地域概況調査によって把握される,ケーススタディ地域の概況や特性について,次のように想定した。
[1] 地形
計画ルート周辺は,沖積平野の縁辺部で,地盤標高は10~15m。
地層構成は表 1.17のような状況にあり,地下水の帯水層としては,
沖積砂質土層(As),洪積砂質土層(Ds1)
が想定される(既存の地盤図等文献,自治体所有のボーリングデータ等による)。
[2] 河川等の状況
事業地の西方約1km付近をA川が北流,東方約1km付近をA川水系B川が北流する。
また事業地近傍では,B川の支川であるC川が北流する。
なお,C川は環境基準E類型に指定されている。
[3] 土壌・地盤の状況
事業地周辺では,地盤沈下は生じていない。
[4] 地下水の状況
(地下水帯水層)
地形・地質状況から,地下水帯水層は
沖積砂質土層(As),洪積砂質土層(Ds1)
の2つに区分される。
(地下水位)
As層の地下水(沖積層地下水):GL-2~4m(不圧地下水)
Ds層の地下水(洪積層地下水):GL-2~3m(被圧地下水)
(地下水流動)
As層・Ds層ともA~C川によって形成された堆積層であり,地下水はこれらの堆積層を流動することから,大局的には南→北方向への地下水流動が想定される。
(地下水の水質)
洪積層を対象とする井戸で水道法基準を超える鉄が検出された経緯が確認された。
[5] 降水・蒸発散の状況
事業地周辺における平年降水量は○○mmであり,ソーンスウェイトの式から求めた年間の蒸発散量は○○mmである。
また,月降水量および月実効雨量(降水量-蒸発散量)は
図 ○-○-○ に示すような状況にある(気象庁○○アメダス観測所:日降水量・日平均気温データ,過去20年分の収集・整理による)。
[6] その他
事業地一帯は住宅地であり,地下水や地表水と密接に関係する水生動植物等は確認されない。
なお,上水道整備事業が比較的最近行なわれたことから,井戸水源が多数残存しており,井戸水・地下水に対する関心が高い地域といえる。
[1] 人口・産業の状況
事業対象地周辺は,人口○○万人の都市近郊部にあたり,都市のベッドタウンとしての位置づけにある。
事業地近傍においては,ほぼ全域が住宅地であり,わずかに残存する畑地で兼業農家による畑作が行なわれている。
[2] 土地利用の状況
昭和30年代後半~昭和40年代前半にかけて宅地化が進み,事業地周辺一帯はほぼ全域が住宅地となっており,ごく局所的に畑地が点在する。
[3] 地下水・地表水の利用状況
地元○○市における資料から,下記の状況を把握した。
生活用水)
近年の都市化に伴って上水道が整備されたが,それ以前に各戸で利用されていた井戸水源が残存
その他)
工業用水,農業用水等の許認可を伴う利用は確認されていない。
また,現地踏査ならびに有識者等へのヒアリング結果から,地域概況調査の段階で現地詳細調査が必要と判断し,ルート両側
500m以内の範囲を対象に水利用状況調査を実施。表
1.18に示すような水源の存在と利用状況を把握した。
[4] 影響を受けやすい施設等の状況
既存資料に基づき,上水道・工業用水道等の水源井戸の有無について確認を行なったが,事業地近傍2km以内の範囲には,これらの水源は確認されなかった。
また,事業地近傍1kmの範囲内には,地下水・地表水に大きく依存する水生動植物や湿地等の存在は確認されなかった。
[5] 法令・基準の状況
事業区間周辺においては,特定の条例等の対象範囲は設定されておらず,地下水等に係わる諸事項については,法令による環境基準(「地下水の水質汚濁に係る環境基準」,「排水基準」等)が適用される。
[6] その他
事業地周辺においては,既設の地下構造物等,現時点で周辺の地下水等に影響を与えているような施設・状況は確認されない。
ケーススタディの対象とする事業の特性について,下記のとおり細部を想定した。
(事業概要)
住宅地を横断する,バイパス道路の建設。
事業地付近では,半地下式(堀割式)道路構造物(L=0.7km,道路面GL-10m)を築造する。
(工事計画)
構造物の築造時には,地下水対策工として地下水止水工法(鋼矢板あるいは柱列式ソイルセメント壁)を採用する。
図 1.23 工事および存在・供用時の模式断面図
対象事業による地下水への影響を想定する際に,影響要因と環境要素との関係をわかりやすく示すため,マトリクスだけではなく,下記に示すような影響の伝達経路(影響フロー)も考慮に入れ,検討を行なった。
対象事業の工事に係わる影響フローを図 1.24に,存在・供用に係わる影響フローを図
1.25に,またこれらの影響マトリクスを 表 1.19に,それぞれ示した。
図 1.24 対象事業の存在・供用に係わる環境影響フロー
図 1.25 対象事業の工事に係わる環境影響フロー
表 1.19 工事および存在に係る影響マトリクス
工事による影響については,地盤の掘削や地下水対策工の実施に伴う地下水流動の変化や汚濁物質の発生等が想定される。
このうち,地下水流動の変化によっては,地下水の水位や量の変化が予測されるほか,それに起因した2次的な影響として,水利用や土壌水分,生態系への変化や地盤沈下の発生等も考えられることから,これらの項目を環境要素として選定した。
また,汚濁物質の発生に関しては,地下水水質の変化を環境要素として選定した。
調査・予測手法の検討の流れを図 1.26に示す。
これらの検討にあたっては,先に整理した環境影響フローを踏まえるとともに,事業特性や地域特性,事業の実施による影響要因と環境要素に予想される影響について充分に留意し,適切な予測手法・調査手法の選定を行なうこととした。
図 1.26(1) 調査・予測手法の検討の流れ(堀割区間の存在)
図 1.26(2) 調査・予測手法の検討の流れ(工事の実施)
堀割区間の存在及び工事の実施による影響予測手法の検討内容について,表 1.20(PDFファイル10k)に示す。
予測手法の検討の結果,地下水流動の予測手法として浸透流解析を選定したことから,特に地質や地下水の状況について,より詳細な情報の入手が必要と判断された。
これに基づいて,表 1.21(PDFファイル5k)の通り,現地調査手法の検討を行なった。
図 1.27 調査位置図
[1] 現地調査結果の概要
現地調査結果の概要を表 1.22に示す。
表 1.22 現地調査結果の概要
図 1.28 井戸○(沖積層地下水対象)の水位変化図
図 1.29 地下水面等高線図
[2] 予測結果の概要
予測結果の概要を表 1.24(PDFファイル5k)に示す。
〈沖積層地下水〉 〈洪積層地下水〉
図 1.30 堀割区間の存在時(止水壁撤去後)における
地下水位(水頭)の変化量予測平面図
図 1.31 堀割区間の存在時(止水壁撤去後)における
地下水位の変化状況予測断面図
〈沖積層地下水〉 〈洪積層地下水〉
図 1.32 工事の実施時(止水壁による完全止水時)における
地下水位(水頭)の変化量予測平面図
図 1.33 工事の実施時(止水壁による完全止水時)における地下水位の
変化状況予測断面図(上:沖積層地下水,下:洪積層地下水)
回避・低減に係わる評価は,事業者による環境影響の回避・低減への努力や配慮を明らかにし,評価するものであり,造成地の形状や造成敷地内における回避・低減施設等について,複数案の比較検討結果や実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討し,評価を行なう。
基準又は目標との整合に係わる評価の観点からは,地下水流動や地下水位等について具体的な環境基準等が設定されていないため,周辺水利用等に対する影響(利用上の問題とならないだけの湛水深が確保されるか
等)や既存構造物等に対する影響(既存構造物に悪影響を与えない,地表に変状をもたらさない
等)の観点から評価を行なう必要がある。
図 1.34 井戸に対する影響の評価結果図
回避・低減に係わる評価は,事業者による環境影響の回避・低減への努力や配慮を明らかにし,評価するものであり,選定された工法や使用機械,影響防止対策等の工事計画において,複数案の比較検討結果や実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討し,評価を行なう。
基準又は目標との整合に係わる評価の観点からは,存在時の評価と同様に具体的な環境基準は設定されていないため,周辺水利用や既存構造物に対する影響の観点から評価を行なう必要がある。