平成13年度 第1回総合小委員会

資料2

(9)環境影響評価の項目及び調査・予測・評価手法の選定 

(9)-1 陸域

 陸域における調査項目の例(植物種、植物群落、動物種に関するもの)を表●に示す。

表● 注目される植物種・植物群落についての調査項目例

植物種 

 [1]分布、生活史に関する調査 
   ・対象地域における分布 
   ・対象地域での繁殖状況の調査 

 [2]生育量に関する調査 
   ・個体数や被度・密度に関する調査 

 [3]生育環境に関する調査 
   ・基盤環境に関する調査 
     気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など 
   ・生育環境としての植生に関する調査 
     出現する群落、生育地の植生構造、共存する植物種、主要競争種(帰 
      化種)の有無など 
   ・その他の生育環境に関する調査 
     管理の状況、人為的影響を受けなくなってからの年数など 

 [4]生態に関する調査 
   ・植物季節(フェノロジー)、種子の生産量など 

 [5]その他 
   ・生育可能地などの存在・配置に関する調査 

   など 

植物群落 

 [1]群落の分布に関する調査 
    ・植生図 
      ・植生図に表せない群落の分布の把握 

 [2]植生調査 
    ・対象地域における群落の種組成 

 [3]群落の構造に関する調査 
    ・階層構造、現存量(葉・花・果実等)、ギャップの分布・大きさ 

 [4]立地環境に関する調査 
    ・基盤環境に関する調査 
     気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など 
     ・管理の状況、人為的影響を受けなくなってからの年数など 

 [5]生物群集に関する調査 
     動植物の生息種や動植物の生息場所となる要素の分布 
      訪花性昆虫等 

 [6]その他 
   ・群落の遷移や更新に関する調査 
   ・潜在的に群落の成立が可能な地域の存在・配置に関する調査 

   など 

表● 注目される動物種・群集についての調査項目例

  [1]布、生活史に関する調査 
        ・対象地域における分布 
        ・対象地域での定着性(季節的移動)と繁殖に関する調査 

  [2]生息数に関する調査 
        ・個体数や密度(密度分布)に関する調査 
     全域または主要環境別 

   [3]食性に関する調査 
        ・主な餌種(採食空間) 
     餌種構成比(生活史のステージや季節性) 
        ・主要餌種の分布と密度 
           季節性も考慮 

   [4]その他種間の関係に関する調査 
         ・主要捕食者の密度 
         ・主要競争種(帰化種など)の密度 
       ・その他 
            託卵・寄生などの寄主の密度など 

   [5]生息環境に関する調査 
        ・基盤環境に関する調査 
            気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など 
        ・生息環境としての植生に関する調査 
           植生構造、現存量など 
      ・その他の生息環境に関する調査 
         管理の状況、人為的影響を受けなくなってからの年数など 

   [6]環境の空間的利用に関する調査 
       ・行動圏調査によりどの環境をよく利用しているかなど 
       ・空間的利用の季節的変化 

   [7]重要な資源の分布に関する調査 
       ・餌資源・繁殖環境などの分布や量など 

    など 

(9)-2 陸水域

  調査項目の例を表III-10に示した。陸水域における基盤環境の調査では地形、水質、底質など水域の持つ物理・化学的特性の調査が重要である。

表● 調査項目の例

調査対象 

調査項目の例 

基盤環境

 気象、地形・地質、土壌 
水象 
流況、水位変動、循環・滞留の状況、攪乱の状況、湧水・伏流 
水の状況 
水温、水質、底質 

植物、植生 

分布、現存量、生産量、構造、組成、遷移系列、群落環 

注目種・群集

分布、個体数、現存量、密度 
生活空間の利用様式、テリトリー 
成長、繁殖、生活史、水域依存性 
食性 
他の生物との関係 
 競合、寄生・共生、捕食・被食、食物連鎖 
 上記の季節変化等 

生態系の構造、機能 

基盤環境の形成・維持 
物質生産、循環 
生活空間の形成・維持 

(9)-3 海域

  海域において調査・予測・評価手法の選定に用いる資料と検討項目の例を表●、●、●に示す。

  海域では生態系の機能に対する影響の評価が重要となる。干潟や藻場を有する浅海域は、多くの生物にとって産卵や生育・餌索などの場としての機能を有するとともに、生産性や水質浄化といった機能の高いことが知られている。可能な限りこれらの機能を検討し、場の消失等による生態系への影響を評価する必要がある。魚類の産卵・成長に伴う影響予測等については、生活史等を考慮した複雑なモデルが必要となり、現在のところ、十分な予測ができる状況にはない。しかし、基礎生産や水質浄化機能を予測できる物質循環モデルについては、かなり実用的なレベルにあり、可能な限りそれらを活用することが望まれる。
  参考として、表●に現状で生態系の一部の物質循環を検討することが可能と考えられる数値モデルの例を示す。

表● 調査手法の選定段階に用いる資料と検討項目の例 

資料  検討項目 

事業計画 
地域概況調査の結果 
類型区分の検討結果  
海域生態系の構造や 
機能に関する検討結果
既往事例、その他 

  事業の特性と影響要因 
  海域の物理的構造と環境要素、地域特性 
  (地形、基質、波、流れ、水塊構造等) 
  海域の化学的環境要素 
   (栄養度、化学物質汚染等) 
  物理的化学的環境要素の季節変化・年変化 
  注目種・群集の現存量分布・季節変化・年変化 
  注目種・群集の成長・生活史・食性・再生産 
  注目種・群集と環境要素の関連・依存性 
  注目種・群集と他の生物の関係(主に食物連鎖) 
  生態系の機能・構造(生産力、浄化力、索餌場、生 
  育場、栄養段階、物質循環) など 

 

表● 予測手法の選定段階における資料と検討項目の例 

資料  検討項目

事業計画 
地域概況調査の結果
負荷源・量
モデル
既往事例、その他 

   事業の特性と影響要因 
   影響を受ける環境要素の定量的な変化予測 
   (地形変化、波・流れの変化、濃度変化等) 
  影響の伝播経路とフラックス 
  影響の継続性 
  注目種・群集への生理・生態的影響予測 
  (生物の生活史を考慮する) 
  類型化した生態系への影響予測 
  海域全体の生態系への影響予測 
  シミュレーションモデルの適用とその妥当性 
   物質循環への影響予測 
  高次生産系の変化予測 
  環境保全措置の効果・影響予測 
  既往事例の活用方法 など 

 

表● 評価手法の選定段階における資料と検討項目の例 

資料  検討項目

事業計画
地域概況調査の結果 
法令、条例等による環境保全 
に関する基準または目標 
既往事例、その他 

 海域生態系の評価方法とその視点 
 (生物の多様性、物質循環と浄化機能、 
  環境形成・維持の機能など) 
   予測範囲より広い生態系に及ぼす影響 
 影響の回避、低減の評価 
 (複数案の比較検討、実行可能なより良 
  い技術の検討など) 
 環境保全措置の効果・影響の評価 
 環境保全に関する基準または目標との整 
 合性など 

 

表● 生態系の評価に活用可能な物質循環モデル ※備考欄には参考文献いれる

モデルの種類 

モデルの構成要素  算出できる物質循環の内容  備考

[1]低次生態系モデル

 [浮遊系] 
植物プランクトン
動物プランクトン 
栄養塩(I-N,I-P) 
デトリタス 
溶存態有機物 
DO 

植物プランクトンの基礎生 
産量
デトリタスの沈降量  
水平方向の物質輸送量 

 

[2]藻場生態系モデル

 [浮遊系] 
植物プランクトン  
海藻、海草(株数、密度)  
デトリタス 
栄養塩(N,P)  
DO

植物プランクトンの基礎生
 産量
海藻・海草の基礎生産量
 水平方向の物質輸送量 
藻場域の物質循環(シンク
 ・ソース) 

 

[3]浅海域生態系モデル 

[浮遊系] 
植物プランクトン   
動物プランクトン 
栄養塩(NH4-N,NO3-N)  
デトリタス,溶存態有機物  
海藻 

[底生系] 8項目 
底生付着藻類 
マクロベントス(懸濁物食者・ 
堆積物食者),メイオベントス 
バクテリア 
栄養塩(NH4-N,NO3-N) 
デトリタス 

7項目 植物プランクトンの基礎生
 産量
海藻・海草の基礎生産量
底生藻類の基礎生産量
 水平方向の物質輸送量
干潟・藻場、浅海域の物質 
循環(シンク・ソース) 

 

 

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