地域概況調査により把握されるケーススタディの地域の概況、特性を次のように想定した。(「1-1総論1)水質・底質」留意事項[3]参照)
[1] 地形
埋立予定地の存在する湾は、南西側の幅30km程度の開口部により外海とつながっている。湾の水深は中央部で最も深く水深30m程度となっており、埋立予定地の存在する湾奥は、水深5m~10mの浅海域が広がっている。
海岸線は埋立予定地の存在する湾奥や湾の北側は埋立地の直立護岸よりなる直線的な海岸線となっている。湾口部や湾の南側には、岩礁や海浜からなる自然海岸線が残されている。湾の南側の河口部には河口干潟が存在している。
[2] 水象
a) 河川
本湾に流入する主要な1級河川は○○川、△△川であり、湾奥および湾の南側に位置している。また2級河川および準用河川は湾奥部に集中しており、これらをまとめて表
1.9に示す。
表 1.9 本湾に流入する主要な河川の流況
出典:「○○年日本河川水質年鑑」(平成○○年○○月、建設省河川局)
「○○年度 ○○県河川一覧表」(平成○○年 ○○県土木部)
b) 海域
湾内及び埋立予定地周辺で○○が平成○○年に実施した流動調査によると、湾内の流れは半日周潮の潮流が卓越するが、湾の南側に流入している1級河川からの淡水により表層は河口部から湾口に向かう密度流がとくに夏季に発達していることが確認された。また、既往資料では海水交換は250日程度であると言われている。
○○湾の朔望平均の干満差(朔望平均満潮位と朔望平均干潮位の差)は202.0cm、平均海面は、観測基準面上180.0cmとなっている。
[3] 水質
本湾における公共用水域水質測定計画に基づく水質測定結果によると、健康項目については環境基準を満足しているが、COD、T-N、T-Pの環境基準が達成されていない状況にあり、これらの項目はここ5年間で横這い傾向にある。
また、埋立予定地周辺では夏季に底層水のDOが0に近くなり、貧酸素状態となっている。
[4] 底質
湾内および埋立予定地周辺で○○が平成○○年に実施した底質調査によると、底質は浅海域ではおおむね砂泥質であり、やや深くなると泥質となっている。
埋立予定地周辺の強熱減量は9%前後と高く、硫化物は1mg/g程度となっている。
[5] 動植物及び生態系の状況
a) 生物相の概要
a. プランクトン
埋立予定地及びその周囲の海域で〇〇が平成〇年に実施した調査結果によると、植物プランクトン及び動物プランクトンの主な出現種は、夏季・冬季とも植物プランクトンが珪藻類のSkeletonema
costatum、動物プランクトンが甲殻類のOithona
davisaeなど本州中部内湾域に普通にみられる種類が多く出現している。
b. 魚卵・稚仔
埋立予定地及びその周囲の海域で〇〇が平成〇年に実施した調査結果によると、卵・稚仔の主な出現種としては、サッパ、イシガレイが卵・稚仔とも出現したほか、卵ではカタクチイワシ、稚仔ではハゼ科、アイナメ、メバル、スズキ、マコガレイなどが出現している。
c. 底生生物
埋立予定地及びその周囲の海域で〇〇が平成〇年に実施した調査結果によると、底生生物の出現種は、環形動物のゴカイ、ドロクダムシ、ヨツバネスピオなどであり、本州中部内湾の有機物量の多い泥底ないし砂泥底に普通にみられる種類が多く出現している。
d. 付着生物
埋立予定地及びその周囲の海域で〇〇が平成〇年に実施した調査結果によると、付着生物の主な出現種としては、動物ではムラサキイガイ、イワフジツボが多くなっている。また、植物の主な出現種としては、夏季に緑藻のアナアオサ、ボタンアオサ、冬季に紅藻のオゴノリ、褐藻のワカメなどが多くなっている。
e. 魚介類
埋立予定地及びその周囲の海域で〇〇が平成〇年に実施した調査結果によると、魚介類の出現状況は、アカエイ、イシガレイ、スズキ等内湾の浅海域を主な生息場とする魚類やクルマエビ、シャコ、アカガイ等主に内湾の砂泥底に生息する甲殻類や貝類などが出現している。
f. 干潟生物
埋立予定地西側にある干潟部で〇〇が平成〇年に実施した調査結果によると、動物としては、ゴカイ類、カニ類、端脚類等が出現しているが、特にアサリ、シオフキ、バカガイなどの貝類が多いのが特徴的である。植物としては、アマモ、コアマモ、アオサ属及びオゴノリ等が分布していた。
g. 藻場
埋立予定地内には、藻場は存在しない。湾全体では、湾南側の河口干潟及び砂浜の前面海域においてアマモ場が存在している。
[6] 景観
埋立予定地北東側5km程度の場所に親水公園が分布しており、湾を眺望する場として利用されている。
[7] 人と自然との触れ合い活動の場の分布とその状況
埋立予定地北東側5km程度の場所に親水公園が位置しており、釣りや散策などに利用されている。
[1] 人口及び産業の状況、土地利用・水域利用の状況
埋立予定地の背後地域は、○○港の物流・生産拠点となっており、大規模な工場・倉庫等が分布している。さらに内陸側は○○県××市の中心部となっており、都市機能が集中し、人口も多くなっている。
埋立予定地周辺の水域は、○○港の港湾区域に位置しており、航路や泊地の分布する水域となっている。水産活動は、湾南側の河口干潟及びその前面海域において、アサリ等の採貝、底曳き網漁、巻き網漁等が行われている。
[2] 下水道整備の状況
埋立予定地背後の○○県では、下水道の普及率は90%を超えている。湾全体では、湾北側の△△県での普及率が相対的に低く、60%程度となっている。
[3] 法令・基準等の状況
埋立予定地周辺海域は、環境基準B類型に指定されており、全窒素・全燐の環境基準Ⅳ類型に指定されている。また、埋立予定地の位置する○○湾は化学的酸素要求量にかかる総量削減基本方針の定められた海域となっている。
公有水面埋立事業の実施による水質・底質への影響を想定する際に、影響要因と環境要素や水質・底質との関係をわかりやすく示し、マトリクスでは表現しにくい影響の伝達経路(影響フロー)が明らかになるよう検討した。ここで示した影響フロー等は、次に示すような視点から作成した。
上記の視点から作成した水質・底質への影響フローを図
1.14に、影響マトリクスを表 1.10(PDFファイル9k)に示す。
埋立地の存在による影響については、埋立地及び埋立地に付随する外郭施設としての防波堤の存在によって、流動が変化し水質、底質が変化することが想定される。埋立予定地の位置する海域が富栄養化の進んだ海域であり、有機物、栄養塩濃度に関する環境基準が達成されていない海域であること及び夏季に底層水が貧酸素化することをふまえ、環境要素としてはCOD,T-N,T-P,DOを選定した。(「1-1総論1)水質・底質」留意事項[2]参照)
埋立工事による影響については、掘削等の土工事、浚渫等による濁りの発生が想定される。埋立予定地周辺に藻場等の水生生物の生息場が存在していることをふまえ、環境要素としてはSSを選定した。(「1-1総論1)水質・底質」留意事項[1]参照)
注)今回のケーススタディでは、干潟等の消滅は想定していないため、埋立地の存在による影響としては、海岸形状の変化による流動の変化を勘案している。干潟等の消滅を伴う場合には、干潟の消滅による浄化量の減少等が想定される。
図 1.14(1) 埋立地の存在に係る環境影響フロー
図 1.14(2) 埋立工事に係る環境影響フロー
調査・予測手法検討の流れを図 1.15に示す。
調査・予測手法の検討に当たっては、埋立地の存在に係る環境影響フロー及び工事の実施に係る環境影響フローをふまえ、事業特性及び地域特性を勘案し、事業の実施による影響要因及び影響が想定される環境要素を設定した上で、適切な予測手法を選定した。
図 1.15(1) 調査・予測手法検討の流れ(埋立地の存在)
図 1.15(2) 調査・予測手法検討の流れ(工事の実施)
埋立地の存在及び工事の実施による水質・底質の影響予測手法の検討内容を表 1.11~表 1.12(PDFファイル8k)に示す。
予測手法の検討結果をもとに、現地調査手法を検討した結果を表 1.13(PDFファイル8k)及び図 1.16に示す。
図 1.16 調査地点図
[1] 現地調査結果の概要
現地調査結果の概要を表 1.14(PDFファイル5k)に示す。
[2] 予測調査結果の概要
予測調査結果の概要を表 1.15及び図 1.17~図 1.22に示す。
埋立地なし
埋立地あり
図 1.17 流況計算結果(夏季、表層、平均流)
凡例:+(流速増加)、-(流速減少) 単位:cm/s
図 1.18 埋立地による流速変化(夏季、表層、平均流)
図 1.19 水質予測結果(夏季、表層、COD)
凡例:+(濃度増加)、-(濃度減少) 単位:mg/L
図 1.20 埋立地による水質変化(夏季、表層、COD)
凡例:+(濃度増加)、-(濃度減少) 単位:mg/L
図 1.21 埋立地による水質変化(夏季、表層、DO)
表 1.16 予測調査結果の概要(工事の実施)
図 1.22 SS拡散計算結果(護岸工事)
回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、埋立地の形状や外郭施設の構造などについて複数案の比較検討結果や実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討し評価を行う。
基準又は目標との整合に係る評価の観点からは、対象海域の水質(COD,T-N,T-P,DO)について環境基準が設定されていることをふまえ、予測結果と環境基準との対比を行い整合がとれているかどうか評価を行う。
その際、環境基準の評価はCODでは年間75%値、T-N,T-Pでは上層の年平均値で行われることに留意し、予測結果をそれぞれ換算した上で比較する必要がある。
なお、対象海域は現状でCOD,T-N,T-Pの環境基準を達成できていない状況にあることをふまえると、現状において環境基準との整合が図られない内容及び将来予測結果に基づく将来の環境基準の達成状況を明らかにした上で、将来においても環境基準の達成が困難であると予測される場合には、回避・低減の措置による事業の実施に伴う付加分の低減の程度(低減率等)、現況に対する変化の程度の観点から、その回避・低減の措置に関する実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かを検討し評価を行う。
回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、選定した工法や使用機械、汚濁防止膜の設置など工事計画において、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討し評価を行う。
また、基準又は目標との整合に係る評価の観点からは、対象海域の水質(SS)については環境基準が設定されていないが、水産用水基準等の知見と照らして評価を行う。