環境影響評価制度総合研究会報告書(平成8年6月)
環境影響評価制度の現状と課題について

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3-8 評価後の手続


 3-8-1 評価後の監視・調査等


 事後調査は、工事中や供用後の環境の状態、環境への負荷、事業やその環境保全対策の実施状況を調査することであるが、予測の不確実性に鑑み、影響の重大性や不確実性の程度に応じ、予期し得なかった影響を検出し、必要に応じて対策を講ずるため、このような事後調査が、内外で広く行われている。


 閣議アセスでは、事業者は、評価書に記載されているところにより対象事業の実施による影響について考慮すると定められており、事業着手後の手続については具体的に定められていない。ただし、事業所管省庁が策定した技術指針の中には、必要な場合には追跡調査の実施方法等について検討しておくことなど事後調査について記述している例がある。なお、主務大臣が事業の実施決定又は許認可等の決定を行う際の環境庁意見においては、意見を述べた20案件のすべてにおいて事後調査等の必要性について触れている。(資料43


 一方、その他の国レベルの制度には、何らかの事後手続が規定されている。発電所アセスでは、事業者は、環境影響調査書において、環境保全上重要な項目について環境監視に関する計画を明らかにすることとされている。また、整備五新幹線アセスでは、環境影響評価報告書において、環境管理という項目のもとに、工事中及び開業後の環境の状態を把握し、適切な環境管理を行い得るよう、その措置、方針を明らかにするよう求めている。


 地方アセスにおいては、27都道府県・6政令市の計33団体が事後手続の関係規定を有しており、また、規定の有無に関わらず何らかの事後手続・指導を行っている団体はのべ40団体となっている。このうち、事後調査計画書の提出を求めている団体は、東京都、岐阜県、三重県、滋賀県、名古屋市、神戸市、横浜市の7団体であり、埼玉県では事後調査報告書の提出を求めている。その他の団体では、知事又は市長が必要と認めるときは報告を求めることができることとされている。また、名古屋市、神戸市では、事後調査報告書(神戸市はその概要)を縦覧の対象としており、三重県、滋賀県では、必要に応じてこれらを縦覧している、さらに、東京都では、事後調査報告書の写しを関係市町村に送付するとともにその概要を公示している。


 地方アセスの所管部局に対する環境庁調査によれば、事後手続については、評価書の内容の遵守徹底が図れる、事前調査で分からなかった影響に対応を講じることができる、事後調査を通じて得られた情報によって予測手法の改善が図れる、環境保全対策の実施状況やその効果が確認できる等の効果があるとの回答が得られている。一方、事後調査に関する統一的な手法を定める必要がある、実施期間の明確化が必要である、事業主体が変更となった場合や解散した場合の責任主体を明確にする必要がある等の課題も指摘されている。


 また、地方アセスにおいては、30都道府県・8政令市の38団体において、事業着手後の指導・勧告(37団体)や公表(22団体)の規定を有している。


 平成6年に国内で実施された環境影響評価事例における事後調査の実施状況は、環境庁調査によれば、資料44のとおりである。実施件数177件のうち、約6割において、工事中あるいは供用後の段階で事後調査を行っている。


 主要諸国においては、その半数において、事後手続に関する規定を環境影響評価手続の中に規定している。


 例えば、アメリカにおいては、主導連邦政府機関は、最終環境影響評価書(FEIS)の縦覧期間満了後、当該行為を実施するかどうかの最終的な意思決定を行い、一連の行為、手続等を記録することとされており、その記録(ROD:Record of Decision)に、環境影響評価後の環境保全対策の実行計画及びモニタリングを含めることとされている。この場合、政府機関は重要な事案については、モニタリングを行わなければならないとされている。


 EC指令では、環境影響評価後のモニタリングについて、特に規定していない。EC指令の実施状況報告書によれば、モニタリングへの対応にはばらつきがあるが、加盟12か国中(当時)、イタリア、オランダ及びスペインはEC指令の国内法整備に当たって独自にモニタリングを制度化している。

 オランダにおいては、環境管理法に基づき事業認可の決定を行った所管省庁は、事業の工事中及び共用後の環境影響を調査し、評価書で予測した以上に環境影響が大きいことが判明したときは、環境影響を抑制する又は回復する措置(許可条件の強化等)を講じることが義務付けられている。また、事業者は、必要とされる情報を所管省庁に提出し、調査に協力する義務を負っている。事後調査の報告書については、所管省庁は、事業者、EIA委員会及びアドバイザーに送付するとともに、公表することとされている。


 また、カナダでは、包括的調査及び公開審査における環境影響評価において、主務省庁は、フォローアップ計画の必要性又はその要求があるかについて検討し、必要と認めた場合に、フォローアップ計画を策定することとされている。策定されたフォローアップ計画は、主務省庁の許認可等に際して、許認可等の内容とともに公開され、事業者に実施させた結果についても主務省庁により公開されることとされている。なお、カナダにおいて、フォローアップ計画の実施が適切と考えられる場合は、次のような場合であるとされている。

 ・ 事業が新規又は未検証の技術を含んでいる場合

 ・ 事業が新規又は未検証の環境保全対策を含んでいる場合

 ・ 経験が豊富であるか日常的な事業であっても、新規又は未経験の環境において実施  することが提案された場合

 ・ 環境影響評価の分析が新しい環境影響評価技術又はモデルに基づいて実施された場  合

 ・ 事業のスケジュールが環境影響次第で変更される場合


 さらに、韓国では、事後環境影響調査を行う必要のある対象事業、調査項目、調査期間等をあらかじめ定めており、該当する事業を行う事業者には事後環境影響調査結果を環境部及び承認機関に提出することが義務づけられている。


 事後調査は、評価書の内容について事後的に検証を図ることができる、予測し得ぬ要因による環境影響の回避や周辺住民とのトラブルの防止が可能となる、予測手法等の改善につながる、環境保全対策の実施状況や効果の確認が可能となるなどの観点から効果が期待できる。また、事後調査が環境影響評価において一体的に計画されれば、事後調査の実施を考慮した調査、予測、対策の内容の決定が可能となる。

 一方、事後調査については、その目的、その調査手法や期間の考え方、事業主体が変更・消滅した場合の対応等を明確にする必要がある。


 3-8-2 事業内容の変更等の取扱い


 環境影響評価後、[1]事業実施までの間あるいは事業実施段階において事業内容に大幅な変更が生じる場合、あるいは、[2]長期間事業が未着工であった場合には、予測評価の前提もくずれることから、再度環境影響評価の手続が行われる場合がある。


(事業内容に変更があった場合)


 事業の内容に大幅な変更があった場合には、再び、環境影響評価手続を行うことが必要となる。


 この点について、閣議アセスの体系においては、評価書に記載された対象事業の内容を変更して対象事業を実施しようとする場合は、軽微な変更をして実施される場合を除き、原則として再度環境影響評価の手続を実施することとされている。軽微な変更の範囲については、例えば、建設省所管事業においては、閣議決定要綱に基づく施行通達において、以下の内容を挙げている。

・事業の規模が事業施行区域内において単純に縮小されるもの

・対象事業の規模の拡大その他の変更で、その実施により環境に著しい影響を及ぼすおそれのないもの

・対象事業に係る公害の防止又は自然環境の保全のために行われる緑地、環境施設帯、緩衝空地等の整備であるもの

 また、同様の規定は、環境事業団事業や地域振興整備公団の地方都市開発整備事業に係る環境影響評価においても定められている。また、運輸省所管の大規模事業に係る環境影響評価や厚生省所管事業に係る環境影響評価においてもそれぞれ「その変更が環境に著しい影響を及ぼすおそれがない場合」、「その変更が軽微なものであるとき」という内容の規定が置かれている。


 地方アセスにおいては、47団体において、事業内容が変更された場合の対応方針を有しており、その内容については、基本的に国制度と同様の取扱をしている。


 主要諸国の制度においては、アメリカでは、提案行為に対して環境問題に関係のある大幅な変更を加える場合や重要な新しい状況又は情報が生じた場合は、評価書案から手続をやりなおすか、あるいは補足の評価書を作成することとしている。また、韓国では、事業規模が100分の30以上又は対象事業となる最小事業規模を超えて増加する場合等においては、環境影響評価手続をやり直すことを求める旨の規定がある。


(長期間未着工の場合)


 種々の事情により、具体的な工事等への着手が遅れ、環境影響評価書の作成後、長い年月が経過する場合等、事業が長期間未着工である場合、その期間に環境自体にも変化が生じ、予測評価の前提もくずれることが予想され、環境影響評価手続の一部又は全部について再び行う「再評価」の必要性の検討を求めている制度もみられる。ただし、閣議アセスにおいては、事業が長期間未着工の場合の再評価の仕組みは設けられていない。


 地方アセスにおいては、事業が長期間未着工の場合の取扱いに関し、東京都、岐阜県、滋賀県、三重県及び大阪市の5団体で、再評価の規定を設けている例がみられる。例えば、東京都においては、知事は評価書の縦覧期間満了後、工事着手までに5年が経過した場合において、関係地域の状況が縦覧期間満了時に比較して著しく変化し、環境保全上の必要があると認めるときは、手続の全部又は一部の再度実施するよう求めるものとしている。


 主要諸国においては、オランダで、環境影響評価の基礎とされた状況に重大な変化が生じたために、環境影響評価書に記載された情報を決定の基礎として利用することが合理的でなくなった場合には、主務官庁はその決定を行ってはならないとの規定がみられる。また、アメリカでは、事業が長期間未着工の場合、環境諮問委員会の質疑応答集によれば、経験的にいって5年以上経過した評価書の場合は、再評価が必要かどうかを決定するために注意深く検討すべきとしている。一方、その他の主要諸国では、関連規定はみられない。


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