・事業実施区域に近接し、事業実施に伴う影響が特に大きいと考えられる視点場である「○○ヶ丘」からの眺望において、構造物の出現により眺望景観の価値、特に「普遍価値(自然性:人工物以外の視野内占有率)」、「固有価値(郷土性:△△山につながるスカイラインの連続性)」が低下すると予測された。
・一方、眺望景観の価値のうち、「普遍価値(調和性・利用性)」、「固有価値(固有性・減少性)」に対する影響は、この段階で概ね回避できていると判断した。
№ |
[1] |
視点名称 |
○○ヶ丘 |
 |
認識項目 |
指 標 |
現 況 |
事業実施後 |
普
遍
価
値 |
自然性 |
人工物以外の視野内占有率(眺望方向を中心とする60°円錐内の全視野-当該視野内の人工物(%)) |
90.0% |
87.4% |
調 和 性 |
山体に存在する建造物の高さ/背景となる山体の高さ |
0.00 |
0.25 |
利用性 |
居住者人口+日最大来訪者数 |
1,031人 |
1,031人 |
固
有
価
値 |
固有性 |
特徴的な視覚的要素の数 |
水田、○○山、△△山(計3) |
水田、○○山、△△山(計3) |
郷土性 |
地域のシンボルとして認識されている△△山の視認性 |
山頂付近の視認性 |
視認できる |
視認できる |
スカイラインの連続性 |
連続性あり |
一部でとぎれる |
減少性 |
近~中景域における斜面緑地の緑視率(眺望方向を中心とする60°円錐内) |
46% |
45% |
|
 |
図Ⅴ-1 眺望景観に対する影響(「○○ヶ丘」からの眺望景観の価値の変化予測例)
●囲繞景観(図Ⅴ-2参照)
・ |
調査の結果、事業実施区域内でも「普遍価値(自然性:景観区内の樹高の高さ)」が高い景観区である「中部混交林区」「集落混交林区」「○○川中流区」において、地形改変による普遍価値(自然性)が低下、また、構造物出現により景観区内の主要な視点場である「○○台」からの眺望景観が変化すると予測された。 |
・ |
一方、囲繞景観の価値のうち、「普遍価値(快適性)」、「固有価値(歴史性・郷土性)」に対する影響は、この段階で概ね回避できていると判断した。
|
|
|
|
|
事業実施区域 |
|
直接改変域 |
|
囲繞景観の状態が
変化する景観区 |
図Ⅴ-2 囲繞景観に対する影響(直接改変の及ぶ景観区)
2)環境保全措置の対象と目標
・ |
「1)環境保全措置立案の観点」で述べた環境保全の基本的考え方や予測結果を踏まえ、環境保全措置の対象と目標を表Ⅴ-2のとおり設定し、回避または低減措置の検討をおこなうこととした。 |
表Ⅴ-2 環境保全措置の対象と目標
|
<眺望景観> |
<囲繞景観> |
環境保全措置の対象
|
- 事業実施に伴い、主要な眺望点からの△△山を中心とする眺望視野のほぼ中央に構造物が出現し、△△山へのスカイラインの連続性の一部分断、△△山の山腹への構造物の出現等による価値の変化が予測されたことから、環境保全措置の必要性があると判断した。
|
- 事業による直接改変区域に係る一部の景観区においては、景観区の自然性の高さを規定すると考えられる樹林の改変や構造物の出現等による価値の変化が予測されたことから、環境保全措置の必要性があると判断した。
|
- 上記を踏まえ、特に発達した樹林の大規模な改変が予測された「中部混交林区」「集落混交林区」「○○川中流区」における普遍価値の「自然性」を対象とする。
|
- 上記を踏まえ、複数視点場の中で最も大きな価値変化が予測された「○○ヶ丘」、「△△山」における普遍価値の「自然性」、固有価値の「郷土性」を対象とする。
|
環境保全措置の目標 |
<普遍価値(自然性)> ・△△山を中心とする60°視野内に占める人工物の割合を低減する。
<固有価値(郷土性)>
・構造物によるスカイライン分断を回避する。
|
<普遍価値(自然性)> ・景観区内の樹高の高い樹林の直接改変量を低減する。
・構造物の出現による景観区内の眺めの変化を低減する。
|
|
2.環境保全措置の内容検討と妥当性の検証
1)回避または低減措置

図Ⅴ-3 回避または低減措置の内容
(1) 立地・配置(囲繞景観)
[1] 環境保全措置の内容
・当初計画に対する予測において、特に景観区内の普遍価値(自然性)の変化が予測された「4:中部混交林区」「6:集落混交林区」「19:○○川中流区」を中心とする一帯を対象として、調査の結果、普遍価値(自然性)の高さと相関が高いことが確認された物理指標である「樹高」(=樹高が高いほど自然性評価が高い)の変化を低減するための具体的措置として、景観区内の樹高の高いエリアの直接改変を避け、当該景観区及びその隣接景観区(いずれも事業実施区域内)の他の樹高の低いエリアに変更した修正Ⅰ案及び同Ⅱ案を検討した。
[2] 環境保全措置の妥当性の検証
ア.「景観」要素に関する効果
・当初計画と修正案(次頁図Ⅴ-4参照)それぞれについて、事業実施後の景観区内の樹高について得点化し、それを比較した。
・検討結果は次頁表2-3のとおりであるが、「中部混交林区」「集落混交林区」「○○川中流区」を中心とする一帯の樹高に関する得点の合計は、当初計画が960点であるのに対し、修正Ⅰ案では1,001点、同Ⅱ案では974点となる。このため、特に修正Ⅰ案において環境保全措置による高い効果が得られると判断した。
■当初計画
 |
■修正Ⅰ案
 |
■修正Ⅱ案
 |
|
事業実施区域 |
|
直接改変域 |
|
囲繞景観の状態が変化する景観区 |
|
|
図Ⅴ-4 当初計画および「立地・配置」に関する修正案における直接改変域
イ.「景観」要素以外への影響と残される影響
・修正Ⅰ案について景観以外の環境要素への影響の程度を検証した結果、修正によって改変量が増加した景観区のうち、「中部混交林区」は、「野鳥観察活動」にとって重要な活動区と重複しており、「触れ合い活動の場」への影響が極めて大きいことが確認された。
・「野鳥観察」は、当該地域において高い普遍価値、固有価値を有し、活動存続の必要性が極めて高い活動であることから、ここでは「中部混交林区」の直接改変を避けたことにより「野鳥観察活動」に対する影響がより少ない修正Ⅱ案を採用し、以降の回避または低減措置、代償措置の内容及び妥当性の検証は修正Ⅱ案を対象におこなうこととした。
・なお、修正Ⅱ案における「景観」要素に関する環境保全措置の効果は、当初計画と比較して、影響の若干の回避低減効果が認められる。しかし、特に「集落混交林区」において修正Ⅱ案の採用による影響が生じることから、代償措置の検討をおこなうこととした。
・なお、以上の環境保全措置を講じた場合でも、景観区の改変は避けられないことから、囲繞景観の自然性の低下による影響が存在することとなる。
表Ⅴ-1 当初計画および「立地・配置」に関する修正案の改変後の樹高に関する得点
景観区№ |
4 |
6 |
19 |
23 |
合計得点 |
景観区名称 |
中部混交林区 |
集落混交林区 |
○○集落地区 |
○○川中流区 |
現
況
|
景観区面積(ha) |
12.8 |
20.3 |
17.1 |
11.5 |
1,408 |
植生ランク別
構成比(%)
|
5 |
45 |
21 |
20 |
33 |
4 |
17 |
45 |
29 |
24 |
3 |
21 |
32 |
15 |
32 |
2 |
0 |
2 |
7 |
5 |
1 |
17 |
0 |
29 |
6 |
得点(点) |
373 |
381 |
290 |
364 |
当
初
計
画 |
直接改変面積(ha) |
1.4 |
14.3 |
8.7 |
4.6 |
960 |
植生ランク別
構成比(%)
|
5 |
44 |
15 |
14 |
13 |
4 |
11 |
15 |
6 |
19 |
3 |
17 |
0 |
0 |
18 |
2 |
0 |
0 |
0 |
4 |
1 |
28 |
70 |
80 |
47 |
得点(点) |
343 |
204 |
174 |
240 |
修
正
Ⅰ
案 |
直接改変面積(ha) |
4.1 |
11.4 |
7.7 |
5.8 |
1,001 |
植生ランク別
構成比(%)
|
5 |
41 |
21 |
20 |
33 |
4 |
7 |
22 |
6 |
8 |
3 |
3 |
1 |
0 |
2 |
2 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
49 |
56 |
74 |
57 |
得点(点) |
291 |
252 |
198 |
260 |
修
正
Ⅱ
案 |
直接改変面積(ha) |
0.0 |
15.5 |
9.1 |
4.4 |
974 |
植生ランク別
構成比(%)
|
5 |
45 |
13 |
13 |
15 |
4 |
17 |
11 |
5 |
19 |
3 |
21 |
0 |
0 |
18 |
2 |
0 |
0 |
0 |
4 |
1 |
17 |
76 |
82 |
45 |
得点(点) |
373 |
185 |
167 |
248 |
備考:景観区の固有価値(自然性)の高さに関する評価は、調査において景観区内の「樹高」(=樹高が高いほど自然性評価が高い)と相関が高いことが確認されている。このため、ここでは景観区内の「樹高」を物理指標としてその変化を得点化することで措置の効果の検討を行った。
* ランク5(平均樹高20m以上)、4(同15~19m)、3(同10~14m)、2(同5~9m)、1(同4m以下)
(2) 規模・構造(眺望景観)
[1] 環境保全措置の内容
・当初計画に対する予測において特に眺望景観の変化が大きいと予測された「○○ヶ丘」を代表視点として、普遍価値(自然性)、固有価値(郷土性)の物理指標として用いた「△△山を中心とする60°視野内の人工物占有率」、「△△山周辺のスカイラインの連続性」の変化を低減するための措置として、構造物の規模・構造を変更した修正案を検討した。
・具体的には、「立地・配置」における妥当性の検証の結果採用した修正Ⅱ案をベースに、当初計画と同様の規模・構造を有する構造物を配した修正Ⅱ-A案と、構造物の高さを事業計画で規定される床面積を確保できる範囲内で低くするほか、一部地下構造化することが可能なものについて、地下式とした修正Ⅱ-B案を作成した。
[2] 環境保全措置の妥当性の検証
ウ.「景観」要素に関する効果
・修正Ⅱ-A、B案それぞれの予測画像を作成し、先に述べた物理指標の状態を比較することによって効果の検討をおこなった。
・検討の結果は図Ⅴ-5のとおりであり、修正Ⅱ-B案では、同A案におけるスカイラインの分断が回避されるとともに、△△山を中心とする60°視野内の人工物占有率も2.6%から2.2%に低下することから、環境保全措置の実施による効果が確認されたと判断した。
・ただし、△△山を中心とする60°視野内の人工物占有率の低下の程度はわずかであり、普遍価値(自然性)の変化の低減を目的とした環境保全措置の効果が期待通り発揮されるか否かに不確実性が残る。このため、事後調査により効果の確認をおこなうこととする。
エ.「景観」要素以外への影響と残される影響
・修正Ⅱ-B案について、景観以外の環境要素への影響の程度を検証した結果、特に大きな影響は確認されなかったことから、同案を採用することとした。
・なお、措置を講じた場合でも、主要視点場からの構造物の視認による眺望景観の変化が影響が残る。
■修正Ⅱ-A案(当初計画と同様の構造物を配置) |
■修正Ⅱ-B案(A案に対し、規模・構造を変更) |
 
|
構造物による△△山付近スカイラインの分断 |
一部あり |
構造物による△△山付近スカイラインの分断 |
なし |
60°視野内の人工物占有率 |
2.6% |
60°視野内の人工物占有率 |
2.2% |
|
図Ⅴ-5 「規模・構造」に関する予測画像と把握指標
(3) デザイン・修景、設備(囲繞景観)
[1] 環境保全措置の内容
・当初計画に対する予測において、造成面と構造物の出現により、景観区内の眺めの状況が特に大きく変化すると予測された「○○川中流区」を対象として、変化を低減するための措置として、修景緑化および構造物の色彩を変更した修正案を検討した。
・具体的には、「規模・構造」における妥当性の検証の結果採用した修正Ⅱ-B案について、保全措置を講じていない修正Ⅱ-B-[1]案に対し、造成面および構造物周囲に残置樹林との調和に配慮した高木を中心とする修景植栽
*を施し(植栽後の必要に応じた管理含む)、構造物の色彩を当初計画の白色系から暗茶系色に変更した修正Ⅱ-B-[2]案を作成した。
*:構造物の遮蔽と周辺景観や残置森林との調和を勘案し、常緑・落葉高木の混植とするほか、歩道等からの樹林内の林床の見通しの確保を考慮した上で、常緑の中低木を植栽する。なお、「触れ合い活動の場」における環境保全措置内容にも留意し、野鳥誘因効果のある樹木も採用する。
[2] 環境保全措置の妥当性の検証
オ.「景観」要素に関する効果
・修正Ⅱ-B-[1]、[2]案それぞれについて、景観区内を代表する眺望利用地点である「○○台」を視点とした予測画像(図Ⅴ-6)を作成、これを用いて被験者に対する視知覚心理学的手法による評価実験を実施することによって効果の検討をおこなった。
・実験の結果、被験者30名中26名から修正Ⅱ-B-[1]案より同[2]案の方が普遍価値(自然性)に関する価値の低下が緩和されるとの評価結果が得られたことから、環境保全措置の実施による効果が確認されたと判断し、修正Ⅱ-B-[2]案を採用することとした。
・ただし、予測はC.G.画像を用いたものであるため、予測技術のレベルに起因する効果の不確実性(予測画像で表現した環境保全措置と実際の措置実施後の効果の程度)が残る。このため、事後調査の実施により、効果の確認をおこなうこととした。
カ.「景観」要素以外への影響と残される影響
・修正Ⅱ-B-[2]案について、景観以外の環境要素への影響の程度を検討した結果、特に大きな影響は確認されなかったことから、同案を採用することとした。
・なお、措置を講じた場合であっても、出現する構造物は完全には遮蔽されないことから、構造物の視認による囲繞景観の変化が影響として残ることとなる。
■修正Ⅱ-B-[1]案(白色系の色彩、修景植栽なし) |
■修正Ⅱ-B-[2]案(暗茶褐色系の色彩、修景植栽あり) |

|

|
評価実験における支持者数(被験者30人中) |
4人 |
評価実験における支持者数(被験者30人中) |
26人 |
|
図Ⅴ-6 「デザイン・修景、設備」に関する予測画像と把握指標
2)代償措置
[3] 環境保全措置の内容
・「触れ合い活動の場」の影響の回避または低減を重視したことにより、十分な影響の回避または低減をおこなうことができなかった「囲繞景観」の普遍価値(自然性)については、特に直接改変による影響が大きいと予測された「集落混交林区」内を対象として代償措置をおこなう。
・具体的措置としては、現状において価値認識の低いランク2~3の残置樹林への高木類(樹齢5年程度のもの)の植栽及び土壌改良、並びに植生管理を実施し、喪失される「ランク4~5」と同等の樹林を復元する。
[4] 環境保全措置の妥当性の検証
キ.「景観」要素に関する効果
・代償措置実施前後での「集落混交林区」の普遍価値(自然性)に係る指標(得点)の変化は、次頁の表Ⅴ-2のとおりであり、措置実施前の185点から311点に上昇する結果が得られたことから、措置の実施による効果が確認されたと判断し、これを採用することとした。
ク.「景観」要素以外への影響と残される影響
・景観以外の環境要素への影響の程度を検討した結果、特に大きな影響は確認されなかったことから、環境保全措置を講じた案を採用することとした。
・なお、措置を講じた場合であっても、直接改変による景観区内の普遍価値(自然性)の低下による囲繞景観の変化が影響として残ることとなる。
表Ⅴ-2 代償措置(喪失樹林の復元)による囲繞景観の普遍価値(自然性)の指標の変化
景観区№及び名称
|
代償措置実施前 |
代償措置実施後 |
ランク* |
合
計 |
ランク* |
合
計 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
5 |
4 |
3 |
2 |
1 |
6
|
集落混交林区
|
13% |
11% |
0% |
0% |
76% |
100% |
33% |
23% |
5% |
0% |
39% |
100% |
65 |
44 |
0 |
0 |
76 |
185 |
165 |
92 |
15 |
0 |
39 |
311 |
* ランク5(平均樹高20m以上)、4(同15~19m)、3(同10~14m)、(同5~9m)、1(同4m以下)
備考 上段:構成比(%)、下段:得点(Σ(各ランクの数値×各ランクの構成比))
3.環境保全措置の実施案
表Ⅴ-3 「景観」に係る環境保全措置の実施案
措置の区分 |
回避または低減措置 |
代償措置 |
内容
|
直接改変区域の配置変更(景観区内の樹高の高いエリアの直接改変の回避) |
構造物の規模・構造変更(構造物高さの低減、一部地化構造化) |
構造物周囲の修景緑化、暗茶系の色彩の採用
|
残地森林への高木植栽
|
実施時期 |
造成工事時 |
構造物建設工事時 |
構造物建設工事時 |
工事期間中 |
実施方法
|
造成計画の変更
|
建築計画の変更
|
建築計画の変更、植栽・管理の実施 |
植栽の実施・管理
|
実施主体 |
事業者 |
事業者 |
事業者 |
事業者 |
措置の効果
|
囲繞景観の普遍価値(自然性)低下の緩和
|
眺望景観の普遍価値(自然性)、固有価値(郷土性)低下の緩和 |
囲繞景観の普遍価値(自然性)低下の緩和 |
囲繞景観の普遍価値(自然性)低下の緩和 |
不確実性の程度
|
|
普遍価値(自然性)の変化低減を目的とした措置の効果の程度に不確実性が残る
|
予測画像(C.G.)の技術レベルに起因する環境保全措置の効果の程度に不確実性が残る |
|
措置の実施に伴い生じるおそれのある環境影響 |
「触れ合い活動の場」のうち、野鳥観察の場の改変 |
特になし
|
特になし
|
特になし
|
措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響
|
景観区の直接改変による囲繞景観の普遍価値(自然性)の低下
|
主要視点場からの構造物の視認による眺望変化
|
構造物の視認による景観区内の眺めの状態の変化
|
景観区の直接改変による囲繞景観の普遍価値(自然性)の低下
|
|
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