平成13年度 第1回総合小委員会

2 調査手法

2.1 活動特性の把握

  事業実施区域を中心に、植生や地形・地質などの環境条件からみて均質とみなせる範囲を活動特性に関する調査地域とする。この範囲には、直接改変の他、活動によっては阻害要因となりうる騒音、光害、悪臭、水質汚染、大気汚染等による影響が及ぶ範囲と考える。したがって、調査を実施する過程で著しく活動特性への影響が懸念される要因が明らかになった場合は、適宜調査地域を拡大するなど、調査とのフィードバックをしながら範囲の修正を行っていく必要がある。

  1)事業実施区域との関係から見た調査地域選定の考え方
  スコーピング段階の地域概況調査において、事業実施区域を中心とする比較的広域にわたり、「触れ合い活動の場」に関わる自然的・社会的状況、触れ合い活動の場の分布、事業実施区域との関わりを概略把握してある。
  その結果も踏まえ、まず、事業計画による直接改変や触れ合い活動の場の空間特性の改変を受ける可能性がある範囲を活動特性の変化を検討するための調査地域として設定する。その際、植生や地形・地質等の条件から触れ合い活動の場への影響を捉える上で一体的に調査すべき地域を含めるものとする。範囲の考え方は事業の性格に応じて考え方が異なる。大きくは面的開発の場合と、線的開発の場合とがあり、線的開発の場合は予定地の周囲のある距離帯を調査地域と考えることになる。ダム工事等のように事業を実施することによって、水系等のように連続した系が影響を受ける場合などは、その範囲を調査地域に含める。事業に伴う土捨て場や資材置き場なども事業実施区域に含まれるが、それらの工事に関連する場が対象事業の予定地から離れた場所に設けられる場合にも、調査地域に含める必要がある。
  これらの調査地域は、スコーピング段階で設定するが、環境影響評価の実施段階の調査等で得られる情報によりその範囲を柔軟に拡げたり絞り込んだりして修正を加えていく必要がある。

 2)活動区の設定

   調査地域内で、植生や地形など空間の特性からみて均質とみなせる空間のまとまりを「活動区」として設定し、調査・予測・評価における空間上の解析単位とする。
  活動区の区分方法には、未だ確立した手法が存在するわけではないが、植生区分、土地利用区分、傾斜区分や小水系、地形・地質等の地形的要素など、空間条件に関する各種データや、現地調査の結果などを組み合わせることによって行う。
  触れ合い活動は多種多様であり、同じ環境をいくつもの活動が利用していることがあり得ることから、ひとつの活動区で複数の活動種が行われている場合がある。利用実態を把握した上で、個々の活動において、活動そのものが行われている場所と、活動へのアクセスに利用されている場所、活動を支える資源の保全上必要な場所などを対応させて整理することが必要である。
  また利用実態の把握の結果、活動に利用されていない活動区があった場合には、調査・予測の対象から外す。



 3)調査・予測・評価の対象となる活動の状態の把握
 活動の状態は、「利用実態」と「利用者実態」の両面から把握する。把握すべき調査項目は、表Ⅱ-2-5を参考とし、活動種ごとにとりまとめる。
 調査手法は、現地調査によるカウント調査が中心となるが、ヒアリングやアンケートなど社会調査的手法によって詳細なデータを得るなどして、情報を補完していく。調査対象者の選定方法には、地域の住民・学校・団体などを対象とする方法、来訪者を対象とする方法、予め把握された団体等を対象とする方法等があるが、地域の特性や活動の内容に応じて適切な手法を選択する。
   活動特性に関する調査地域を対象として、スコーピング段階で把握された活動に関する情報も活用しながら、その段階では拾い切れなかった活動も含めて活動の状態を把握していく。
   触れ合い活動における人々の空間利用は、点・線・面等の利用の形状やスケールも多様であり、活動の時期や時間帯も多様なものとなる。各季節ごとの調査を原則とし、特定時期や時間帯に利用が集中することが明らかな活動については、その適期の調査を外さないよう配慮した調査計画を立てることが必要である。

 
(1)利用状況の実態の把握
   触れ合い活動の場の実態と利用状況の実態とは、表裏の関係にあり、利用から場を抽出する場合もあれば、場から利用が把握される場合もある。いずれの方法をとった場合も、利用状況について表のような項目について、実態を明らかにする必要がある。
   利用状況の実態として、どのような活動が、いつ頃、どのような資源や空間を利用して行われているのかを活動種別に把握する。活動種については、地域ごとの特徴的な活動や、里山保全活動や自然療法などの新しいタイプの自然とのふれあい活動、現在では行われていないが比較的最近まで行われていて、人々の記憶に残っている活動などを加味して見落とさないよう留意しながら、活動種を把握する必要がある。

   利用されている場を把握する際、長距離にわたり線的に連続している活動などは調査地域内外の活動の連続性などの関係を把握する。 利用実態は、現地調査や現地でのヒアリング、利用団体などへのアンケート調査や、住民、専門家へのヒアリング等によって行う。なかでも現地調査を重視し、各季節別・時間帯別利用や、大型連休やイベントなどの利用ピーク時と平日の利用などの把握を行う。

 (2)利用者の実態把握
    (1)で把握された各活動を行っている人々の実態を把握する。把握すべき項目としては、利用者の年齢層、構成、利用者数、誘致圏(居住地との距離)などがあるが、この他にも地域的な特徴や、特筆すべき点等があれば調査結果に反映させることが必要である。
・ 利用者実態の把握は、現地調査や現地でのヒアリング、利用団体などへのアンケート調査や、住民、専門家へのヒアリング等によって行う。
 

  表Ⅱ-2-5 活動の状態に関する調査項目

調査すべきことがら  調査内容例 調査手法例

活動の状態

利用実態 活動種、活動の内容 等

現地調査、ヒアリング調査、アンケート調査、等

活動に利用している場やルートの位置、面積、範囲、関連する場所のひろがり 等
活動種ごとの利用者数 等
利用頻度、季節・時間帯 等
活動に利用している資源、環境条件 等
利用者実態 利用者の年齢層、構成、自然関連団体・学校・個人等の利用者タイプ 等
利用者の居住地、誘致圏 等

4)活動を支える環境の状態の把握
  先に把握した活動種ごとに、その活動を支えている環境について、動植物や地形など活動に利用する「資源」、利便施設や集合場所などの「利便性」、居心地の良さや楽しさ、歩きやすさ等の「快適さ」の側面から把握する。
  活動によって、どのような資源・利便性・快適さが求められるかが異なることから、ヒアリング、アンケート、現地調査などを通じて、活動が行われている場において活用されている資源、利便性を支える環境、快適さを支えている環境等を把握し、一般的知見から、活動を行うためにあったほうが良いと判断される資源、利便施設、快適さなどを把握する。
  調査項目例は、表Ⅱ-2-6に挙げたとおりである。これらはスコーピングにおいて行う概況調査項目と概ね共通しているが、現地調査、ヒアリング調査、アンケート調査などにより、スコーピングでは拾いきれなかった情報を含めて詳細に把握を行うことを心がける。
  活動を支える環境の状態の把握は活動種ごとに行い、調査結果は活動区ごとに整理を行う。
   (1)資源の状態

    (2)利便性の状態

    (3)快適さの状態

 表Ⅱ-2-6 活動を支える環境に関する調査項目

把握すべき側面   調査内容例 調査対象範囲 調査手法例

活動を支える環境の状態

資源

水系や原っぱ、眺望地、遊歩道、湧水など、生物以外の基盤的な資源、聴覚や嗅覚、触覚を楽しませる資源 等の基盤的資源 活動特性が影響を受ける範囲 現地調査、地形図・植生図・土地利用図、既存資料、ヒアリング調査、アンケート調査、他のアセス項目の調査結果等
身近に接することができる生き物、触れ合いの対象となりうる動植物、学術的に価値のある動植物資源 等の生物資源
地域で親しまれてきた歴史的施設、花見の場や行楽地などの自然のレクリエーション地、農地や散歩道などの地域住民が利用している場 等の人文資源
快適さ 安全性、静けさ、緩やかな傾斜など活動ごとにみた、快適さを支えるもの
利便性 施設の整備状況、空間の整備状況、アクセス、広場の存在など、活動ごとにみた、利便性を支えるもの
 

5)価値軸による活動の価値の把握
  (1)認識項目および指標の設定
   活動および活動を支える環境の状態の把握を行った上で、現在、活動から人々が感じている価値を把握する。そのために、普遍価値と固有価値に関連する価値の認識項目について、各々と相関が高い代表的指標を選定する。
   指標の中には、郷土性や親近性などのように、個々の活動に着目することによって把握されるものと、その場における活動種の多様性などのように、全ての活動を統合することによって把握されるものとがあるので留意する。原則として必ず把握することが必要な指標と、地域特性や活動種によって必要と考えられる指標とがある。

  
(2)価値の把握
  各活動種ごとに、選定した認識項目の指標に基づいて価値を把握する。認識項目と指標との相関が明らかになっていないものに関しては、価値の把握のためのヒアリング調査やアンケート調査などが必要となる場合もある。認識項目に基づく価値についてはレーダーチャートでその特性を示すなど、比較が容易となるように工夫する。
   得られた価値の把握結果は活動区単位で統合し、記述によるコメント等を加え、わかりやすく伝える工夫を行う。


表Ⅱ-2-7 活動の価値軸および認識項目と指標、調査手法例

価値軸   認識項目 指標例 調査手法例
普遍価値 普及性 ■ 利用者数
  ・ 誘致圏
・ 現地調査
・ アンケート調査
・ ヒアリング調査
・ 文献調査等
多様性 ■ 活動種の多様さ
  ・ 誘致圏の多様さ
  ・ 利用者層の多様さ
  ・ 利用時間帯
  ・ 利用時期の多様さ
傑出性 ■ 活動の知名度
  ・ 非代替性の高さ
固有価値 郷土性 ■ 恒例性
  ・ シンボル性の高さ
親近性 ■ 日常的な利用度
  ・ 近隣居住者による利用度
  ・ 衣食住との関わり
歴史性 ■ 利用の歴史的経緯
  ・ 郷土誌などへの掲載
  ・ 無形文化財の指定

■:一般的に把握する必要があると考えられる指標
・:状況に応じて補助的に把握する指標
 

2.2 アクセス特性の把握
   アクセス特性への影響に関しては、アクセスルートそのものが直接改変を受ける場合と、事業に伴い発生する車輌通行等によって影響を受ける場合とがある。スコーピングで設定したアクセス特性の影響検討範囲に含まれる触れ合い活動の場へのアクセス特性の現況を把握する。

  1)調査対象ルートの選定
  スコーピングによって抽出された、活動特性に関する調査地域の外側にある「主要な触れ合い活動の場」への来訪者の利用ルートと、事業による改変区域や事業に伴う車輌の通行ルートが重なる場合、アクセス特性への影響を把握するべきルートとする。
  触れ合い活動の場そのものが影響を受けるわけではないので、活動実態の詳細な調査や価値の把握は必要としないが、現在のルートの状態や利用実態等を把握する。

 2)ルートの状態の把握
   当該ルートの種類、形状、路面・幅員状況、位置、代替ルートの本数などのルートの状態を現地調査や地図の解析により把握する。

  3)利用実態の把握
  当該ルートの現況に於ける交通量、特定地点間での所要時間、利用者数、利用手段、代替ルートの本数などを把握する。
  交通量については、活動ピーク時における交通量の把握を見落とさないように留意し、騒音に関する環境影響評価項目における調査結果や既存交通センサスの結果などを活用する。
 

表Ⅱ-2-8 アクセスルートに関する調査項目例

調査項目例 調査手法例
ルートの状態  ・ ルートの種類(歩道、農道、市道、県道等のタイプ)
 ・ 長さ
 ・ 幅員
 ・ 形状、路面状況
 ・ 現在の車輌通行量等
現地調査、パーソントリップ調査、地形図等の既存資料調査等
 
利用実態  ・ 利用者数
 ・ 利用手段(徒歩、自転車、自動車等)
 ・ 利用時期・時間帯等

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