調査・予測・評価の項目・手法についてはスコーピングにおける方法書に対する傾聴に値する第三者の意見を十分に反映させ、適切に選定する。そして、環境影響評価の実施段階の調査等で得られる情報によりさらに必要な見直しを加え、より詳細な実施方法を練りながら調査・予測・評価を進めていく必要がある。ここでは、実施段階の調査・予測手法について、その手法の検討から実施までの一連の流れを示す。
2-4 基盤環境と生物群集の関係の調査・予測
(1)基盤環境と生物群集の関係の調査
対象地域には様々な環境がモザイク状にみられ、また、それぞれの環境には基盤環境や植生、動植物相などの異なった生態系が成立していることが「2-3(2)対象とする生態系の構造・機能の概略検討」により把握された。そのため、事業によるこれらの生態系への影響を幅広くに把握することが重要であるという認識から、注目種・群集の調査のみでは把握しきれない生態系への影響についてまず概括的に把握することとした。
ここでは、基盤環境、植生、動植物種について調査を行い、それぞれの関係を把握した。また、クヌギーコナラ群集などに代表される人為的な管理により維持されてきた二次的な自然がみられることから、生態系の時間的な変化を把握することとし、植物群落の変化とその相互関係の調査を行った。また、調査地域では谷戸の環境がこの地域の生物の多様性を支える重要な環境要素であり、谷戸の環境を維持する上では水環境の保全は重要である。しかし、水量の低下や地下水位の低下が生じる可能性があることから、水環境の特性の把握も行い、事業による水環境の変化の可能性を検討した。
1)調査・予測の流れ
基盤環境、植生、動植物種の調査については「地形・地質」「植物」「動物」等の他項目と連携して行い、また一部補足的な調査も行った(図I-2-9)。現地調査で作成した主題図を元にそれらの対応関係と既存資料による知見に基づいて相互関係を把握し、詳細類型区分を行った。そして、調査結果及び既存資料による情報をこの類型を単位として整理し、基盤環境、植生、動植物種等の要素間の相互関係を把握した。生態系の時間的な変化については「植物」項目で得られた植生調査結果及び既存資料による情報を整理し、調査地域の植物群落の変化と相互関係を把握した。また、水環境については現地調査と既存資料を基に、本地域における特性を把握した。
図I-2-9 基盤環境と生物群集の関係の調査から予測の流れ
2)調査手法
[1]詳細類型区分の方法
環境影響評価の実施段階(地形・地質、動植物項目)で作成した主題図を利用し、より詳細で実際の環境を反映した詳細類型区分図を作成した(表I-2-11、主題図の例として図I-2-10に地形分類図、図I-2-11に植生図を示す)。類型区分の単位は主要な生物種・群集の生息場所として識別できるような一定のまとまりを有し、かつ動植物項目における動植物相の調査結果を整理する単位として適したものとなるよう決定した。
ここで、調査地域における昆虫、植物などの生息場所として捉えられる単位が群落単位レベルであること、植物群落の分布には主に丘陵、谷底平野などの中地形レベルでの対応関係がみられたことから、本ケーススタディにおける類型区分の最小単位は植物群落と中地形のオーバーレイにより抽出することとした。
実際の区分にあたっては植生図と地形分類図の単純なオーバーレイでは多数の単位が生じることが予想される。このため、生じた単位のうち面積の小さいものについては植生と地形の分布相関に基づいて相関の強いものを単位として抽出し、地形との相関が不明瞭で弱いものについては他の単位に統合することとした。
表I-2-11 詳細類型区分に用いた資料
種 別 | 縮 尺 | 備 考 |
表層地質図 | 1/10,000 |
既存資料、現地調査、航空写真判読 |
地形分類図 | ||
土壌分類図 | ||
植生図 |
[2]詳細類型区分と基盤環境、植生等の関係の調査
「地形・地質」「植物」において作成した地形分類図、植生図などの主題図と、現地調査における各植生についてのサンプリング調査により、類型区分と基盤環境、植生等の関係を把握した。現地調査は「地形・地質」「植物」における調査との連携により行った。
サンプリング調査により生息場所として重要な群落構造、林床植生タイプ、人為的影響、管理状況、隣接する環境の状況等を把握した。また、生息場所として良好な環境が確認された場合にはその場所と内容を地図に記した。その結果を基に整理を行い、各類型の概況、隣接する環境の状況などを記述した。
[3]詳細類型区分と動植物種の関係の調査
確認された動植物種がどの詳細類型区分に依存しているか把握するために、調査を行った。調査は「動物」「植物」項目と連携して行い、現地調査の際に動植物種が確認された地点、環境の利用の状態や植生、基盤環境の特徴を記録した。さらに、文献調査及びヒアリングにより生息・繁殖の可能性や環境の利用の状態についての情報を収集した。その際、対象とした動植物種は、植物群落、地形、土壌などで生息場所が規定される、事業による生態系の変化を検討する上で必要と考えられる主要な種群とした。なお、調査にあたっては、複数の類型を利用する種はその生息場所の利用様式が異なることから、特に繁殖場所か否かについては注意した。
[4]生態系の時間的な変化の調査
植物群落の変化と相互の関係を把握するために、「地形・地質」「植物」において作成した地形分類図、植生図などの主題図と、現地調査における各植物群落のサンプリング調査により、各植生が成立する立地条件、人為・管理状況などを把握し、植物群落と成立基盤、人為の影響を検討した。現地調査は「植物」における調査との連携により行った。サンプリングによる調査項目は微地形、水分条件、人為・管理の状況などである。また、現地で得られた植生の相互関係に関する情報を補うため、地域の植生誌や既存文献を参照して相互関係を検討した。
[5]水環境の特性の把握
既存資料によると、調査地域において谷戸の水環境を維持するために重要な地下水は地形界を超えて動的に変動することが予想される。そこで、谷戸の水環境を支えている地下水の動態について検討することとする。
調査地域の湧水がみられる主な谷戸とその周辺で地下水を含めた水文環境の概要を捉えるため、流量の観測を行う(参考例:図I-2-12)。測定結果により比流量や降雨に伴う短期の流出率等の相対的な傾向を把握し、地下水の動態について定性的に検討することとする。
注: | より精度の高い涵養域の推定が必要とされる場合には地下水の流動系に関するより詳細な調査が必要となる。他項目の調査において地質構造、地下水位等についての調査を行っている場合はその結果を利用する。 |
3)調査結果の概要
[1]詳細類型区分
植生図と地形分類図との単純なオーバーレイにより生じた69の単位を、地形と植生の分布の相関の強さ等に基づいて統廃合した結果、21の詳細類型区分単位が抽出された(図I-2-13)。事業実施区域内に含まれる面積が大きい区分は丘陵地-クヌギ-コナラ群集(35.6ha,31.9%)、丘陵地-スギ・ヒノキ林(33.9ha,33.7%)、丘陵地-シイ・カシ萌芽林(1.5ha,34.7%)、丘陵地-ヌルデ群落(11.5ha,53.7%)であった(表I-2-12)。また、面積的には小さいものの調査地域内に分布する類型の多くが事業実施区域内に含まれるものとしては谷底平野-ハンノキ群落(136㎡,100.0%)、谷底平野-カサスゲ群落(806㎡,84.4%)があった。
表I-2-12 調査地域及び事業実施区域に含まれる各類型の面積・割合
詳細類型区分 | 面積(ha) *括弧内は割合(%) | A/B(%) | |
事業実施区域内(A) | 調査地域内(B) | ||
丘陵地‐ヤブコウジ-スダジイ群集 | 0.0 (0.0) | 0.4 (0.1) | 0.0 |
丘陵地-シイ・カシ萌芽林 | 14.8 (11.0) | 42.7 (9.4) | 34.7 |
丘陵地-クヌギ-コナラ群集 | 35.6 (26.3) | 111.5 (24.6) | 31.9 |
丘陵地-ヌルデ群落 | 11.5 (8.5) | 21.3 (4.7) | 53.7 |
丘陵地-スギ・ヒノキ林 | 33.9 (25.1) | 100.6 (22.2) | 33.7 |
丘陵地-モウソウチク・マダケ林 | 4.3 (3.2) | 17.6 (3.9) | 24.8 |
丘陵地―アズマネザサ群落 | 1.2 (0.9) | 4.7 (1.0) | 26.5 |
丘陵地-ススキ群落 | 4.0 (3.0) | 12.2 (2.7) | 32.9 |
丘陵地-農地 | 2.4 (1.8) | 17.2 (3.8) | 13.8 |
台地-クヌギ-コナラ群集 | 5.3 (3.9) | 13.8 (3.0) | 38.2 |
台地-スギ・ヒノキ林 | 4.0 (3.0) | 14.1 (3.1) | 28.6 |
台地-農地 | 4.9 (3.6) | 41.4 (9.1) | 11.7 |
台地-住宅地 | 0.2 (0.2) | 11.9 (2.6) | 2.0 |
谷底平野-ハンノキ群落 | 0.01 (0.0) | 0.01 (0.0) | 100.0 |
谷底平野-カサスゲ群落 | 0.08 (0.1) | 0.10 (0.0) | 84.4 |
谷底平野-水田 | 3.4 (2.5) | 14.8 (3.3) | 23.0 |
谷底平野-放棄水田雑草群落 | 1.5 (1.1) | 6.2 (1.4) | 28.9 |
谷底平野-農地 | 5.9 (4.4) | 13.0 (2.9) | 45.6 |
人工改変地-ススキ群落 | 1.0 (0.8) | 5.4 (1.2) | 19.0 |
人工改変地-住宅地 | 0.6 (0.4) | 4.0 (0.9) | 14.9 |
ため池 | 0.4 (0.3) | 1.0 (0.2) | 0.0 |
総計 | 135.0 | 453.8 |
[2]詳細類型区分と基盤環境、植生等の関係の整理
詳細類型区分と基盤環境との対応関係、主要な植生とその管理状況や群落構造、林床型、基盤環境と植生との相互関係や、生息場所として良好な環境などの情報を類型区分ごとに整理し、表I-2-13に記述した。また、対応表によって十分示すことができない詳細類型区分や基盤環境、植生の隣接状況を例として一部示した(図I-2-14)。丘陵地-クヌギ-コナラ群集と谷底平野-水田が隣接する場所には林縁群落や農道、畦畔草地などがみられる。谷底平野-ハンノキ群落は丘陵地-スギ・ヒノキ林、ため池と接している。
表I-2-13類型区分と基盤環境・植生
類型区分 | 地質 | 中地形 | 小地形 | 微地形 | 土壌 | 相観 | 主な植生 | 構造 | 林床の状況 | 人為・管理状況 | 基盤環境・植生の相互関係 | 特徴的な外来種 | 備考 |
丘陵地-ヤブコウジ-スダジイ群集 | 下総層群 | 丘陵地 | 丘陵地尾根型緩斜面・緩斜面・急斜面 | … | 褐色森林土壌 | 常緑広葉樹林 | ヤブコウジ-スダジイ群集 | 4層(高木・亜高木・低木・草本層) | ジャノヒゲ、ヤブランなど常緑草本の被度が高い | 伐採跡はあるが自然状態に近い | ヤブコウジ-スダジイ群集は主に丘陵地の斜面に発達することが知られるが、本調査地では台地の端に位置する部分に成立している。 | ○○寺の社寺林は自然性が高く、シイ・カシ類の大径木に植栽されたスギの大径木が混生し、林床の種類組成も豊かである | |
丘陵地-シイ・カシ萌芽林 | シイ・カシ萌芽林 | 過去の伐採跡あり | 主に南向き斜面では二次林がシイ・カシ萌芽林となる傾向がある。 | ||||||||||
台地-クヌギ-コナラ群集 | ローム層 | 高位台地 | 台地上位面・中位面・下位面 | … | 黒ボク土 | 落葉広葉樹林 | クヌギ-コナラ群集 | 4層(〃) | アズマネザサの被度が高い個所とニリンソウなど多様な草本の生育する個所がある | 過去の伐採跡あり、部分的に下草刈りあり | 本区分は主に二次林により占められる。クヌギ-コナラ群集は土壌の厚く堆積した緩斜面や尾根部分、特に北向きの斜面でよく発達している。伐採頻度が高い場所やクヌギ-コナラ群集の林縁部はヌルデ群落やカラスザンショウ-アカメガシワ群落となっている場所が多い。 | ○○谷では二次林の管理が行なわれており、カタクリ、ニリンソウ、キンランなど様々な種が林床に生育しており、種類組成が豊富である。 | |
台地-スギ・ヒノキ林 | … | 常緑針葉樹林 | スギ・ヒノキ植林 | 4層(高木・亜高木・低木・草本層)~3層(高木・低木草本層) | 植林 | 本区分は主に植林により占められる。スギ・ヒノキ植林の林床では、台地上部や尾根部分ではコバノカナワラビやイワガネソウが、斜面の凹地など湿潤な立地ではリョウメンシダ、イノデなどが多い。 | |||||||
・ ・ ・ |
|||||||||||||
谷底平野-ハンノキ群落 | 沖積層 | 谷底平野 | … | … | グライ土および灰色低地土壌 | 落葉広葉樹林 | ハンノキ群落 | 3層(高木・低木・草本層) | ヨシ、ミヤマシラスゲなどの被度が高い | 自然状態 | 谷底平野および低位台地の大部分は水田として利用されているが、潜在的にはハンノキ群落が成立するものと思われる。 | ・斜面下部からの湧水が本類型の水環境に大きく影響していると思われる | |
谷底平野-放棄水田雑草群落 | 草地 | 放棄水田雑草群落 | 1層(草本層) | 休耕中 | セイタカアワダチソウ | ||||||||
谷底平野-水田 | 水田 | 水田 | 1層(草本層) | 水田耕作 | |||||||||
ため池 | ため池 | … | 農業用水利用による水位変動 | ため池内には浮水・沈水植物群落、周辺部分にはミズオオバコ群落やカサスゲ群落等が成立している。 | オオカナダモ | ・○○池にはヒルムシロ、ミズオオバコなど多様な種の生育する浮水・沈水植物群落がある。 |
[3]詳細類型区分と動植物種の関係の整理
現地調査結果及び既存資料、ヒアリングからの推定も含め、調査結果に基づいて詳細類型区分と動植物種との対応関係を整理した。その際、植物種については確認された類型について、動物種については、動物種にとっての類型の重要性も区別するためにその場所が繁殖場所か否かについても整理して示した(表I-2-14)。
各生物群ごとに生息場所として利用する環境のスケールが異なるため、生物種を整理するために適したスケールとなるように類型を整理した結果、類型は階層性を持つものとなった。植物、昆虫などは植物群落との結びつきが強く、動植物相調査における調査地点にも群落単位が反映されていることから、植物群落及び地形で区分した本地域の詳細類型区分における最小単位により整理を行った。
哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類などは地形や植生にも生息場所が規定される傾向があるものの、相観植生との関連が強く、動植物相調査の際も相観植生に対応して生息場所を把握したため、植物群落を相観により統合した単位により整理を行った。
以上の整理を行った結果、各類型区分に特徴的に出現・利用する生物種が明らかになった。調査地域で確認された植物種は505種であったが、それらのうち、クヌギ、コナラ、ニリンソウ、キンラン、カタクリ等は丘陵地-クヌギ-コナラ群集、台地-クヌギ-コナラ群集に生育地が偏る傾向がみられた。また、ヨシ、アゼトウガラシ、ウリクサ、オモダカなどは谷底平野-水田に偏る傾向がみられた。
哺乳類ではヒミズが丘陵地-常緑樹林、丘陵地・台地-落葉樹林、丘陵地・台地-針葉樹林など樹林で確認され、タヌキは丘陵地・台地の落葉樹林などの樹林のみでなく丘陵地・台地-農地や谷底平野-農地でも確認された。
鳥類ではアオゲラが丘陵地-常緑樹林、丘陵地・台地-落葉樹林に偏って確認され、カイツブリはため池でのみ確認された。キジバトはほとんどの類型で確認され、モズ゙やムクドリは丘陵地-低木林、丘陵地・台地-農地や、谷底平野-農地、住宅地などの人為的な環境を中心に確認された。
爬虫類・両生類では特に谷底平野-水田等の水環境がカエル類の繁殖場所として重要な場所となっていた。
昆虫類では丘陵地-クヌギ-コナラ群集及び台地-クヌギ-コナラ群集、丘陵地-ヤブコウジ-スダジイ群集、丘陵地-シイ・カシ萌芽林の類型において多くの種類の生息が確認された。また、谷底平野-水田やため池などの水環境の類型ではトンボ類や甲虫類を中心とした多くの水生昆虫が確認された。その他、それぞれの類型でのみしか確認されない特徴的な昆虫が確認され、これらの多くの類型により、対象地域の昆虫の多様性が形成されていることが把握された。
[4]生態系の時間的な変化の整理
植物群落の変化と相互の関係を整理した(図I-2-15)。サンプリング調査、既存資料などの情報を整理し、調査地域における植物群落の相互関係と人為の関係を整理した。
調査地域の植生は人為の影響を強く受けていることが特徴的である。丘陵地・台地で広い面積を占めるクヌギ-コナラ群集やシイ・カシ萌芽林は過去から続いてきた定期的な伐採により、スギ・ヒノキ林は植林により維持されてきた。伐採・刈り取りなどの人為的影響を強く受ける林縁部にはヌルデ群落、アズマネザサ群落が成立している。これらの植生は放置されると、長期的にはヤブコウジ-スダジイ群集またはシラカシ群集へと遷移してゆくものと考えられる。例えば、クヌギ-コナラ群集がシラカシ群集に変化するには20~30年かかるとされ(宮脇 1987)、落葉広葉樹林が常緑広葉樹林に変化するには数十年が必要と考えられる。谷底平野は主に水田と、放棄水田雑草群落に占められているが、これは谷底平野が長く稲作に利用されてきたためであり、放置された場合にはヨシ群落、カサスゲ群集、ハンノキ群落等に遷移すると考えられる。
図I-2-15 丘陵地・台地における主要な植物群落の人為を介した相互関係の模式図
(注:括弧内は調査地域内で確認されなかった群落)
[5]水環境の特性
湧水のみられた調査地域の谷戸5か所とその周辺の小流域において流量の観測を行った結果、調査地域北部の谷戸3か所はその近接する谷の間で比流量が大きく異なることが明らかになった。これらの谷戸はともに近接する谷に比べて比流量が大きく、大きな地下水流域を獲得しているものと推測される。このため、これらの谷戸は近接する小流域により涵養されている可能性がある。
(2)基盤環境と生物群集の関係による生態系への影響予測
1)予測手法
各類型への影響については改変区域と詳細類型区分図との重ね合わせにより、各類型ごとの改変面積、改変位置等から影響の内容・程度について把握した。また、水環境への影響及び生態系の時間的な変化についてはそれぞれの影響が類型に及ぼす影響の程度を予測した。
2)予測結果
表I-2-15に事業による改変区域に含まれる詳細類型区分の面積を示した。また、事業計画の3案により影響を受けるおそれのある類型のうち、特徴的なものを表I-2-16に整理した。事業計画案の3案ともに、面積的に最も大きく影響を受ける類型は丘陵地‐スギ・ヒノキ林である。また、丘陵地‐クヌギ-コナラ群集、丘陵地‐シイ・カシ萌芽林も改変される面積が大きく、丘陵地に分布する森林により特徴づけられる環境が影響を受けることが予測される。
事業計画1では○○谷の林床がよく管理され、種類組成の豊かな二次林の消失面積が大きい。また、谷底平野‐水田、放棄水田雑草群落の類型も改変区域に含まれており、特に事業計画2、3に比較して消失面積が大きかった。このため、これらの類型を生育場所とするヨシ、ミゾソバ、チゴザサ、セリなどの植物種に影響が及ぶ可能性が予測された。動物では調査により確認されたトウキョウサンショウウオやトウキョウダルマガエルなどの7種類の両生類が、このような湿性の類型を繁殖場所としているため、その繁殖場所が消失することにより、個体数が減少することが予測された。その他に、水環境に依存する昆虫類への影響も予測された。さらに、面積は比較的小さいものの、谷底平野-ハンノキ群落及び谷底平野-カサスゲ群落が消失または減少することが予測された。これらの類型は調査地域内でも分布が限られており、調査地域から消失する割合が大きい。このため、これらの類型に特徴的な植物や昆虫への影響が予測された。
事業計画2及び事業計画3では特に、丘陵地-クヌギ-コナラ群集に代表される落葉広葉樹林に対する影響が大きくなると予測された。丘陵地‐スギ・ヒノキ林と丘陵地-シイ・カシ萌芽林には共通して出現する植物種が多く、これらの類型が減少することにより、アラカシ、シラカシ、ヤブコウジなどの生育地に影響することが予測された。丘陵地‐クヌギ-コナラ群集の減少はこの類型に偏って出現するクヌギ、コナラ、クリ、ニリンソウ、キンラン等の種の生育に影響すると考えられた。昆虫類ではスギ・ヒノキ林で確認された種は少なく特徴的なものもみられなかったが、広葉樹林を含む類型においては、多くの種類が確認され、これらの種の個体数の減少が予測された。
水環境の特性を検討した結果からは調査地域北部の谷戸3か所が隣接する小流域により涵養されていることが予測された。このため、水源涵養域の範囲を正確に明らかにすることはできないが、事業による改変区域が水源涵養域にあたるおそれがあり、北部の谷戸3ヶ所の水田及びその周辺の森林域において乾燥化を引き起こす可能性がある。これらの谷戸の谷底平野-水田や放棄水田雑草群落等に生息する動植物や、谷戸の斜面に位置する丘陵地-クヌギ-コナラ群集等の森林の林床植生にも乾燥化の影響が及び林床に乾燥を好む種が増加する等の変化が生じる可能性も考えられた。したがって、工事実施期間中及び供用後も流量等の観測を続け、谷戸の乾燥化の傾向をいち早く察知する必要があると考えられる。
表I-2-15 事業による詳細類型区分の消失面積及び割合
詳細類型区分凡例 | 消失面積(ha) | 調査地域での消失割合(%) | 事業実施区域での消失割合(%) | ||||||
事業計画1 | 事業計画2 | 事業計画3 | 事業計画1 | 事業計画2 | 事業計画3 | 事業計画1 | 事業計画2 | 事業計画3 | |
丘陵地-シイ・カシ萌芽林 | 8.7 | 8.7 | 8.4 | 20.4 | 20.5 | 19.8 | 58.9 | 59.1 | 57.0 |
丘陵地-クヌギ-コナラ群集 | 9.3 | 12.2 | 11.8 | 8.3 | 11.0 | 10.6 | 26.1 | 34.4 | 33.2 |
丘陵地-ヌルデ群落 | 5.3 | 4.3 | 5.1 | 24.9 | 20.3 | 24.1 | 46.4 | 37.9 | 44.8 |
丘陵地-スギ・ヒノキ植林 | 17.8 | 19.6 | 18.5 | 17.7 | 19.4 | 18.3 | 52.5 | 57.8 | 54.5 |
丘陵地-モウソウチク・マダケ林 | 1.2 | 1.8 | 2.1 | 6.7 | 10.0 | 12.1 | 27.1 | 40.3 | 48.8 |
丘陵地―アズマネザサ群落 | 1.2 | 0.8 | 0.8 | 26.5 | 17.2 | 17.2 | 100.0 | 65.0 | 65.0 |
丘陵地-ススキ群落 | 2.0 | 0.6 | 0.6 | 16.5 | 4.8 | 5.1 | 50.3 | 14.7 | 15.5 |
丘陵地-農地 | 1.1 | 0.3 | 0.3 | 6.4 | 1.5 | 1.7 | 46.8 | 10.7 | 12.3 |
台地-クヌギ-コナラ群集 | 0.7 | 0.1 | 1.0 | 4.9 | 0.4 | 6.9 | 12.9 | 1.1 | 18.0 |
台地-スギ・ヒノキ植林 | 2.0 | 2.0 | 2.0 | 13.9 | 13.8 | 13.8 | 48.8 | 48.4 | 48.4 |
台地-農地 | 2.1 | 1.9 | 2.0 | 5.1 | 4.6 | 4.9 | 43.5 | 39.4 | 41.5 |
台地-住宅地 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
谷底平野-ハンノキ群落 | 0.01 | 0.00 | 0.00 | 100.0 | 0.0 | 0.0 | 100.0 | 0.0 | 0.0 |
谷底平野-カサスゲ群落 | 0.07 | 0.00 | 0.00 | 71.7 | 0.0 | 0.0 | 85.0 | 0.0 | 0.0 |
谷底平野-水田 | 0.3 | 0.3 | 0.1 | 1.7 | 2.0 | 0.5 | 7.4 | 8.7 | 2.3 |
谷底平野-放棄水田雑草群落 | 0.6 | 0.3 | 0.1 | 10.1 | 5.4 | 1.7 | 40.9 | 21.9 | 7.1 |
谷底平野-農地 | 0.7 | 0.3 | 0.3 | 5.1 | 2.4 | 2.4 | 11.2 | 5.3 | 5.3 |
人工改変地-ススキ群落 | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 4.6 | 4.6 | 5.8 | 24.1 | 24.1 | 30.4 |
人工改変地-住宅地 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
ため池 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 13.0 | 0.0 | 0.0 | 34.5 | 0.0 | 0.0 |
総計 | 53.4 | 53.4 | 53.4 |
表I-2-16 事業計画案ごとの影響の比較
共通の改変区域 | 事業計画1の改変区域 | 事業計画2の改変区域 | 事業計画3の改変区域 |
スギ・ヒノキ林の消失面積が最も大きい。特に丘陵地-スギ・ヒノキ林が多く消失する。 | 谷底平野-水田・放棄水田雑草群落等の消失面積が他の計画に比べて大きい。谷底平野-ハンノキ群落、谷底平野-カサスゲ群落など出現する場所の限られた類型が消失する。 | 丘陵地-クヌギ-コナラ群集の消失面積が事業計画1に比べて大きい。 | 丘陵地-クヌギ-コナラ群集の消失面積が事業計画1に比べて大きい。 |