(14)注目種の調査
(14)-1 陸域
(a)フクロウ(上位性)
里山のモザイク的土地利用やその中に点在する屋敷林、社寺林、広い森林の広がりはこの種のような里山に生息する行動圏の広い上位性の種の生存にとって重要な要素である。フクロウの生息場所分析と影響予測を通して、里山地域の生態系における上位性の種に与える影響を把握する。
《フクロウの基礎的生態》
フクロウは自分で巣を作ることができないため、大径木が幹の芯腐れや枝折れによる節抜けなどで空いた樹洞などを利用する。狩りは林縁または林内で行うため、飛翔するのに容易な林内空間のある森林や、狩りをするのに適した疎らな林床、森林に隣接して畑や草地が散在する土地利用が営巣地周辺に広がっていることが必要である。また、昼間は森林内で過ごすため、これらの条件に加えて、休息時に隠れることのできる常緑広葉樹、常緑針葉樹が必要である。
生活史:夜行性、周年生息(留鳥)
行動圏:数km2
食性:動物食(主に脊椎動物)、ネズミ類、モグラ類、小型・中型の小鳥類など
採食行動:止まり場で見張り、地上で捕食
生息場所:樹林と水田、畑などが混在する二次的自然環境など
営巣場所:広葉樹の大きな樹洞など
(ア)調査・予測手法の検討
[1]想定される影響
面開発事業によるフクロウへの影響はさまざま考えられるが、主なものは以下の通りである。
森林の減少や断片化による生息場所への影響
林床植生の変化による狩り場への影響
道路の供用等の移動阻害による影響
照明設置、騒音・振動等の発生による繁殖等への影響
人の侵入による繁殖等への影響
この事例では、これらのうち、森林の減少や断片化、林床植生の変化、道路による移動阻害による影響を扱うこととした。
事業によるフクロウへの影響は伐採による森林面積の減少、林床植生の変化、森林の断片化などによる狩り場、隠れ場の消失や減少、営巣場所の消失、営巣可能な森林の消失などがあげられる。影響の内容を図●に示す。森林の変化や供用後の新たな環境の出現などにより動物相が変化し、餌動物も変化することが予想される。これらはフクロウの行動圏の変化や環境利用の変化、生息状況の変化となって現れ、長年生息していた地域で繁殖が不可能になったり、場合によっては生息も不可能となる。
[2]調査・予測の流れ
フクロウへの影響内容の検討から調査・予測までの流れを図●に示した。上述の影響を把握するため生息状況調査と生息場所分析を行う。そして、これらの調査結果と事業計画との関係から、好適な生息場所の消失と繁殖ペアの存続可能性を検討し、事業による影響を予測する。
[3]調査手法
(i)生息状況に関する調査
(i)-1 周辺地域の分布に関する調査
フクロウのような行動圏の広い種、上位性の種では事業実施区域に1ペアまたは数ペアしか確認されないことが多いが、これらの個体を含む地域個体群を調査対象とする視点が必要である。
調査対象地域における分布は、後述の営巣地確認調査により把握するが、さらに周辺地域を含めた広域の分布についても既存資料やヒアリング等により把握する。これにより孤立した分布をしているか、周辺地域と連続した地域個体群を形成しているかなどが把握できる。既存資料やヒアリングで分布情報が十分把握できない場合には営巣地確認調査を行い、広域の分布を把握することも必要である。
(i)-2 営巣地確認(個体確認)調査
フクロウの営巣地を確認するため、既存の小道等を利用し調査対象地域の全域を対象に踏査を行う。踏査は繁殖初期に行う(3月~4月)。雄の鳴き合いが盛んな時期には調査対象地域の谷戸ごとの踏査によってペア数は比較的容易に押さえられる。営巣地が確認されたペアすべてについて巣場所の特定が望ましいが、不可能な場合にはおよその位置が把握できればよい。また、巣場所近くの住民にヒアリングを行い、特に古くから営巣している樹洞など、過去の繁殖状況についてもヒアリングを行う。
(i)-3 繁殖に関する調査
繁殖状況の確認に際しては、巣内の観察は繁殖妨害になるので、巣立ち後の雛数確認で十分である。巣立ち後の巣外育雛期(6月頃)の夜間、雛数を確認する。ただし、この場合も調査が親鳥の育雛活動の妨げを行うなど、雛の成育に影響を与える行為は極力慎むべきである。観察は1回でもよく、雛数が確認できたら、短時間で切り上げる。巣立ちの雛数の確認は各ペアに対して行う。
(ii)環境利用に関する調査
(ii)-1 環境利用に関する調査
狩り場、隠れ場に適した生息場所を踏査し、痕跡(ペリットなど)や個体の行動を確認する。また、下層植生の繁茂程度など、狩り行動を制限する森林構造に関する調査などを行い、生息場所毎に狩りの利用可能性を推測する。
後述する生息場所区分ごとに餌種ごとの生息密度(生息場所別の相対量)を把握する調査も考えられるが、フクロウの側の餌種の多様さ(環境で異なる)、餌種の密度推定の難しさから調査方法や分析方法などを十分検討することが必要である。
(ii)-2 大径木調査
地形図から神社のあるところ、航空写真から樹冠の大きい大径木のある場所は容易に把握できるので、これらの資料を参考にしながら現地踏査を行い、大径木分布図を作成する。現地踏査では樹洞の確認だけでなく、樹洞ができやすい樹種などにも留意しながら営巣可能性の高い森林かどうかを確認する。
(iii)種間関係に関する調査
(iii)-1 餌種に関する調査
フクロウは餌を丸飲みすることが多いため、毛や骨を未消化物としてペリットで吐き出す。このため、ペリット分析による食性調査が可能である。ただし、1~2年の調査で得られるペリットの量が定量的解析には十分でない場合が多く、餌種構成の地域的特徴を把握するにはより広範で長年月の調査を実施する必要がある。
(iv)生息場所分析
フクロウの好適な生息場所の消失による影響を予測するために生息場所分析を行う。
フクロウの生息場所の要件には次のようなものがある。
定着個体の生息維持には行動圏が広く、営巣地、狩り場、隠れ場に適した環境が互いに隣接して配置されているモザイク的土地利用が重要である。
ペアや巣立ち後の雛の安全な隠れ場となる、林冠のうっぺいした広葉樹林、針葉樹林などの大きな森林パッチが重要である。
巣を大径木(枯損木を含む)の大きな樹洞に依存しているため、繁殖するためには社寺林、屋敷林などにある大径木が重要である。以上に留意しながら、生息場所好適性区分図の作成を行う(図●)。
(iv)-1 生息場所区分図の作成
既存の航空写真を利用し(場合により撮影)、1/5,000~1/25,000の相観植生図を作成する。
フクロウの生息場所として森林構造は重要なので、その指標として樹高階を航空写真より判読する。
これらから生息場所区分を行う。
(iv)-2 生息場所区分図の補正
相観植生及び樹高階区分については、区分ごとにプロット調査(サンプリング)を行い、その結果を用いて凡例のくくりの補正、樹高、植生の補正を行う。
(iv)-3 森林のプロット調査
生息場所区分ごとに調査地点を複数設け、樹高、種組成、階層構造(林内の特に低木層、草本層など下層の状態が重要)などを記載する。
(iv)-4 環境利用調査
狩り場、隠れ場に適した生息場所を踏査し、痕跡(ペリットなど)や個体の行動観察から環境利用の内容を記載する([2](ii)-1「環境利用に関する調査」参照)。
(iv)-5 フクロウの生息場所好適性区分
上記により得られた結果を考慮して好適性区分を行う。
[4]予測手法
事業実施区域において生息場所の好適性がどう変化するかを予測するには、ペアの行動圏ごと(ここでは繁殖のための行動圏のコアの部分として半径1kmの円を設定する)に営巣、隠れ場、狩り場などに適した生息場所がどう変化するかを把握し、影響を判断する。
なお、事業により森林が伐採され、さらに残存森林が車両交通量の増加により分断された状況になると、飛翔に慣れない幼鳥などは影響を受ける可能性があるため、生息場所の分断の程度についても把握する。
[5]調査対象地域
フクロウに関する現地調査は植生や生物相などよりも広い範囲に設定した。これは、フクロウは行動圏の広い上位性の種なので、その行動圏の広さ(数km2)を考慮し、事業実施区域に一部でも関係する個体の行動圏を十分包括する範囲に設定したためである。地域界は現地調査などを考慮し、調査地域の境界と同様に、尾根や谷などの地形を利用し設定した。なお、広域的な範囲で地域個体群を対象に分布や生息状況を調査する場合は、別途広域的な範囲として地形等のまとまりのある範囲を設定する。
(イ)調査結果の概要
既存資料では広域の範囲で明確な分布情報はなく、ヒアリング調査では調査対象地域の周辺地域において複数の生息情報が確認されたにとどまった。周辺地域の分布は疎であった。現地調査では調査対象地域内におけるフクロウの営巣地が2か所確認され、巣はいずれも社寺林にある広葉樹の樹洞であった。ペアaは2羽の雛、ペアbは3羽の雛が巣立ったのが確認された。雛は巣立ち後数週間は巣の隣接地を移動しており、樹高の高い広葉樹林とスギ林の数か所で確認された。
営巣の可能性のある大径木はペアa、bの行動圏内で数か所確認された。ただし、いずれの大径木も営巣可能な大きな樹洞は確認できなかった。
ペアaの行動圏内では狩りに適した畑地や草地は台地面の一部に、林床の比較的疎な広葉樹林は事業実施区域の北半分の地域にみられた。
生息状況と環境利用に関する調査結果から、フクロウの生息場所区分ごとに好適性のランク区分を行い、生息場所の好適性区分図を作成した(図●)。ここで、各ペアごとの行動圏は推定行動圏として営巣場所を中心として半径1kmの円を設定した。
各ペアの推定行動圏内の生息場所好適性区分別面積を表●に示す。
(ウ)予測結果の概要
(i)個体の繁殖存続に関連する影響
2ペアのフクロウが事業実施区域に関連すると考えられるが、特に影響が予想されるのは1ペア(ペアa)である。ペアaの営巣地を含む好適性区分Aが事業実施区域に隣接して存在する。事業計画1及び事業計画2によって改変される谷奥の森林は、このペアの隠れ場や狩り場として使われている可能性が高く、生息を維持するための重要な場所と推定される。
また、事業計画案は3案ともペアの推定行動圏内の好適な生息場所の消失割合が大きく、ともに好適性区分Aの消失面積は40%を超え、好適性区分A・Bの消失面積を合計した面積割合も20%を越えている(表●)。営巣場所は事業実施区域からはわずかにそれており、事業による営巣場所の消失はないが、営巣場所に隣接した森林内の好適な狩り場や隠れ場の多くが失われることから、ペアaの繁殖の存続はかなり困難と考えられる。
なお、別の1ペア(ペアb)は推定行動圏内の主要な生息場所が事業実施区域にかからないため、直接的な影響は少ないと考えられる。
予測の不確実性の程度を踏まえた留意点:
(ii)道路建設による影響
道路による行動圏の分断の影響は計画内容により異なるが、車両交通量の多い、幅員幅の広い道路が建設される場合は、フクロウの移動が阻害される。特に営巣地近くを通る交通量の多い道路は巣外育雛期の雛の移動阻害の原因となり、その影響が懸念される。
この事業ではペアaの営巣地に近い場所に交通量が多いと想定される幹線道路が通るので、巣立ち後の巣外育雛期には移動の阻害要因となる可能性が高い。
予測の不確実性の程度を踏まえた留意点: 道路による行動圏の分断の程度は道路の構造や交通量などによっても異なると考えられる。道路建設による影響をさらに詳細に検討するためには、巣外育雛期の雛の移動分散に関する調査などを補完的に実施するとともに、移動路での分断の程度を把握するための事後調査を行う必要がある。
(iii)生態系への影響
フクロウの行動圏内には里山のモザイク的環境に生息する多様な生物がみられ、フクロウはこれらの生物と捕食・被食関係をもち食物網を形成している。上位性の種であるフクロウが影響を受けることで、生息状況が変化し、捕食・被食関係のある多くの種のみでなく、さらに関連した種々の生物に影響が及ぶことが推測された。
フクロウは林内や林縁の地上や地下で生活するネズミ類やモグラと捕食・被食関係にあるため、これらの種への捕食圧が変化することで、これらの種の個体群への影響が予想された。
また森林内で繁殖し生活の主要な部分を森林に依存するフクロウは飛翔のための林内空間や繁殖のための大きな樹洞など、森林の垂直的構造などが重要な生息条件である。このような条件を満たす好適な生息場所が縮小したり断片化することで、生息場所の質が低下し、事業実施区域周辺の個体の存続に影響が及ぶことが予想された。同様に、林内空間を利用するヒタキ科の鳥類や昆虫類、樹洞を利用するムササビなど哺乳類についても、階層構造の発達した森林が伐採されることで影響を受けることが予想された。さらに、これらの森林性動物への影響はこれらの動物が利用している植物や動物、競争関係にある動物へも影響をもたらし、この地域の森林生態系に対して影響を与える可能性があることが予想された。
図● フクロウの調査・予測の流れ
図● フクロウの生息場所好適性区分図作成のための手順
図● フクロウ生息場所好適性区分図
表● 推定行動圏内の生息場所好適性区分別面積(ha)
( ):%
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表● 各事業計画案とペアaの好適な生息場所の消失面積(ha)
( ):推定行動圏内における消失割合%
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(b)カタクリ(特殊性)
対象地域がカタクリの分布の南限付近にあたるため、本種は対象地域において微妙な地形条件と水分条件のバランスのもとに生育しており、乾燥化等の影響を受けやすいと考えられる。このため、水環境の変化による影響を予測するのに適している。また、本種に対する影響を予測し、その回避・低減を図ることは本種の生育する立地に多くみられる春植物(イチリンソウ、ニリンソウ、エンゴサク類など)への影響をも回避・低減することとなる。
《カタクリの基礎的生態》 |
(ア)調査・予測手法の検討
[1]想定される影響
本調査地域でのカタクリへの主な影響要因は森林の伐採と地形の改変である。森林伐採による生育地の消失と、水源涵養域での森林の減少や地形改変により生じる水田・湿地やその周辺を含む谷戸の乾燥化による、生育環境の劣化が想定される。そこで、以下の点についてこ影響の予測を行う。
カタクリ個体群の生育地の消失
カタクリ個体群の生育地における谷戸の乾燥化
[2]調査・予測の流れ
カタクリの影響内容の検討から調査・予測までの流れを図●に示す。カタクリの生育環境の消失及び乾燥化の可能性を予測するため、現地調査によるカタクリ個体群の分布と生育状況の把握と、カタクリが生育する谷戸の水環境を支える地下水の動態についての検討を行う。カタクリ個体群の生育状況を把握するために、立地の好適性と、カタクリの生育状況について調査を行う。また、カタクリの生育場所と水環境との関係及び地下水の動態を現地調査結果と既存資料に基づいて検討する。
[3]調査手法
(i)調査地点の設定
カタクリは本地域においては特定の環境条件下にのみ生育し、その生育する範囲は狭い。そこで、まずカタクリ個体群の分布位置を特定し、その周囲を調査対象地点とする。
まず、群落分布の踏査範囲を設定するため、植生と地形条件のオーバーレイにより北向き斜面の落葉広葉樹林の分布を把握する。その結果に基づき、踏査ルートを設定し、カタクリ個体群の分布を調べ、調査地点を設定する(図●)。
(ii)カタクリの生育状況の把握
カタクリの生育状況を把握するため、既存資料によりカタクリの生育条件を整理し、立地条件とカタクリ個体群の生育状況について調査を行う。これらの結果を整理し、調査対象地域における生育状況を把握する。
(ii)-1 立地の好適性の調査
地形:調査地点において縮尺1/1000スケールでカタクリ群落が分布する斜面の微地形の分類を行う。
水分条件:土壌水分の調査
温度条件:夏期(8月)の地温の測定
植生の管理状況の調査:調査地点の植生の管理状況、アズマネザサの被度を測定する。
(ii)-2 カタクリ個体群の生育状況の調査
カタクリ個体群の規模、開花個体の割合の調査:カタクリの開花期(3~4月)に調査地点におけるカタクリ個体群の分布範囲及び密度(個体数/m2)の測定を行う。密度の測定に際しては当年生実生以外の個体の数を数える。
(iii)水環境に関する調査
カタクリ調査地点の表層地質、湧水の分布、既存資料などからカタクリ生育地と水環境の関係を整理する。また、本地域において谷戸の水環境を維持するために重要な地下水は地形との関係を超えて動的に変動することが予想されるため、カタクリが生育する谷戸の水環境を支えている地下水の動態について調査を行う。カタクリ個体群の分布が集中する調査対象地域北部の谷戸2か所とその周辺において流量の観測を行って比流量や降雨に伴う短期の流出率を把握し、地下水の動態について定性的に検討する(参考として図●)。
(iv)林床植生調査
保全措置などとの関係により、カタクリが現在、良好に生育している環境と同様の環境の存在する場所を把握するために行う。カタクリ個体群の分布地点とその周辺地域で林床植生の種組成を調査し、その結果を整理することにより、カタクリが良好に生育している地点に出現する種群の抽出を行う。カタクリの良好な生育を指標する種群の分布状況を調べることにより、カタクリにとっての良好な生育立地と同質の立地を抽出する。
[4]予測手法
カタクリの良好な生育環境の消失については、事業による消失が予想されるカタクリ個体群の生育状況の整理を行い、各個体群の分布地点について事業により影響を受けると想定される範囲と重ね合わせを行うことにより予測する。生育環境の乾燥化の可能性については、地下水の動態を現地調査結果と既存資料に基づいて検討することにより、定性的に予測する。
(イ)調査結果の概要
(i)生育状況の把握結果
調査結果に基づきカタクリ生育地点の立地条件(表●)と個体群の生育状況(表●)の整理を行い、立地条件と生育状況の相互関係を把握した上で、以下のような生育状況の区分(表●)を行った。
(ii)水環境に関する調査結果
図●に調査地域におけるカタクリの生育地と地質、湧水、水環境の関係を示す。調査地域ではカタクリ生育地の下方に湧水がみられることが多く、このような環境が夏期の地温を低下させ、カタクリの良好な生育を維持していると考えられる。
カタクリ個体群の分布が集中する調査地域北部の谷戸2か所とその周辺の小流域において流量の観測を行った結果、近接する谷の間で比流量が大きく異なることが明らかになった。谷戸2か所はともに近接する谷に比べて比流量が大きく、周辺を含む大きな流域から地下水を獲得しているものと推測される。このため、カタクリの生育する谷戸は近接する小流域により涵養されている可能性がある。
(ウ)予測結果の概要
(i)良好な生育地の消失による影響
カタクリの良好な生育地への影響を生育地の生育状況区分ごとに消失する地点数により予測する。事業計画1でカタクリの良好な生育地点の消失がもっとも多く、生育地のすべてまたは一部が消失するものは生育状況Aが2地点、生育状況Bが1地点、生育状況Cが1地点である。事業計画2では生育地のすべてまたは一部が消失する地点はない。事業計画3では生育状況Dの1地点で生育地の一部が消失する。
予測の不確実性の程度を踏まえた留意点: 良好な生育地の消失が生じない場合にも、森林の管理状況の変化などにより、カタクリの生育環境が変化する可能性がある。現在、良好な状態にある生育地であっても、森林内での下草刈りが行われなくなりアズマネザサが密生する等の生育環境の変化が生じると、カタクリの生育には不利な環境となる可能性がある。したがって、事後調査によりカタクリの生育状況の変化を把握する必要がある。
(ii)生育環境の乾燥化による影響
カタクリ個体群の分布が集中する調査地域北部の谷戸2か所は隣接する小流域により涵養されていることが予測された。このため、水源涵養域の範囲を正確に明らかにすることはできないが、事業計画1,2,3により、これらの谷戸2か所が直接的に改変されない場合にも、改変区域が水源涵養域にあたり、谷戸の乾燥化が引き起こされる可能性がある。
予測の不確実性の程度を踏まえた留意点: 水源涵養域の範囲が正確には明らかになっておらず、事業による土地の改変が水環境に及ぼす影響の程度の定量的な予測は困難である。したがって、事後調査により流量等の観測を行い、谷戸の乾燥化の傾向を把握する必要がある。
(iii)生態系への影響
カタクリ生育地の消失や生育環境の劣化の可能性は本種と同様の立地に生育するイチリンソウ、エンゴサク類などの春植物の生育環境への影響も生じうることを示している。これらの春植物の生育環境が劣化・消失すれば、カタクリ等を蜜源植物として利用する訪花性昆虫類などにも影響が及ぶ可能性がある。このような環境の変化はカタクリが生育する特殊な環境により維持される落葉広葉樹林の種多様性の低下を引き起こす可能性も示唆する。
図● カタクリの調査・予測の流れ
図● カタクリ個体群分布地点図
図● 比流量測定(参考例)
表● 立地条件の整理
地点 | 斜面方位 | 傾斜 | 微地形 | 土壌水分 | 地温 | 管理状況 |
1 | N○○W | ○° | 段丘崖・凹型斜面、 沖積錐・凸型斜面 |
高い | <21℃ | 下草刈りあり、 アズマネザサ被 度○%以下 |
2 | 段丘崖・凹型斜面 | 高い | <22℃ | |||
3 | 沖積錐・凸型斜面 | 高い | <21℃ | |||
・・ |
表● 個体群の健全性の整理
地点 | 個体群規模 | 密度 | 開花個体割合 |
1 | ○×○m2 | 80~140/m2 | ○○~○○% |
2 | |||
・・ |
表● カタクリ個体群の生育状況の区分
A:カタクリに適した立地条件であり、かつ、林床の管理が行われてい |
図● カタクリの生育地と地質、水環境の関係(参考:齋藤,1997)