地球上における水は,降水や河川水,湖沼水,地下水,海水など,自然の循環過程の中で様々な形態をとりながら,互いに密接な関係をもって存在するものである。
従来の環境影響評価では,水質や地下水といった個別の項目について,事業による状態量の変化を評価していたが,これは水循環という大きな系の中のある一点を捉えていたに過ぎず,例えば土地利用変化等に伴う地下水涵養量の変化やそれに起因した地下水流動の変化,地下水流出域に生じる影響等については,具体的な検討がなされない場合も多かったといえる。
今後の水環境における環境影響評価にあたっては,これら多様な形態にある地表や地中の水を,相互に関連する一つの
「水循環系」 として捉え,この系を人為的に歪めることを最小限度に抑えて健全な水循環を確保するという視点が重要である*●。
今後,水循環の概念に特に留意して進めていく必要のある事例としては,
・ 地下水涵養域における面的事業*●
・ 地下水流動域・流出域における線状構造物の構築事業*●
などが想定される。
「環境影響評価」とは,事業の実施による環境影響について,事業者が自ら適正に調査・予測・評価を行ない,その結果に基づいて環境保全措置を検討することなどによって,その事業計画を環境保全上望ましいものとしていくための仕組みである。
環境影響評価における最終的な目的は「評価」であることから,スコーピングの段階において,まず「何を評価すべきか」という視点を明確にした上で調査・予測・評価の項目や手法を選定し,環境影響評価の実施段階へと作業を進めていくことが重要である。
まず,スコーピング段階においては,地域の環境特性やニーズ,事業特性等を整理し,保全上重要となる要素は何か,どのような影響が問題となるのか,対象地域の環境保全の基本的な方向性はどうあるべきか等について検討し,その結果を踏まえた上で,重点を置いて評価すべき影響の内容を選定する。次に,その評価を行なうための適切な予測手法を決定し,その予測のために必要な調査の対象と手法を決定するというプロセスで検討を行なう必要がある。
そして,方法書手続きの段階で得られた意見を踏まえて,項目や手法の見直しを行ない,環境影響評価の実施段階に進んでいく。
さらに実施段階においても,調査等で得られた情報を随時フィードバックして項目や手法の見直しを加えつつ,設定した目的や視点に沿って調査・予測・評価を進めていくことが必要である。
特に,地下水等に係わる環境影響評価を行なう際には,
「水は循環するものである」「水は変動するものである」
という特徴を考慮に入れるとともに,まず第一の前提条件として,
「水循環の捉え方」 や 「変動と代表値の取り扱い」
「予測の精度」
について検討しておく必要がある*●。
なお,他の「環境を構成する自然的要素」に比べ,地下水等を構成する各要素の場合は,スコーピングにおける一般的な概況調査で定量的把握を充足させることが困難な場合も多い。したがって,概況調査段階で十分な現地踏査を行なうことも考慮に入れるべきであり,また実施段階におけるフィードバックや項目・手法の見直し,目的や視点の修正についても,特に留意する必要がある。
水循環は,自然環境を構成する基本的なシステムであり,「水環境」分野における他の項目と深い関わりを持つだけでなく,「地形・地質」
や 「地盤」,「植物」,「動物」,「生態系」 など,他の環境影響評価項目を構成する環境要素の一つでもある。
したがって,スコーピングの段階から総合的視野に立って他の評価項目との連携を図るとともに,環境影響評価の実施段階における調査や予測の作業においても,緊密な連携やデータの共有化および有効活用が必要である。
例えば,「地形・地質」 は水循環の枠組みを決定する重要な要素であり,地下水流動を始めとした水循環の形態を規制する要因である*●。また,水循環に生じた変化は,例えば
「地盤」 の状態を左右し,地盤沈下や土地の安定性を決定する要因となる*●ほか,「植物」
や 「動物」,「生態系」 に影響を与え,これらの状態を変化させる可能性がある*●。
したがって,スコーピングから評価の段階までを通じて,これら他項目との緊密な連携やデータの共有化に留意する必要があり,場合によっては,一連の作業を統合して行なうことも考慮すべきである。
[1] 地域概況調査
地域概況調査は,対象地域の環境特性について,対象事業の特性を踏まえた上で把握し,適切な環境影響評価のための調査・予測・評価の項目と手法を決定するための基礎資料として整理する,極めて重要な基礎調査である。
特に地下水等に係わる環境影響評価では,表流水や地下水等を包括した評価が必要となるので,単純に過去の事例や標準項目に固執した資料の収集・整理にとどまることなく,広い視野に立って総括的・網羅的に作業を行なう必要がある。
具体的な作業内容は,
[1] 既存資料(各種文献,既往調査結果 等)の収集整理
[2] 現地踏査*●
[3] 有識者等へのヒアリング
の3段階に大別されるが,それぞれ独立した作業として捉えるのではなく,互いの結果を反映させながら作業を進めていく必要がある。また,後述する
「予測・評価」 等の段階においても,必要に応じてフィードバックさせることも考慮すべきである。
これらの作業対象とする項目としては,一般的には表 1.3に一覧したような項目が想定される。
また,作業の対象とする調査範囲は,環境影響評価法の基本的事項として「対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域」
とされているが,ここで言う 「変化・改変を受ける範囲」
は,環境項目毎に大きく異なる場合がある。
以上のことから,概況調査の項目や範囲を設定する際には,各項目毎の内容を十分に考慮し,想定される変化の程度にしたがって,調査項目や範囲,期間などにコントラストをつけるなど柔軟な対応が必要であり,また,調査の途中段階においても随時,調査結果の吟味を行ない,調査範囲や項目・手法の見直しを行なうことも必要である。
なお,特に地下水等の環境影響評価においては,「涵養域」,「流動域」,「地下水流動系」
等の概念を念頭において調査範囲を設定する*●とともに,「地形・地質条件」
についても,地形区分に基づき,各区分における地下水の賦存・流動状況の特徴を考慮しておく必要がある*●。
【留意事項】
*● 地下水等を対象とする概況調査範囲設定時の留意点
・ 地下水流動は,「涵養域」 と 「流出域」
という概念で捉える必要があり,どの部分で事業を行なうかによって,影響の現れ方は異なる。また,「地下水流動」
の観点からみると,その上流側と下流側とでは,影響の現れ方が異なる(下図参照)。
・ また,事業の及ぼす影響が,どのような地下水流動系(広域流動系,局地流動系,あるいは両者の中間的流動系)に属するかによって,影響の現れ方や範囲も異なる。
図 水循環の概念と想定される様々な影響の形態
*● 地形区分の例
・ 水循環の構成要素の一つである地下水の賦存・流動状況は,その 「いれもの」 である,地形・地質条件によって大きく左右される。
図 地形の五大区分とその特徴
【留意事項】
*● 降水・蒸発散の状況と季節変動
・ 水循環を考える上で留意すべき点として,「水は変動するものである」
ということが挙げられるが,そのうち季節的な変動は,地下水や地表水の供給源である降水に依存し,対象地域における降水や蒸発散の状況によって大きく左右される。
・ したがって,地域概況調査の段階において,対象地域における降水・蒸発散がどのような状況にあるか,いわゆる「豊水期」「渇水期」がいつなのか,等について十分に把握しておくことに留意すべきである。
図 地域による蒸発散と実効雨量の違いの例
[2] 事業の影響要因と地下水等に与える影響の整理
環境影響評価においては,地下水等に係わる影響について,対象事業の事業特性による「影響要因」と,事業実施区域及びその周辺の地域特性から環境の変化が予測される「環境要素」との関係から整理する。
事業に伴う一般的な影響要因としては,工事の実施段階では地山掘削や揚水・排水等の行為,また存在・供用段階においては,施設の供用に伴う人為的な揚水等の行為のほか,各種構造物等の存在そのものが挙げられる。
例えば,道路・鉄道やダム・河川,その他開発事業における影響要因と周辺地下水への影響の関係は,表
1.4の通りである。
表 1.4 各事業における影響要因と周辺地下水への影響の例
また,これら事業の工事実施段階において,地下水の挙動に影響を与える可能性のある工事内容について,一般的な例を表 1.5に示しておく。
表 1.5 地下水挙動に影響を与える可能性のある工事内容の例
ただし,水循環系に対する影響を考えていく上では,これらの影響要因が水循環系においてどのような 「場」 で生じるのかによって,影響の現われ方が多様であることを常に考慮しておく必要がある*●。
図 トンネル掘削による水循環系への影響の概念図
[3] 調査地域の設定
地下水等に係わる調査地域は,事業特性や地形・地質をはじめとする地域特性に合わせて設定する必要があり,実施する段階によって,以下の2通りの捉え方で設定することになる。
なお,水循環の諸要素は,他の環境影響評価項目,例えば
「植物」や「動物」,「生態系」 等とも密接な関わりがあることから,それらとのつながりも考慮に入れた視点で地域を設定することが必要である。
また,影響範囲外と推定される範囲についても,特に事後調査における比較対照としての地域として捉え,必要と考えられる場合には調査範囲に含めることが望まれる。
a) 事業実施区域とその周辺の広域的な概況把握を行なう段階(スコーピング段階)
スコーピングの段階においては,広域的な視点から,事業実施区域周辺における水循環の地域特性を把握必要がある。
事業の特性や地形・地質条件をはじめとする地域特性に合わせて設定するが,事業地からの直線距離で一律に範囲を設定するのではなく,水循環の系としての地表水・地下水の流域等を考慮に入れた上で範囲を設定する必要がある。また,場合によって,類似条件における実施事例等についても調査を行なうことが望ましい。
b) 環境影響評価の実施段階
水循環についての詳細な情報を,資料調査及び現地調査で把握する範囲であり,事業実施区域とその周縁部に設定することを原則とする。
対象事業の特性や地域特性を踏まえた上で,その影響要因や影響が生じる可能性のある環境要素を特定した上で,影響が及ぶ可能性のある範囲を中心にして設定することになるが,[1]と同様に,直線的な距離で一律に範囲を設定するのではなく,地表水や地下水の流域等を考慮に入れた上で範囲を設定する必要がある*●。
表 1.6に,地下掘削工事に伴う調査範囲の目安を示した。また,山岳トンネルの掘削に伴う調査範囲として「ルートの片側500m以内に流域が重なる範囲を対象とする」という目安がある(図
1.2)。
表 1.6 地下掘削工事に伴う地下水調査範囲の目安
図 1.2 山岳トンネル掘削に対する調査範囲の目安
[4] 地下水等の調査
a) 調査・予測・評価項目の選定
主務省令で定められた環境影響評価の標準項目は,対象となる事業の種類毎の一般的な事業内容について実施すべき内容を定めたものであり,例えば,地下水に係わる標準項目は表
1.7のように定められている。
ただし実際には,前述した影響内容の整理結果を踏まえた上で,事業による影響要因がどのように作用するかを予測・評価できるような調査項目を選定する必要があり,場合によっては,標準項目の表を参照せずに,影響を受ける可能性のある環境要素を抽出することも考慮すべきである*●。
特に,地下水等に係わる環境影響評価においては,水循環を構成する,表流水,地下水,土壌等の各要素がそれぞれ独立したものではなく,一つの系の中で互いに密接な関係をもっていることに留意して,調査対象・調査項目を選定する必要がある。
表 1.7 地下水に係わる標準項目
b) 表流水の調査
従来の環境影響評価においては,条例等で対象とされる水象・水文等の項目として,表流水の調査が行なわれている場合が多い。
表流水は,水循環系を構成する要素の一つであり,事業による水循環系の変化を予測・評価する場合には,必要不可欠な調査対象の一つである。
表流水の調査項目としては,流量,水質が挙げられ,その概要は下記に示すとおりであるが,詳細については,予測・評価の方向性も考慮に入れた上で決定する必要がある。
○ 表流水の流量調査
地下水とともに水循環系を構成する一つの要素であることから,事業の影響要因との関係にこだわらず,対象地域の全域をカバーするようなかたちで調査を実施することが望ましい。
調査地点は,流域毎に最低1地点以上を設定し,地形・地質条件や地下水状況,事業による地形変化等の影響が発生する箇所との距離などから,必要に応じて複数の小流域に分けて調査地点を設定することも考慮する。
調査頻度は,降水の多少による季節変動が予想されることから,最低でも年2~4回程度の調査を行ない,変動の「幅」を含めた把握ができように留意する必要がある*●。
○ 表流水の水質調査
事業に起因する水質の変化(悪化)という観点は「水質・底質」の項目で対応し,「地下水等」の項目では,地下水を含めた水循環系,特に流動系統の把握という観点から,主要溶存成分等を対象とした調査を主体として実施する*●。
調査地点を選定する際には,流量調査地点と同様,地形・地質条件や地下水状況等も考慮に入れる必要がある。
また,調査時期は,降雨による直接的影響を避けて設定する必要がある。
c) 地下水の調査
地下水の調査項目としては,地下水位(湧水量),水質が挙げられ,その概要は下記に示すとおりであるが,詳細については,予測・評価の方向性を考慮に入れた上で決定する必要がある。
○ 地下水の水位(湧水量)調査
調査地点は,一般に地下水の露頭としての湧水箇所や既設の井戸・観測井に限定されることが多いが,その密度を十分に吟味し,場合によっては,機械ボーリング等によって観測井を新設し,調査地点に加えることも必要である*●。
調査頻度は,表流水の流量調査と同様に,季節変動の「幅」を把握できるように設定する必要があり,予測段階での手法も考慮して,場合によっては代表地点での連続調査等も考慮すべきである。
○ 地下水の水質調査
事業に起因する水質の変化(悪化)という観点と,水循環系,特に流動系統の把握という観点との2点から,調査を行なう必要がある。
水質変化(悪化)の観点からは,対象となる地下水の利用状況や動植物等の生態系との関わりを考慮し,調査対象項目(成分)を考慮すべきである。なお,地下水の水質にも季節変動が予想されるため,表流水の流量や地下水位(湧水量)の調査と同様,変動幅を把握できるような頻度・時期を設定する必要がある。
流動系統把握の観点からは,主要溶存成分等を対象とした調査を主体として実施する*●。調査地点の選定にあたっては,表流水の場合と同様,地形・地質条件や地下水状況等も考慮に入れる必要がある。また,調査時期は,降雨による直接的影響を避けて設定する必要がある。
d) 土壌の調査
地下水等に係わる土壌の調査としては,土壌水分調査が挙げられる。
事業によって,土壌水分が直接変化させられるような事例のほか,水循環系における地下水流動の変化,特に地下水位の変化を遠因とした土壌水分の変化が想定される。
土壌水分調査は,一般に「定点」において深度方向の土壌水分量あるいは土壌の保水性を測定する方法で行なわれる場合が多いが,局所的な土質条件等にも大きく左右されるため,調査地点の選定にあたっては,対象範囲に対する代表性を十分に考慮する必要がある。
また,水循環系の要素として捉えるためには,土壌水分単独ではなく,降水や地下水位の調査と組み合わせた調査計画を立案し,その相互の関係を総合的に解釈する必要があるので,継続的な調査を実施する必要がある。
さらに,土壌水分の変化は,植物の生育をはじめとした生態系への直接的な影響要因となるため,該当項目との連携について特に留意する必要がある。
[5] 地下水等の影響予測
a) 影響予測の基本的考え方
地下水等の影響予測は,事業特性や地域特性に基づく影響要因と環境要素の内容に応じて行なうが,表流水,地下水,土壌等の要素を個別に扱うのではなく,対象地域における水循環を一つの系として捉えることが重要である。
したがって,影響予測を行なっていく上では,事業による影響要因が水循環の「系」に対してどのように作用するかを常に念頭におき,その結果を個別の要素にフィードバックしながら詳細な影響の検討を進めていく必要がある。
なお,水循環系に変化が生じるまでの時間は,対象の事業規模や取り扱う水循環系の規模,予測の対象とする時期等によって多様であるため,これらの時間的・空間的スケールも考慮に入れて,予測時期や期間を設定する必要がある*●。
また,予測手法の選定に際しては,上述したような時間的・空間的スケールに留意するほか,予測手法の特性,特に得られる結果の精度等に留意する必要がある*●。
このほか,水循環を構成する各要素については具体的な環境基準等が設定されていない場合が多く,個別の事例に対してその都度,基準値に代わるものを設定した上で評価を行なう必要があることから,影響予測の段階においても,これを考慮した柔軟な対応が必要である。
また、有害物質については、通常は事業による地下水等への排出は前提とされないが、事業特性や地域特性をふまえ、事業の実施による有害物質の発生の可能性について検討する必要がある。
b) 予測手法
地下水等に係わる影響予測では,表流水や地下水,土壌等の各要素についてそれぞれ独立した予測を行なうのではなく,一つの水循環の「系」に対する影響として捉え,その結果をもとにして個別の要素に対する影響を検討することになる。
予測手法としては下記のものが挙げられるが,前述したとおり,各々の手法に必要となる諸条件や得られる結果の精度,適用条件等は様々であることに,十分な注意が必要である。
・既往の類似事例等による定性的な予測
・経験式(高橋の式等)による予測
・水理公式による簡易計算
・タンクモデル等による流出解析
・地下水シミュレーション等による数値解析(流動,水収支,物質移動等)
・モデル実験
また,地下水等の状態は,対象地域の特性,特に地形・地質条件によって多様であるため,対象地域の地域特性に応じた水循環の特徴に留意する必要がある(表 1.8 参照 PDFファイル7k)。
c) 予測地域
予測を行なう対象範囲は,事業による地形変化等の影響が及ぶ範囲を含むとともに,その対照地域として周縁の影響が生じない範囲も含めるなど,事業による影響を充分に包含する範囲として設定することが必要である。
特に,地下水等に係わる予測を行なう場合には,一連の「系」における地表水や地下水等の状態を把握しておくことが必要となるため,地形的な分水界だけでなく地下水の集水域にも留意して,予測地域の境界を設定する必要がある*●。
また,対象とする流動系のスケールや水循環系における「場」の位置づけにも考慮することが必要である*●。
d) 予測対象時期
事業に起因する影響は,工事の実施段階と供用段階では影響要因の特性が異なるため,原則としては他の予測項目と同様に,
ⅰ) 工事の実施
ⅱ) 土地又は工作物(「土地等」という)の存在及び供用
の段階に分けて予測を行なう必要がある。
ただし,水循環系に生じる影響は必ずしも瞬時に発生するわけではなく,対象となる事業の特性や取り扱う水循環のスケールによって,地下水位変化等の具体的な影響が発生するまでの時間は様々であること*●,工事の実施時と同種の影響要因が工事完了後の供用段階にも継続する場合があること*●,また,水循環系を構成する諸要素は降水量の多少などに起因した季節的変動を伴うため,その変動の幅と時期を念頭においた上で,バックグラウンド値を設定して予測を行なう必要があること*●
に留意が必要である。
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不圧地下水位は,左図に示す様に,降水の多少に関係した季節変動を示すが,地点によってその変動幅や変化パターンは多様である。したがって,対象地域や対象地点における変動特性を十分に把握した上で調査・予測にのぞむ必要がある。 なお,後述する被圧地下水の場合とは異なり,年降水量の多少に起因した若干の相違や土地の被覆形態・利用状況の変化に起因した変動を除き,長期的な水位変化がみられることは少ない。 |
図 1.3 不圧地下水位の季節変動例(東京都多摩地区) * 川島眞一(2001):東京の地下水環境,地下水技術,vol.43,No.3,6-19 |
図 1.4 被圧地下水位の短期的な変動例
* 川島眞一(2001):東京の地下水環境,地下水技術,vol.43,No.3,6-19
被圧地下水の場合,上図に示すような短期的変動が認められる場合がある。左地点の水位は,近隣の複数の揚水井戸の影響を受けて不規則な変動を示しており,その変動幅は1時間で最大0.5mに達している。また,右地点の水位は近傍の上水道井戸の影響を受けているが,その変動は比較的規則的である。
図 1.5 東京都における被圧地下水位(月平均水位)の経年変動例
* 川島眞一(2001):東京の地下水環境,地下水技術,vol.43,No.3,6-19
被圧地下水の場合,上図や図 1.7,図 1.9に示すような,長期的な経年変動を示す場合がある。この原因は多くの場合,地下水揚水量の変化に伴うものと考えられる。
図 1.6 関東平野における不圧地下水位(月平均水位)の変動例
* 「地下水位年表」(旧建設省河川局編)のデータをもとに作成
図 1.7 関東平野の不圧・被圧地下水位(月平均水位)変化の対比例
* 「地下水位年表」(旧建設省河川局編)のデータをもとに作成
不圧地下水位の場合は,長期的には大きな変化は認められないのに対して,被圧地下水位の場合では,揚水規制による地下水揚水量の減少に伴った水位上昇傾向が認められる。
○ 工事の実施に係わる影響予測
工事の全体計画に基づき,工事量や工事位置の変化を把握した上で,掘削や揚水等の影響要因の規模が最大となる時点について予測を行なう。
ただし,工事内容によって影響発生までの時間が異なり,場合によって実施時期の異なる工事の影響要因が複合する可能性も考えられることに注意が必要である。
また,工事実施時期や影響発生時期と季節変動との兼ね合いによっても,発生する影響の程度が異なる可能性があることにも留意が必要である。
○ 土地等の存在及び供用に係わる影響予測
原則として,工事が完了して供用段階に落ち着いた時期とするが,工事の実施による影響が工事完了後も継続する可能性があることに留意して,予測時期を決定する必要がある*●。
なお,対象事業以外の影響要因によっても水循環系に変化が生じる可能性がある場合には,これも考慮に入れて予測時期を設定する必要がある。
[6] 評価の考え方
環境影響評価法における評価の考え方は、大きく以下のア、イの2種類あり、これらのうちアの視点からの評価は必ず行う必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点からの評価も行う必要がある。
ア、イの評価を行う場合には,イの基準値との整合が図られた上でさらにアの回避・低減の措置が十分であることが求められる。
(基本的事項 第二項五(3))
水循環を構成する環境要素の場合,環境基準等の基準・目標値が設定されている地下水の水質については
上記 ア),イ)の評価を併用することになるが,他の要素については,例えば地下水位についても法令・条例によって採取の規制等はなされているものの地下水位そのものに対する基準等は存在しないなど,原則として基準値が存在しないため,ア)の評価を行なうこととなる。また,各環境要素が相互に関連し合う
「水循環」 についても,同様に ア)の評価が求められる。
ア)の視点に立った評価を行なうためには,複数の環境保全措置を比較評価することが必要となる場合があり,対象の事業において採用する保全措置だけではなく,他の保全対策等の実施も念頭においた上で,調査・予測・評価手法を選定する必要がある。
また,ウ)の留意事項においては,事業計画と事業者以外の者が実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや,これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づいて明らかにする必要がある。
a) 回避・低減に係る評価の考え方
回避・低減に係わる評価は,事業者による環境影響の回避・低減への努力や配慮について評価するものであり,環境影響評価法の基本的事項ではその例として
「複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討する」方法や,「実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討する*●」
方法が挙げられている。
地下水等に対する環境影響評価においては,事業による影響が様々な環境要素に波及する可能性があることから,現況における各構成要素の状態をできるだけ変化させないことで評価する方法等も考えられる*●。
なお,回避・低減に係わる評価において最も留意すべきこととして,現状において環境基準等を達成していない,あるいは地盤沈下や地下水障害等の問題が発生している場合などが挙げられる。このようなケースにおいては,問題となる事項の内容を明らかにするとともに,それらの状況を悪化させないような回避・低減措置が考慮されているかどうかについて検討し,評価を行なう。
また、地下水等に関する有害物質の発生が想定される事業の場合は、環境中へ排出しないような環境保全対策をとることが前提となるが、その措置に関して実行可能なより良い技術が取り入れられているか、否かといった観点からの検討が重要となり、その効果の検証という意味合いでの事後調査の実施といった選択肢も考慮する必要がある。
b) 基準又は目標との整合に係る評価の考え方
水循環系を構成する環境要素のうち,地下水質については環境基準等の基準・目標が設定されている。ただし,これらの基準・目標は,重金属や揮発性有機塩素系化合物を中心としたものであることが多く,環境影響評価において対象事業の実施によって変化する可能性のある項目と必ずしも一致するわけではない。さらに,現状で基準・目標が達成されていない地域での事業において,事業者が実行可能な範囲での環境保全措置によって基準・目標を達成することは一般に困難であると予想される。
したがって,既に基準・目標が達成されていない地域における評価に際しては,まず,基準・目標との整合性が図れないことを明らかにし,それを踏まえた上で[1]の回避・低減に係わる評価を実施していくことが必要である。
c) その他留意事項
事業者以外が行なう環境保全措置の効果を見込む場合には,その対策が具体化の目途がついていることを明らかにする必要がある。