平成13年度 第1回海域分科会

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4 動物

(1)調査・予測・評価項目の検討

(2)調査

1)動物相、生息地に関する調査
2)重要な動物種、注目すべき生息地に関する調査
3)調査地域、期間

(3)予測

1)予測項目と方法
2)予測地域、時期の設定

(4)環境保全措置

1)保全方針の設定
2)環境保全措置の検討
3)環境保全措置の実施案
4)環境保全措置の妥当性の検証

(5)評価

1)評価の考え方
2)総合的な評価との関係

(6)事後調査

1)事後調査項目と方法
2)事後調査範囲、地点、期間等の設定

(7)動物群ごとの留意点


(1)調査・予測・評価項目の検討

 調査、予測及び評価手法の設定にあたっては、スコーピング段階で明らかにされた環境保全の基本的な考え方や公告縦覧時の意見ならびに動物相等の調査を通じて把握された対象地域の動物の実態を踏まえ、事業の影響に対する適切な環境保全措置を検討するために有効な予測・評価項目を設定する。更に、その予測及び評価のために必要となる具体的な調査項目・手法と必要な調査量(時期、地域、地点数等)を順次検討し設定する。このとき、文献その他の既存資料によって情報を整理・解析した上で、対象地域の植物の現況を明らかにするのに適した手法を選定する必要がある。
  なお調査・予測等の手法の選定に際しては、常に学術分野の新しい研究成果や調査技術に注目し、効果的で実用性の高い手法を積極的に導入すべきである。

(2)調査

1)動物相、生息地に関する調査

 対象地域全体における動物相、生息地に関する現況調査を行い、それらの状況等についてまとめるものである。調査は[1]動物相、生息地の地域的特性を把握した上でスコーピング段階で抽出された重要な動物種・注目すべき生息地の追加・見直しをする、[2]重要な動物種・注目すべき生息地の調査・予測・評価のための基礎的情報を収集する、[3]生態系等他の項目の調査・予測・評価のための基礎的情報を収集する事を目的に行なう。
 動物相、生息地に関する調査結果にもとづいて地域特性を把握する際には、対象地域の広域的な位置づけができるよう留意する。

動物相における調査対象
 動物相において調査対象とされている動物群は主に軟体類、甲殻類、昆虫類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類であり、一般に分類や調査方法が確立されている動物群が対象とされることが多い。これら以外にも必要に応じてクモ類、サンゴ類なども対象とされている。生活形態の視点から、土壌動物、底生動物、遊泳動物、動物プランクトンといった動物群を調査対象とすることもある。
 動物相調査では当該地域の動物相の特徴を捉え、重要な動物種の項目で調査されるべき種を見落としなく拾い上げるために必要な種群を調査対象とする。重要な動物種の生息の可能性がある場合には調査されるべき種を見落とし無く拾い上げるため、レッドリスト(環境庁自然保護局 2000 など)や日本の希少な野生水生生物に関するデータブック(水産庁 1998)、各地域で編纂されているレッドデータブック等で取り上げられる分類群等、該当する種が含まれる動物群全般について調査の必要性を検討する。
 また、動物プランクトンのように重要な種が含まれる可能性の低い動物群については、調査は動物相としての概略を把握する程度に留めて良い。
 なお、養殖、飼育されている動物は通常調査対象としない。それらが逸散して野外で繁殖している場合や、漁業対象として放流されている種がいる場合には、それらも動物相の調査対象とする。ただし、養殖や放流の実態は別途把握する必要がある。

●調査項目と調査内容の例

動物相 動物相の概況
各種の生息地の概況:確認地点、生息地の状況など
各種の特性:逸出種・帰化種等の区別、環境指標性など
生息地 環境条件:地形、地質、土壌、水象、気象、植生など
汚染の状況:大気汚染、水質汚濁など

●動物相、生息地調査の主な留意点

(種の同定)

(踏査ルート)

(生態系項目との連携)

(調査時期)

(その他)

2)重要な動物種、注目すべき生息地に関する調査

 重要な動物種及び注目すべき生息地を対象として調査を行なう。スコーピング段階において抽出された重要な動物種及び注目すべき生息地は、環境影響評価段階の「動物相、生息地」に関する調査結果をうけて追加・見直しする。追加にあたっては現地調査により明かにされた地域特性を踏まえ、法令・条例等において保護等の規制がある種、個体、個体群及び生息地、文献資料等で貴重とされるなど、学術上または希少性の観点から重要である動物種、個体、個体群及び生息地を抽出する。学術上、希少性の考え方については平成11年度報告書に詳述されているので参照されたい。特に、現地調査により未記載の種や当該地域で分布の記録されていない種が発見された場合には慎重な検討が必要である。
 調査項目、方法は予測や評価に必要な資料が得られるよう適切なものを選定する。また、現地調査は文献その他の既存資料による情報の整理解析を踏まえて、対象地域の動物の現況を明らかにするのに適した手法を選定して行う。調査結果にもとづき調査対象の調査地域における学術上または希少性の観点からみた重要性の程度を確認する。調査項目の例を以下の表に示す。

●調査項目と調査内容の例

重要な動物種 分布、生活史、生育量に関する調査:分布範囲、食性、行動様式(採食、繁殖、休息、移動など)、生息個体数など 生息環境に関する調査:微気象、水質、植生など
注目すべき生息地 生息地の状況に関する調査:分布、生息個体数、個体群の構造、近傍の生息地など
生育環境に関する調査:基盤環境(地形、地質、水質、気候、気温など)、周辺の植生、土地利用の履歴、管理の状況など

●重要な動物種、注目すべき生息地調査の主な留意点

(生息環境の把握)

(調査による影響の低減)

(調査地域)

(調査期間)

3)調査地域、期間

 調査地域は事業特性と地域特性に基づき、事業による直接的及び間接的な影響が生ずる可能性があると推定される区域を含み、事業の影響を評価するために必要な範囲とする。事業の実施に伴い動物に影響が及ぶ範囲は、影響要因、地形、季節や、対象となる動物種などにより異なる。このため、調査地域は事業の実施区域から一定の距離で囲まれる範囲として設定するのではなく、地形単位や動物の行動圏などを考慮して設定する。調査地域は基本的には現存植生を調査する地域と同じ範囲とするが、調査対象となる動物群の行動圏がより広い場合には、既存の事例等を参考に適宜調査地域を拡大して設定する。なお、事後調査を想定して事業の実施区域内の残置森林など直接改変を受ける区域に隣接する群落内や、事業の実施区域の水系の流入・流出地点などに事後調査時にも対照区として利用できる調査定点を設ける必要がある事もある。
 調査期間は生息状況の季節変動が適切に把握できる期間とし、基本的に1年間以上とする。調査対象となる動物の生活環において下記に示すような変化が想定される場合は生息状況が適切に把握できるように調査の時期を選定する。調査方法により生息を把握できる時期が限られている動物は特に適切な時期を逃さぬよう留意して設定する。

・渡り、漂行、遡上降河、回遊等の移動
・繁殖期における特有の形態、行動
・冬眠等による活動の休止
・変態による利用する場所の変化

 なお、現地調査で新たに重要な動物種、注目すべき生息地を確認した場合は、その時点から適切な期間の調査を実施する。

(3)予測

1)予測項目と方法

 予測は事業の実施に伴って受ける主要な影響の種類を特定し、その影響による予測対象の変化の程度を推定する事によって行なう。事業が複数の計画案を持つ場合は各案についての予測を行なって比較する。また、想定される環境保全措置について、行わない場合と行った場合の影響予測を対比して示す。
 予測を行なうにあたってはまず、特定された主要な影響の種類を踏まえて予測の具体的な実施方法を検討し、予測計画を立案する。予測計画にしたがって現地調査、資料調査、ヒアリング調査、類似事例調査、実験、シミュレーションなどの各種調査を行なうことにより影響の程度を推定する。
 予測は可能な限り客観的、定量的に行なう必要がある。動物種、個体群の変化に関する定量的な予測は難しい場合も多いが、生理、生態的な特性を十分に検討して調査で得られたデータに基づいた客観的な予測を行なう。採用した予測方法については、その選定理由、適用条件と範囲を明記しておく。
 予測結果に不確実性が伴う場合はその内容と程度を明らかにし、事後調査により予測結果の確認を行う。なお、予測された以上に影響が生じた場合には追加的な環境保全措置を検討する必要もある。

予測項目の例

予測の対象と予測する影響の内容

予測の対象 予測する影響の内容
種、個体または個体群 ・消滅、縮小、組成・構成の変化、個体数・現存量の変化
・逃避
・採食、休息、移動等行動への影響
・繁殖への影響
生息環境 ・行動圏への影響
・採食環境、ねぐら・休息環境、移動経路への影響
・繁殖環境への影響

●予測における主な留意事項

(環境の変動)

(新たに創出された環境による影響)

(影響の時間的変化)

(類似事例や科学的知見の引用)

(事後調査)

予測手法
 影響の予測にあたっては、個体または個体群が消滅あるいは損傷を受けたり、地形改変により生息環境そのものが消滅するといった直接的な影響だけでなく、直接に生息場所は改変されないが水質、水温、潮流の変化、騒音・振動の発生、人為影響の拡大などが生息環境に影響を及ぼし、動物個体の生理面、行動面などを徐々に変化させるといった影響も予測する必要がある。現在は下記に示したオーバーレイが多く用いられており、遺伝解析なども手法として取り入れられつつある。しかしこれらの既存手法に限らず、個体群存続可能性分析など新たな手法も取り入れて、考え得る様々な影響に対して予測を行わなければならない。さらに個々の影響に対する予測結果を取りまとめ、予測対象が受ける影響を総合的に評価する。

●予測手法の例

オーバーレイ
  現在多用されている手法である。様々な主題図(生息地や行動圏、餌生物などの資 源量推定図、生息密度図など)を作成し、事業計画図と重ね合わせることで、直接改 変によって消失する個体数や生息地の減少などを定量的に推定する。複数の事業計画 がある場合は、それぞれについてこの方法を行うことで事業案を比較検討(シナリオ 分析)する。この手法は、動物種の生息地への直接改変の影響を予測する場合に有効 な方法である。しかし事業による日照、湿度、風衝等の基盤環境が事業後に徐々に変 化し残存した生息地に影響する場合や、生息地への他種の侵入による競争の発生、回 遊や移動などの行動に与える影響等については、定性的な予測にとどまる。

遺伝解析
 アロザイム分析やPCR法などの遺伝解析手法を用いて、対象地域の個体群の遺伝 的特異性や遺伝的多様度、遺伝的関係性の変化を予測する。例えば、個体間での遺伝 的距離や、親子関係の推定を行うことで個体群間の遺伝子交流の状態を推定し、事業 による生息地の分断化・縮小が引き起こす遺伝的多様度の変化等の予測を行う等が考 えられる。ただし、まだ遺伝的多様度についての知見が少ないことから、使用する遺 伝子座、遺伝的多様度の解釈などには注意が必要である。また個体数の少ない種では 充分なサンプル数が確保できない等の問題がある。

個体群存続可能性分析
  個体群存続可能性分析(PVA)によって個体群の絶滅の危険性を予測する。しかし 動物では個体群統計データの取得が可能な種は少ない。また確率変動性だけを考慮し た場合は得られる最小存続可能個体数(MVP)は過小になる。その他、生存率・繁 殖率の低下をもたらす要因が存在する場合、絶滅時期は予測より早まる等の問題点が ある。またこの方法は隔離された個体群を想定している。移動能力が大きく周辺個体 群間での移入・移出が頻繁に起こるような動物種の場合は、この手法が適用できない 場合がある。

 

2)予測地域、時期の設定

予測地域
 
予測地域は、基本的に調査地域及び調査地点と同じとする。予測項目のうち、直接的影響については直接的改変を伴う区域を含む事業対象区域について重点的に予測するものとする。なお、一般に動物は移動をするので直接的影響が直接改変を受ける区域にとどまらない可能性があることに留意する。予測の対象となる動物群の行動圏が当初の設定より広い場合には、既存の事例等を参考に適宜調査地域を拡大して設定する。生息範囲、生息環境等が局限される種及び個体、個体群の生息が想定される場合は、それらの現況を把握する地域を設定する。

予測対象時期等
 予測対象時期は、対象事業に係る施工中の代表的時期及び施工完了後一定の期間をおいた時期のうちで、動物種、生息地の特性及び事業の特性をふまえ、影響を的確に把握するために必要と考えられる時期とする。可能な限り影響の時間的な変化が捉えられるように時期を設定する事が望ましい。予測対象とする時期としては施工中の直接改変に関わる影響については関係する工種の終了時や、施工完了時等が必要である。生息環境の変化により次第に現われる影響については影響要因ごとに環境を大きく変化させる工種の施工時や、供用後一定の期間をおいて事業活動が安定し生息環境及び動物種の生息状況についても安定した時期までが必要となる。環境保全措置を講じた場合には当該措置が効果を発揮し、生息環境が安定した時期までの予測が必要となる。
 予測対象とする季節は予測対象となる動物の繁殖期、渡り、回遊時期など季節変動等特性を考慮し、動物への影響が最大に見積もられるように設定する。

(4)環境保全措置

1)保全方針の設定

 保全方針の設定とは、保全措置を検討すべき特定の対象を選定し、それぞれの重要度や特性に応じた保全措置の検討目標を検討して、回避・低減または代償措置を行う際の観点、環境保全の考え方等を整理する過程である。ここでは、スコーピング及び調査の各段階で把握される事業特性、地域特性や方法書手続きで寄せられた意見を十分踏まえ、回避・低減措置又は代償措置をどのような観点から検討するかについて整理して示す必要がある。

[1]保全措置検討の観点
 保全措置は、スコーピング及び調査・予測のそれぞれの段階で把握される以下の観点を踏まえて検討する。

・環境保全の基本的考え方(スコーピング段階における検討の経緯を含む)
・事業特性(立地・配置、規模・構造、影響要因など)
・地域特性(地域の動物相の特性、環境保全措置を必要とする重要な種の分布状況など)
・方法書手続きで寄せられた意見 ・影響予測結果 など

 また、スコーピングの初期段階など環境影響評価の早い段階から、あらかじめ事業者の環境保全に関する姿勢や基本的考えかたを示しておいた上で、調査・予測結果を踏まえて段階に応じてより具体的な保全方針を示してゆくことが重要である。

[2]保全措置の検討対象
 保全措置の検討対象は上記[1]に示した観点を踏まえ、予測対象とした重要な動物種、生息地の中から選定する。保全措置の検討対象の選定にあたっては、保全措置を実施する空間的・時間的範囲についても十分に検討しなければならない。また保全措置が必要でないと判断された場合には、その理由を予測結果に基づきできるだけ客観的に示す必要がある。  これらを踏まえた上で保全措置の検討対象とする重要な動物種、注目すべき生息地を選定するが、その際、次のような事項に留意する。 ・地方公共団体の地域環境管理計画等において主だった保全措置の検討対象がリストアップされている場合には参考にすることができる。ただし、保全措置の検討対象や目標は地域性が極めて高いものであるためリストアップされているものが全ての保全措置の検討対象ではない事に十分留意して用いる必要がある。 ・重要な動物種や注目すべき生息地のうち現況調査において死滅や消失、またはその価値が喪失しているため保全措置の検討対象として適切でないと判断されたものについてはその旨を明記する。 ・各種の渡り鳥が集まる干潟等のように特定の種よりもその複合体そのものが保全すべき対象であると考えられる場合には、保全措置の検討対象は生息地や生物群集となる。

[3]保全措置の検討目標
 保全すべき重要な動物種・植物群落に対して、影響の回避、低減もしくは代償のための保全措置を検討する際には、以下のような事項に留意して、それぞれの対象における具体的な目標の設定を行う。
・目標設定にあたっては、事後調査によって保全措置の効果が確認ができるように、できるだけ数値などによる定量的な目標を設定する。動物項目における定量的な保全措置の検討目標の例としては、個体数、分布範囲、現存量、密度、齢構成、繁殖率、餌量などが挙げられる。
・動物は繁殖場、餌場、ねぐら等、複数の場を利用することが多い。そのため、場合によっては事業地内だけでなく事業地外の生息環境との関連についても考慮する必要がある。
・既存知見や研究例、保全措置検討の過程で得られたデータなどを用いて、これらの目標の妥当性をできるだけ客観的に示すことが望ましい。

2)環境保全措置の検討

 保全措置の検討対象に及ぼす影響を回避もしくは低減するための措置を優先して検討する。その上で、回避、低減により十分な保全が図られない場合には代償措置を検討する。事業計画の段階に対応して、それぞれいくつかの案を提示し、それぞれの保全措置の効果と環境への影響をくり返し検討・評価して影響の回避・低減がもっとも適切に行なえるものを選択する事が重要である。またそのような保全措置の検討過程を明らかにする事も重要である。

●環境保全措置の例

  環境保全措置
工事中

・重要な動物種、注目すべき生息地・繁殖地等を直接改変地域、工事作業用地等から除外する。ま
たはそこでの改変面積を減らす。
・重要な動物種等の繁殖期・繁殖場所を考慮した工期・工法の採用
・工事による改変地周辺の改変量を抑制した工法・工種の採用
・改変地域と非改変地域の境界域の植生への影響の軽減、植生の回復、緑化の実施などによる生
息環境の修復
・工事に伴う水質汚濁による水生生物への影響の軽減(排水の高次処理、農薬・肥料等の使用の 低減等)
・ゴミの放置、不必要な照明等、工事用地の不適切な管理による動物への影響の除外
・重要な動物種、注目すべき生息地・繁殖地等の代替地の確保
・工事関係者に施工開始前に当該地域の自然環境や配慮事項について教育を行なう

施設などの存在及 び共用 ・重要な動物種、注目すべき生息地・繁殖地等を直接改変地域、工事作業用地等から除外する。ま
たはそこでの改変面積を減らす。
・重要な動物種、注目すべき対象の生息場所の減少の抑制
・残存する森林面積の確保、周辺の森林との連続性の確保による、動物の移動経路の確保
・分断された生息地を結ぶ移動経路の確保
・代替生息地・繁殖地となる環境の創出・管理や重要な動物種の移殖など
・当該地域の自然環境や配慮事項について施設利用者への教育を行なう。

●環境保全措置検討における主な留意点

(周辺への影響の低減)

(生息場所の維持)

(円滑な逃避の促進)

(メタ個体群の考慮)

(移殖)

(巣箱の設置などに関する注意事項)

3)環境保全措置の実施案

 準備書・評価書には「動物」についての保全方針や環境保全措置の検討過程、選定理由について記載する。また、環境保全措置の効果として措置を講じた場合と講じない場合の影響の程度に関する対比を明確にする。環境保全措置の効果や不確実性については、保全措置の検討対象となる動物種、生息地と、それらを保全するために措置を講ずる影響要因や環境要素の関連の整理を通じて明らかにする。
 採用した環境保全措置に関しては、それぞれ以下の点を一覧表などに整理し、環境保全措置の実施案として準備書、評価書においてできる限り具体的に記載する。

・採用した環境保全措置の内容、実施期間、実施方法、実施主体等
・採用した環境保全措置の効果に関する不確実性の程度
・採用した環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれのある他の環境要素への影響
・採用した環境保全措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響
・環境保全措置の効果を追跡し、管理する方法と責任体制

4)環境保全措置の妥当性の検証

 環境保全措置の妥当性の検証は、保全方針に沿って検討された具体的な環境保全措置に対し、当該環境要素に関する効果とその他の環境要素に対する影響とを検討することによって行う。複数の環境保全措置についてそれぞれの効果を考慮した予測を繰り返し行い、その結果を比較検討することにより、効果が適切かつ十分得られると判断された環境保全措置を採用する。
 その際、最新の研究成果や類似事例を参照したり、専門家の指導を得ること、必要に応じて予備的な試験を行うことなどにより、環境保全措置の効果をできる限り客観的に考察する必要がある。また環境保全措置が他の保全措置の検討対象へ影響を及ぼすこともあるので、注意しなければならない。特に、ある生物には良い効果をもたらすが他の生物には悪影響を与える場合があるので、生物や環境要素の関連性についても十分な検討を行うことが重要である。
 なお、技術的に確立されておらず効果や影響にかかる知見が十分に得られていない環境保全措置を採用する場合には、特に慎重な検討が必要である。そのような場合には、保全措置の効果や影響を事後調査により確認しながら進めることも必要である。

(5)評価

1)評価の考え方

 評価は保全措置の検討対象、検討目標に対して、採用した環境保全措置を実施することにより予測された影響を十分に回避、低減又は代償し得たか否かについて、事業者の見解を明らかにすることにより行う。事業者の見解はその根拠を示し、検討対象に関する環境保全措置の妥当性の検証結果を整理して示した上でできる限り客観的に説明する。妥当性の検証については、できる限り客観性の高い定量的な手法により、複数案の比較結果を示すことが望ましい。また、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて分かりやすく解説される事が望ましい。環境保全の効果が得られる技術のうち、科学的側面において実用段階にあるか、近い将来に実用化されるもので、技術的側面においても当該事業に適用可能なものの中から、最も大きな効果を持つものが先ず選択されたことが解説されるのが望ましい。
 なお、事業地の所在地である地方自治体などが環境保全のために定めた環境基本計画や環境保全条例、各種指針などにおいて、動物の保全に関わる目標や方針が定められている場合には、それらとの整合性についても見解の根拠の一つとして言及しておく必要がある。

2)総合的な評価との関係

 準備書や評価書においては、動物などの生物の多様性分野に関する各環境要素ごとの評価結果は、大気・水環境分野、自然との触れ合い分野、環境負荷分野などに関するそれぞれの環境要素ごとの評価結果とあわせて、「対象事業に係る環境影響の総合的な評価」として取りまとめて示す必要がある。
 それぞれの環境要素間には、トレード・オフの関係が成立するものがあることから、これら環境要素間の関係や優先順位について事業者はどう捉えて対応したのかについて明確にした上で評価する必要がある。
 総合評価の手法及び表現方法には一覧表として整理するのみならず、得点化する方法や一対比較による方法などが知られているが、確立した最良の方法はない。いずれにせよ合意形成の手段として環境影響評価の目的達成に向け、住民等に、対象事業による環境影響に関する事業者の総合的な見解とその根拠を分かりやすく簡潔に伝えられるよう、個別案件ごとに創意工夫を重ねていく必要がある。

(6)事後調査

 事後調査は通常、予測の不確実性が大きい場合や、環境保全措置の効果が明らかではない場合に実施する。予測の不確実性が小さい場合であっても、予測結果の確認の観点から事後調査を行うことが望ましい。
 事後調査では事業実施後の環境の変化を追跡し、環境保全措置の効果を把握する。このため、事後調査によって何をどのように比較するのか(例えば、事業前後でのバイオマス、齢構成、適応度の変化など)、その対象と方法を明示し、必要な項目と調査方法をあらかじめ具体的に挙げておかなければならない。その際には、できるかぎり変化を明確に把握できるような調査対象種・項目・場所に絞り込むことが必要である。したがって、事後調査では必ずしも本調査と完全に同一の調査項目が必要とは限らない。また、事業の実施または環境保全措置の実施による環境要素の変化を比較するには、実施前の環境要素の状態を把握しておく必要があるため、事前の調査段階から事後調査を考慮した調査を実施しておく必要がある。

1)事後調査項目と方法

[1]事後調査項目
 事後調査項目の選定にあたっては、まず把握すべき影響要因と環境要素の関連を整理し調査の視点を明確にすることが重要である。動物を対象とした事後調査項目の例を以下に挙げた

・動物相
・個体数
・生息密度
・分布、行動圏
・繁殖状況
・動物の生息場所の環境条件

[2]事後調査手法
 事後調査手法は環境影響評価に係る調査などの事前行われた調査手法の中から選定することを基本とするが、環境の変化を追跡できるよう、比較が可能な定量的な手法を選定する。なお、繁殖状況等を確認する調査では、調査者の接近による繁殖阻害といった調査圧が生じないよう留意する必要がある。事後調査手法の選定に際しては以下の点に留意する。

・一般的、客観的な調査手法であることが望ましい。
・調査に従事する技術者の能力により左右されない調査手法であること。
・手法が複雑でなく、再現が容易であること。

2)事後調査範囲、地点、期間等の設定

[1]事後調査地点、範囲
 事後調査の対象範囲は調査・予測において対象とした範囲とする。
 事後調査地点は環境影響評価の調査に用いた地点等を含めて設定し、調査対象とする環境要素の変化を定量的に評価できる地点数を確保する。事後調査は通常複数年にわたり実施する必要があることから、事後調査が終了するまで確保できる調査定点や調査ルートを選定する。また、事業による影響や保全措置の効果を気象条件や他の環境要素の変動に伴う影響と区分して把握する必要のある場合には、事後調査地点と同じ環境タイプで、事業による影響を受けない立地や保全措置を実施していない立地などに、比較のための対照調査区を設けることも必要である。
  動物は植物と違って移動性があり、対象種の生活様式によっては季節的に利用資源が異なったり繁殖や越冬のために移動する場合があるため、調査対象・目的によっては移動経路など主要な生息地以外の場所も含めた調査が必要となる。したがって、調査範囲や項目の設定においては対象種ごとの対応を考えなければならない。

[2]事後調査期間、時期
 経年的に調査を計画する際は、対象とする動物の生活史を考慮し、毎年同時期に実施する必要がある。事後調査の実施頻度・期間については、動物の場合は対象となる個体群・生息地が安定性を保っていることを確認するため、環境や個体群構造が安定し、定常的な世代交代が行われていることが確認できる充分な調査頻度・期間が必要である。

(7)動物群ごとの留意点

 環境影響評価の対象となる動物群について調査・予測・評価を行ない、環境保全措置や事後調査を検討する上で留意すべき点を表●~●にまとめた。とりあげた動物群は環境影響評価においてしばしば調査対象とされる群とした。動物群の区分は調査方法との対応を考慮し、哺乳類、鳥類のような分類群と底生動物、動物プランクトンのような生活形態による区分を併用して示した。これらの表には分類群ごとに留意すべき点のみを示しているので、動物項目でのアセスの進め方全般については本文を参考にしつつ検討されたい。また、ここで示した留意点は各動物群の特徴の一部を示しているのみであり、地域特性や事業特性に応じた幅広い事項についての検討が必要となることは言うまでもない。

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