを検討する必要がある。


 対象事業による環境への影響を定量的に評価するためには、当該事業が行われる地域における環境の現況を調査し、当該事業以外の活動による環境影響を含んだ環境の状態(バックグラウンド)の推移を併せて予測することが一般に必要とされる。また、動物、植物等では、保全対象と同様なものの事業対象地域以外における分布やその将来動向が保全対象の価値付け、予測結果の評価において重要な意味を持っている。

 このようなバックグラウンドの調査・予測については、事業者にとって困難である場合も多く、現況と同じと仮定することも多く行われているところであり、国あるいは地方公共団体による情報提供の一層の充実が必要とされている。


 予測結果には、不確実性や情報の限界が伴うものであり、予測結果の正しい理解、影響の重大性や事後調査の必要性の判断等、意思決定における不確実性を適切に扱うために、不確実性の程度や内容を明らかにすることが重要である。このため、予測の不確実性を踏まえてこそ、信頼性の高い評価が可能となることを関係者が理解した上で、諸外国でみられるような、情報の不足や技術的困難点の評価書への記載、不確実性の要因の分析や感度分析の実施等の方法を検討する必要がある。


(環境保全対策の検討)


 わが国の制度では、環境影響評価の手続の中に環境保全対策の検討が位置づけられているところであり、主要諸国の制度でも、環境への影響を緩和するための措置の検討が環境影響評価に含められている。例えば、アメリカでは、影響緩和手段の定義が置かれており、回避、最小化、修正、軽減、代償の順で緩和措置に優先順位を設けている。


 環境保全対策では回避や最小化を優先すべきであり、損なわれる環境を他の場所や方策で埋め合わせを行うという代償的措置を検討する場合には、その内容を適切に評価することが求められる。このためには、他の優先すべき対策が困難であることを明らかにするとともに、保全または回復すべき価値に照らして失われる環境と創造される環境を総合的に比較し、評価することが求められる。


(準備書又は評価書の記載内容)


 閣議アセスでは、準備書に必要な記載事項として、[1]氏名及び住所等、[2]対象事業の目的及び内容、[3]調査の結果の概要、[4]対象事業の実施による影響の内容及び程度並びに公害の防止及び自然環境の保全のための措置、[5]対象事業の実施による影響の評価を定めており、評価書に必要な記載事項としては、上記のほか、[1]関係地域内に住所を有する者の意見の概要、[2]関係都道府県知事の意見、[3][1]及び[2]の意見についての事業者の見解

を定めている。地方アセスにおいても、準備書の記載事項は、基本的に閣議アセスを踏襲したものとなっている。なお、東京都等においては、調査、予測等の委託を受けた者の氏名等についても記載を求めている事例がみられる。

 一方、主要諸国においては、代替案の記載を求めるもの、不確実性の存在・情報の欠如に関する記載を求めるもの、事後のフォローアップに関する記載を求めるもの、調査等に従事した者の名前等の記載を求めるものがみられ、アメリカ、カナダ、EC指令、イギリス、オランダ、フランス、イタリア及びドイツにおいては、平易な概要の記載を義務づけている。


 準備書の表現内容等については、閣議アセスでも、わかりやすい記述を求めているところであるが、地方アセスにおいては、分かりやすい記述、概要版の作成、技術資料等の添付、出典の明記を求めている事例がある。主要諸国においては、アメリカでは、評価書のページ数の制限が設けられており、評価書は平易な文章で書くこと等、文章表現についての規定もみられる。さらに、アメリカ、イギリス、イタリアでは、付属資料やテクニカル・ドキュメント等の添付資料についての規定がみられる。


4-6 住民の関与


(住民関与の位置づけ)


 閣議アセスにおいては、関係地域内に住所を有する者から、公害の防止及び自然環境の保全の見地からの意見を聞くこととされているが、意見の内容としては、生活体験に基づく地域の環境情報や環境影響についての懸念等が想定されており、事業そのものに対する賛否を問う趣旨のものではない。また、意見の提出・事業者による検討のプロセスを通じて、公害の防止等についての配慮が行われるとともに、関係住民の理解が深まることも期待されている。地方アセスにおいても、何らかの形で住民関与を定めており、準備書等について、住民が環境保全の観点から意見を述べることができる旨の規定が置いている制度が一般的である。主要諸国においても、中国を除き、住民関与が制度に位置づけられているが、この場合、環境影響評価は主に環境を配慮した合理的な意思決定のための情報の交流を促進する手段としてとらえられており、個別の事業等に係る政府の意思決定そのものへの住民の参画は環境影響評価制度とは別の制度で取り扱われていると考えられる。その位置づけとしては、公衆への情報提供、公衆からの情報収集、理解やコミュニケーションの促進などを挙げている制度がみられる。


(住民の意見を求める対象)


 準備書に相当する文書への意見の提出機会を設けることは、環境影響評価手続の核となる部分であり、内外の制度では、中国を除きすべての制度でこの旨の規定がみられる。


 事業者が調査・予測・評価を実施する前の段階については、主要諸国の中では、アメリカ、カナダ、オランダ、イギリスにおいて、公衆の意見の提出機会を認めている。また、地方アセスでは、埼玉県において、調査計画書に対する意見の提出を認めている。


 また、閣議アセスでは、準備書に対する住民意見の提出の後に再度住民意見を求める仕組みにはなっていない。地方アセスにおいては、5団体において、準備書に対する知事又は市長の意見が出される前に、二回の住民意見の提出機会を設けている事例がある。主要諸国では、アメリカ、カナダにおいて、準備書相当文書への意見提出の後に、必要な場合に、再度、住民参加を求めることとしている例がみられるが、欧州の主要諸国においては、準備書・評価書という二段階の仕組みは設けられておらず、評価書について住民意見が述べられた後に、再度、意見を求めることとはされていない。


(関係地域の範囲)


 周知手続を行い、意見を求める関係地域の範囲は、閣議アセスにおいては、事業の実施が環境に影響を及ぼす地域であって、当該地域内に住所を有する者に対し準備書の内容を周知することが適当と認められる地域とされており、具体的には事業者が設定することとしている。一方、地方アセスにおいて、関係地域の設定方法を定めている団体では、その設定に当たって知事又は市長が関与している団体が大部分である。


 周知手続を行う地域の範囲は、事業に関係する地域とするのが、内外の制度において一般的である。


 意見の提出を求める者の範囲は、閣議アセスでは、関係地域内に住所を有する者とされている。その他の国レベルの制度でも、同様である。地方アセスでは、関係地域の住民に限って意見提出の機会を与えている団体が多いが、7団体は、誰でも文書での意見の提出ができることとなっており、2団体は、当該地方公共団体の住民なら誰でも意見の提出ができることとなっている。主要諸国の制度では、韓国を除き、意見提出者について、区域を明確に限定しない例がほとんどである。例えば、自然環境に係る情報など、地域の環境情報は、関係地域の住民のみではなく、環境の保全に関する調査研究を行っている専門家や民間団体、関係地域に通勤する者、関係地域で産業活動やレクリエーション活動を行う者等によって、広範に保有されていることを考慮すれば、意見の提出者の範囲を限定しないことによって、有効な環境情報が収集できることが期待される。しかし、一方で区域を明確にしない場合、意見の件数が増加することにより事業者等においてその対応に多大な負担を要することを懸念する意見もある。


(住民への周知の方法)


 閣議アセスの手続きの中では、準備書と評価書の公告・縦覧の主体は事業者とされている。ただし、公告・縦覧に当たっては、関係知事及び市町村長の協力を得ることとなっている。一方、地方アセスでは、準備書の縦覧の主体を知事又は市長とする団体が約半数みられる。主要諸国の中では、イギリス及びイタリアが、評価書等を作成した旨の公告等の主体を事業者としている一方、アメリカ、オランダ、フランス、ドイツ及び韓国では、所管官庁が、カナダでは、環境官庁が、公告等を行うこととされている。

 準備書・評価書の公告・縦覧の主体については、閣議決定の形を取ることとなった際に、知事に義務づけることは法制的にできなかったため、閣議アセスでは事業者が公告・縦覧の主体となっている。手続の節目となる準備書・評価書の公告・縦覧については、地方公共団体が何らかの形で関与することで、住民に対する周知を効率的に行えること、手続の進行に関する信頼を得やすいこと等の効果が期待されるとの指摘がある。また、事業者自身が公告・縦覧を行うことによってもこれらの効果は十分に確保できるとの指摘がある。


 閣議アセスでは、環境庁局長通知において、準備書の公告は、住民が関与する手続が開始されることを告知するものであり、関係住民が通常その内容を知りうる方法により行われるものであるとされている。発電所アセスでは、新聞広告、電気事業者等の広報紙への掲載を、関係市町村の協力のもとに行われるその公報への掲載とともに行うこととされている。また、主要諸国では、準備書相当文書に関する公告について、EC指令、イギリス、オランダ、韓国、アメリカにおいて、新聞への公告の掲載等の手段を掲げる事例がある。


 準備書・評価書の縦覧期間は、内外の制度において、概ね、1月~45日程度となっており、閣議アセスにおける1月という準備書・評価書の縦覧期間は、概ねこの傾向に沿っている。


 閣議アセスでは、事業者は、準備書の縦覧期間内に、関係地域内において、準備書の説明会を開催することとされている。ただし、事業者の責めに期すことができない理由で説明会を開催することができない場合は、他の方法による周知に努めることとなっている。 地方アセスにおいては、ほとんどの団体で準備書相当文書に係る説明会の開催規定が置かれており、その開催主体は、ほとんどの団体で事業者とされている。また、地方アセスでは、事業者による周知の方法について、12団体で、事業者と知事(市長)との間で調整するための規定を有している。主要諸国においては、アメリカ、EC指令、韓国において、必要に応じた説明会の開催の規定がみられる。また、カナダでは、環境影響評価手続に関する文書への公衆の簡便なアクセスを公開登録台帳を通じて保証している。


(意見の提出方法)


 意見の提出先は、閣議アセスにおいては、事業者となっている。地方アセスにおいては、事業者に提出することとしているのは、35団体であり、知事又は市長に提出することとしているのは11団体である。なお、事業者又は知事(市長)に提出とする事例もみられる。また、主要諸国においては、意見の提出先は、アメリカ、カナダ及びEC指令のいずれもが、主管官庁等の公共機関とされている。ただし、韓国においては、意見の提出先は、事業者とされており、日本の閣議アセスに近い。


 準備書に相当する文書に係る意見提出可能期間は、内外の制度において、概ね1月~45日程度の期間が確保されており、閣議アセスにおける1月+2週間という期間は、概ねこの傾向に沿ったものとなっている。


 閣議アセスでは、書面による意見聴取を想定しており、公聴会の規定は設けられていない。地方アセスにおいても、書面による意見聴取が基本となっているが、約4割の団体において公聴会の規定が置かれている。また、主要諸国では、アメリカ、カナダ、イタリア、韓国、オランダにおいて、書面による意見提出の規定のほかに、公聴会の開催規定が規定されているが、すべての場合に公聴会を義務づけている例はオランダにみられるのみである。また、フランス、ドイツでは行政手続法等の他の法令の定めに従って公聴会を行うこととしている例もみられる。なお、公聴会において十分な議論がなされ、その機能を果たすためには、公聴会に参加する者がその趣旨を十分に理解することが必要であるとの指摘がある。


4-7 評価の審査


(審査の主体)


 閣議アセスでは、準備書は、地方公共団体のレベルで実質的に審査が行われ、関係都道府県知事意見として事業者に伝えられることとなる。評価書は、対象事業の免許等権者によって審査を受け、審査の結果は免許等に際し配意されることとなる。評価書の審査に当たって、環境庁長官が意見を述べている場合には、その意見に配意して審査等を行うこととされている。一方、主要諸国では、当該事業の免許等の権限を有する機関と環境担当機関の双方が審査に関与している場合がほとんどである。

 閣議アセスでは既存の法的権限を変えないとの立場から全体が構成されていたため、環境庁に主体的な意見提出権限が与えられず、環境庁長官は、環境庁長官に評価書が送付され、かつ、主務大臣がその意見を求めた場合に、意見を述べることとされており、[1]免許権者等が都道府県知事であり評価書が知事のレベルに留まる場合、[2]主務大臣が環境庁長官の意見を求めない場合は環境庁は審査プロセスに参画しないこととなっている。これまで、環境庁長官に意見が求められた事例は279件中16件である。

 また、閣議アセスでは、国の機関の審査が行われる前に評価書が完成しており、環境庁長官の意見は、許認可等へ反映されるのみで、評価書の内容の改善には反映されないこととなる。この点について、閣議アセスの対象は国の関与があるものとされており全国的な視点からの意見も必要であることなどから、環境庁をはじめとする国の機関の意見を評価書の内容改善に反映させることができる手続とすることが望ましいとの考え方もある。一方、国の機関の意見を評価書に反映させることができる手続とすることに対しては、地域の環境の現況、地域の環境保全施策等に関する情報を豊富に有している地方公共団体が審査すれば十分であるとの意見もある。


(第三者機関等の関与)


 閣議アセスでは、審議会等の第三者機関の関与は規定されていないが、発電所アセス、都市計画における環境影響評価、また、地方アセスの9割においては、審議会等第三者機関の関与を設けている。環境部局における意見形成に際して、第三者機関や環境の保全に関する専門家の関与を求め、技術的・専門的事項について、環境保全の見地からの意見を聴取することは、環境影響評価手続の信頼性の確保に寄与するものと考えられる。また、主要諸国では、オランダ及びイタリアにおいて、環境影響評価書の審査のための第三者機関が設置されており、韓国では、専門家からの意見聴取の規定を有している。


(審査の視点)


 閣議アセスでは、国レベルの審査は、「評価書の記載事項につき、当該対象事業の実施において公害の防止及び自然環境の保全についての適切な配慮がなされるものであるかどうかを審査する」こととしている。また、地方公共団体の意見は、公害の防止及び自然環境保全の見地からの意見を求めることとしている。発電所アセスでは、通産省が環境審査指針を明らかにしており、主要諸国では、アメリカ、オランダ等に置いて審査の基準を明らかにしている事例がみられる。審査の視点は、評価の視点に応じて適切に設けられることが必要となる。


4-8 許認可等への反映方法


 閣議アセスでは、対象事業の免許等を行う者は、免許等に当たり、当該免許等に係る法律の規定に反しない限りにおいて、評価書の記載事項を審査し、その結果に配慮することとされている。なお、「当該免許等に係る法律の規定にかかわらず、当該規定に定めるところによるほか、当該審査の結果を併せて判断して当該免許等に関する処分を行うものとする」といういわゆる横断条項については、閣議決定の形をとることとなったゆえに、閣議アセスには盛り込まれていない。地方アセスにおいては、対象事業の許認可等を知事(市長)が行う場合に評価書の内容を配慮する旨の規定や、知事(市長)以外の許認可権者等に対し評価書の内容の配慮を要請する規定が広く置かれており、神奈川県条例に横断条項類似の規定がみられる。主要諸国においては、いずれの国においても許認可等の行政に反映させることとしており、イギリス、オランダ、アメリカ、カナダ、韓国等、主要諸国の環境影響評価関連の法規にはそのための条項を設けているものがみられる。

 現行の閣議アセスは、行政指導によって実施された環境影響評価の結果を、許認可等に反映させる形となっているが、個々の許認可等を定める法令に環境の保全の観点が含まれておらず、かつ、許認可等を定める法令の定めに従う範囲で具体的に定められる審査基準にも環境の保全の観点を含めることができない場合等には、許認可等への反映に限界があり、このことは行政手続法の制定により、さらに明確にされている。


 また、閣議アセスにおいては、環境影響評価の結果が、どのように許認可等へ反映されたかについては公表されていない。一方、アメリカ、カナダ、韓国の法規及びEC指令にみられるように、主要諸国では、環境影響評価手続を踏まえて行われる許認可等の決定に関し、その内容や条件等について公開する旨を環境影響評価手続の中に定める制度が多い。主要諸国の制度にみられるように、許認可等に当たって、国のレベルでの審査の結果等について、何らかの形で明らかにすることは、国民等の理解の促進に寄与するとともに、事業の実施前に行われる環境影響評価手続によって得られた情報と環境保全対策の実施等事業の実施後の対策の連携を明確にする効果を有するとの考えもある。また、許認可等への反映結果として公表する内容については十分検討する必要がある。


4-9 評価後の手続


(評価後の監視・調査等)


 閣議アセスでは、事業着手後の手続については具体的に定められていないが、予測の不確実性に鑑み、影響の重大性や不確実性の程度に応じ、予期し得なかった影響を検出し、必要に応じて対策を講ずるため、工事中や供用後の環境の状態、環境への負荷、事業やその環境保全対策の実施状況を調査する事後調査が、内外で広く行われている。

 事後調査は、評価書の内容について事後的に検証を図ることができる、予測し得ぬ要因による環境影響の回避や周辺住民とのトラブルの防止が可能となる、予測手法等の改善につながる、環境保全対策の実施状況や効果の確認が可能となるなどの観点から効果が期待できる。また、事後調査が環境影響評価において一体的に計画されれば、事後調査の実施を考慮した調査、予測、対策の内容の決定が可能となる。

 一方、事後調査については、その目的、その調査手法や期間の考え方、事業主体が変更・消滅した場合の対応等を明確にする必要がある。


(事業内容の変更等の取扱い)


 事業の内容に大幅な変更があった場合について、閣議アセスの体系においては、評価書に記載された対象事業の内容を変更して対象事業を実施しようとする場合は、軽微な変更をして実施される場合を除き、原則として再度環境影響評価の手続を実施することとされている。地方アセスにおいては、47団体において、事業内容が変更された場合の対応方針を有しており、その内容については、基本的に国制度と同様の取扱をしている。また、主要諸国の制度においては、アメリカや韓国において、環境影響評価手続をやり直す場合又は補足を必要とする場合についての規定が置かれている。


 環境影響評価書の作成後、事業が長期間未着工である場合、その期間に環境自体にも変化が生じ、予測評価の前提がくずれることが予想され、環境影響評価手続の一部又は全部について再び行う「再評価」の必要性を検討することを求めている制度もみられる。閣議アセスにおいては、事業が長期間未着工の場合の再評価の仕組みは設けられていないが、地方アセスにおいては、事業が長期間未着工の場合の取扱いに関し、5団体で、知事又は市長が必要に応じて手続の一部又は全部を再度実施することを求める旨の規定を設けている例がみられる。一方、主要諸国においては、オランダ環境管理法とアメリカの環境諮問委員会の質疑応答集において再評価に関連する規定がみられるが、その他の主要諸国では関連規定はみられない。


4-10 国と地方との関係


(国の制度における地方公共団体の役割)


 閣議アセスの手続において地方公共団体は、地域の環境保全に関する事務を所掌し、地域の環境について広範な情報を保有する立場から、準備書に意見を述べ、関連情報を提供するとともに、関係住民への周知手段を有し、その利用の便宜を図れる立場から、公告、縦覧及び説明会の手続に協力することが期待されている。閣議アセスにおいては、閣議決定という形式のため、準備書及び評価書の公告・縦覧等の事務は、都道府県知事の事務として位置づけるのではなく、これらは事業者が行い、地方公共団体はそれに協力する立場とされている。ただし、この点については、地方分権の動きに留意しつつ検討する必要がある。なお、閣議アセスにおいて、都市計画に係る場合は、都市計画決定権者がこれらの事務を行うよう指導されている。


(国の制度と地方公共団体の制度との関係)


 閣議アセスは、地方公共団体における環境影響評価条例等の制定を妨げるものではないが、手続の二度手間を避ける観点から、地方公共団体に閣議決定手続との整合性を図るよう求めている。

 地方アセスにおいては、同一の事業に閣議決定要綱手続をはじめとする国制度と地方制度手続が重複してかかる場合の調整、国又は特殊法人が行う事業についての調整、都市計画における環境影響評価についての調整が、条例・要綱の規定に基づき、あるいは実態的に広く行われているが、国の制度が行政指導にとどまっているため、その調整に統一的なルールがなく、また、案件により複数の手続が重複して行われる場合もあり、国の制度と地方の制度の分担・調整のあり方について検討することが課題となっている。

 国の制度と地方の制度の分担・調整のあり方の検討に当たっては、地方分権推進法において示されている考え方や、地方公共団体において、地方公共団体の主体性と自主性を尊重し地方公共団体の制度が後退することのないように配慮すべき等の意見が多くみられていること、地方公共団体において独自の制度化がほぼ行き渡ったという状況の変化等を踏まえて検討することが必要となる。


4-11 環境影響評価を支える基盤の整備


(環境影響評価に関連する情報提供)


 閣議アセスの体系においては、国又は地方公共団体による情報の提供に関する具体的な施策は制度上に位置づけられていないが、主要諸国の中には、カナダにおいて、評価書等の資料の収集、記録、保存、提供等のための仕組み(公開登録台帳)を制度上に位置付けられている例がみられる。また、地方アセスにおいては、知事等の責務として、情報の収集・整理・提供を規定している例がみられ、地方公共団体によっては、条例等の規定に基づき、情報の提供に関する具体的な措置を講じている場合もある。

 国あるいは地方公共団体による適切な情報の提供は、[1]事業者による適切な調査・予測・評価の実施、[2]住民による適切な意見の形成、[3]地方公共団体における適切な審査の実施等の観点から重要である。具体的には、[1]累積的な環境影響を評価するためのバックグラウンド濃度や他の事業者による事業計画等に関する情報の提供、[2]生物の生息状況等多様な自然環境の現状に関する情報の提供、[3]過去の環境影響評価事例に関する情報の提供、[4]新しい調査予測手法等環境影響評価の技術手法に関する情報の提供等を推進することが重要である。また、国が保有している情報や事業者等の民間が保有する情報で評価書等に記載されていないものにも、環境影響評価に有益なものがあるが、それぞれバラバラに保有されていたりすることから活用できない場合があるとの指摘もあり、これらについて、情報源情報を整備するとともに、可能なものは収集・整理・公開を進めていくことが重要である。さらに、我が国からも技術や知見を、諸外国へ提供していくことが重要である。

 上記の諸点を考慮しつつ、事業者、関連機関、国民等の情報へのアクセス性の向上を図るため、関連する情報の所在についての情報源情報の整備、環境影響評価書及びその関連資料を含めた環境影響評価事例に関する情報、事後調査結果、生物の分布や生態に関する情報、予測に必要な原単位や排出量等の情報をはじめとした情報を国が中心となって組織的に収集、整備及び提供することが必要である。


(環境影響評価に関わる信頼性の確保)


 環境影響評価において、科学的かつ合理的な調査が的確に行われるとともに、その結果が国民等から信頼性されることも重要である。

 環境影響評価において、具体的な調査等を受託するコンサルタントや調査会社によってより質の高い調査・予測が行われるためには、幅広い知識と技術を備えた調査等の従事者の育成、確保を図ることが重要である。また、環境要素の内容によっては、調査が可能な者の所在やその能力の把握が課題となっており、このため、環境影響評価に係わる人材に係る情報の提供等の方策も考えられる。さらに、環境影響評価に係わる人材の能力の確保のためには研修等の推進が重要である。

 国民等からの信頼性の向上に資する制度としては、[1]環境影響評価の調査等に従事する者や組織に関する資格制度、[2]調査等に従事した者の名前等を評価書に記載すること、[3]関連する情報へのアクセスを提供することなどがあげられる。


(環境影響評価を支える調査研究・技術開発)


 生物の多様性や生態系の保全の必要性、地球環境の保全の必要性、累積的影響の予測の必要性など、高度化、複雑化する環境影響評価をとりまくニーズに効果的に対応できるよう、環境影響評価の調査予測等の技術手法の開発・改良が必要となっている。また、複雑な条件下の問題や特定の場の固有の問題に関する調査予測等の手法については、従来より、その開発が望まれている。さらに、従来から用いられてきている調査予測等の技術手法については、精度や信頼性の向上、利用性や効率性の向上のため、さらなる改善が必要である。調査・予測等の技術手法に加えて、環境保全対策に係わる技術についても、関連技術の開発を進めるとともに、その効果について適切に評価することが求められている。これらのニーズに対応するため、調査・予測等の技術手法、環境保全対策の技術手法など、環境影響評価を支える技術手法のレビュー作業を継続的に行い、技術手法や知見の進展を環境影響評価制度の中に迅速に取り入れていくとともに、新しい関連技術手法の開発を図っていくことが必要である。


4-12 今後の検討の方向


 我が国において環境影響評価は、すでに多くの実績が積み重ねられる中で環境配慮が促進されるなど相応の機能を果たしており、環境の保全を図る上で重要な施策となっている。しかしながら、我が国の制度には、内外の制度をめぐる課題について分析整理を行った本調査研究において明らかにしたように、今後検討することが必要な課題が数多く存する状況にある。

 このような状況を踏まえ、本研究会の成果を活用しつつ、法制化も含め、今後の環境影響評価制度のあり方について、具体的な検討が進められることを期待するものである。


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