環境影響評価制度総合研究会技術専門部会報告書(平成8年6月)
環境影響評価の技術手法の現状及び課題について

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6.まとめ


 以上のレビューに基づき、今後の我が国の環境影響評価を検討する上で、特に重要と考えられるものについてまとめると以下のとおりである。


 6.1 対象とする要素/影響の範囲及び選択方法


 閣議決定要綱では、基本的事項により対象を典型7公害(大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、悪臭、地盤沈下、土壌汚染)及び自然環境保全に係る5要素(動物、植物、地形・地質、景観、野外レクリエーション地)に限っている。また、事業別に示された技術指針では、事業特性に応じ、公害については調査等の対象が具体的に列挙されて、予測評価を行う対象の選定の考え方が示されており、自然環境保全に係る要素については、学術上の重要性、既存法令等の指定状況等をもとに自然環境保全上の重要な保全対象を見いだすこととなっている。

 一方、地方公共団体等においては、日照、低周波空気振動、水象、気象、史跡・文化財、土壌の生産性、廃棄物、国土保全等への影響など幅広い要素も対象としている制度もあり、事業の内容や地域の特性に応じた選択がなされ、予測評価が行われている実績がある。さらに、景観についても、自然景観に限らず歴史的・文化的景観や地域の日常的景観について予測評価を行っている場合がある。


 国内の制度における対象の要素の列挙方法としては、公害等に係る要素及び自然環境の保全に係る要素を並列に列挙する「公害・自然区分型」、影響を受ける環境圏である「気圏、地圏、水圏及び生物圏」という区分の下に環境影響現象を列挙する「環境圏区分型」がある。「公害・自然区分型」は、公害対策基本法及び自然環境保全法の体系を念頭におき、当時の法令等で定義の定まったもの、あるいは、それを中心として調査等の対象となる環境影響を列挙しているものと考えられる。「環境圏区分型」は、公害の定義にとどまらない大気、水等の質・量の変化をとらえ、相互に関連ある影響を考慮しようとする枠組と考えられる。


 調査対象国等では、制度上では対象とする環境要素の規定を包括的な規定や、選定の考え方や例示を示すことにとどめ、重要な要素を事業毎に見いだすプロセス(スコーピング)が広く取り入れられている。対象とする環境影響は、人間、動物、植物、大気、水、気象及び景観、並びにこれらの相互作用といったものの他に、エネルギーや資源の消費に関する影響、文化的、歴史的、社会的、経済的影響も含めて対象とするとしている。このほか、累積的影響(同一の事業又は異なる事業の影響が時間的又は空間的に累積することによって生じる影響)については、調査対象国等において対象とされ、国際的にも課題と考えられている。また、環境リスクや地球環境に関する影響についても、いくつかの制度や事例が見られた。スコーピングには、早い段階で関係機関、専門家、住民等から幅広い意見を求めること、多様な影響/要素や相互関連等を考慮するために必要な情報等がガイドライン等としてまとめられ利用されていること等の特徴がある。重要な影響の絞り込みが十分なされず網羅的でわかりにくい評価書とならないよう、論点を絞り、効率的でメリハリの効いた予測評価を行うということもスコーピングで期待されている。

 一方で、スコーピングにおいて際限のない調査等の要求が出ることにより、かえって非効率的なものになるおそれもあるが、そうならないような方法としては、専門家による検討を重視すること、オランダの環境影響評価委員会のような第3者機関で適切な絞り込みを行うこと、既存事例やガイドライン等の情報を提供することなどがあげられる。


 近年は、環境基本法、環境基本計画等にもみられるように、大気、水、土壌等の自然的構成要素が良好な状態に保たれること、生物の多様性の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との豊かな触れ合いの確保を旨として、環境影響評価を行うことが求められている。また、動物と植物、生物とその生育・生息環境である大気、水、土壌等の自然的構成要素との関係、景観や野外レクリエーション地等の自然との触れ合いの場と生物や大気、水等の自然的構成要素との関係、水質、水量、水生生物、水辺地等を総合的にとらえ水環境として一体的に評価することなど、要素間の相互関係を考慮に入れることも求められている。さらに、健全な水循環機能の維持・回復も求められている。このようなニーズに対応する方法としては、地方公共団体の制度に見られるような、日照、土壌、生態系、水象等を含む幅広い対象を規定する方法、環境圏毎に対象を設定する方法、調査対象国等で見られるような、スコーピング手続きにより重要な影響を絞り込む方法、生物種等のみならず自然環境の場や機能に着目して絞り込む方法等がある。

 なお、自然との触れ合いに資する事業においても環境への影響が考えられる場合は、適切に環境への影響評価を行うことが重要である。


 6.2 技術手法等の発展の反映及び開発


 環境保全上のニーズを背景に、基礎的な現象解明の進展、事例の蓄積、計算機科学の発達、リモートセンシング等の測定技術の向上等に支えられ、特殊な予測条件における騒音や大気汚染の予測、生態系を考慮した水質予測技術、合成騒音の予測評価技術など多くの領域で技術手法が近年発展してきている。また、問題の広がりや個別事業及び地域の特性に応じて、個々の環境影響評価においても手法の開発・適用が行われている。

 このような技術手法の発展の成果を環境影響評価においても活用し、よりよい環境配慮が行えるよう、客観的・合理的でかつ効率的な調査予測等を行うため、技術手法に関する情報を収集し、その評価及び検証を継続的に実施し、結果を広く提供して、適切なものについては普及に努めることが重要である。このような例としては、アメリカ環境保護庁が、定期的に多くの大気汚染の予測モデルについて検証を行い、推奨モデルをその利用に関する情報とともに提供している事例がある。


 また、農薬等微量化学物質による、地下水、公共用水域、土壌の汚染など新たな環境汚染については、既に基準等の設定、現況の監視など行政的対応が開始され、調査手法等も整備されているものがある。また、水産用水基準、レッドデータブック等の環境の評価に関する情報や種の保存法等に基づく環境保全上の地域指定も進展が見られている。さらに、悪臭についても官能試験を活用した測定や規制が開始されている。このような近年の環境保全行政の取り組みの拡充については、既に実際の環境影響評価において対応がなされている事例もあるものの、大部分の技術指針の策定時以降の進展であることから、今後、技術指針等での扱いを検討する必要がある。

 また、これらのことから生息・生育環境変化に対する動植物の分布や行動への影響予測技術や、より適用条件の広い数理モデルなど、調査予測評価等の技術手法について今後とも研究開発を行うことが重要である。


6.3 自然環境の影響評価の充実


 これまでの技術指針では、生物の予測評価では、学術上重要な動植物の種及びその生息・生育環境の保全を重視してきており、景観及び野外レクリエーション地の予測評価では、既存法令等で保全されているものを重視してきている。

 一方、自然環境の保全については、生物の多様性(生態系の多様性、種間の多様性及び種内の多様性)の確保、多様な自然環境の体系的保全、自然との触れ合いの場としての保全の視点が必要とされるようになり、近年、大きく要請が変化している。このような新しい視点を取り込む場合には、生物の生息地や自然との触れ合いの場等の自然環境を一体的にとらえること、特定の保全対象のみに着目するのではなくより広域的見地から体系的にとらえること、自然環境と人との関わりを視野に入れることなどが必要となる。

 このようなとらえかたとしては、地域の自然環境及びその利用状況等の特性を踏まえ、学術上の重要性や希少性のみならず、親近性、地域代表性、生態学的重要性等の様々な価値軸により、保全すべき自然環境を抽出し、これを一体の場としてとらえて予測評価や環境配慮を行う方法も有効である。

 こうした抽出の対象となる自然環境としては、例えば、干潟、サンゴ礁、高山帯等の多様な生態系の構成要素として重要な場所、自然度は高くなく学術上貴重な動植物もいないが、自然の触れ合いの場として重要な都市近郊の雑木林・緑地、地域の生態系に多様性を与えている湧水、池沼、河川等の要素、生物の移動や連続性に重要な緑の回廊、干潟、沼等が挙げられる。

 しかし、これらの自然環境の具体的な抽出方法及び影響の評価方法についての情報は現在必ずしも十分ではない。例えば、諸外国で行われているような、生態学的知見に基づく専門的判断とともに、地域社会における利用や保全の状況について調査を行うことにより、個々の事例毎に判断を形成する方法、これにスコーピング手続きを組み合わせるという方法、自然環境の分布、特性、利用状況等の基礎的情報の整備の推進等が参考となる。さらに、アメリカで行われている、自然環境特性を代表する種やレクリエーション等の機能に着目して定量的評価を行う手法も参考となる。今後、基礎的情報の整備とともに、具体的手法の検討を進めることが必要となる。

 また、このような新しい視点への対応としては、

<1> 自然を大気、水、土壌、生物、地形といった自然の構成要素が微妙な均衡を保つ生態系と捉え、これらの要素の改変が生態系に与える影響について考慮すること、

<2> 自然環境保全上の重要な環境配慮である改変量の最少化の視点を踏まえ、緑の量や改変面積等の量的側面について考慮すること、

<3> 従来の直接的改変の有無・程度のみならず、広域的観点に基づいた保全面積及び連続性の確保、生息種の撹乱、自然との触れ合い等の機能の確保等について考慮すること、

が必要となる。


 6.4 環境保全対策の検討


 環境保全の上からは、環境への負荷を低減すること、影響を未然に防止することが重要である。アメリカ国家環境政策法の定義に従えば、環境保全対策は、回避、最少化、修正、軽減及び代償に分類されるが(資料-10:アメリカ国家環境政策法における環境保全措置の分類)、前述の観点からは、回避や最少化が最も優先すべき対策であり、代償は他の対策がとれない場合の措置として考えるべきものである。

 このうち、回避、最少化は、事業計画の早期の段階において、地域の環境特性の把握等を行い立地の選定や計画の内容について検討しなければ、実施が困難な対策と考えられる。とりわけ自然環境については、影響の修正や代償が困難なことから、このような早期段階で調査を行い、保全すべき自然環境の改変の回避、改変量の最少化の検討を行うことが特に重要である。なお、我が国の環境影響評価書は、調査対象国等で行われているような計画の検討経緯の記述が見られないこと、調査等の区域が最終的な計画地周辺に限られていることなどから、回避や最少化などの早期段階の環境配慮がなされたかどうかが、評価書からではわかりにくいものとなっている。


 代償については、環境基本計画にもみられるとおり、社会資本整備にあたっての緑地、親水空間の整備、干潟・藻場等の環境保全能力の維持、沿岸域埋立における必要に応じた干潟、海浜の整備、快適な環境の確保等、事業における自然的環境の整備、または、環境の回復が環境保全上の課題となっている。これに対応し事業の環境影響評価においてこれらの代償的措置を適切に評価することが求められている。

 代償的措置を適切に評価するためには、他の優先すべき対策が困難であることを明らかにするとともに、保全または回復すべき価値に照らして失われる環境と創造される環境を総合的に比較し、評価することが求められる。これについては、アメリカで開発されているような生物の生産性、多様性の維持、レクリエーション機能等の様々な観点から環境の状態を指標化して比較することなどの方法がある。また、実効性の確認・担保方策が評価の時点で重要であるが、これについては、既存事例等による効果の確認、事後調査による確認、到達目標の設定や維持管理計画の策定などの方法がある。また、代償の実効性を確保するためモニタリングや代償効果の確認を事業の許可要件とすることも行われている。


 6.5 地方公共団体、民間等の情報


 適切な環境影響評価の実施に地域の環境情報は重要な役割を果たしている。特に地方公共団体は、公害等のモニタリング、各種調査等により地域の環境の現況に関する情報、地域の計画・目標等の地域の環境保全施策に関する情報、地域全体の開発事業等がもたらす累積的影響に関する情報などを豊富に有しており、また、開発等における環境配慮を事業者に促すための環境情報書等を整備している地方公共団体もある。

 また、これに加え、地域の教育・研究者、民間団体、農林水産従事者等が多くの有益な情報を保有しており、調査等の効果的実施及び早期の環境配慮に活用が可能である。とりわけ自然環境については、地方公共団体や民間団体等が作成したレッドデータブックや調査研究等、ナショナルトラストや自然観察等の環境保全活動などに関わる情報も近年地域概況調査や現況調査において重視されてきている。


 6.6 評価の考え方及び手法


 我が国においては、環境の状態を予測し、予め設定した環境保全目標に照らして事業者の見解を示すことによって評価が行われており、見解には影響の大きさについての見解、これに対応して環境保全対策や事後調査等の実施についての見解が含まれている。このうち、影響の大きさについては、環境保全目標と予測結果を比較考慮することにより、著しい環境影響の有無を判断するものとなっているのが一般的である。

 我が国において一般的に行われている環境基準や行政上の指針値を環境保全目標とすることは、環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。特に、大気汚染及び水質汚濁については、他の事業による累積的影響をできる限り考慮に入れた予測評価を行い、汚染の重合がもたらす影響の防止に貢献してきた。


 調査対象国等の制度では、環境保全目標の設定を求めてはいない。予測される影響が著しいものであるかどうかの判断は、影響の大きさ、可能性、地域の特性等により評価すること、様々な環境保全上の要請を列挙しこれを考慮すること、既存の政策、計画、目標、基準等にそうことなどの考え方が挙げられている。


 我が国における、環境保全目標を一律に環境基準とすることについては、例えば現況で環境基準より清浄な地域において、そこまでは許容される汚染レベルととられることを懸念する指摘もある。一律な環境保全目標を設定しない考え方としては、実行可能な範囲内で環境影響を最少化するものか否かという視点により、代替案の比較検討を行う方法と、実施可能な最良の技術を用いているかどうかを確認する方法等により最善の努力がなされているかどうかを判断する方法がある。


 大気、水、土壌等を良好な状態に保つこと、多様な自然環境の体系的保全、良好な景観や自然との触れ合いの場を確保することについては、環境保全目標に用いることのできるような普遍的な判断条件を設けがたいものも多い。このようなものについての評価方法としては、地方公共団体等による地域の特性に応じた目標や計画に照らして評価する方法、または、関係機関、住民等の関与により幅広い意見の基に判断する方法、調査対象国等でよくみられる、実現可能な代替案の比較検討により相対的評価を行う方法などがあげられる。


 地球環境については、環境の状態の変化を予測評価することは困難であるものの、資源やエネルギー消費量の低減、再生資源の利用、熱帯材利用の削減、廃棄物の削減、酸性降下物原因物質等の排出抑制等、算定手法等の明確な指標により地球環境への負荷の予測評価を行い環境配慮を行っている事例がある。これらの事例では、より環境負荷の少なくなるよう環境配慮を行う、または、代替案の比較検討を通して、より望ましい意志決定を行うという観点から、地球環境についての評価が行われている。


 地球環境と同様に、事業等に伴って発生する廃棄物、事業等に伴うリスクなど、環境の状態の予測が困難なものも多い。これらについても、従来から地盤沈下等でも行われているのと同様に、廃棄物の発生量、リスクの可能性等、環境への負荷の予測評価や環境保全対策の検討により対応している事例がある。なお、廃棄物について評価を行う場合は、発生抑制、再使用、再利用、適正処分という対策の優先度を反映できるような指標を用いるのが望ましい。


 6.7 予測の不確実性の扱い


 予測結果には、知見や情報等の限界、手法そのものに起因する不確実性、環境の条件の変化や社会条件の変化等事業者の管理や予測が困難な外部要因があることなどから多かれ少なかれ不確実性が伴うものである。調査対象国等の制度では、影響の重大性の判断において不確実性を考慮することを求めている場合もある。一方、我が国の制度における評価においては、基準値等との比較検討が行われているが、その際、不確実性の内容や程度が明らかにされる例は少ないと思われる。

 予測結果の正しい理解、影響の重大性や事後調査の必要性の判断等、意志決定における不確実性を適切に扱うために、不確実性の程度や内容を評価することが重要であるが、その方法としては、諸外国でみられるような、情報や技術的困難点の環境影響評価書への記載、不確実性の要因の分析や感度解析の実施等の方法がある。


 6.8 事後調査について


 予測の不確実性に鑑み、影響の重大性や不確実性の程度に応じ、予期し得なかった影響を検出し、必要に応じて対策を行う事後調査が、内外で広く行われている。地方公共団体や調査対象国等の制度においてはこれを制度的に位置づけているところもある。

 事後調査が環境影響評価において一体的に計画されれば、事後調査の実施を考慮した調査、予測、対策の内容の決定が可能(調査・予測地点や調査予測手法等)となる。また、事後調査の結果を幅広く組織的に収集し、解析し、提供することにより、事業による影響に関する知見の充実、環境保全対策の効果の把握、予測手法の検証・精度の向上を行うことができ、社会全体の環境配慮能力の向上に資することが可能であるが、現在このような活動は十分でない。特に、生態系への影響、代償的措置の効果等知見が不足している領域についてこのような活動により、知見の集積が期待できる。


 6.9 環境影響評価を支える基盤


  6.9.1 情報面の支援


 調査等を適切かつ効率的に行うためには既存の情報を最大限活用することが重要である。また、環境の現況、予測評価に必要な情報等、基礎的かつ共通的に必要となる情報については公的な整備、提供が求められている。特に、生物多様性等の新たな観点に関しては、アメリカにおいても見られるように、生物の分布や生態等に関する情報を官民含めて広範に収集、整備、提供することが重要である。また、類似事例による予測評価も多く行われているところであり、事例情報の提供が重要である。さらに、民間にも重要な情報が多く、早期段階から活用を図ることが重要であるが、情報の所在に係る情報が必ずしも整備されておらず、問題が生じることもある。また、同様の調査等が重複して行われるため、非効率的であるとの指摘もある。


 これに対応し、事業者、関連機関、国民等の情報へのアクセス性の向上を図るため、関連する情報の所在についての情報源情報の整備、環境影響評価書及びその関連資料を含めた環境影響評価事例に関する情報、事後調査結果、生物の分布や生態に関する情報、予測に必要な原単位や排出量等の情報をはじめとした情報を国が中心となって組織的に収集、整備及び提供することが必要である。この場合、通信ネットワークやGIS(地理情報システム)の活用等を図ることが効率的である。


 特に、国が保有している情報のうち、環境影響評価に有益なものがあるにもかかわらず活用できない場合があるとの指摘もあり、これらについて、可能なものは公開を進めていくことが重要である。

 さらに環境影響評価においては、現地調査や予測のために実施した調査研究等により詳細かつ有益な情報が取得され、また、予測技術の開発等も行われているが、評価書等には記載されていない情報も多い。このような事業者等が保有する情報にも収集・整備・提供の対象として重要なものがある。

 そしてまた、環境影響評価の技術や経験に関し、国際的な情報交換により各国の対応能力を高める活動もあり、これへの参加も重要である。


 また、化学物質の影響等、新しい環境問題とその対策に関する正しい情報を適切に提供することも、環境影響評価の内容の充実に重要であるばかりでなく、環境影響評価に関わる住民の不安の解消にとっても重要である。

 さらには、環境影響評価の適切な実施や事業においての環境配慮については、環境保全に関する適切な理解と知識が重要であり、環境教育及び普及啓発も重要な事項である。


 海外への開発援助において環境影響評価を行わせる場合、外国の手法を用いることとしている場合が多く、日本で開発された技術が用いられることが少ない。これには、外国の技術手法の方が一般的に他国が利用できるような形で提供されているという事情もあり、我が国からも技術や知見を、諸外国へ提供していくことが重要である。


 なお、情報については、その質を考慮する必要がある。質を確保する方法の一つとしては、情報の形式やその収集整備の手法の標準化等の方法がある。


 また、情報の整備に関連し、累積的影響の把握も含め、広域的な環境質の変化に関する情報も環境影響評価にとって重要なものであるため、中長期的な広域的な環境モニタリングも重要である。


  6.9.2 環境影響評価の成果等や経験の社会的還元


 環境影響評価は、新たな環境情報が得られるとともに、新たな問題を発見して対処方策を見いだしている場合も多い。例えば、環境影響評価時の調査及び事後調査、対策の技術や事例等の情報の収集、整備、提供により、環境影響評価で得た知見や経験を社会に還元し、社会の環境保全能力の向上に資することも可能である。

 また、環境影響評価で得た知見や経験を社会に還元し、公衆に周知させることは、環境問題に対する知識の普及・啓発活動の面から考えても重要である。


  6.9.3 人材の育成等


 適切な調査等の遂行、とりわけ生物関係の調査の精度の確保は、これらに従事する者の能力に負うところが大きい。環境影響評価に係わるような人材の能力の確保の方策としては研修等が見られる。このほか、学会の形成、博物館等の拠点の整備なども人材の育成に資する面がある。また、個々の要素の調査能力のみならず、調査結果等を総合的に判断し、対応を考えることができる人材の育成が重要である。また、事業の計画、調査予測等の実施及び事業の実施のそれぞれの段階で、このような人材を活用するような仕組みが重要であるとの指摘がある。


  6.9.4 信頼性確保方策


 調査等が科学的・合理的に行われることはもちろんのこと、これらが国民等から信頼されることも重要である。信頼性の向上に資する制度としては、諸外国の制度で見られた、環境影響評価の調査等に従事する者に関する資格制度、調査等に従事した者の名前等を評価書に記載する規定、関連する情報へのアクセスを提供することなどがあげられる。


 6.10 継続的レビューの必要性


 環境影響評価の技術手法は、環境保全の対策の技術も含め、新しいニーズの発生や科学技術の進歩に伴って常に進展しており、このため不断にレビュー作業を行うとともに、技術の向上を図って、環境影響評価に技術手法や知見の進展を迅速に取り入れることが必要である。

 特に、今回のレビューで概要が明らかにされた、最新のあるいは調査研究中の技術手法や、現在国際的な場で検討が進められている技術手法等については、その精度や適用可能性等について、別途さらにレビューを行うことにより、評価していくことが必要である。

 また、環境影響評価実例の事後調査の収集及び解析により、技術手法の精度等の検証、とりわけ生態系に及ぼす影響など、事業に起因する様々な影響の種類及び程度の把握、実施された対策の効果の評価なども合わせて行うことが重要である。

 また、今後のレビューを進めるに当たっては、実際の事後調査結果や事業者の持つ技術情報等に基づきつつ、各要素毎により専門的なレビューを行うことが重要である。

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