環境の状況に関する情報については、公害の常時監視や自然環境保全基礎調査等により、我が国においては国際的に見ても、きめの細かい情報の収集が行われており、行政で一定の情報の整備、提供が行われている。これらの情報は、事業地及びその周辺地域の環境特性の把握に活用され、事業計画の検討等の早期の環境配慮、適切な調査計画の立案、予測評価対象の絞り込みなど、適切な環境配慮及び環境影響評価の効率的実施に重要なものとなっている。
一方、公害の監視データは、これまで汚染の著しかった地域や項目に片寄っていること、また、自然環境保全基礎調査の結果は全国をカバーしているものの、特定地域での詳細な検討に用いるには縮尺が適当でなく、更新頻度が低いこともあり、環境影響評価においては別に詳細な調査が必要になることが多い。特に生物に係る情報については、我が国の自然環境は多様な生態系から構成されていることもあって、貴重種等の有無を調査するためには、事業地毎に詳細な調査が必要になるという事情がある。
また、自然環境の情報については、地域の研究者、農林水産業従事者、民間団体が保有しているものに重要なものも多く、調査の段階でヒアリング等が行われることが多い。これらの所在に関する情報が整理されておらずアクセスが困難な状態にある。予測や環境保全対策の技術手法に係る一般的な情報については、技術指針やマニュアル等が所管省庁や地方公共団体から発行されているが、個別具体的な技術手法やそれに必要なデータについては、必ずしも十分整理がなされていない。このため、有用な情報が使用されず問題が生じることもある。これに関し、技術マニュアル等には参考となる情報の所在を記載するなどの方法も必要と考えられる。
国内では、知事の責務として当該公共団体に係る環境影響評価事例や技術情報をセンターを設けて提供している地方公共団体がある。また、諸外国では、情報の収集、整備、提供に関し、以下のような活動がある。
<1> 環境影響評価に関する情報や技術を提供する環境影響評価センターの活動(欧州では17ヶ国)
<2> 環境影響評価に関わって作成された全ての情報(環境影響評価書、その資料、公衆関与の記録等)へのアクセスを保証するための公開登録台帳制度(カナダ)
<3> 環境影響評価事例やその経験、技術情報等を提供するための通信ネットワークの活用(カナダ、オーストラリア、アメリカ)
<4> 評価書等に詳細なテクニカルドキュメントを添付することによる技術情報の提供
<5> 生態系に関する情報を官民問わず標準的様式で収集、整備し、共有するネットワーク(CDCネットワーク)をはじめとした生態系関連の様々な情報交換・情報整備プログラム
環境の現況を把握する技術手法については、国や教育研究機関が開発したり、あるいは、既に一般に用いられているものが用いられている。
事業の影響の予測については、一般的な条件における大気の拡散予測、直線道路の道路交通騒音予測など頻繁に利用されるものについては国の機関や学会等が手法を開発し提供している。
実際の環境影響評価では、複雑条件下での大気拡散、特殊構造部の道路騒音、生息環境の改変が特定の生物種に及ぼす影響、従来知られていなかった特定の生物種の生活史の解明、人工海浜やビオトープ等の創出方法及びその効果の確認など、特定の場に固有な問題の解決を迫られることが多い。このようなとき、特に規模が大きい事業などの場合では、事業者がコンサルタントに依頼して技術手法の研究や開発を行って対処している場合も多い。しかし、このような開発で得られた技術的知見は、通常は一般に公表されることは少ない。このため、類似の情報が必要な場合でも、利用が困難なことが多い。
また、例えば外国等で使われている大気汚染濃度予測手法等、国内にはあまり紹介されていないものもある。
このようなことから、今後、国内外で開発された手法を幅広くレビューして、適切な手法を使うようにすべきである。
海外では、IAIA(国際影響評価学会)のような国際的活動、EIAセンター等の学際的活動や省際的研究によって環境影響評価事例に係る技術経験の交換や研究が行われている。また、アメリカでは、環境保護庁が大気汚染予測モデルの検証・評価を行い、推奨モデルの技術情報を提供している。
調査、予測、評価等を的確に行うためには、これに従事する人材が特に重要となっている場合がある。動植物の現況の調査については、種の同定等調査の効率や精度は調査員の能力に負うところが大きい。また、生物関係及び地形・地質の調査については、フィールド調査能力を養成する学校教育が十分でないこと、生物相が地域によって大きく異なることなどを背景に、職業として専門的に調査する人材が不足しており、教育、研究機関やNGOの人材に依頼して調査等を行う例が多い。この場合、調査が可能な者の所在やその能力の把握が課題となっている。
また、環境影響評価においては、個々の環境要素に関する調査に深い技能を持つスペシャリストのみならず、調査結果等を総合的に判断し対応を考えることができる、環境に関して広い知識を持つジェネラリストの養成が重要である。
環境影響評価に係わる人材の確保のための方策としては、研修等によるものが見られる。我が国では、環境庁が、関係省庁、公共団体及び民間の環境影響評価の実務者のための研修を実
施している。このほか、コンサルタント業等においてはマンツーマンによる実務を通しての養成や個人の自己研鑽が行われている。諸外国においても政府機関や大学等が設置している環境影響評価センター等の機関が研修を実施している。
調査結果等が一般に信頼されるための仕組みとしては、環境影響評価の調査等を行う能力を認定し資格を与える制度(中国、チェコ等)、環境影響評価書等への調査等に従事した個人あるいはその責任者をその経歴等とともに記載する例(アメリカ等)が諸外国で見られる。また、第3者機関による環境影響評価書等の審査(オランダ等)は、完全性、及び作成における科学的知見が十分に盛り込まれているかどうかについての信頼性の確保に貢献している。
国内においては、一部の地方公共団体制度で評価書等への調査等の責任者の記名を求めている制度(東京都)、調査等の実施者を個別に記載する事例がある。
また、環境影響評価の調査等に関連する資格としては、技術士、環境計量士等の個人の技術的な能力を認定する資格制度があり、調査等を実施するコンサルタント業においてこれを取得することを奨励する例が多くみられる。
なお、評価の困難な生物等のフィールド調査能力については、個人や組織が従事した調査及びその内容等の実績により、その信頼性の判断が可能となる。