参加型アセスの手引き

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Ⅰ「参加型アセス」に向けて ~アセスにおけるコミュニケーション改革~

1.アセスは、質の高いコミュニケーションが鍵

(1)環境アセスメントとは

 アセスは、事業者が、開発事業の実施に先立って、事業が環境にどのような影響を及ぼすかについて科学的な調査・予測・評価を行い、その結果を公表して、住民等や環境担当行政機関(地方公共団体、環境省)などから意見を聴き、これらを踏まえて、環境配慮を検討し、よりよい事業計画を作り上げていく制度です。

 わが国においては、これまでの閣議決定によるアセス(以下、「閣議アセス」といいます)を改め、1997年6月に「環境影響評価法」(以下、「アセス法」といいます。)を制定しました。

 アセスの対象事業は、道路、ダム、鉄道、空港、発電所などの13種類あります。対象事業について実施されるアセスの手続きの流れは、[1]調査等を行うべき環境項目や手法等の決定を行う方法書手続(スコーピング)、[2]事業者による調査、予測、評価の実施、[3]調査等の結果について意見を聴取し修正を加えていく準備書手続・評価書手続、[4]アセス結果の事業への反映となっています。

(2)アセスにおけるコミュニケーションの重要性

[1]アセス法におけるコミュニケーションの位置付け

 事業者は、環境影響の調査・予測・評価の結果を準備書等として環境情報を開示し、住民等や環境行政担当者から広く環境保全の見地からの意見を聴く手続きとなっています。これは、事業者が、事業実施にあたっての環境配慮について説明責任を果たすべく、コミュニケーションを法的に義務づけたものといえます。

 他方、住民等には、事業者が開示した環境情報をチェックし、人の健康や地域の自然を守り、環境を保全する見地からの意見(環境影響の懸念、望ましい地域環境の姿、環境保全上有益な情報など)を事業者に伝えることが期待されています。

 事業者と住民等の間で、コミュニケーションが円滑、効果的に行われることで、より幅広い環境情報に基づき、客観的で質の高い環境配慮が期待されています。

 なお、アセスでのコミュニケーションは、環境情報の交流にあり、事業自体の必要性などについての社会的な合意形成そのものを目的とするものではありません。しかし、アセスの結果は、事業の意思決定過程に反映され、他の観点(安全性、必要性、採算性など)を含め総合的に判断されます。また、環境問題は社会的な合意を形成する上で主要な論点となることが多いことから、結果として、アセスでのコミュニケーションのあり方は、事業の合意形成に影響を与えています。

[2]法制化に伴うコミュニケーションの強化

 アセス法では、コミュニケーションについて、閣議アセスから手続的に強化した点が2つあります。

 一つは、住民等からの意見聴取の機会を増やしたことです。アセス法では、準備書の段階に加えて方法書段階でも意見を聴取する機会を義務づけています。これは、アセスの方法を決定する早い段階から広く意見を聴くことにより、準備書段階で調査等の不足による手戻りを防止する意味があります。

 もう一点は、閣議アセスでは意見を述べることができる者を「関係地域内に住所を有する者」に限定していましたが、アセス法においては、「環境保全の見地からの意見を述べる者」として、地域外を含め広く学識者やNGOなどの意見を聴くこととしています。アセスでのコミュニケーションの目的が、環境情報の交流であることから、有用な情報を有する者すべてから意見を聴くことができるようにしたものです。

さらに、アセス法では、次の2つの点から質の高いコミュニケーションが要求されるようになったと考えられます。

【相対的な評価の必要性】

これまでは「環境基準を満たすかどうか」の絶対評価を重視していたのに対し、事業者自身が「どれだけ環境保全措置の努力をするか」の相対評価に変わりました。つまり、事業者の説明責任が重くなると同時に、「黒か白か」でなく、いわゆるグレイゾ-ンを認めた上での評価になるので、住民等とのコミュニケ-ションによって納得をうることがより必要になりました。

【住民の意識行動が評価の対象になったこと】

アセス法では、影響を評価する項目に「人と自然との豊かなふれあい」が加わりました。地元の住民の意識行動が対象になることから、コミュニケ-ションなくしてアセス自体が実施できません。

このように、アセス法では、手続・内容両面で事業者と住民等とのコミュニケーションが重視されるようになっています。

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