平成13年度 第1回検討会

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資料2-2


1-2 環境保全措置

(1)環境保全措置の目的

 環境保全措置は、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響について、事業者により実行可能な範囲で、当該影響を回避し、又は低減すること及び当該影響に係る各種の環境保全の観点からの基準又は目標の達成に努めることを目的として検討されるものとする。(基本的事項第三、一、(2)

 環境保全措置の目的は、事業による景観・触れ合い活動の場への影響を極力回避または低減するとともに、評価の対象とする地域において景観・触れ合い活動の場の保全に係る基準または目標*1が定められている場合にはそれらとの整合も図り、地域を特徴づける景観・触れ合い活動の場が有する価値を保全し、機能の減少を限りなくゼロにすることにある。

・ 図-1に示した検討の年次計画に基づき、平成10年度には自然との触れ合い分野のスコーピング手法について、平成11年度には環境影響評価の実施段階における調査・予測手法について検討し、平成12年度において保全措置の検討及び評価手法について検討することとした。
・ 3年間の検討全体を通じて、人と自然との豊かな触れ合いの確保という視点のもとに「景観」と「触れ合い活動の場」のふたつの項目が環境影響評価の対象とされたことを重視して、より良い環境配慮につながる効果的なアセスメント手法を検討していくこととした。

(2)環境保全措置の検討の流れ

 環境保全措置の検討は、予測結果から得られた景観・触れ合い活動の場の価値の変化状況に応じて、環境保全措置の必要性があると判断された場合に、図-5(PDFファイル12k)に示した流れにしたがって検討することとなる。

<環境保全措置の検討の流れ>
[1]  環境保全措置の保全方針(保全措置の検討対象、検討目標、検討手順・方針)を設定する。
[2]  存在・供用及び工事の実施による影響を回避・低減するため、事業の計画段階に応じた措置の内容を検討する。
[3]  検討された回避・低減措置については以下の手順で効果及び影響の検討を行い、その結果を整理することにより妥当性を検証する。
[3]-1 環境保全措置の効果をできる限り客観的に確認し、その結果、不確実性が残される場合にはその程度を明らかにする。
[3]-2 環境保全措置の実施に伴う他の環境要素への影響、あるいは、環境保全措置を講ずるにも関わらず存在する環境影響について検討する。
[4]  回避も低減もできずに残される影響を代償するための措置の内容を検討する。
[5]  検討された代償措置について、効果及び影響の検討を行い、その結果を整理することにより妥当性を検証する。
[6]  [2]~[5]を繰り返し、最適な環境保全措置実施案を選定する。


※1 基準又は目標とは、国または地方自治体が環境保全のために定めた計画(環境基準、環境基本計画、環境保全のための条例等)や景観・触れ合い活動の場の保全のために定めた指針等をいう。保全方針の検討に際しては、それらとの整合を図ることも重要である。なお、景観・触れ合い活動の場に関する環境基準として特に定められたものはない。


(3)保全方針の検討
1)保全措置検討の観点

-保全措置検討に当たっての主な観点
 保全措置の検討に当たっては、スコーピング及び調査・予測のそれぞれの段階で把握される以下の観点を十分踏まえ、回避・低減措置または代償措置をどのように行うかを十分に検討する必要がある。
 また、その結果は「保全措置検討の観点」として分かりやすく整理し、準備書や評価書において明確に表現される必要がある。

・環境保全の基本的考え方(スコーピング段階における検討の経緯を含む)
・事業特性(立地・配置、規模・構造、影響要因など)
・ 地域特性(景観:眺望景観・囲繞景観の状態と価値の認識)
(触れ合い活動の場:活動特性・アクセス特性)
・地域の環境基本計画や環境配慮指針などに景観・触れ合い活動の場の保全に関連する目標や指針が示されている場合には、それらとの整合指標。(景観・触れ合い活動の場に関しては、環境基準のような特段の基準は定められていない。)
・方法書手続きで寄せられた意見
・影響予測結果 など

-景観・触れ合い活動の場に対する主な影響要因と想定される影響
 景観及び触れ合い活動の場に対して一般的に想定される影響要因と影響の内容は、概ね表-3に示したとおりである。
 「存在・供用」に伴う景観への影響については、各主務省令においても全ての対象事業において標準項目として設定されているが、「工事」に伴う景観への影響については標準項目にはあげられていない。一方、「存在・供用」に伴う触れ合い活動の場への影響についても全ての対象事業が標準項目として設定しているが、ダム事業や発電所事業、埋立て事業等一部の事業においては、「工事」に伴う影響も標準項目にあげている。
 したがって、検討が必要になる保全措置の範囲としては、景観については一般的には「存在・供用」影響の回避・低減措置及び代償措置の検討が中心となり、触れ合い活動の場については「存在・供用」影響のみならず、事業によっては「工事」影響についても回避・低減措置及び代償措置の検討が必要である。
 しかしながら、標準外項目である場合においても、眺望や活動に影響をおよぼすおそれのある仮設工作物が出現する場合や工事期間が長期に及ぶ場合などにおいては、工事中の影響についても環境影響評価項目として取り上げ、保全措置の検討を行う必要がある。

-景観・触れ合い活動の場に対する保全措置検討の考え方
 自然との触れ合い分野においては、「景観」では視覚を通じて人間に与えられる認識によって把握される価値、「触れ合い活動の場」ではその場の環境と活動を通じて人間に与えられる認識によって把握される価値への重大な影響を回避・低減又は代償するための措置を検討することとが目的となる。
景観・触れ合い活動の場の項目においては、人間に与えられる価値認識を、普遍価値固有価値という2つの価値軸に区分した上で、重要な認識項目や代表的指標を調査によって明らかにし、代表的指標の事業の実施に伴う変化を予測する手法を示したが、保全措置の検討はこうした調査・予測の結果を踏まえ、代表的指標の変化を読み取って検討対象とした景観、触れ合い活動の場への影響を回避・低減又は代償する措置を検討することとなる。
 また、想定される影響についても、「景観」では従来から行われてきた眺望景観の変化のみならず事業実施区域及び周辺の身の回りの景観である囲繞景観の変化も事業による影響として捉えることとし、「触れ合い活動の場」では事業実施区域及び周辺の活動特性の変化に加え、アクセス特性の変化も事業による影響として捉えることとした。
 そのため、保全措置の検討も「景観」では眺望景観及び囲繞景観の変化を、「触れ合い活動の場」では活動特性及びアクセス特性の変化を回避・低減又は代償する措置の検討がそれぞれ必要となる。特に、「触れ合い活動の場」の活動特性については、場そのもの又は活動を支える環境(資源性、利便性、快適さ)の変化に関して保全措置を検討することとなる。
 したがって、従来の環境影響評価における環境保全措置の検討に比べ、今後は相当幅広い検討が必要となる場合も想定されことから、事業計画の各段階における検討と環境影響評価における保全措置の検討が密接な連携のもとに進められることが重要となる。

2)保全措置の検討対象

-保全措置の検討対象の選定
 保全措置の検討対象は、上記「1)保全措置検討の観点」に示した観点や、他の環境要素の評価や保全措置の検討状況なども考慮して、予測した項目の中から選定する。保全措置の検討対象の選定にあたっては、環境保全措置を実施する空間的な範囲や時間的な範囲について、十分に検討する必要がある。なお、環境保全措置が必要でないと判断された場合には、その理由を予測結果に基づきできる限り客観的に示す必要がある。

-景観・触れ合い活動の場に対する保全措置の検討対象
 景観では状態及び価値の変化が予測された、眺望景観及び囲繞景観に対する普遍価値及び固有価値の中から、具体的な眺望点からの眺望や景観区等を保全措置の検討対象として選定することとなる。
 触れ合い活動の場では活動特性の変化が予測された活動種と活動区及びアクセス特性の変化が予測されたアクセスルートの中から具体的な保全措置の検討対象を選定することとなる。

3)保全措置の検討目標

-検討目標設定の考え方
 保全措置の検討目標とは、先に選定した対象への影響を回避、低減もしくは代償のための措置を検討するにあたって目指すべき目標である。
 検討目標の設定にあたっては、事後調査による効果の確認ができる具体的な目標として、保全措置の検討対象ごとに調査や予測結果を活用して、できるだけ数値などによる定量的な目標を設定することが望ましい。
 また、目標の妥当性は、国または地方自治体が環境保全のために定めた計画や指針などとの整合性や、既存知見や研究例、保全措置検討の過程で得られたデータ(評価実験などの実施結果)などを用いて、できる限り客観的に示されることが望ましい。
 景観・触れ合い活動の場に対する保全措置の検討目標の設定においては、保全措置の検討対象ごとに、着目する認識項目と指標を明らかにすることが重要である。
 認識項目及び指標は、予測された変化の大きさ、効果の確認や比較のし易さ、客観的な判断基準や目安の存在、効果に関する既存知見の蓄積状況等を踏まえて設定することが望ましい。
 保全措置の検討目標の設定に当たっては、景観及び触れ合い活動の場の価値を保全する上で重要な以下の点に留意が必要である。
 景観の保全に関しては、目立ち・分断・撹乱の最小化による調和性の確保、煩雑さを避けることによる統一性の確保、地域的の特性の継承による親近性の確保が重要である。
 また、触れ合い活動の場の保全に関しては、活動を支えている資源性、快適さ、利便性の維持と触れ合い活動の場へのアクセス性の確保が重要である。

4)保全措置の検討手順と方針

 事業に伴う主な影響要因、影響の重大性、事業者としての実行可能性の判断、環境影響評価の実施時期などから、後述する「(4)環境保全措置の検討順位・検討内容(回避、低減、代償)」及び「(5)事業計画の検討段階に応じた環境保全措置の検討」の考え方を参考として、先に設定した検討対象に対する環境保全措置の検討手順と検討の方針を明らかにし、一覧表等に整理して示すことが望ましい。

(4)環境保全措置の検討順位・検討内容(回避、低減、代償)
 環境保全措置の検討に当たっては、環境への影響を回避し、又は低減することを優先するものとし、これらの検討結果を踏まえ、必要に応じ当該事業の実施により損なわれる環境要素と同種の環境要素を創出すること等により損なわれる環境要素の持つ環境の保全の観点からの価値を代償するための措置(以下「代償措置」という。)の検討が行われるものとすること。 (基本的事項第三、二、(1))
 代償措置を講じようとする場合には、環境への影響を回避し、又は低減する措置を講ずることが困難であるか否かを検討するとともに、損なわれる環境要素と代償措置により創出される環境要素に関し、それぞれの位置、損なわれ又は創出される環境要素の種類及び内容等を検討するものとすること。 (基本的事項第三、二、(4))
1)検討の順位(図-6)

 環境保全措置の検討にあたっては、次の順位を遵守すべきである。
[1]予測された保全措置の検討対象の状態や価値の変化が事業による影響であり、保全措置を検討する必要があると判断された場合には、その影響を「回避」し、また「低減」するための措置を優先して検討する。
[2]回避、低減措置による効果が十分でないと判断された場合、もしくは不可避の理由により回避、低減措置の実行が不可能であると判断された場合に「代償措置」を検討する。

2)回避、低減、代償の区分と考え方

-回避、低減、代償の考え方
 景観や触れ合い活動の場は人と自然との関係の上に成立しており、地域の歴史や文化とも複雑に関係していることから、事業による変化が何らかの形で生じる場合には、事業自体が中止されない限り厳密な意味での回避措置はない。また、全く同じ景観や触れ合い活動の場を創出することは現実的にはできないため、厳密な意味での代償措置も存在しない。
 しかし、調査・予測結果から景観や触れ合い活動の場に何らかの影響があると予想される場合には、重大な影響を回避するための措置や、損なわれる対象や関係性を保全するための措置の検討は必要不可欠である。

-回避、低減、代償の順での検討
 環境保全措置の検討を回避、低減、代償の順に沿って検討することは、予測された影響を事業者が実行可能な範囲内で如何に小さくし得るかについて、より効果的手法を目的に応じ合理的に選択していくための手段である。事業者は、先に設定した保全方針に従って最前の環境保全措置を検討し、事業による影響の低減を図っていく必要がある。

-回避、低減、代償の内容
 ここでいう回避、低減、代償とは以下に示す内容であるが、それらの間を厳密に区分できるものではない。

回避
 行為(環境影響要因となる事業行為)の全体または一部を実行しないことによって影響を回避する(発生させない)こと。保全の対象となるものから影響要因を遠ざけることによって影響を発生させないことも回避といえる。具体的には、事業の中止、事業内容の変更(一部中止)、事業地やルートの変更などがある。つまり、影響要因またはそれによる景観、触れ合い活動の場への影響を発現させない措置といえる。

低減
 低減には、「最小化」、「修正」、「軽減/消失」といった環境保全措置が含まれる。最小化とは、行為の実施の程度または規模を制限することによって影響を最小化すること、修正とは、影響を受けた環境そのものを修復、再生または回復することにより影響を修正すること、軽減/消失とは、行為期間中、環境の保護および維持管理により、時間を経て生じる影響を軽減または消失させることである。要約すると、何らかの手段で影響要因または影響の発現を最小限に押えること、または、発現した影響を何らかの手段で修復する措置といえる。

代償
 損なわれる環境要素と同種の環境要素を創出することなどにより損なわれる環境要素の持つ環境の保全の観点からの価値を代償するための措置である。つまり、消失するまたは影響を受ける環境(景観・触れ合い活動の場)にみあう価値の場や機能を新たに創出して、全体としての影響を低減させることといえる。

3)代償措置の視点

-代償措置の困難性
 景観・触れ合い活動の場に関する代償措置を講ずる場合には、その効果に対する不確実性や代償達成までにかかる時間(消失と代償との時間差)、正否の判断基準の不明確さなどを十分踏まえた検討が必要である。このため、代償措置は技術的に最も困難であることに留意し、創出する環境要素の種類、内容、目標に達するまでの時間や管理体制について十分な検討を行うことが必要である。
 代償措置により創出する環境要素の検討にあたっては、代償措置を実施する場所における現況の環境条件を考慮し、代償措置を講ずることによる環境影響についても把握する必要がある。
 また、代償措置を実施する場合には、創出する環境要素の種類や代償措置を実施する場所によって、その効果が大きく異なることが多いことに留意が必要である。さらに、十分な検討を行ったとしても、予測された効果が得られない可能性もある。

-代償措置の効果の検討
 代償措置は、損なわれる環境と同種のものを影響の発生した場所の近くに創出することが基本である。それができない場合には、事業により損なわれる環境、代償措置によって創出する環境および代償措置によって損なわれる環境の各々の価値を十分に検討し、最も効果的で影響の少ない措置を考える必要がある。また、代償措置の効果に確信が持てたとしても、景観の変化や利用状況の変化を継続的に把握しながら、その変化状況に応じた追加的な措置や管理を行い、時間をかけて目標とする景観や触れ合い活動の場の創出を進めていくといった考え方が重要である。
 なお、代償措置を事業計画地外で行う場合は、地域で定められた環境基本計画や環境配慮指針などの上位計画など環境保全施策や、他の事業計画との整合を保全措置の検討目標の設定の段階で十分に図る必要がある。

(5)事業計画の検討段階に応じた環境保全措置の検討

-計画段階に応じた複数案の検討
 環境保全措置の検討にあたっては、事業の計画の検討段階に対応して、それぞれいくつかの案を検討し、措置の実施による効果と環境への影響を繰り返し予測・評価して、影響の回避・低減が最も適切に行えるものを選択することが重要である。
 検討内容としては、想定される影響要因の区分から、「存在・供用」の影響に対する環境保全措置と「工事」の影響に対する環境保全措置の検討が必要となる。
 事業計画の検討段階については、「存在・供用」の影響に関わる計画の検討が先行して行われ、検討手順としては、立地・配置、あるいは規模・構造、施設・設備・植栽など、管理・運営といった順に段階的に検討されるのが一般的である。
 これに対し、「工事」の影響に関わる工事計画の検討は「存在・供用」の影響に関わる計画の検討がある程度進んだ段階で、これらの検討結果を計画条件として検討されるのが一般的である。このため環境保全措置の検討は、このような事業計画の検討段階に対応して段階的に検討していくことが必要であり、その検討過程を明らかにすることも重要である。
 従来の環境影響評価においては、このような段階的検討手順を踏まず、あるいは検討の経緯を示すことなく、最終的に採用した環境保全措置のみを記載する場合が多く見られた。このため、合意形成を図るための情報としては極めて不十分なものとなり、かえって事業者に対する住民の不信感を醸成させる結果につながっていたケースもある。
 このよう点を改善するためには、環境保全措置の検討過程や選定理由が準備書や評価書において明確に表現される必要がある。

-景観・触れ合い活動の場では早期から環境配慮の検討が必要
 一般的に事業計画の進捗に伴い、事業計画の変更が可能な程度は徐々に小さくなることから、環境保全措置のうち立地、配置レベルにおける回避措置など計画変更の程度が大きくなる可能性のある措置については、できる限り事業計画の早い段階で検討する必要がある。
 特に景観・触れ合い活動の場の項目では、景観区や活動区のまとまりを残す、または眺望点と眺望対象の相互の関係や活動の連続性や多様性を保つといった環境保全措置が最も重要である。したがって、事業における改変地と保全の対象となる場のおおよその位置関係などは、基本構想段階あるいは基本計画段階までに把握し、その段階から環境保全措置を念頭に置いた環境配慮の検討をはじめておく必要がある。

-計画段階に応じた景観・触れ合い活動の場に対する保全措置例
 事業計画の検討段階に応じた保全措置の具体的内容については多種多様であり、影響要因、保全措置の検討対象及び検討目標等によっても異なることから、実行可能性の判断を踏まえて、より効果的な案を個別案件ごとに模索していくこととなる。
 表-4(PDFファイル9k)、表-5(PDFファイル8k)に列記した環境保全措置例については、景観、触れ合い活動の場の項目において、計画段階に応じた保全措置の具体的な内容をイメージするために、各計画段階ごとの一般的な保全措置例として示したものである。

(6)環境保全措置の妥当性の検証
 環境保全措置の検討に当たっては、環境保全措置についての複数案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かの検討等を通じて、講じようとする環境保全措置の妥当性を検証し、これらの検討の過程が明らかにできるよう整理すること。  (基本的事項第三、二、(5))

-保全措置の効果と影響の検討
 環境保全措置の妥当性の検証は、当該環境要素に関する効果とその他の環境要素に対する影響とを検討することによって行う。環境保全措置の採用の判断は妥当性の検証結果を示すことによって行われる必要がある。

-複数案の比較、より良い技術の取り入れの判断
 環境保全措置の効果を確認する手法には、早期の検討の経緯も含め、複数案を比較検討することや、より良い技術が取り入れられているか否かの判断を行うものなどがある。
 複数案の比較は、予測された環境影響に対し、複数の環境保全措置を検討した上でそれぞれの効果の予測を行い、その結果を比較検討することにより、効果が適切かつ十分得られると判断された環境保全措置を採用するものである。環境保全措置の検討とその効果の予測は、実行可能な最善の措置であると判断されるまで、繰り返し行う。
 より良い技術が取り入れられているか否かの判断にあたっては、最新の研究成果や類似事例の参照、専門家による指導、必要に応じた予備的な試験の実施などにより、環境保全措置の効果をできる限り客観的に示す必要がある。
 ただし、上記の検討において、採用することとした保全措置の効果が不確実であると判断された場合には、その不確実性の程度についても明らかにする必要がある。

-景観におけるより良い技術の取り入れ方
 景観に対する環境保全措置としてより良い技術を取り入れていくためには、まず「自然との触れ合い分野の環境影響評価技術(Ⅱ)、資料編」に示した景観に関する既存文献等に当たり、それらの中から、当該事業に適用可能な技術や類似の条件を抽出し、保全措置として採用した場合に期待できる効果を想定することが基本である。
 また、専門家による指導を受ける場合には、調査や予測に関する詳細データを提示するだけでなく、できる限り指導をいただく専門家を現地に案内し、実際に現地で景観を確認いただくことが重要である。
 さらに、景観においては、計量心理学的手法等を用いた評価実験を行うことにより、価値認識の把握やその変化状況を予測することが可能であることから、このような手法を環境影響評価の調査や予測においても積極的に活用することにより、環境保全措置の効果に対する客観的裏付けを、具体的な実験データにより示していくことが望ましい。

-触れ合い活動の場におけるより良い技術の取り入れ方
 触れ合い活動の場に対する環境保全措置としてより良い技術を採り入れていくためには、当該地において保全すべき活動種ごとに、その維持に最適な保全措置を選択していくことが必要である。しかしながら、「触れ合い活動の場」項目がアセスメントの対象になってから間もないことから、触れ合い活動の場の観点からみた環境保全技術そのものは確立途上にある。ただし、触れ合い活動の推進やフィールド整備、あるいは農林漁業の資源管理など、関連分野における技術の蓄積は進みつつあることから、それらの技術をアセスメントに積極的に適用していくことが、より良い技術の導入につながるものと判断される。
 活動種ごとに、専門家の指導を受けながら活動の維持に必要な空間的・時間的・資源的条件を明らかにし、必要とされる調査を随時行うことが求められる。
 できる限り指導をいただく専門家を現地に案内し、実際に現地の空間条件や資源、周辺環境等を確認いただくことが重要である。
 また、スコーピング段階等で浮かび上がった市民団体などの協力も得て、触れ合い活動の場としての必要条件等を明らかにすることが望ましい。

-他の環境要素への影響の確認
 環境保全措置による他の環境要素への影響の確認は、他の環境要素に関する予測および保全措置の検討結果を参照することによって行う。このような検討を行う際には、ある環境保全措置が、ある対象には良い効果をもたらすが、他の対象には悪影響となる場合もあるので、各環 境要素間の関連性についても十分な検討を行い、採用すべき環境保全措置を選択することが重要である。

-残される環境影響の確認
 以上の検討の結果によっては、残される環境影響に対し更なる環境保全措置の検討が必要となる場合もある。
なお、特に技術的に確立されておらず効果や影響にかかる知見が十分に得られていない環境保全措置を採用する場合には、特に慎重な検討が必要である。そのような場合には、保全措置の効果や影響を事後調査により確認しながら進めることも必要である。

(7)環境保全措置の実施案の選定
 環境保全措置の検討に当たっては、次に掲げる事項を可能な限り具体的に明らかにできるようにするものとすること。
ア 環境保全措置の効果及び必要に応じ不確実性の程度
イ 環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれのある環境影響
ウ 環境保全措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響
エ 環境保全措置の内容、実施期間、実施主体その他の環境保全措置の実施の方法  (基本的事項第三、二、(3))

-準備書・評価書に記載する保全措置の内容
 準備書、評価書には、当該生態系の保全方針や環境保全措置の検討過程、選定理由について記載する。また、環境保全措置の効果として措置を講じた場合と講じない場合の影響の程度に関する対比を明確にする。環境保全措置の効果や不確実性、他の環境要素への影響については、調査・予測結果を引用して、先に設定した手順と方針に従って簡潔に整理して示すことにより明らかにする。
 
 採用した環境保全措置に関しては、それぞれ以下の点を一覧表などに整理し、環境保全措置の実施案として準備書、評価書においてできる限り具体的に記載する。

・採用した環境保全措置の内容、実施期間、実施方法、実施主体など
・採用した環境保全措置の効果及び不確実性の程度
・採用した環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれのある他の環境要素への影響
・採用した環境保全措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響
・環境保全措置の効果を追跡し、管理する方法と責任体制

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