平成13年度第1回全体会合
資料2-1

 2-2 面整備事業のケーススタディ

 1)事業計画

注)本ケーススタディでは環境事業団が行う工業団地の造成事業を取り上げる。当該事業の場合には、工業団地に進出する企業は特定されていることが一般的であるため、工場設備や建築計画等の事業計画が具体的に提示される場合の事例となっている。従って、予測における環境負荷量算定に適用できる原単位等の情報は、このような状況のもとで得られるものであり、他の事業とは相違することが考えられ、参考とする際には留意されたい。

本ケーススタディの事業計画は、以下の条件をモデルとして設定した。

 主要都市の臨海工業地域の製鉄所跡地の一角を取得し、各進出企業の要望を取り入れた工業団地の造成を行うものである。

表 4-2-8 進出企業の事業内容及び就業人員

企業団地進出企業

事業内容

主な製品

就業予定

人  員

製紙業

グループ

Aグループ

再生資源卸売業

古紙収集運搬

100

パルプ・紙・

トイレットペーパー

ティッシュペーパー他

紙加工品製造業

 B 社

金属製品製造業

建設・建築用金属

63

 C 社

溶接材料・高圧ガス販売業

一般高圧ガス等販売

4

 D 社

金属製品製造業

建設・建築用金属

20

 E 社

設備工事業

配管工事業

20

 F 社

非鉄金属製造業

非鉄金属鍛造品

18

 G 社

金属表面処理業

硬質クロムめっき

9

 H 社

金属表面処理業

プリント基板めっき

40

 I 社

電気機械器具製造業

制御盤用及び操作盤用等ボックス

10

13企業

284

  工業団地に進出する企業は確定しており、工業団地から発生する環境負荷を削減するための対策が進出企業において協議の上、決定している。進出企業は全て同市内で操業を行っている施設の移転であり、規模的にも既存施設と同程度の施設を計画している。進出企業の業種、決定している主な環境対策を表4-2-9に示す。

表4-2-9 進出企業の主な環境対策

進出企業の業種

・パルプ・紙・紙加工品製造業

・金属製品製造業

・非鉄金属製造業

・金属表面処理業

・団地内の紙類の再生利用(再生を進出企業の一社が行う)

・廃プラスチックの近隣工場での原料利用

・廃熱の利用

・近隣下水処理場の処理水の再利用

・排水の循環利用、濃縮廃液の燃料化

・焼却灰のセメント化

・生ごみのコンポスト化と敷地内利用

 

  2-2-1 温室効果ガス

1)環境影響評価項目の設定

本事業における温室効果ガス等に関する影響要因としては、事業計画に基づいて以下の項目を抽出した。

(1)活動の種類による区分

・工場の操業

・建築物(照明・空調等)の利用

・産業廃棄物の焼却

(2)温室効果ガスの種類による区分

●二酸化炭素

・燃料の消費

・他人から供給される電気の使用

・産業廃棄物の焼却(焼却対象物の排出として)

●メタン

・ガス機関またはガソリン機関(定置式)における燃料の使用

・産業廃棄物の焼却(焼却対象物の排出として)

●一酸化二窒素

・ガス機関またはガソリン機関(定置式)における燃料の使用

・産業廃棄物の焼却(焼却対象物の排出として)

 

 2)調査

注)環境負荷分野の調査項目は、「地域または関連する業界等における削減計画・施策等」や「関連する施設の状況」であるため、地域特性把握の調査項目と重複する。ここでは二酸化炭素排出に関する地域の状況及び計画の内容を記すが、実際には事業者が地域概況とあわせ、整理・とりまとめを行う。

 (1)地域情報に関する事項

[1]温室効果ガスの排出状況

  ○市においては温室効果ガスのうち二酸化炭素の排出量が把握されており、1980年から1995年における経年変化は図4-2-4に示すとおりであり、我が国全体の約2%になっている。

  また、産業活動や市民生活がこれまでの傾向のまま続くと仮定して予測した将来での二酸化炭素排出量は図4-2-5のとおり推移すると考えられる。

図4-2-4 ○市での二酸化炭素排出量の状況

図4-2-5 ○市での二酸化炭素排出量の将来予測(現状での傾向が続くとした場合)

 

[2]温室効果ガスの削減に係る計画等

 ○市においては、地球温暖化防止施策を中心とした「地球環境保全のための行動計画」が定められている。

(ア)目標値(ケース・スタディとして設定)

  ○市地球環境保全のための行動計画では、COP3で合意した我が国での二酸化炭素削減量である平成2年レベルに対し-6%を平成20年~平成24年の間に達成することを目標としている。

 (イ)主要施策(視点とテーマ)

【3つの視点・・・日常生活や事業活動の見直しのキーワード】

循 環…地球の環境には限りがあることを常に考え、不用物の再利用や自然への還元を常に心がける。

共 生…人間も生態系の一員であり、人間だけでは生存できないことを認識し、全ての生物の生命を大切にする。

抑 制…どん欲は結局人間社会を破壊することを自覚し、量の拡大ではなく質の充実を図るとともに、自然や文化を愛し、心豊かに生きる。

そして、地球温暖化防止をはじめとする地球環境保全のために、取り組むべき5つのテーマを設定している。

【5つのテーマ・・・取組が必要な分野とその理由】

ライフスタイル…環境への負荷の大きい現在の社会経済システムは、私たち一人ひとりのものの考え方や行動、事業を行う姿勢などに支えられている。

交通…日本が排出する二酸化炭素のうち約19%が運輸に伴うもので、さらにそのうちの85%以上がマイカーや貨物自動車から排出されている。

みどり…みどりは酸素を供給し、二酸化炭素を吸収・固定する機能とともに、私たちが心豊かな生活を送るために欠かせない要素である。

廃棄物…大量生産を基盤とした社会経済システムは、大量の廃棄物を排出し、その焼却による二酸化炭素の排出やダイオキシンの発生などの問題に結びついている。

エネルギー…エネルギーは、日常生活や事業活動に不可欠なものですが、石油や石炭などを燃焼させることにより、大量の二酸化炭素等が排出されている。

 

3)予測

 (1)温室効果ガスの排出量の推計(ベースラインにおける推計)

注)ここで示す方法は温室効果ガスの推計方法の一例であり、実務においては事業内容に合わせた推計方法や記載方法とする必要がある。

 

 [1]温室効果ガス排出量の推計方法

 温室効果ガス排出量の推計は以下の資料に示されている方法及び原単位を用いて行う(詳細は「技術シート 温室効果ガス-2」参照)ものとする。

・「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体の事務及び事業に係る温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」(平成11年8月 環境庁地球環境部)

温室効果ガスは各活動毎の活動量を用いて(1)、(2)式により推計する。

各温室効果ガスの排出量=Σ(各活動の活動量×排出係数) (1)

温室効果ガスの総排出量=Σ(各温室効果ガスの排出量×地球温暖化係数) (2)

ここで、排出係数を表4-2-10に、地球温暖化係数を表4-2-11に示す。

表4-2-10 温室効果ガスの排出係数

温室効果ガス

都市ガス

(kg-CO2/m3

灯  油

(kg-CO2/l)

電  力

(kg-CO2/kWh)

二酸化炭素

1.9914

2.5284

0.3840

メタン

2.985×10-3

2.477×10-3

一酸化二窒素

5.386×10-5

4.321×10-5

環境庁地球環境部(1999)

表4-2-11 地球温暖化係数

 

温室効果ガス

地球温暖化係数

二酸化炭素

1

メタン

21

一酸化二窒素

310

(地球温暖化対策推進法施行令)

  また、ベースラインにおける温暖化ガス排出量の推計としては、事業計画に盛り込まれている各種削減対策がない場合を想定して、電力・燃料についてはその需要量から、廃棄物焼却については、焼却量から温室効果ガス排出量の推計を行う。

[2]工場の操業及び建築物(事務所等)の利用による活動量の推計

注)ここで示す方法は、建築物や機械設備の稼働による電力量算定方法の一例であり、計画や設計の精度等で基礎とすべき情報は事業毎に異なるため、その情報精度に合わせて手法を選択する必要がある。

必要な情報は燃料・電力等の使用量である。

主要機械については駆動出力が事業計画で示されているため、(3)、(4)式で推計した。

  • ・個別主要機械の電力量(kWh)=個別主要機械の駆動出力(kW)

  • ×工場の稼働時間(hr)×負荷率 (3)

    ・全体での電力使用量(kWh)=Σ個別主要機械の電力使用量(kWh)

            +その他補機等の電力使用量(kWh)注) (4)

    注)既存の施設の実績を参考として設定した

    照明・空調等の動力用の電力・燃料等は(5)式で推計した。

    ・電力使用量(kWh)=事務所・工場の延べ床面積(m2)

    ×延べ床当りの原単位(kWh/m2) (5)

      また、工場における電力・燃料消費量の原単位は建築物の平均的数値として(社)日本ビルエネルギー総合管理技術協会(1998)における工場での平均値(異常値)を採用し、表4-2-12のとおりとする。

    表 4-2-12 建築物の延べ床面積あたり電力・燃料消費原単位(工場)

    エネルギー種類

    数  値

    都市ガス(m3/m2

    2.79

    灯  油(l/m2

    5.01

    電  力(kWh/m2

    218

    (社)日本ビルエネルギー総合管理技術協会(1998)

      表4-2-12の原単位に基づいて(3)~(5)式で推計された工場・事務所の電力・燃料消費量(活動量)は表4-2-13のとおりである。

    表4-2-13 工場・事務所の操業に係るエネルギー消費量(活動量)

    照明、空調等の建築設備動力等

    工場設備動力等

    都市ガス

    灯油

    電力

    都市ガス

    灯油

    電力

    (m3/年)

    (l/年)

    (kWh/年)

    (m3/年)

    (l/年)

    (kWh/年)

    69,306

    124,453

    5,415,338

    578,500

    2,369,101

    41,954,016

     [3]産業廃棄物の焼却に伴う活動量の推計

      産業廃棄物の焼却に係る活動量としては、処理ごみ、汚泥及び助燃料(灯油)の焼却量の3項目である。なお、焼却ごみについてはごみの種類毎に排出係数が異なっており、表4-2-14に総量及び内訳を示す(設定は「1-2 1) (1)対象とする廃棄物等の分類」に解説する)。

    表4-2-14 産業廃棄物焼却に関する活動量

    処理ごみ量(t/年)

    灯油使用量

    (l/年)

    全体量

    内   訳

    紙くず相当

    プラスチック相当

    汚泥相当

    63,000

    47,000

    3,000

    13,000

    600,000

    [4]温室効果ガス排出量の推計

      前述した推計方法により推計した温室効果ガスの排出量を表4-2-15に示す。二酸化炭素排出量は約35.0千t-CO2/年であり、温室効果ガス総排出量は約37.8千t-CO2/年である。二酸化炭素排出量では、○市全体(約25.6百万t-CO2/年(1995年))の約0.14%に相当する。

    表4-2-15 温室効果ガス排出量推計結果(ベースライン)

     

    温室効果ガス排出量

    二酸化炭素

    メタン

    一酸化二窒素

    総排出量

    (kg-CO2/年)

    (kg-CH4/年)

    (kg-N2O/年)

    (kg-CO2/年)

    照明等の建築動力

    2,532,175

    515

    (10,815)

    9

    (2,790)

    2,545,780

    23,252,402

    7,595

    (159,495)

    134

    (41,540)

    23,453,437

    廃棄物焼却による

    9,218,040

    2,201

    (46,221)

    8,065

    (2,500,150)

    11,764,411

    合  計

    35,002,617

    10,311

    (216,531)

    8,208

    (2,544,480)

    37,763,628

    注)メタン、一酸化二窒素の欄の( )は二酸化炭素換算値(kg-CO2/年)

      ・メタン×地球温暖化係数(21)

      ・一酸化二窒素×地球温暖化係数(310)

    (2)環境保全措置

    [1]削減対策の内容

      本事業における温室効果ガスの排出量削減対策として計画している内容を表4-2-16に示す。

      なお、これらの対策は事業の趣旨から既に事業計画に盛り込まれた内容であり、対策実施についての事業者間の合意も有り確実に実施される。

    表4-2-16 温室効果ガスの排出削減対策計画

    対策の名称

    対策の実施者

    対策の内容

    対策の効果

    コージェネレーション

    製紙業グループ

     製紙業グループで利用する全電力を発電できる施設を設け、その廃熱を製紙業者や他の事業者に供給する。

     熱供給を受ける各工場は燃料による空調の全部と電力による空調の一部をこの熱供給で代替する。

     発電効率32%、熱供給28%として総合熱効率60%の施設として建築動力分の燃料を削減する。

    廃棄物焼却廃熱の供給

    同上

     焼却廃熱を製紙業のうち抄紙生産工程用の蒸気として供給する。

     供給熱量5,271,240Mcal分の灯油消費を削減することができる。

    都市ガスの利用

    全事業者

     燃料としては比較的二酸化炭素排出係数の低い都市ガスを使用して、灯油等等の石油の使用を行わない。

     ベースラインの算定おいて考慮した。なお、削減対策による効果はコージェネレーションの燃料が対象となる。

     

    [2]削減対策の効果

    (ア)コージェネレーション

    製紙業グループの供用設備としてコージェネレーション設備を設置する。設備の諸元は次のとおりである。

    ・機関:ガスタービン

    ・燃料:都市ガス 最大1,250 m3/h

    ・発電端出力:最大4,610 kW

    この発電によって製紙業グループで消費する全ての電力を供給する。

      発電廃熱は熱供給として全ての工場に供給を行う。これによって90%以上の熱(冷熱を含む)の供給が行うことができる。削減の対象となるのは、都市ガス、灯油の全てと電力のうち空調用動力分の全体の50%程度である。

    (イ)廃棄物焼却炉廃熱の供給

      焼却廃熱を製紙業のうち抄紙生産工程用の蒸気として供給する。これによって製紙業の工場設備で計上されている灯油の全量を削減することができる。

     

    (3)環境保全措置による削減量

      環境保全措置による削減量を表4-2-17に示す。削減量は約8.1千t/年で削減率は約21.6%となっている。

    表4-2-17 環境保全措置による温室効果ガス削減量

    二酸化炭素

    (kg-CO2/年)

    メタン

    (kg-CH4/年)

    一酸化二窒素

    (kg-N2O/年)

    温室効果ガス

    削 減 量

    (kg-CO2/年)

    コジェネレーション

    2,649,519

    -24,693

    (-518,553)

    -451

    (-139,810)

    1,991,156

    廃棄物焼却廃熱供給

    5,990,035

    6,134

    (128,814)

    107

    (33,170)

    6,152,019

    合  計

    8,639,554

    -18,559

    (-389,739)

    -344

    (-106,640)

    8,143,175

    注1)メタン、一酸化二窒素の欄の( )は二酸化炭素換算値(kg-CO2/年)

       ・メタン×地球温暖化係数(21)

       ・一酸化二窒素×地球温暖化係数(310)

    注2)負の値は、環境保全措置による増加分を示す。

    4)評価

    注)ここでは総論で示した温室効果ガス等における評価事項のうちの一例を示すものであり、実際の評価を行う際には、総論を参考に種々の側面から評価することに留意が必要である。

    評価の視点を以下に述べる。

    (1)回避・低減に係る評価

    [1]実行可能な範囲での回避・低減措置

    ・コージェネレーション

    コージェネレーションによる熱電供給→熱については自工場内だけではなく工業団地内全事業所に供給することで有効な対策となっている。→工業団地とした意義がある。

    ・廃棄物焼却廃熱の供給

    多量の蒸気を利用する工程への蒸気供給を目的として自区内で焼却炉を設置した。

    ・都市ガスの利用

    都市ガスは灯油等石油に比してやや高価であるが、二酸化炭素排出係数が小さいため採用している。

     

     [2]環境保全措置の実施と効果の確実性

     ・対策は既に計画に盛り込まれ、実施者が確定している。

     ・装置としては効果が確実である。

     ・製紙業の操業の状況が不安定になると、全体として数値が変動する余地がある。

     (2)目標との整合に係る評価

    ○地域の削減計画と整合がとれているか。

    全体で約21.6%の削減となっており、○市の削減目標に貢献できる。

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