環境アセスメントは情報交流のルール化によって、よりよい環境保全とそれに向けての合意形成をはかるものです。
ここではアセスメントの本来の姿を、江戸時代の裏長屋を舞台とした物語をとおして紹介します。
「はいはい 皆さんお忙しいところお集まりいただいて恐縮です。もう皆さんのお耳に入っているでしょうが、私、上州屋はこのたび蔵を建てることにしておりまして、それにつきましてご隠居のお勧めもあって環境アセスメントをすることになっております。つきましては皆様のご心配のことにつきまして、本当にどういう影響があるのか、それについて当方としてはどう考え、どう手だてを講じるのかということをいずれお示しするのですが、まずはどういう事柄について、どういう調べごとをするかについて皆さんのお考えを聞かせていただきたいということでお集まりいただいた次第です」
「どうも上州屋さん、この隠居の言うことを聞いていただいて誠に有り難い。さて、長屋の皆さん、上州屋さんのおっしゃるようにこれからどんな心配事について調べてもらうか、後で手戻りがないように何でも言ってごらんなさい。これは難しく言うとスコーピングというやり方でとても大事なことなんですよ。おっ、熊さん、早速手が上がったね、なんだい?」
「へい、ところで言ったことは何でも調べてくれたり、聞いてくれたりするんですかね、それなら蔵の工事においらを雇ってくれるのか、手間賃はいくらくれるか知りてえ」
「馬鹿をいっちゃいけません。そりゃあんたは知りたいだろうが、環境アセスメントってもんは長屋のみんなに関わりのある環境のことについてやるもんですよ。それから何を調べるかってことは、まずは皆の衆の意見を聞いた上で上州屋さんが決めることだ。熊さんのような無茶なことは聞かなくてもいいんです。はい次は八つぁん」
「へい、この上州屋さんが作ってくれた方法書という書き物では、日当たりと風通しを調べるとありますが、日当たりなんてどうやって調べるんで」
「はいご説明いたしましょう。早速明日にでも蔵をたてる場所にやぐらをくんで本当にどこまで影ができるか実際に調べてみようと思っております」
「おいおい、早速明日にでもと言ったって、今は夏じゃねえか。夏なんか日当たりは悪い方がいいんだよ。暑くてしょうがねえじゃねえか。それより心配なのは秋から冬の日当たりなんだ。夏と冬じゃおてんとさまの高さが違うのは子供でも知っている理屈じゃねえか、その調べは冬にやってもらいたいね」
「これこれ、何も冬まで待てと言わなくてもいいでしょう。確かに冬のことが心配なのは分かったが、何も冬までまたなくても、小さな模型で蝋燭かなんかで実験するとか、寺子屋の師匠にたのんで計算してもらうとかの方法もあるでしょう。まあ冬のことが知りたいというのは分かる話ですし、奉行所の手引き書にも、影響が一番大きな時期の予測をするべき、とありますから上州屋さんも出来る範囲ではやってくれるでしょう。次は太助さんかい」
「大きい蔵ともなれば荷物の出入りも激しいだろうし、物音も結構するんじゃないかね。おいらの家はすぐとなりで、おまけにおっかあが寝込みがちだ、朝晩うるせえのはかなわない」
「おい、お前のおっかあは耳が遠いって話じゃないのか」
「まぜっかえすない。悪口と朝晩の物音はよくきこえるんでえ」
「これこれ、喧嘩してはいけませんよ、物音の話は蔵の建物がどうこうというより、蔵をどうつかうかということでしょうが、環境アセスメントは建物のことだけじゃなくて、その建物の使い方についてのことも調べることになってますから、上州屋さんによく考えていただきましょう」
というような具合で、何をどう調べるのかについて皆の意見を聞いてみるスコーピング(方法書の手続)という手続が終わりまして、いよいよ上州屋さんが、ご自分の事業についての影響を調べて、その上で長屋の衆にその結果を示すことになります。