平成13年度 第1回総合小委員会

資料2

(19)代償措置の考え方 

(19)-1 陸域

   陸域生態系において代償措置を実施する場合には、代償措置を実施する場所、創出する環境要素の種類、維持管理の有無などによって、その効果が大きく異なることが多い。多大な労力を費やし十分に代償したつもりでも、事業実施区域周辺部の環境変化や外来種の侵入により代償措置の効果が上がらなくなったり、管理体制が整わないため環境が維持できなくなったりすることがある。例えば、消失する貧栄養の湿地の代償として代替湿地を造成するような場合、事業実施区域周辺部の開発による水の富栄養化、堆積土砂の除去などの管理不十分による陸化の進行や外来植物の侵入が起こり、貧栄養の湿地の持続が不可能な状態下におかれ、代償措置そのものが疑問視されるケースも想定される。
  したがって、陸域生態系における代償措置を検討する際には、周辺を含む環境の前提条件、空間的・時間的な環境変化、管理体制などを十分に考慮する必要がある。

(19)-2 陸水域

  陸水域における代償措置の検討にあたっては、損なわれる生態系の構造や機能、生物群集と基盤環境の変動性や連続性の関係などに着目して、創出する環境要素の種類、位置、内容などを検討する。
  陸水域では地理的隔離などによって孤立して分布する種や遺伝的に孤立した個体群を含む生態系、あるいは事業地周辺でそこにしかない産卵場などを有する生態系については、それらの生態系が存在する場や機能を完全に創出しなければ環境保全措置の効果は得られない。現実的にそのような生態系を創出することは著しく困難であることから、これらは代償措置ではなく、そもそも回避または低減を図るべき対象として認識しなければならない。
  ダム事業を例に挙げると、ダム管理の流量制御によって下流側は概して、長期的には低水期が安定し、一方で短期的には変動が著しく大きくなる。土砂供給の停止あるいは減少は、結果的に河床低下や流路形状の変化や河床の固定化(アーマーコート化)を引き起こす可能性がある。その際に代償措置として、自然復元型工法を取り入れた場合でも、水位変動による攪乱が生じないため生息を想定していた生物が定着しないことが多くみられる。ダムの下流で水位変動や底質、流れ、水中光量などの条件が悪く、もともと成立し得ない環境に創出しても、なかなか成功しないように、その生態系が成立する環境条件とダム供用後の管理運用面での管理体制を十分考慮することが不可欠である。また、代償措置の実施により、外来種が侵入し現況の生態系に悪影響を及ぼすことのないよう、創出する環境を十分に検討する必要がある。
  代償措置は創出する環境要素の種類や場所によって、その効果が大きく異なることが多い。例えばハイダム(堤高15m以上)に設置される魚道は、魚類の遡上効果を考えると代償措置そのものが著しく困難である。湖沼における埋立てに伴い水質浄化機能が減少することの代償として、事業実施区域から遠く離れた場所にヨシ原を造成しても湖沼全体の浄化機能を保全する点で予測された効果が得られない可能性もある。


(19)-3 海域

  海域生態系に関する代償措置を講じる場合には、その技術的な困難さを十分踏まえた検討が必要である。特に、微妙なバランスの上に成り立っている生態系(例えば、漂砂・光条件・水温などの環境要素を成立条件とするアマモ場や水温・光条件・流れなどの環境要素を成立条件とするサンゴ礁など)、あるいは、事業実施区域周辺において、そこにしかない産卵場・育成場などの機能を有する生態系については、それらの生態系が有する機能全体を創出しなければ、環境保全措置としての意義は認められない。そのような価値、機能を有する生態系を創出することは現実的には著しく困難であり、したがって最善を尽くして回避または低減を図らねばならない。
  代償措置の検討にあたっては、損なわれる生態系の構造や機能、生物群集と物理化学的な環境要素の関係などに着目して、創出する環境要素の種類、位置、内容などを検討する。その際には、代償措置を実施する場所における現況の環境条件を考慮し、創出される生態系が長期的に安定して持続するように留意する必要がある。例えば、底質・波当たり・流れ・水中光量などの条件が悪く、もともとアマモ場が成立し得ない環境に藻場を造成しようとしても、短期的には藻場ができるが長期的に安定して存続する藻場造成はなかなか成功しないように、その生態系が成立する環境条件を長期的な時間スケールの中で十分考慮することが不可欠である。また、代償措置の実施により現況の生態系に悪影響を及ぼすこと(例えば覆砂材の持込による外来種の侵入など)のないよう十分留意しなければならない。
 代償措置を実施する場合には、創出する環境要素の種類や場所によって、その効果が大きく異なることが多い。十分な検討をおこなったとしても、予測された効果が得られない可能性もある。また、消失するアマモ場の代償として人工構造物によるガラモ場を造成するというような場合には、代償措置の効果そのものが問題視されることもある。内湾干潟の一部を埋立て、水質浄化機能を減少させることの代償として、事業実施区域から遠く離れた場所に人工干潟を造成して湾全体の浄化機能を保全するという場合も同様である。
  なお、人工的に干潟造成をおこなう場合のように、人による利用形態(立ち入りの有無、漁業など)をどうするかという検討が必要となる場合もある。

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