ア 環境影響の回避・低減に係る評価
建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なよりよい技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。
なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。
イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る検討
評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。
ウ その他の留意事項
評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。 (基本的事項第二、五、(3))
-影響を回避、低減、代償し得たかを客観的に評価
景観・触れ合い活動の場に関する評価は、保全方針で明らかにした保全措置の検討対象、検討目標に対して、採用した環境保全措置を実施することにより、予測された影響を十分に回避、低減又は代償し得たか否かについて、事業者の見解を明らかにすることにより行う。
評価において事業者の見解を示すにあたっては、その根拠ができる限り客観的に説明される必要がある。そのためには、個々の検討対象に関する環境保全措置の妥当性の検証結果を引用し、複数の案の比較結果や実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについての検討結果を一覧表などに整理して示した上で、景観・触れ合い活動の場への影響について全体としての見解を示すのが一般的である。
複数の案の比較においては、保全措置の検討目標の設定において明らかにした認識項目や指標及び判断の根拠等を踏まえて、できる限り客観性の高い定量的な比較結果を示すことが望ましい。
また、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについては、当該措置に適用可能な技術の中から、最善の効果を持つものが選択されていることが、分かりやすく解説されることが望ましい。
なお、事業地の所在地である地方自治体などが環境保全のために定めた環境基本計画や環境保全条例、各種指針などにおいて、景観・触れ合い活動の場の保全に関わる目標や方針が定められている場合には、それらとの整合性についても見解の根拠の一つとして言及しておく必要がある。
-景観における評価の客観性確保
景観において評価の客観性を高めていくためには、保全措置の検討目標において認識項目や指標をできる限り具体的にメリハリのあるものとして示されることが重要である。そのためには、調査や予測において、現況の価値認識の把握や変化状況の予測が、客観性の高い説得力のある内容として整理され解説されている必要がある。
景観の価値認識の把握や変化状況の予測に当たっては、眺望景観と囲繞景観のそれぞれに対して、普遍価値と固有価値のふたつの価値軸に照らして重要な認識項目を設定し、認識項目と関わりが深い(相関が高い)代表的指標を既存の知見や研究例等を参考に選定することとしている。したがって、調査の段階での認識項目と指標の選定における客観性の確保が最も基本となる。
そのため、既存の知見や研究例の引用のみでは説得力ある説明ができないような場合には、個別案件ごとの調査において、現況の景観の価値認識をヒアリングや評価実験等により把握し、その結果と景観の状態把握結果とを解析することにより、相関の高い指標を抽出することも重要となる。
また、景観の視覚的変化予測はコンピュータ・グラフィック技術の導入により予測精度及び再現性が格段に進歩していることから、これらの最新技術を積極的に導入することにより、一般の方々にも分かりやすい予測結果を評価の根拠として示していくことも、評価の客観性の向上にとって大変有効である。
-触れ合い活動の場における評価の客観性確保
触れ合い活動の場において、評価の客観性を高めていくためには、保全措置の検討目標において、保全すべき活動種を明確に提示し、活動種に対する変化状況の予測が整理されることが必要である。
触れ合い活動の場の価値認識の把握は、保全すべき活動種を明らかにするために行われるものであり、その把握のための指標の選定においては、できるだけ客観的かつ詳細であることが望まれる。
価値認識の把握において、客観性に欠けているとみなされたり、説得力のある説明ができない場合には、ヒアリングや追加調査、使用データの見直しなどを行い、場の利用者の実感に配慮した結果を提示することが望ましい。
-他分野の評価結果との総合化
準備書及び評価書においては、景観、触れ合い活動の場等の自然との触れ合い分野に関する各環境要素毎の評価結果は、大気・水環境分野、生物多様性分野、環境負荷分野などに関するそれぞれの環境要素毎の評価結果とあわせて、「対象事業に係る環境影響の総合的な評価」として取りまとめて示す必要がある。
評価にあたっては、それぞれの環境要素間には、トレード・オフの関係が成立するものがあることから、これら環境要素間の関係や優先順位について事業者はどう捉えて対応したのかについて明確にする必要がある。
-総合評価の手法と表現方法の創意工夫
総合評価の手法および表現方法には、一覧表として整理するのみならず、得点化する方法や一対比較による方法などが知られているが、今後は、合意形成の手段でもある環境影響評価の目的達成に向け、対象事業による環境影響に関する事業者の総合的な見解とその根拠を住民等に分かりやすく簡潔に伝えられるよう、個別案件ごとに創意工夫を重ねていく必要がある。
-事後調査が必要な場合
予測および環境保全措置の検討結果において、事業による影響予測の不確実性が大きいと判断された場合、保全措置の効果または影響が不確実であると判断された場合、もしくは他の環境要素への影響が不明確であると判断された場合には、工事中および事業の供用後の環境の状態や保全措置による効果等に関し、事後調査を実施する必要がある。
-事後調査の考え方
事後調査については、以下の点に留意しながら、図-8に示した手順に従って調査内容および調査結果の取り扱いに関する方針を検討し、その結果を事後調査の実施案として一覧表などに整理し、準備書、評価書においてできる限り具体的に記載する。
・影響の時間的変化や保全措置の効果の出現までの時間を考慮し、調査時期を選定する必 要がある。
・事業による影響と他の社会的変化などによるもとのとをできる限り区分できるよう、調 査地点・対象・方法・手法を設定する必要がある。
・事後調査により、環境保全措置の効果が不十分であることが確認された場合や、不測の 影響が発生した場合には、その都度影響の内容や程度により柔軟に追加的な措置を講じ たり、技術的な進展を踏まえてより効果的な措置を講ずる必要がある。
・大規模な工事が長期にわたるような場合には、適切な時期に事業の進捗に応じて得られ た事後調査の結果を用いて、環境影響評価時点の予測・評価が適切であったかについて 検討を行うことも必要である。
・環境影響評価時点の予測の前提条件とした事業計画が計画熟度の高まりに応じて変化し た場合には、再予測を行うとともに、必要に応じ追加的な措置の検討を行いその結果を 公表する必要がある。
-景観における事後調査手法
景観の状態変化や価値認識の変化に対する事後調査の手法としては、原則として環境影響評価の調査において採用した手法と同様の手法を適用することが基本である。したがって、現況調査において映像情報の取得のみならず価値認識の把握のためのヒアリング調査や評価実験等を行った場合には、事後調査においても、価値認識の変化を確認するために同様の調査を実施する必要がある。
また、事後調査の実施時期は、評価の前提として見込んだ環境保全措置の効果が出現する時期に対応して実施することとなる。そのため、保全措置の効果の出現に対する継続的監視が必要な場合には、同様の調査を経年的に継続する必要がある場合もあり、ある時点で1回確認すればよい場合もあることに留意が必要である。
保全措置の効果の確認は、評価の根拠とした環境保全措置の効果を見込んだ場合の予測結果との比較により行うことから、事後調査結果の公表に当たっては、予測結果との比較がしやすいように整理し、表現される必要がある。
-触れ合い活動の場における事後調査手法
触れ合い活動の場の状態変化や価値認識の変化に対する事後調査の手法としては、原則として環境影響評価の調査において採用した手法と同様の手法を適用することが基本である。 したがって、現況調査において価値認識の把握のためにヒアリング調査や現地踏査、カウント調査等を行った場合には、事後調査においても、価値認識の変化を確認するために同様の調査を実施する必要がある。
触れ合い活動の場においては、保全措置の検討目標に掲げた保全すべき活動種の維持の程度が環境保全措置の効果の測定の対象となり、そのためには事後調査による継続的な調査が概ね必要となる。その期間や頻度は、保全すべき活動種や採用した環境保全措置に応じて適宜決める必要がある。
保全措置の効果の確認は、評価の根拠とした環境保全措置の効果を見込んだ場合の予測結果との比較により行うことから、事後調査結果の公表に当たっては、予測結果との比較がしやすいように整理し、表現される必要がある。
-事業着手後の適切な対処
事後調査の結果は、まずは、当該事業における追加的な環境保全措置等の適切な実施につなげることが基本である。
したがって、評価書もしくは修正評価書の段階で公表した事後調査実施案にしたがって、事業着手後に事後調査を実施し、その結果から追加的措置が必要と判断された場合には、その対処の方法等に関する事業者の見解を含めて公表しなければならない。
また、事後調査結果から、特段の追加的処置の必要性が認められず、予測したとおりの環境保全措置の効果が認められた場合にも、その根拠を含めて事後調査結果として公表することとなる。
-事後調査の積極的な活用
事後調査結果は、適切な調査方法の確立、予測精度の向上、保全措置の客観的・定量的検討目標の設定根拠の取得、保全措置の効果の検討に関する客観的情報の提供など、将来の環境影響評価技術の向上に資する貴重な情報でもあるので、積極的に整理・解析され、活用されることが重要である。そのためには、事後調査の結果を基礎的なデータを含めて広く公開し、活用に供するための仕組みを作っていくことが望まれる。
-環境影響評価の客観性向上に向けた基盤情報の整備
環境影響評価における客観性の向上は、今後の環境影響評価技術の最重点課題である。そのためには環境影響評価に関わる様々な主体がそれぞれ以下に示すような役割を担っていく必要がある。
・事業者の役割 | : | 適正な事後調査の実施とその結果の公表を通じ、予測結果の科学的検証を確実に行うと共に、情報の蓄積と活用に向けて積極的に取り組んでいく必要がある。特に保全措置の効果が十分に得られなかった場合の原因究明と対処方法の検討と適正な実施、その効果の追跡については、環境影響評価の将来に向けた客観性の向上にとって最も重要な事業者の役割であることを認識し、積極的に取り組んでいく必要がある。 |
・環境省の役割 | : | 環境影響評価における客観性の高い調査や予測手法の技術開発、学際機関との協力体制の確保や開発支援等による客観的判断根拠の確保及び情報の積極的公開、環境に関する基盤情報の精度向上、利用性の高いデータベースの整備・公開は、環境影響評価技術の向上に資する環境行政の重要な役割であることを認識し、積極的に取り組んでいく必要がある。 |
・国民の役割 | : | 環境影響評価の手続きを通じて、地域の環境に対する情報や意見をできる限り早い段階から事業者に提供することにより、当該事業に対するより適正で効果的な環境配慮を引き出すべく、積極的に関与していく必要がある。また、多様な意見を有する主体間での合意形成における、客観的判断根拠に基づく意見交換の重要性を理解し、冷静で建設的な対応と事後調査結果の公表に対する監視を含めた長期的な関与が国民の重要な役割として期待されている。 |
-効果的な環境保全措置の実施に向けた体制の確保
環境保全措置には事業計画の検討段階での対応を必要とするものの他に、工事中や供用後の管理や運営に係る措置のように事業実施後に対応すべきものも多い。したがって、環境影響評価の手続きが終了した後も、環境保全措置が適切に実施される体制が事業者において確保されていることが重要である。
環境影響評価法の対象となる事業は規模も大きく、大半が公共事業もしくは半公共的事業であることから、事業費の予算の中に、事業実施後の事後調査の実施に必要な費用と、その結果から追加的措置が必要とされた場合の対処費用が確保されなければ、実際の対応は不可能となる。そのためにも、環境影響評価の段階において、事後調査の実施案がより具体的に検討され、公表される必要があり、それにより事後の適切な対処が担保される仕組みを構築していかなくてはならない。
また、事業の種類によっては、事業実施主体と事業完了後の管理主体とが異なる場合もあることから、そのような場合には事業実施後に引く次ぐべき主体を事後調査の実施案の中でできる限り明確にしておくことも、事後における責任の所在を明確にする上で極めて重要である。
-個別案件ごとの創意工夫の重要性に対する理解
環境影響評価の調査、予測、評価手法及び保全措置の技術や効果の確認手法には、現段階では定式化されていないものが多く、地域環境の特性と事業特性及び地域住民や専門家から寄せられた意見等に基づいて、個別案件ごとに創意工夫を重ねていくことが重要である。
調査実施機関は、常に関連分野の研究成果等に関する最新の情報を追跡し、活用可能な手法の導入を積極的に図っていくよう努める必要がある。また、事業者や国民はそうした個別案件ごとの取組の重要性を十分に理解し、新たな手法の導入に対して、既存の適応例の存在のみで判断することなく、できる限り幅広の適応可能性に着目し、前向きな取組を支援していく必要がある。また、その結果については、プラス、マイナスの両面から客観的に評価されることにより、より効果的な手法の活用や、活用に当たっての適応条件等に関する情報が公表され、蓄積されていくことが望まれる。
-合意形成のための積極的な意見交換の場の確保
環境影響評価の目的は、事業に対するより良い環境配慮のあり方について、事業者と地域住民もしくは広く国民との間において合意形成の図っていくことにある。しかし、多くの主体間での合意形成に当たっては、価値観の相違や環境側面以外での事業の効果や重要性に対する判断等もあり、一つの解に収斂させていくことは極めて困難な課題であるといえる。
このように事業者が当該地域の環境に興味を持つ多様な主体との間で合意形成を図っていくためには、情報の公開性と説明性の確保が最も重要であり、できる限り多くの客観的情報に基づく冷静な意見交換が必要となる。そのため、先に示したような環境影響評価における客観性向上に向けた取組のほか、意見交換の機会ができる限り多くもたれることも重要な対応策の一つとなる。
したがって、事業者は環境影響評価法に定められた手続きにのみにとらわれることなく、必要に応じできる限り多くの意見交換の場が確保できるよう、積極的かつ柔軟に対応していくことが求められている。
-専門家、コンサルタント等による第三者的機能の確保
環境影響評価はあくまで事業者自らが事業による環境影響を回避、低減もしくは代償するための措置を検討し、その効果等を踏まえて自らの見解を示すことにより行われる。
しかし、環境影響評価において公表される環境情報や事業による影響の予測、環境保全措置の妥当性の検証結果等はできる限り客観性の高いものでなければ、当該地域の環境に興味を有する多くの主体との間で合意形成を図ることはできない。
そのため、環境影響評価の実施に当たっては、事業者は専門的知識や技術を有するコンサルタント等に調査、予測、保全措置の検討及び評価に対する判断根拠を整理するまでの業務を委託し、さらに専門家集団等からの助言や指導を受け、事業者が実行可能性の判断を踏まえて評価を行うのが一般的である。
現段階では、コンサルタントや専門家等の選定は事業者により任意に行われているが、事業者から環境影響評価の業務の委託を受けた個人や機関は、その氏名(法人の場合は代表者名)と住所を公表することにより、客観性や独立性の担保が図られることが期待されている。
しかし、環境影響評価を実施する機関については、本来的には専門的技術や知識の蓄積状況、関連業務の実績等が客観的に評価され、その結果が公に認定され、こうした認定機関に対しては環境影響評価の実施に当たって事業者とは独立した第三者的機能が確保されるような仕組みが必要である。
また、触れ合い活動の場などのように、環境保全措置の効果の程度が住民等の利用によって判断される場合もあることから、コンサルタントや専門家に加えて市民の参加も考慮する必要がある。
このような仕組みを環境影響評価の実施体制に組み込んでいくことは、環境影響評価の信頼性の向上につながるとともに、合意形成を図ろうとする主体間に中立的立場で関与することのできる第三者的機能が加わることによる効果は、環境影響評価の目的達成により重要な役割を果たすものと判断される。
-環境影響評価制度の拡充と関連法令等による連携体制の強化
環境影響評価法は、基本的には個別事業に対するアセスメントの実施を規定した制度であり、その中でスコーピング手続きを導入することにより、できる限り早期段階からの適正な環境配慮が図られるような仕組みとなっている。
しかし、個別の開発事業においては、アセスメントに着手する以前の段階で、既に当該事業に関わる基本的要件に対する意思決定がなされている場合が多いため、現実的には抜本的な措置の検討を必要とした場合への対応は極めて困難であり、環境保全措置の検討の幅も狭くなりがちである。
また、個別事業による影響の回避・低減・代償措置が個別事業において実行可能な範囲内で適正に講じられたとしても、複数の事業が並行的、継続的に実施されることによる複合的、累積的影響による環境悪化を抑制することはできない。
このような、事業アセスメントの弱点を補強するためには、現在検討が進められている戦略的環境アセスメント(SEA)の導入によるアセスメント制度そのものの拡充が不可欠である。
一方、個別事業の計画内容の決定に関する法令等においては、事業計画の段階に応じた適正な環境配慮の検討が明確に位置付けられることが重要である。これにより社会資本整備における環境保全の内部目的化が進み、連携する環境影響評価においては環境保全措置の実効性の担保につながるばかりでなく、例えばドイツにおける農地整備法の改正にみられるように社会資本整備事業の推進が環境の保全や回復の有効な手段となることも期待できる。
さらに、特定の環境や対象の保全を目的として特定の事業や開発行為を許認可の対象としている法令等においては、代償を含む環境保全措置の確実な実施と実施にあたっての基準を許認可要件の中に明確に示していくことが重要である。これは、例えばアメリカにおける水質浄化法とそれに関連する許認可ガイドラインに示された、湿地に関する『no
net loss』の原則や代償にあたっての条件、ミティゲーション・バンキングの採用認定に関する事項のように、連携する環境影響評価においては環境保全措置の検討目標の設定や妥当性の検証にあたっての明確な指針や判断根拠を示すこととなり、環境影響評価の客観性の担保につながるばかりでなく、個別事業による環境保全措置の実施が、目的とする環境や対象の保全達成を効果的、計画的に推進していくための手段となることも期待できる。