我が国の制度では、環境影響評価の対象事業は事業種類及び規模により定められているが、調査対象国等の制度では、ある事業が環境影響評価を必要とするかどうかを決定する方法として様々な方法がとられている。これには、環境影響評価を必要とする、あるいは、不要とする事業及び規模を予め定めたリストに照らして決定する方法と、個別事業毎にその影響を考慮して判断する方法とがある。また、双方の方法を組み合わせる場合もある。
個別に判断する方法は、事業の内容、地域の特性等に関する既存の情報や関係機関等への意見照会により、環境影響の程度を簡易に推定して、重要な影響が考えられるものにつき、より詳細な環境影響評価を行うというものである。この方法は、あらゆるケースで必要性を単純に見極めることのできる境界線を作るのは不可能であること、一つ一つの開発は基準以下であるものの、累加すると基準を超えてしまうという問題に対処できないとの認識に基づいている。
例えば、環境保全に係る指定等を受けた地域、固有の動植物種が生息する地域、湿地、サンゴ礁、マングローブ帯、急傾斜地域、水源地域等、環境上脆弱な地域において事業を行う場合は環境影響評価を行うとしている場合がある。
調査対象国等では、環境影響評価の調査等の効率的な実施のため、規模が小さく、定型的な事業で、環境影響や対策が一般的に想定できるようなものについては、予め定型的な環境影響評価書を用意し、これを個別の環境影響評価に活用する手続きを近年取り入れた制度もある。
カナダのクラススクリーニング手続きでは、このような定型的環境影響評価書をクラススクリーニング報告書として予め認定し、これを個々の環境影響評価に活用することにより簡略化が図られている。カナダのオンタリオ州のクラスEA手続きでは、事業者が定型的な影響評価及び環境配慮とともに、公衆関与や関係機関への意見照会に関する独自の手続きスケジュールを定めておき、これらを一括して予め認証することにより事業者に手続き管理も含めて任せることが行われている。
また、アメリカのように既存の環境影響評価書の内容が活用できる場合は、その活用(ティアリング)を奨励している制度もある。
閣議決定要綱では、コミュニケーションに関して評価書等の記載内容を規定しているものはないが、地方公共団体の技術指針では、分かりやすい記述、概要版の作成、技術資料等の添付、出典の明記を求めている事例がある。なお、いずれの制度においても概要版の作成は説明会便宜のため実際には広く実施されている。
調査対象国等では、公衆等の意見を聞くこと、意志決定に際して有用な情報を提供するとの観点から、平易な概要(Non-Technical Summary)の環境影響評価書への記載を定めている。また、アメリカの制度では、環境影響評価書のページ数の制限を義務づけている。また、アメリカ、イギリスでは技術的な詳細資料を添付することとしている制度もあり、我が国の環境影響評価書に見られるような、技術手法の解説や調査データの詳細は、このような添付資料にまとめている例もある。さらに、予測等の不確実性が意志決定に際しての重要な情報であるとの認識から、情報的または技術的困難点の記載を求めている制度もある。
また、アメリカ、カナダ等では、環境影響評価の手続き開始、説明会開催、準備書の縦覧、評価書の縦覧等について、通信ネットワークにより情報を提供しており、公衆からいつでもアクセス可能とする技術が用いられている。また、コンピュータグラフィクスやビデオを用いて公衆への説明を対話的に分かりやすく行う技術も用いられている。