参加型アセスの手引き

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Ⅱ「参加型アセス」のすすめ方 ~基本行動原則と事業者による設計・運用への手引き~

  

 ここでは、1.で参加型アセスをすすめるときの各主体の基本的な行動原則とその原則に基づく取組み内容を、2.でアセスの実施者である事業者がそれを具体化する際の参考となる考え方や手法を参加型アセスの設計・運用の手引きとして提示します。

また、3.でモデルとして実施例(仮想)を示します。

 

1.参加型アセスの基本になる各主体の行動原則

(1)事業者

  事業者は、アセスの実施者として、その説明責任を果たすことを基本に、以下の行動原則により参加型アセスを取り組みます(表4)。次頁以降に、これらの原則に基づく、具体的な工夫の内容を例示します。

 表4 事業者の行動原則

行動原則

考え方

[1]情報開示への努力

情報へのアクセスを良くする

得られた情報を事業にフィードバックする

PRの工夫

[2]住民等の関心に応える努力

メリハリとわかりやすさに努める

計画の経過やアセスの実施経緯の説明

誠意のある見解を示す

[3]説明会の運営の工夫

プレゼンテーションの工夫

双方向性を高める運営の工夫

[4]ふだんからの取組み

参加型行政との連携

環境報告書などの活用

参加型アセスの研究・研修・交流

 

[1]情報の開示への努力

 参加型アセスでは、コミュニケーションの前提となる情報開示が事業者により積極的に取り組まれることを重視しています(表5)。また、アセスにより収集・加工された情報は、地域の環境の現状と今後を考える上で貴重な資料です。それが有効に活用されるようにすることも重要な視点です。

 なお、ホームページの活用が一般的になりつつあります。これによる情報開示ととともに、インターネットの双方向性を活用して意見を出しやすくする工夫も大切です。

 表5 情報の開示への工夫

行動内容

具体的な例

主な働きかけの対象

実施時期

ホームページの活用

 

 

*PR一般(公告・縦覧、説明会などの案内、事業紹介)

*アセス図書を全文掲載する

*予測・評価の基礎となった計算ソフトを試す機能を提供する

*意見交換のコーナーを設ける

*意見提出フォームを設ける など

一般(とりわけ地域外からの関心に応える手段として有効)

全体を通じて

アセス図書の普及方法の工夫

*印刷原価での配布

*貸出し方式(無償)

*概要版の配布 など

一般(関係地域の住民等の関心に応える手段として有効)

各種図書の縦覧において

得られた情報の事業への有効なフィードバック

*アセス図書を図書館や環境情報施設に寄贈

*得られたデータを整理・加工して資料集やCD-ROM、学習教材用に普及

一般

アセスの終了後

PRの工夫

各種メディアの活用

*全国的な関心事の場合はマスコミへの情報提供

*地域的な場合は地方紙やケーブルテレビなどへの情報提供

*インターネット利用では、環境系ホームページやメーリングリストへの情報提供

環境団体への直接の案内

*環境事業団『環境NGO総覧』(都道府県別に掲載)の活用

*懇談を兼ねた訪問

 

 

 

 

 

[2]住民等の関心に応える努力

【メリハリのある記述への工夫】

 情報量が多ければ、コミュニケーションが満足させられるわけではありません。情報の内容が重要です。参加型アセスでは、住民等の関心事や懸念事項をあらかじめ調べ、重点的に調査・予測・評価すべきことを先取りして、メリハリの効いたアセスをめざします。メリハリのためには方法書での絞込みが重要です。

 

【わかりやすい内容】

 「わかりやすい」とは、やさしい文章で書くことだけを意味しているのでなく、「論理の道筋が通っていること」であることに注意が必要です。わかりやすく説明すべきことを表5に例示しましたので参考にしてください。

 

【計画の経緯の説明】

 「なぜその場所が選ばれたのか」など、事業者内部ではいろいろの議論があり、代替案の検討がされているのに、最終案のみが外部に示されるので、説明責任が疑われてしまいます。最低限これまでの経緯の説明を方法書に記載すべきです。

 

【途中経過の説明】

 計画の変更や追加調査などの必要により、最終の評価書まで時間が伸びる場合は、検討状況報告書を開示し、意見を求めることも考えられます。

 

【事業者の見解の誠意ある示し方】

 住民等の意見に対して、わかりやすく、かみあうように見解を示すことが事業者の真摯な態度を鮮明にします。意見はなるべく個別に扱い、見解は意見をどのように検討し、その結果どうしたかを示します(表7)。

 

表6 わかりやすく説明すべきことの例

 

○周辺や類似地域・類似事業との比較で、対象事業・地域の特性がつかみやすいように記載する(その地域の過去の歴史・類似事例に学ぶのはアセスの基本)。

○影響のあるなしだけでなく「この位の影響がある」と具体的に示す。予測が難しければそのことを正直に書き、その代わり事後調査などでどう対応するかを具体的に示す。

○保全対措置の効果も予測・評価の対象とし、対策を行わなかった場合とを比較して示す。

○予測通りでなかった場合の責任と対応を明確にする。 など

 

※参照:島津康男「アセス助っ人」より「望ましい方法書の書き方」及び「望ましい準備書の書き方」

 

 

表7 見解を示す際の留意点

 

 ○意見について、反映できたことと、できなかったこと(その理由)を示す。

 ○影響のあるなしではなく、影響の程度を示す。

 ○不確実性により予測しがたいこと、無理なことは、その理由と限界を示す。

 ○記述や説明に誤りがあった場合は率直に認めて、対応を明らかにする。

 ○追加調査などを行った場合は、その結果の概要を示す。

 ○意見が、調査対象以外であっても、知りうる範囲のことは情報を提供する。

 ○意見が、他の機関等の計画や事業に係ることであっても、機関に意見を伝える。

 

 

[3]説明会の運営の工夫

 説明会の運営の工夫により、アセスの内容について丁寧な説明を行い、住民等からの有益な情報を引き出しながら、対面する機会を生かして事業者の地域の環境問題や住民の声に対する真摯な姿勢を鮮明にします(表8)。

 この中で、ワークショップ方式の導入については、より多くの住民等に説明するという説明会の制度上の趣旨を踏まえて、全体に説明する場と、特にテーマなどを設定して行う場と区別して設定する必要があります。

 また、住民等の意見に対する説明会でのやりとりも、考え方は表7と同じですが、会話の場合は特に相手の立場への配慮が必要です(Ⅲ資料編4(3) 参照)。

 表8 説明会の工夫

行動内容

具体的な例

開催方法の

工夫

開催地の選定

対策の焦点となる地域での開催

開催回数など

1ヶ所で複数回(全体会と分科会・分散会など)開催

夜間の開催、平日と休日の開催など

プレゼンテーションの工夫

複数回開催する場合の工夫

開催場所の違いをふまえた説明や、前回までの意見の総括をふまえた説明をするなど

視聴覚機材の活用

コンピューター・グラフィックスによる説明

意見発表者にも同じ機材とデータを使えるようにする

運営の工夫

分科会方式

焦点となる環境項目や課題別にわかれて行う

分散会方式

地域別や階層別などにわかれて行う

ワークショップ方式の導入

上記の分科会・分散会などで、ワークショップ方式を導入して、より双方向性のある意見交換を行う

[4]ふだんからの取組み

 事業者は、計画があってはじめて当事者となりますが、その以前からの環境保全に係る努力が信頼性を高めます。

【参加型の計画づくりとの連動化】

参加型行政(PI)の取組みの一環として環境配慮のシステムを導入し、住民参加型環境調査や簡易影響予測、ゼロ案を含む代替餡の比較検討ワークショップを開催するなどにより、早い段階での環境配慮をすすめることが考えられます。

 

【環境報告書などの活用】

 環境報告書や環境配慮指針などを開示・普及し、環境保全対策の基本方針や実施状況、各種事業に対する環境配慮の指針をふだんから情報発信することによって、事業者の環境配慮における実績と信頼をアピールします。

 

【参加型アセスの研究・研修・交流】

 参加型アセスを担う人材の育成を図るために、学術団体・業界団体などの協力により、研究、研修、交流の事業をすすめます。


(2)住民等

 住民等は、地域にそくした環境情報などの保有者として、事業者の示すコミュニケーションの舞台に積極的に関与することを基本に、以下の行動原則により参加型アセスを取り組みます(表9)。

 

表9 住民の行動原則

行動原則

考え方

[1]意見形成に向けた工夫

アセス図書を読み込む

意見や提案づくりにワークショップを活用する

[2]事業者や世論への働きかけ

事業者に懇談を働きかける

環境行政担当部局への働きかける

世論にも広く意見を伝える

[3]事業者の取組みへの監視と参加

 

調査過程にチェックの目を働かせる

調査への協力を通じて共通の理解を広げる

評価書にもチェックの目を働かせる

[4]事後調査・監視への参加

自主調査を継続し、監視の役割を果たす

事後調査報告書にもチェックの目を働かせる

必要に応じて環境保全協定を働きかける

事後調査などで協働を働きかける

[5]ふだんからの行動

開発の動きに対してアンテナを張る

独自の環境情報を蓄積し、発信する

地域づくりでの環境配慮について学習する

政策や計画づくりに積極的に関与する

 

[1]意見形成に向けた工夫

アセス図書の読み込み】

 方法書や準備書、評価書などの本編を入手して、仲間と分担しあい、専門家や環境NGOなどの協力も得ながら、文章や資料の意味を分析しあいます。なお、アセス図書の記載内容は地域の環境を知る上での貴重なデータとしても活用できます。

読み込むときのチェック項目を例示します。

  ○表現にごまかしがないか(言葉だけでごまかしていないか)

  ○自分たちの関心に応えているか

  ○住民等ならだれでも知っていることが配慮されているか

  ○影響の程度が示されているか

  ○現状より悪くならないことが前提になっているか、など

 

【意見や提案づくりワークショップ】

 ワークショップの手法(Ⅲ資料編4(4) 「ワークショップの設計と運営」参照)を活用して、多くの仲間の総意が反映した意見や提言を創り出します。実施に際しては、環境NGOなどの協力を得るとよいでしょう。

 

[2]事業者や世論への働きかけ

【事業者への懇談の働きかけ】

 重要な課題については、意見の応募だけではなく、さまざまな機会を使って懇談するなどして、情報提供することも重要です。

 

【環境行政担当部局への働きかけ】

 自治体の環境行政担当部局には、自分たちの意見などを紹介するとともに、第三者チェックの機能の発揮を期待して公聴会の開催を働きかけることも一考です。

 

【世論への働きかけ】

 マスコミやインターネット、独自の説明会やワークショップなどを開催して、取組みへの共感を広げるとともに、新たな視点の追加などを図ります。

 

[3]事業者の取組みへの監視と参加

調査過程へのチェック】

 たとえば、協働型環境調査を実施している事例では(Ⅲ資料編3(3) 参照)、情報公開条例に基づいて事業者(行政)からコンサルタント会社への委託内容の開示を求める、コンサルタント会社での測定及び検査に住民等が立ち合うなどの工夫をしています。

 

【調査への協力】

 たとえば、上記の事例では、住民等が担当する簡易式と事業者が実施する公定式とをセットで調査を実施することで、相互のデータをチェックするようにしています。

 

【評価書のチェック】

 最終的にコミュニケーションの結果が評価書にどのように反映されたかを点検します。必要な場合には事業者に対して説明を求めることも考えられます。

 

[4]事後調査・監視への参加

【自主調査の継続】

 アセスの手続きが終了した後も、それまでの自主的な環境調査を継続して、環境の変化などを監視し、実質的に環境監視に参加するようにします。

 

【事後調査報告書のチェック】

 事業者が、事後調査を行うことになった場合は、事後調査報告書の開示を求め、評価書との違いや環境の変化などを点検することが考えられます。

 

【環境保全協定の働きかけ】

 アセスによっても、事業に伴う環境負荷が懸念される場合は、事業者と環境行政のそれぞれに働きかけて、環境保全協定の締結を働きかけます。環境保全協定における環境監視には住民等の参加を検討することも考えられます。

 

【協働による事後調査】

 事後調査を事業者と住民等の協働で取り組むことにより、地域の環境管理の一端を担います。この実践例としては「矢作川方式」が参考になります。同方式では、住民等による環境監視に事業者が費用を負担する仕組みもあります。

 

[5]ふだんからの行動

開発に関する情報に対してアンテナを張る】

 開発事業が計画されていることを早く把握し、必要な環境配慮を事業者に促すとともに、アセスに構えて態勢を準備します。参加型アセスの働きかけもその一つです。

 

【独自の環境情報を蓄積し、発信する】

 住民団体としても、想定される影響をふまえた環境調査などを取組み、環境診断マップなどとして蓄積し、論戦に備えて、配慮すべき環境情報を関係機関や事業者に提供するようにします。これはふだんからの取組みが重要です。

 

【地域づくりでの環境配慮に関する学習】

 アセスの学習会や経験交流会などを開催し、考え方や仕組みを熟知するとともに、それを地域づくりでの環境配慮の取組みに生かすようにします。たとえば、アセス情報支援ネットワークの「市民からの環境アセスメント」が有効に活用できます。

 

【政策や計画づくりへの参加】

 開発事業などの早い段階での政策や計画の策定に参加し、環境配慮が十分になされるように働きかけます。また、政策段階・計画段階での参加型アセスの実施を働きかけることも一考です。

 

写真1:環境診断マップづくりのワークショップ

(3)環境行政

  環境行政は、環境保全に責任を持つ行政機関としての責任と、国民・住民の利益を守ることを基本に、以下の行動原則により参加型アセスを取り組みます(表10)。

表10 環境行政の行動原則

行動原則

考え方

[1]各主体への支援

参加型アセスの考え方を普及する

住民等の自主的な取組みを支援する

アセス・ファシリテーターを育成する

[1] 地域づくりにおける環境配慮の推進

 

参加型アセスの基盤を整備する

政策・計画段階での環境配慮などに参加型アセスの考え方を生かす。

 

[1]各主体への支援

【参加型アセスに関する情報を提供する】

 事業者や住民等に対して参考となる事例や方法などを提示します。たとえば、地域での住民参加のニーズや課題などを事業者に情報提供すること、本書や参考事例を事業者や住民団体等に紹介することなどが考えられます。

住民等の自主的・自発的な取組みを支援する

 住民等の事業者に対するさまざまなハンデを補完し、対等なコミュニケーションとなるように、技術面、情報面、資金面のそれぞれに対して、以下ような支援施策を用意し、住民等が自主的に選択できるようにします。

 ○情報面:過去の様々なアセスの方法書、準備書、評価書、事後調査報告書等が整理され、だれもが容易に閲覧し、安価でコピーできるようにする。

 ○技術面:方法書や準備書、評価書、事後調査報告書等の読み込み方や関連の環境情報や事例、助言が受けられる専門家の紹介などを照会する機能を整備する。

 ○財政面:専門家の協力や住民アセスを行う経費、さらには持続的な環境監視の活動に対する支援する。

【事業者のコミュニケーションを重視する姿勢を育てる】

たとえば、環境行政による審査の際に、コミュニケーションの内容も対象とし、経過を点検し、積極的な取組みには評価を与え、適正な意見が反映されていない件については理由を問合せるなどです。

【アセス・ファシリテーターの育成】

 アセス・ファシリテーターの育成を目的に、業界団体や環境NGOなどとの連携により、調査・研究や研修・交流の事業をすすめます。

【情報基盤の整備】

 アセスの実施に際して地域固有の環境情報の活用を促すために、各主体が蓄積している環境情報を収集し、情報源情報を整備します。

[2]地域づくりにおける環境配慮の推進

 アセスの対象となる開発事業の多くが行政機関によって行われていることから、参加型アセスを広めていく上では、行政内部での調整が重要です。地域づくりにおける環境配慮をすすめる視点から積極的に取り組まれることが望まれます。

 参加型アセスを推進する基盤の整備は、今後の期待される政策段階や計画段階でのアセスを実りあるものにする観点からも重要です。

また、参加型アセスの考え方や手法は、小規模な事業における環境配慮など、地域づくりにおける環境配慮の取組みにも大いに参考になるものと考えられます。

 

写真2:地方公共団体の主催によるファシリテーターの養成講座より

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