平成14年度第1回検討会
資料 5

4章

環境負荷分野の環境保全措置・評価・事後調査の進め方

1 総論
1)環境負荷分野の環境影響評価の基本的な考え方

(1)環境負荷分野で対象とする環境要素
    一般に「環境への負荷」とは、環境に影響を及ぼす行為・要因によって発生する汚染物の排出、資源の消費全般を指すものと考えることができる。
    環境影響評価法における「環境への負荷」分野で対象とする環境要素としては、図4-1-1に示すものなどが挙げられる。

 

  温室効果ガス等     廃棄物等*1  
  温室効果ガスの放出     廃棄物  
  CO2,CH4,N2O,     一般廃棄物    
  HFC,PHC,SF6     産業廃棄物   
   オゾン層破壊物質の放出     建設工事に伴う副産物  
  有害物質の放出     建設発生土   
  その他(熱帯材の使用等)     建設廃棄物   
             

*1:ここでいう「廃棄物等」は「循環型社会推進基本法」で定義する廃棄物等とは異なる。

図4-1-1 「環境への負荷」分野で対象とする環境要素

    平成12年度の検討(「大気・水・環境負荷の環境アセスメント(Ⅱ) -環境影響評価の進め方-」(2001年))においては、図4-1-1に示した環境要素のうち、温室効果ガス等の対象として、主に二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の温室効果ガスについて調査・予測・評価手法をとりまとめ、ケーススタディを示し、廃棄物等について調査・予測・評価手法とそのケーススタディを示した。今年度の検討では、温室効果ガス等および廃棄物等について環境保全措置・評価・事後調査の進め方の検討を行った。
    なお、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素以外の温室効果ガスおよび有害物質の予測手法の基本的な考え方は、平成12年度の検討で整理した考え方と同様であるため、それらの予測等において必要な情報については技術シートにとりまとめた。
    また、事業特性等によっては有害化学物質が問題となるケースがあるが、これらについては、住民等の関心の程度や地域特性等を勘案し、スコーピングの段階において対象とする環境影響評価項目を選定することが肝要である。その際、大気質や水質など環境基準や規制値等が設定されている項目については、原則として大気質や水質などの分野で取り扱うことが適当であると考えられる。   また、基準値等の設定がない項目を取り扱う場合において、物質濃度により評価することが適当と考えられる場合には大気質や水質等の分野で、物質量により評価することが適当と考えられる場合には環境負荷分野で取り扱うことが考えられる。ただし、いずれにしても住民の関心や事業特性、地域特性等を考慮して大気分野、水質分野等或いは環境負荷分野等で取り扱うことが重要である。

2)調査・予測・評価、環境保全措置の検討及び事後調査の基本的な考え方
(1)調査・予測・評価、環境保全措置の検討及び事後調査のあり方
    環境影響評価における調査・予測・評価を効果的かつ効率的に行うためには、各プロセスにおいて行われる作業の目的を常に明確にしておく必要がある。特に、「評価」の視点を明確にすることは、環境影響評価の適切な実施において重要であり、このためには、環境影響評価の実際の作業の流れと逆に、「評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討」の順に検討を進めることが重要となる。
    これは、環境影響評価法における「評価」が、事業者による環境影響の回避・低減への努力内容を見解としてまとめ、明らかにすることによる相対的な評価手法を基本とするためである。これが、「環境影響の回避・低減に係る評価」であり、環境保全措置の選定の妥当性を検証した上で事業による環境影響が回避・低減されているかどうかを判断するものである。また、「国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討」も合わせて行われるが、環境保全措置の効果を考慮した予測結果と、環境基準及びその他の環境の保全の観点から定められた基準又は目標との整合が図られているか否かについて検討するものである。
    このように、環境保全措置の検討は、「評価」を行う上で重要な位置をしめており、評価手法の検討を行う段階で、環境保全措置(案)についても検討することが必要である。この段階で環境保全措置(案)の検討を実施し、「評価手法→予測手法→調査手法」の順に検討を行うことで、調査不足や不適切な予測手法の選定等の手戻り等の発生を防ぐことが可能となり、また、環境保全措置の妥当性、具体性及び客観性に関する調査の必要性の有無を判断することも可能となる。
    また、事後調査については、環境保全措置が十分に機能し効果を示しているか否か、予測した対象事業による影響が予測範囲内であるかを把握すると共に、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討等を実施することを目的とする。したがって、環境保全措置の検討及び予測手法の検討等に合わせて、事後調査の手法の検討も行う必要がある。これは、環境影響評価の効率的かつ効果的な実施を図る上で重要である。

(2)調査・予測・評価と環境保全措置及び事後調査の関係(全体の流れ)
    事業計画の立案から、スコーピング、環境影響評価(調査、予測、評価)を踏まえ、事後調査の実施に至るまでの作業の流れとこれらの作業における環境保全措置との関係は図4-1-2に示すとおりである。
   [1]事業計画立案時における環境保全への配慮
    事業計画の立案時においては、事業計画の一部として検討される環境保全への配慮があり、大きな視野で検討される内容で、事業者の環境保全に対する姿勢、考え方等が示されることとなる。
    環境負荷分野における環境保全措置では、その措置自体が事業計画を規定するものが少なくない。例えば、温室効果ガスの主要な部分を占める二酸化炭素排出の最大の要因はエネルギー消費にともなうものであり、各種事業におけるエネルギー利用を含む供給処理に関する計画は事業計画において重要な要素である。そのため、二酸化炭素排出量削減の環境保全措置としてはエネルギー供給計画(電気、ガス、石油等)についての検討が必要になると考えられる。
    廃棄物等の処理についても事業計画の重要な要素として位置づけることができる。すなわち、廃棄物等については法令等に則り、適正に処理・処分されるのは当然であるが、循環型社会の形成に資するための事業者の責務として、発生・排出抑制、リサイクルの推進等を事業計画の段階で検討する必要があると考えられる。
    したがって、環境影響評価段階において立案される各種環境保全措置については、事業計画の修正や変更を必要とする場合が少ないため、事業計画立案段階から環境保全に関する配慮を行うことが事業の円滑な推進にも重要な要件となってくる。
   [2]スコーピング段階における環境保全への配慮事項の明示
   スコーピング段階においては、対象事業の事業特性及び地域特性を把握した上で環境影響評価項目を選定し、それぞれの項目毎に調査・予測・評価手法を選定することとなる。
    環境負荷分野においては、予測に必要な地域環境の状況等の把握は、現地調査によらず既存文献によって行うため、必要情報のほとんどがスコーピング段階で収集・整理が可能である。そのため、スコーピング段階での環境保全措置についての検討が、他の環境要素に比較して行いやすい状況がある。
    したがって、スコーピングの段階から環境保全目標(削減目標等)を考慮するとともに保全措置の検討を行い、可能な限り「環境保全の基本的考え方」として記載することが望ましい。
    また、環境保全への配慮の検討は、事業計画の立案時に実施されている内容ではあるが、この事業者の環境保全への配慮及びその検討経緯を可能な限り方法書に記載することが望ましい。これにより、事業者のスコーピング作業における考え方が住民に対しより確実に伝達可能となり、理解が得られるものと考えられる。また、より早期段階から要点を得た学識経験者及び地域住民からの意見の把握が可能となり、効率的な環境影響評価手続きを進めるためにも重要なことである。
   [3]環境影響評価実施段階での環境保全措置の立案
    環境影響評価実施段階においては、事業の進捗に合わせて手法、効果及び妥当性等を踏まえてより具体的な環境保全措置を検討することとなり、その内容については複数案の比較検討等によりその検討過程を明らかにできるよう整理し、準備書・評価書においてわかり易く記載する必要がある。

【留意事項】

(ア)事業計画へのフィードバックの必要性

    環境負荷分野における環境保全措置としては、事業計画自体に関わる事項が主な内容となるので、その結果は事業計画にフィードバックされる必要がある。

(イ)検討過程の明確化

    環境保全措置の内容が事業計画自体の修正・変更をともなうものになる場合、準備書及び評価書の公表段階における事業計画が既に予測・評価及び環境保全措置の検討結果を反映した内容に修正されていることになる。

    実施可能な範囲での回避・低減措置に係る評価を行う場合においては、その環境保全措置の実施の難易についての評価が重要な要件となる。実施の可能性とは技術的な面のほかに事業の経済性等他の要素との総合的な判断である。

    環境保全措置の内容が決定された過程が明確にならない限り、当該保全措置が実施可能な範囲で最大限の措置であるかどうかは、第三者に理解されないものとなる。したがって、環境保全措置または事業計画の検討過程をできるだけ明らかにして、環境保全措置決定の過程を明確にする必要がある。

(ウ)不確実性に関する検討

    環境負荷分野では環境保全措置による環境負荷削減の努力が環境影響の回避・低減に係る評価において不可欠であるが、その対策の実施が確保されていない場合や知見の不十分な環境保全措置を採用した場合など効果が必ずしも確保されていない場合がある。そのため、環境保全措置の実施や効果等、以下の項目について検討する必要がある。

   ・対策の実施者

    環境影響評価の実施者と環境保全措置の実施者が相違する場合がある。

   ・対策の実施

    上記の理由で、実施そのものが担保されているか確認の必要がある。

   ・対策の効果

    効果の発揮が確認されていない最先端技術の採用等、技術の内容によってはその効果の不確実性の程度を確認する必要がある。


   [4]環境保全措置を考慮した予測・評価の実施
    環境影響評価法における評価の考え方として、「環境影響の回避・低減に係る評価」及び「国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討」がある。
    「環境影響の回避・低減に係る評価」の実施においては、事業計画立案段階から環境影響評価実施段階における幅広い環境保全対策を対象とし、最善の環境保全対策の選定に至るまでの予測・評価の繰り返し等による複数案の比較により妥当性を検証した上で事業による環境影響が回避・低減されているかどうかを判断する。
    また、「国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討」については、これら環境保全対策の効果を考慮し、予測に反映させて得られた結果と、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点から定められた選定項目に関する基準又は目標との整合性が図られているか否かについて検討する。
   [5]予測及び環境保全措置の不確実性要素と事後調査の関係
    事後調査については、環境影響評価により検討された環境保全措置が十分に機能し効果を示しているか、予測した対象事業による影響が予測結果の範囲内であるかを把握すると共に、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討等を実施することを目的とする。
    対象となる項目は、調査・予測及び評価の流れの中で考えられる不確実性を補う等の観点から選定されるものである。環境影響評価にあたっては、調査・予測から評価に至る過程で常に不確実性要素があることを念頭に置く必要がある。特に予測や環境保全措置の効果等においては、その内容に不確実性要素を伴うことが多い。これらの不確実性要素を整理し、その程度及びそれに伴う環境への影響の重大性に応じて事後調査の実施を検討する必要がある。
   [6]事業実施後(工事中及び供用後)の対応
    事業実施後においては、環境影響評価書で公表した事後調査実施内容に基づき工事中及び供用時の事後調査を実施することとなる。事後調査の結果、予測結果を上回る温室効果ガス等の排出や廃棄物等の排出等が確認された場合には、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討をすることとなり、これらの検討内容は、事後調査結果と合わせて調査実施後できる限り早い段階で、適切な場所において公表する必要がある。
    なお、環境影響評価の段階で想定した前提条件に大きな変更が確認された場合等、変更の内容に応じて条件を変更し、再予測を実施するとともに、この再予測結果と事後調査結果とを比較することにより、予測の手法の不確実性及び環境保全措置の効果についての検証が可能となる。

図4-1-2 環境影響評価と環境保全措置及び事後調査の関係

1-1 温室効果ガス等
1)環境保全措置

    環境保全措置は、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響について、事業者により実行可能な範囲で、当該影響を回避し、又は低減すること及び当該影響に係る各種の環境保全の観点からの基準又は目標の達成に努めることを目的として検討されるものとする。

(基本的事項 第三項一(2))


(1)環境保全措置の考え方
   [1]環境保全措置の目的及び基本的考え方
    環境保全措置とは、事業者が実行可能な範囲で対象事業の実施による影響を回避又は低減することを目的として検討されるものである。環境保全措置は事業計画の中に反映される内容であるために、環境影響評価の中で最も重要であり、事業計画の進捗に応じてできる限り具体的に検討し、整理されることが必要である。
    環境保全措置は、事業計画の立案から事業計画の進捗に応じて適切かつ具体的に検討されるものであり、このうち計画立案時に計画の一部として検討される環境保全への配慮は、計画立案時における大きな視野で検討されるもので、事業者の環境保全に対する姿勢、考え方等が示されることとなる。また、調査、予測及び評価を行う過程において検討される環境保全措置は、事業計画の進捗に応じて、手法、効果及び妥当性等を踏まえてより具体的に示されるものである。
    環境負荷分野において環境保全の方針の内容を検討するにあたっては、対象事業の環境要因に応じて、国レベルや地域レベルにおける環境目標や環境への負荷の削減目標等を考慮する必要がある。
   [2]環境保全措置の内容及び順位
    (ア)環境保全措置の内容(回避、低減、代償の考え方)
    環境保全措置とは、環境影響を回避する措置から避けられない影響を代償する措置まで含む幅広い概念である。環境影響評価法における回避、低減及び代償とは、表4-1-1の内容として捉えることができる。

表4-1-1 環境影響評価法における回避、低減及び代償の概念

区分 内  容

 ミティゲーションの概念

(参考 NEPAによる区分)

回避

行為(環境影響要因となる事業行為)の全体または一部を実行しないことによって影響を回避する(発生させない)こと。重大な影響が予測される環境要素から影響要因を遠ざけることによって影響を発生させないことも回避といえる。

  回避(Avoidance)
低減

 行為(環境影響要因となる事業行為)の実施の程度または規模を制限することにより、また、発生した影響を何らかの手段で軽減または消失させることにより、影響を最小化するための措置である。

  最小化(Minimize)
  修正(Rectify)
  軽減/消失(Reducte/Eliminate)
代償

行為(環境影響要因となる事業行為)の実施により損なわれる環境要素と同種の環境要素を創出すること等により、環境の保全の観点からの価値を代償することを意味している。

  代償(Compensation)

 
 
    温室効果ガス等における回避・低減・代償について、その内容を例示すると以下のような事項が挙げられる。
(a)回避
    温室効果ガス等の排出の要因となる行為を取りやめる。
HFC等のフロン類などの温室効果ガス等の物質を他の温室効果のない物質に代替する等の措置が考えられる。
(b)低減
    低減については、負荷量削減の方法や実施者の相違により以下の3とおりに区分して考えることができる。
    ・低減1:事業者が実施する行為により低減する。
    設備の改善(効率的設備、効率的運用)や稼動の制限等により負荷排出量を削減する。
    ・低減2:他の事業者が行う行為において負荷量を低減する措置のうち、「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体の事務及び事業に係る温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン(以下、温室効果ガス算定ガイドラインとする。)」の対象行為。電力、熱消費の削減がこれに当たる。
    他の事業者から供給されるエネルギー量を削減することにより、他の事業者が排出する温室効果ガス等の量を削減する。(温室効果ガス算定ガイドラインの対象行為)
    ・低減3:他の事業者が行う行為において負荷量を低減する措置のうち、「温室効果ガス算定ガイドライン」の対象外行為
    事業において消費する資材や製品等の生産及び廃棄物の処理・処分などで当該事業者が直接行わない行為で、購入や委託などによって他の事業者が行う行為によっても環境負荷量が排出される。他の事業者から供給される製品や資材の量を削減することにより、他の事業者が排出する温室効果ガス等の量を削減する。
    なお、当該行為による環境負荷量削減についての検討領域は、ライフサイクル的考え方による設定が必要である。
(c)代償
    植林等他の温室効果ガスを固定化する技術などを用いて環境中の温室効果ガスを固定化して削減する。
(イ)環境保全措置の優先順位の考え方
    環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するものとし、これらの検討を踏まえ、回避又は低減効果が不可能であると判断された場合、その理由を明らかにして必要に応じ代償措置の検討を行う。
    しかし、実際に行う環境保全措置の効果が環境への影響を回避したのか低減したのかを厳密に区分することは困難である。回避と低減の概念は視点及び影響の低減の程度によって異なるものであり、実施する環境保全措置が回避であるのか低減であるのかの区別は重要ではない。環境保全措置は、あくまで環境への影響がどの程度低減されたかにより検討を行うものである。
    なお、温室効果ガス等においては、実施者や技術的な問題により保全措置の効果に不確実性があり、次の観点で検討される必要がある。
    対策の実施者は他の事業者よりも事業者が行うことが確実であり、事業者自らが行う対策が優先されることが望ましい。また、他の事業者が行う対策では、技術的に効果(削減)が確実に確保できると考えられるエネルギー削減が、資材の削減等により間接的に温室効果ガス排出量の削減が見込まれる対策より優先されることが望ましいとと考える。
(ウ)低減及び代償における特殊なケースの考え方(補完的な措置)
 (a)京都メカニズムの考慮
    温室効果ガスの削減対策の考え方については、京都議定書において下記の2方策によってなされた温室効果ガスの削減を国家単位における温室効果ガス排出量削減効果の算定対象とすることができることになっている(いわゆる京都メカニズム。)。
    ・クリーン開発メカニズム(CDM)
    ・共同実施(JI)
    現在、京都メカニズムの活用に必要な施策や国際ルール策定について国内外において検討・協議されている段階である。環境影響評価において、これらの方策を環境保全措置の一つとして考慮することは可能であると考えられるが、今後の動向に十分留意する必要がある。
 (b) 間接的に誘発する行為や他の要因による削減効果の考慮
    上述した「低減3」の行為は、温室効果ガス排出量削減効果として算定対象とすることが可能であるが、その効果や算定手法等が確立されていない段階であるので、排出量削減効果として算定対象とする際には、今後の技術等の動向に十分留意する必要がある。ただし、これらの間接的に温室効果ガス等を誘発する行為についても積極的に対象範囲に加える必要があると考える。
    また、あらゆる行為の効率化、省力化は環境負荷量の削減を誘導するが、それらの行為の本来的目的が、環境負荷量の削減でなくとも、その内容を環境保全措置として環境影響評価の図書に記載することが望ましい。
(2)環境保全措置立案の手順
    温室効果ガス等における環境保全措置の実施手順を図4-1-3に示す。

 

図4-1-3 環境保全措置・事後調査の立案の手順

[1]保全方針の設定
    温室効果ガス等の予測に必要な情報のほとんどは、スコーピング段階における地域特性の把握における既存文献資料による調査で収集が可能である。したがって、保全方針の設定の実質的作業はスコーピングの段階において行うことが望ましい。
    また、温室効果ガス等の環境保全措置は、他の環境要素と相違して基本的にはすべての行為について対象とする必要があり、保全方針の設定は対策効果の高い影響要因を抽出して保全措置検討の優先度を見極め、環境保全措置の目標を設定する作業と位置づけられる。

【留意事項】目標設定の留意点

(ア)回避・低減の実行可能性からの目標設定

    回避・低減の実行可能性の観点から目標を設定する場合には、次の2点の設定の考え方がある。

    (a)実行可能性から削減の数値目標を設定する場合

    (b)実行可能性から導入する保全措置の技術レベルを設定する場合

(イ)削減計画等との整合性からの目標設定

    (a)削減計画との整合性

    温室効果ガスについて述べれば、地域レベル(都道府県、市町村)において削減目標が設定されている。また、産業部門についても業界団体等が独自の検討に基づいて削減目標が設定されている場合がある。

    したがって、保全措置の検討の基本である環境保全目標設定の基準となる全体系について地域範囲であるのか、業界範囲であるのかを判断することが合理的である。

   (b)目標値の設定

    保全方針において決定した整合を図るべき温室効果ガス等の削減計画等に基づいて削減率等の目標値を設定する。また、削減の基準となる現状又はそれに準じる状態の環境負荷量の算定基準を明らかにする。


[2]事業計画の段階に応じた環境保全措置の検討
    環境保全措置の立案においては、事業計画の熟度に合わせた検討が必要である。これは、ほぼ確定されてしまった計画においては適切な環境保全措置の立案が困難となる場合が生じるためであり、事業計画の早期段階から環境保全措置の方針を整理し、内容・手法については事業計画の熟度に合わせてより具体化していくことにより、適切な環境保全措置の実施が可能となる。
[3]環境保全措置の複数案検討と検討経緯の整理
    環境保全措置立案までの検討段階においては、環境への効果や実現可能性を考慮して複数案検討されることとなる。実際の作業の中では事業の実施による環境への負荷をより効率的に削減し、実現性の高い環境保全措置から優先的に選択し予測・評価を繰り返すこともあるが、実行可能な範囲でより良い技術を取り入れるためには、優先的に選択した手段が目標値を満足する結果であっても、効果及び実現性において最適であるという判断はできないため、内容の異なる複数の環境保全措置を並行的に比較検討し、その検討経緯について客観的に示す必要がある。

[4]事業段階別での環境保全措置の検討
    事業段階別での環境保全措置は、建設段階に保全措置を講じることが効果的な事業もあれば供用段階に保全措置を講じることが効果的な事業もあると考えられ、検討対象範囲は、事業特性等を勘案して設定する必要がある。
    特に環境負荷分野においては、供用時のみでなく、建設時や解体・廃棄時まで含めた事業全体にわたる総排出量に対して環境負荷低減のための事業者の努力を評価することが効果的な場合もあるため、ライフサイクルにおいて保全措置の検討を行うことも必要である。
    環境保全措置の事業段階での区分は以下のとおりとなる。
(ア)建設段階に行う環境保全措置
    建設工事中の検討を行う場合には、使用する燃料の種類や消費量だけでなく、セメント、鋼材等の資材の消費についても検討対象とすることが効果的である。
(イ)供用段階に行う環境保全措置
    施設稼働時の各種対策が必要となる。
(ウ)解体・廃棄段階に行う環境保全措置
    廃棄にともなう廃材の処理について必要に応じて検討対象とするものとする。

図4-1-3 事業の各段階における回避・低減措置

(3)環境保全措置の検討

    環境保全措置の検討に当たっては、次に揚げる事項を可能な限り具体的に明らかにできるようにするものとする。

   ア 環境保全措置の効果及び必要に応じて不確実性の程度

   イ 環境保全の実施に伴い生ずるおそれのある環境影響

   ウ 環境保全措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響

   エ 環境保全措置の内容、実施期間、実施主体その他の環境保全措置の実施方法

(基本的事項 第三項二(3))


[1]個別環境保全措置の整理
(ア)環境保全措置の検討案の提示
    温室効果ガスの環境保全措置として検討できる技術等について網羅的に把握し、その対策メニューから対象事業において適用可能な技術を抽出する。温室効果ガス等の環境保全措置の網羅的把握のための例を表4-1-2に示す。

表4-1-2 温室効果ガスの環境保全措置の網羅的把握の例

排出源

事業の区分

対策の方向性

建設工事   建設工事 建設機械の効率化
工事の合理化、短期化
環境負荷の少ない資材の利用
固定発生源   発電所 低炭素燃料への転換
非化石燃料への転換
発電設備の効率化
先端技術導入による低排出化
未利用エネルギーの活用
  工場、製造系開発 製造過程の省エネルギー化
リサイクル率向上
低炭素燃料への転換
非化石燃料への転換
施設間のエネルギー融通
先端技術導入による低排出化
未利用エネルギーの活用
  業務・商業系開発  建築物の省エネルギー化
低炭素燃料への転換
非化石燃料への転換
地域熱供給
  住宅系開発 建築物の省エネルギー化
環境負荷の少ない製品の利用
非化石燃料への転換
地域熱供給

自動車

低公害車の導入
輸送の効率化
輸送量の削減

 
    また、対策の方向性毎の事例を以下に示す。
(a)省エネルギー対策(資源・エネルギー消費の効率化を図る設備等の導入)
    二酸化炭素排出の場合を考慮した場合、その発生原因の大部分がエネルギーの消費にともなうものである。このため、エネルギー消費の削減(節電等)や二酸化炭素排出の少ないエネルギーへの代替などの対策が考えられる。
    [事例]
    ・節電
    ・エネルギー種の温室効果ガス排出量の少ない種類への代替
    ・輸送の効率化による燃料の減量化
(b)未利用エネルギー等の導入
    エネルギー消費の削減を目的として、廃熱の利用や、複数の工場・事業所間でのエネルギーのカスケード利用などのリサイクルによる対策がある。
   [事例]
   ・コージェネレーション(熱電供給)
   ・廃熱供給(清掃工場など)
   ・エネルギーのカスケード利用(工業団地等)
   ・廃棄物発電(ごみ燃料発電、有機物メタン発酵+発電 等)
(c)温室効果ガス等の利用を回避する又は削減する措置
    HFC、PFC又はオゾン層破壊物質の利用について環境影響がない物質あるいは影響が低レベルの代替の物質に変更する措置等がある。
(イ)保全措置の内容整理
    環境保全措置の具体的内容について、以下の点について検討を行う。
    (a)環境保全措置の種類・方策
    (b)環境保全措置の規模
    (c)事業計画との関連(事業計画の変更点)
    (d)効果の原単位等
(ウ)効果の検討
    個別の環境保全措置による環境負荷量の削減量を検討する。
(エ)不確実性についての検討
    環境保全措置についての不確実性の存在としては以下の要件が考えられる。
(a)環境保全措置実施の不確実性
    ・環境影響評価の事業者と、事業運営の事業者が相違する場合
    ・保全措置の運用が多数の当事者(施設利用者、住民など)を含むものである場合
    ・保全措置のための予算等が確実でない場合
(b)効果達成の不確実性
    ・採用している保全措置が技術的に100%確立されていない場合
[2]環境保全措置の比較検討
    各種の環境保全措置を組み合わせた場合における最適案の選定に関する複数案の総合的な比較検討を行う。
(ア)効果の検討
    設定した複数案での環境負荷量の削減量を検討する。
(イ)他の環境要素の環境影響の検討
    環境保全措置として何らかの行為を行うものであるため、多少であっても他の環境要素にとっての環境影響要因を含むものである。したがって、環境保全措置によって生じる環境影響要因を把握する。
    温室効果ガス等の環境保全措置は、大気汚染物質とのトレードオフの関係が考えられると共に、事業計画の変更に伴う事業採算性の変化が考えられるため、環境保全措置は事業計画にフィードバックして、環境保全措置の実施にともなって発生する環境影響についてスコーピングを含めて必要な検討(予測・評価)を行わなければならない。
(4)環境保全措置の妥当性の検証

環境保全措置の検討に当たっては、環境保全措置についての複数案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かの検討等を通じて、講じようとする環境保全措置の妥当性を検証し、これらの検討の経過を明らかにできるよう整理すること。

(基本的事項 第三項二(5))


[1]個別の環境保全措置に関する検証
 (ア)回避・低減に関する技術的側面からの実行可能性に関する検証
    個別の環境保全措置について技術的に見た場合において、実行可能な最大限の努力がなされているか検証する必要がある。
 (イ)削減効果からの検証
    各種環境保全措置を組み合わせた複数の実行案について削減効果の面から妥当性を検証する。
 (ウ)効果の不確実性を含めた検証
    各環境保全措置については、ある程度の不確実性が含まれるため、削減効果として算定された全量が、事業実施段階で期待できるかどうか疑問が生じる場合がある。
    この場合、採用した環境保全措置について、不確実性の程度を考慮して、実行案の削減効果を補正して採用案の妥当性を総合的に検証することが必要になる。
[2]環境保全措置の実施案に関する検証
   各種の環境保全措置を組み合わせた場合における最適案の選定に関する総合的な検証を行う。その観点としては、温室効果ガスの保全措置の効果のほか、他の環境要素における環境影響を考慮する。

(5)環境保全措置の実施の方法
    環境保全措置について以下の項目をまとめる。特に、環境影響評価を行っている事業主体と、環境保全措置を行う事業主体が相違する場合においては、(エ)に示す実施の裏づけとなる条件等について検討して明示することが必要となる。
 (ア)実施主体
 (イ)実施時期
 (ウ)実施場所
 (エ)実施の裏づけとなる合意事項、予算措置等

2)評価

ア 環境影響の回避・低減に係る評価

    建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。

      なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。

イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討

    評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。

ウ その他の留意事項

    評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。

(基本的事項 第二項五(3))


    従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみによる評価が行われてきた。環境影響評価法に基づく環境影響評価では、アの視点による評価が前提となる。事業の実施による環境影響をゼロにすることはできないが、環境影響をいかに低減した計画となっているか、またそのためにどこまで検討を重ね、配慮してきたかが理解できる内容の環境影響評価が望まれる。
    また、京都議定書の目標を達成するための「地球温暖化対策の推進に関する法律」において、温室効果ガス別・分野別の排出削減目標量などを盛り込んだ「京都議定書目標達成計画」の策定、事業者が排出抑制計画を策定し、排出実態を自ら把握・公表することの努力規定が盛り込まれている。温室効果ガス等の評価にあたっては、今後整備される地球温暖化防止に向けた国内制度を踏まえて、それらとの整合性を考慮していくことが必要である。
(1)回避・低減に係る評価
    回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減に向けて取り入れた環境保全対策について、客観的にその効果、技術の妥当性が明確にされているかどうかを検討することによって、その環境保全対策により事業による環境影響が回避・低減されているかどうかを判断する。ここでいう、環境保全対策とは事業計画段階から予測までの過程の中で検討された幅広い環境保全対策が該当する。これらの効果の客観性、妥当性を示す手法として、環境保全対策の検討を時系列に沿って対比する、並行的に最新の技術か否かを判断する資料を明示する等が考えられる。
    この時、事業者が行う環境保全対策の効果を見込む場合には、その効果が客観的に有効であることの確認が必要であり、事業規模などから類似事業で採用されている環境保全対策と同等のものであり、類似事業調査等によりその効果が明らかにされている必要がある。
    回避・低減に係る評価において留意すべき点は、イの視点における基準等との整合が図られない場合において、アの視点からより一層の回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価を併せて総合的に評価する場合の考え方についてである。
このような場合においては、基準等の整合が図られない内容を明らかにし、回避・低減の措置による事業の実施に伴う付加分の低減の程度(低減率等)等から、その回避・低減の措置に関して実行可能なより良い技術が取り入れられている否かを検討し評価を行う。
(ア)評価事項
    温室効果ガス等における環境影響の回避・低減に係る評価としては、複数の環境保全措置の比較及び設定したベースラインとの比較によって得られた結果について記述する。
 (a)実行可能な範囲での最大限の回避・低減措置
    前提とした回避・低減措置について以下の観点から実行可能な範囲で最大限の措置となっているかどうかを評価する。
●事業的側面
    事業目的を達成するにあたって、事業計画に盛られている計画諸元に基づく各種活動が最小の温室効果ガス排出となるよう配慮されているかを評価する。
●技術的側面
    回避・低減措置が現状において採用できる先進的技術内容であるかどうかを評価する。
●経済的側面
    回避・低減措置が事業採算性の範囲において最大限の配慮であるかどうかを評価する。
 (b)ベースラインからの削減量
    設定したベースラインからの温室効果ガス等の削減量を評価する。なお、温室効果ガス等におけるベースライン設定の考え方は後述する。
 (c)複数の環境保全措置の比較
    事業計画において設定できる複数の環境保全措置の中で、採用案が最も温室効果ガス等の排出量が少ないかどうかを検証する。ただし、事業計画の基本フレームは、経済的な側面等により、既に最適なフレームで計画されていることが多いため、事業規模等の基本フレームについては複数案の設定が難しい場合がある。この場合には、計画の各諸元が環境配慮に対してどのような調整が図られているかを記述することが望ましい。
 (d)環境保全措置の実施と効果の確実性
    事業によっては建設事業者と運用者が相違するようなケースがある。この場合、環境保全措置実施の確実性を確保する方法について具体的に記述する。
    また、環境保全措置の内容によっては、効果に不確実性がある場合や新しい技術を導入する場合などは、その不確実性の程度を記述するとともに、予測した削減量を確保する方策を記述する。
(イ)事業各段階での回避・低減措置
    個別の事業においては、大別して施設の建設段階、供用段階及び解体・廃棄段階があり、各段階でのオペレーション(建設工事や運用、維持管理等の企画・作業・操作等)によって、資材・エネルギー等の入力及び温室効果ガスの排出等の出力が発生する。
   評価においては、可能な限りオペレーションを詳細に分析し、個々のオペレーションにおいて実行可能な範囲で回避・低減の措置が図られているかを検討する。
(ウ)回避・低減措置による環境負荷の削減量(削減量評価)
    環境負荷の削減量については以下の点に着目して検討を行う。
    ・発生を抑制するための原材料の利用による削減量
    ・排出を抑制するためのオペレーティングによる削減量
    ・排出後に行われる処理(リサイクル等)による削減量
(エ)削減量評価のベースライン
    削減量の評価は、基本的には複数の環境保全措置の比較により、実行可能な範囲において最大の削減を行うことができているかどうかで判断する。ただし、事業によっては比較すべき適当な環境保全措置の設定が困難な場合があり、その場合にはベースラインの考え方の導入が効果的である。ベースラインによる比較は次の式による。
   A:ベースラインにおける発生・排出量
   B:事業からの発生・排出量
   C=A-B:事業における回避・低減措置による効果量(→評価の対象)
   ベースライン設定の考え方の例としては、以下の2種があり、事業特性や地域特性に合わせて適正な考え方を導入する。
 (a)事業において回避・低減措置を考慮しない場合の発生・排出量
    個別事業について評価を行う場合には、当該事業における回避・低減措置を考慮しない場合における発生・排出量をベースラインとする。ベースラインの設定方法は、当該事業と同等規模で回避・低減措置を考慮しない事業を想定するほか、同等規模の類似事例による実績を用いる方法等が考えられる(図4-1-4 (イ)参照)。
    ベースラインを設定する場合において基本として考慮する技術としては、既存技術が原則となるが、技術水準は時間的に変化するものであり、ベースラインとして考慮する技術水準が現状又は近未来の技術水準に比して陳腐にならないような配慮が必要である。
考慮すべき時間的変化としては技術の進歩に伴うもののほか、社会・経済の状況変化に伴う経済性の変化なども考えられる。
 (b)システム全体の現状での発生・排出量
   当該事業の実施においては環境負荷が増加するが、関連する他の事業や種々の活動を含めた範囲(システム全体)では効率向上等により環境負荷が低減する場合も考えられる。このような場合は、当該事業を実施しない場合のシステム全体の発生・排出量をベースラインとして考える(図4-1-4 (ロ)参照)。
    なお、この場合にはシステムとして捉える範囲(System boundary)及びその設定理由を明確にする必要がある。

 

図4-1-4 ベースラインの考え方

   

    なお、評価に用いるベースラインは、技術の開発状況により刻々と変化していくため、採用した削減対策が、その時点で技術的側面から実行可能な最大限の努力であるかを検証する必要がある。この場合、技術展開の過去の実績から将来の予測に至る状況を客観的に示す必要がある。技術展開を模式化した一例(ここでは、以下「技術展開ロードマップ」という。)を図4-1-5に示す。

図4-1-5 技術展開ロードマップのイメージ

   【ベースライン設定の考え方の例(システム全体で評価しようとする場合のベースラインの設定)】
    システム全体の環境負荷量の発生・排出の削減が期待できるケースの例としては、地域または業界内・企業内における計画的な施設整備などが考えられる。
    国や地方公共団体あるいは複数の事業所を有する大規模な企業等においては、提供する製品やサービスの供給計画等に応じて各種の施設整備が行われている。施設供用段階での環境負荷量は、技術的条件が同一であれば製品やサービスの量(事業での活動量)に関連して変化する。環境負荷量の経時的な推移の中で、当該事業において環境負荷の回避・低減措置を考慮しない場合(または、当該事業を実施しない場合)との差が、評価の対象となる(図4-1-6参照)。


図4-1-6 システム全体でのベースライン設定と回避・削減量評価の考え方の例

システム全体で評価する場合においては、次の点を明らかにする必要がある。
A:システム全体の環境負荷排出量の考え方(活動量との関連において)
B:システム全体の中での当該事業及び当該事業を含む関連計画の位置づけ
C:必要に応じて、当該事業を含む一連の計画の中での当該事業の位置づけ

(2)基準又は目標との整合に係る評価
    国や地方公共団体において、温室効果ガスの排出削減や廃棄物発生・処理に係る計画・目標等が定められている場合には、これらとの整合性を評価する。具体的には、各自治体の環境基本計画等において温室効果ガスや廃棄物の排出・発生量削減に係る目標や廃棄物等の再利用率の目標等が掲げられている場合には、それらの目標等との整合性を検討する。なお、計画・目標等との整合性の検討にあたっては、その量や率のみならず、手段の整合性についても考慮する。
(3)その他の留意事項
    事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合においては、事業計画と事業者以外の者が実施する環境保全措置等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。

3)事後調査

    選定項目に係る予測の不確実性が大きい場合、効果にかかる知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合等において、環境への影響の重大性に応じ、工事中及び供用後の環境の状態等を把握するための調査(以下「事後調査」という。)の必要性を検討するとともに、事後調査の項目及び手法の内容、事後調査の結果により環境影響が著しいことが明らかとなった場合等の対応の方針、事後調査の結果を公表する旨等を明らかにできるようにすること。

    なお、事後調査を行なう場合においては、次に掲げる事項に留意すること。

ア 事後調査の項目及び手法については、事後調査の必要性、事後調査を行う項目の特性、地域特性等に応じて適切な内容とするとともに、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能なように設定されるものとすること。

イ 事後調査の実施そのものに伴う環境への影響を回避し、又は低減するため、可能な限り環境への影響の少ない事後調査の手法が選定され、採用されるものとすること。

ウ 事後調査において、地方公共団体等が行なう環境モニタリング等を活用する場合、当該対象事業に係る施設等が他の主体に引き継がれることが明らかな場合等においては他の主体との協力又は他の主体への要請等の方法及び内容について明らかにできるようにすること。

(基本的事項 第三項二(6))


(1)事後調査の考え方
 [1]事後調査の基本的な考え方
    温室効果ガス等における環境保全措置は、他の環境要素とは相違して、複数の環境保全措置の対象の中から、特定の対象を選定してその対象に対して措置を講じているのではなく、種々の保全措置によって温室効果ガス等の環境負荷量を削減するという一つの目標に対して行われている。
 [2]事後調査の必要性の検討
    環境影響評価の予測手法選定においては、基本的にはその時点で最新の技術を用い、最も確からしい結果を定量的に導き出す手法を選定することが望ましいが、予測には常に不確実性があることに留意する必要がある。また、事業による影響の程度に応じて事業特性及び地域特性を勘案した環境保全措置を実施することとなるが、その効果についての知見が十分であるものばかりではない。従って、予測の不確実性の程度、環境保全措置の知見の程度から起因する予測結果への影響の程度の大きさから「予測の不確実性が大きい場合」及び「知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合」と判断される場合等においては、環境への影響の重大性に応じ、事後調査によって事業実施後の環境の状況を把握する必要性について検討することとなる。
    特に、事業の種類によっては、環境影響評価を行う事業主体と環境保全措置を行う事業主体が相違する場合もあるため、予測条件等の不確実性、実施又は効果の不確実性の確認と言う観点から見ても事後調査は重要である。また、温室効果ガス等の事後調査については、環境影響評価からの要請とともに、法令・規格等からの要請もある。その事例としては下記の例がある。
   ・環境負荷全般:ISO14001に基づく環境側面注)の把握
     注)事業活動に伴い環境負荷を与える行為等
   ・オゾン層破壊物質:「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」
   ・有害物質:「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」
(2)事後調査の方法
 [1]事後調査の対象
    事後調査を実施するにあたっては、対象事業による温室効果ガス等の排出状況を把握することはもちろんであるが、社会的状況の変化等についても予測時との整合が図られているか確認する必要がある。
    また、より効果的な調査内容とするために、予測結果に大きな影響を及ぼす項目を整理し、また、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能なものを調査すべき情報として選定することに留意する必要がある。
 [2]調査時期・調査期間
    予測対象年次を決めて予測・評価を実施した場合には、対象年次において調査を実施し、供用時の事業活動が定常状態となる時期を想定して予測・評価を実施した場合には、予測条件が成立した段階で調査を実施する必要がある。
    また、予測年次に至る期間が長期間に及ぶ場合においては事業の進捗内容を考慮して、途中年次であっても適切な調査を実施する必要がある。
    調査期間については、当該事業の特性を勘案して、予測・評価結果と事後調査結果の対比が可能な情報が得られる期間とすることが望ましい。
 [3]調査の手法
    事後調査の結果は、実際の事業の実施に伴う環境への影響を把握するとともに環境影響評価で実施した調査・予測と比較することを前提としているため、事後調査の手法は調査・予測の手法と同一とすることが望ましい。
    知見が不十分な環境保全措置の効果を把握するためには、保全措置がある場合とない場合で調査を実施し、その効果を適切に把握する必要がある。
    また、ライフサイクルにわたる範囲を検討対象として環境保全措置を検討している場合には、建設時や共用時などの各段階における温室効果ガス発生要因となる行為を抽出し、その量を把握することも必要となる。
    また、現在実施段階の事業の中には環境監視を目的とし、事業者により自主的にモニタリングが実施され、地域住民に対して公表がなされているケースも多く、対象事業の実施による環境への影響の程度の把握及び環境保全措置の効果の程度を把握するための調査手法として、これらモニタリングについても積極的に活用していく必要がある。特に、環境負荷量の発生量についてISO14001を取得した事業所では、環境側面として温室効果ガスの排出を検討対象としているところが多く、手法として参考できる
   同様に、公共機関や自治体の環境調査結果などの事業者以外が実施している調査結果について利用が可能なものについては、有効に活用することが望ましい。
(3)環境保全措置の追加検討
    事後調査の結果、環境負荷量が環境影響評価段階の予測値を上回ることがあった場合には、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討を実施することとなる。このことは環境影響評価書の中で環境影響が著しいことが明らかとなった場合等の対応の方針、事後調査の結果を公表する旨等を明らかにしていることから、事後調査結果から当該事業における追加的な環境保全措置の検討をすることは、事後調査の中で最も重要な事項である。
    なお、予測結果との相違が生じた場合に、その原因を究明することにより今後の環境保全措置の知見の向上に役立つものと考える。
(4)公表
    評価書で公表した事後調査実施内容に基づき実施した工事中及び供用時の事後調査結果については、調査実施後できる限り早い段階で、適切な場所において公表する必要がある。このとき前述する追加的な環境保全措置の検討を実施した場合には併せて公表することが望ましい。また、公表の時期についても可能な限り準備書・評価書において明らかにする必要がある。
(5)事後調査結果の活用
    環境影響評価における事後調査結果は、適切な調査方法の確立、予測技術の向上及び環境保全措置の効果を客観的かつ定量的に示す指標として利用が可能であり、将来の環境影響評価技術の向上に大きく貢献する。従って、これらを広く公開し、また、積極的に整理・解析され、活用されることが重要である。そのためには、一事業者の努力のみでは負担が大きく、情報の収集には限界があるため、国や自治体等が積極的に取り組んでいくことが望ましい。


1-2 廃棄物等
1)環境保全措置

 

    環境保全措置は、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響について、事業者により実行可能な範囲で、当該影響を回避し、又は低減すること及び当該影響に係る各種の環境保全の観点からの基準又は目標の達成に努めることを目的として検討されるものとする。

(基本的事項 第三項一(2))

(1)環境保全措置の考え方
  [1]環境保全措置の目的及び基本的考え方
    環境保全措置とは、事業者が実行可能な範囲で対象事業の実施による影響を回避又は低減することを目的として検討されるものである。環境保全措置は事業計画の中に反映される内容であるために、環境影響評価の中で最も重要であり、事業計画の進捗に応じてできる限り具体的に検討し、整理されることが必要である。
    環境保全措置は、事業計画の立案から事業計画の進捗に応じて適切かつ具体的に検討されるものであり、このうち計画立案時に計画の一部として検討される環境保全への配慮は、計画立案時における大きな視野で検討されるもので、事業者の環境保全に対する姿勢、考え方等が示されることとなる。また、調査、予測及び評価を行う過程において検討される環境保全措置は、事業計画の進捗に応じて、手法、効果及び妥当性等を踏まえてより具体的に示されるものである。
    環境負荷分野において環境保全の方針の内容を検討するにあたっては、対象事業の環境要因に応じて、国レベルや地域レベルにおける環境目標や環境への負荷の削減目標等を考慮する必要がある。
  [2]環境保全措置の内容及び順位
   (ア)環境保全措置の内容(回避、低減、代償の考え方)
    環境保全措置とは、環境影響を回避する措置から避けられない影響を代償する措置まで含む幅広い概念である。
   環境影響評価法における回避、低減及び代償とは、表4-1-3の内容として捉えることができる。

表4-1-3 環境影響評価法における回避、低減及び代償の概念

区分  内  容

ミティゲーションの概念

(参考 NEPAによる区分)

回避

   行為(環境影響要因となる事業行為)の全体または一部を実行しないことによって影響を回避する(発生させない)こと。重大な影響が予測される環境要素から影響要因を遠ざけることによって影響を発生させないことも回避といえる。

  回避(Avoidance)
低減

   行為(環境影響要因となる事業行為)の実施の程度または規模を制限することにより、また、発生した影響を何らかの手段で軽減または消失させることにより、影響を最小化するための措置である。

  最小化(Minimize)
  修正(Rectify)
  軽減/消失(Reducte/Eliminate)
代償

   行為(環境影響要因となる事業行為)の実施により損なわれる環境要素と同種の環境要素を創出すること等により、環境の保全の観点からの価値を代償することを意味している。

  代償(Compensation)

 
  廃棄物等における回避・低減・代償について、その内容を例示すると以下のような事項が挙げられる。
(a)回避
    事業者など発生・排出者が、廃棄物の原因となる工程や作業の実施又は資材や製品の購入を取りやめる(発生抑制)。
(b)低減
   低減については、負荷量削減の方法や実施者の相違により以下のように区分して考えることができる。

・低減1:資材使用の効率化、設備の改善等(排出抑制)
  例)設備の改善(効率的設備、効率的運用)や稼動の制限等により、材料の歩留まりを上げて、排出する廃棄物を抑制する。
・低減2:再利用、資源化(再利用、資源化)
  例)当該事業所内に廃棄物処理やリサイクルのための設備を設けるか、対策を講じることにより、排出される廃棄物等の量を削減する。 
・低減3:排出する廃棄物の処理による減量化(減量化)
・低減4:グリーン購入等による再資源化物などの利用を行い、地域や業界内におけるシステム全体の負荷量を削減する。
・低減5:前述した低減は量的な面での保全措置であるが、環境への影響量を議論するには、その質的な面についても対策が必要である。排出後の廃棄物の処理・処分が安全で他の環境影響の発生要因とならないようにするための保全措置が必要になる(無害化・安定化)。

(c)代償
    廃棄物等での代償措置は、現段階では明確に区分されるような措置は想定されない。
(イ)環境保全措置の優先順位の考え方
    環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するものとし、これらの検討を踏まえ、回避又は低減効果が不可能であると判断された場合、その理由を明らかにして必要に応じ代償措置の検討を行う。
    しかし、実際に行う環境保全措置の効果が環境への影響を回避したのか低減したのかを厳密に区分することは困難である。回避と低減の概念は視点及び影響の低減の程度によって異なるものであり、実施する環境保全措置が回避であるのか低減であるのかの区別は重要ではない。環境保全措置は、あくまで環境への影響がどの程度低減されたかにより検討を行うものである。
    ただし、廃棄物等を区分した場合、非常に多様な種類があり、加えて、それらが潜在的に持っている環境影響の種類や分野も多様である。これらの環境影響を考慮して、重大な環境影響を避けるという観点から、対策の優先順位を考える必要がある。その点から言えば、まず発生させないことと工程から排出させないことが第一であり(リデュース)、以下、そのまま再利用する(リユース)、資源化処理をして再利用する(リサイクル)の順に対策の優先順位が考えられる。リサイクルの場合でも、その処理の内容や資源循環の観点から素材の質を変化させず他の製品の原料として再利用したり、違う素材の原料に転換して再利用する(マテリアルリサイクル)、エネルギー転換する(サーマルリサイクル)の順で優先順位を考えることができる。

 

図4-1-8 廃棄物等における環境保全措置の優先順位の認識


(2)環境保全措置立案の手順
    廃棄物等における環境保全措置の実施手順を図4-1-9に示す。

 

図4-1-9 環境保全措置・事後調査の立案の手順

[1]保全方針の設定
    廃棄物等の予測に必要な情報のほとんどは、スコーピング段階における地域特性の把握における既存文献資料による調査で収集が可能である。したがって、保全方針の設定の実質的作業はスコーピングの段階において行うことが望ましい。
    また、廃棄物等の環境保全措置は、他の環境要素と相違して基本的にはすべての行為について対象とする必要があり、保全方針の設定は対策効果の高い影響要因を抽出して保全措置検討の優先度を見極め、環境保全措置の目標を設定する作業と位置づけられる。

【留意事項】目標設定の留意点
(ア) 回避・低減の実行可能性からの目標設定
   回避・低減の実行可能性の観点から目標を設定する場合には、次の2点の設定の考え方がある。
   (a)実行可能性から削減の数値目標を設定する場合
   (b)実行可能性から導入する保全措置の技術レベルを設定する場合
(イ) 削減計画等との整合性からの目標設定
   (a)地域における計画との整合性
    廃棄物等について「循環型社会形成推進基本法」(以下、「循環基本法」という。)及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下、「廃棄物処理法」という。)に基づいて設定された一般廃棄物処理計画及び産業廃棄物処理計画やリサイクル計画等に基づいて、地域レベル(都道府県、市町村)において削減目標が設定されている。これらの計画での削減目標値等との整合性が目標の一つとなる。
   (b)業界等で設定した計画との整合
    「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(以下、「建設リサイクル法」という。)、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(以下、「食品リサイクル法」という。)など個別物品の特性に応じた廃棄物減量化やリサイクルに係る規制を定めた法令に基づいて削減目標が設定されている場合がある。これらは、特定の業界等に係る廃棄物等の削減目標値となる。また、自主的に廃棄物等の減量計画を策定している業界が多く、経団連において38団体について把握している(出典:平成13年版 循環型社会白書 環境省編)。これらの計画での削減目標値等との整合性が目標の一つとなる。
   (c)目標値の設定
    環境保全措置の検討の基本である環境保全目標設定の基準となる全体系について地域範囲であるのか、業界範囲であるのかを判断することが合理的である。
    保全方針において決定した整合を図るべき廃棄物等の削減計画等に基づいて削減率等の目標値を設定する。また、削減の基準となる現状又はそれに準じる状態の環境負荷量の算定基準を明らかにする。
(ウ)事業の特殊性を考慮した目標設定
    何らかの理由により、削減目標が各種の計画と整合をもって設定できない場合においては、当該事業の特殊性を考慮した環境保全措置の目標を設定することができる。
    この場合には、設定した目標の合理性を説明することが必要となる。


[2]事業計画の段階に応じた環境保全措置の検討
    環境保全措置の立案においては、事業計画の熟度に合わせた検討が必要である。これは、ほぼ確定されてしまった計画においては適切な環境保全措置の立案が困難となる場合が生じるためであり、事業計画の早期段階から環境保全措置の方針を整理し、内容・手法については事業計画の熟度に合わせてより具体化していくことにより、適切な環境保全措置の実施が可能となる。
[3]環境保全措置の複数案検討と検討経緯の整理
    環境保全措置立案までの検討段階においては、環境への効果や実現可能性を考慮して複数案検討されることとなる。実際の作業の中では事業の実施による環境への負荷をより効率的に削減し、実現性の高い環境保全措置から優先的に選択し予測・評価を繰り返すこともあるが、実行可能な範囲でより良い技術を取り入れるためには、優先的に選択した手段が目標値を満足する結果であっても、効果及び実現性において最適であるという判断はできないため、内容の異なる複数の環境保全措置を並行的に比較検討し、その検討経緯について客観的に示す必要がある。
[4]事業段階別での環境保全措置の検討
    事業段階別での環境保全措置は、建設段階に保全措置を講じることが効果的な事業もあれば供用段階に保全措置を講じることが効果的な事業もあると考えられ、検討対象範囲は、事業特性等を勘案して設定する必要がある。
    特に環境負荷分野においては、供用時のみでなく、建設時や解体・廃棄時まで含めた事業全体にわたる総排出量に対して環境負荷低減のための事業者の努力を評価することが効果的な場合もあるため、ライフサイクルにおいて保全措置の検討を行うことも必要である。
    廃棄物等については、建設廃棄物(建設副産物のうちの産業廃棄物)は産業廃棄物の発生量に対して大きな割合を占めており、建設時及び解体・廃棄時における環境保全措置は重要である。
    環境保全措置の事業段階での区分は以下のとおりとなる。
(ア)建設段階に行う環境保全措置
    建設工事中に発生する建設現場に存在する既設構造物の解体に伴う廃材や伐開除根材の発生、掘削残土や汚泥等の発生があり、それらの再利用対策等が必要になる。
(イ)供用段階に行う環境保全措置
    施設稼働時の各種対策が必要となる。
(ウ)解体・廃棄段階に行う環境保全措置
    対象事業によって建設された構造物等の解体に伴い、発生する廃材の再利用対策等が必要になる。
    なお、解体・廃棄自体は、その跡地を利用して事業を行おうとする他の事業者の責任に帰すべきで、検討対象には当たらないという考え方も成り立つが、その場合であっても、より再利用しやすい素材の利用などの設計配慮が必要であり、環境保全措置の検討対象とする。

 

図4-1-10 事業の各段階における回避・低減措置

[4]環境保全措置の実施者による段階区分での環境保全措置の検討
(ア)事業所内または同一事業者での対策
   事業の当事者が、事業地内または他の事業所で行う対策。
   この場合、対策の実施者が事業者と一致しており、責任の所在も比較的明確となる。
   事業当事者が行う対策としては、以下の種類がある。
   ・発生抑制、排出抑制
   ・資源化(リユース、リサイクル)
   ・減量化、無害化・安定化
(イ)外部での資源化
    事業者が外部に委託して資源化を行う場合、その内容についても環境保全措置と考えることができる。ただし、環境影響評価において事業者が委託して行う対策については以下の事項を検討する必要がある。
   ・環境保全措置としての削減効果の程度
   ・評価上の考え方(実施及び効果の確実性)
(ウ)外部での処理・処分の配慮
    排出した廃棄物は一般廃棄物の場合には市町村、産業廃棄物の場合には委託事業者に本来的な責任が移るが、特に産業廃棄物のように処理業者を選択できるような場合では、より安全で、環境影響の少ない施設を選択して処理・処分を行うことができるよう配慮する必要がある。
   [事例]
   ・処理が確実に行われているかの確認(マニフェスト等による)。
   ・処理の方法、2次公害等の防止対策等の確認 等
(3)環境保全措置の検討

   環境保全措置の検討に当たっては、次に揚げる事項を可能な限り具体的に明らかにできるようにするものとする。

   ア 環境保全措置の効果及び必要に応じて不確実性の程度

   イ 環境保全の実施に伴い生ずるおそれのある環境影響

   ウ 環境保全措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響

   エ 環境保全措置の内容、実施期間、実施主体その他の環境保全措置の実施方法

(基本的事項 第三項二(3))


[1]個別環境保全措置の整理
(ア)環境保全措置の検討案の提示
    廃棄物等の環境保全措置として検討できる技術等について網羅的に把握し、その対策メニューから対象事業において適用可能な技術を抽出する。廃棄物等の環境保全措置立案の方向性の例を表4-1-4に示す。また、資源化等に関する個別の技術的な例を技術シート(廃棄物等-1)に示す。

表4-1-4 廃棄物等の環境保全措置の網羅的把握の例

 

    廃棄物等の環境保全措置を検討する段階区分として廃棄物の発生から処理・処分の段階での区分の考え方は以下のとおりである。
   ・発生抑制:廃棄物のもとになる原材料は余分に使わない、廃棄物の発生の原因となる行為を行わない。
   ・排出抑制:廃棄物を出さない。
   ・再利用・資源化:排出した廃棄物を再利用したり資源化したりする。
   ・減量化:排出した廃棄物の埋立て処分量を最小化する。
   ・無害化・安定化:排出した廃棄物について、その後の処理・処分において環境影響が発生することを防止する。
   ・再生品などの受け入れ:グリーン購入法の考え方に則り、再資源化物などの利用を行い、資源化処理を間接的に誘発する。
(a)発生抑制・排出抑制
    発生抑制と排出抑制については、現実の対策として区別することが難しいため、同列で述べる。
    発生抑制とは、廃棄物の発生要因となる行為を取りやめたり、廃棄物のもとになる資源の入力(資材や原料の購入等)を抑制することによる対策である。
    また、排出抑制は工程の改善などによって、原料のうち製品化されずに廃棄されたり、不良品として廃棄されるものについて歩留まり率等を改善して事業所からの排出量を抑制する対策である。
   [事例]
   ・工程改善による原材料の削減
   ・工程の改善による製品の歩留まり率の改善
(b)再利用・資源化
    発生した廃棄物について、事業者自身又は第三者による処理によって再利用したり、資源化処理後のリサイクルによって廃棄物量を減量化する対策。リサイクルとしては、廃棄物本来の材質で他の用途の原料としたり、一定の処理によって材質を転換して原料化するマテリアルリサイクル、焼却等による処理過程で発生する廃熱をエネルギー利用するサーマルリサイクルがある。
    なお、分別収集及び資源化を前提とした独自の収集ルートの確保は資源化処理のための事前対策と位置づけられる。
   [事例]
    ・リターナブルビンの回収・再利用(リユース)
    ・カン類(スチール、アルミ)の回収。再資源化(マテリアルリサイクル)
    ・一般可燃ごみのサーマルリサイクルの例
    ごみ発電(焼却施設、ガス化溶融施設)、余熱利用(同左)、RDF等
    ・一般可燃ごみのマテリアルリサイクルの例
    各種の建設資材化(焼却灰、溶融固化物)、紙のリサイクル
    ・独自ルートの確保の例
    オフィス町内会(事務所の紙ごみのリサイクル)
(c)減量化、無害化・安定化
    減量化については焼却や溶融によるものと、破砕・圧縮等によって容積を縮小する対策がある。前者は無害化・安定化の処理と兼ねるものである。
    環境影響評価においては処分場の延命化及び無害な処分のための対策として、そのような処理過程が排出後に確保されていることが、環境保全措置となる。
    また、これらの処理が安全で環境影響の少ない方法で行われていることも重要である。
(d)再資源化物などの受け入れ
    再資源化物などの積極的利用は、他の事業者での廃棄物排出量削減やシステム全体での減量化に寄与するという面で一つの対策として考慮することができる。
    ただし、再資源化物などの利用では、どの程度の廃棄物の削減に寄与しているのか、又は、そのためにどのような他の環境要素の環境影響が生じているのかを正確に把握するのが難しいということがあり、効果については大きな不確実性があることになる。
この措置を具体的に削減量として検討対象とする場合には、上記の面を明確にして説明を加える必要がある。
(イ)保全措置の内容整理
    環境保全措置の具体的内容について、以下の点について検討を行う。
    (a)環境保全措置の種類・方策
    (b)環境保全措置の規模
    (c)事業計画との関連(事業計画の変更点)
    (d)効果の原単位等
(ウ)効果の検討
    個別の環境保全措置による環境負荷量の削減量を検討する。
(エ)不確実性についての検討
    環境保全措置についての不確実性の存在としては以下の要件が考えられる。
  (a)環境保全措置実施の不確実性
      ・環境影響評価の事業者と、事業運営の事業者が相違する場合
      ・保全措置の運用が多数の当事者(施設利用者、住民など)を含むものである場合
      ・保全措置のための予算等が確実でない場合
  (b)効果達成の不確実性
      ・採用している保全措置が技術的に100%確立されていない場合
[2]環境保全措置の比較検討
    各種の環境保全措置を組み合わせた場合における最適案の選定に関する複数案の総合的な比較検討を行う。

(ア)効果の検討
    設定した複数案での環境負荷量の削減量を検討する。
(イ)他の環境要素の環境影響の検討
    環境保全措置として何らかの行為を行うものであるため、多少であっても他の環境要素にとっての環境影響要因を含むものである。したがって、環境保全措置によって生じる環境影響要因を把握する。
    廃棄物等の環境保全措置は、大気汚染、温室効果ガス等とのトレードオフの関係が考えられると共に、事業計画の変更に伴う事業採算性の変化が考えられるため、環境保全措置は事業計画にフィードバックして、環境保全措置の実施にともなって発生する環境影響についてスコーピングを含めて必要な検討(予測・評価)を行わなければならない。
(4)環境保全措置の妥当性の検証

    環境保全措置の検討に当たっては、環境保全措置についての複数案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かの検討等を通じて、講じようとする環境保全措置の妥当性を検証し、これらの検討の経過を明らかにできるよう整理すること。

(基本的事項 第三項二(5))

 

[1]個別の環境保全措置に関する検証

(ア)回避・低減に関する技術的側面からの実行可能性に関する検証
    個別の環境保全措置について技術的に見た場合において、実行可能な最大限の努力がなされているか検証する必要がある。
(イ)削減効果からの検証
    各種環境保全措置を組み合わせた複数の実行案について削減効果の面から妥当性を検証する。
(ウ)効果の不確実性を含めた検証
    各環境保全措置については、ある程度の不確実性が含まれるため、削減効果として算定された全量が、事業実施段階で期待できるかどうか疑問が生じる場合がある。
    この場合、採用した環境保全措置について、不確実性の程度を考慮して、実行案の削減効果を補正して採用案の妥当性を総合的に検証することが必要になる。

[2]環境保全措置の実施案に関する検証
    各種の環境保全措置を組み合わせた場合における最適案の選定に関する総合的な検証を行う。その観点としては、廃棄物等の保全措置の効果のほか、他の環境要素における環境影響を考慮する。

(5)環境保全措置の実施の方法
    環境保全措置について以下の項目をまとめる。特に、環境影響評価を行っている事業主体と、環境保全措置を行う事業主体が相違する場合においては、(エ)に示す実施の裏づけとなる条件等について検討して明示することが必要となる。
    (ア)実施主体
    (イ)実施時期
    (ウ)実施場所
    (エ)実施の裏づけとなる合意事項、予算措置等

2)評価

ア 環境影響の回避・低減に係る評価

    建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。

イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討

    評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。

ウ その他の留意事項

    評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。

(基本的事項 第二項五(3))

    従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみによる評価が行われてきた。環境影響評価法に基づく環境影響評価では、アの視点による評価が前提となる。事業の実施による環境影響をゼロにすることはできないが、環境影響をいかに低減した計画となっているか、またそのためにどこまで検討を重ね、配慮してきたかが理解できる内容の環境影響評価が望まれる。

(1)回避・低減に係る評価
    回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減に向けて取り入れた環境保全対策について、客観的にその効果、技術の妥当性が明確にされているかどうかを検討することによって、その環境保全対策により事業による環境影響が回避・低減されているかどうかを判断する。ここでいう、環境保全対策とは事業計画段階から予測までの過程の中で検討された幅広い環境保全対策が該当する。これらの効果の客観性、妥当性を示す手法として、環境保全対策の検討を時系列に沿って対比する、並行的に最新の技術か否かを判断する資料を明示する等が考えられる。
    この時、事業者が行う環境保全対策の効果を見込む場合には、その効果が客観的に有効であることの確認が必要であり、事業規模などから類似事業で採用されている環境保全対策と同等のものであり、類似事業調査等によりその効果が明らかにされている必要がある。
    回避・低減に係る評価において留意すべき点は、イの視点における基準等との整合が図られない場合において、アの視点からより一層の回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価を併せて総合的に評価する場合の考え方についてである。
    このような場合においては、基準等の整合が図られない内容を明らかにし、回避・低減の措置による事業の実施に伴う付加分の低減の程度(低減率等)等から、その回避・低減の措置に関して実行可能なより良い技術が取り入れられている否かを検討し評価を行う。

(ア)評価事項
    廃棄物における環境影響の回避・低減に係る評価としては、複数の環境保全措置の比較及び設定したベースラインとの比較によって、予測段階において検討した環境保全措置を前提に次の事項について記述する。
  (a)実現可能な範囲での最大限の回避・低減措置
    前提とした回避・低減措置について以下の観点から実行可能な範囲で最大限の措置となっているかどうかを評価する。
  ●事業的側面
    事業目的を達成するにあたって、事業計画に盛られている計画諸元に基づく各種活動が最小の廃棄物等の排出量となるよう配慮されているか、また、排出抑制(減量化、リユース、リサイクルなど)が配慮されているかを評価する。
  ●技術的側面
    提示した回避・低減措置が現状において採用できる先進的技術内容であるかどうかを評価する。
  ●経済的側面
    回避・低減措置が事業採算性の範囲において最大限の配慮であるかどうかを評価する。
  (b)ベースラインからの削減量
    設定したベースラインからの廃棄物等の削減量を評価する。なお、廃棄物等におけるベースライン設定の考え方は後述する。
  (c)複数の環境保全措置の比較
    事業計画において設定できる複数の環境保全措置の中で、採用案が最も温室効果ガス等の排出量が少ないかどうかを検証する。ただし、事業計画の基本フレームは、経済的な側面等により、既に最適なフレームで計画されていることが多いため、事業規模等の基本フレームについては複数案の設定が難しい場合がある。この場合には、計画の各諸元が環境配慮に対してどのような調整が図られているかを記述することが望ましい。
  (d)環境保全措置の実施と効果の確実性
    事業によっては建設事業者と運用者が相違するようなケースがある。この場合、環境保全措置の実施の確実性を確保する方法について具体的に記述する。
    また、環境保全措置の内容によっては、効果に不確実性がある場合や新しい技術を導入する場合などは、その不確実性の程度を記述するとともに、予測した削減量を確保する方策を記述する。

  (e)廃棄物等の排出後の処理・処分における環境影響の回避・低減
    廃棄物等は排出後に種々の環境影響を生じる可能性がある。これらの影響に対しても回避・低減を図るため適切に対処する必要があり、事業者がどのように考え対処するかを記述する。
  (f)各事業段階での環境影響の回避・低減措置
    建設、供用及び解体廃棄の各事業段階において違った種類の廃棄物等が発生する。このため、各事業段階での回避・低減措置についてそれぞれ評価を行う必要がある。

(イ)廃棄物等におけるベースライン設定

  (a)ベースライン設定に採用する原単位
    廃棄物等の排出原単位は、経時的に一定と考えられるものと変化(一般的には増加)する傾向のあるものがある。後者として、主に家庭系廃棄物や事業系廃棄物のうち紙類等の人の活動様式により変化する一般廃棄物が挙げられる。
    これらの原単位は、前述した計画等で算定されておりその数値を用いるか、過去のデータから推定することができる。
    一方、産業廃棄物の多くの場合、その発生量は利用する原材料や工程・工法によって相違し、汎用的な原単位情報は一般的には存在しないため、次の考え方で原単位を設定する。
     ・既設の同種または類似施設での実績
  (b)システム全体で評価する場合の検討範囲
    システム全体で評価しようとする場合には次のような検討範囲設定の考え方がある。
  ●一般廃棄物
    一般廃棄物は、市町村単位または一般廃棄物処理の広域化計画に基づく圏域で処理・処分を総合的に検討しており、その範囲における全体量を評価のベースラインとすることが考えられる。
  ●産業廃棄物
   産業廃棄物は、広域的な処理・処分が行われており、地域的な範囲を設定することは難しい。
   この場合、主に事業種別の全廃棄物量または個別廃棄物量の範囲を検討範囲として設定することが多い。
   事業種別の廃棄物発生量をシステム境界とできる例としては下記の事例がある。
   ・建設副産物の発生量(建設業での全体量を比較のベースラインとする。)
   ・鉄鋼業における鉱さいの発生量(鉄鋼業での全体量をベースラインとする。)

(ウ)事業各段階での回避・低減措置
    個別の事業においては、大別して施設の建設段階、供用段階及び解体・廃棄段階があり、各段階でのオペレーション(建設工事や運用、維持管理等の企画・作業・操作等)によって、資材等の入力及び廃棄物の発生等の出力が発生する。
    評価においては、可能な限りオペレーションを詳細に分析し、個々のオペレーションにおいて実行可能な範囲で回避・低減の措置が図られているかを検討する。
(エ)回避・低減措置による環境負荷の削減量(削減量評価)
   環境負荷の削減量については以下の点に着目して検討を行う。
   ・発生を抑制するための原材料の利用による削減量
   ・排出を抑制するためのオペレーティングによる削減量
   ・排出後に行われる処理(リサイクル等)による削減量
(オ)削減量評価のベースライン
    削減量の評価は、基本的には複数の環境保全措置の比較により、実行可能な範囲において最大の削減を行うことができているかどうかで判断する。ただし、事業によっては比較すべき適当な環境保全措置の設定が困難な場合があり、その場合にはベースラインの考え方の導入が効果的である。ベースラインによる比較は次の式による。
   A:ベースラインにおける発生・排出量
   B:事業からの発生・排出量
   C=A-B:事業における回避・低減措置による効果量(→評価の対象)
   ベースライン設定の考え方の例としては、以下の2種があり、事業特性や地域特性に合わせて適正な考え方を導入する。
(a)事業において回避・低減措置を考慮しない場合の発生・排出量
    個別事業について評価を行う場合には、当該事業における回避・低減措置を考慮しない場合における発生・排出量をベースラインとする。ベースラインの設定方法は、当該事業と同等規模で回避・低減措置を考慮しない事業を想定するほか、同等規模の類似事例による実績を用いる方法等が考えられる(図4-1-11 (イ)参照)。
    ベースラインを設定する場合において基本として考慮する技術としては、既存技術が原則となるが、技術水準は時間的に変化するものであり、ベースラインとして考慮する技術水準が現状又は近未来の技術水準に比して陳腐にならないような配慮が必要である。
    考慮すべき時間的変化としては技術の進歩に伴うもののほか、社会・経済の状況変化に伴う経済性の変化なども考えられる。
(b)システム全体の現状での発生・排出量
    当該事業の実施においては環境負荷が増加するが、関連する他の事業や種々の活動を含めた範囲(システム全体)では効率向上等により環境負荷が低減する場合も考えられる。このような場合は、当該事業を実施しない場合のシステム全体の発生・排出量をベースラインとして考える(図4-1-11 (ロ)参照)。
    なお、この場合にはシステムとして捉える範囲(System boundary)及びその設定理由を明確にする必要がある。

 

図4-1-11 ベースラインの考え方

    なお、評価に用いるベースラインは、技術の開発状況により刻々と変化していくため、採用した削減対策が、その時点で技術的側面から実行可能な最大限の努力であるかを検証する必要がある。この場合、技術展開の過去の実績から将来の予測に至る状況を客観的に示す必要がある。技術展開を模式化した一例(ここでは、以下「技術展開ロードマップ」という。)を図4-1-12に示す。

 

図4-1-12 技術展開ロードマップのイメージ

(2)基準又は目標との整合に係る評価
    国や地方公共団体において定めている廃棄物削減・処理・処分に係る計画・目標等としては以下のものが挙げられる。
   ●環境全般に関する計画等
      ・環境基本計画(環境基本法関連:国、都道府県、市町村)
   ●地方公共団体が定める計画等
      ・都道府県廃棄物処理計画(廃棄物処理法関連:都道府県)
      ・一般廃棄物処理計画(廃棄物処理法関連:市町村)
      ・廃棄物循環型社会基盤施設整備事業計画(市町村)
    以上の計画等における発生抑制、排出抑制、減量化等の目標値に対して、以下の事項について整合性を検討する。
      ・原単位の値
      ・計画目標が定められている地域の範囲における削減量 等
(3)その他の留意事項
    委託処理による廃棄物の減容化や無害化・安定化等の事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合においては、事業計画と事業者以外の者が実施する環境保全措置等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。

3)事後調査

    選定項目に係る予測の不確実性が大きい場合、効果にかかる知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合等において、環境への影響の重大性に応じ、工事中及び供用後の環境の状態等を把握するための調査(以下「事後調査」という。)の必要性を検討するとともに、事後調査の項目及び手法の内容、事後調査の結果により環境影響が著しいことが明らかとなった場合等の対応の方針、事後調査の結果を公表する旨等を明らかにできるようにすること。

  なお、事後調査を行なう場合においては、次に掲げる事項に留意すること。

ア 事後調査の項目及び手法については、事後調査の必要性、事後調査を行う項目の特性、地域特性等に応じて適切な内容とするとともに、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能なように設定されるものとすること。

イ 事後調査の実施そのものに伴う環境への影響を回避し、又は低減するため、可能な限り環境への影響の少ない事後調査の手法が選定され、採用されるものとすること。

ウ 事後調査において、地方公共団体等が行なう環境モニタリング等を活用する場合、当該対象事業に係る施設等が他の主体に引き継がれることが明らかな場合等においては他の主体との協力又は他の主体への要請等の方法及び内容について明らかにできるようにすること。

(基本的事項 第三項二(6))

(1)事後調査の考え方
   [1]事後調査の基本な考え方
    廃棄物等における環境保全措置は、他の環境要素とは相違して、複数の環境保全措置の対象の中から、特定の対象を選定してその対象に対して措置を講じているのではなく、種々の保全措置によって温室効果ガス等の環境負荷量を削減するという一つの目標に対して行われている。
   [2]事後調査の必要性の検討
    環境影響評価の予測手法選定においては、基本的にはその時点で最新の技術を用い、最も確からしい結果を定量的に導き出す手法を選定することが望ましいが、予測には常に不確実性があることに留意する必要がある。また、事業による影響の程度に応じて事業特性及び地域特性を勘案した環境保全措置を実施することとなるが、その効果についての知見が十分であるものばかりではない。従って、予測の不確実性の程度、環境保全措置の知見の程度から起因する予測結果への影響の程度の大きさから「予測の不確実性が大きい場合」及び「知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合」と判断される場合等においては、環境への影響の重大性に応じ、事後調査によって事業実施後の環境の状況を把握する必要性について検討することとなる。
    また、廃棄物等の事後調査については、環境影響評価からの要請とともに、ISO14001のような規格等や有害廃棄物の場合、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」のように法令からの要請もある。
    廃棄物等における事後調査の観点としては、如何に廃棄物量を削減したかという点のほかに、安全で環境影響を少なくして処理・処分が行われたかという点がある。
(2)事後調査の方法
   [1]事後調査の対象
    事後調査を実施するにあたっては、対象事業による廃棄物等の発生状況を把握することはもちろんであるが、社会的状況の変化等についても予測時との整合が図られているか確認する必要がある。
    また、より効果的な調査内容とするために、予測結果に大きな影響を及ぼす項目を整理し、また、事後調査の結果と環境影響評価の結果との比較検討が可能なものを調査すべき情報として選定することに留意する必要がある。
   [2]調査時期・調査期間
    予測対象年次を決めて予測・評価を実施した場合には、対象年次において調査を実施し、供用時の事業活動が定常状態となる時期を想定して予測・評価を実施した場合には、予測条件が成立した段階で調査を実施する必要がある。
    また、予測年次に至る期間が長期間に及ぶ場合においては事業の進捗内容を考慮して、途中年次であっても適切な調査を実施する必要がある。
    調査期間については、当該事業の特性を勘案して、予測・評価結果と事後調査結果の対比が可能な情報が得られる期間とすることが望ましい。
   [3]調査の手法
    事後調査の結果は、実際の事業の実施に伴う環境への影響を把握するとともに環境影響評価で実施した調査・予測と比較することを前提としているため、事後調査の手法は現況調査の手法と同一とすることが望ましい。
   知見が不十分な環境保全措置の効果を把握するためには、保全措置がある場合とない場合で調査を実施し、その効果を適切に把握する必要がある。
    また、環境負荷分野においてライフサイクルにわたる範囲を検討対象として環境保全措置を検討している場合には、建設時や供用時などの各段階における廃棄物の発生要因となる行為を抽出し、その量を把握することも必要となる。
    また、現在実施段階の事業の中には環境監視を目的とし、事業者により自主的にモニタリングが実施され、地域住民に対して公表がなされているケースも多く、対象事業の実施による環境への影響の程度の把握及び環境保全措置の効果の程度を把握するための調査手法として、これらモニタリングについても積極的に活用していく必要がある


。特に、環境負荷量の発生量についてISO14001を取得した事業所では、環境側面として廃棄物等の排出を検討対象としているところが多く、手法として参考できる
    同様に、公共機関や自治体の環境調査結果などの事業者以外が実施している調査結果について利用が可能なものについては、有効に活用することが望ましい。
(3)環境保全措置の追加検討
    事後調査の結果、環境負荷量が環境影響評価段階の予測値を上回ることがあった場合には、必要に応じて環境保全措置の追加・再検討を実施することとなる。このことは環境影響評価書の中で環境影響が著しいことが明らかとなった場合等の対応の方針、事後調査の結果を公表する旨等を明らかにしていることから、事後調査結果から当該事業における追加的な環境保全措置の検討をすることは、事後調査の中で最も重要な事項である。
    なお、予測結果との相違が生じた場合に、その原因を究明することにより今後の環境保全措置の知見の向上に役立つものと考える。
(4)公表
    評価書で公表した事後調査実施内容に基づき実施した工事中及び供用時の事後調査結果については、調査実施後できる限り早い段階で、適切な場所において公表する必要がある。このとき前述する追加的な環境保全措置の検討を実施した場合には併せて公表することが望ましい。また、公表の時期についても可能な限り準備書・評価書において明らかにする必要がある。
(5)事後調査結果の活用
    環境影響評価における事後調査結果は、適切な調査方法の確立、予測技術の向上及び環境保全措置の効果を客観的かつ定量的に示す指標として利用が可能であり、将来の環境影響評価技術の向上に大きく貢献する。従って、これらを広く公開し、また、積極的に整理・解析され、活用されることが重要である。そのためには、一事業者の努力のみでは負担が大きく、情報の収集には限界があるため、国や自治体等が積極的に取り組んでいくことが望ましい。

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