平成14年度 第1回大気分科会

資料2-1

大気環境の環境保全措置・評価・事後調査の進め方

1 総 論

   1) 調査・予測・評価、環境保全措置の検討及び事後調査の基本的な考え方

     (1) 調査・予測・評価、環境保全措置の検討及び事後調査のあり方

    環境影響評価における調査・予測・評価を効果的かつ効率的に行うためには、各プロセスにおいて行われる作業の目的を常に明確にしておく必要がある。特に、「評価」の視点を明確にすることは、環境影響評価の適切な実施において重要であり、このためには、環境影響評価の実際の作業の流れと逆に、「評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討」(以下、「逆プロセスの検討」という。)の順に検討を進めることが重要となる。
    これは、環境影響評価法における「評価」が、事業者による環境影響の回避・低減への努力内容を見解としてまとめ、明らかにすることによる相対的な評価手法を基本とするためである。これが、「環境影響の回避・低減に係る評価」であり、環境保全措置の選定の妥当性を検証した上で事業による環境影響が回避・低減されているかどうかを判断するものである。また、「国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討」も合わせて行われるが、環境保全措置の効果を考慮した予測結果と、環境基準及びその他の環境の保全の観点から定められた基準又は目標との整合が図られているか否かについて検討するものである。
    このように、環境保全措置の検討は、「評価」を行う上で重要な位置をしめており、評価手法の検討を行う段階で、環境保全措置(案)についても検討することが必要である。この段階で環境保全措置(案)の検討を実施し、逆プロセスの検討を踏まえて、環境影響評価を行うことは、調査不足や不適切な予測手法の選定等の手戻り等の発生を防ぐことが可能となり、また、環境保全措置の妥当性、具体性及び客観性に関する調査の必要性の有無を判断することも可能となる。
   また、事後調査については、環境保全措置が十分に機能し効果を示しているか否か、予測した対象事業による影響が予測範囲内であるかを把握すると共に、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討等を実施することを目的とする。したがって、環境保全措置の検討及び予測手法の検討等に合わせて、事後調査の手法の検討も行う必要がある。これは、事後調査におけるモニタリング実施地点等を配慮して予測地点及び調査地点を設定するか否か等、事後調査における調査項目、調査方法等が未検討のままでは、判断することは困難であり、環境影響評価の効率的かつ効果的な実施の上で重要となってくる。

   (2) 調査・予測・評価と環境保全措置及び事後調査の関係(全体の流れ)

    事業計画の立案から、スコーピング、環境影響評価(調査、予測、評価)を踏まえ、事後調査の実施に至るまでの作業の流れとこれらの作業における環境保全措置との関係は図1に示すとおりである。

  [1]事業計画の立案時における環境保全への配慮

    事業計画の立案時においては、事業計画の一部として検討される環境保全への配慮があり、大きな視野で検討される内容で、事業者の環境保全に対する姿勢、考え方等が示されることとなる。大気質・悪臭分野における環境保全への配慮は、汚染物質の排出量の少ない良質原燃料の選定、大気質の影響を特に配慮すべき住居密集地、学校、病院等をコントロールポイントとして配慮した事業位置検討(排出源となる工場の立地位置選定、道路線形計画)等がある。

  [2]スコーピング段階における環境保全への配慮の明示

     スコーピング段階においては、対象事業の事業特性及び地域特性を把握した上で環境影響評価項目を選定し、それぞれの項目毎に調査・予測・評価手法を選定することとなる。大気質に係る環境要素として、対象事業の内容により大気汚染物質として何を対象とし、どのような調査を実施するかを方法書において整理することとなるが、これらを選定した背景を明確にすることが最も重要である。
   この背景の明確化においては、事業概要として事業の必要性等について客観的に整理するとともに、事業規模、位置だけでなく、対象事業の実施により周辺環境に影響を与えると考えられる具体的な施設及び行為の有無及びそれらに対する環境保全への配慮の有無を可能な限り示す必要がある。
   また、環境保全への配慮の検討は、事業計画の立案時に実施されている内容ではあるが、この事業者の環境保全への配慮及びその検討経緯を可能な限り方法書に記載することが望ましい。これにより、事業者のスコーピング作業における考え方が住民に対しより確実に伝達可能となり、理解が得られるものと考えられる。また、より早期段階から要点を得た学識経験者及び地域住民からの意見の把握が可能となり、効率的な環境影響評価手続きを進めるためにも重要なことである。
   なお、大気質に係る環境要素において、ダイオキシン類やその他の環境ホルモン等の微量化学物質が問題となるケースがある。これらについては、住民等の関心の程度、事業特性及び地域特性等を勘案し、物質濃度の把握が必要な場合には大気分野で、物質量の把握が必要な場合には環境負荷分野で、各分野のスコーピングの段階において項目の選定を行うことが肝要である。

  [3]環境影響評価実施段階での環境保全措置の立案

    環境影響評価実施段階においては、事業計画の進捗に合わせて手法、効果及び妥当性等を踏まえてより具体的な環境保全措置を検討することとなり、その内容については複数案の比較検討等によりその検討経緯を明らかにできるよう整理し、準備書・評価書においてわかり易く記載する必要がある。大気質・悪臭分野においては、煙突の嵩上げ、脱硝装置の採用等がある。

  [4]予測・評価の実施

    環境影響評価法における評価の考え方として、「環境影響の回避・低減に係る評価」及び「国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討」がある。
   「環境影響の回避・低減に係る評価」の実施においては、事業計画立案段階から環境影響評価実施段階における幅広い環境保全対策を対象とし、複数案の比較により妥当性を検証した上で事業による環境影響が回避・低減されているかどうかを判断する。
   また、「国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討」については、これら環境保全対策の効果を考慮し、予測に反映させて得られた結果と、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点から定められた選定項目に関する基準又は目標との整合性が図られているか否かについて検討する。

  [5]予測及び環境保全措置の不確実性要素と事後調査の関係

    事後調査については、環境影響評価により検討された環境保全措置が十分に機能し効果を示しているか、予測した対象事業による影響が予測結果の範囲内であるかを把握すると共に、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討等を実施することを目的とする。
    対象となる項目は、調査・予測及び評価の流れの中で考えられる不確実性を補う等の観点から選定されるものである。環境影響評価にあたっては、調査・予測から評価に至る過程で常に不確実性要素があることを念頭に置く必要がある。特に予測や環境保全措置の効果等においては、その内容に不確実性要素を伴うことが多い。
   予測の不確実性要素には、予測の前提となる現状の自然的変動・社会的変動・人的変動、現状の把握にあたっての測定誤差及び予測モデルのそのものの限界やパラメータ・原単位等に内在する不確実性等のさまざまなレベルがある。また、環境保全措置の不確実性要素としては、その知見の不十分さが挙げられる。
   これらの不確実性要素を整理し、その程度及びそれに伴う環境への影響の重大性に応じて事後調査の実施を検討する必要がある。
   なお、環境影響評価の段階で想定した前提条件に大きな変更が確認された場合等、変更の内容に応じて条件を変更し、再予測を実施するとともに、この再予測結果と事後調査結果とを比較することにより、予測の手法の不確実性及び環境保全措置の効果についての検証が可能となる。

図1 環境影響評価と環境保全措置及び事後調査の関係(全体の流れ

2)環境保全措置

  環境保全措置は、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響について、事業者により実行可能な範囲で、当該影響を回避し、又は低減すること及び当該影響に係る各種の環境保全の観点からの基準又は目標の達成に努めることを目的として検討されるものとする。

                                                                                  (基本的事項 第三項一(2))

 (1)環境保全措置の考え方

    環境保全措置とは、調査、予測及び評価を行う過程において事業者が実行可能な範囲で対象事業の実施による影響を回避又は低減することを目的として検討する環境保全対策である。環境保全措置は事業計画の中に反映される内容であるために、環境影響評価の中で最も重要であり、事業計画の進捗に応じてできる限り具体的に検討し、整理されることが必要である。
   環境保全対策は、事業計画の立案から事業計画の進捗に応じて適切かつ具体的に検討されるものである。このうち環境保全への配慮は、事業計画の立案時に計画の一部として検討されるもので、事業者の環境保全に対する姿勢、考え方等が示されることとなる。これに対し、環境保全措置は、調査、予測及び評価の過程と共に事業計画の進捗に応じて、手法、効果及び妥当性等を踏まえてより具体的に示されるものである。
   大気質・悪臭分野における環境保全措置を検討するにあたっては、対象事業の環境要因に応じて、環境影響を受け易い地域や対象が存在するか、環境保全関連法令による指定地域や対象が存在するか、既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在するか等を考慮する必要がある。

 (2)環境保全措置立案の手順

   [1]事業計画の段階に応じた環境保全措置の検討

    環境保全措置の立案においては、事業計画の熟度に合わせた検討が必要である。これは、ほぼ確定されてしまった計画においては適切な環境保全措置の立案が困難となる場合が生じるためであり、事業計画の早期段階から環境保全措置の方針を整理し、内容・手法については事業計画の熟度に合わせてより具体化していくことにより、適切な環境保全措置の実施が可能となる。

   [2]環境保全措置の複数案検討と検討経緯の整理

   環境保全措置の立案までの検討段階においては、大気環境への効果や実現可能性を考慮して複数案検討されることとなる。実際の作業の中では事業の実施による環境への負荷をより効率的に削減し、実現性の高い環境保全措置から優先的に選択し予測・評価を繰り返すことになる。
   実行可能な範囲でより良い技術を取り入れるためには、優先的に選択した手段が目標値を満足する結果であっても、効果及び実現性において最適であるという判断はできないため、内容の異なる複数の環境保全措置を並行的に比較検討することとなる。環境影響評価法においては、この複数案の比較検討のプロセスを評価の中で明らかにすることとしているため、検討経緯、検討結果については準備書・評価書において可能な限り具体的に記載する必要がある。
   大気質・悪臭分野においては、煙突の嵩上げ、固定発生源の配置の変更、効率的な脱硝装置の採用等、発生源となる施設に対する具体的な環境保全措置の検討が必要となる。また、道路事業等のように騒音の予測の結果、防音壁の設置を環境保全措置として新たに計画に追加する場合には、大気質の予測の実施においてもその効果を考慮する必要がある。

  (3)環境保全措置の内容

    [1]回避・低減・代償の考え方

    環境保全措置とは、環境影響を回避する措置から避けられない影響を代償する措置まで含む幅広い概念である。
   環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するものとし、これらの検討を踏まえ、回避又は低減効果が不十分であると判断された場合、必要に応じ代償措置の検討を行う。
   環境影響評価法における回避、低減及び代償とは、NEPAによるミティゲーションの概念と同様であり、各々の考え方は表1の内容として捉えることができる。

               表 1 環境影響評価法における回避、低減及び代償の考え方

区分

内  容

NEPAによるミティゲーションの概念
回避

行為(環境影響要因となる事業行為)の全体または一部を実行しないことによって影響を回避する(発生させない)こと。重大な影響が予測される環境要素から影響要因を遠ざけることによって影響を発生させないことも回避といえる。
【例】

施設立地の変更 等 

       回避(Avoidance)
低減

行為(環境影響要因となる事業行為)の実施の程度または規模を制限することにより、また、発生した影響を何らかの手段で軽減または消失させることにより、影響を最小化するための措置である。
【例】

工事工程の変更、施設構造の変更、脱硝装置の採用等

 最小化(Minimization)
 修正(Rectifying)

 軽減/消失                  (Reducation/Elimination)

代償

行為(環境影響要因となる事業行為)の実施により損なわれる環境要素と同種の環境要素を創出すること等により、環境の保全の観点からの価値を代償することを意味してい

 代償(Compensation)

    しかし、実際に行う環境保全措置の効果が環境への影響を回避したのか低減したのかを厳密に区分することは困難である。大気分野においては、工事用車両ルートの変更を実施する場合を例に挙げると、住居密集地域等の影響地域からの位置関係により、迂回した程度により低減効果となる場合もあれば回避として捉えられる場合もある。
   回避と低減の概念は視点及び影響の低減の程度によって異なるものであり、実施する環境保全措置が回避であるのか低減であるのかの区別は重要ではない。環境保全措置は、あくまで環境への影響がどの程度低減されたかにより検討を行うものである。
   また、大気汚染のように環境の質そのものに変化をもたらす場合は、同様の環境質を創出するという代償の考え方を実行することは現実的に困難である。そのため、大気質分野における環境保全措置の検討にあたっては、環境への影響をいかに回避・低減するかが重要となる。
   なお、環境影響評価においては、家屋の移転等のいわゆる「補償」に類する措置は、環境保全措置としては扱わない。

   [2]事業者により実行可能な範囲で行われる環境保全措置

    環境保全措置とは、以下に示すものを除いた事業者の実行可能な範囲内で行われるものであり、技術的な面、コスト面、現実性及び具体性といった観点において十分なものであれば、事業計画についても変更がありえるものである。

    ・ 技術的に十分な研究がなされていない対策
    ・ 環境影響の重大性や事業全体の経費と比較して過剰な経費を要する対策
    ・現実に機能し得ない対策
   なお、事業計画に係る大幅な変更を実施する際には時系列に沿って検討経緯を明確にし、住民が理解しやすい様に整理することが重要である。

   [3]環境保全措置の内容

    大気質・悪臭分野における回避・低減を目的とした基本的な環境保全措置の内容として分類すると、1)大気汚染物質の発生源対策、2)発生後の拡散の過程における対策(拡散距離の確保等)の大きく2つに分類される。また、実施者の立場で分類すると、事業者が実施する場合と事業者以外の者が実施する場合に分類される。以下に道路大気質対策及び固定発生源大気質対策の一般的な環境保全措置の取組みの例を示す。

  例)道路沿道大気質対策
    1)発生源対策
     ・ 自動車構造の改善(事業者以外が実施)
     ・ 道路網の整備による対策[環状道路、バイパスの設置(事業者若しくは事業者以外が実施)
     ・ 交通規制等による対応(事業者以外が実施)

    2)拡散の過程における対策
    ・ 道路構造対策[基本構造による対策](事業者が実施)
    ・ 環境施設帯の設置による対策(事業者が実施)

  例)固定発生源大気質対策
    1)発生源対策
     ・ 良質な原燃料の採用又は開発(事業者若しくは事業者以外が実施)
     ・ 排出規制による汚染物質排出量の制限(事業者以外が実施)
     ・ 脱硝装置の採用(事業者が実施)
     ・ 燃焼技術の向上(事業者が実施)

    2)拡散の過程における対策
    ・土地利用計画による住居密集地域等への設置の制限(事業者以外が実施)
    ・ 事業用地周辺の風向、土地利用状況等を考慮した煙突位置及び高さの変更(事業者が実施)

   (4)環境保全措置の事例

    大気質・悪臭分野において、事業者が実施可能なものとして考えられる環境保全措置(回避・低減)の代表的な例を表2に示す。
   また、事業者以外が実施する環境保全措置としては、国や地方公共団体の規制、指導による地域全体の大気質濃度の低減(固定発生源の排出規制、自動車排出ガス規制、低公害車の促進、交通需要対策等)の促進等がある。

 表2(1) 事業者が実施する環境保全措置(回避・低減)の例[固定発生源]
 対象事業の状況

環境保全措置

内 容

発生源対策

拡散過程対策

 工事の実施  排出ガス対策型建設機械の採用  
 高品質燃料の使用  
 工事工程の検討、燃料使用量の平準化  
 工事区域に仮囲いの設置  
 工事車両出入口の散水  
 悪臭物質の揮発の抑制、脱臭装置の設置  
 臭気除去施設の設置、消臭剤・脱臭剤の散布、覆土等  
 存在及び供用  立地地点の検討(住居密集地の回避)  
 汚染物質を発生しない原燃料の選定  
 コージェネレーションの導入によるNOx削減  
 適切な燃焼管理  
 燃焼技術の向上  
 定常運転による不完全燃焼の防止  
 運転状況の監視・設備の点検・維持管理  
 計画地周辺における植樹帯(緩衝エリア)の設置  
 集塵・有害物質除去設備の採用  
 悪臭物質の揮発の抑制、脱臭装置の設置  
 臭気除去施設の設置、消臭剤・脱臭剤の散布、覆土等  
 煙突の位置・高さ検討  
     

 

  表2(2) 事業者が実施する環境保全措置(回避・低減)の例[移動発生源]
 対象事業の状況

環境保全措置

内 容
発生源対策 拡散過程対策
 工事の実施  工事用車両のルート検討  
 高品質燃料の使用  
 最新規制適合車の採用  
 車両の点検  
 存在及び供用  ルート検討(住居密集地の回避)  
 構造検討  
 環境施設帯または植樹帯の設置  
 集塵機等による収集・処理  
     


   3)評価

 環境影響の回避・低減に係る評価
  建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。

  なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。

 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討

  評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。

 その他の留意事項

  評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。

(基本的事項 第二項五(3))

   環境基準等の基準又は目標が設定されている大気質については、上記ア及びイの評価を併用することとなる。従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみによる評価が行われてきた。環境影響評価法に基づく環境影響評価では、アの視点による評価が前提となる。事業の実施による環境影響をゼロにすることはできないが、環境影響をいかに低減した計画となっているか、またそのためにどこまで検討を重ね、配慮してきたかが理解できる内容の環境影響評価が望まれる。
   また、環境基準は環境保全上維持されることが望ましい基準として定められる行政上の目標となるべきものであり、環境汚染防止上の規制値とは概念上異なる。環境基準は幅広い行政の施策によって達成を目指すものである。それに対し、排出基準や総量規制は、環境基準達成に向けて講じられる諸施策と考えられる。このような背景を理解した上で、事業による環境影響を適切に評価する必要がある。

(1)回避・低減に係る評価

    回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減に向けて取り入れた環境保全対策について、客観的にその効果、技術の妥当性が明確にされているかどうかを検討することによって、その環境保全対策により事業による環境影響が回避・低減されているかどうかを判断する。
   ここでいう、環境保全対策とは事業計画の立案から調査、予測及び評価までの過程の中で検討された幅広い環境保全対策が該当する。これらの効果の客観性、妥当性を示す手法として、環境保全対策の検討を時系列に沿って対比する、並行的に最新の技術か否かを判断する資料を明示する等が考えられる。
   この時、事業者が行う環境保全対策の効果を見込む場合には、その効果が客観的に有効であることの確認が必要であり、事業規模や排ガス量などから類似施設で採用されている環境保全対策と同等のものであり、類似施設調査等によりその効果が明らかにされている必要がある。
   回避・低減に係る評価において最も留意すべき点は、現状において環境基準を達成していない地域など、イの視点における基準等との整合が図られない場合において、アの視点からより一層の回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価を併せて総合的に評価する場合の考え方についてである。
   このような場合においては、基準等の整合が図られない内容を明らかにし、回避・低減の措置による事業の実施に伴う付加分の低減の程度(低減率等)、現状の大気質状況の変化の程度等から、その回避・低減の措置に関して実行可能なより良い技術が取り入れられている否かを検討し評価を行う。

 (2)基準又は目標との整合に係る評価

   大気質については、環境基準等の基準又は目標が設定されている環境要素を予測・評価項目とする場合が多いため、従来の環境影響評価においては、一般的に基準との整合についての視点による評価が実施されてきた。そのため、既に現状の大気質の状況が環境基準を達成していない地域での事業の場合、この基準との整合を図ることが環境影響評価において絶対として取り扱われてきたことは否めない。
    現状において基準又は目標が達成されていない状況においては、事業者が実行可能な範囲での環境保全対策による基準又は目標の達成は困難であることが容易に想定される。この基準又は目標との整合に係る評価においては、従来の考え方を払拭し、基準との整合が図られない場合は、それを明らかにすることが最も重要であることを認識する必要がある。そして、その結果を踏まえて、前述の回避・低減に係る評価を実施していくことが必要である。例えば、基準又は目標として客観性の高いバックグラウンド濃度を用い、事業者はそれに対する事業による負荷濃度の割合を予測し、この負荷濃度の割合を低減するための環境保全措置について複数案の時系列または並行的な検討によって評価していくことが考えられる。
   また、地域の環境基本計画等により、地域特性に配慮した目標が示されている場合は、この目標の設定の背景等を踏まえ、その整合性に十分に配慮した評価を実施することが必要である。

 (3)その他の留意事項

   事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合においては、事業計画と事業者以外の者が実施する環境保全措置等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。

   4)事後調査

  選定項目に係る予測の不確実性が大きい場合、効果にかかる知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合等において、環境への影響の重大性に応じ、工事中及び供用後の環境の状態等を把握するための調査(以下「事後調査」という。)の必要性を検討するとともに、事後調査の項目及び手法の内容、事後調査の結果により環境影響が著しいことが明らかとなった場合等の対応の方針、事後調査の結果を公表する旨等を明らかにできるようにすること。 
   なお、事後調査を行なう場合においては、次に掲げる事項に留意すること。
 事後調査の項目及び手法については、事後調査の必要性、事後調査を行う項目の特性、地域特性等に応じて適切な内容とするとともに、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能なように設定されるものとすること。
  事後調査の実施そのものに伴う環境への影響を回避し、又は低減するため、可能な限り環境への影響の少ない事後調査の手法が選定され、採用されるものとすること。

 

 事後調査において、地方公共団体等が行なう環境モニタリング等を活用する場合、当該対象事業に係る施設等が他の主体に引き継がれることが明らかな場合等においては他の主体との協力又は他の主体への要請等の方法及び内容について明らかにできるようにすること。
                                                                                                    (基本的事項 第三項二(6))

 (1) 事後調査の考え方

  [1]事後調査の目的
   
   事後調査は、調査、予測及び評価における不確実性を補う等の観点から位置付けられており、事後調査を実施することにより、1)環境影響評価により検討した環境保全措置が十分に機能し効果を示しているか、2)予測した対象事業による影響が予測範囲内であるかを把握すると共に、予測結果を上回る著しい環境影響が確認された場合には、3)必要に応じて環境保全措置の追加・再検討等をすることを目的とする。
   この時、予測結果を上回る原因が、大気汚染物質の排出条件等を過小評価していたためであったか、知見の不十分な環境保全措置を導入したためであったか、予測できなかった不測の事態によるものか等を整理・検証し、その結果をもとに再予測することにより、より効果的な対応が可能となる。

  [2]事後調査項目の選定
   
   環境影響評価の予測手法選定においては、基本的にはその時点で最新の技術を用い、最も確からしい結果を定量的に導き出す手法を選定することが望ましいが、予測には常に不確実性があることに留意する必要がある。また、事業による影響の程度に応じて事業特性及び地域特性を勘案した環境保全措置を実施することとなるが、その効果についての知見が十分であるものばかりではない。従って、予測の不確実性の程度、環境保全措置の知見の程度から起因する予測結果への影響の程度の大きさから「予測の不確実性が大きい場合」及び「知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合」と判断される場合等においては、環境への影響の重大性に応じ、事後調査によって事業実施後の環境の状況を把握する必要性について検討することとなる。
   事後調査を実施する場合においては、より効果的な調査内容とするために、予測結果に大きな影響を及ぼす項目を整理し、また、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能なものを調査すべき情報として選定することに留意する必要がある。

 ●予測の誤差と不確実性

    大気質・悪臭分野における予測の不確実性としては、予測の前提となる現状の人為的変動等の予測条件の不確実性と対象物質の挙動について研究段階のもので学術的にも解明されておらず、予測モデル式等に関する知見が十分でない場合及び予測モデルそのものの限界やパラメータ・原単位等に内在する不確実性等の予測手法の選択による不確実性がある。このうち自然的条件(気象変化等)、社会的条件(社会経済等)の変動のように事業者以外が原因となり不確実性を発生させる場合がある。
    大気質の濃度は、確率的な変動を伴うものである1)。予測における計算値は、設定された気象条件または排出条件から得られる平均濃度であることから、下記に示す確率的な変動を考慮すると、2分の1の確率で予測の計算値が当たることを意味することになる。このような予測の計算値がもつ確率的な変動については、ケーススタディ4に示すように、既存の観測データの統計的推測によりその計算値の誤差を補正することが可能であることを認識する必要がある。
    また、道路沿道の大気質の濃度計算における交通量条件として、日交通量に代表される平均値が主に用いられるが、自動車交通量についても確率的な変動を伴うものである。日交通量、時間交通量といった時間スケールの考え方に大きくこの変動が依存することになる。しかし、この変動についても、統計的推計により把握することが可能である。
    このように、予測すべき濃度の確率的な変動、予測条件の確率的変動に伴う計算値の誤差については、予測の誤差として既存のデータを用いた統計的推測によって把握が可能であることを認識すべきである。
   予測の不確実性は2)、この予測の誤差以外の要素に着眼するものであり、予測手法に内在する不確実性や、現象の理解度等に起因する不確実性が大きいと判断される場合は、単一の前提条件、予測手法による単一の結果に固執することなく、必要な場合には複数の予測条件や予測手法による結果を併記するなどの柔軟な対応を行うことを考慮する必要がある。

   【留意事項】 
  1)確率的な変動
   図2に平成12年度の東京都千代田測定局(一般環境大気測定局)における二酸化窒素濃度の日平均値の年間出現頻度をワイブル分布(横軸に濃度、縦軸に出現頻度)で表したものを示す。年間の変動幅は0.001~0.068ppm、年平均値0.037ppmの超過確率は約50%であり、標準偏差は0.012ppmである。

                                  図2 二酸化窒素濃度の日平均値の分布(H12.4~H13.3 千代田測定局)
   このように、過去10年間のデータから、その標準偏差を求め、予測された将来の平均値においてもほぼ同等の誤差が生じることを予測することは可能である。

  【留意事項】 
 2)予測の不確実性
 ◎予測の誤差と不確実性の存在
   大気分野においては、予測値である濃度及び予測条件である気象条件、交通量条件等、日々刻々とそれ自体が変動するものであるが、これらの変動の多くは確率的に把握することができるものである。
   予測においては、主に平均値を用いて、予測条件及び計算値が捉えられているが、平均値からの確率的な変動がもたらす予測の誤差に十分な認識がなされていないことが多々見受けられる。これらの確率的な変動は、その変動を適正に表す確率分布により統計的推測が可能であり、計算値の誤差を補正することが可能であることを認識する必要がある。また、変動においては、長期的な視点からみると、異常変動を示す場合があるが、気象条件等に代表されるように、精度の検証によって回避できるものであり、異常年検定等の気象条件との比較から、異常変動がもたらす大きな誤差を推定し棄却検定することが可能なものもある。
   一方、確率的な変動による予測の誤差より、図3に示すように、将来にむけたトレンドを大きく変化させる自然的・社会的・人為的な変動が想定される。これは、予測実施時において想定され得なかった現象と考えられ、これを予測の不確実性と捉えることができる。
   例えば、大気質の代表的な予測条件である交通量については、それ自体が将来の道路整備計画を踏まえた推計を含む予測条件であり、将来の整備状況(想定シナリオ)は、社会経済の変化に大きく左右されるものである。
   また、予測手法の選定においては、基本的には事業特性及び地域特性を踏まえ、予測すべき現象の発生動態(局地的及び広域的な発生、短期的及び長期的な暴露等)を十分に理解し、最も確からしい結果を定量的に予測可能な最新の手法を選定すべきである。予測手法の多くは、データ、知見の集積を踏まえ、実験検証等によりその精度を十分に把握して示されているものであるが、パラメータに内在する問題、手法の適用範囲を十分に認識して用いることが必要であり、逸脱した適用等を行った場合は、その予測結果には大きな不確実性をもつことになる。

 

   予測の不確実性を払拭するための配慮に努めた上で、なお、残る予測の不確実性については、不確実性が予測結果に及ぼす影響の程度及び環境影響の重大性等を考慮して、事後調査を検討する。
   事後調査においては対象事業による環境への影響の程度を把握することとなるが、事後調査結果と予測評価結果を適切に比較・検討するために、予測式及び予測条件に内在する不確実性要素を含む情報を明確にする場合には、これらの前提条件が想定した範囲内にあることを確認するために効果的な調査の実施が望ましい。そのため、調査すべき情報を選定するにあたっては、表3に示すような予測結果に大きく影響を与えることとなる不確実性を含む事項について整理する必要がある。

      表3 予測における不確実性要素

区 分

不確実性を与える要因

想定できない不確実性     想定される

    事後調査項目

 予測の前提条件

人為的要因

社会的要因

自然的要因

対象事業計画地周辺の特定事業からの寄与によるバックグラウンド濃度の変化の程度

対象事業計画地の社会経済の伸びに影響される社会活動に伴う条件の変化(将来自動車台数・構成比等)の程度

研究等により解明されていない自然現象等によるバックグラウンド濃度の変化の程度 

対象事業の影響を受けない時点における対象事業計画地周辺の汚染物質濃度(将来BG)

将来自動車台数及び大型車混入率
    予測手法
(予測モデル式)

予測式の適用限界

適用範囲外において予測された大気中の汚染物質濃度

対象事業からの寄与を含めた対象事業計画地周辺の汚染物質濃度

パラメータ・原単
位のもつ代表性

地域等の代表性を逸脱して選定した気象条件

対象事業からの寄与を含めた対象事業計画地周辺の汚染物質濃度
●知見が不十分な環境保全措置
   知見が不十分な環境保全措置とは、新技術等により、保全措置としての効果が十分に明確にされていない場合や気象条件、規格の違いによる効果が正確に把握できていない場合等が考えられる。大気・悪臭分野における影響の程度は、大気中の汚染物質の濃度で把握することが可能とされていることから、予測においては濃度を定量的に求めることとなる。従って、仮に知見が不十分な保全措置を実施する場合においても、安易に定性的な予測手法を選択せず、これらの不確実性を払拭するために類似調査を実施し、対象事業との類似性を示す等して、その効果を客観的に明確にする方法を検討をする努力が必要である。
   知見が不十分であることを払拭するための配慮に努めた上で、なお、残る予測の不確実性については、知見の不十分さが予測結果に及ぼす影響の程度及び環境影響の重大性等を考慮して、事後調査を検討する。
このとき、環境保全措置の効果を想定する際にどの点において知見が不十分とされているか整理し、具体的に調査すべき情報を選定する必要がある。

●環境への影響の重大性



   環境への影響の重大性が考えられる場合とは、以下のような場合である。
  ・ 対象事業による大気環境への影響に対して住民や国及び地方公共団体等からの意見等が提出された場合
  ・ 大気環境の影響を受け易い地域や対象が存在する場合
  ・ 環境保全関連法令による指定地域や対象が存在する場合
  ・ 既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在する場合

   ただし、事後調査の項目を選定するにあたっては、これら環境への影響の重大性の中で事業特性及び地域特性を踏まえて最も留意すべき点に着目する必要がある。
   なお、予測の不確実性及び環境保全措置の知見の不十分さがあっても、上記の環境への影響の重大性が想定されない場合は、必ずしも事後調査を実施する必要はない
   予測の不確実性及び環境保全の知見の不十分さの程度について、一義的に判断することは困難である。したがって、一般的には不確実性要素または、知見の不十分さに起因する予測結果への影響の程度を勘案し、判断することとなる。
   例1~3に予測の不確実性及び環境保全措置の知見の不十分さが予測結果に及ぼす程度が大きく、かつ、場合によっては環境への影響の重大性が大きいと判断されるために事後調査の実施の検討が必要と考えられるケースを示す。
例1 予測条件の不確実性が予測結果に大きく影響し、かつ、環境への影響が重大となる可能性を含む場合
例2 予測式の不確実性が予測結果に大きく影響し、かつ、環境への影響が重大となる可能性を含む場合
例3 知見の不十分な環境保全措置の効果が予測結果に大きく影響し、かつ、環境への影響が重大となる可能性を含む場合

   なお、大規模な工事等、長期にわたり影響を与える事業の場合には、事業の進捗段階に応じて得られる事後調査の結果を用いて影響の再予測を行い、予測・評価結果が妥当な内容であったか、項目選定から予測・評価に至るまでの過程が適切であったかどうか、さらに講じた環境保全措置が適切かつ十分であったかどうかについて検証を行うことも必要となる。

【例1 事後調査の考え方[1]】
予測条件の不確実性(国等の環境保全施策を考慮)が予測結果に大きく影響し、かつ、環境への影響が重大となる可能性を含む場合
予測の実施:
事業の実施に伴う大気中の汚染物質の濃度を予測するに当たり、将来のバックグラウンド濃度として、2つの条件下で予測を実施した。 
  条件A:過去数年間の調査結果より横ばいであることから現状推移で設定した場合 
  条件B:国等の保全施策が本格的に導入される場合

評価~事後調査実施の検討:
 国等の環境保全施策を重視(条件B)すると目標値を満足するが、現状推移のまま(条件A)であると目標値を超過する。予測時において2つの条件の確実性に優劣をつけることが困難な場合には、バックグラウンド濃度の設定が予測結果に大きな影響を及ぼし、不確実性を持つ事項として考えられる。目標値との比較から環境への影響の重大性に配慮し、バックグラウンドについて事後調査の検討をする必要がある。

 

【例2 事後調査の考え方[2]】
予測式の不確実性が予測結果に大きく影響し、かつ、環境への影響が重大となる可能性を含む場合
予測の実施:
   事業の実施に伴い影響が考えられる汚染物質であるが、事業計画地の地形及び気象状況に適合した挙動等については十分な予測手法が発表されていないため、複数の手法(手法C、手法D)による予測を実施した。

評価~事後調査実施の検討:
   予測手法Cにおいては目標値を超過しているが、予測手法Dにおいては目標値を超過していない。予測時において2つの手法の熟度に優劣をつけることが困難な場合には、予測式の選定が予測結果に大きな影響を及ぼし、不確実性を持つ事項として考えられる。目標値との比較から環境への影響の重大性に配慮し、事業実施による大気への影響について事後調査の検討をする必要がある。


【例3 事後調査の考え方[3]】
知見の不十分な環境保全措置の効果が予測結果に大きく影響し、かつ、環境への影響が重大となる可能性を含む場合
予測の実施:
   事業の実施に伴い影響が考えられる汚染物質に対して環境保全措置を検討するに当たり、対象事業の規模、内容に合致した環境保全措置の実例がないため、ある程度の範囲をもたせてその効果を考慮した。

評価~事後調査実施の検討:
  環境保全措置の効果により、回避・低減の程度及び目標値等との整合性の判断が異なる。予測時において環境保全措置の知見の十分性に優劣をつけることが困難な場合には、環境保全措置の効果が予測結果に大きな影響を及ぼし、不確実性を持つ事項として考えられる。目標値との比較から環境への影響の重大性に配慮し、事後調査の検討をする必要がある。

 (2)事後調査の手法

   事後調査を実施するにあたっては、対象事業による大気汚染物質や悪臭物質の発生状況を把握することはもちろんであるが、対象事業周辺の汚染物質の発生源の状況、周辺道路の整備状況及び社会的状況の変化についても予測時との整合が図られているか確認する必要がある。
   事後調査の結果は、実際の事業の実施に伴う環境への影響を把握するとともに環境影響評価で実施した調査・予測と比較することを前提としているため、事後調査の手法は現況調査の手法と同一とすることが望ましい。また、環境要素としての大気汚染物質濃度等の測定に関しては、環境基準等に方法が定められているものなど、公定法が定められている場合が多いので、基本的にそれに準じるものとする。
   知見が不十分な環境保全措置の効果を把握するためには、保全措置がある場合とない場合で調査を実施し、その効果を適切に把握する必要がある。
   また、現在実施段階の事業の中には環境監視を目的とし、事業者により自主的にモニタリングが実施され、地域住民に対して公表がなされているケースも多く、対象事業の実施による環境への影響の程度の把握及び環境保全措置の効果の程度を把握するための調査手法として、これらモニタリングについても積極的に活用していく必要がある。
   同様に、公共機関や自治体の環境調査結果などの事業者以外が実施している調査結果及び環境調査結果(大気観測データ、苦情調査、交通センサス等)の利用が可能なものについては、有効に活用することが望ましい。

 (3)環境保全措置の追加検討

   事後調査の結果、予測結果を上回る著しい環境影響が確認された場合には、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討を実施することとなる。このことは環境影響評価書の中で環境影響が著しいことが明らかとなった場合等の対応の方針、事後調査の結果を公表する旨等を明らかにしていることから、事後調査結果から当該事業における追加的な環境保全措置の検討をすることは、事後調査の中で最も重要な事項である。
   なお、予測結果との相違が生じた場合に、その原因を究明することにより今後の環境保全措置の知見の向上に役立つものと考える。

 (4)公 表

   評価書で公表した事後調査実施内容に基づき実施した工事中及び供用時の事後調査結果については、調査実施後できる限り早い段階で、適切な場所において公表する必要がある。このとき前述する追加的な環境保全措置の検討を実施した場合には併せて公表することが望ましい。また、公表の時期についても可能な限り準備書・評価書において明らかにする必要がある。
   事後調査を実施するにあたっては、1)事後調査を行うこととした理由、2)事後調査の項目及び手法、3)環境影響が著しいことが明らかとなった場合の対応の方針及び4) 公表の時期について整理し、可能な限り準備書・評価書において明らかにする必要がある。

   事後調査を実施する場合を想定し、事後調査の必要性、項目及び手法の選定等を取りまとめた例をケーススタディ5に示す。

 (5)事後調査結果の活用

   環境影響評価における事後調査結果は、適切な調査方法の確立、予測技術の向上及び環境保全措置の効果を客観的かつ定量的に示す指標として利用が可能であり、将来の環境影響評価技術の向上に大きく貢献する。従って、これらを広く公開し、また、積極的に整理・解析され、活用されることが重要である。そのためには、一事業者の努力のみでは負担が大きく、情報の収集には限界があるため、国や自治体等が積極的に取り組んでいくことが望ましい。

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