長屋の環境アセスメント

環境アセスメントは情報交流のルール化によって、よりよい環境保全とそれに向けての合意形成をはかるものです。
ここではアセスメントの本来の姿を、江戸時代の裏長屋を舞台とした物語をとおして紹介します。

第一幕 | 第二幕 | 第三幕 | 第四幕 | 第五幕

第一幕 「ご隠居さん、ご隠居さんえらいこった!」

八つぁん

「ご隠居さん、ご隠居さんえらいこった」

ご隠居

「なんだね八つぁん。どうもおまえさんはいつも大げさでいけない。どうしたんだね?」

八つぁん

「それが本当に大変なこって、さっき聞いたんだがあの上州屋の因業親父が今ある庭をつぶして、今度はその土地に幅が四間、高さも三階建てほどもある馬鹿でっかい蔵をつくろうって算段をしているってんで、もし横町の入り口にそんなもん作られたら俺っちの長屋の井戸まわりなんざ、日はあたらなくなるは、風通しは悪くなるわでえれい迷惑だ。それでいっちょう奉行所におそれながらと訴え出てやろうかってみんなで相談してるんだが、ここはひとつご隠居の意見も聞いてみろってんでおいらがきた訳だ」

ご隠居

「おやおやそれは大変だね。しかしまあいきなり奉行所にいったところで、上州屋さんが自分の地所に蔵をたてることを奉行所だっておとがめにはなるまいよ。そんなに事を荒立てるより、上州屋さんだって同じ町内だからみなに迷惑をかけちゃあ寝覚めが悪かろう。ここはひとつ話し合っちゃどうかね」

八つぁん

「話し合うったって因業親父は蔵がつくりたい、俺らは今のままがいいっていうだけで埒があかねえに決まっているじゃねえか」

ご隠居

「おいおい、はなからあきらめるもんじゃない。何も物事は○か×かの二通りしかないってもんじゃないし、上州屋さんだって物事の道理や人情がわからない人じゃない。こういうときのために環境アセスメントっていうやり方があるんだが、ためしにやってみちゃどうだい」

八つぁん

「何だって、その環境なんたらていう聞いたこともねえ代物は?」

ご隠居

「環境アセスメントですよ、知らないのも無理はない、もともとメリケン生まれのお話し合いの手順だよ」

八つぁん

「お話し合いの手順だって、手順もくそもねえんじゃないか。俺らが上州屋におしかけて談判すればいいだけの話だ」

ご隠居

「おまえさんたちがいきなり頭に血をのぼらせて談判したら、まとまるものもまとまらないじゃないか。第一、上州屋さんが一体どんな蔵を考えているのかだってろくに知らないんだろう、ましてや本当に日当たりや風通しが悪くなるのかだって、あんたたちの思いこみかもしれない。まずは上州屋さんにご自分の計画と、もしそのとおりになったら長屋にどういう影響があるのか、それについて上州屋さんとしてはどういう存念なのかしっかり聞かしてもらうのが手順ってもんだよ。その上で頭を冷やして腹蔵なく話合うもんだ」

八つぁん

「まあ、まず因業親父の話を聴くのはいいぜ、しかし自分の土地に建物をつくるのに、あの因業親父がわざわざ長屋へどういう影響があるかなんて調べて俺らに話すともおもえねえんだが」

ご隠居

「そこはこの隠居がうまく話してみようじゃないか、それからその「因業親父」というのは止めなさいよ、相手をはなから悪人と決めつけては、いくら話し合っても無駄ですからね」

てな訳で今度はご隠居さんが上州屋に参ります。