平成13年度第 2回環境負荷分科会
資料 3

2) 環境保全措置

(1) 環境保全措置の考え方

[1] 環境保全措置の目的

環境保全措置の目的は、「基本的事項第三、一、(2)」に記載されているとおり(「1.1 温室効果ガス等」に記載した。)、対象事業によって発生するおそれのある環境影響について実行可能な範囲において回避・低減するとともに、環境保全に係わる各種の基準や目標を達成することに努めることを目的としている。

[2] 環境保全措置の順位・内容(回避、低減、代償)

(ア) 環境保全措置の優先度の基本的考え方

環境影響評価の技術体系において回避・低減・代償措置の優先順位は「基本的事項第三」(「1.1 温室効果ガス等」に記載した。)に示されている内容で理解することができる。
 「基本的事項第三」に示されている環境保全措置の内容を踏まえると、基本的には、環境への影響に対する保全措置としては、まず、回避又は低減に関わる措置を検討するとともに、回避又は低減ができない場合において、その理由を明らかにして代償措置の検討を行うということになる(図3-9参照)。

図3-9 環境保全措置の優先順と残る影響、事後調査の関係

(一般的認識)

(イ) 廃棄物等における回避・低減・代償措置の考え方

廃棄物等を考慮した場合の回避・低減・代償について、その内容を狭義に(廃棄物等の場合という意味)定義すると以下のような区分が考えられる。

(a) 回避
廃棄物等の排出の要因となる行為を取りやめる(発生抑制)。
事業者など発生・排出者が、廃棄物の原因となる工程や作業の実施又は資材や製品の購入を取りやめる。

(b) 低減
低減については、負荷量削減の方法や実施者の相違により以下の4とおりに区分して考えることができる。

(c) 代償
  廃棄物等での代償措置としては、廃棄物等の排出によって発生する環境影響(環境の状態の変化)を代償する保全措置が考えられるが、そのような影響は排出後の処理・処分の段階で発生するものであり、その内容は廃棄物等以外の環境要素(大気汚染や水質汚濁など)で考慮すべき現象となる。したがって、そのような代償措置は、処理・処分の行為によって引き起こされる影響として考えるものとして、この検討では廃棄物等の環境保全措置として取り扱わないものとする。

(ウ) 廃棄物等における環境保全措置の優先度の考え方

環境負荷分野の場合には環境負荷量の大小によって環境への影響を評価しようとしている。したがって、環境負荷量を削減できれば、その方法に優先度は考える必要がないと考えることもできる。
 ただし、廃棄物等を区分した場合、非常に多様な種類があり、加えて、それらが潜在的に持っている環境影響の種類や分野も多様である。これらの環境影響を考慮して、重大な環境影響を避けるという観点から、対策の優先度を考えるべきである。その点から言えば、まず発生させないことと工程から排出させないことが第一であり(リデュース)、以下、そのまま再利用する(リユース)、資源化処理をして再利用する(リサイクル)の順に対策の優先順位が考えられる。リサイクルの場合でも、その処理の内容や資源循環の観点から素材の質を変化させず他の製品の原料として再利用したり、違う素材の原料に転換して再利用する(マテリアルリサイクル)、エネルギー転換する(サーマルリサイクル)の順で優先度を考えることができる。

図3-10 廃棄物等における環境保全措置の優先順位の認識

(2) 環境保全措置の立案の手順

廃棄物等における環境保全措置に実施手順フローを図3-11に示す。

図3-11 環境保全措置・事後調査の立案の手順

(3) 保全方針の設定

廃棄物等の予測に必要な情報のほとんどは、スコーピング段階における地域特性の把握における既存文献資料による調査で収集が可能である。したがって、保全方針の設定の実質的作業はスコーピングの段階において行うことが望ましい。
また、廃棄物等の環境保全措置は、他の環境要素と相違して基本的にはすべての行為について対象とするべきであり、保全方針の設定は対策効果の高い影響要因を抽出して保全措置検討の優先度を見極め、環境保全措置の目標を設定する作業と位置づけられる。以下に環境保全措置の目標設定の留意点を示す。

[1] 環境保全措置の目標設定

(ア) 回避・低減の実行可能性からの目標設定
  回避・低減の実行可能性からの観点から目標を設定する場合には、次の2点の設定の考え方がある。

(a) 実行可能性から削減の数値目標を設定する場合
(b) 実行可能性から導入する保全措置の技術レベルを設定する場合

(イ) 削減計画等との整合性からの目標設定

(a) 地域における計画との整合性
 廃棄物等について循環型社会形成推進基本法(以下、「循環基本法」という。)及び廃棄物処理法に基づいて設定された一般廃棄物処理計画及び産業廃棄物処理計画やリサイクル計画等に基づいて、地域レベル(都道府県、市町村)において削減目標が設定されている。これらの計画での削減目標値等との整合性が目標の一つとなる。
(b) 業界等で設定した計画との整合
  建設リサイクル法、食品リサイクル法など個別物品の特性に応じた廃棄物減量化やリサイクルに係る規制を定めた法令に基づいて削減目標が設定されている場合がある。これらは、特定の業界等に係る廃棄物等の削減目標値となる。また、自主的に廃棄物等の減量計画を策定している業界が多く、経団連において38団体について把握している(出典:平成13年版 循環型社会白書 環境省編)。これらの計画での削減目標値等との整合性が目標の一つとなる。
(c) 目標値の設定
  環境保全措置の検討の基本である環境保全目標設定の基準となる全体系について地域範囲であるのか、業界範囲であるのかを判断することが合理的である。
  保全方針において決定した整合を図るべき廃棄物等の削減計画等に基づいて削減率等の目標値を設定する。また、削減の基準となる現状又はそれに準じる状態の環境負荷量の算定基準を明らかにする。

(ウ) 事業の特殊性を考慮した目標設定
 何らかの理由により、削減目標が各種の計画と整合をもって設定できない場合においては、当該事業の特殊性を考慮した環境保全措置の目標を設定することができる。
 この場合には、設定した目標の合理性を説明することが必要となる。

(4) 環境保全措置の検討

[1] 個別環境保全措置の整理

(ア) 環境保全措置の検討案の提示
廃棄物等の環境保全措置として検討できる技術等について網羅的に把握し、その対策メニューから対象事業において適用可能な技術を抽出する。廃棄物等の環境保全措置の網羅的把握の例(リサイクル技術)を表3-2に示す。

表3-2 廃棄物等の環境保全措置の網羅的把握の例(リサイクル技術)

(イ) 保全措置の内容整理
  環境保全措置の具体的内容について、種類や規模など事業計画の変更として検討を行う。

(a) 環境保全措置の種類・方策
(b) 環境保全措置の規模
(c) 事業計画との関連(事業計画の変更点)
(d) 効果の原単位等

(ウ) 効果の検討
  個別の環境保全措置による環境負荷量の削減量を検討する。

(エ) 不確実性についての検討
  環境保全措置についての不確実性の存在としては以下の要件が考えられる。

(a) 環境保全措置実施の不確実性

(b) 効果達成の不確実性

[2] 環境保全措置の実施案の検討
  各種の環境保全措置を組み合わせた場合における最適案の選定に関する総合的な比較検討を行う。

(ア) 効果の検討
 実施案での環境保全措置による環境負荷量の削減量を検討する。

(イ) 他の環境要素の環境影響の検討
 環境保全措置として何らかの行為を行うものであるため、多少であっても他の環境要素にとっての環境影響要因を含むものである。したがって、環境保全措置によって生じる環境影響要因を把握する。
 廃棄物等の環境保全措置は、大気汚染、温室効果ガス等とのトレードオフの関係が考えられると共に、事業計画の変更に伴う事業採算性の変化が考えられるため、環境保全措置は事業計画に必ずフィードバックして、環境保全措置の実施にともなって発生する環境影響についてスコーピングを含めて必要な検討(予測・評価)を行わなければならない。

(5) 環境保全措置の妥当性の検証

[1] 個別の環境保全措置に関する検証

(ア) 回避・低減に関する技術的側面からの実行可能性に関する検証
 個別の環境保全措置について技術的に見た場合において、実行可能な最大限の努力がなされているか検証する必要がある。

(イ) 削減効果からの検証
 各種環境保全措置を組み合わせた複数の実行案について削減効果の面から妥当性を検証する。

(ウ) 効果の不確実性を含めた検証
 各環境保全措置については、ある程度の不確実性が含まれるため、削減効果として算定された全量が、事業実施段階で期待できるかどうか疑問が生じる場合がある。
  この場合、採用した環境保全措置について、不確実性の程度を考慮して、実行案の削減効果を補正して採用案の妥当性を総合的に検証することが必要になる。

[2] 環境保全措置の実施案に関する検証
 
各種の環境保全措置を組み合わせた場合における最適案の選定に関する総合的な検証を行う。その観点としては、温室効果ガスの保全措置の効果のほか、他の環境要素における環境影響を考慮する。

(6) 環境保全措置の実施の方法
 
個別の環境保全措置について以下の項目をまとめる。特に、環境影響評価を行っている事業主体と、環境保全措置を行う事業主体が相違する場合においては、(エ)に示す実施の裏づけとなる条件等について検討して・明示することが必要となる。

(ア) 実施主体
(イ) 実施時期
(ウ) 実施場所
(エ) 実施の裏づけとなる合意事項、予算措置等

(7) 環境保全措置の内容整理の考え方

[1] 事業段階別での環境保全措置の立案
 
廃棄物等の検討対象範囲は、ライフサイクルにおける評価を考慮し、建設時、供用時、廃棄・解体時についても検討することが望ましい。建設廃棄物(建設副産物のうちの産業廃棄物)は産業廃棄物の発生量に対して大きな寄与になっており、建設時及び廃棄・解体時における環境保全措置は重要である。
 環境保全措置の事業段階での区分は以下のとおりとなる。

(a) 建設段階に行う環境保全措置
建設工事中に発生する建設現場に存在する既設構造物の解体に伴う廃材や伐開除根材の発生、掘削残土や汚泥等の発生があり、それらの再利用対策等が必要になる。
(b) 供用段階に行う環境保全措置
施設稼働時の各種対策が必要となる。
(c) 廃棄・解体段階に行う環境保全措置
対象事業によって建設された構造物等の解体に伴い、発生する廃材の再利用対策等が必要になる。
なお、廃棄・解体自体は、その跡地を利用して事業を行おうとする他の事業者の責任に帰すべきで、検討対象には当たらないという考え方も成り立つが、その場合であっても、より再利用しやすい素材の利用などの設計配慮が必要であり、環境保全措置の検討対象とする。

図3-12 事業の各段階における回避・低減措置

[2] 事業計画の基本フレーム(事業規模等)における環境保全措置の立案

事業計画は、事業目標を達成すること及び環境負荷を最小に抑制することが調和のとれたものになっている必要がある。この視点に立って必要に応じて計画の基本フレームの設定を比較対象とした環境保全措置を提示することが望ましい。
ただし、事業計画の基本フレームは、経済的な側面等により、既に最適なフレームで計画されていることが多いため、基本フレームに関する複数案の設定が難しい場合がある。この場合には、計画の各諸元が環境配慮に対してどのような調整が図られているかを記述することが望ましい。

[3] 廃棄物の発生から処理・処分にわたる段階区分での環境保全措置の立案

廃棄物等の環境保全措置を検討する段階区分として廃棄物の発生から処理・処分の段階での区分の考え方は以下のとおりである。

(ア) 発生抑制・排出抑制
 発生抑制と排出抑制については、現実の対策として区別することが難しいため、同列で述べる。
 発生抑制とは、廃棄物の発生要因となる行為を取りやめたり、廃棄物のもとになる資源の入力(資材や原料の購入等)を抑制することによる対策である。
 また、排出抑制は工程の改善などによって、原料のうち製品化されずに廃棄されたり、不良品として廃棄されるものについて歩留まり率等を改善して事業所からの排出量を抑制する対策である。

[事例]

(イ) 再利用・資源化
発生した廃棄物について、事業者自身又は第3者による処理によって再利用したり、資源化処理後のリサイクルすることによる廃棄物量を減量化する対策。リサイクルとしては、廃棄物本来の材質で他の用途の原料としたり、一定の処理によって材質を転換して原料化するマテリアルリサイクル、焼却等による処理過程で発生する廃熱をエネルギー利用するサーマルリサイクルがある。
  なお、分別収集及び資源化を前提とした独自の収集ルートの確保は資源化処理のための事前対策と位置づけられる。

[事例]

ごみ発電(焼却施設、ガス化溶融施設)、余熱利用(同左)、RDF等

(ウ) 減量化、無害化・安定化
 減量化については焼却や溶融によるものと、破砕・圧縮等によって容積を縮小する対策がある。前者は無害化・安定化の処理と兼ねるものである。
 環境影響評価においては処分場の延命化及び無害な処分のための対策として、そのような処理過程が排出後に確保されていることが、環境保全措置となる。
 また、これらの処理が安全で環境影響の少ない方法で行われていることも重要である。

(エ) 資源化物の受け入れ
  廃棄物の再生資源化による製品は基本的性能には問題がないものの、再生紙に着色があるように新規材による製品に対して基本性能事項以外の面で不利な場合が多い。このため、再生資源化を推進する面では、一方ではその需要を喚起する必要がある。
  このような状況があるため、再生資源化物の積極的利用は、他の事業者での廃棄物排出量削減に寄与するという面で一つの対策として考慮することができる。
  ただし、再生資源化物の利用では、どの程度の廃棄物の削減に寄与しているのか、又は、そのためにどのような他の環境要素の環境影響が生じているのかを正確に把握するのが難しいということがあり、効果については大きな不確実性があることになる。
  この措置を具体的に削減量として検討対象とする場合には、上記の面を明確にして説明を加える必要がある。

[4] 環境保全措置の実施者による段階区分での環境保全措置の立案

(ア) 事業所内または同一事業者での対策
  事業の当事者が、事業地内または、他の事業所で行う対策。
  この場合、対策の実施者が事業者と一致しており、責任の所在も比較的明確となる。
  事業当事者が行う対策としては、以下の種類がある。

(イ) 外部での資源化

 事業者が外部に委託して資源化を行う場合、その内容についても環境保全措置と考えることができるが、環境影響評価において事業者が委託して行う対策については以下の事項を検討して、環境保全措置として取り扱いを決定する必要がある。

 

(ウ) 外部での処理・処分の配慮
 排出した廃棄物は一般廃棄物の場合には市町村、産業廃棄物の場合には委託事業者に本来的な責任が移るが、特に産業廃棄物のように処理業者を選択できるような場合では、より安全で、環境影響の少ない施設を選択して処理・処分を行うことができるよう配慮する必要がある。

[事例]

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