(5)予測・評価する上で重要な類型区分の選定
(5)-1 陸域
生態系への影響を捉えるにあたり、「影響要因」が具体的に「陸域の類型区分」やさらに地域概況調査で明らかとなった環境に対してどのような影響を与えるのか検討した例を示す。表●は、それぞれの類型区分に関連する主要な環境要素の変化を取り上げ、マトリックスに整理したものである。事業の影響要因の中でも、地形の変化、植生の変化等の直接改変による環境の変化が大きく、これらの変化に伴い、土砂の流入・堆積、土壌の乾燥化、地下水位の低下などの変化が予想されている。その他、道路による生息場所の分断や、造成工事による大気汚染物質の発生や騒音・振動の発生などが想定されている。表●では、このような結果から、事業の影響要因およびそれに伴う環境要素の変化が生態系に影響を及ぼすおそれのある類型区分が整理されている。以上の結果から、影響の及ぶ面積・規模、影響の内容などから特に重要な影響として以下のものがあげられる。
表● ケーススタディにおける環境要素の変化と類型のマトリックス
(5)-2 陸水域
陸水域生態系において重要な類型区分を選定する際の視点を以下に示す。
○重要な類型区分選定の視点
事業特性から、基盤環境要素に地形改変、水没や伐採等の直接的な改変が及ぶと想定される類型。
事業計画地の上流側および下流側で、水質・流量・低質、土砂掃流等に影響が生じると想定される区間にある類型。主に流量の関係から当該河川の影響が相当量緩和されると想定される下流側までの区間や、本川または大きな支川との合流部までの区間など、他の水系(隣接する集水域)との合流部の直下流までの区間。
上に示した類型を含む小集水域、または地形単位にある類型。
影響の及ぶ類型に生息が想定される動物種の行動圏、回遊する区間に含まれる他の類型。
当該事業の影響がそれ以上に及ばない既設のダム、堰までの区間にある類型。
人為による改変の進んだ立地、構造物までの範囲にある類型。
干潟、ヨシ帯など、生物の生息場所として重要であると考えられる範囲を含む類型区分は、影響が必ずしも明確でない場合においても重要な類型区分とする。
なお、ダム事業や堰事業などでは、供用時に貯水池や湛水域といった新たな「類型区分」が出現する。このような場合は、予測・評価の参考とするため、例えば近傍にある止水域や同種事業によって生じた既存の止水域など、類似の環境を重要な類型区分として検討、選定しておくことが望ましい。
(5)-3 海域
重要な類型区分の選定にあたっては、次の点に留意して調査・予測・評価の対象とすべきもの選定する。
事業により、一部または全部が消失することとなる(または他の類型に置き換わる)類 型(埋立・干拓など)。
事業による影響が及ぶと想定される範囲(影響予想地域)に含まれる類型の内、次のも の。
i)当該海域の生態系を特徴付ける類型。
ii)生物生産や浄化などの重要な機能を有する類型。
iii)特殊な環境に依存する生物がみられる類型。
影響範囲外の類型でも(例えば当該海域で成長した魚が海域外の別の類型で産卵するというように)、影響範囲内の類型と密接な関係があると考えられるものについては、評価の際に配慮する。多くの底生動物のように幼生プランクトンとして移動し、他の海域と密接な関係を有するものについても同様である。例えばスズキ・ボラ・メバル・クロダイなど、他の海域を出入りする魚類の稚魚にとっては、当該海域の干潟やアマモ場が重要な索餌・育成の場となっている可能性がある。当該海域における影響が外海の生態系に影響を及ぼすと考えられる場合には当該海域の類型区分と外海の類型区分の関係についても検討する必要がある。