環境影響評価制度を最も早く導入した国は、1969年(昭和44年)に公布され、1970年に施行された国家環境政策法に環境影響評価を位置づけたアメリカである。
日本における環境影響評価の実施についての閣議決定(1984年)以前に、環境影響評価制度を整備した国は、アメリカの他、オーストラリア(1974年)、タイ(1975年)、フランス(1976年)、フィリピン(1978年)、イスラエル(1981年)、パキスタン(1983年)などが挙げられる。
1985年以降、世界各国での環境影響評価制度の整備が急速に進んでいる(資料5)。
1985年には、環境影響評価に関するEC指令が採択され、その履行年限が1988年とされた。この履行年限以降、数年の範囲で、EU加盟国を中心として、ヨーロッパ諸国での環境影響評価制度の整備が進んだ。また、1990年代に入って、東欧諸国を中心として、さらに環境影響評価制度を整備する国が増加している。
発展途上国では、アジア諸国の取組が、早くから進み、制度を有する国は1980年代には、制度化を終えている。一方、中南米諸国では、1980年代の後半から、法制化の動きが始まっている。アフリカの発展途上国には、法制化の動きは、まだ広がっていないものの、環境影響評価制度は世界的に定着してきていることが言える。
現在、OECD加盟国27カ国中、日本を除く26カ国のすべてが、環境影響評価の一般的な手続を規定する何らかの法制度を有するに至っている(資料6)。その他の国においても環境影響評価制度の法制化は広がりを見せており、環境庁調査によれば、全世界で50カ国以上が関連法制を備えていることが確認されている。我が国と同様に、主に行政指導によって環境影響評価を実施している国は、香港、ナイジェリア、ネパール、チリ、ジンバブエ、バングラデシュが確認されている。
諸外国における環境影響評価制度は、その形式において大きく次の4つの類型にわけることができる。その内訳は環境庁調査によれば資料7のとおりであり、制度を有している国の間では、環境に関する法律に基づき環境影響評価の一般的な手続を規定している国が約8割である。
a 環境に関する法律に基づき環境影響評価の一般的な手続を規定している国
a-1 環境影響評価に関する単独の法律を制定している国
a-2 環境に関する基本的な法律を根拠として、下位の法令を整備する等により、
環境影響評価を実施している国
b 地域計画・建築法等の中で環境影響評価の一般的な手続きを規定している国
c aとbの混合型
d 環境影響評価に関する一般的な手続を規定する法令を持たず、主に、行政指導に
よって、環境影響評価を実施している国
なお、近年欧米諸国では、政府機関が行う各種の政策立案、計画策定等についての環境影響評価の重要性が認識されつつあり、戦略的環境アセスメント(SEA)の概念のもとで、その実施例がみられつつある(資料8)(P.19参照)。1994年にECがまとめた「戦略的環境アセスメントの既存の方法論」によれば、「SEAとは、Strategic actionsについて環境影響を考慮すること」と定義づけられており、「Strategic actions とは、個別の建設事業より上位の段階でのすべての政府の行為を指す」とされている。つまり、事業の環境影響評価が建設事業に用いられることに対して、SEAは建設事業に先立つあらゆる段階の行政の意思決定に用いられるものである。
諸外国のうち、アメリカ、カナダ、EU、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、中国、韓国の10カ国(以下「主要諸国」という。)の動向は以下のとおりである。
アメリカでは、1970年に施行された国家環境政策法(NEPA)において、環境影響評価制度が導入された。NEPAは、環境影響評価に関する基本的事項のみを定めるものであり、詳細な制度の内容は、NEPAにより設立された環境諮問委員会(CEQ)が1978年に策定した国家環境政策法施行規則に規定されている。NEPAの手続は、事業の決定のみではなく、法案の提出などの行為についても、環境影響評価の対象となりうること、環境影響評価書の作成主体が連邦機関であることなど、他の主要諸国の制度にみられない特徴を有している。
カナダでは、1973年に閣議決定によって環境影響評価制度が導入されたが、法的な拘束力や運用条件に係る法的解釈に混乱が生じたこと等により法制化が図られ、1992年に「カナダ環境影響評価法」(CEAA)が成立し、1995年1月から施行されている。CEAAの手続では、あらかじめ指定された既存の評価書を活用して簡易な評価を行うクラス・スクリーニング手続、評価書の内容を第三者たる調停人や委員会のもとで検討する公開審査(public review)手続、評価書等の関連文書・情報を公開する公開登録台帳の設置、公衆参加を促進するための基金の創設などに特色がある。
EC(現EU)では、1985年に「一定の公的及び民間事業の環境影響評価に関する理事会指令」(EC指令)を採択した。EC指令は、環境に対して重大な影響をもたらすおそれのある事業のリストを示し、各加盟国に対し、これらの事業の実施について公的に同意する前に一定の環境影響評価を行うよう、各国において環境影響評価制度を1988年までに導入することを求めたものである。なお、現在、EUでは、スクリーニングの導入、代替案の評価書への記載、スコーピング概念の導入等を内容とするEC指令の改正案を検討している。この改正案については、1995年12月のEU環境大臣理事会で合意に達し、欧州議会の同意が得られれば、1998年1月に施行される予定となっている。
イギリスでは、地域の土地利用計画の策定、それに基づく開発規制等の事務は、都市・農村計画法により、主に郡(カウンティ)や市(ディストリクト)などの地方自治体が行っており、同法の規則に環境影響評価手続が定められている。一方、幹線道路、発電所等の事業については、幹線道路法、電力法等のそれぞれの法律に基づき、中央政府が自ら許認可事務を行っており、これらの事業に係る環境影響評価の手続はそれぞれの法の規則に位置づけられている。これは、国と地方にまたがる許認可の体系を維持する観点から、個別法のそれぞれにおいてEC指令に対応することとされたためである。最も実施件数の多い都市・農村計画規則に基づく環境影響評価手続では、開発規制に携わる地方計画庁としての地方自治体の役割が大きく、事業者と地方計画庁が初期段階から柔軟に連携を図りつつ環境影響評価手続を進める点が特徴である。
オランダでは、EC指令を受けて、環境政策に関する許認可等の規定を集成する形で作成されている「環境管理法」の一部として環境影響評価制度が規定された。1987年には、対象事業・許認可等を定める環境影響評価令が制定され、同年から運用が開始されている。オランダの制度では、各事業ごとに調査等の範囲を示すスコーピング・ガイドラインが公衆の関与のもとに作成される点、評価書の情報の十分性の審査のために独立の環境影響評価委員会(EIA委員会)が置かれている点等に特徴がある。1994年には、環境管理法、環境影響評価令が改正され、対象事業の絞り込みを行うスクリーニングの手続等が導入されている。
フランスでは、1976年の「自然保護法」及び1977年の同法施行令によって初めて環境影響評価制度が導入された。これは、ヨーロッパで初めての環境影響評価に関する法制度である。フランスの制度では、公共事業、公共機関の許認可が必要となる民間事業、都市計画を対象とし、手続を免除するもの、簡易な環境影響評価を求めるもの、詳細な環境影響評価を求めるものに分類されている。
イタリアでは、EC指令を受けて、1986年の「環境省設置法」に環境影響評価が規定され、1988年には、一定の事業に対し環境影響評価を義務づける「環境適合性規則」等の関連規則が整備された。イタリアの制度では、環境影響調査実施についての事業者からの通知をもとに初期的な調整が行われる点、環境影響評価書について技術的な事項を審査するため、独立のEIA委員会が置かれている点が特徴的である。
ドイツでは、1975年に「連邦の公の措置の環境影響評価原則に関する閣議決定」が行われ、各種計画確定手続、個別の許可手続において環境影響が考慮されていた。その後、EC指令に対応するために法律が必要となり、1990年に「環境影響評価法」が制定された。環境影響評価法では、対象事業を列記するとともに、環境影響評価手続を規定し、これらを個別法の許認可手続に組み込むこととしている。
中国では、1979年に公布された「環境保護法(試行)」において、すべての建設事業について環境影響評価を行わなければならないことを規定されている。また、1981年には「基本建設項目環境保護管理弁法」が制定され、環境影響評価手続が具体的に規定されることとなった。中国の制度では、公衆関与の仕組みが法制度上に設けられていないこと、環境影響評価の作業を資格を有する環境影響評価実施組織が行うこと、小規模な事業については簡易な環境影響報告表の記入で足りることとしていることなどに特徴がみられる。
韓国では、1981年に「環境保全法」の改正により環境影響評価の実施が規定され、これは1990年に環境保全法の後継法として制定された「環境政策基本法」に引き継がれた。しかし、制度の実効性が不十分であったことから、1993年に「環境影響評価法」が新たに制定された。韓国の制度は、他の法律による許認可への反映という形式ではなく、環境影響評価の実施を罰則をもって担保する形をとっている点、事業者が評価書の作成を資格を有する代行者に代行させることができることとしている点などが特徴である。
以上の主要諸国における環境影響評価制度の概要は、資料9に掲げるとおりである。