3) 評価
(1) 評価の考え方
環境影響評価法における評価の考え方は、大きく下記のア、イの2種類があり、これらのうちアの視点からの評価は必ず行う必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点からの評価についても必ず行う必要がある。
ア 環境影響の回避・低減に係る評価
イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討
環境影響の評価は複数の環境保全措置の検討を踏まえて行う。従って、調査・予測・評価の実施段階では環境保全措置のケース毎に予測を行うこととなり、評価においても複数の環境保全措置を考慮して行わなくてはならない。
[1] 回避・低減に係る評価
(ア) 評価事項
廃棄物における環境影響の回避・低減に係る評価としては、複数の環境保全措置の比較及び設定したベースラインとの比較によって、予測段階において検討した環境保全措置を前提に次の事項について記述する。
(イ) 廃棄物等におけるベースライン設定
(a) ベースライン設定に採用する原単位
廃棄物等の排出原単位は、経時的に一定と考えられるものと変化(一般的には増加)する傾向のあるものがある。後者として、主に家庭系廃棄物や事業系廃棄物のうち紙類等の人の活動様式により変化する一般廃棄物が挙げられる。
これらの原単位は、前述した計画等で算定されておりその数値を用いるか、過去のデータから推定することができる。
一方、産業廃棄物の多くの場合、その発生量は利用する原材料や工程・工法によって相違し、汎用的な原単位情報は一般的には存在しないため、次の考え方で原単位を設定する。
・ 既設の同種または類似施設での実績
(b) システム全体で評価する場合の検討範囲
システム全体で評価しようとする場合には次のような検討範囲設定の考え方がある。
● 一般廃棄物
一般廃棄物は、市町村単位または一般廃棄物処理の広域化計画に基づく圏域で処理・処分を総合的に検討しており、その範囲における全体量を評価のベースラインとすることが考えられる。
●産業廃棄物
産業廃棄物は、広域的な処理・処分が行われており、地域的な範囲を設定することは難しい。
この場合、主に事業種別の全廃棄物量または個別廃棄物量の範囲を検討範囲として設定することが多い。
事業種別の廃棄物発生量をシステム境界とできる例としては下記の事例がある。
・ 建設副産物の発生量(建設業での全体量を比較のベースラインとする。)
・ 鉄鋼業における鉱さいの発生量(鉄鋼業での全体量をベースラインとする。)
(イ)
事業各段階での回避・低減措置
個別の事業においては、大別して施設の建設段階、供用段階及び解体・廃棄段階があり、各段階でのオペレーション(建設工事や運用、維持管理等の企画・作業・操作等)によって、資材等の入力及び廃棄物の発生等の出力が発生する。
評価においては、可能な限りオペレーションを詳細に分析し、個々のオペレーションにおいて実行可能な範囲で回避・低減の措置が図られているかを検討する。
(ウ) 回避・低減措置による環境負荷の削減量(削減量評価)
環境負荷の削減量については以下の点に着目して検討を行う。
・ 発生を抑制するための原材料の利用による削減量
・ 排出を抑制するためのオペレーティングによる削減量
・ 排出後に行われる処理(リサイクル等)による削減量
(エ) 削減量評価のベースライン
削減量の評価は、基本的には複数の環境保全措置の比較により、実行可能な範囲において最大の削減を行うことができているかどうかで判断する。ただし、事業によっては比較すべき適当な環境保全措置の設定が困難な場合があり、その場合にはベースラインの考え方の導入が効果的である。ベースラインによる比較は次の式による。
A:ベースラインにおける発生・排出量
B:事業からの発生・排出量
C=A-B:事業における回避・低減措置による効果量(→評価の対象)
ベースライン設定の考え方の例としては、以下の2種があり、事業特性や地域特性に合わせて適正な考え方を導入する。
(a) 事業において回避・低減措置を考慮しない場合の発生・排出量
個別事業について評価を行う場合には、当該事業における回避・低減措置を考慮しない場合における発生・排出量をベースラインとする。ベースラインの設定方法は、当該事業と同等規模で回避・低減措置を考慮しない事業を想定するほか、同等規模の類似事例による実績を用いる方法等が考えられる(図3-13 (イ)参照)。
ベースラインを設定する場合において基本として考慮する技術としては、既存技術が原則となるが、技術水準は時間的に変化するものであり、ベースラインとして考慮する技術水準が現状又は近未来の技術水準に比して陳腐にならないような配慮が必要である。
考慮すべき時間的変化としては技術の進歩に伴うもののほか、社会・経済の状況変化に伴う経済性の変化なども考えられる。
(b) システム全体の現状での発生・排出量
当該事業の実施においては環境負荷が増加するが、関連する他の事業や種々の活動を含めた範囲(システム全体)では効率向上等により環境負荷が低減する場合も考えられる。このような場合は、当該事業を実施しない場合のシステム全体の発生・排出量をベースラインとして考える(図3-13 (13)参照)。
なお、この場合にはシステムとして捉える範囲(System
boundary)及びその設定理由を明確にする必要がある。

図3-13 ベースラインの考え方
なお、評価に用いるベースラインは、技術の開発状況により刻々と変化していくため、採用した削減対策が、その時点で技術的側面から実行可能な最大限の努力であるかを検証する必要がある。この場合、技術展開の過去の実績から将来の予測に至る状況を客観的に示す必要がある。技術展開を模式化した一例(ここでは、以下「技術展開ロードマップ」という。)を図3-14に示す。

図3-14 技術展開ロードマップのイメージ
[2]
目標との整合に係る評価
国や地方自治体において定めている廃棄物削減・処理・処分に係る計画・目標等としては以下のものが挙げられる。
● 環境全般に関する計画等
・ 環境基本計画(環境基本法関連:国、都道府県、市町村)
● 地方自治体が定める計画等
・ 都道府県廃棄物処理計画(廃棄物処理法関連:都道府県)
・ 一般廃棄物処理計画(廃棄物処理法関連:市町村)
・ 廃棄物循環型社会基盤施設整備事業計画(市町村)
以上の計画等における発生抑制、排出抑制、減量化等の目標値に対して、以下の事項について整合性を検討する。
・ 原単位の値
・ 計画目標が定められている地域の範囲における削減量等
4) 事後調査
(1) 事後調査の考え方
廃棄物等における各種の保全措置には、前項までに述べたとおり実施又は効果に対して不確実性が存在しており、環境負荷量の把握について事後調査を行うことが望まれる。
また、廃棄物等の事後調査については、環境影響評価からの要請とともに、ISO14001のような規格等や有害廃棄物の場合PRTR法のように法令からの要請もある。
廃棄物等において事後調査の観点としては、如何に廃棄物量を削減したかという点のほかに安全で環境影響を少なくして処理・処分が行われたかという点がある。
(2) 事後調査の手法
廃棄物等環境負荷分野での事後調査の対象は環境の状態の変化ではないため、事後調査の対象事項として廃棄物等の発生量と発生の原因となる行為等の量的把握となる。
なお、環境負荷量の発生量についてISO14001を取得した事業所では、環境側面として廃棄物の排出を検討対象としているところが多く、手法として参考にできる。
(3) 事後調査結果の活用
事後調査の結果、環境負荷量が環境影響評価段階の予測値を上回ることがあった場合には、事業計画に立ち返って対策を講じる必要がある。したがって、事後調査へのフィードバックについて環境影響評価の段階でその方法を述べることが望ましいと言える。