(17)環境保全措置の対象選定の留意点
(17)-1 陸域
陸域生態系は、水平的、立体的に多様な構造を持ち、基盤環境の違いや人為の関わり方の違いにより、それぞれ構成を異にした特有の構造・機能を有する。例えば里地生態系では比較的広い森林、草地などの生態系や、湿地、ため池などの小規模な生態系など、相互に関係した様々なレベルの生態系が複合して存在していることが特徴である。
このような陸域生態系における環境保全措置の対象選定にあたっては、以下の点に留意する。
基盤環境と生物群集が相互に関係し、まとまり、つながりを持って存在する場(特にモザイク構造など、多様な生態系が複合して存在する状態)を維持するために必要な類型区分、あるいはこれを指標する注目種・群集を対象とする。
生態系が持つ構造や機能(特に生物の生息空間を形成する樹林などの階層構造や物質生産・循環機能、基盤環境形成・維持機能など)を維持するために必要な類型区分、あるいはこれを指標する注目種・群集を対象とする。
地形・地質の状態によっては、地下を含む複雑な水循環がみられ、局地的に独特の生態系が形成されている場合がある。このような複雑な水環境下においては、地上部の環境要素の情報(例えば、分水嶺や相観的な植生)だけでは影響把握が難しい場合があることを踏まえ、地下水の流動などにも留意して環境保全措置の対象を選定する。
林床管理などの伝統的手法によって、どのような生態系が維持されてきたかを知ることも、環境保全措置の対象を選定する際の参考になる。
(17)-2 陸水域
陸水域生態系は、水域とその周辺の陸域および境界にある移行帯で構成されている。生物の生活の場という視点では、水を媒体とした生活基盤への作用と陸域や海域とのつながりが重要であり、水の流下に伴う環境の変動性、連続性が特徴である。また河川では、土砂の掃流、栄養分の供給などの物質生産・移動、水質形成・浄化、生物の生息空間の形成・維持などの機能があり、湖沼などでは河川の持つ機能に加え、物質の貯留などの重要な機能もある。それらの機能は、生態系の健全性と密接に関連している。
このような陸水域生態系における環境保全措置の対象選定にあたっては、以下の点に留意する。
陸域、移行帯、水域からなる場の連続性を維持するために必要な類型区分、あるいはそれを指標する注目種・群集を対象とする。
河川・湖沼・湿原などの形態、開放的・閉鎖的な系、安定・不安定な系などの陸水生態系の特性を維持するために必要な類型区分、あるいはそれを指標する注目種・群集を対象とする。
洪水の発生、浸食と堆積、水量・水位、水質の変化など、水の作用によって形成される構造や機能の多様性を維持するために必要な類型区分、あるいはそれを指標する注目種・群集を対象とする。
地理的隔離などによって孤立した種や遺伝的に孤立した個体群を含む特徴ある生態系を維持するために必要な類型区分、あるいはそれを指標する注目種・群集を対象とする。
(17)-3 海域
海域生態系では、生物資源の生産機能、物質循環機能、環境形成・維持機能、生物多様性の維持機能など、生態系が有する機能の保全が重要である。また海域には、地形、海底の基質、水深、流れ、河川水・外洋水などの影響によって、水平的、鉛直的に多様な類型(生態系)が存在している。それらの類型は、流れや生物の移動などによって相互に関連し、複雑な海域生態系を構成している。
このような海域生態系における環境保全措置の対象選定にあたっては、以下の点に留意する。
生物生産機能、環境形成・維持機能などの重要な機能を支えるために必要な類型区分、あるいはそれを指標する注目種・群集を対象とする。
水質浄化機能のような、定量的に把握できる機能を対象とする。
場を形成している地形、基質および藻場・サンゴ礁などを形成している生物群集を維持するために必要な類型区分、あるいはそれを指標する注目種・群集を対象とする。
富栄養化や海水の停滞などによる赤潮または有毒プランクトンの大量発生、あるいは貧酸素水(青潮などを含む)が生じないよう、適正な物質循環が維持されるために必要な生物群集を対象とする。