閣議アセスは、事業者自身による環境保全対策の検討等を通じた環境配慮(事業者のセルフコントロール)に加えて、事業者によって適正な配慮が確実になされるように、環境影響評価の結果を免許等の国の行政に反映させることとされている。このため、閣議アセスでは、対象事業の免許等を行う者は、免許等に当たり、当該免許等に係る法律の規定に反しない限りにおいて、評価書の記載事項を審査し、その結果に配慮することとされている。
この点については、旧法案では、「この場合においては、当該免許等に係る法律の規定にかかわらず、当該規定に定めるところによるほか、当該審査の結果を併せて判断して当該免許等に関する処分を行うものとする」という、いわゆる横断条項が盛り込まれていたが、閣議決定の形をとることとなったゆえに、「当該免許等に係る法律の規定に反しない限りにおいて」との制約条件が必要となったものである。したがって、現在の閣議アセスにおいては、個々の免許法に基づく行政処分の裁量の範囲内で許認可等における配慮を求めているものといえる。
地方アセスにおいては、[1]対象事業の許認可等を知事(市長)が行う場合に、当該許認可等に際し、評価書の内容を配慮する旨の規定を有する団体は33団体、[2]対象事業の許認可権者等が知事(市長)以外の場合に、当該許認可権者等に対し評価書の内容の配慮を要請する規定を有する団体は37団体となっている。なお、対象事業の項で整理したように、地方アセスにおいては、事業実施に関する許認可等の権限の有無に関わらず、対象事業を選定しており、許認可等への反映の規定が存在しても、対象事業によっては、そもそも許認可等にかからないものがあるところである(P.23参照)。
地方のアセス条例のうち、横断条項類似の規定を有するのは、神奈川県条例である。同条例では、知事が許可等権限を有する場合で、当該権限が機関委任事務に基づくものでないときには、許可等を行うに当たり、当該評価書の内容について配慮するものとすると定められている。
なお、川崎市条例では、事業者は、評価書の審査の結果に基づき市長が作成した審査書を遵守しなければならない旨の規定を有しており、審査書が遵守されていない場合には市長による勧告がなされることとされている。
主要諸国においては、いずれの国においても許認可等の行政に反映させることとしており、主要諸国の環境影響評価関連の法規にはそのための条項を設けているものがみられる。
例えば、EC指令第8条では、開発事業者が提出する環境影響評価に関する情報等を、許認可等の開発承認手続の中で考慮することを求めている。
EU加盟主要諸国の法令では、例えば、イギリスでは、都市・農村計画規則等の個別法において、それぞれ許認可等権者は環境情報を考慮せずに計画許可を承諾してはならない旨が規定されている。オランダにおいては、環境管理法第7.35条において、一定の場合には、許認可等の決定の基礎となる法令に基づいて適用される制約にかかわらず、環境を保護するために条件等を付すことができることや事業の実施を認めない結果となる決定を下すことができることが規定されている。また、ドイツにおいては、環境影響評価法は、環境影響評価導入法に基づき制定されているが、環境影響評価導入評価法では、第2~12章において、環境影響評価を11のそれぞれの個別法に基づく許可手続に組み込むことを規定しており、環境影響評価は個別法の許認可手続と一体化したものとして位置付けられている。
アメリカでは、国家環境政策法第102条(1)において、「合衆国の政策、規則及び公法は、本法に定める政策に沿って解釈され、執行されること」と規定している。
カナダでは、環境影響評価法規則に、環境影響評価手続を必要とする事業に関する許認可等の根拠条項を法律リストとして掲げており、リストに列記された条項に基づいて許認可等を行おうとする者は、環境影響評価手続を経た後に行わなければならない旨が規定されている。
韓国では、許認可等を行う行政機関は、環境大臣による評価書の検討結果が事業計画等に反映されているかどうかを確認し、反映されていない場合にはそれを反映するようにしてから許認可等を行わなければならないと規定されている。
現行の閣議アセスは、行政指導によって実施された環境影響評価の結果を、許認可等に反映させる形となっているが、この点については、平成5年の行政手続法の制定に伴い、その限界が明確となっている。
まず、行政手続法第5条では、「行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準を定めるものとする」とされ、許認可等の審査基準は、許認可等を定める法令の定めに従う範囲で具体的に定め、公表することが義務づけられている。
一方、同法第34条では、「許認可等をする権限又は許認可等に基づき処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。」とされている。
したがって、個々の許認可等を定める法令に環境の保全の観点が含まれておらず、かつ、行政手続法第5条に規定される審査基準にも環境の保全の観点を含めることができない場合、環境影響評価の結果によっては許認可等を与えないこととなる可能性があるとの行政指導を行うことは、同法第34条の規定に示されているような限界が存在することとなる。
閣議アセスにおいて、免許等権者の審査の結果については、免許等権者がその免許等に反映することとしており、反映結果についての公表の規定は、閣議アセス手続の中には定められていない。
主要諸国では、環境影響評価手続を踏まえて行われる許認可等の決定に関し、その条件や決定の理由等について公開する旨を環境影響評価手続の中に定める制度が多い。例えば、アメリカでは、連邦機関が事業について意思決定を行った段階で記録を残すこととしている。また、カナダでは、環境アセスメントを終了した後に主務官庁が行う決定に関して公開する旨の規定がある。具体的には、もし開発計画に対して支援を行わないことになった場合には、そのような決定にいたった経緯を説明する文書を、また、支援を行うことになった場合には、その決定や必要とされる環境への悪影響を緩和するための措置、フォローアップ・プログラムについて、それぞれ公開しなければならないこととされている。さらに、EC指令においては、所管機関が決定を行ったときに、決定の内容及びその付帯条件を関係する公衆に対して公開するとともに、加盟国の法令で定めるときは、決定が根拠にした理由及び審査結果を公開することとされている。なお、韓国では、主務省庁が事業計画について承認した場合に環境庁長官に通知する旨の規定がある。
主要諸国の制度にみられるように、許認可等に当たって、国のレベルでの審査の結果等について、何らかの形で明らかにすることは、国民等の理解の促進に寄与するとともに、事業の実施前に行われる環境影響評価手続によって得られた情報と環境保全対策の実施等事業の実施後の対策の連携を明確にする効果を有するとの考えもある。また、許認可等への反映結果として公表する内容については十分検討する必要がある。