国際的な取組における環境影響評価については、次の4つのカテゴリーに分類して整理することとする。
[1] 国際条約・議定書等、法的な拘束力を有する国際文書
[2] 国際機構の決定・勧告・宣言等、法的な拘束力を有しない国際文書
[3] 開発援助に際するガイドライン等
[4] 海外での事業活動に際してのガイドライン等
なお、[2]に属する文書であっても、[3][4]に密接に係わるものについては、[3][4]にて取り扱った。
資料10は、本とりまとめにおいて取り上げた各種文書について年代順にまとめたものである。国際的な場面での環境影響評価は、1980年代以降、OECD(経済協力開発機構)の各種勧告に先導される形で定着してきており、我が国は、我が国が関与したこれらの勧告等を踏まえて政策を行う責務を負っている。また、近年では、各種条約・議定書にも具体的に取り入れられるようになってきている。これらの中には、我が国が批准し(気候変動枠組み条約、生物多様性条約)、また、これから批准しようとしているもの(国連海洋法条約、環境保護に関する南極条約議定書)もあり、批准に伴う具体的な対応を求められることになる。
各種国際文書の中には環境影響評価に関する手続について言及しているものもある。資料11は、これらについて、手続面の特徴をまとめたものである。スクリーニング、スコーピング、代替案、モニタリング等、我が国の閣議アセス手続にみられない要素について触れられているものが多い。
環境影響評価に関する規定を有する国際条約・議定書等としては、国連海洋法条約(1982)、越境環境影響評価条約(1991)、環境保護に関する南極条約議定書(1991)、生物多様性条約(1992)、気候変動枠組み条約(1992)がある。
「国連海洋法条約」では、「いずれの国も、自国の管轄若しくは管理の下で計画中の活動が実質的な海洋環境の汚染又は海洋環境に対する重大かつ有害な変化をもたらすおそれがあると信ずる合理的な理由がある場合には、当該活動が海洋環境に及ぼす潜在的な影響を実行可能な限り評価する」ものとされ、その結果を自ら又は国際機関を通じて公表することとされている。
「越境環境影響評価条約」は、特に国境を越える環境影響について、環境影響評価を実施し、関係国と協議する仕組みを規定したものである。同条約の締約国は、重大な越境悪影響を引き起こすおそれのある計画や活動について、条約に規定する要件を満たす環境影響評価の手続きを国内的に整備することが求められる。
「環境保護に関する南極条約議定書」では、南極の環境保護が人類全体の利益であるとの観点から、南極条約地域において行われる科学的調査や観光等の活動について、活動計画の実施前に各国内において原則として初期的環境影響評価を行い、その結果当該活動の影響が微小あるいは一時的なものを超える場合には、包括的環境影響評価を実施し、締約国のコメントを求める等の手続をとることとされている。
「生物多様性条約」では、締約当事者は、可能な範囲で、かつ、適当な場合には、生物多様性の確保の観点から、自国の事業計画案に係る環境影響評価手続の導入、計画及び政策に係る環境面の考慮、越境環境影響に係る他国との取り決め・通報等を行う旨が規定されている。
「気候変動枠組み条約」では、締結当事者は、気候変動に関し、関連する社会、経済及び環境に関する自国の政策及び措置において可能な範囲内で考慮を払うこと、並びに気候変動を緩和し又はこれに適応するために自国が実施する事業又は措置の経済、公衆衛生及び環境に対する悪影響を最小限にするため、自国が案出し及び決定する適当な方法(例えば影響評価)を用いることを誓約すべき旨が規定されている。
OECD(経済協力開発機構)「環境政策に関する宣言」(1974)では、「将来の環境悪化を防ぐために、重要な公共及び民間の活動が環境に与える影響を事前に評価することは、国内的、地域的及び地方的レベルに適用される政策の不可欠な要素である」と述べられており、環境影響評価を取り上げた国際的文書の中では最も初期のものに属する。
UNEP(国連環境計画)の「共有天然資源の利用に関する行動原則」(1978)では、各国は、資源を共有している他国又は他の国々の環境に重大な影響を与える危険をもたらすおそれがある共有天然資源に関するいかなる活動に従事する場合も、事前に環境影響評価を行うべきであることが規定されている。
OECDの「環境に重大な影響を及ぼす事業の影響評価に関する勧告」(1979)は、環境影響評価の手続に係る事項に触れられている勧告・宣言等の中では、最も古いものである。同勧告は、加盟国における環境影響評価手続の内容について、8項目にわたり勧告している。
国連総会決議である「世界自然憲章」(1982)は、自然に対する悪影響を最小化するために環境影響評価が確保されるべきこと、及びすべての計画の基本的要素のなかに自然に対する影響の評価を含むべきであり、公衆に公開し協議すべきことが述べられている。
UNEP「環境影響評価の目標と原則」(以下「UNEP目標と原則」という。)(1987)では、環境へ重大な影響を及ぼすおそれのある活動を実施し又は許可する決定が行われる前にそれらの活動の環境影響が十分に考慮されることを確立するため、各国における適切な手続の実施を助長するとともに、計画活動が他国の環境へ重大な越境影響をもたらすおそれのある場合における国家間の手続の発展を促進することを目標にして、13の原則を定めるものである。この文書は、環境影響評価の具体的な手続について述べている点に特色がある。
国連欧州経済委員会(ECE)のベルゲン会議で採択された「ベルゲン宣言」(1990)では、持続可能な開発における防止の原則の必要性が述べられるとともに、事業の環境影響を事前に評価し公表すること、及び実行可能な限り政策(policy)、計画(plan)、プログラム(program)の環境影響についても同様に行うこと等が述べられている。これは、policy, plan, programレベルの環境影響評価に触れた国際的文書のうち、最も早いものに属する。
環境と開発に関する国連会議(UNCED)(1992)において採択されたリオ・デ・ジャネイロ宣言(以下「リオ宣言」という。)では、原則17において、「国内手段としての環境影響評価は、環境上重大な悪影響を及ぼすおそれがあり、かつ国内の権限を有する機関の決定に服するように計画された活動について実施されなければならない。」と述べられている。また、原則19では、越境環境影響への対処についても述べられている。
また、同じくUNCEDで採択された「森林原則声明」(1992)では、「国の政策は、諸活動が重要な森林資源に重大な悪影響を及ぼすおそれがあり、かつ正当な権限のある国家機関の決定の対象となる場合には、環境影響評価の実施を担保するべきである」とされている。
世界銀行は、1984年に「環境に関する政策及び手続」を採択した。この中では、環境に関する考慮が、プロジェクトの特定及び準備という初期の段階で取り入れられること、それが、審査、交渉、管理及び監督、並びに操業の段階で、さまざまな程度で追加され又は修正されること等が述べられている。また、1989年には、世界銀行の職員に、計画された事業に係る環境影響評価を実施するための方針と手続を示すため、環境評価に関する業務指令書を発行した。同指令書は、1991年に独立の業務指令書4.01となっている。
OECDでは、1985年に、加盟国に対し、開発援助プロジェクトとプログラムについて、環境影響評価を行うよう勧告し、対象となりうるプロジェクトやプログラムの例を掲げる「開発援助プロジェクト及びプログラムの環境影響評価に関する理事会勧告」を採択した。また、同理事会は、1986年に、環境影響評価の手続、組織体制等について取り扱う「開発援助プロジェクト及びプログラムに係る環境影響評価の促進に必要な措置に関する理事会勧告」を採択した。
国際協力事業団(JICA)では、OECDの勧告を受けて、海外経済協力基金(OECF)と協力しつつ、1988年に「分野別(環境)援助研究会報告書」を取りまとめた。この報告書では、環境配慮を開発計画のできるだけ早い時期から実施することを環境配慮の実施の基本的な考え方の一つとし、開発調査事業におけるインパクト調査のためのスクリーニング・スコーピングの実施とその手法、並びに事前調査報告書とフィージビリティスタディ(F/S)調査報告書における環境インパクトの評価を含めた環境関連の記述のあり方についての考え方をまとめている。その後、JICAにおいては、本報告書を踏まえて、開発調査に係る20分野にわたるガイドラインを作成している。
海外経済協力基金(OECF)では、OECDの勧告を踏まえて、1989年に、「環境配慮のためのOECFガイドライン」を作成した。これは、借入人が借款申請に先立ち当該案件の計画・準備段階において考慮すべき環境面の諸事項を内容とするものであり、一般的な配慮事項に加え、各セクターごとの環境面でのチェック項目を掲げるものである。なお、OECFでは、1995年にこれを改定し「環境配慮のためのOECFガイドライン(第二版)」を公表した。改訂版では、プロジェクト分類の導入等が行われている。改定後のガイドラインは、1997年8月より適用されることとなっている。
OECDでは、1984年に決定した「多国籍企業行動指針」の関連事項についての解釈を示すため、1985年11月に、OECD国際投資・多国籍企業委員会によって「多国籍企業行動指針解釈」が公表された。同解釈では、多国籍企業は、その意思決定に際して、環境に重大な影響を及ぼすおそれのある企業活動の予見し得る結果を評価しかつ考慮すべきこと等が記述されている。
また、我が国の経済団体連合会(経団連)では、平成2(1990)年に作成した「地球環境問題に対する基本的見解」において、10項目の海外進出に際しての環境配慮事項を作成しており、その中には、「企業進出に当たっては、環境アセスメントを十分に行って、適切な対応策を講ずるとともに、企業活動開始後においても活動実績とデータ等の蓄積を踏まえて、必要に応じて環境状況の事後評価を行い、対応策に万全を期す」ことが述べられている。これは、平成3(1991)年の「経団連地球環境憲章」で再確認された。