平成13年度第1回環境負荷分科会
資料-2

2.ケーススタディ

2-1 ケーススタディによる検討のねらいと方法

1)検討のねらい

 本報告書の「1 総論」において、環境負荷の環境影響評価を進めるにあたっての基本的な考え方から調査・予測の手法について示した。環境負荷の評価に至るには、スコーピングから影響の予測・評価まで多くの項目の調査とそれらの相互関連を把握していかなければならない。そこで、ケーススタディによる検討を実施し、スコーピングから環境影響評価の実施段階の調査・予測までの手順を検討すること、また、図表等を用いて具体的手法の例を提示することにより、作業イメージの具体化を図ることとした。
  なお、このケーススタディで示されたものは、あくまでも考え方を整理するための一助とするものであって、実際のスコーピング及び環境影響評価の見本ではないことに留意する必要がある。本ケーススタディで検討される環境影響や予測手法は環境影響評価を行うために考慮しなければならないもののうちの一部分であり、ここで示した影響要因、手法のみにより環境負荷に対する影響の全体が把握できるわけではないことに留意しなければならない。また、今年度のケーススタディでは、主として実施段階の調査・予測までを検討しており、予測された影響を回避・低減するための環境保全措置の検討については扱っておらず、評価については考え方のみを示したものである。
  実際の環境影響評価に際しては、ここに示された考え方や作業例を参考として、事業の特性や地域の環境特性に応じて最も適した方法を創意工夫して検討していかなければならない。

2)対象とする事業の想定

(1)ケーススタディ対象事業等の選定の基本的考え方

 ケーススタディの対象とする事業又環境影響要因は次の2点を考慮して選定する。

[1] 標準項目の対象となる事業の種類を網羅する。
  標準項目として選定されている事業:火力発電事業、環境事業団が行う面開発事業
[2] 主要な環境影響要因(対象となる環境負荷の発生要因)を網羅する。

(2)ケーススタディ対象とする事業

 ケーススタディの対象とする事業は標準項目を参考にして以下のとおりとする。なお、基本的には例示の必要な環境影響要因は、これらの内容で網羅できると考えるが、不足する場合は、別途事業例を考える。

[1]火力発電事業
[2]面開発事業

(3)対象とする事業の想定

[1]火力発電所

ア.○○県の海岸部に存在するLNG火力発電所の敷地の一角
イ.事業内容
・50万kWのコンバインドサイクル発電設備2機の新設事業
・計画地は、工業専用地域に属し、従来グランド等の施設があった地点である。
・ボイラは、排熱回収自然循環型、ガスタービン及び蒸気タービンは開放サイクル型及び串型再熱式、発電機は横軸円筒回転界磁型を設置
ウ.基本条件
  火力発電事業に供なう温室効果ガス、廃棄物の発生による影響について、調査・予測の作業例を示す。

[2]面開発事業

ア.地方主要都市の臨海工業地域
イ.事業内容 ・環境事業団が主体の工業団地整備事業(敷地面積:約30,000m2
・進出企業は確定済み
・環境事業団が製鉄所跡地の一角を取得し、各進出企業の要望を取り入れた設計及び建設工事を行うものである。
ウ.基本条件 面整備事業に供なう温室効果ガス、廃棄物の発生による影響について、調査・予測の作業例を示す。

2-2 火力発電所のケーススタディ

1)事業計画

  本ケースの事業計画は、以下の条件をモデルとして設定し検討した。
   ○○県の海岸部に存在するLNG火力「A火力発電所」の敷地内に新たに50万kWの改良型コンバインドサイクル発電設備2機を新設する計画である。
   計画地点は、工業専用地域に属し、従来グラウンド等の施設があった地点である。
   ボイラは、排熱回収自然循環型、ガスタービン及び蒸気タービンは開放サイクル型及び串型再熱式、発電機は横軸円筒回転界磁型の設備を設置する。
   なお、○○県には環境基本計画として「地球温暖化ガス対策要領」が定められており、事業者は省エネルギー対策を中心とした努力義務が課せられている。

 

2-2-1 温室効果ガス等

1)調査の手法

 火力発電所における温室効果ガス等の削減対策の計画がなされている地域の範囲としては、当該業種として電気事業があげられる。地域範囲に関わる事項及び電気事業に関わる事項について既存文献資料により調査を行った。

(1)電気事業における温室効果ガスの排出状況

  電気事業者における二酸化炭素排出量は、表2のとおりである。1990年度に対して、1999年度の二酸化炭素排出量は、使用電力量の増加に伴い約2,600万t-CO2増加したが、二酸化炭素排出原単位については0.05kg-CO2/kWh低減(▲12%)している。
  また、当社における二酸化炭素排出量は、表3のとおりである。1990年度に対して、1999年度の二酸化炭素排出量は、使用電力量の増加しているものの、約200万t-CO2減少し、使用端二酸化炭素排出原単位については0.07kg-CO2/kWh低減(▲18%)している。

表2 電気事業者における二酸化炭素排出量

項目 1990年度(実績) 1997年度(実績) 1998年度(実績) 1999年度(実績)
使用端CO2排出原単位(kg-CO2/kWh)
0.42
0.37
0.36
0.37
使用電力量(億kWh)
6,590
7,910
7,990
8,170
CO2排出量(億t-CO2
2.76
2.91
2.86
3.02

表3 当社における二酸化炭素排出量

項目 1990年度(実績) 1998年度(実績) 1999年度(実績)
使用端CO2排出原単位(kg-CO2/kWh)
0.40
0.35
0.33
使用電力量(億kWh)
700
780
800
CO2排出量(億t-CO2
0.28
0.27
0.26

(2)温室効果ガスの削減計画等

[1]地域における削減計画等
 ○○県では「地球環境保全行動計画」を策定し、県民、事業者、行政の行動指針や施策の方向を明らかにしている。また、「環境基本計画」を策定し、地球環境の保全への貢献を理念の一つとして、県民一人当たりの二酸化炭素排出量を1990年レベルに保ち、メタンなどの他の温室効果ガスについても極力1990年レベルに抑制する」ことを目標として掲げ、県民、事業者、行政が連携して地球温暖化の防止に向けた取組を進めている。

[2]事業者団体又は事業者における削減計画等
  電気事業団体では、「電気事業における環境行動計画」を策定している。電気の供給面での対策は、発電の際に二酸化炭素を排出しない原子力発電の推進を中心に、LNG火力発電の導入拡大、水力・地熱・太陽光・風力発電の開発・普及、発電効率の向上や送配電ロスの低減など電力設備の効率向上など、電気の使用面での対策では、お客さまサイドにおける省エネルギー方策のPR活動、ヒートポンプなど高効率・省エネルギー機器の開発・普及、未利用エネルギーの活用及び蓄熱システムなどの普及・促進による負荷平準化の推進により、2010年度の二酸化炭素排出原単位(使用電力量1kWh当たりの二酸化炭素排出量)を1990年度から20%程度低減するとの目標を掲げている。

(3)事業者が行っている温室効果ガス等削減のための行動等

 当社では環境行動計画として会社全体の削減計画を定めて取り組みを進めている。発電時に二酸化炭素の発生しない原子力発電の推進を中心に、発電設備の効率向上や新エネルギーの開発・普及などの対策を組み合わせて、二酸化炭素排出抑制に努めている。一方、電気の使用面からは、省エネルギー・電力負荷平準化の促進に向けて、効率の高い機器・システムの開発や、省エネルギーに役立つ情報提供など、積極的な支援策を展開している。さらに、京都メカニズム(柔軟性措置)の活用を目指した国際的取り組みや、二酸化炭素の吸収・固定技術の研究開発などもすすめている。

2)予測の手法

(1)二酸化炭素

[1]発電に伴う二酸化炭素排出量
  この方法では、燃料に含まれる炭素分が燃焼により二酸化炭素に変化するとして排出係数が設定されている。
  発電所における二酸化炭素の排出量を求める式としては以下の式があり、本ケーススタディの予測諸元及び予測結果は表4、表5に示した。

・二酸化炭素のkWh当たりの排出原単位=二酸化炭素排出量/年間発電電力量
・二酸化炭素年間排出量=発電燃料量×燃料の排出係数
・発電燃料量=発電出力×8,760×年間設備利用率×860/熱効率

表4 予測諸元

項目諸元
発電出力(万kW)
100
熱効率(%)
50
年間設備利用率(%)
70
年間発電電力量(億kWh)
61
燃料の排出係数(kg-C/kWh)
0.5639

表5 予測結果

項目 予測結果
kWh当たりの排出原単位(kg-C/kWh)
0.10
年間排出量(炭素換算)(万t-C)
約60

(2)削減対策

[1]対策の内容
 事業の計画にあたり、燃料として二酸化炭素発生量が最も少ないLNGを選択すると共に、発電設備も現行で最も熱効率の優れているコンバインドサイクル方式を採用し、燃料の使用量を削減することにより二酸化炭素発生量の減少に配慮した。
  さらに、設備設計にあたり以下の項目に配慮し二酸化炭素発生量の減少に努めた。

・タービン入口温度1,300℃級の高効率ガスタービンを採用する。

[2]実施の確実性
  熱効率を確実に維持、または向上の可能性のために下記の対策を実施する。

・運用開始後、定期点検として、復水器細管の清掃(1年に1~2回)、廃熱回収ボイラチューブ内部の点検結果により必要に応じ化学洗浄の実施等を確実に実施し、設備の維持管理に努める。
・運用開始後の日常点検として、蒸気温度管理、復水器真空度管理、給水加熱器性能管理等を十分管理し、機器性能の適正管理を行う。

3)評価の手法

(1)温室効果ガス等における代替案

 発電方式に採用されている汽力発電方式をベースラインとして設定した。新設する施設においては、熱効率の高いコンバインドサイクル発電方式を採用し、改良型コンバインドサイクル発電方式を採用したことにより、二酸化炭素の年間排出量が汽力発電方式では約14万t低減される。
  従来から発電方式に採用されている汽力発電方式をベースラインとして設定した。新設する施設においては、熱効率の高いコンバインドサイクル発電方式を採用する。改良型コンバインドサイクル発電方式を採用したことにより、二酸化炭素の年間排出量が汽力発電方式では約14万t、コンバインドサイクル発電方式では約6万t低減される。

表6 代替案による二酸化炭素排出量

項目 汽力発電方式 コンバインドサイクル発電方式 改良型コンバインドサイクル発電方式
熱効率
40
45
50
CO2排出量(万t-C)
74
66
60
kWh当たりの排出原単位(kg-C/kWh)
0.12
0.11
0.10

 前述のような省エネルギー対策を推進すること等から、二酸化炭素の発生は阻止はできないが、現在の技術で可能な最小限の発生量に押さえたものと評価する。

 

2-2-2 火力発電事業の廃棄物

1)調査の手法

 火力発電所の廃棄物等についての削減対策の計画がなされている範囲として、地域範囲に関わる事項及び電気事業に関わる事項について既存文献資料により調査を行った。

(1)地域における廃棄物の排出状況

  発電所を設置する〇〇県における平成6年度の産業廃棄物の発生状況調査では、5年度の発生量は、2,992万トン、中間処理等による減量化が1,494万トン、再資源化が1,494万トン、最終処分量が231万トンとなっており発生量の9割以上が減量化、再資源化されている。
  また、前回調査の63年度と比較すると、発生量(2,705万トン)が287万トン増加しているのに対 し、最終処分量(1,228万トン)は58万トン減少している。
  〇〇県の第5次産業廃棄物処理計画(計画期間8~12年)では、産業廃棄物の適正で合理的な処理対策を確立するため、

[1]発生抑制・減量化の徹底
[2]再資源化・再生品利用の推進
[3]安全性の確保
[4]処理施設の確保
[5]産業廃棄物管理体制の確立

 を基本方針として揚げ、事業者、処理業者、住民及び行政がそれぞれの役割分担と連携のもとで計画の推進を図ることとしている。
  また、12年度までの努力目標として、発生量3,647万トン、減量化量1,623万トン、再資源化量1,791万トン、最終処分量233万トンとしている。

(2)電気事業における廃棄物の排出状況

 電気事業における主な廃棄物には、火力発電所の石炭灰、配電工事に伴い発生する廃コンクリート柱等の建設廃材、電線等の金属屑があり、また、副成品として排煙脱硫装置から発生する脱硫石膏がある。
  1999年度における廃棄物等の発生量は、717万トンで、1998年度に比較して52万トン増加した。一方、1999年度の再資源化量は581万トンで、前年度に比較して88万トン増加している。その結果、1999年度の最終処分量は136万トンとなり、1998年度に比較して36万トンの減少となっている。
  廃棄物別では、石炭灰の発生量が479万トンと最も多いことから、石炭灰の有効利用促進を重点課題として取り組んでいる。主な用途としてはセメント原料やコンクリート用混和材として366万トンを再資源化している。
  金属屑は発生量の大部分を有効利用しており、他の廃棄物についても極力有効利用に努めている。
  副成品である脱硫石膏は、石膏ボード等の建設材料やセメント原料として全量を有効利用している。

表ー7 主な廃棄物の再資源化量等の推移
(万トン)

種別 1990年度(実績) 1997年度(実績) 1998年度(実績) 1999年度(実績)
石炭灰 発生量
347
444
421
479
再資源化量
137
253
283
366
脱硫石膏 発生量
85
146
143
147
再資源化量
85
146
143
147
建設廃材 発生量
40
49
64
47
再資源化量
21
30
42
39
金属屑 発生量
14
20
16
15
再資源化量
13
19
15
14

※建設廃材と金属屑については、1990年度は推計値。   
※脱硫石膏は副成品として全量売却されている。

(3)電気事業の廃棄物等の削減対策への今後の取り組み

 電気事業では、電源のベストミックスの観点から、石炭火力発電を原子力発電に次ぐベース電源として、さらに長期的にはベースミドル電源として位置付けており、石炭火 力から発生する石炭灰等の有効利用促進が今後も重要な課題であると考えている。
  このため、火力発電の熱効率の維持・向上に努めると共に、石炭灰を大量にかつ安定的に利用できる分野の開拓や有効利用技術の調査、研究に積極的に取り組んでいく。
  他の廃棄物についても発生量の抑制(リジュース)、再使用(リユース)、再利用(リサイクル)に努め、最終処分量の低減に取り組んでいく。

(4)電気事業における廃棄物最終処分量の削減目標

 2010年度には、廃棄物等の発生量が1990年度の約2倍の1100万トンに増加すると推定している。このような状況に鑑み、今後もさらに再資源化等に努める。
  特に石炭灰については、2010年度には発生量が約700万トンに増加すると推定しており、再資源化量を約500万トン(1990年度は140万トン)に拡大するよう努める計画である。

2)予測の手法

(1)発電に伴う廃棄物

  LNGを燃料とした火力発電事業に伴う廃棄物としては、

・排水処理の過程で発生する排水汚泥。
・定期点検時等で発生する保温材屑。
・定期点検時等で発生するコンクリート屑。
・定期点検時等で発生する廃油。

等が挙げられる。
  これらの発生量の予測は、従来の同規模事業の実績から推定する。
  今事業計画における発生量は

・排水汚泥 600t/年
・保温材屑 30t/年
・コンクリート屑 20t/年
・廃油 20t/年

と予想される。

(2)建設工事に伴う廃棄物

発電所建設工事に伴い発生する廃棄物としては

・掘削残土   28万t
・浚渫土砂    7万t
・アスファルト、コンクリート屑  1万t

と予想される。

(3)削減対策

 排出量を削減させるため、極力再資源化を図る計画とした。

・ 排水汚泥は、脱水の後焼却炉で減容化を図り、セメント原料、鉄鋼原料として再資源化する。
・ 保温材屑は破砕・減容化をした後、セメント原料として再資源化する。
・ コンクリート屑、アスファルト屑は、破砕したのち構内道路の路盤材として再資源化する。
・ 廃油については、燃料として再資源化する。
・ 掘削残土は、埋め戻しに使用する。

この結果、廃棄物の再資源化量と処分量は表ー8に示す。

表-8   再資源化量と処分量

 
発生量
再資源化量
処分量
発電に伴うもの
 排水汚泥 (t/年)
600
420
180
 保温材屑 (t/年)
30
13
17
 コンクリート屑 (t/年)
20
10
10
 廃油 (t/年)
32
25
7
建設工事に伴うもの
 掘削残土 (万t)
28
14
14
 浚渫土砂 (万t)
7
0
7
 アスファルト、コンクリート屑(万t)
1
1
0

 処分にあたっては、排水汚泥、保温材屑、コンクリート屑は最終処分場に埋立、廃油は焼却、掘削残土及び浚渫土砂は△埠頭地域の公有水面埋立区域に埋め立て処分する。

3)評価の手法

 評価に当たってのベースラインは、予想発生量とし、再資源化等で減量化した廃棄物量について評価する。
  今事業計画における廃棄物発生量は、発電に伴うもの682t/年に対し、再資源化量 は468t/年と68.2%を削減する計画であり、建設工事に伴う発生量35万tに対し14万tを再利用することから40%削減する計画である。
  これらのことから、環境影響に与える負荷を削減する努力を評価できる。

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