平成13年度 第1回水環境分科会

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資料2-1


1. 水環境の調査、予測・評価の進め方

1) 水環境の捉え方

 従来の環境影響評価では、公害としての枠組みで水環境がとらえられ、水質汚濁や地下水取水に起因する地盤沈下といった水環境の限られた側面のみを予測評価対象とされることが多かった。
 しかし、水は図 1.1に示すように表流水や地下水、土壌水などの様々な状態で存在し、蒸発、浸透、貯留、流下、海洋への流入等の過程を経て、環境中を大きく循環しており、人の生活や生物の生息環境と密接な関わりがある。
 このことをふまえると、環境影響評価を行う際にどのような場合でも水環境の一つの状態量である水質や底質のみを対象に調査、予測、評価を行えば十分であると言えるものではなく、その影響の内容に応じてより広い観点から環境への影響を考えることが必要なことも想定される。

図 1.1  循環系としての水環境の考え方

2) 水循環の視点

 水循環の視点からの検討が必要な場合の例をあげると、以下に示すとおりである。水循環系を構成する様々な状態の水収支バランスが変化するような場合、それまで保たれていた自然の水循環系が変化することが想定され、水循環系といった観点からの検討が必要となるものと考えられる。
○土地表面の被覆形態が変化し、降水からの表流水、土壌水、地下水への水の供給バランスが大きく変化する場合
○貯水や流域変更などにより河川水の存在量を大きく変化させるような場合
○大規模な地下構造物を設置し、地下水の流動を阻害するような場合や、工事や施設利用に伴い大量の地下水取水が行われるような場合

 また、水循環系への環境影響が想定される場合には、単に水環境の問題にとどまらず、様々な環境の構成要素への二次的な影響が考えられる。
 特に、水は生物の生息にとって特に重要な基盤的要素であるため、多様性分野に係る環境影響評価を行うような事業の場合には、水循環系への環境影響と生物の生息に係る環境影響とを相互関係に配慮した検討が必要である。また、生物のほかにも、水辺を利用するような人と自然との触れ合い活動の場などの環境要素についても、水循環系への環境影響が想定される場合には、その相互関係に十分注意することが必要である。

 上記の考え方をふまえ、水環境に係る環境影響評価の進め方については、「水質・底質」に係るものと、水循環的視点から地下水を中心とした「地下水等」に係るものとに分けて整理を行った。


1-1 総論

1) 水質・底質
(1) 水質・底質の基本的な考え方

 水は環境中を蒸発、浸透、貯留、流下、海洋への流入等により自然的に循環し、その過程で汚濁物質が浄化されることから、水環境を保全する上では、健全な水の自然的循環(水循環)と、その循環過程における物質の挙動(物質循環)を確保・維持することが重要である。
 従来の環境影響評価では、人為的な排水等の流入による自然水域の水質・底質の変化をある時点や地点における状態量の変化として、主に人の健康の保護及び生活環境の保全の観点から水域の利用に対する影響として評価を行ってきた。 
 しかし、水環境を上記のような循環系として考えると、水質・底質の環境影響評価においては、環境基準等の目標の達成・維持を目指すとともに、水質・底質を陸水・海水・地下水等からから構成される系において水を媒介として移動する物質の状態量として捕らえ、水環境と相互に関連する土壌環境や生態系等への影響についても配慮することにより、その循環系を健全に維持することが重要である。
 また、水質・底質を水循環系の物質の状態量とすると、水の流れや量によりその状態量が大きく変化することから、調査・予測においては、その変化の特性に十分配慮する必要がある。
 以上のことを考慮し、水質・底質の環境影響評価に当たっては、次の事項に留意する必要がある。

(2) 調査・予測・評価のあり方

 環境影響評価とは事業者が事業の実施による環境影響について自ら適正に調査・予測・評価を行い、その結果に基づいて環境保全措置を検討することなどにより、その事業計画を環境保全上より望ましいものとしていく仕組みである。
 アセスメントの最終的な目標は評価であることから、何を評価すべきかという視点を明確にして調査・予測・評価を進めることが重要である。したがって、まずスコーピング段階で調査・予測・評価の項目・手法を選定する際には、地域の環境特性、地域のニーズ、事業特性等から保全上重要な環境要素は何か、どのような影響が問題になるのか、対象とする地域の環境保全の基本的な方向性はどうあるべきか等について検討した結果を十分踏まえて、まず「水質・底質」項目で重点を置いて評価すべき影響の内容を選定する。次にその評価を行うために適切な予測手法とその予測に必要な調査対象及び調査手法を決定するというプロセスで検討する必要がある。そして、方法書手続きにより得られた意見を踏まえて項目・手法の見直しを行った上で、環境影響評価の実施段階に入り、さらに実施段階の調査等で得られた情報により項目・手法の見直しを加えつつ、設定した目的、視点に沿って調査・予測・評価を進めて行くことが必要である。

(3) 水質・底質と他の環境影響評価項目との関係

 水質・底質は「生態系」、「地形・地質」、「人と自然との触れ合いの活動の場」など、他の環境影響評価項目で対象とする環境要素と密接に関係し、水質・底質の調査・予測・評価は他の項目の調査・予測・評価の前提条件となることも多いことから、関係が想定される環境要素との作業を統合して検討することも必要である。*[1]
 例えば、水質・底質は生態系の基盤的要素であるとともに、生態系の有する生物生産機能や水質浄化機能により影響を受ける。また、水の流れや量は水質・底質の時間的・空間的分布に直接影響を及ぼすが、水の流れや量は対象水域の地形的条件に左右される。さらに、水質・底質は景観や触れ合い活動の場の資源性を支配する要素のひとつであり、特に水辺地において水質は重要な要素となる。
 以上のように、水質・底質の調査・予測・評価は、生態系や人と自然との触れ合いの活動の場の調査・予測・評価の前提条件となるとともに、地形の変化予測が水質・底質の検討に大きく関連しており、対象案件の特性に応じて、双方の分野における調査・予測の作業を統合して検討することも必要である。
 なお、同じ水質・底質を調査・予測・評価の対象とする場合でも、とらえる視点によって、調査・予測・評価の対象が異なってくることに留意する必要がある。*[2]

(4) 水質・底質の環境影響評価の手法 

[1] 地域概況調査
 地域概況調査は、事業特性や地域の環境特性を把握して、適切な環境影響評価のための調査項目、調査手法を検討するために極めて重要な基礎調査である。
 単純に地域に関連する情報収集・整理を行うのではなく、事業影響の検討結果とも並行して検討し、必要に応じて調査をフィードバックさせつつ進行させなければならない。また、情報収集を行う過程において、対象範囲や対象期間などについても柔軟に変更、追加することが必要である。
 調査は、対象水域の水環境に関係のある項目*[3]を対象に、既存資料の収集・整理及び現地踏査により行い、必要に応じて有識者等へのヒアリングを行う。特に、現地踏査は環境影響評価に十分な経験を有する技術者が、対象地域内を踏査することにより、既存資料調査で把握した地域情報の確認及び修正や、既存資料では把握することができなかった地域情報の補完を行う上で重要である。

 また、調査範囲は、水域・水系の連続性を考慮して設定するが、事業による影響が想定される範囲より広めの水域を対象として実施する。
調査に当たっては、当該地域で進められている他の事業や過去に行われた大規模な事業などの事例は、当該事業の影響評価を行う上で重要な知見となることから、それらの情報についても極力収集することが望ましい。また、底質や閉鎖性水域の水質を予測評価する場合には、その自然変動や蓄積性を考慮し、過去の水質等の状況を十分に把握する必要がある。
 得られた情報については、可能な範囲でその位置や分布等を適切な縮尺の図面で示し、事業実施区域との位置的関係を明らかにする。また、出典を必ず明記する。

[2] 事業の影響要因と水質・底質に与える影響の整理
 環境影響評価項目は、対象事業の事業特性より影響を与える「影響要因」と、事業実施区域及びその周辺の地域特性から、環境の変化により影響を受ける「環境要素」のそれぞれの関係に基づき設定する。
 水質・底質に係る影響要因は水質汚濁物質を発生する各種工事の実施及び水質汚濁物質を含む各種排水施設の供用等が考えられ、さらに、水の流れに変化を及ぼす地形の改変や工作物の設置等の行為についても留意して選定する必要がある。
 また、水質・底質に係る環境要素は、主に汚濁物質に基づき区分され、法令等により規制・基準の設けられている汚濁物質・有害物質が対象となるが、新たに有害物質として認知されるようになった物質や法令等の規制対象外の物質であっても住民等の関心の高い物質等については留意する必要がある。
 表 1.1は環境影響評価法の対象となる事業ごとに、水質・底質に係る標準項目を示したものである。ここで、標準項目とは対象事業ごとに、標準的な事業内容について実施すべき項目を定めたものであり、事業特性や地域特性は個々の事業で異なるため、常に項目の追加・削除の必要が生じることに留意する必要がある。

[3] 調査地域の設定
 調査地域は、環境影響評価の段階や調査対象とする水域の特性に応じて設定する必要があり、その基本的な考え方は、以下のとおりである。
a) 事業実施区域及びその周辺の広域的な概略把握
 広域的視点から事業実施区域が位置する地域の水質・底質等を把握するため、スコーピングの際に、地域特性の把握を行う範囲として設定する。主として、地形的条件を踏まえ、陸水域(河川、湖沼)であれば水系、海域であれば湾や岬等で区切られた範囲とその主な集水域を含む範囲を原則とすることとなる。
b) 現況調査
 水質・底質等の状況についての情報を、資料調査及び現地調査により把握する範囲は事業実施区域とその周辺部とする。
対象事業の種類、規模及び地域特性を踏まえ、影響要因を特定した上で、影響要因と水質等への影響の時間的空間的な広がりを概略推定することにより、影響の及ぶおそれのある地域を設定することとなる。
 特に、河川の流れを大規模に堰き止めたり、流路を変更するような事業や海水の流れを大規模に遮断したり、広範囲にわたる停滞域を形成するような事業ではより広域的な調査地域の設定が必要となる。

[4] 水質・底質の調査
a) 調査・予測・評価項目の選定
 調査・予測・評価の項目は、前記の影響内容の整理結果を踏まえ、重要と考えられた項目についてその現況を調べ、事業による影響要因が時間的空間的にどのようにそれらに作用するかを予測・評価できるように選定することとなる。
 水質・底質に関しては、水循環を構成する要素の状態量について調査することとなることから、現況調査は地域概況調査の結果及び対象事業の内容から、事業による影響の対象となると想定される環境要素に係る項目の現況を詳細に把握することが必要であり、さらに、対象となる環境要素以外にも、環境要素と関連性の高い項目や、予測・評価において用いるパラメータの設定、現況再現性の検討などにおいて必要となる項目についても、地域概況調査ではデータが不十分な場合には調査を実施する必要がある。
b) 水質の調査
 水質の調査項目は、一般的には環境基準に定められている項目が選定されるが、新たに有害物質として認知されるようになった物質や法令等の規制対象外の物質であっても住民等の関心の高い物質等については留意する必要がある。
 また、水温、透明度、透視度、濁度、塩分等の水の性状を表す基礎的な項目については、測定も比較的容易であり、水質調査時には常に測定することが望ましい。
 さらに、水質の時間的空間的な変動は水域の物理的・化学的・生物的相互作用によるものであり、水質の予測においてはこの変動のメカニズムを模式的に表現する必要があることから、調査においては対象水域のメカニズムを規定する流れ、乱れ、物理化学生物作用等を把握することが重要である。*[4]
 このようなメカニズムの把握は、予測モデルの構築だけでなく、予測の再現性や事後調査のバックグラウンドを検討する上でも重要である。調査、予測時において重視すべき要素の例を代表的な水域毎に整理して表 1.2に示す。

c) 底質の調査
 底質は一般的にはCOD、硫化物、強熱減量等の有機汚濁の指標となる項目並びに重金属等有害物質に関する項目より選定するが、これらの項目は、通常、含水率、粒度組成等の底質の物理的性状を表す項目と相関がみられることから、底質調査時には常に測定することが必要である。
 また、底質の性状は底泥を生息基盤とする底生生物等の生息環境として重要であるとともに、底生生物等の活動により底質も影響を受けることから、底質調査時には泥中の底生生物等を合わせて調査することが望ましい。特に干潟域などでは、底生生物を中心とする多様な生態系が存在し、その食物連鎖を通じて水質・底質の浄化に寄与しており、底泥を中心とする物質循環系を把握する上では重要な存在となる。
 さらに、重金属等の有害物質に関しては、現状ではそれらの発生源が流域等に存在しないとしても、過去に排出された物質が底質に蓄積されている場合も考えられることから、必要に応じて過去の汚染等の略歴を調査することも必要である。
 底質の時間的空間的変動は前記の水質と同様に物理的・化学的・生物的相互作用によるものであるが、底質が主に水中からの物質の堆積と底泥から水中への溶出のバランスで決定され、両者の収支で残された物質は底泥中に蓄積されることから、その変動の時間的スケールは水質よりも長く、空間的スケールは鉛直的には底泥の表層部分(主に、底生生物や微生物の生息範囲)に限られると考えられる。また、底泥を形成する土粒子は、水中では粘土鉱物から生物体に由来するものまで様々な比重のものが存在するが、水域の流れの特性に応じて選択的に堆積し、特徴的な水平分布を示す。
 以上のように、底質の調査においては、水質と同様に対象水域の時間的空間的スケールを考慮した計画立案が必要であるが、水質と比較すると、変動の時間スケールは長いことからより長期間のデータの取得が必要であり、また、空間的には、鉛直方向には底泥表層部を中心とし、水平方向に広範囲のデータを取得することに留意する必要がある。

d) 流況の調査
 水の流れや量については、前記のように水質・底質の予測の最も基礎となる情報であり、水環境に係る環境影響評価を実施する際には必須の調査項目である。
 流れ等の変動のメカニズムとそれを支配する主な要因は、水域の特性により大きく異なることに留意して、調査頻度、調査地点を決定する必要がある。*[5]

 また、海域やある程度規模の大きい湖沼、堰、河川河口部など鉛直方向の空間的な広がりのある水域では、異なる密度を持つ水が重なり合った成層構造を形成し、上記の水の流れや水中の物質の分布に影響を与えているにも留意する必要がある。*[6]

[5] 水質・底質の影響予測
a) 影響予測の基本的考え方
 水質・底質の影響予測は、事業特性及び水域特性に基づく影響要因と環境要素の内容に応じて適切な手法で行うこととなる。
水質及び底質の汚濁は、水域内に流入する汚濁物質の濃度が自然状態よりも高くなった場合に生じるが、流入した汚濁物質の濃度を決定するメカニズムは、水域の流れによる移流、水の乱れによる混合(拡散)、水域内部における物理的・化学的・生物的相互作用(まとめて化学反応等という)によって決定される。
 水域における流れ、乱れ、化学反応等は、海域、湖沼、河川等により大きく異なり、さらに、同じ水域においても、流れが速く水が十分に混合している場合もあれば、流れがおそく密度成層しているため混合が抑制されている場合もある。
 このように、汚濁物質の濃度を決定するメカニズムは水域によって大きく異なるが、水質・底質を予測する上でこれらのメカニズムの全てを考慮することは不可能であり、主要なプロセスを考慮して予測を行うことが現実的である。また、事業の特性として、事業の位置・規模、期間、設置する工作物等に応じて影響が異なることから、想定される影響の程度を考慮して予測を行う必要がある。従って、水域の特徴に応じてその支配的なプロセス並びに事業の特性に考慮できるような予測手法を選定することが必要である。*[7]
 また、予測においては基本的にはその時点で最新の技術を用い、最も確からしい結果を定量的に導き出すことが望ましいが、予測には不確実性があることは避けられない。予測に当たっては極力不確実性を少なくする努力をするとともに、予測結果の妥当性について検討する必要がある。*[8]
 従来のアセスメントでは環境基準値などと比較検討するため、年間平均等の平均値を予測評価することが一般であった。とくにこの傾向は予測の難しさから、海域におけるアセスメントでは顕著であった。平均値の評価も意味があるものの、平均値的な考え方では把握が困難であり、環境質の変動を考慮すべき現象も存在している。例えば海域において夏季に底層で貧酸素水塊が発生すれば底生生物は大きなダメージを受けることになる。そのような場合には、事業によるインパクトが貧酸素水塊の消長及び移動などに影響を及ぼすか否かについての検討も必要となることも考えられる。
 したがって予測の対象となる水域に於いて水質が年間を通してどのような変動幅にあるかを把握し、その変動幅が生態系に与える影響が大きい場合は、事業が変動幅にどの程度影響を及ぼすかを検討することが望ましい。*[9]
 また、有害物質については、通常は事業による公共用水域への排出は前提とされないが、事業特性や地域特性をふまえ、事業の実施による有害物質の発生の可能性について検討する必要がある。

【留意事項】
*[8] 予測の不確実性について
 予測の不確実性を少なくする方法の例として、2点補正、感度解析の考え方を以下に示す。
[Ⅰ]二点補正
(1) 考え方
 一般に将来予測は、構築したモデルが現状を再現できるかという現況再現性の検討を踏まえて、モデルの妥当性を確認した後に将来の条件で予測を行う。しかしながら、モデルが複雑になるに従い含まれるパラメーターが多くなり、現況再現に合わせたパラメーターの組み合わせの設定が可能であり、この組み合わせが必ずしも将来においても成り立ち将来を正しく予測できるとは限らない。
 例えば水質・底質のケーススタディで検討した内湾の水質予測を考える場合、現況を再現するモデルでは主に以下の計算条件を必要とする。
  流動モデル:淡水流入量、境界潮位振幅、境界水温・塩分、粘性係数
  水質モデル:流入負荷量、境界濃度、速度定数(生産速度、分解速度、沈降速度、 溶出速度等)
 現況再現計算ではこれらの計算条件のうち、下図に示すように淡水流入量、負荷量、境界条件については基本的には現況再現年の実測値を用い、その他のパラメータについては再現性をみながら試行錯誤で設定して計算を実施する。将来予測においては計画地形を加えるとともに淡水流入量、流入負荷量を変更し、その他のパラメータは現況の値としている。
           
                             図   水質予測のフロー
 しかしながら、生産速度、分解速度等の速度定数は当該水域の生態系の特性(とくに植物プランクトンの優占種)や水温の関数でもあり、将来において現状と同様な関係が継続する保証はない。そこで、この問題点を検討するための1つの方法としては、現況再現ができたパラメーターの組み合わせで過去の観測値が再現できるか検討するいわゆる二点補正の考え方が有効である。
(2) 留意事項
 二点補正の手法は前述のように異なる時間断面において再現性を検討するため、諸条件の設定方法を設定する必要がある。一般に予測モデルにおける計算条件はモデルの支配方程式で係数として用いられるものと、流入負荷量や境界条件などのように入力条件として用いられるものに分かれる。二点補正では下図に示すように、現況対象年次について直近(再現年次2)以外にある程度期間をおいた過去の年次(再現年次1)の2ケースを想定して、まず再現年次1の諸条件で再現性の検討を行い、次に再現年次2の諸条件で再現性を検討する。ことのき、パラメータについては再現年次1の値を用いることができるか、できない場合はその要因を検討して、将来はどのようなパラメータを用いるべきかを設定する。この検討の上で将来予測を行う必要がある
           
[Ⅱ]感度解析
(1) 基本的考え方
 一般にシミュレーションモデルによる予測結果は、パラメータや入力条件により結果が大きく左右される。パラメータの値は現地調査や室内実験から求めるが、既往文献を参考に設定することも多く、必ずしも当該地域の特性に最適な値が設定できるとは限らない。また、流入負荷量などの計算条件の設定にも不確定な部分があることは避けられない。そこで、モデルの予測結果にどのパラメータや入力条件が大きく寄与するのかを事前に検討しておき、予測精度を向上させるために寄与率の大きなパラメータ等の設定に注意を払う必要がある。
(2) 留意事項
 モデルの感度解析を実施する際、パラメータが多いときは全てのパラメータについて感度解析をすることは非効率的である。そのため、モデルの支配方程式の中でそのパラメータが関与する項のオーダを事前に概算して、明らかに寄与が小さいと考えられるパラメータについては検討からはずすなどの手順を踏むことが効率的である。1例として水質・底質のケーススタディで取り扱う低次生態系モデルにおいて感度解析を行う場合を示す。まずある基本ケースを設定して計算を行い、感度解析を行うパラメータについてそのパラメータだけを基本ケースの何倍かしたケースを計算してある地点の予測結果をケースに対する相対値で下図のように整理する。この図よりどのパラメータの感度がよいかの検討を行う。なお、図から明らかなように効率的にケースを設定しないと、非常に計算ケース数が多くなってしまう。
              
                             図   二点補正の手順例

b) 予測手法
a. 水質
 水質を決定するメカニズムは、水域によって大きく異なるが、水質を予測する上でこれらのメカニズムの全てを考慮することは不可能であることから、現時点では主要なプロセスを考慮して予測を行わざるを得ない。したがって、水域の特徴に応じてその支配的なプロセスを考慮できるような予測手法を選定することが重要である。

ア) 海域
 日本の沿岸域を水質のメカニズムといった観点から大別すると、太平洋岸内湾域、半開放性沿岸域、日本海沿岸、亜熱帯域に4区分される。それぞれの区域の特徴と予測手法の選定における考え方の例は表 1.2に示すとおりである。

イ) 湖沼
 湖沼の水質に大きな影響を与える因子として、湖の容積、水深、表面積、水収支、流入汚濁負荷量などがある。この中でも容積と水収支を統合した指標である滞留時間および栄養状態が湖沼の水質特性を分類する要因として上げられる。
 予測手法の選定における考え方の例は表 1.2に示すとおりである。

ウ) 河川
 河川の流動の形態としては、順流域と河口の近くで塩水の影響を受ける感潮域に大きく分類される。
予測手法の選定における考え方の例は表 1.2に示すとおりである。

b. 底質
 底質の汚濁は、一般的には水質汚濁の進行に伴い水中の汚濁物質が沈降・堆積し、汚濁が進行するものと考えられる。また、水域に構造物や埋立地が出現し、流れの滞留域が形成され、局所的に汚濁物質が堆積しやするなることも考えられる。
 したがって、底質の予測は、対象事業の施設からの排水対策やそれを踏まえた水質予測結果並びに流れの予測結果に基づいて、現状の底質の状況と水質や流れの変化の程度から推定することとなる。水中の物質循環における沈降量ないし沈降量と溶出量の収支より底質の変化量を算定することも可能であるが、この場合には前記の水質と底質との時間スケールの相違や底泥中での底質の変化等にも留意する必要がある。

c) 予測地域
 予測地域は、対象事業による地形変化や排水等による影響の及ぶ範囲を対象とするとともに、影響の程度・内容や対象の特性に応じて周辺地域を含めるなど、その影響を充分に包含する範囲を設定する。*[10]

d) 予測対象時期
 予測対象時期は、対象事業に係わる影響要因を事業特性の内容に応じて、工事の実施、土地又は工作物(「土地等」という)の存在及び供用に分け、それぞれ水質への影響が最大となる時点を設定することが基本となる。
 工事の実施においては、工事による濁り等の汚濁物質の発生量が最大となる時点を予測時期とする場合が一般的であるが、特に工事が広範囲に及ぶ場合などでは、干潟、藻場の分布状況など周辺水域の環境の状況を勘案し、これら影響を受けやすい場と施工位置、施工時期等との関係から複数の予測時期を設定することが必要となる場合もある。*⑪

 存在時は、土地等が完成した時点を予測対象時期とするが、埋立事業等で外周護岸が先行して完成するような場合には、外周護岸の完成時期が存在時に相当する。
 供用時は、対象事業に関連する施設等から公共用水域への排水が考えられる場合に、施設等が完成し、排水が定常状態に達した時点を対象時期となる。ただし、供用後定常状態に至るまでに長期間を要する場合や予測の対象となる期間内で排水量等が大きく変化する場合には、中間的な時期での予測が必要となる場合もある。
 また、数値シミュレーションによる定量的予測を実施する場合には、一般にモデルをキャリブレーションするための現況再現計算を実施する。現況再現の年次は、通常、現況調査を実施した時期と一致させ、これに合わせて必要なパラメータ(流入水量や負荷量条件)を設定する。*⑫

 しかし、流入水量や負荷量等の条件は様々な統計的資料を基に設定する場合もあり、必ずしも現況調査を実施した時期と同じ時期の条件を設定できるとは限らない。このような場合には、再現対象年次と条件設定年次との間の自然的社会的状況の類似性や推移等について十分検討しておく必要がある。
 さらに、水質の年間の変動が少ない水域であれば、年間の平均的な水質を予測すればよいが、水質が年間で大きく変動するような水域を対象とする場合には、その変動の特性を考慮して予測時期を設定する必要がある。*⑬

[6] 評価の考え方
 環境影響評価法における評価の考え方は、大きく以下のア、イの2種類あり、これらのうちアの視点からの評価は必ず行う必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点からの評価も行う必要がある。
 ア、イの評価を行う場合には,イの基準値との整合が図られた上でさらにアの回避・低減の措置が十分であることが求められる。

 水質・底質では、人の健康に関する項目、生活環境の保全に関する項目等について環境基準等の基準、目標が設定されている項目があり、海域におけるSSを対象にする場合などを除き、上記のアとイの評価を行うことが原則となる。また、従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみのによる評価が行われていたため、アの視点による評価を行うための調査・予測・評価手法の選定には、十分な検討が必要である。
 ウの留意事項においては、事業計画と事業者以外のものが実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これら対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観資料に基づき明らかにする必要がある。
 また、水質に関して定められている環境基準は環境保全上維持されることが望ましい基準として定められる行政上の目標となるべきものであり、環境汚染防止上の規制値とは概念上異なり、幅広い行政の施策によって達成を目指すものである。一方、水質汚濁に関しては、排出基準や総量規制基準が定められている。この排出基準や総量規制は、環境基準達成に向けて講じられる諸施策と考えられる。このような背景を理解した上で、事業による環境影響を適切に評価する必要がある。

a) 回避・低減に係る評価の考え方
 回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、その手法の例として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討する方法や、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討する方法が基本的事項に挙げられている。また、現況よりも環境を悪化させないことで評価する方法も考えられる。
 回避・低減に係る評価において最も留意すべき内容は、現状において環境基準を達成していない地域など、イの視点における基準等との整合が図られない場合 *⑭において、アの視点からよりいっそうの回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価を併せて総合的に評価する場合の考え方である。
 このようなケースにおいては、基準等の整合が図られない内容を明らかにし、回避・低減の措置による事業の実施に伴う付加分の低減の程度(低減率等)、現況に対する変化の程度から、その回避・低減の措置に関する実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かを検討し評価を行う*⑮。
 また、水質や底質に関する有害物質の発生が想定される事業の場合は、環境中へ排出しないような環境保全対策をとることが前提となるが、その措置に関して実行可能なより良い技術が取り入れられているか、否かといった観点からの検討が重要となり、その効果の検証という意味合いでの事後調査の実施といった選択肢も考慮する必要がある。

b) 基準又は目標との整合に係る評価の考え方
 水質については、環境基準等の基準・目標が設定されているため、従来の環境影響評価においては、一般的に基準との整合についての視点のみによる評価が実施されてきた。そのため、既に現状の水質の状況が環境基準を満足していない地域での事業の場合の評価方法が問題となっていた。
 この基準又は目標との整合に係る評価においては、整合は図られない場合は、それを明らかにすることが重要であり、それをふまえて前述の回避・低減に係る評価を実施していくことが重要である。

c) 基準又は目標との整合に係る評価の考え方
 事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合*⑯においては、事業計画と事業者以外のものが実施する対策等の内容・効果・実施時期が良く整合していることや、これら対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。

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