平成13年度 第1回総合小委員会

資料2

(14)-3 海域

(a)アサリ(典型性)

  埋立予定地及びその周辺の砂泥質干潟に広く分布しており、移動能力が乏しいことから、干潟の生態系の指標となる。生息の場である干潟が、埋立によりその一部が消失する。以上のことから、移動性が少なく干潟生態系を指標する生物の例として選定した。表●にアサリの特性を整理した例を示す。

(ア)調査・予測手法の検討

[1]想定される影響

  埋立(存在)による注目種(アサリ)に及ぼす影響フローを図●に示す。

[2]調査・予測の流れ

  調査・予測手法を検討するフローを3.に示す。
  調査・予測手法の検討にあたっては、まず埋立(存在)による影響要因がアサリにどのような影響を及ぼすかを検討した。==で作成した影響フローより、移動性が少ない生物であるアサリの生息に影響を与える要因としては海域空間の消滅と海岸形状の改変があげられる。海域空間の消滅は干潟を生息場としているアサリの生息空間の減少を引き起こす。また、海岸形状の改変により流れの変化や波浪の変化が起こり、それに伴いアサリの生息環境である水質の変化、地形・水深の変化、底質の変化が引き起こされると考えられる。その結果アサリの個体群の変化、さらにアサリの個体群の変化による海域生態系への影響が生じると考えられる。予測項目としてはこれらの要因によるアサリ個体群の変化及びアサリ個体群の変化による海域生態系への影響があげられる。
  予測項目を基に、アサリの生息分布や生活史等を既往資料により調査し、調査・予測の実施可能性を考慮した上で予測手法を検討し、この予測を行うために必要となる現地調査手法を検討した。

[3]調査手法

  予測手法の検討結果を基に、現地調査手法を検討した結果を表●に示す。

[4]予測手法

  埋立(存在)によるアサリの影響予測手法の検討内容を図●に示す。
  ここでは、埋立(存在)による影響要因と想定される影響及び予測項目を考慮し、予測手法を検討した。

(イ)調査結果の概要

  調査結果の概要を表●に示す。

(ウ)予測結果の概要

  予測結果については下記に示す項目について検討する。この予測項目は、埋立(存在)による影響要因である海域空間の消滅、海岸形状の改変によってもたらされる影響である。

・アサリの個体群の変化 
・アサリの個体群の変化による海域生態系への影響 


  埋立(存在)により想定されるアサリの個体群の変化の主な要因は、生息場の消失と生息環境の変化である。
  埋立(存在)による生息場の消失によって、移動性がほとんどないアサリの生息に及ぼす影響は大きいと考えられることから、消失区域のアサリの個体数が埋立予定地及びその周辺の干潟に生息している総個体数と比較してどのくらいの個体数(割合)を占めるかに焦点を絞り、アサリの個体群の変化として定量的に予測した。
  次に、埋立(存在)により、アサリが生息している干潟域の流況、水質及び底質等が変化する可能性がある。アサリの生息環境が変化する場合、生息しているアサリに対する影響は大きいと考えられることから、アサリの生息環境である流況、水質及び底質の変化が現状と比較してどのくらいの変化があるか、また、その変化はアサリの生理的・生態的特性を勘案してアサリの生息にどの程度影響を及ぼすかに焦点を絞り、アサリの個体群の変化として定性的に予測した。
  アサリの個体群の変化による海域生態系への影響は上記で示したアサリの個体群の変化の予測結果を基に、アサリの個体数の変化が海域生態系の食物連鎖の中でどのような影響を及ぼすかに焦点を絞り、海域生態系への影響として定性的に予測した。
 アサリの予測結果の概要を4.2.に示す。

表● 注目種の特性の整理例(アサリ)

生物種(群集)名

 アサリ(Ruditapes philippinarum) 

全国的な分布

  • 北海道、本州、四国、九州の内海、内湾の潮間帯から水深10mまでに分布。淡水の影響を受ける塩分のやや低いところに多い。底質は比較的泥の多いところから砂の多いところまで、広範囲に渡って生息する。

一般的な成長と回遊・移動 

  • 東京湾での成長は1年で殻長約15mm、2年で約35mm、3年で約42mmである。卵・稚貝期の浮遊生活期には、海域の潮流や風によって分散し、過流の生じやすいところに集積される。着底後の貝の移動は少なく、通常数m以内にとどまる。

当該海域における分布(推定含む) 

  • 当該海域にも広く分布する。潮間帯から水深1.5m程までを主な分布域とし、比較的河口域に多い。

生理的特徴

生息水温・好適水温 

  • 15~30℃において成長可能であるが、23.4℃が最適水温とされる。 

生息塩分・好適塩分

  • 海水の比重が1.018~1.027の範囲で成長に異常なしとされる。

その他の生理的特性 

  • 稚貝期には粘糸状の足糸を分泌して砂礫等に付着する。

生態的特性

産卵時期

  • 雌雄とも11~12mmで成熟状態のものがみられ、 15mm以上のものは生殖能力を持つ。産卵期は北 海道では夏の1回であるが、東北以南は春と秋の 年2回である。当該海域では後者である。

産卵場所

  • 産卵は通常、生息域で行われる。

生息場所 

  • 卵・幼生期:内湾で浮遊生活。

  • 稚貝:砂泥底表面。

  • 未成体・成体:砂泥底中。 

餌料 

  • 浮遊幼生期は主として植物プランクトンを採餌する。着底後は主にデトリタスを採餌する。

希少性

  • 全国的に分布しており、希少な種ではない。 

社会的重要性

  • 湾内漁業にとって重要な水産生物であり、総漁獲量の○○%を占める。

参考資料

(出典を記載)

埋立(存在)による影響

注:それぞれの項目は複雑に関連していると思われるが、ここでは主要な流れと思われるものだけを矢印で示した。

図● 埋立(存在)が注目種(アサリ)に及ぼす影響フロー

 

図● アサリに関する調査・予測手法検討のためのフロー

 

表● アサリの影響予測手法の検討内容

影響要因

想定される影響と予測手法 

海域空間の消滅 

○想定される影響 
 ・埋立(存在)によりアサリの生息場が消失するため、アサリの生
    息(個体数)に影響が及ぶと考えられる。
○予測手法 
 ・アサリの個体群の変化については、現地調査地域の生息個体と 
  埋立予定地の生息個体の関係から減少率を予測する。(定量的 
  予測) 
 ・アサリの個体群の変化による海域生態系への影響については、 
  アサリの個体群の減少率を基に、主に食物連鎖の関係から予測 
  する。(定性的予測) 

海岸形状の改変

○想定される影響 
 ・埋立(存在)により海岸形状が変化するため、水質の変化、地 
  形・水深変化、底質変化が考えられることから、アサリの生息 
  環境が変化すると想定される。 
○予測手法 
 ・アサリの個体群の変化については、既往資料等による生活史の 
  主要な段階におけるアサリの生息状況、アサリの生理・生態特 
  性等と数値モデル等によるアサリの生息環境に関する項目の予 
  測結果から、生息環境の変化に伴うアサリの個体群への影響を 
  予測する。アサリへの影響予測は主に水質変化、底質変化とア 
  サリの生理特性の関係の変化を重視する。(定性的予測) 
 ・アサリの個体群の変化による海域生態系への影響については、 
  主に食物連鎖の関係から予測する。(定性的予測)

海底基盤の改変

  ・コンクリート構造物が出現するが、アサリの生息場と関係ないこ 
   とから予測の対象とはしない。 

 表● アサリに関する調査項目とその理由

調査項目 

調査項目の設定根拠と調査内容 

アサリの分布状況
・アサリの個体数 
と大きさ、重量

 ○調査項目の設定根拠 
 ・埋立(存在)によりアサリの生息場が一部消失するため、埋立予定地 
   とその周辺の分布状況と個体数等を調査し、生息場の消失によるアサ 
  リの個体数の減少率を把握する。 
○調査地点 
 ・潮間帯(調査地域内の干潟全域)に調査地点を設定する。また、埋立 
  予定地とその前面海域の水深2m付近まで調査地点を密に設置する。 
○調査時期 
 ・季節的なアサリの分布・成長、環境変化等が適切に把握できる四季に 
  実施する。 
○調査方法 
 ・採泥器、枠取り法(深さ10cm程度)により採取し、測定を行う。

生息環境
    ・水深 
    ・水温 
    ・塩分
    ・底質
    ・水質

○調査項目の設定根拠 
 ・埋立(存在)によりアサリの生息場が一部消失し、また、アサリの生 
  息場である干潟の一部やその周辺は流れの変化、これに伴う水質、底 
   質の変化が生じると想定されるため、アサリの生息環境を把握する。 
○調査地点 
  ・アサリの分布状況の調査と同様とする。 
  ・水質等の数値予測のために沖合にも調査地点を数地点設置する(水質 
   調査地点で補完する)。 
○調査時期 
 ・アサリの分布状況の調査と同様とする。 
○調査方法 
 ・採泥器、採水器により試料を採取し、分析する。 
 ・底質の調査項目としては、粒度組成、有機物含有量、硫化物等、水質 
  の調査項目としては、COD、DO、SS、クロロフィルa等とする。 

漁獲・放流、漁獲量 の実態 
・漁獲量 
・放流量と放流日
・漁場分布
・漁獲、放流した
  アサリの大きさ等

○調査項目の設定根拠 
  ・埋立予定地周辺の干潟は春季から初夏にかけて潮干狩り場として利用 
  され、また、漁業活動が盛んであり、干潟から前面海域ではアサリ、 
   バカガイ等の採貝、前面海域では底曳き網漁、巻き網漁等が行われて 
   いる。そのため、現地調査に際しては、漁獲量等について把握すると 
   ともに、その変遷について確認する。 
○調査地点 
 ・現地調査地域全域とする。 
○調査方法 
 ・漁業協同組合資料、聞き取り、標本船、抜き取り調査等により把握す 
  る。

【参考】
  アサリ個体群への影響予測は海域空間の消滅や地形変化、水質・底質等の生息環境の変化の状況に応じて定性的に予測することが一般的である。
  ここでは、参考として、現在、検討が進められている藻場生態系モデル、構造モデル、生活史モデル、高次生態系モデル、統計モデル(重回帰モデル、ニューラルネットワーク等)から、定量予測を行う流れについてもあわせて整理した結果を図●に示す。
  将来的にはモデルによる定量予測もひとつの手段として一般的になると考えられるが、モデルによる予測実施の際にはモニタリングによる検証が必要となる。

図● アサリ個体群の変化予測の流れ

 

表● アサリの調査結果の概要

項 目

調 査 結 果 

アサリ

◎アサリの分布状況 
○調査内容 
 ・アサリの分布状況 
 ・四季のアサリの個体数の変化 
○目的 
 ・調査地域内のアサリの分布状況と個体数の把握 
○調査結果 
 ・海域全体の平均生息密度は春季で54個体/0.1m2、夏季で76.2                                 
  個体/0.1m2、秋季で44個体/0.1m2、冬季で28個体/0.1m2であった。
 ・分布傾向は、事業予定地の干潟(Dブロック)の平均生息密度は36                                 
  個体/0.1m2であるのに対し、西側の干潟の平均生息密度はAブロックで 
  90個体/0.1m2、Bブロックで110個体/0.1m2、Cブロックで136                                 
  個体/0.1m2となっており、西側の干潟の方が多い傾向を示していた。 
 (4.参照) 
 ・調査地域の水深3m以深では平均生息密度は0~1個体/0.1m2程度であ 
  った。 

図● アサリの分布状況(四季平均)

 

表● アサリの予測結果の概要

項 目 予 測 結 果

アサリ

◎アサリの個体群の変化 
○影響要因 
  ・海域空間の消滅 
○想定される影響 
  ・埋立(存在)によるアサリの生息場の消失 
○予測内容 
  ・調査地域内の生息個体数と埋立予定地内の生息個体数の関係から減少率を予
  測する(定量的予測)。 
  ・調査地域内に生息しているアサリの生息個体数は、干潟を4ブロックに分割 
  し、各ブロック内に位置する調査地点の個体数を平均し、その平均値に各ブ 
  ロックの面積を乗ずることにより求めた。 
○予測結果 
  ・埋立(存在)によりDブロックのアサリの生息場(主に干潟)は約100ha消 
  失することから、その消失面積に生息するアサリの現存個体数36×107個体 
     程度は影響を受ける(減少する)と考えられる。 
  ・調査地域内に生息しているアサリの全現存個体数は727×107個体程度である 
  ことから、埋立(存在)による減少率は約5%となる。そのうちDブロック 
  内における減少率は、Dブロック内の現存個体数は54×107個体程度である 
  ことから、埋立(存在)による減少率は約67%となる。

○影響要因 
 ・海岸形状の改変 
○想定される影響 
 ・埋立(存在)により海岸形状を改変することによるアサリの生息環境の変化 
○予測内容 
 ・アサリの生息状況、生理的・生態的特性等と生息環境(水質、底質等)の予 
  測結果との関係から予測する(定性的予測)。 
○予測結果 
 ・水質については、COD、SS及び栄養塩はともに埋立地の影響により現状と 
  比較してやや高くなる水域(干潟域)が生じる(CODの増加量0.01mg/l、SS 
  の増加量0.05mg/l、T-Nの増加量0.05mg/l、T-Pの増加量0.0005mg/l)。 
 ・底質については干潟と新規埋立部分に囲まれた水域で浮泥の堆積傾向がみら 
  れるが、干潟の粒度組成や有機物含有量等の性状は現状とほぼ同様となる。 
 ・アサリの生息環境である水質、底質の変化の程度は小さいと予測されるた 
  め、アサリの生理・生態的特性を考慮すると、海岸形状の改変がアサリの生 
  息(個体群)に影響を及ぼす程度は小さいと考えられる。

◎アサリの個体群の変化による海域生態系への影響 
○影響要因 
  ・海域空間の消滅・海岸形状の改変 
○想定される影響 
 ・埋立(存在)によるアサリの個体群の変化に伴う海域生態系への影響 
○予測内容 
 ・アサリの個体群の変化による海域生態系への影響について主に食物連鎖の関 
  係から予測する(定性的予測)。 
○予測結果 
 ・アサリの個体群の変化の予測結果より、埋立予定地周辺のアサリの生息環境 
  に影響を及ぼす程度は小さいと考えられるものの、埋立(存在)によりアサ 
  リの生息場が消失するため、その個体群は減少する可能性がある。 
 ・アサリと同様に砂泥質の干潟を生息場所とする底生生物にも同様な影響が生 
  じ、その結果、アサリを含む底生生物を餌とするシギ・チドリ類等の鳥類の餌 
  資源量が減少することにより、鳥類の生息状況に影響を及ぼす可能性があ 
  る。

 (b)アマモ(典型性)

  埋立(存在)により、アマモ場の一部に影響が及ぶと想定される。アマモは埋立予定地及びその周辺に広く分布しており、沿岸砂泥底域を特徴付けるアマモ場の主要な構成要素である。多くの稚魚の索餌場・育成場としての「場」としての機能や水質の浄化としての物質循環機能等も有している。以上のことから、地域の生態系を特徴づけると同時に「場」としての機能(仔稚魚の育成場等)を持つ注目種として、典型性の観点から選定した。注目種の特性を整理した例を参考として示す(表●)。

(ア)調査・予測手法の検討
[1]想定される影響
  埋立(存在)によるアマモ(アマモ場)に及ぼす影響フローを図●に示す。
  影響フローより、移動性がほとんどない生物であるアマモの生育に影響を与える要因としては海域空間の消滅と海岸形状の改変があげられる。海域空間の消滅はアマモの生育空間の減少を引き起こすと考えられる。また、海岸形状の改変により流れの変化や波浪の変化が起こり、アマモの生育環境である水質の変化、地形・水深の変化、底質の変化が引き起こされると考えられる。その結果アマモ(アマモ場)の生育変化、さらにアマモ場の変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響が生じると考えられる。

[2]調査・予測の流れ
  当該海域においては、注目種であり、また、「場」としての機能(仔稚魚の索餌場・育成場としての機能)を有するアマモ(アマモ場)に関する調査・予測手法を検討するフローを図●に示す。
  調査・予測手法の検討にあたっては、埋立(存在)による影響要因がアマモ(アマモ場)にどのような影響を及ぼすかを検討した。予測項目としては、想定される影響で示した要因によるアマモ(アマモ場)の生育変化、アマモ場の変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響が考えられる。
  予測項目を基に、アマモ場の生育分布や生活史等を既往資料により調査し、調査・予測の実施可能性を考慮した上で予測手法を検討し、この予測を行うために必要となる現地調査手法を検討した。

  なお、アマモ場の「場」としての機能に関して重要な調査項目はアマモ場の規模や季節変化及びアマモ場で生活する仔稚魚のアマモ場に対する依存度であると考えられる。それらの関係が調査を実施することによりある程度判明すれば、埋立によってアマモ場が消失・減少した場合の仔稚魚への影響を定性的に推測することができる。また、文献、ヒアリング等により、対象仔稚魚の生活様式が判明すれば幼魚、成魚の生息状況についても定性的類推が可能であると考えられる。
  仔稚魚のアマモ場への依存度を測定する手法としては特に定まったものはないが、アマモ場に生息する仔稚魚とアマモ場のないところに生息する仔稚魚の種類や密度、あるいは仔稚魚の消化管内容物とアマモ場に存在する餌料生物との関係等から、ある程度推測することができる。考えられるアマモ場の仔稚魚育成場としての機能イメージを図●に示す。

[3]調査手法
  予測手法の検討結果を基に、現地調査手法を検討した結果を表●に示す。

[4]予測手法
  埋立(存在)によるアマモ(アマモ場)の影響予測手法の検討内容を表●に示す。
  ここでは、埋立(存在)による影響要因と想定される影響及び予測項目を考慮し、予測手法を検討した。
  なお、アマモ場の変化に伴う仔稚魚の生息状況への影響を推定する方法に対しては、一定規模のアマモ場が将来的に確保される場合にはアマモ場の残存面積をもとにした比例配分の様な考え方が可能と推察される。ただし、小面積のアマモ場しか残存しない場合には、仔稚魚の育成場としての機能が著しく損なわれることがある等、必ずしも比例配分ができるとは限らないため、事例等と照らして十分な検討を行う。

(イ)調査結果の概要
  アマモ(アマモ場)の調査結果の概要を表●に示す。

(ウ)予測結果の概要
  予測結果については、下記に示す項目について検討することとなる。この予測項目は、埋立(存在)による影響要因である海域空間の消滅、海岸形状の改変によってもたらされる影響である。

・アマモ(アマモ場)の生育変化 
・アマモ場の変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響 

  埋立によって想定されるアマモ(アマモ場)への影響としては、生育場の一部消失と変化があげられる。
  埋立(存在)により、アマモ(アマモ場)の生育環境が変化し、生育場が一部消失または影響を受けた場合、移動性がほとんどないアマモ(アマモ場)の生育に対する影響は大きいと考えられる。アマモ(アマモ場)の生育環境である流況、水質及び底質の変化が、現状と比較してどのくらいの変化があるか、また、その変化はアマモ(アマモ場)の生理的・生態的特性を勘案してアマモ(アマモ場)の生育にどの程度影響を及ぼすかに焦点を絞り、アマモ(アマモ場)の生育変化として定性的に予測した。
  予測項目であるアマモ場の変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響において、埋立(存在)による影響要因から想定される影響は、埋立(存在)によるアマモ(アマモ場)の生育の変化がある場合、アマモ場を育成の場として依存している生物(仔稚魚等)に影響が及ぶ可能性があることである。上記で予測されたアマモ(アマモ場)の生育変化の予測結果を基に、アマモ(アマモ場)の生育変化がある場合、そこを生息場としている生物(仔稚魚等)にどのような影響を及ぼすかに焦点を絞り、生物(仔稚魚等)の生息環境の変化として定性的に予測した。

  アマモ(アマモ場)の予測結果の概要を表●に示す。

表● 注目種の特性の整理例(アマモ)

生物種(群集)名

アマモ (Zostera marina) 

全国的な分布

・北海道から南九州の浅海砂泥域に広く分布する。 
・内湾、内海、河口周辺に多い。 

一般的な成長 

・長さは1~2mmに達する。葉体は葉状部(葉身 
   ・葉鞘)、地下茎、根の三つに区分される。 
・生殖株と栄養株の2種類があり、種子による有性 
 生殖と地下茎の成長・分岐による栄養生殖を行 
 う。生殖株は春から夏にかけて花枝を形成し、開 
 花・結実が終わると株全体が枯死する。種子は長 
 さが3~ 4mmの籾または俵形をしており、 秋 
 から冬にかけて水温が低下すると発芽して新しい 
 アマモ草体を形成する。栄養株は春から初夏にか 
 けて盛んに成長するが、盛夏の高水温期には、葉 
 状部が枯れて株の成長は休止する。秋になって水 
 温が低下すると株の成長が再び始まり、葉状部が 
 伸長する。盛んに成長している栄養株では、株の 
 地上部と地下部とに分かれる部分に新しい株とな 
 る芽を形成し、それが成長するにしたがって地下 
 茎を伸長して親株から分岐し、新しい株となる。

当該海域における分布(推定含む)

・当該海域におけるアマモは干潟前面の水深0~3 
 m程度の砂泥底に帯状に分布し、全体で約1km2 
 のアマモ場を形成している。 

生理的特性

生育水深  ・瀬戸内海の一部を除き、干出しない浅海域に生育する。
 

水中光量

・分布下限域の年平均水中光量子量は約3E/m2/日、 
 生育層の相対照度(光透過率)は30~50%であ 
 る。 

 

生育水温

・8月の平均水温28℃以下が望ましい。生育場所 
 の水温は2月で-2~16℃、8月で16~28 
 ℃。 

 

透明度

・優良なアマモ場がある場所の透明度は、年平均 
 の最低値が2.3m。

 

塩分 

・河口域にも生育し、塩分の大きな変化にも耐える 
 と推測される。塩分は、種子の発芽に4以上、発 
 芽体の成長に17~34であることから適性塩分は 
 17~34であると推測される。

 

その他の生理的特性

 ・生育地の流速は、山口県柳井湾で0~13cm、岡 
 山県牛窓地先で3.5~6.5cmという値が得られて 
 いる。生育地の波高は1/3最大波高1.0m以下で 
 ある。

生態的特性

分布域の底質 

・砂泥質の海底に分布するため、波浪や潮流によっ 
 て底質が動き地下茎が洗われて流失したり、砂に 
 埋まって枯死することがある。

 

藻場の形成 

・アマモ群落はアマモ場といわれる藻場を形成す 
 る。アマモ場には、魚介類の生育場・索餌場、栄 
 養塩の固定等の機能があるとされている。 

希少性 

 ・全国的に分布しており希少な種ではない。

参考資料 

  (出典を記載) 

 

 

埋立(存在)による影響

     注:それぞれの項目は複雑に関連していると思われるが、ここでは主要な流れと思われるものだけを矢印で示した。

図● 埋立(存在)がアマモ(アマモ場)に及ぼす影響フロー

 

                    影響要因と環境要素の変化 
   ・海域空間の消滅:生育空間の減少 
   ・海岸形状の改変:流れの変化、波浪の変化による水質の 
                  変化、地形・水深の変化、底質の変化 


                             予測項目 
・アマモ(アマモ場)の生育変化 
・アマモ場の変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響 


                            既往資料 
・アマモの分布 
・季節的・経年的変化 
・生理的・生態的特性(水質、底質、流動、光量等) 
・生活史(再生産・成長等) 
・仔稚魚の育成場としての状況 


予測手法の検討


現地調査手法の検討

図● アマモ(アマモ場)に関する調査・予測手法検討のためのフロー

 

図● 仔稚魚の育成場としてのアマモ場の機能のイメージ

 

表● アマモ(アマモ場)の影響予測手法の検討内容

影響要因

 想定される影響と予測手法 

海域空間の消滅

○想定される影響 
 ・埋立(存在)によりアマモの生育場が一部消失または影響を受 
  ける可能性があるため、アマモ(アマモ場)の生育に影響が及 
  ぶと考えられる。 
○予測手法 
 ・アマモの生育の変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響 
  については、埋立予定海域に分布するアマモ場が一部消失また 
  は影響を受ける可能性があることから、アマモ場の生育阻害に 
  伴いアマモ場に生息する仔稚魚等に影響を及ぼすと考えられる 
  ため、アマモ場の分布範囲等の減少と、仔稚魚等の生息環境の 
  関係から予測する。(定性的予測) 

海岸形状の改変

 ○想定される影響 
 ・海岸形状が変化することに伴い、流れや波浪が変化しアマモ場 
  の生育に影響が及ぶ可能性があること、また、水質(河川水・ 
  浮遊物質等)の拡散・移動、砂浜の形状(水深等)、底質が変化 
  する可能性があることから、アマモ場の分布状況が変化し、仔 
  稚魚の生息環境も変化することが想定される。 
○予測手法 
 ・アマモ場の生育変化については、生活史の主要な段階における 
  アマモの生育状況と環境要素の関係(主に水質(特に濁り)の変 
  化とアマモの生理特性の関係、地形(特に水深)の変化、流動の 
  変化を重視)及び既存資料等によるアマモの生理・生態特性な 
  どから、各種の環境要素の変化がアマモに及ぼす影響を予測す 
  る。(定性的予測) 
 ・アマモの生育変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響に 
  ついては、アマモ場に生息する仔稚魚等の出現状況とアマモ場 
  の成長衰退を現地調査し、その結果等から仔稚魚等とアマモの 
  成長・分布状況との関係を解析し、仔稚魚等のアマモ場に対す 
  る依存性を把握する。これらのことからアマモ場の変化とそれ 
  に伴う仔稚魚等の育成場としての機能の変化を予測する。 
  (定性的予測)

海底基盤の改変 

・コンクリート構造物が出現するが、アマモの生育場と関係ないこ 
 とからアマモの生育変化の予測の対象とはしない。 

 

表● アマモ(アマモ場)に関する調査項目とその理由

調査項目  調査項目の設定根拠と調査内容 

アマモの分布状況
・アマモの分布 
・現存量
                 等

○調査項目の設定根拠 
 ・埋立(存在)によりアマモの生育場が一部消失または影響を受ける可 
   能性があるため、埋立予定地とその周辺のアマモの分布状況等を把握 
  する。 
○調査地点 
 ・アマモが生育する全域に設ける。 
○調査時期 
 ・季節的なアマモの分布・成長、環境変化等が適切に把握できる時期と 
  して、アマモの芽吹き時期(2~4月)、繁茂期(7~8月)を確実 
  に押さえる。 
○調査方法 
 ・広域的な把握として、繁茂期に空中写真等により生育域を把握する。 
 ・広域的な把握の後に、音波探査機、潜水観察、採取により、アマモの 
  密度、分布を詳細に把握する。

生育環境
・水深
・水温
・塩分
・水質
・底質
・光量
・流動

○調査項目の設定根拠 
  ・埋立(存在)により変化が生じると想定されるアマモの生育場の環境 
   (流れ、水質及び光量など)を把握する。 
○調査地点 
  ・アマモの分布域及び非分布域(水質調査地点で補完する)とする。 
○調査時期 
  ・アマモ場の分布状況の調査と同様とする。 
○調査方法 
 ・採泥器、採水器により試料を採取し、分析する。 
 ・底質の調査項目としては、粒度組成・有機物含有量・硫化物等、水質 
  の調査項目としては、水温、塩分、DO、SS、クロロフィルa、有機 
  物量等とする。 

仔稚魚の出現状況
・出現種
・個体数
・成長度合(全長) 
      等

○調査項目の設定根拠 
  ・埋立(存在)によるアマモの生育場の環境(流れ、水質及び光量等) 
   の変化がアマモ場を索餌場や育成場とする仔稚魚の生息に影響を及ぼ 
  すと想定されるため、仔稚魚の生息状況を把握する。 
○調査地点 
 ・アマモの分布域とその周辺水域とする。 
○調査時期 
 ・アマモの分布状況の調査と同様とする。 
○調査方法 
 ・稚魚ネット、引き網、藻曳き、タモ網で採集し、同定、分析を行う。

【参考】
  前述のように、アマモの生育量への影響予測は海域空間の消滅や地形変化、流動、水質、底質等の生育環境の変化の状況に応じて定性的に予測することが一般的である。
  ここでは、参考として、定量予測の流れについてもあわせて整理した結果を図●に示す。
  将来的にはモデルによる定量予測もひとつの手段として一般的になると考えられるが、モデルによる予測実施の際にはモニタリングによる検証が必要となる。

図● アマモ場の変化予測の流れ

 

表● アマモ(アマモ場)の調査結果の概要

    項 目 

               調 査 結 果

アマモ 
(アマモ場)

◎アマモの分布状況 
  ○調査内容 
 ・アマモの分布状況(5.参照) 
 ・繁茂期のアマモ場の被度 
○目的 
 ・調査地域内のアマモ(アマモ場)の分布域の把握 
 ・アマモ(アマモ場)の生育状況の把握 
○調査結果 
 ・アマモの分布域は調査地域内の干潟前面に広く分布していた。 
 ・調査地域内の分布域の総面積は130haであり、埋立予定地前面の分布面 
  積は約30haであった。 
 ・7月の繁茂期に被度は40~80%であり、良好な藻場が形成されてい 
た。 
  また、アマモの1m2当たり株数は、被度80%では50株、被度60%で 
  は38株、被度40%では25株であった。 
 ・各アマモ場の生育株数はアマモ場Aは約900万株、Bは約700万株、C 
は約2400万株、Dは1120万株であった。 

◎アマモ場に生息する仔稚魚の出現状況 
○調査内容 
 ・アマモ場に生息している仔稚魚等の出現状況 
○目的 
 ・調査地域内に分布しているアマモ場に生息している仔稚魚等の把握 
○調査結果 
 ・アマモ場に生息している仔稚魚のうち、出現個体数、出現頻度ともにメ 
  バル、クロダイが多く確認された。 
 ・その他の葉上動物はカマキリヨコエビ、ホソヨコエビ、テングヨコエビ 
  等の小型甲殻類が多く生息していた。 
 ・アマモ場の成長段階毎の仔稚魚の出現種と個体数を把握した結果、アマ 
  モの繁茂期に仔稚魚、葉上動物の出現個体数が多く確認された。 
 ・アマモ場外の水域にはメバルやクロダイ等の仔稚魚はアマモ場における 
  生息数と比較して非常に少なかった。

図● アマモ場の分布状況

 

表● アマモ(アマモ場)の予測結果の概要

  項 目                      予 測 結 果

アマモ
(アマモ場)

◎アマモ(アマモ場)の生育変化 
○影響要因 
 ・海域空間の消滅・海岸形状の改変 
○想定される影響 
 ・埋立(存在)によりアマモ(アマモ場)の生育場が一部消失または影響を受 
  ける可能性がある。 
○予測内容 
 ・生育環境要素の変化とアマモ場の分布密度等を把握して生理的・生態的特性 
  等から影響を受けるアマモ場の分布範囲の減少を予測する(定性的予測)。 
○予測結果 
 ・水質については、COD、SS及び栄養塩はともに埋立地の影響により現状と 
  比較してやや高く(CODの増加量 0.01mg/l、SSの増加量 0.05mg/l、T-N 
  の増加量 0.05mg/l、T-Pの増加量 0.0005mg/l)なる水域(干潟域)が生じ 
     る。  一方、光量については現状と比較しほとんど変化しない。 
 ・底質については干潟とマリーナに囲まれた海域で堆積傾向になるものの、そ 
  の堆積範囲はアマモ場の分布域には及ばず、その性状については現状とほぼ 
  同様となる。 
 ・アマモの生理的・生態的特性を考慮すると、流動以外のアマモの生育環境要 
  素である水質、底質の変化の程度が小さいことから、それらの環境要素の変 
  化がアマモの生育に影響を及ぼす程度は小さいと考えられる。 
 ・一方、アマモの生育環境の重要な要素である流動については、流向は変化し 
  ないものの、流速は埋立予定地近傍にあるアマモ場Dの生育範囲で変化する 
  ため、海岸形状の改変がアマモ場Dにおけるアマモの生育に影響を及ぼす可 
  能性がある(6.参照)。

◎アマモ場の変化による関連する生物(仔稚魚等)への影響 
○影響要因 
 ・海域空間の消滅 ・海岸形状の改変 
○想定される影響 
 ・アマモの生育の変化により関連する生物(仔稚魚等)の生息に影響が及ぶ可 
  能性がある。 
○予測内容 
 ・アマモの生育が低下する範囲を算出し、調査地域全体のアマモ場の面積等と 
  の比から、影響を受ける可能性があるアマモ場を生息場とする各種生物、仔 
  稚魚等の量を比例的に求める。 
○予測結果 
 ・アマモの生育については予測結果より、アマモの生育環境要素である水質、 
  底質に及ぼす影響は小さいと考えられるものの、埋立地近傍のアマモ場Dの 
  ところで重要な生育環境要素である流速が変化するためその生育に影響を及 
  ぼす可能性がある。 
 ・影響を受ける可能性があるアマモ場Dの生育株数は約1120万株と調査地域内 
  のアマモの総生育株数(約5120万株)の約22%を占めている。アマモ場に 
  依存する生物(仔稚魚等)の個体数は、主に生育株数に左右されると考えら 
  れることから、アマモ場Dの生育変化がそこに依存する生物である、メバル 
  やクロダイ等の仔稚魚や葉上動物に影響を与える可能性がある。 

図● 流況の予測結果から導いた生育変化が考えられるアマモ場

目次へ

前へ

次へ