評価の審査については、[1]審査の主体、[2]第三者機関等の関与、[3]審査の視点の三点を中心に整理することとする。なお、ここでいう審査とは、準備書や評価書の環境情報について、十分なデータ、分析等が記載されているかどうか、環境の保全についての適切な配慮がなされるものであるかどうかを、科学的かつ客観的に審査するものであり、事業そのものの可否について論ずるものではない。
閣議アセスでは、まず、事業者によって作成された準備書は、関係都道府県知事及び関係市町村長に送付され、これらの地方公共団体のレベルで実質的に審査が行われ、関係都道府県知事意見として事業者に伝えられることとなる。関係都道府県知事の意見は事業者によって準備書が修正され、評価書が作成される際に反映されることとなる。
次に、事業者により作成された評価書は、対象事業の免許等権者によって審査を受け、免許等権者は免許等に際し審査の結果に配意することとされている。この審査に当たって、環境庁長官が意見を述べている場合には、その意見に配意して審査等を行うこととされている。
閣議アセス対象事業であっても、都市計画手続において環境影響評価が行われる場合には、都道府県知事(又は市町村)の都市計画の決定に関して、建設大臣(又は都道府県知事)が認可(又は承認)を行う場合に、建設大臣(又は都道府県知事)が都市計画決定権者が作成した評価書の記載事項について審査を行うこととされている。また、この審査に先立ち、都道府県知事が都市計画決定権者である場合には、関係市町村及び環境担当部局に意見を聴くこととされているとともに、都市計画の案が都市計画地方審議会に付議されるときに評価書が添付され、説明されることとなっている。
国レベルのその他の制度のうち、発電所アセスでは、住民意見とそれに対する事業者の見解を踏まえて通商産業省が審査を行うこととされている。通商産業省の審査においては、専門家からなる環境審査顧問の意見を聴く手続を有している。また、環境審査報告書の作成に先立って電源開発調整審議会が開催され、都道府県知事の同意を得るとともに、環境庁をはじめとする関係省庁との調整が行われる。通商産業省が作成する環境審査報告書は公開され、これを踏まえて事業者において環境影響調査書につき所要の修正が行われることとなる。
地方アセスでは、準備書相当文書が提出されてから評価書相当文書作成までの段階で、知事又は市長によって、住民意見や関係市町村長意見を踏まえた審査が行われ、その結果は、審査意見書等の形で、事業者に伝えられることとされている。なお、知事等意見を踏まえて作成された評価書等について、再度審査を行う旨の規定を有する団体は、北海道、千葉県及び千葉市の3団体である。
一方、主要諸国では、許認可等の意思決定に先だって、事業者が作成した評価書の内容について審査する何らかの手続きを有しており、当該事業の免許等の権限を有する機関と環境担当機関の双方が審査に関与している場合がほとんどである。
アメリカでは、最終評価書(FEIS)の作成に至る間に、主導連邦機関と他の関係連邦機関との間で協議が行われ、その中で、環境保護庁に意見を申し述べる機会が与えられている。なお、FEISの作成の段階で協議が整っていない場合には、大統領府に置かれた環境諮問委員会(CEQ)に調整を申し立てることができることとされている。
カナダでは、主務省庁によって作成され、また、受理された包括的調査報告書(評価書)は、さらに、環境アセスメント庁の審査を受けることとされている。また、環境アセスメント庁の審査の結果、必要と環境大臣が認める場合には、調停・委員会審査からなる公開での審査に付されることとなる。
イギリスでは、都市・農村計画法の許可対象事業の場合、評価書は、地方計画庁においてその内容がチェックされる。ただし、地方計画庁の判断の前であれば、公衆等は環境大臣に直接処理(コールイン)の申し立てができることとされている。
オランダでは、評価書は、まず、所管官庁によって受理される段階で審査を受けEIA委員会に送付される。EIA委員会では、専門家からなるおおむね3~7人のグループが審査に当たることとなっている。
フランスでは、評価書は許認可機関によって審査される。ただし、環境大臣は、自己の権限又は他者からの要請により、あらゆる評価書等の審査を行うことができるとされている。
イタリアでは、評価書は、まず、独立のEIA委員会によって審査を受ける。この結果は環境省に伝えられ、これを踏まえて、環境大臣と文化遺産・環境資源大臣は、当該事業の環境との両立性に関する意思決定を行う。この結果は、事業者を経由して事業の所管官庁に伝えられることとなる。
ドイツでは、事業者による情報(評価書)、公衆等の意見、独自の調査などを踏まえて、所管官庁が「環境影響の総括的報告書」を作成しなければならないこととされている。
韓国では、評価書は所管官庁が事前に審査を行った後に、環境部に送付される。環境部では、必要に応じて、公聴会公述人や中央諮問委員会環境影響評価分科会委員等の専門家の意見を聴いて、審査を行うこととされている。
閣議アセス手続において、環境庁長官は、環境庁長官に評価書が送付され、かつ、主務大臣がその意見を求めた場合に、意見を述べることとされており、[1]免許権者等が都道府県知事であり評価書が知事のレベルに留まる場合、[2]主務大臣が環境庁長官の意見を求めない場合は環境庁は審査プロセスに参画しないこととなる。これまで、環境庁長官に意見が求められた事例は、平成6年度末までに手続が終了した閣議アセス279件中、道路事業16件にとどまっている。
この点について、旧法案では、環境庁長官は必要に応じ意見を述べることができる旨規定されていたところであるが、閣議決定要綱では既存の法的権限の枠内で主務省庁が自らの事業について行政指導を行う立場から全体が構成されているため、法律に基づかずに環境庁に主体的な意見提出権限を与えることは見送られ、環境庁は主務省庁の求めに応じて意見を述べる立場に置かれたという経緯がある。
また、閣議アセスでは、国の機関の審査が行われる前に、関係住民及び地方公共団体の意見のみによって、必要に応じて準備書を修正して、評価書の作成が行われることとされている。したがって、完成された評価書に対して述べられる環境庁長官の意見は、許認可等へ反映されるのみで、評価書の内容の改善には反映されないこととなる。この点について、閣議アセスの対象は国の関与があるものとされており全国的な視点からの意見も必要であることなどから、環境庁をはじめとする国の機関の意見を評価書の内容改善に反映させることができる手続とすることが望ましいとの考え方もある。一方、国の機関の意見を評価書に反映させることができる手続とすることに対しては、地域の環境の現況、地域の環境保全施策等に関する情報を豊富に有している地方公共団体が審査すれば十分であるとの意見もある。
閣議アセスでは、審議会等の第三者機関の関与は規定されていない。ただし、都市計画決定にかかる事業の場合は、前述のとおり、都市計画審議会にかけられることとなる。
また、発電所アセスでは、前述のとおり、環境審査顧問の審査を受けるとともに、電源開発調整審議会に付議されることとなる。
地方アセスにおいては、審議会等第三者機関を設置している事例が多くみられる。審議会等第三者機関の設置の趣旨については、知事又は市長意見の形成に際して、環境保全上の見地から、技術的、専門的な事項について意見を求めるためとしている団体が多い。
平成7年7月末現在、審議会等第三者機関については、制度を有している団体50団体(41都道府県・9政令市)のうち、9割が設置しており(36都道府県・9政令市)、また、約3割の団体(10都道府県・6政令市)が義務的に開催することとしている。
審議会等の主な審議対象としては、技術指針、準備書に対する知事意見の他、環境影響評価に関する重要事項、環境影響評価に関する技術的事項等とされている。また、26都道府県・6政令市の計32団体において、技術指針の策定等について審議対象としている他、「実施計画書」(岐阜県及び大阪市)、「事後調査報告書」(東京都及び三重県)等が対象とされており、神戸市においては、見解書も審議の対象とされている。
環境部局における意見形成に際して、第三者機関や環境の保全に関する専門家の関与を求め、技術的・専門的事項について、環境保全の見地からの意見を聴取することは、環境影響評価手続の信頼性の確保に寄与するものと考えられる。
主要諸国では、前述のとおり、オランダ及びイタリアにおいて、環境影響評価書の審査のための第三者機関が設置されており、韓国では、専門家からの意見聴取の規定を有している。
オランダでは、EIA委員会が環境管理法に基づいて設置されており、議長1名(環境大臣及び農業大臣が指名、内閣が任命)、副議長4名(委員会から選出)、委員として技術者、科学者が200名、その他の助言者100名から構成されている。EIA委員会は、スコーピングガイドラインの作成に当たって主務大臣に助言を行うこと、アドバイザーの助言と公衆のコメントを踏まえ、環境影響評価書の質と完成度を科学的に審査し、所管官庁に勧告を提出すること等を任務としている。
イタリアのEIA委員会は環境省に設置され、環境影響評価書の審査を専門に行う機関であり、委員は、大学、公共機関・公営企業及び専門的知識をもつ専門家から選出されている。EIA委員会は、環境省から依頼を受け、特に技術的側面から環境影響評価書の審査を行う。
また、韓国では、環境大臣が評価書を検討するに当たり、必要と認めるときは、公聴会において住民が推薦した専門家や、関連する審議会委員等の意見を聴くこととされている。
閣議アセスでは、国レベルの審査は、「免許等に際し、当該免許等に係る法律の規定に反しない限りにおいて、評価書の記載事項につき、当該対象事業の実施において公害の防止及び自然環境の保全についての適切な配慮がなされるものであるかどうかを審査する」こととしている。また、地方公共団体の意見は、公害の防止及び自然環境保全の見地からの意見を求めることとしている。
発電所アセスでは、通産省が環境審査指針を定めており、個別の審査はこの審査指針に従って審査がされる。審査指針においては、「環境審査は、環境保全のために講じようとする対策及び環境に及ぼす影響の予測方法のそれぞれの妥当性を評価したうえ、[1]人の健康の保護、[2]生活環境の保全、[3]自然環境の適正な保全の観点から対象発電所の立地に伴う環境影響を評価することにより行う」とされている。
主要諸国では、審査の基準を明らかにしている事例がみられる。
例えば、アメリカの環境保護庁(EPA)は、評価書案(DEIS)や最終評価書(FEIS)の段階で審査を求められるが、その場合に用いるためのEISの採点ランク付けのための基準を作成している(資料42)。この基準では、環境影響の評価内容が適切かどうかを判断するためのクライテリアと、EISの記載情報が十分かどうかを判断するためのクライテリアの双方を定めている。
また、オランダのEIA委員会における審査に当たっては、次の3つの段階を踏んで審査されている。第一に、評価書に不足している点の抽出の段階である。この検討に当たっては、[1]スコーピングガイドラインによって示された事項、[2]類似の既存の環境影響評価の検討結果、[3]法律の現状、環境基準・目標、技術水準の現状等の一般的クライテリアの三つを考慮に入れることとされている。また、第二の段階では、第一の段階で発見された不足点が許認可決定に対し重要かどうかを検討する段階である。第三の段階は所管官庁に対し、勧告を行う段階である。
さらに、イタリアでは、EIA委員会の審査結果を踏まえて、環境大臣と文化遺産・環境資源大臣は、当該事業の環境との両立性に関する意思決定を行うが、その際の審査に当たっては、[1]環境影響調査書の完全性、[2]環境上の基準への適合性、[3]原料及び天然資源の使用の一貫性、[4]分析・判断の方法、予測技術等の適切さなどについてが勘案されることとされている。
このような審査の視点は、評価の視点に応じて適切に設けられることが必要となる。
なお、環境面のみではなく、他の公益等をも勘案して総合的に審査を行うべきであるという意見もあり、他方、他の公益等の勘案については、許認可等の段階で、許認可等権者によって考慮されるべき事項であり、環境影響評価手続における審査は、必要かつ十分な環境情報が許認可等権者に提供されるものであるかどうかという点に特化すべきであるとの考え方がある。