(2)事業による影響の把握
(2)-1 陸域
面開発事業による生態系への影響を把握するために、事業により生じる「影響要因」及び、そこから生じる「環境要素の変化」についてマトリックスによる整理を行った例を示す(表●)。例では特に造成工事による植生・地形の改変が、植生の変化や地形の変化、さらに、大気環境、水環境、土壌環境、生物群集などの環境要素の変化を引き起こすと想定されている。
表● ケーススタディにおける影響要因と環境要素の変化とのマトリックス
(2)-2 陸水域
陸水域生態系では、影響要因と環境要素間に水を介した影響の伝播があるものを主体に影響要因と環境要素の関連を整理する。
事業による影響の検討する際には、基盤環境要素の日変動や季節変動、あるいは年変動に伴う陸水域生態系への作用について整理されている必要がある。また、「1-1 陸水域生態系の特徴」で述べたとおり、台風に伴う急激な増水などの突発的な基盤環境の変動なども陸水域生態系を形成する要因となっていることや、多くの河川や湖沼では河岸・湖岸の改変、構造物の存在、漁業対象種の移入など、既に人為的影響が及んでいることが多いので、それらの内容についても把握する。
事業による影響を整理する際に参考となる考え方を図●、●に示す。整理を行なう際には以下の点に留意する必要がある。
ある陸水域において影響フロー図により事業により発生が想定される環境影響要因とそれに伴って変化が想定される物理・化学的環境を整理した例を示す(図●)。この例において環境影響を及ぼしうる堰および付帯工事の内容は、堰、護床工および低水護岸、堰予定地点上下流域の浚渫である。また、堰の供用に伴い出現する湛水区域や取水も環境影響の要因である。以上の環境影響要因により、堰周辺には水際線の変化(移行帯の消失)、河川の分断、流下時間の延長および水質・底質の変化など、様々な物理・化学的環境の変化が想定される。
図● 工作物の設置による河川環境へのインパクト(例)
図● 生態系構成要素と人為的インパクトの関係図
出典:水辺の環境調査(財)ダム水源地環境整備センター(1994)より引用(一部改変)
図● 事業による物理・化学的環境の変化(存在・供用時)
(2)-3 海域
図●は埋立(存在)による生態系への影響フロー、表●は埋立(存在)による影響マトリクスの例である。影響フロー図は、埋立(存在)による生態系への影響を想定する際に影響要因と環境要素や生物との関係をわかりやすく示し、マトリックスは、表現しにくい影響の伝達経路(影響フロー)が明らかになるように検討する。ここで示した例は以下に示した視点から作成した。
・
埋立(存在)による地形的な変化に関する視点 ・ 地形的な変化が及ぼす生物の生育・生息環境への影響に関する視点 |
埋立予定地及びその周辺では、影響要因として埋立(存在)により、海域空間の消滅、海岸形状の改変、海底基盤の改変が想定されている。埋立(存在)により想定される変化が要因となり、生物生息空間の減少、波浪・流れの変化及び付着基盤の出現が引き起こされ、生物個体群の減少、水質変化、底質変化等につながり、最終的には生物相の変化、生態系の変化が起こる可能性があることが示されている。
図● 砂泥底域の埋立(存在)による影響フロー
表● 砂泥底域の埋立(存在)による影響マトリックス
影響要因と 1次的な変化 影響 |
埋立(存在)による影響要因と1次的な変化 |
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海域空間の消滅 |
海岸形状の改変 |
海底基盤の改変 |
|
生物個体群の減少 |
○ | ||
生物による生態系 |
○ | ||
機能(浄化力)の減少 |
○ | ○ | |
底質変化 |
○ | ○ | |
付着生物の出現 |
○ | ||
生物による生態系 |
○ | ||
機能の出現(索餌場) |
○ | ○ | ○ |
生物の生息環境、 |
○ | ○ | |
岩礁性魚類の出現 |
○ |
○印は関係のあることを示す。