平成13年度 第1回総合小委員会

資料2

(20)-2 陸水域

  ある陸水域において環境保全措置実施案を検討した例を示す。

(a)回避または低減措置の検討

  表●に示した環境保全措置の目標に対して、影響を回避または低減する具体的な措置を検討した(表●参照)。

  環境保全措置案による影響の回避または低減措置の効果の検討結果は表●に示すとおりであるが、以下に示す理由から、環境保全措置([1])および([2])は採用しなかった。

 なお、本ケーススタディでは、事業計画の軽微な変更(湛水区域面積および計画取水量の5%の減少)を回避または低減措置の一つとしたが、効果の評価結果によっては、事業計画の変更(例えば、既存干潟への影響を回避するために堰の施工位置を変更するなど)も環境保全措置として検討する必要が生じる場合もある。

(b)代償措置の検討

  上述の回避または低減措置においては、主としてヤマトシジミを主体とする汽水性動物群集への影響、トビハゼの現存量および干潟への影響に対して有効な環境保全措置を講じることができないものと判断された。したがって、これらに対しての代償措置を検討した。
 代償措置として、環境保全措置の目標であるヤマトシジミやトビハゼの生息個体密度を保つことができる場所の造成、消失する干潟と同等程度の機能(水質浄化機能:濾過食者の生息密度の維持、その他干潟生物の生息場としての機能など)を持つ干潟の造成が必要であると判断できた。
  以上より、環境保全措置の内容としては、ワンド状水路および人工干潟の造成により、ヤマトシジミを主体とする汽水性動物群集への影響、トビハゼ現存量および干潟への影響の緩和を図るものとした。なお、造成する人工干潟については、その地盤高や勾配、粒度組成などは既存の干潟を参考とし、また、最新の研究結果などを踏まえて計画することが重要である。
  代償措置案の内容を表●に示した。

  今回のケースでは、ワンド状水路および人工干潟の造成を代償措置として採用したが、ワンド状水路の造成および人工干潟の造成は、いずれも新たな環境を創出し、既存の高水敷および河床の消失や改変を招くため、これらの代償措置による影響を十分に考慮する必要がある。これらの代償措置の効果・影響を以下に示す。

*順応的管理では地域の開発や生態系管理を実験とみなす。計画を仮説として、モニタリングによって仮説の検証をおこない、その結果を見ながら新たな仮説を立てて、より良い方法を模索する。また、広く利害関係を持つ人々の間での合意を図るシステムを作ることが重視される。代償措置により生じる生態系の変化を完全に予測することは困難なため、今回のケースではこの考え方を適用することとした。新しい知見が得られた場合には柔軟に管理指針を変更し、多様な分野の研究者の議論を踏まえ、望ましい管理の方針・手法・計画を検討する。

(c)環境保全措置の実施案

  環境保全措置の実施案は表●に示すとおりである。

 表● 回避または低減措置案の内容(例)

環境保全措置の目標 環境保全措置(回避または低減措置) 対象とする類型区分
II-2 II-1 I-3 I-2 I-1
 水生植物帯(ヨシ帯など)の構成種および生育面積の確保。
アシハラガニ、オオヨシキリおよび両生類の種および個体数の維持。移行帯の地形、構成材および面
積の確保。
 湛水区域の出現および低水護岸によって減少が予測されるヨシ帯を中心とする水生植物帯に対して回避または低減措置([1]自然復元型工法を用いた低水護岸)を検討する。  ○  ○  ○  ○  ○
 湛水区域の出現によって減少が予測されるヨシ帯を中心とする水生植物帯に対して回避または低減措置([2]湛水区域面積の5%の減少)を検討する。      
ヤマトシジミの平均生息密度の維持。 ・堰上の淡水化によって消失する生息場所に対して回避または低減措置([3]堰ゲート操作による汽水環境の維持)を検討する。
・堰下の生息環境に対して回避または低減措置([4]堰ゲート操作および曝気などによる底質および水環境におけるDO濃度の維持)を検討する。
       ○
アユ仔稚魚の迷入量の低減。稚魚~成魚の迷入の回避または低減。
 
 迷入によって減少が予測される魚介類に対して回避または低減措置([5]計画取水量の5%の減少および[6]仔魚~成魚に対する迷入防止対策)を検討する。また、迷入した仔魚に対して回避または低減措置([7]回収・帰還装置による本川への帰還)。        ○  
アユなどの回遊性種の遡上、降下量の維持。  堰の存在によって減少が予測されるアユなどの回遊性種に対して回避または低減措置([8]魚道の設置による連続性の確保)を検討する。
流下仔アユの流下時間延長の回避または低減。  湛水区域の出現によって流下時間の延長が予測される流下仔アユに対して回避または低減措置([2]湛水区域面積の5%の減少および[9]魚道および澪筋の施工による流下時間の維持)を検討する。
汽水性魚介類の個体数の維持。 ・堰上の淡水化によって消失する生息場所に対して回避または低減措置([3]堰ゲート操作による汽水環境の維持)を検討する。
・堰下の生息環境に対して回避または低減措置([4]堰ゲート操作および曝気などによる底質およびDO濃度の維持)を検討する。
 
     
トビハゼの生息個体
密度の維持。
-(回避および有効な低減措置はない)        
干潟面積の確保。ヤマトシジミに代表されるろ過食者の平均生息密度の維持。 -(回避および有効な低減措置はない)        
止水性捕食者の個体数増加の抑制。 -(回避および有効な低減措置はない)      

表● 環境保全措置の対象などへの回避または低減措置の効果の検討結果

環境保全措置の目標 【環境保全措置】
(iii)~(ix)の環境保全措置を講じる。
【参 考】
左記の環境保全措置に(i)および(ii)を加える。
水生植物帯(ヨシ帯など)の構成種および生育面積の確保。 既往事例によれば、自然復元型工法を用いた低水護岸により、影響はほぼ回避される。  湛水区域面積の減少による効果はわずかである。
アシハラガニ、オオヨシキリおよび両生類の種および個体数の維持。移行帯の地形、構成材および面積の確
保。
既往事例によれば、自然復元型工法を用いた低水護岸により、影響はほぼ回避される。 湛水区域面積の減少による効果はわずかである。
ヤマトシジミの平均生息密度の維持。 既往事例によれば、堰ゲート操作および曝気装置による回避または低減措置の効果はわずかである。 -(湛水区域面積および計画取水量の5%の減少は回避または低減措置とはならない)
アユ仔稚魚の迷入量の低減。稚魚~成魚の迷入の回避または低減。 既往事例によれば、取水口への迷入防止対策および回収・帰還装置により、影響はある程度回避される。 計画取水量の減少による効果はわずかである。
アユなどの回遊性種の遡上、降下量の維持。 既往事例によれば、魚道の設置により、影響はある程度回避される。 -(湛水区域面積および計画取水量の5%の減少は回避または低減措置とはならない)
流下仔アユの流下時間延長の回避または低減。 粒子追跡シミュレーションにより、3倍の延長が想定される影響が1.5倍に低減される。 計画取水量の減少による効果はわずかである。
汽水性魚介類の個体数の維持。 既往事例によれば、堰ゲート操作および曝気装置による回避または低減措置の効果はわずかである。 計画取水量の減少による効果はわずかである。
トビハゼの生息個体密度の維持。 回避および有効な低減措置はない。 -(湛水区域面積および計画取水量の5%の減少は回避または低減措置とはならない)
干潟面積の確保。ヤマトシジミに代表されるろ過食者の平均生息密度の維持。 回避および有効な低減措置はない。 -(湛水区域面積および計画取水量の5%の減少は回避または低減措置とはならない)
止水性捕食者の個体数増加の抑制。 回避および有効な低減措置はない。 湛水区域面積の減少による効果はわずかである。

表● 代償措置案の内容(例)

環境保全措置の目標  環境保全措置(代償措置)  対象とする類型区分
II-2 II-1 I-3 I-2 I-1
ヤマトシジミ平均生息密度の維持。 消失が予測される生息場所に対して代償措置(代替生息場所:ワンド状水路)を検討する。  ○  ○
 トビハゼの生息個体密度の維持。 消失が予測される干潟に対して代償措置(人工干潟の造成)を検討する。  ○
干潟面積の確保。ヤマトシジミに代表される濾過食者の平均生息密度の維持。 消失が予測される干潟に対して代償措置(人工干潟の造成)を検討する。  ○

表● 環境保全措置の実施案

 措置の分類  回避または低減措置 代償措置
内 容 [1]自然復元型工法を用いた低水護岸による底質および地形の維持。
[2]堰ゲート操作による汽水環境の維持。
[3]堰ゲート操作および曝気などによる底質およびDO濃度の維持。
[4]仔魚~成魚に対する迷入防止対策。
[5]回収・帰還装置による本川への帰還。
[6]魚道の設置による連続性の確保。
[7]魚道および澪筋の施工による流下時間の維持。
[1]ワンド状水路の造成。
[2]人工干潟の造成。
実施方法 上記回避または低減措置の実施計画の作成および実施。 人工干潟の造成計画の立案および実施。
実施主体  事業者   事業者
効果と措置の不確実性の程度 [1]低水護岸設置面積のうち○%の地形が維持され、移行帯に生息・生育する種はほぼ保全される。
[2]ゲート操作による汽水環境維持の効果はわずかである。
[3]ゲート操作による底質維持の効果はわずかである。DO濃度は局所的に○mg/lの上昇が見込まれる。
[4]迷入防止対策により、迷入個体の○%が回避される。
[5]回収・帰還装置により、迷入個体の○%を帰還させることができる。
[6]少なくとも、遊泳性魚類の多くは魚道を利用する。
[7]流下時間の延長は○%に抑えることができる。

なお、定量的な効果予測が困難な事項も含まれるため、不確実性が大きい。
[1]ヤマトシジミに代表される汽水性底生動物群集の生息地が○m2が創出される。
[2]人工干潟として○m2が新たに創出される。

ワンド状水路および人工干潟の造成によ
る効果は不確実性が大きい。
措置の実施に伴い生じる恐れのある環境影響
(新たに生じる影響)
     特になし。 ワンド状水路および人工干潟の造成区域
に存在する植生、生物群集の消失。
措置を講じるにもかかわらず存在する環境影響(残る影響) 定量的な効果予測は困難であるが、上記の回避または低減措置によって環境保全措置の目標を100%達成することはできない。 人工干潟の効果には不確定要素が多いため、継続的なモニタリングを実施して順応的管理をおこなう。

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