生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会
環境影響評価シンポジウム~生態系と環境アセスメント~の記録

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7 シンポジウムの記録

3)基調講演1「陸域の生態系と環境アセスメント」

司会:

それでは、早速、基調講演を始めたいと存じます。

まず、「陸域の生態系と環境アセスメント」と題しましてご講演をいただきますのは、九州大学名誉教授の小野勇一先生です。小野先生、よろしくお願いいたします。

小野:

皆さん、よくいらっしゃいました。私は陸域の話をするということになっておりますが、今までの議論の経過、それから、何をやってきたか、この報告の中に盛り込まれたことは、今の大島座長の話でほとんどカバーしておりますので、これを読んでもらって、さっきの話を耳にとめていただけば大体よろしいと思っているのですが、それでは私の責務が果たせませんので、少し、中身の解説ということにはならないかもしれませんが、そんな話をさせていただきます。

私は2つ、お話をしようと思っております。1つは、上位性、典型性、特殊性という不思議な言葉が突然出てきたわけですけれども、これは一体何だということの裏になっているもの、つまり、これは生態系の構造・機能というものから出てきた言葉でありますけれども、それでは、生態系の構造・機能とはどんな格好をしているのだというところを、まず、お話をさせていただこうと思っております。したがって、そういうものをつかむための方法は何もこの上位性、典型性、特殊性だけではありません。いろんなつかみ方があります。つかみ方の最近出てきたおもしろい例がありますので、それも紹介しようかと思っております。そういうバックグラウンドのお話をいたしまして、その上で、この中身についての議論のポイントを特に陸上生態系についてお話ししようと、こういうふうに考えておりますので、よろしくお願いいたします。

人が何らかの作業を自然界に対して行い、その結果、自然界が多少変化をしてくる。そのことを評価することがインパクトアセスメントと呼ばれることでございますけれども、そのこと自身はそれほど、というと語弊がありますけれども、おかしなことではありませんが、ひとつお考えいただきたいのは、時間のスケールということであります。

例えば、人が住めば、そこに何らかの影響を与えることは事実でありますけれども、工学的な手法で自然に対して影響を与える場合に、その影響の範囲と度合いは大変著しい。動物でも、1匹の動物がそこに住めば、えさも食べますし、糞尿を流しますし、巣も掘るということで、環境に対して必ず影響があります。しかし、それは人が自然を乱す場合と違いまして、環境のほうもその動物の生活に合わせて反応して、その反応速度は動物が影響を与える速度と大体バランスを保って、元に返ってきます。そういうのが実際の自然界の状態であるわけです。その自然界の状態に、私たちはこれからの色々な事業、公共事業と言われるものもそうでありますけれども、そういう事業をそのスピードで考えましょうということであります。それでは、ダムをつくるといったら、毎日、石を1つずつ持っていって、川に1つずつ沈めて、その石がダムになるまでやるかというと、それはちょっとできない。できないとするならば、それに代わりになるような知恵は何だろう。これをこれから考え方の基本に据えるべきではないかと思っております。

例えば、例を挙げて申しますと、少し余談に近い話になりますけど、ミミズという動物がおりますが、昔、チャールズ・ダーウィンという誰でも知っている方でありますが、チャールズ・ダーウィンが実はミミズの本を書いたということは案外知られてないのですが、「ミミズの作用による栽培土壌の形成及びミミズの習性について」というものを1881年に書いてございます。その中でチャールズ・ダーウィンは非常におもしろいことを書いております。例えば、石の遺跡が何世紀か経つと土の中に埋もれる。何で土の中に埋もれるのか。地球が持ち上がってくるのではない。ミミズが穴を掘って、糞を外に出して、その分だけ重みがかかると、遺跡が下に沈んでいく。ほとんどミミズの作用であると。1年間に何センチ沈むまで計算されているわけですが、そういうことを既にやっているわけですね。これは完全に環境造成作用であります。

もっと面白いことには、それよりも100年も前にギルバート・ホワイトという人が「セルボーン博物誌」というものの中で、面白い文章を書いております。ちょっと読んでみますと、「農夫がミミズを憎むのは、ミミズに青麦を食われると思い込んでいるからでしょう。しかし、これらの手合いといえども、ミミズがいなければ土は直ちに冷え、かたく固まり、発酵をとどめ、ついには不毛となってしまうことを悟るでしょう」。こんなことを述べているんですね。ミミズは種の生活を通して環境を改変しているけれども、破壊ではなかったということです。造成もやっているわけです。こういうことが、ひとつの教訓に挙げられるのではないかと思っております。

幾つか例を挙げてみますと、例えば干潟の問題があります。干潟にベントスという底生生物がおります。これは、カニやら、カイやら、ゴカイやら、そういう生物たちでありますけれども、この底生生物たちは、自分たちの生活によって海水と堆積物の境界をかき乱しているのです。これをバイオターベーション、生物攪乱と私たちは呼んでおります。清水先生の分野の話を取ってしまったようで申しわけありませんが、ご勘弁ください。この生物攪乱は、色々な攪乱をやっております。例えば、穴を掘って坑道をつくることで外の空気とか新しい水を地面の中に持ち込むということも行いますし、表面のものを食べて、それを糞として排泄する。糞というのは非常に高い栄養を持っている場合が多いです。例えば、貝の糞が出ますと、糞が出た直後よりも、それから1日、水の中を貝の糞がたゆたっている間に、バクテリアがそこで活動して窒素の固定を行いますので、高栄養になるというような作用もあります。そういうことで、糞による再堆積を促しているわけです。また、呼吸を行いますので、ポンプ作用で水を入れかえる。それから、ゴカイなどになりますと、蠕動運動を穴の中で行って水流を起こしている。そういう細かいことを行います。菊池先生は、確か7つぐらいの作用にバイオターベーションを分けて総説をお書きになっておりますけれども、そういう非常に大きな働きがあるわけであります。私、実は要旨を書いた後で聴かれたわけでありますけれども、そういうことを言おうと思って書いたわけであります。

植物では、例えば、他感作用(アレロパシー)と申しまして、他の植物が入らないように色々な物質を根から出しております。自分と同じ種類の子供まで入れないようにするものもあります。そういうふうなものが生物の作用のひとつであります。ただし、その作用は非常にゆっくりしたものであります。

獣が通った後は足跡がつきます。足跡の土は、必ず植物はペチャッと踏みつぶされております。動物園ではコンクリートの床の上に動物を飼っておりますけれども、最近は自然動物園に近くしようということで、なるべく土の上で飼うようにしております。土の上で飼うと、どうなるかといいますと、踏みつけによって、その辺は草1本生えていないような赤土の上に動物がうろうろするという情景が出てくる。これを踏みつけ効果と申します。この踏みつけ効果を抑えるために何をしたらいいのかというので、動物園経営者はみんな頭が痛いわけでありますけれども、これもやはり生物的な1つの攪乱作用であります。自然界では密度があまり高くならないということで、植物のほうが回復する力を充分に時間的にも与えられるということで、共存が果たされているわけであります。

生物の時間というのはこのように非常にゆっくりしたものであります。植物の1日をとってみても、朝露を吸って、光合成を行って、その成果を蓄え、時期に至れば花が咲き、実を結ぶ。その時間は少なくとも1シーズンを単位に考えていくような、そういうゆっくりしたものであります。

それよりも短いサイクルは動物でしょうけれども、動物だって1日の生活は実に単調なものであります。例えば、大抵の草食獣は、餌を食べるか、寝るかという繰り返しであります。たとえ肉食獣にしても、狩るという作業は入りますけれども、狩って、食べて、寝る。ほとんど構成要素は決まってくるわけです。社会的な動物で、社会構造が発達したものでは、個体間に何らかの行動が出ますけれども、それは比較的単発的であります。時間も短く、それほど全体の1日のリズムをかき乱すものではありません。

それに比べまして、私たちの1日のサイクルを考えてみますと、きょうは皆さん、ここで半日ほどお座りいただくわけでありますけれども、それはそれは忙しいものだと自分で反省しております。その忙しさは人間の社会生活、社会構造から来ているわけであります。

その忙しさの中で、私たちは自分たちの利便性のために環境に対して何らかの影響を与えてきた、与えつつあるわけであります。そうすると、当然、その忙しさによる速さが出てまいりまして、その速さは影響が大きいというのは当然のことであります。

昔の農業を考えていただけばわかる。あまり知らないかもしれませんけれども、昔の農業と現在の農業の違いは巨大な時間の差です。昔の農業というのは大変ゆっくりした、自然のリズムに従ったものであります。例えば、田を植えるという作業でも1週間ぐらいは田植えの時間があって、田植え休みというものがありました。現在は田植え休みなんか要らない。機械でみんなワッとやってしまうから、半日で済んでしまうのですね。しかも、苗も庭先でつくります。そういうことで時間がすごく短縮されてきている。だから、お年寄りだけでも田んぼをできないことはないわけであります。私も、うちの前は田んぼでありますので、ときどき手伝いに行って、苗をもらってきて、勝手に庭に植えたりして、農業法違反をやっております。まあ、あまり育ちませんけれども。

そういう時間の短縮。例えば、川をいろいろ改造したいといっても、これは鋤と鍬ともっこの世界でありますから、時間がかかる。時間がかかるということは、自然界の自然の要因も充分それに対して対応する時間を持ってくる。ここを重々考えて、これからのインパクトアセスメントをしていただきたいというのが最初の話であります。

人の時間と生物の時間とが一致している場合に初めて共存できるという例で、そこのメモのところに炭焼きとカモシカということを書いたのはそういうことであります。

これは、少しエクスキューズしておかないと、しかられますので、申し上げますが、宮崎県に西米良という村がございまして、そこの話なのです。西米良村というのは、 1980年ぐらいに私どもは調査をいたしましたが、その時期にはまだ、ここで炭焼きが行われておりました。炭焼きというのは、おやりになったことのない方はわからないかもしれませんが、九州でございますと、クヌギでありますとか、コジイでありますとか、タブでありますとか、そういう照葉樹と落葉広葉樹、こういうものを切りまして、それを炭窯で焼くわけであります。炭窯の容量は決まっておりますので、1回に焼ける量も決まっております。それを何カ月か続けて大体出荷できるぐらい炭ができますと、それを下におろしていく。だから、切る量も、窯の容量の倍か、2倍か、3倍か、そのぐらいで、大した面積を切らないわけであります。したがって、その隣には昔切った林が残っているというか、そのまま、また傍芽が成長しつつあるわけで、こちらを切り、あちらを切りという形で、いわば輪作型に切っていくという切り方をしているわけです。

ここのカモシカの調査をしてみましたら、面白いことに、谷ごとに照葉樹林がありまして、その照葉樹林にはカモシカが住んでいるのです。そのかわりに、尾根のほうは全然いない。谷にみんな残っているわけです。これはやはり、炭焼きで輪作型に切って、切ったところからはカモシカは逃げるけれども、炭焼きが済んでしまってしばらくすると、森が回復してきます。回復してくると、カモシカのことを語ると長くなりますから止めますけれども、初期は新芽を非常によく食べます。4~5年で大体、林が大きくなると、カモシカもまた移動する。それをグルグル回しているわけです。人間とカモシカがうまく林を使い分けている。こういうことで共存しているわけであります。

こういう共存の場所は現在でも残っております。ちなみに、宮崎県の綾町というところには、町長や営林署の努力で、現在は非常に広い照葉樹林が残ってきてございます。これは最近の新聞でも報じられたところであります。

こういう大きな、カモシカにとっては母集団に当たるようなものがあって、そこから照葉樹林のそういうかたまりがポツポツあるからこそ、今まで残ってきたので、構造的にはそういうことになっているのだと思うのですけれども、少なくとも炭焼きとカモシカというのは、人間がインパクトをかける速度が速くなくて、人間の方もベネフィットをいただいたし、カモシカの方もベネフィットをいただいたということで、両々相まって共存という形が出てきたのだと思います。

私たちが行っているような例で非常に大きなインパクト例としては、最近、面白い話題がございまして、エジプトのアスワンハイダムによって最近は紅海の魚が地中海に現れるようになったと言われています。これはどういうことかと申しますと、本来、紅海の方が地中海に比べて海面が1.2mほど高いのです。紅海の方はいつも、地中海に向けて流れよう、流れようという姿勢を持っている。レセプスによってスエズ運河ができて、ますますそれが加速されたわけですけれども、それを今まではナイル川がとめていたのです。ナイル川が非常に大量の淡水を流すものですから、その淡水がバリアになりまして、紅海から地中海の方に魚たちが移動するのを止めていたわけですね。それが、アスワンハイダムができることによって水量が落ちた。水量が落ちると、バリア効果が落ちたものですから、最近は盛んに紅海から地中海の方に移動する魚が増えてきたということで、レセプスの名前をとってレセプシアナイゼーション、レセプスの移動という現象があちらの方では言われております。これは、インパクトをやった結果、マイナスの、ネガティブの効果が非常に巨大な面積で出てきた典型的な例であります。

こういうふうに色々な影響を与えてきたわけで、与えた結果、受けるほうが反応する時間があれば全然問題ないわけですけれども、反応する時間がない場合には、そのようなことがいっぱい起きてきているわけであります。これが今まで色々なところで言われている環境破壊というものの元凶であろうと思います。

人間が生態系に対して何らかの作用をやろう、いろんなことをやろうという場合を、私どもは引っくるめて人間による生態系の管理という言い方をしております。管理というのは、人によっては非常に嫌われる言葉だと思いますが、マネージメントであります。

かつては、ほとんど管理しなかったわけです。ここに書いてございますように、最初に工学的な企画がありまして、設計がありまして、直ちに施工するというのが今までのやり方であります。そうではないというのが、の下のやり方でありまして、最近はこういう方向がよくとられているわけですけれども、今度の環境影響評価というのもこういうことを考えているわけでありまして、企画をして、設計をして、施工をして、同時にそこのところでモニタリングが入ってきます。モニタリングをして、いろんな予測をしてみたところ、どうもこの工事はあまりうまくないところがあるというところで工事の手戻りをやる。合理的予測というのがあって、もう1度、設計をきちんと行ってみようということでやり直す。だから、最初から、施工するときも、設計が手戻りしてもいいレベルの施工を行っていくわけです。

こういうやり方は、日本ではありませんけれども、アメリカではごく普通に行われておりまして、そこに順応的管理とありますけれども、アダプティブマネージメントという言い方をされております。アメリカではごく普通にこの方法は、下の方法は使われておる方法であります。こういうことは、既にそこの生態系に関する知識が相当に積み重なってないとできないことでありますので、こういうことを考えているということであります。こういうやり方もあるという実例であります。

それから、アセスメントをやる場合に別な方法もあると言いましたが、1つだけ別な方法をご説明申し上げておきます。それは、人が環境に対してある攪乱を与えた場合、その攪乱のレベルをある指数でもって判定するというのは技術的には大変おもしろいことなのですけれども、その指数の性質をよく考えておかないと、間違ったことになります。そういう意味で、最近、イリノイのジェームス・カーという人がエコロジカルインテグリティという発想をしてきました。これはおもしろいと思ったものですから、少し紹介しておきます。

次をお願いします。(OHP

この方は、人間が生態学的なインパクトを与えた場合に、エネルギー的な影響をこういうふうに分けて書いております。農耕地や土木など、人の活動によって色々なものが溶け込んできたり、生息地の質の変化がいろんな形で起きてくる。それから、川の流下特性が変わる。水質が変わる。水深が変わる。こういうものが変わると、それから、生物の相互作用も、競争とか、捕食とか、被食とか、そういう様々なものが変わってくる。こういう、いわば水域生態系に影響するものを5つの要因に分けて考えてみようということをジェームス・カー氏は始めたわけであります。そうすると、お魚を材料に使いますと、そういうもので結果として考えられる影響というのは、エネルギー的に言いますと、流れ下ってくる粒子の構造が変わってくるだろう。川をいじると、粒子の構造が変わって、大きなものが減ってきて、自動的にそこでは藻類の生産がやたら増えてくる、こういうことが起きてくるだろう。それから、水質では、温度の幅が広くなる。粘性係数が高くなる。富栄養化が起きてくる。生息地の質は単純化する。水の流下特性は全体的に一様化してくる。同じ水深で、同じ水量が流れて、メリハリがなくなってくる、こういうことであります。したがって、生物にとっては隠れ家が減少する。その影響を受けて生物側も一次生産、二次生産の比率が変わってくる。それから、病気が増えるというようなことも、もちろんあります。生物的なリズムが崩れるということもございます。ギルドというのはある生物の食べるえさの種類範囲のことで、同じようなものを食べている種類をギルド仲間と呼んでおりますけれども、同じエサを食べていたものが違うものを食べるようになる。つまり、今まで魚食を専属にしていたものが雑食に移ったりするということで、ギルドの移行が起きる。こういうことを挙げたわけであります。こういう5つのものを挙げて、これを指数化してみよう。指数化するについては、少し違う考え方を持ち込みました。

次をお願いします。(OHP

種類の豊富さ、栄養段階、それから全数量とその状態というような従来の生物的な言い方ではなくて、少し違った言い方で、これをメトリックというふうに呼んでおります。メトリックというのを12挙げてございますが、この12のメトリックで生物サイドを全部測定してみようということを提案したわけであります。しかも、測定した結果を単に絶対数量とか、そういうもので表すのではなくて、メトリックのスコアを対数軸で目盛る。つまり、1と3と5というふうに分けたのです。これはなかなかおもしろい知恵だと思うのです。というのは、こういうものの変化の状態を見ると、指数的に変化している場合が多いのですが、指数的変化をする場合は対数で表すことが一番楽ですから、そういう意味で、1・3・5というふうに分けたことはなかなかの知恵だと私は評価しております。こういうふうに、例えば、これは雑食性のものの個体数の比率が20%以下だったら5点あげましょう。これが45%、つまり雑食性の種類が増えるということは環境が悪くなっているという先ほどの話ですから、環境が悪くなったものは1点しかやらないよと。つまり、環境が悪くなるほど点数が悪くなるようにしてあります。それから、逆に、最初は点数は悪いのですけれども、環境がよくなると、つまり、昆虫食のコイ科の個体数は増えたほうが環境はいいわけですから、こっちの方が高くなっております。同じように、低くなる場合も、高くなる場合も、5・3・1という点数で配分するというやり方をやったわけであります。

それでは、この横軸は何をとるか。これが面白くて、川の順位でもいい。それから、そこに塩水が入っているなら、クロールの濃度でもいい。下水がたくさん流れ込んでくるならば、下水の一定期間の頻度でもいい。横軸は何でもいいということですね。それに対してこの点数を目盛ったときに、こういうふうに減るか、それともこういうふうに増加するかによって、このメトリックの数値を決めたらいいということであります。

そういうメトリックの特性を判定してみると、のように種類数は環境が良い方から悪い方まで非常に幅広く影響する。それから、これはアメリカですから、ダーターというハゼの親戚の魚がございますけど、こういうものの幅は良い方でこういうふうに反応する。悪い方で反応するのは、バスの仲間です。わが国で言いますと、ブラックバスでありますとか、そういうものでありますが、これは悪い方で反応する。それから、雑種の種類の個体数はやはり悪い方だ、病気もそうだということで、メトリックにこういう性質があるわけですが、このメトリックの性質を使って全体の評価をしようということであります。

日本では、淡水生物研究所の森下依理子さんという方が、川の健康診断ということで、川の中の昆虫を使ってやっている例がありましたので、少しそれだけ実例を紹介します。

これは森下依理子さんのお使いになったメトリックでありまして、この場合は10使いました。したがって、満点で50点です。非常に悪いものになりますと、これがバラバラ出てきますので、全部1点だと10点です。だから、最低10点、満点50点という幅で判定をしていくわけです。

人為的な影響を横軸にとってあります。だから、先ほど申しましたように、他の下水がたくさん入ってくるような場合だったら下水の数でありますとか、私は行ってみたことはないのですが、人家の密度みたいなものも影響量として取り上げられるのではないかと思ったりもしておりますが、色々なもので目盛ってみる。メトリックとして使えるのは、単調減少か、もしくは単調増加をするような、こんなバラバラのやつもありますけれども、とにかくどっちかに一定の傾向の見えるものを使うというのが、これのミソであります。

この面白いことをやったのは、350ぐらいのサンプルがあるんですが、それをただ真っ直ぐに半分に切りまして、170~180のサンプルをとりました。それに対しては徹底的に分析して、これの傾斜をとりまして、点数をつけてみた。残りのものに対してはメトリックの部分だけしか測定しない。そして、メトリックで果たしてうまくのるかどうかというテストをしましたら、これは実際のスタンダードで自分たちがつくったものでありまして、それに対してサンプルとしてとってきた川のメトリックがうまく同じものにのったということで、この方法は良いのだというふうに彼女は宣伝しております。今、カートさんのところで学位論文を書いているのですけれども、確かにこれは1つのやり方としては面白い方法だと、私は思っております。

次、お願いします。(OHP

さて、そんなことで上位性、典型性、特殊性は、生態系の性質を表すものというふうに定義されているわけでありますけれども、中身は何だということで、もう1つ考えてみますと、生態系の構造というものがバックグラウンドにあります。構造を考えていく場合に、よく言われているのがピラミッド構造ですけれども、ピラミッドも1個のピラミッドではない。よく中学校ぐらいの教科書に書かれているのは、一次生産者、それから植物食の動物、それから肉食の動物が上に書かれて、これは1つで済んでいるのですが、実は自然界の構造というのはこういうふうに多段階ピラミッドの構造になっているというのが私どもの考え方であります。というのは、無脊椎動物の世界は1つピラミッドをつくっているだろう、大型の脊椎動物はこれ全体に対してピラミッドをつくってくるだろうと、こういう考え方であります。だから、同じ草食獣といっても、牛とバッタは違う草食動物なのだと。つまり、バッタはこちらの方に属するけれども、牛はこっちに入るという言い方です。例えば、草の上にアブラムシがついていたりしていても、牛は食べてしまいますけれども、だからといって、牛が雑食動物とは誰も言いません。やはり草食動物です。だけど、ピラミッドをまるごと食べてしまうわけでありますので、こういうふうに考えた方が良いだろうということで、多段階ピラミッド構造と私は呼んでいますが、これを生活形というふうに呼びます。生活形ごとに今から述べます上位性というのがあるだろうというのが、私が最初から考えている上位性の考え方であります。

だから、自然界というのは、先ほど大島座長が生態系というのは多様な複雑なものの組み合わせだというふうにおっしゃったわけですけれども、まさにそうでありまして、こういう複雑さも、これは構造的複雑さであります。環境的複雑さではありません。環境的複雑さもありますけれども、構造的複雑さというものが1つ、後ろに入っているということを頭に描いていただきたいというふうに考えております。

それでは、時間がなくなりますので、少し先へ行きますが、そんなことを前提条件に置きまして、今日、皆さま方のお手元にお持ちいただいております、この環境影響評価技術検討会報告をご覧いただければ、よりおわかりいただけるのではないかと思っております。

その次、5、6、7ページに、それぞれ上位性、典型性、特殊性というものの定義が書いてございます。少なくともこの定義は、私はあまり歪めてほしくないと思っております。例えば、これから方法書をつくっていかれるわけですが、スコーピングにおいてはユニークな発想をいくらお出しになっても構わないと思っておりますが、少なくともこの範疇ぐらいは、ここであまりユニークさを出さずに、上位性、典型性、特殊性ぐらいは使ってもらったらどうかと思っております。生態系の特性というのはそんなものではなくて、もっと別なもので表すというなら、これよりもすぐれたものがあれば、環境庁に申請して、変えてくださいということを言ってもよいと思うのですけど、やはりそれなりに議論が要るだろうと思います。

ということで、一応、上位性、典型性というのを挙げてありますが、それを取り上げるときに先ほどのような構造はどうしても頭に置いていただくことが必要だろう。そうしないと、ただ単にイヌワシとクマタカだけが上位性で挙がってきて、典型性になると、何かわからないけれども、その辺のカゲロウだけ挙げておこうかというふうな話になってしまって、個体数が多いものだけが典型性に挙がってくる可能性があります。典型性というのはそんなものではなくて、もっと数量的な構造から来ておりますので、そこに書いておりますことを、あえて声をあげて読みませんので、ひとつ黙読なさっていただきたいと思っております。

そういうものを少し整理して、先ほどは大島先生に大断面をお示しいただきましたが、レポートを書いていくときにはどうしても何かサンプルがあると書きやすいものですから、サンプルとして、そこに挙げておきました。

次、お願いします。(OHP

こういうのがひとつ、これは多段階ピラミッドになっておりませんけれども、中身はそういう頭で書いておりますので、そういう頭でご覧ください。例えば、ここにサシバ・オオタカというものがありますが、肉食性の動物です。ヘビも食べるし、こちらの方のムササビとか、こんなものも食べる。渡っているわけです。これは海の方に行きますと、清水先生の世界ですけど、この矢印はもっと複雑になります。どうやってこれをつかみ出すかというのは、これから大いに悩んでいただきたいと思っているわけですが、なかなか難しいと思っております。それでも、両生・爬虫類の世界で挙がってくるものは大体カメかなとか、昆虫の世界で挙がってくるのはタガメかなとか、そういう見当はつけやすい考え方になっております。だから、生活形で一応切ってみる。もう1つは、ここの上にありますように、ハビタットで切ってみる。同じエコシステムの中に、夏緑二次林もあれば、水田もあり、畑地もあり、湿地もあり、沼地もあるという場合には、それぞれで切ってみるというのも切り方のひとつであります。それに対してこのピラミッドを立てて、そこで上位性というものを押さえる。

次、お願いします。(OHP

これは典型性というものを引っ張り出すときのひとつの考え方に使えるかもしれないとは思っておりますが、生物群集の成立の基盤。これは先ほど大島先生がお出しになったものと全く同じものでありますけれども、個々の生物群集で誰が代表しているのかというつかみ方をすれば、それは典型性を表す注目種というふうに言ってよいのかもしれません。注目種は必ずしも1種類でないといけないということはありませんので、注目種の群集でもよろしいし、何でもいい。集まりを使ったらいいと思うんですが、ただ、集まりは食物連鎖の上位に行くに従って種類になっていき、下に行くに従って種群になるだろうと思っております。それはなぜかと言いますと、動物の数量構造から来ている話であります。動物では体が小さい個体ほど数が多いというのは特性でありますので、体が大きくなればなるほど、数は減っていくわけでありますから、両方のバランスで、こちらのほうは種群、こちらのほうは種単位というとり方は常識的にいけるだろうと思います。

こんなことで、中のほうの解説をそれほど詳しくしても仕方がないので、できない部分というか、むしろ、皆さん方がこれをお読みになって、スコーピングを行っていく場合にどういうふうに考えたら良いかなと、自分でお考えになる宿題みたいなものがございます。スコーピングというのはメリハリが効くと書いてあるんですが、メリハリということは、創意工夫してくださいということです。無責任なように見えますけれども、そうではありません。先ほどの生態系の性質というものを表して、人間がそれにインパクトをかける場合には、どの辺に焦点を置いて調べたらよいかということを考えてくださいということを言っているので、北から南までぶつ切りに同じことをやるということではないわけです。これも大島先生が先ほどおっしゃったので、もう言わなかったんですが、北から南まで日本列島では生態系は実に多様であります。したがって、大島委員会でつくりました北から南までの生物群集タイプのサンプルが11ページから12ページに書いてございます。これは、陸上の国土区分を考える場合にこういうふうに考えたらどうでしょうかと。表2-4の生物群集タイプ一覧と書いてある横に試案と書いてあるところがくせものでありまして、試案というのは、一応こう考えますが、どうですかという問いかけでございますので、これを金科玉条のごとく、教科書のごとく使わなくてもよろしいということを意味しております。これを使っていただいた上で、じゃあ、自分のやっている生態系というのは何かということを、そこで考えていただけばよろしいということであります。

そういうことで、今回の影響評価のやり方というのは非常に自由度が増していると思うわけですが、自由度というのは、大変恐ろしいことに、責任を伴うわけでありますので、自分の力を試されることになります。その辺がポイントと言えばポイントでございますので、よろしく頑張ってください。

これで終わります。

司会:
小野先生、どうもありがとうございました。

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