従来の環境影響評価では、土壌環境(土壌・地盤分野)に係る項目として土壌汚染や地盤沈下が対象とされる場合が多かった。
しかし、土壌が物質循環・エネルギーフローの重要な構成要素の一つであること、農業基盤、天然資源、保水能力及び地下水の形成、多様な生態系の維持などに必須のものであること、開発事業においては土壌の掘削や移動が行われ、土壌の持つ機能や構造が変化することなどを鑑み、土壌の生産力、保水能力などの土壌の機能についても環境影響評価の項目として取り上げられるべきであると考えられる。
また、土壌の中には、学術的・希少性の見地から重要なものがあり、これらの土壌の保全についても環境影響評価においては考慮される必要がある。
地盤に関しては、開発行為による土地の安定性変化に起因する地すべり、斜面崩壊等の危険度増加や液状化、地盤陥没といった地盤変動についても、広く環境影響評価の項目として捕らえるべきであろう。
以上のことを考慮し、土壌・地盤の環境影響評価に当たっては、次の事項に留意する必要がある。
○汚染土壌の搬出入や事業による土壌の汚染
○土壌汚染、地下水への汚染物質の注入、水収支バランスの変化に伴う地下水位の変化等による地下水汚染
○土壌の掘削等による地表面の変化に伴う土壌の環境保全機能(保水機能、通水機能、生産機能、地下水浄化機能等)の変化
○貴重な土壌の存在及び土地の改変による貴重な土壌への影響
○地下水の大量取水や水収支バランスの変化に伴う地下水位の低下による地盤沈下
○土地の改変による地盤の安定性の変化に伴う、地すべり、斜面崩壊、液状化、地盤陥没等の地盤変動
環境影響評価とは事業者が事業の実施による環境影響について自ら適正に調査・予測・評価を行い、その結果に基づいて環境保全措置を検討することなどにより、その事業計画を環境保全上より望ましいものとしていく仕組みである。
アセスメントの最終的な目標は評価であることから、何を評価すべきかという視点を明確にして調査・予測・評価を進めることが重要である。したがって、まずスコーピング段階で調査・予測・評価の項目・手法を選定する際には、地域の環境特性、地域のニーズ、事業特性等から保全上重要な環境要素は何か、どのような影響が問題になるのか、対象とする地域の環境保全の基本的な方向性はどうあるべきか等について検討した結果を十分踏まえて、まず「土壌・地盤」で重点を置いて評価すべき影響の内容を選定する。次にその評価を行うために適切な予測手法とその予測に必要な調査対象及び調査手法を決定するというプロセスで検討する必要がある。そして、方法書手続きにより得られた意見を踏まえて項目・手法の見直しを行った上で、環境影響評価の実施段階に入り、さらに実施段階の調査等で得られた情報により項目・手法の見直しを加えつつ、設定した目的、視点に沿って調査・予測・評価を進めて行くことが必要である。
土壌・地盤は「水環境」、「生態系」など、他の環境影響評価項目で対象とする環境要素と密接に関係し、土壌・地盤の調査・予測・評価は他の項目の調査・予測・評価の前提条件となることも多いことから、関係が想定される環境要素との作業を統合して検討することも必要である。*[1]
例えば、土壌・地盤と地下水等は相互に密接な関係があり、地下水汚染は多くの場合土壌汚染物質が地下水に溶入することにより発生し、また、地下水等の変化は地盤沈下や土地の安定性を左右する要因となることから、環境影響評価においては相互の関係に配慮した検討が必要である。また、土壌は高等植物から土壌動物、土壌微生物にいたる陸上生態系の重要な基盤的要素であるため、多様性分野に係る環境影響評価を行うような事業の場合には、土壌への環境影響と生物の生息に係る環境影響とを相互関係に配慮した検討が必要である。
地域概況調査は、事業特性や地域の環境特性を把握して、適切な環境影響評価のための調査項目、調査手法を検討するために極めて重要な基礎調査である。
単純に地域に関連する情報収集・整理を行うのではなく、事業影響の検討結果とも並行して検討し、必要に応じて調査をフィードバックさせつつ進行させなければならない。また、情報収集を行う過程において、対象範囲や対象期間などについても柔軟に変更、追加することが必要である。
調査は、対象地域の土壌・地盤に関係のある項目*[2]を対象に、既存資料の収集・整理及び現地踏査により行い、必要に応じて有識者等へのヒアリングを行う。特に、現地踏査は環境影響評価に十分な経験を有する技術者が、対象地域内を踏査することにより、既存資料調査で把握した地域情報の確認及び修正や、既存資料では把握することができなかった地域情報の補完を行う上で重要である。
また、調査範囲は、「対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域」とされているが、土壌環境に係る調査範囲は、周辺地域の地形・地質条件や事業の種類、位置、規模、工法、期間等の事業特性のほか、周辺の状況*[3]に特に留意する。
参考資料:「環境アセスメントの技術、(社)環境情報科学センター、平成11年6月」
得られた情報については、可能な範囲でその位置や分布等を適切な縮尺の図面で示し、事業実施区域との位置的関係を明らかにする。また、出典を必ず明記する。
環境影響評価項目は、対象事業の事業特性より影響を与える「影響要因」と、事業実施区域及びその周辺の地域特性から、環境の変化により影響を受ける「環境要素」のそれぞれの関係に基づき設定する。
土壌に係る影響要因は、土壌汚染に関しては、汚染土壌の搬出入並びに土壌汚染汚濁物質を発生する各種工事の実施及び各種排出施設の供用等が考えられ、さらに、土壌の保水機能、通水機能、生産機能、地下水浄化機能等の環境保全機能に影響を及ぼす土壌の掘削等の地表面を改変するような行為についても留意して選定する必要がある。
地盤に係る影響要因は、地盤沈下に関しては、水収支バランスを変化させ地下水の低下を及ぼすような工事の実施、構造物・施設の存在並びに供用時の地下水の大量取水等が考えられ(「地下水等」の章を参照)、さらに、地すべり、斜面崩壊、液状化、地盤陥没等の地盤の安定性に影響を及ぼす行為がについて留意して選定する必要がる。
地下水汚染に関しては、上記の土壌汚染に係る影響要因に加えて、地下水への汚染物質の注入や大規模ボーリング、さく井工事、地中構造物の建設等の工事が考えられる。
以上のように、土壌・地盤に関しては、特に地下水等と相互に密接に関係することから、地下水等に係る影響要因に配慮して選定する必要がある。さらに、土壌汚染や地下水汚染に係る環境要素は、主に汚濁物質に基づき区分され、法令等により規制・基準の設けられている汚濁物質・有害物質が対象となるが、新たに有害物質として認知されるようになった物質や法令等の規制対象外の物質であっても住民等の関心の高い物質等については留意する必要がある。
表 2.1は環境影響評価法の対象となる事業ごとに、土壌・地盤に係る標準項目を示したものである(土壌については、標準項目としては選定されていない)。ここで、標準項目とは対象事業ごとに、標準的な事業内容について実施すべき項目を定めたものであり、事業特性や地域特性は個々の事業で異なるため、常に項目の追加・削除の必要が生じることに留意する必要がある。
調査地域は、環境影響評価の段階や調査対象とする地域の特性に応じて設定する必要があり、その基本的な考え方は、以下のとおりである。
[1] 事業実施区域及びその周辺の広域的な概略把握
広域的視点から事業実施区域が位置する地域の土壌・地盤を把握するため、スコーピングの際に、地域特性の把握を行う範囲として設定する。主として、事業の特性や地形・地質的条件を踏まえて設定するが、さらに関連の深い他の環境影響評価項目とのつながりに留意する必要がある。特に土壌・地盤は「地下水等」と密接に関係することから、地表水・地下水の流域等に配慮する必要がある。
[2] 現況調査
土壌・地盤についての詳細な情報を,資料調査及び現地調査で把握する範囲であり、事業実施区域とその周縁部に設定することを原則とする。
対象事業の特性や地域の特性を踏まえ、その影響要因や影響が生じる可能性のある環境要素を特定した上で影響が及ぶ可能性のある範囲を中心にして設定することになるが、上記の概略調査と同様に「地下水等」との関連性を考慮に入れた上で範囲を設定する必要がある(「水環境」の章参照)。
また、土壌汚染に関して、特に大気経由の汚染物質(主に、ばい煙発生源)の影響に配慮する必要がある場合には、調査範囲の設定に当たって、表
2.2に示すような発生源からの距離の目安(例)等が参考となる。
表 2.2 大気質(ばい煙発生源)に関する調査範囲の目安(土壌汚染)
ただし、事業による土壌・地盤への影響は、事業の規模や特性、対象地域の地形・地質条件等によって非常に多様であることから、個々の事例について十分な検討を行なって調査範囲を決定するとともに、調査を進めていく中でも随時見直しを行ない、必要に応じて範囲の拡大も検討する必要がある。
[1] 調査・予測・評価項目の選定
調査・予測・評価の項目は、前記の影響内容の整理結果を踏まえ、重要と考えられた項目についてその現況を調べ、事業による影響要因が時間的空間的にどのようにそれらに作用するかを予測・評価できるように選定することとなる。
現況調査は地域概況調査の結果及び対象事業の内容から、事業による影響の対象となると想定される環境要素に係る項目の現況を詳細に把握することが必要であり、さらに、対象となる環境要素以外にも、土壌・地盤と関係の深い「地下水等」や「生態系」等に関する項目や予測・評価の前提条件として必要となる項目についても、地域概況調査ではデータが不十分な場合には調査を実施する必要がある。
[2] 土壌の調査
土壌汚染及び土壌汚染と関係の深い地下水汚染の調査項目は、一般的には環境基準に定められている項目が選定されるが、新たに有害物質として認知されるようになった物質や法令等の規制対象外の物質であっても住民等の関心の高い物質等については留意する必要がある。
また、土壌の環境保全機能(保水機能、通水機能、生産機能、地下水浄化機能等)を把握する上では、土壌の物理性及び化学性に関する理化学的分析項目、地中動物及び土壌微生物に関する生物学的分析項目についても調査することが望ましい。*[4]
[3] 地盤の調査
地盤沈下に関しては、主に地下水位の低下によって生じることから、地下水の状態と地下水等に関する項目について調査することが必要である(「地下水等」の章を参照)。
さらに、地盤沈下とともに、地すべり、斜面崩壊、液状化、地盤陥没等の地盤変動を把握する上では、地質・土質調査や水準測量を実施する必要がある*[5]。
[1] 影響予測の基本的考え方
土壌・地盤の影響予測は、事業特性及び地域特性に基づく影響要因と環境要素の内容に応じて適切な手法で行うこととなる。
土壌及び地下水の汚染は、事業による汚染物質の排出や搬出入とともに、水並びに大気経由で拡散・蓄積する場合が考えられることから、事業特性に基づく汚染物質の負荷の可能性を検討するとともに、大気環境や水循環に基づく汚染メカニズムに配慮する必要がある。
土壌の環境保全機能に関しては、事業による土地改変に伴う土壌の消滅・改変の程度を把握し、現状と開発後の理化学的、生物学的性状の変化より検討することとなる。
地盤沈下・地盤変動に関して、例えば、地下水採取による地盤への影響予測であれば、地下水採取⇒地下水低下⇒地層の圧密⇒地表面の沈下、のメカニズムについて、対象地域の地形・地質・土質等の状況並びに地下水等の影響予測に基づく地下水位の変化予測を踏まえて、把握する必要がある。
また、事業の特性として、事業の位置・規模、期間、設置する工作物等に応じて影響が異なるが、特に土壌・地盤では対象地域の規模や予測を行う時期等によって影響が発生するまでの時間は様々であるため、これらの時間的スケールを考慮して予測時期や期間を設定する必要がある。さらに、土壌汚染や地下水汚染は蓄積性、残留性が高く、突発的で予定外の事故等が汚染原因となる可能性もある。 従って、事業の特性や保全対策を踏まえ、地域の特徴に応じてその支配的なプロセスに考慮できるような予測手法を選定することが必要である。*[6]
[2] 予測手法
a) 土壌
有害物質による土壌汚染の予測は、発生源の有無・程度、類似例の比較、汚染物質の拡散・蓄積の分布予測等に基づき実施する*[7]。
また、事業内容によっては、事業実施中に事業者の意図しない物質(廃棄物等)の搬入が原因となるおそれがある。これに対しては、事業内容、社会的・地理的条件並びに防止対策等から、この可能性について検討する必要がある。
土壌の環境保全機能の予測は、事業実施区域については開発前後の土壌の理化学的・生物学的特性の変化より、その生産機能、浄化機能、貯水・透水機能、その他の環境保全機能の変化を予測する。
また、事業実施区域周辺については、流出土壌の堆積等による影響範囲とその環境保全機能の変化について予測する必要がある。さらに、土砂の搬入を行う場合には土砂採取場所の環境保全機能についても配慮する必要がある。
b) 地盤
地盤沈下の予測は、事業に伴う地下水環境への影響について、その範囲、程度及び影響の速度を可能な限り予測するものであり、事業特性とともに対象地域の地下水等を含め地域特性を十分配慮した適切な手法を選定する必要がある。現在用いられている主な予測手法は以下のとおりであるが、可能な限り多数の手法を併用して、それらの比較検討に総合的に予測することが望ましい。
○ | 地下水位との相関による予測 |
○ | 圧密沈下理論式による予測 |
○ | 数値モデルによるコンピーターシミュレーション解析 |
○ | 過去に実施された類似例の参照 |
○ | 時系列による予測 |
○ | その他適切な方法 |
また、地盤変動の予測手法としては、掘削に伴う平面地盤の沈下の事例が最も多く、代表的な手法である(予測手法の概要については「環境アセスメントの技術、(社)環境情報科学センター、平成11年6月」の「第14章 地盤沈下の調査・予測・評価」参照)。
c) 地下水汚染
新たな開発事業は、通常は地下水の汚染を前提としない。従って、先ず地域特性や対象地域の地形・地質・土壌等の地域特性に基づき、事業の実施による対象地域の地下水汚染の可能性の有無を検討する必要がある。次いで、事業実施に伴い、万が一事故が生じた際の地下水汚染を未然に防止することを目的に、必要に応じ、地下水の汚染機構・経路・拡散状態等について予測を行う。
また、汚染された地下水は、地下水の流動に従って拡散することから、予測に当たっては、対象地域の地下水の流動形態の解明が主体となる(予測手法等は「地下水等」の章を参照)。
さらに、必要に応じて、汚染物質が地下水へと輸送される過程における土粒子への吸着や溶解、地下水中における拡散に関する予測を行うが、輸送モデルを適切に評価するためには各種の資料が必要となる*[8]。
[3] 予測地域
予測地域は、対象事業による地形変化等による影響の及ぶ範囲を含むとともに、影響の程度・内容や対象の特性に応じて周辺地域を含めるなど、その影響を充分に包含する範囲を設定する。*[9]
[4] 予測対象時期
予測対象時期は、土壌・地盤では工事中と供用時において影響要因の特性が異なるため、工事中と供用後に分けて設定する必要がある。
土壌汚染について、工事中では土壌汚染の処理・対策に伴い周辺への影響が考えられるため、対象地域が現時点で土壌汚染の存在する場合には、土壌汚染の処理・対策を実施する時期を考慮して設定する必要がある。供用後では、事業活動に伴う汚染物質の排出による周辺への影響が主であることから、事業活動(排出)が通常の状態に達した時期とする。
地盤について、工事中では掘削・盛土・切土の深度や揚水量等の影響要因が最大となる時点とし、供用後については、事業活動(取水・排水等)が通常の状態に達した時期とする。また、地盤沈下、液状化、地すべりの発生要因である地下水は気象(降水)の状況により変化するため、降水量が少なく地下水位が年間を通して最も少なくなる渇水時期に留意して予測対象時期を設定する必要がある。
環境影響評価法における評価の考え方は、大きく以下のア、イの2種類あり、これらのうちアの視点からの評価は必ず行う必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点からの評価も行う必要がある。
ア、イの評価を行う場合には,イの基準値との整合が図られた上でさらにアの回避・低減の措置が十分であることが求められる。
土壌・地盤分野では、土壌汚染及び地下水汚染に関して、環境基準等の基準、目標が設定されており、上記のアとイの評価を行うこととなる。また、従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみのによる評価が行われていたため、アの視点による評価を行うための調査・予測・評価手法の選定には、十分な検討が必要である。さらに、土壌の環境保全機能や地盤沈下・地盤変動に関しては、具体的な環境基準等の基準値が定められていないことから、主にアの評価を行うことで、地域において目標等が設定されている場合にはその整合性が図られているかを検討することとなる。
ウの留意事項においては、事業計画と事業者以外のものが実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観資料に基づき明らかにする必要がある。
また、土壌汚染や地下水汚染に関して定められている環境基準は環境保全上維持されることが望ましい基準として定められる行政上の目標となるべきものであり、環境汚染防止上の規制値とは概念上異なり、環境基準は幅広い行政の施策によって達成を目指すものである。一方、土壌汚染や地下水汚染では定められていないが、これらの主な負荷源となる大気汚染や水質汚濁に関しては、排出基準や総量規制基準が定められている。この排出基準や総量規制は、環境基準達成に向けて講じられる諸施策と考えられる。このような背景を理解した上で、事業による環境影響を適切に評価する必要がある。
[1] 回避・低減に係る評価の考え方
回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、その手法の例として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討する方法や、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討する方法が基本的事項に挙げられている。また、現況よりも環境を悪化させないことで評価する方法も考えられる。
回避・低減に係る評価において最も留意すべき内容は、現状において環境基準を達成していない地域など、イの視点における基準等との整合が図られない場合 *⑩において、アの視点からよりいっそうの回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価を併せて総合的に評価する場合の考え方である。
このようなケースにおいては、基準等の整合が図られない内容を明らかにし、回避・低減の措置による事業の実施に伴う付加分の低減の程度(低減率等)、現況に対する変化の程度から、その回避・低減の措置に関する実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かを検討し評価を行う*⑪。
[2] 基準又は目標との整合に係る評価の考え方
土壌・地盤の分野においては、土壌汚染や地下水汚染について環境基準等の基準が設定されているが、新たな開発事業では、通常これらの汚染物質の発生を前提とはしていない。ただし、既に現状で環境基準を達成していない地域での事業の場合、この基準との整合を図ることが求められる。さらに、事業に伴い万が一事故が生じた際の汚染を未然に防止する対策が求められる。
現状において基準が達成されていない状況においては、事業者が実効可能な範囲での環境保全のための措置による基準の達成は困難な状況が容易に想定される。したがって、この基準又は目標との整合に係る評価においては、基準との整合が図られない場合は、それを明らかにすることが重要であり、さらに、突発的な事故に対する防止・管理・監視等の対策が重要となる。それらを踏まえて、前述の回避・低減に係る評価を実施して行くことが必要である。
[3] 基準又は目標との整合に係る評価の考え方
事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合*⑫においては、事業計画と事業者以外のものが実施する対策等の内容・効果・実施時期が良く整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。
今年度の検討では、従来の水質・底質に係る考え方に加え、地下水等に重点をおいて検討を行い、水循環の視点から水環境を考えることの重要性についても整理した。水循環系を構成する主要な要素である地下水については、調査、予測事例も多く、今回のとりまとめでその主要な留意事項については、整理できたものと考えているが、系としての水循環についての調査、予測、評価手法については、十分な整理ができたとは言えない。また、水循環系を構成する要素のうち、重要な位置を占めている土壌の環境保全機能等についても、今後その具体的な調査、予測、評価手法の研究を進める必要があると考える。
今年度において調査対象としなかった、環境保全対策及び環境保全対策をふまえた評価の考え方を含め、今後さらに検討が必要な課題は次のとおりである。
○水質、底質に関する環境保全対策とその効果についての調査・研究
○水循環に関する環境保全対策とその効果についての調査・研究
○水循環に関する評価方法についての調査・研究
○土壌の環境保全機能への影響に関する調査・研究