3-5-1 住民関与の位置づけ
閣議アセスにおいては、関係地域内に住所を有する者から、公害の防止及び自然環境の保全の見地からの意見を聞くこととされている。
この意見の内容としては、生活体験に基づく地域の環境情報や環境影響についての懸念等が想定されており、事業そのものに対する賛否に関する意見を問う趣旨のものではない。また、意見の提出・事業者による検討のプロセスを通じて、公害の防止等についての配慮が行われるとともに、関係住民の理解が深まることも期待されている(昭和60年環境庁局長通達)。
地方アセスにおいても、何らかの形で住民関与を定めており、準備書等について、住民が環境保全(あるいは公害の防止及び自然環境の保全)の観点から意見を述べることができる旨の規定が置いている制度が一般的である。
主要諸国においても、中国を除き、住民関与が位置づけられているが、この場合、環境影響評価は主に環境を配慮した合理的な意思決定のための情報の交流を促進する手段としてとらえられており、個別の事業等に係る政府の意思決定そのものへの住民の参画は環境影響評価制度とは別の制度で取り扱われていると考えられる。住民関与の趣旨を明確に規定している条項は少ないが、例えば、アメリカでは、NEPA施行規則において「NEPAの手続は、事業等に関する意思決定が行われる前に、環境情報を公務員や市民に提供されるよう保証しなければならない」(1500.1(b))とされ、主務官庁は「関心を有し、又は影響を受ける人や団体の意見を求めなければならない」(1503.1)とされている。
また、カナダでは、カナダ政府資料において、カナダ環境アセスメント法に基づく公衆の関与の目的について、次の諸点が挙げられている。
・ 公衆の環境影響評価に関する関心と価値評価を把握すること
・ 公衆からより多くの関連情報を収集すること
・ 公衆に対し、代替案やその価値評価に関する情報を提供すること
・ 双方向のコミュニケーションを構築すること
・ 公衆との信頼関係を構築しそれを維持すること
・ 意思決定プロセスを改善すること
EC指令においては、「アセスメントは、事業者によってもたらされる適切な情報を基礎として行われなければならない。この情報は、当該事業に関係のある行政当局や人々(the people who may be concerned by the project in question)によって補完されるだろう。」(指令前文)とされている。
さらに、イギリスでは、環境省の手引きにおいて、公衆の関与によって、情報不足によって生み出される公衆の不安を和らげ、地方計画庁が意思決定に当たって検討しなければならない現実的な問題点を把握することができると記述されている。
国の環境影響評価では、準備書に相当する文書について、住民の意見提出の機会が与えられている。すなわち、閣議アセスでは、準備書に対する意見の提出の機会を認めており、発電所アセスでは、準備書に相当する環境影響調査書、整備五新幹線アセスでは、同じく環境影響評価報告書案について意見の提出機会が与えられる。
また、地方アセスにおいても、準備書に相当する文書について、住民意見の提出を求めている。
主要諸国の制度においては、アメリカ・韓国を除き、準備書及び評価書の二段階の書類の作成は位置づけられていないが、環境影響について調査・予測等を行った文書(準備書相当文書)について住民の意見の提出機会を設ける点については、我が国の制度と同様となっている。
このように準備書に相当する文書への意見の提出機会を設けることは、環境影響評価手続の核となる部分である。
主要諸国の制度においては、事業者が調査・予測・評価を実施する前の段階において、意見の提出機会を認めている場合がある。
例えば、アメリカでは、後の段階での参加が見込まれる場合には、主務官庁は、関心のある個人・団体(interested private persons and organizations)等と早い段階で協議を開始することとされているほか、スコーピングの段階で関心を有する者(interested persons)の参加を呼びかけることが規定されている。
また、オランダでは、各案件ごとに調査・予測等の範囲について定めるスコーピングガイドラインを作成する際に、公衆に対し、配慮すべき環境要素の指摘、事業者の提案に対する代替案の提示等を内容とする意見の提出を求めることとされている。
さらに、カナダでは、スクリーニングの段階で、主務省庁が公衆の参加が適当であると考える場合等において、公衆への告知を行い、スクリーニング報告書等についてコメントの機会を提供することとされている。イギリスでは、調査予測項目について、必要に応じて住民と相談することとしている。
また、地方アセスでは、埼玉県、千葉県、滋賀県、千葉市、名古屋市、神戸市の6団体において、準備書作成前段階の書類を周知の対象としており、このうち、埼玉県では、調査計画書に対する意見の提出を認めている。
事業者が準備書を作成する前の段階で、調査・予測・評価すべき内容等について住民の意見を聴くことは、調査・予測・評価の手戻りを防止し、効率的でメリハリの効いた予測評価を行うことが可能となる。ただし、このことについては、際限のない調査等の要求が出ることにより、かえって非効率的なものになるおそれを懸念する意見もあり、事業種類ごと又は事業段階ごとに一般的な調査・予測・評価の考え方を示して目安とするという方法、オランダの環境影響評価委員会のような第三者機関で適切な絞り込みを行う方法(資料26)、既存事例やガイドライン等の情報を提供する方法などの工夫を併せて行うことが必要である(P.31参照)。
閣議アセスでは、準備書に対する意見の提出を踏まえて作成された評価書は住民に周知されるが、評価書に対する住民意見の提出は求めていない。
地方アセスにおいては、準備書に対する知事又は市長の意見が出される前に、二回の住民意見の提出機会を設けている事例がある。埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、大阪府、千葉市、名古屋市及び大阪市の9団体において、意見書に対する事業者による見解書を周知の対象としており、このうち、東京都、神奈川県及び岐阜県の3都県では、見解書について、再度、意見を提出する機会を認めている。また、横浜市では、準備書に対する住民意見を踏まえて作成された評価書について、再意見の提出を認めている。さらに、川崎市では、住民意見を踏まえて作成された修正報告書について、公聴会の開催を通じて再度住民が意見を述べる機会を設けている。これらの5団体は、知事又は市長が審査を行う前に、二回にわたり住民意見の提出機会を認めている例である。
また、愛媛県では、知事の審査が終了した後に、評価書段階に相当する「報告書」について、住民の意見書の提出を認めている。
主要諸国においては、準備書相当文書への意見提出の後に、必要な場合に、再度、住民関与を求めることとしている例もみられる。
例えば、アメリカにおいては、連邦機関が事業に関する最終的な決定を行う前に、最終環境影響評価書について意見を求めることができるとされている。
また、カナダにおいては、準備書相当文書である包括的調査報告書に対する意見の提出を受けた後に、環境大臣は、公衆の関心が高い場合や環境保全対策を実施しても著しい環境影響が見込まれる場合等においては、公開審査を行うこととしている。公開審査は、調停と委員会審査の二種類があり、調停は、独立の第三者である調停人のもとで、住民等の関係者が合意形成を図る手続である。また、委員会審査は、独立の委員がヒアリング等を行い調査報告書をまとめる手続である。これらの結果は、環境大臣及び主務省庁に報告され、主務省庁の決定に反映されることとなる。
一方、EC指令をはじめとし、欧州の主要諸国においては、準備書・評価書という二段階の仕組みは設けられておらず、評価書について住民意見が述べられた後に、再度、意見を求めることとはされていない。
再度の意見提出機会を設けることは住民の理解を得るために効果があるという考え方がある。一方で、準備書に対する意見の提出を通じて住民が保有する必要な情報は入手できるため、再度の意見の提出機会を設けることは必要がないという考え方がある。また、事業者の見解と住民の見解の相違を埋めるための手続は、環境影響評価手続の中ではなく、紛争の処理のための手続において取り扱われる事柄であるとの考えもある。
環境影響評価手続における関係地域の範囲については、まず、現行の制度において、関係地域がどのように設定されているかを分析した後、[1]周知手続を行う地域の範囲と、[2]意見の提出を求める住民の範囲の双方の観点から検討を加えることとする。
閣議アセスにおいては、事業者は、関係地域を管轄する都道府県知事及び市町村長に準備書を送付し、説明会の開催を関係地域内で行うとともに、準備書について、関係地域内に住所を有する者の意見を把握に努めることとしている。このとき、関係地域の範囲は、事業の実施が環境に影響を及ぼす地域であって、当該地域内に住所を有する者に対し準備書の内容を周知することが適当と認められる地域(昭和60年環境庁企画調整局長通知)とされており、関係地域の設定は事業者が行うこととされている。
関係地域の単位は、閣議アセスでは、地域の実情を踏まえ、当該地域を含む住居表示による町、丁目、字等の区画等を用いて定めることができることとされている(前出局長通知)。また、発電所アセスでは、関係市町村として対象発電所の立地地点の所在する市町村及び隣接市町村を対象としている。
地方アセスにおいて、関係地域の定義を有する団体は、47団体あり、「環境に影響を
及ぼすと認められる地域」に類する定義を有する団体が24団体、「準備書の内容を周知することが必要と認められる地域」という閣議アセス型の定義を有する団体は23団体である。
関係地域の設定方法を定めている団体について、その設定方法をみると、設定に当たって知事又は市長が関与している団体が大部分である。すなわち、地域設定に当たって、知事(市長)が個別に関与する団体が37団体(知事自ら設定:15、知事意見のもとに事業者が設定:22)であり、知事(市長)の個別関与がない団体が8団体(知事の基準に従い事業者が設定:3、事業者が設定:5)となっている。
関係地域を定める手続は、旧法案では、主務大臣が、環境庁長官に協議して、環境に影響を及ぼす地域に関する基準を定め、都道府県知事がこの基準に該当する地域を、事業者の意見を聴いた上、定めることとしていたが、閣議決定となった際に、知事の関与を規定することができなかったため、現行の閣議アセスでは、事業者が定めることとなっているものである。
閣議アセスの手続きの中では、準備書を作成した事業者は、関係地域を管轄する都道府県知事及び市町村長の協力を得て、準備書を作成した旨の公告を行い、準備書を縦覧に供することとされている。
また、事業者は、準備書の縦覧期間内に、関係地域内において、準備書の説明会を開催することとされている。
地方アセスにおいても、後述のように、47団体において、説明会の開催の規定がみられるが、そのすべてにおいて、説明会は関係地域内で行われることとされている。
主要諸国においては、評価書の縦覧は、イギリスでは開発が行われる地域、ドイツでは事業計画が影響を与えると思われる地域、韓国では対象事業の実施によって環境影響を受けることとなる地域で、それぞれ行われることとされている。
このように、周知手続を行う地域の範囲は、事業に関係する地域において行われるのが一般的であると言える。
閣議アセスでは、意見の提出を求める者は、関係地域内に住所を有する者とされている。その他の国レベルの制度でも、地域を定めて意見提出者の範囲を限定する方法が採られている。すなわち、整備五新幹線アセスでは、関係地域の住民とされている。また、発電所アセスでは、地元住民等とされており、対象発電所の立地地点の所在する市町村及び隣接市町村(以下「関係市町村」という。)に住所を有する人のみでなく、関係漁協、農協の組合員等地元関係者も含め対象としている。
地方アセスにおいても、関係地域の住民に限って意見提出の機会を与えている団体が多いが、神奈川県、滋賀県、大阪府、兵庫県、川崎市、名古屋市及び神戸市の7団体は、誰でも文書での意見の提出ができることとなっており、東京都及び岐阜県の2団体は、当該地方公共団体の住民なら誰でも意見の提出ができることとなっている。この場合、実際にどの程度の範囲から意見が提出されているかを見ると、資料37のとおりである。
一方、主要諸国の制度では、意見提出者について、関心を有する者であれば特に限定を置かないものがみられる。
例えば、アメリカ及びカナダでは、特に意見を聴く地域を限定していない。アメリカでは、意見提出者について、関心を有する個人や団体(interested persons and organizations)としており、カナダでは、公衆(public)のコメントを求めることとしている。
また、EC指令では、関係する公衆(the public concerned)との用語を用い、その範囲は、各国が定めることとしており、加盟国の制度を見ると、例えば、イギリスでは、申請に対して意見のある者は誰でも(any person wishing to make representation)意見を提出することができるとされている。また、オランダでは、「何人も」(eenieder)意見を述べることとされている。さらに、イタリアでも、すべての国民が意見を提出できることとされている。ドイツでは、事業計画によって影響を受ける者は誰でも意見を提出することができることとされている。
一方、韓国では、環境影響評価対象地域内の住民についての意見を集約することとされており、閣議アセスの考え方に近い。
例えば自然環境に係る情報など、地域の環境情報は、関係地域の住民のみではなく、環境の保全に関する調査研究を行っている専門家や民間団体、関係地域に通勤する者、関係地域で産業活動やレクリエーション活動を行う者等によって、広範に保有されていることを考慮すれば、意見の提出者の範囲を限定しないことによって、有効な環境情報が収集できることが期待される。また、意見の提出を求める範囲を関係地域に限定することは、地域の利害関係を離れた客観的かつ専門的な意見を聴く機会を失うこともあるという意見もある。しかし、一方で区域を明確にしない場合、意見の件数が増加することにより事業者等においてその対応に多大な負担を要することを懸念する意見もある。
住民への周知の方法については、[1]準備書等の公告縦覧の主体、[2]準備書に関する公告の内容と方法、[3]準備書等の縦覧期間、[4]公告・縦覧以外に講じられる周知手続の四つの観点から分析・整理することとする。
閣議アセスの手続きの中では、準備書と評価書の公告・縦覧の主体は事業者とされている。ただし、公告・縦覧に当たっては、関係知事及び市町村長の協力を得ることとなっている。
なお、閣議アセスにおいても、都市計画に係る建設省所管事業に関し環境影響評価を行う場合には、都市計画法に基づき都市計画案を縦覧する際に、準備書を同時に縦覧することとしており、縦覧の主体は都市計画決定権者たる都道府県知事又は市町村長となる。
地方アセスでは、21団体が、準備書の縦覧の主体を知事又は市長としており、事業者が準備書の縦覧主体となっているのは、23団体である。一方、評価書の縦覧の主体は、24団体が知事又は市長、22団体が事業者としている。
主要諸国の中では、イギリス及びイタリアが、評価書等を作成した旨の公告等の主体を事業者としている。一方、アメリカ、オランダ、フランス、ドイツ及び韓国では、所管官庁が、カナダでは、環境アセスメント庁が、公告等を行うこととされている。
準備書・評価書の公告・縦覧の主体については、旧法案においては知事が公告・縦覧を行うこととされていたが、閣議決定の形を取ることとなった際に、知事に義務づけることは法制的にできなかったため、閣議アセスでは事業者が公告・縦覧の主体となったとの経緯がある。手続の節目となる準備書・評価書の公告・縦覧については、地方公共団体が何らかの形で関与することで、住民に対する周知を効率的に行えること、手続の進行に関する信頼を得やすいこと等の効果が期待されるとの指摘がある。また、事業者自身が公告・縦覧を行うことによってもこれらの効果は十分に確保できるとの指摘がある。
閣議アセスでは、環境庁局長通知において、準備書の公告は、住民が関与する手続が開始されることを告知するものであり、関係住民が通常その内容を知りうる方法により行われるものであるとされている。また、その内容には、以後進められる手続の趣旨、内容を伝えるため、関係地域の範囲、縦覧の場所、期間及び時間、意見書を提出できる期間、提出先等の事項を含むこととしている。
閣議アセスに基づく各省庁の要綱では若干詳細に公告方法を記述している例がある。例えば、建設省要綱では、事業者は、関係都道府県知事及び関係市町村長の協力を得て、[1]関係都道府県の公報その他広報紙への掲載、[2]関係市町村の公報その他広報紙への掲載のいずれかの方法により公告するものとし、これらの方法により難い場合には、新聞又は折り込み広告等への掲載その他事業者の利用できる適切な方法により公告するものとされている。
発電所アセスでは、縦覧する旨の周知の方法に関し、新聞広告、電気事業者等の広報紙への掲載を、関係市町村の協力のもとに行われるその公報への掲載とともに行うこととされている。
主要諸国では、準備書相当文書に関する公告について、新聞への公告の掲載等の手段を掲げる事例がある。
EC指令では、公衆への通知方法の例示として、当該地域での掲示、地方紙における公表、説明会の開催を挙げている。EU各国の制度においても、イギリスでは地元地方紙への掲載、イタリアでは当該地方における最も広範に発行されている日刊の地方紙及び全国紙への公告の掲載、オランダでは複数の日刊紙への掲載を、周知方法のひとつに含めている。
また、韓国では、2紙以上の地方日刊紙に意見提出時期、方法、説明会又は公聴会の開催公告を掲載しなければならないとされている。
さらに、アメリカでは、国内全体の関心事となりそうな行為の場合と、地方レベルでの関心事となりそうな行為の場合に区分し、国内全体の関心事となりそうな行為の場合は、官報に掲載するとともに、関心を有するであろう団体に個別に通知を出すこととされている。一方、地方レベルの問題の場合には、地域の情報センターへの通知や関心を有する団体等への通知のほか、地方紙への掲載などを通じて市民参加を喚起するものとされている。
閣議アセスにおいては、準備書・評価書とも、その縦覧期間は、1月とされている。ただし、都市計画に係る建設省所管事業に関しては、前述のとおり、都市計画法に基づく都市計画案を縦覧する際に、準備書を同時に縦覧することとされており、その縦覧期間は2週間となっている。
地方アセスにおいては、準備書の縦覧期間については、ほとんどの団体で1月又は30日としているが、神戸市は45日としている(資料38)。評価書の縦覧期間については、大部分が1月又は30日とされているが、15日が7団体、3週間、2週間、7日がそれぞれ1団体ある。また、神戸市は縦覧期間の限定を有していない(資料39)。
主要諸国においては、アメリカでは、評価書案は最低45日間、評価書は最低30日間縦覧することとされている。また、韓国では、評価書案は30日以上縦覧されるが、評価書についての縦覧は手続に定められていない。その他の主要諸国では、前述のとおり、評価書のみの作成が位置づけられており、評価書は、イギリスでは21日以上、オランダでは1月以上、ドイツでは1月間縦覧されることとされている。カナダ、フランス、イタリアでは、法文上縦覧期間は明記されていない。なお、フランスでは、公聴手続法の適用を受ける場合は1月以上、2月を越えない範囲で縦覧されている。
以上のように、内外の制度において、準備書・評価書の縦覧期間は、概ね、1月~45日程度となっており、閣議アセスにおける1月という期間は、概ねこの傾向に沿ったものとなっている。
閣議アセスでは、前述のとおり、事業者は、準備書の縦覧期間内に、関係地域内において、準備書の説明会を開催することとされている。ただし、事業者の責めに期すことができない理由で説明会を開催することができない場合は、他の方法による周知に努めることとなっている。
なお、旧法案では、事業者が説明会を開催しようとするときは、事業者が、その開催予定の日時及び場所を定め、関係都道府県知事に通知するとともに、これらを説明会の開催予定の日の一週間前までに公告するという手続を定めていた。
地方アセスにおいては、準備書相当文書に係る説明会の開催は、37都道府県と7政令指定都市の44団体において義務づけられている。また、北海道、岡山県及び川崎市では、必要に応じて開催することとされている。説明会の開催方法については、ほとんどの団体で事業者が開催することとされているが、北海道では知事が開催する説明会に事業者の出席を求めて説明させることとなっている。また、東京都は、事業者による見解書に関しても説明会の開催を義務づけている。
さらに、地方アセスでは、周知の方法について、事業者と知事(市長)との間で調整するための規定を有する場合がある。例えば、滋賀県及び神奈川県では、事業者に対し、周知計画書の提出等を通じて、説明会を含む周知方法について事前に知事の了解を受けることを求めている。また、千葉県及び千葉市では、説明会開催日程について知事・関係市町村長又は市長と協議をすることを求めている。さらに、栃木県、東京都、富山県、横浜市、川崎市、名古屋市、大阪市及び神戸市では、周知計画書等を事前に提出させることとしている。このうち、名古屋市では、準備書周知計画を準備書とともに縦覧の対象としている。なお、横浜市等一部の団体では説明会等の終了届の提出を事業者に求めている。
主要諸国においては、EC指令では、公衆への通知方法の例示として、当該地域での掲示、地方紙における公表に加えて、図表、グラフ、模型などを用いた説明会の開催が例示されている。また、カナダでは、環境影響評価手続に関する文書は、公開登録台帳に登録することとされており、関係文書への公衆の簡便なアクセスを保証している。必要な場合に説明会を開催する旨の規定は、アメリカ、韓国にもみられる。
意見の提出方法については、[1]意見の提出先、[2]意見の提出期間、[3]意見の提出方法(特に公聴会について)の三つの観点から整理を行う。
閣議アセスにおいては、事業者に意見を提出することとなっている。この点については、発電所アセスも同様である。一方、整備五新幹線アセスでは、知事が、関係地域の住民の意見を反映させた知事意見を作成することとされており、住民意見の提出先は知事とされている。
地方アセスにおいて、準備書に関する意見を事業者に提出することとしているのは、35団体である。一方、北海道、千葉県、東京都、神奈川県、滋賀県、千葉市、横浜市、川崎市、名古屋市、大阪市及び神戸市の11団体では、知事又は市長に提出することとしている。また、大阪府は、関係住民の意見は事業者又は知事に提出し、関係住民以外の者の意見は知事に提出することとされている。兵庫県は、事業者又は知事のいずれかに提出することとされている。
住民意見が、事業者に提出される場合、すべての団体で、事業者は住民意見の概要を知事又は市長に送付することとされている。また、ほとんどの団体で、事業者は、評価書に、住民意見に対する見解を記載することとされている。なお、埼玉県及び岐阜県では、事業者に、評価書作成の前に見解書を作成することを求めている。これは、埼玉県においては、事業者に、見解書を当該意見を提出した者に個別に送付させるためである。ただし、この場合、見解書の送付が著しく困難な場合で知事の承認を得たときには、公告・縦覧に替えることができるとされている。また、岐阜県においては、事業者が見解書を縦覧し、住民の再意見の提出機会を与える手続を持つためである。
一方、住民意見が、知事又は市長に提出される11団体では、意見書提出後に、知事又は市長が住民意見に対する事業者の見解を聴くための何らかの手続を有している(資料40)。
まず、千葉県等の9団体では、事業者に見解書の提出を求め、それを踏まえて準備書への知事(市長)意見を形成することとしている。また、北海道では、知事が説明会を開催して事業者の出席を求め、その場で事業者から見解を聴取することとしている。滋賀県では、公聴会に事業者の出席を求めることとしている。
一方、横浜市と川崎市では、事業者に準備書相当文書の修正を求め、それに対して市長意見を公表することとしている。すなわち、横浜市では、市長は、住民意見を事業者に送付し、その意見を勘案して「評価書」を提出することを求めている。そして、市長は「評価書」を再度縦覧し、住民意見の提出を求めた上で、「評価書」を審査することとしている。事業者は、市長の審査書を受けて、それに対する見解を記載した「報告書」を市長に提出し、手続が終了することとなる。川崎市も、横浜市と類似しており、住民意見の送付を市長から受けた事業者は、「修正報告書」を市長に提出することとされ、市長の審査は「修正報告書」に対してなされることとなる。
主要諸国においては、意見の提出先は、アメリカ、カナダ及びEC指令のいずれもが、主管官庁等の公共機関とされている。ただし、韓国においては、意見の提出先は、事業者とされており、日本の閣議アセスに近い。
意見の提出期間は、閣議アセス及び発電所アセスでは、準備書の縦覧期間(1月)及びその後2週間である。一方、都市計画に係る建設省所管事業に関し環境影響評価を行う場合には、意見提出期間は、2週間の縦覧期間満了までとされている。整備五新幹線アセスでは、意見提出期間は規定上明記されていない。
地方アセスでは、準備書に関する意見の提出期間は、ほとんどの団体で、約45日の期間を確保している。兵庫県については、30日となっている。
主要諸国における準備書相当文書への意見提出期間は、45日以上とするアメリカから、21日以上とするイギリスまである。
内外の制度における準備書に相当する文書に係る意見提出可能期間をまとめると、資料41のとおりである。わが国における都市計画決定手続きに基づくアセスが一番短く2週間となっており、全体の傾向としては、概ね、1月~45日程度の期間が確保されている。閣議アセスにおける約45日という期間は、概ね、この傾向に沿ったものとなっている。
閣議アセスでは、書面による意見聴取を想定しており、公聴会についての規定は設けられていない。なお、発電所アセスでは、書面及び説明会開催時に口頭で住民の意見を聴いている。なお、旧法案においては、都道府県知事が、知事意見の形成のために特に必要があると認めたときは、関係住民の意見を聴くための公聴会を開催することができる旨の規定が置かれていた。
地方アセスにおいても、書面による意見聴取が基本となっているが、公聴会の規定を置いている団体は、北海道、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県、岐阜県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、広島県、香川県、千葉市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市及び神戸市の20団体である。
このうち、埼玉県、東京都及び神奈川県の3団体は、公聴会の開催を義務づけており、その他の団体では、必要に応じて開催することとされている。必要に応じて開催するとしている団体では、知事が意見書を作成する際に必要と認めるときに開催することととしているものが大部分であるが、川崎市、名古屋市及び神戸市では、住民からの開催要請を受けて市長が必要と認めるときに開催することとしている。
公聴会は、規定のあるすべての団体で、知事又は市長が開催することとされており、公聴会は、知事又は市長が準備書を審査し、事業者に意見を述べる際に、住民の意見を把握するという観点から行われている。
なお、地方アセスでは、技術委員会、審査会、審議会等の第三者機関を設け、環境影響評価手続に関与させている団体があるが、川崎市では、唯一、そのような機関への市民参加を明記しており、町内会連合会、商工会議所、労働組合、環境団体等から、委員が選ばれている。
また、主要諸国において、書面による意見提出の規定のほかに、公聴会の開催規定をもつものがあるが、すべての場合に公聴会を義務づけている例は少ない。また、行政手続法等の他の法令の定めに従って公聴会を行うこととしている例もみられる。
例えば、アメリカでは、提案に対して相当な議論や関心のある場合や関係省庁によって法的な根拠をもって開催の要請があった場合には、評価書案について公聴会を開催しなければならないこととされている。カナダにおいては、委員会審査を受ける場合に公聴会が開催されることとされている(P.51参照)。イタリアでは、火力発電所及びガスタービン発電所事業に限って公聴会が開催される。韓国では、30人以上から要請があった場合等、一定の要件を満たす場合に公聴会が開催される。
また、フランスでは、別に定められた公聴手続法の適用を受ける事業については、準備書相当文書を添付して当該手続を行うこととされている。ドイツでも、行政手続法に基づいて公聴会が開催される。
一方、オランダでは、環境影響評価手続の中で、詳細な環境影響評価書が検討されるすべての場合について公聴会の開催が義務づけられている。
なお、公聴会において、十分な議論がなされ、その機能を果たすためには、公聴会に参加する者がその趣旨を十分に理解することが必要であるという指摘がある。