表● 動物群ごとの留意点
哺乳類 | 遊泳動物(海域) |
鳥類 | 魚類(陸水域) |
爬虫類 | 底生動物(海域) |
両生類 | 底生動物(陸水域) |
昆虫類 | 動物プランクトン |
哺乳類
-特性
-調査手法
・動物相の調査ではコウモリ類、モグラ類など一般に確認情報の少ない哺乳類についても、 生息状況を十分に把握できるよう調査設計をおこなう。特にコウモリ類では繁殖、越冬、一
時的な隠れ場などの利用状況について把握する必要がある。
・生態系等他項目の基礎的情報収集のためには、フィールドサイン調査では確認地点の記録 とあわせ周辺環境や対象個体の移動経路なども記録し、周辺環境の利用状況を把握する。ま
た、食痕、足跡、糞などは確認地点の利用頻度についても留意するほか、中・大型哺乳類の 糞は内容物が分析できるよう保管するとよい。
・海産哺乳類の重要な種の調査では移動、索餌、繁殖などの生活史と海域環境との関連が把 握できるように調査内容を検討する。ただし、希少種の捕獲はもちろん、生息に影響を及ぼ
すような調査を行ってはならない。既往資料の活用、聞き取り、リモートセンシングなどを 主にした調査が望ましい。既往の調査が行われている場合が多いことから、事前にそれらの
知見を十分に収集することが重要である。
・狩猟など捕獲圧の有無にも留意する
-調査時期・頻度
・繁殖期に調査を行なうと確認しやすい種も多い。また、大型獣では季節移動をするものが あるため、ある時期居なくなるものや、越冬に注意して調査時期を検討する。
-留意すべき影響要因
・周囲での照明、人の立ち入りについても配慮が必要である。
・海域では生息地周辺での船舶の輻輳についても配慮が必要である。
-予測・評価手法
・密度や個体数の定量的な把握が比較的困難である事、各種の生態に関する知見がそれほど 多くない事から、定量的な予測・評価は相当に困難である。
-保全方針検討の観点
・個体群を安定的に維持できる生息域の十分な面積の確保が必要である。その上で、重要な 生息地や繁殖地等の代替地を確保した場合には、改変地域から代替地までをつなぐ回廊(コ
リドー)も確保する必要がある。なお、リス類やヤマネなど樹上性哺乳類では、樹冠の連続 性にも留意する。
・コウモリ類については繁殖、越冬、一時的な隠れ場などの利用状況について把握したうえ で、それぞれの状況に則した保全処置をとる必要がある。
・移動能力の乏しいモグラ類などについては、他の生息場所へ逃避できるよう工区分けをお こなうことや移動経路の確保が必要である。また、工事車両の通行により、土壌が硬化し移
動の妨げになる場合もあるので注意する。
-事後調査手法
・哺乳類の移動経路確保のため人工的な回廊を設置した場合には、その利用状況について詳 細な調査をおこなうと共に、改善・修復・維持管理についても考慮する。
・繁殖期の現地調査は重要な種への影響を生じさせる事があるので極力慎重に行なう。
-事後調査期間
鳥類
-特性
・長距離の渡りをするものがいるなど、移動能力が高い。
・海域では魚介類や浅海域の底生動物を捕食する水鳥が重要な種の調査の主な対象となる。
-調査手法
・鳥類では野外での種の識別が困難な種がある。動物相の調査の際、種の識別が確実でない 場合は誤記載を避けるため、推測で種の記載をしない。特に地鳴きによる確認や遠距離から
の確認、ワシタカ類等では注意が必要である。
・重要な種の調査では繁殖、採食などの重要な場所や季節的変化、その環境などの把握を通 して生息維持のための条件を検討する。
-調査時期・頻度
・鳥類では鳥類相の安定する繁殖期、冬期および春、秋期の渡りの時期について調査を行う が、調査場所により時期がずれるため、適切な時期を選んで実施する。
・水鳥の多くは季節的な移動(渡り)をすることから、その動態が把握できるような期間を設 定し調査を行う。
-留意すべき影響要因
・鳥類では繁殖場所及び採食場所への影響予測が重要である。陸域では繁殖に適した環境や 季節的に変化する採食環境の改変や消失、海域では餌生物が生息する干潟や浅海部の消失、
営巣地となる砂浜の消失などの影響を把握することが重要である。
・工事中や供用後において鳥類の行動に影響を与える照明・騒音、人の立ち入りについても 配慮が必要である。
-予測・評価手法
・繁殖に適した環境や採食に適した環境、それらを結ぶ移動ルートなど、重要な環境がどれ だけ消失し、どのくらいの個体数に影響を及ぼすのかなど具体的な形で影響の程度を予測す
ることが重要である。影響を受ける個体数が明確でない場合も環境の消失程度など可能な限 り具体的な数値をもとに予測・評価を行う。
-保全方針検討の観点
・対象とする種の好む環境を保全することが最優先であるが、代償措置として営巣場所や生 息場所の創出を検討する場合には以下の事項等に留意する。
・生息場所を創出するため鳥の好む実の成る草本、木本を植裁することが多いが、植栽によ り呼び寄せる事のできる鳥種は限られる。よって多くの場合、その地域本来の鳥類相を保全
することにはつながらない。保全対象種の生息状況が安定的に維持されるには種特有な環境 条件を考慮し、環境保全措置を考える必要がある。
・人工巣(巣箱など)や巣を掛けやすい構造物の設置は有効な種が限定され、問題点も多い ため、その効果や管理(巣の修理や見回り、捕食者対策など)について十分検討し行う。
・営巣・生息に好適な生息場所を創出する場合、既存の資料等から対象とする種の営巣・生 息環境の条件を把握し、対象とする種が誘致可能かどうかを十分検討した上で長期的な計画
をたてる必要がある。
-事後調査手法
・特に繁殖期の現地調査は、重要な種への影響を生じさせることがあるので、極力慎重に行 う。
-事後調査期間
・中・大型の種や猛禽類では、影響が現れるのに時間がかかることが多い。このため事後調 査はこれを考慮して十分な期間の調査を実施する。
爬虫類
-特性
・哺乳類や鳥類に比べると活動時間がずっと短く、活動せずに物陰に潜んでいることが多 い。
・水田や水路、ため池など、水環境に依存した種を含む(カメ類および一部のヘビ類)
・海域に生息する爬虫類のうち希少種として文献等で取り上げられている種群はウミガメ類 であるが、地域によってはウミヘビ類も取り上げられている。ウミガメ類は主に外洋域を生活の場としており、環境影響評価の対象となる沿岸域では、親ガメの産卵と子ガメの孵化に
関する調査が主になる。
-調査手法
・時期や時刻、天候などの条件によって発見率が大きく異なる。
・種群によって、活発に活動する時期や時刻、天候が異なる。対象種の活動特性をよく把握 した上で調査を行うことが必要である。夜行性の種と昼行性の種を含み、一般に両生類より
も高温条件下でよく活動する。
・定量的な生息状況の把握は困難であることに留意すべきである。特に夜行性のヘビ類にはなかなか目撃できない種が含まれる。
・種数が少ないため、同定は比較的容易である。ただし、採集しないと種が判らないものもある。ヘビ類は、全身の脱皮殻があれば種を特定できる。
・ウミガメ類等では既往の調査が行われている場合が多いことから、事前にそれらの知見を十分に収集する。知見がある場合には現地調査は極力控え、調査による影響を避けるべきである。
-調査時期・頻度
・多くのトカゲ類、ヘビ類、カメ類は、日光浴によって体温を外気よりずっと高く保っている。梅雨頃の晴れた午前中には、昼行性の種を多く見ることができる。南西諸
島では夜行 性の種が多いが、湿った暖かい夜に効率よく調査できる。
]-留意すべき影響要因
・ヘビ類は比較的上位の捕食者であり、種によって食物の範囲が限定されているため、食物となる小動物の減少がヘビの個体数減少に結び付く。
・カメ類の場合、水環境の悪化が幼体の生息状況を悪化させることが多い。
・ウミガメ類では上陸地点の地形、砂質、水分、地温など、好適な環境要素の変化が重要である。また、周辺での照明、人の立ち入りについても配慮が必要である。
-予測・評価手法
・密度や個体数の定量的な把握が比較的困難であること、各種の生態に関する知見がそれほど多くないことから、定量的な予測・評価は相当に困難である。
-保全方針検討の観点
・昆虫や両生類に比べると行動圏が広く、また池と森林、水路等複数の環境タイプを生活史の中で使い分ける種を含む*。このため、さまざまな環境が含まれた広い地域を保全するこ
とが必要である。
*:シマヘビは、採食場所である水田と、脱皮や冬眠の場所である石垣等の間を移動する。 イシガメは、夏期の生息場所である水田と、冬期の生息場所であるため池の間を移動する。
・ウミガメ類では親ガメの上陸及び産卵場までの移動ルート及び子ガメの海までの移動ルー トを遮断しないよう配慮することが必要である。
-事後調査手法
-事後調査期間
・カメ類や大型のヘビ類は寿命が長く、繁殖率が低下しても見かけの個体数が変わらず、影響が現れるのに時間がかかることが多い。このため、事後調査は調査対象種の特性を考慮し
て十分な年数行なう必要がある。
両生類
-特性
・水田や水路、ため池、渓流など、水環境に依存した種が多い。
・繁殖期の前後、及び変態上陸後にやや長距離の移動をする。繁殖池と非繁殖期の生息場 所、そして移動経路の全てが満たされていないと生息できない。
-調査手法
・調査対象地域に存在する水環境(特に小さく浅い水場)に重点を置いた調査が望ましい。
・季節的な移動分散にも留意して調査を設計する。
・種数が少ないため、同定は比較的容易である。カエル類は鳴き声によって種を特定できる ため、さまざまなセンサスが適用できる。ただし、鳴き声から個体数を割り出すことはかな
り困難である。
・目立つ卵塊を作る両生類は、時期を選んで調査すれば、ほぼ全数を把握することが可能で ある。一方、大きな卵塊を作らない種は定量的な把握が困難である。このように、種群によ
り定量の難易度が異なることにも留意すべきである。
-調査時期
・頻度 ・基本的に夜行性で、繁殖期以外は発見しにくい種が多い。特にサンショウウオ類は、非繁 殖期に成体を見ることは稀である。繁殖期は種によって異なり、雪解け直後から夏にかけて
である。繁殖期の、雨の降る暖かい夜には効率よく調査できる。
-留意すべき影響要因
・幼生が生息する水環境の悪化(水場の縮小、乾燥化、水質悪化、土砂流入など)、および 成体が生息する陸上の乾燥化は両生類の減少を招く。
-予測・評価手法
-保全方針検討の観点
・湧水に依存するサンショウウオなどでは地下水脈を分断しないよう留意する。
・森林性の種に対しては林床の乾燥化、落葉層の消失が生じないよう留意する。
・池などの水環境に依存する種では、生息数があまり多くないものも含めた複数の池が、そ の種にとってのメタ個体群維持のために機能している可能性が高い。環境保全措置におい
て、池間の移動の実態把握及び移動経路の把握は、重要な課題である。
・サンショウウオ類などにおいて、代替地への移植がしばしば行われる。しかし、サンショ ウウオ類は一般に寿命が長く、代替池で繁殖をしていても、放逐した個体が生き残っている
に過ぎない場合もある。また、ほとんどの移植ではメタ個体群構造が無視されており、数十 年程度の時間で見れば絶滅する確率が高いと考えられる。この意味で、サンショウウオ類の
移植の明らかな成功例はほとんどない。もし移植を行うのであれば、互いに移動分散が可能 な複数の繁殖池を備えた、広い生息地を創出する必要がある。
-事後調査手法
-事後調査期間
・サンショウウオ類は寿命が長く、繁殖率が低下しても見かけの個体数が変わらず、影響が 現れるのに時間がかかることが多い。またカエル類では、環境の変化に応じて急速に増減し
た後、再び元に戻る場合も予測される。このため、事後調査は調査対象種の特性を考慮して 十分な年数行なう必要がある。
昆虫類
-特性
・昆虫類では、蝶類やトンボ類以外は分布や生態に関する情報の少ないものが多い。文献に 記載されている重要な種以外でも地域の特性に応じて幅広く検討していく必要がある。
-調査手法
・昆虫類では一般に分布や生態に関する既往の知見は少ないが、文献調査、ヒアリングを通 じて事前に十分な既往知見の収集を行い、生息が予想される重要種の生息場所、生態に応じ
て調査を行い、重要な種の見落としがないようにすることが必要である。
・希少種の調査については、その個体群の存続を考慮し、一定限度内の採集もしくは目視による確認とする。
・水生昆虫は河川の底生動物にも多く含まれているため、底生動物とのデータの統合、連携が必要となる。
-調査時期・頻度
・昆虫相の調査時期は当該地域の昆虫相を把握するため、四季を通じた適切な時期とし、特に多くの昆虫が出現する時期に重点を置くなどのメリハリをつけることが重要である。
・重要種については、種の生態を考慮し、定量・定性的な調査が容易な発育段階や時期に重点を置く必要がある。
-留意すべき影響要因
・生息地の消失などの影響はもちろん、遷移段階の草原や里山二次林に生息する種について は、工事や管理方法の変化による生息場所の変化など影響についても把握していくことが重要である。
-予測・評価手法
・昆虫類では、他の動物群と比べ、微細な環境要素の違いに依存する種も多く、また、それぞれの生息地の連結性等により個体群が存続している場合もある。そのため予測、評価にあ
たっては重要種の分布場所と非分布場所の環境要素の違い等から対象とする種が存続するた めの条件を明らかにし、可能なものについては、その当該個体群の存続可能性について検討
する必要がある。
・水生昆虫類では羽化に伴って陸域に生活場所を移すものも多い。したがって、生活史を考慮した検討が必要である。
-保全方針検討の観点
-事後調査手法
-事後調査期間
・昆虫類は年による個体数変動が大きく、環境保全措置の効果を把握するためには、調査対象種の特性を考慮して、十分な年数の調査をする必要がある。
遊泳動物(海域)
-特性
・ここでいう遊泳動物は、主に魚類であるが、遊泳生活をする軟体動物(イカ類)や節足動物 (エビ・オキアミ類)なども含む。
・遊泳動物は、それぞれの種類ごとに生息場所、生活史の異なることが多い。また、通し回遊を行うものもある。
-調査手法
・種類ごとに生息場所、生活史の異なることが多い。通し回遊を行うものもあるため、調査 に当たっては、産卵・成長・繁殖といった生活史に応じた場所と時期に配慮することが必要
である
・産卵場や仔稚・幼生の生育場が藻場や干潟のような特定の場所に限られることがあるので、重要種の生態に関する既往知見を十分に収集して調査内容を検討する必要がある。
・卵、仔稚・幼生期には、プランクトン生活を送るものが多く、場合によっては、それらの調査も必要である。
・漁業関係者の協力を得て、底曳網、定置網、まき網などの漁獲物を観察し、重要な種に関 する情報を得ることは効果的である。
・魚卵には同定の困難なものが多いため、場合によっては飼育して孵化させたりDNAによる分析により同定することなども必要となる。
-調査時期・頻度
・遊泳動物は、種類によって生活史が異なることが多いので、少なくとも季節変化が把握できる程度の遊泳動物全般の調査が必要である。また、成長に応じて短期間に生息場を
変える種に関しては、できる限り頻度の高い調査が望まれる。ただし、冬季に波浪が高くなるよ うな海域では、浅海部での調査に危険が伴うことから、そのような場合の調査は省略または
時期をずらす事もありえる。
-留意すべき影響要因
-予測・評価手法
・遊泳動物は移動能力が大きいことから、一般に環境変化による悪影響を避ける能力が大 きいとされるが、水産有用種を除けば生理生態のよくわかっていない種が多い。予測・評価
に当たっては、重要な種の生理生態はもちろん、分布場所と非分布場所の環境要素の違いなども参考として、重要種が生息できる環境をよく検討することが重要である。
・重要種の生活史を踏まえた、産卵場・生育場、あるいは卵・仔稚・幼生などの供給源(ス トックヤード)についての予測・評価が必要になることがある。
-保全方針検討の観点
・成長に伴って、または好適な環境を求めて移動することが多いため、保全対象種の好む環境を保全することを最優先とする。
・遊泳動物は、ある一定のルートを使って移動(回遊)することがあるので、そのルートを遮断しないよう配慮することが必要である。
-事後調査手法
・過度の採集は重要種への影響を生じさせるので、採集による調査は最小限とし、漁業関係者の協力を得て、底曳網、定置網、まき網などの漁獲物を観察する、あるいは潜水して観察
または写真撮影をするなどの調査を主とする。
・一般に移動性が大きいこと、個体数密度が低いことから、事後調査で重要種の動向を詳細に把握するのは困難なことが多い。産卵期、仔稚魚期など、個体の分布が集中する特定の場
所と時期に絞った調査も有効である。
-事後調査期間
魚類(陸水域)
-特性
・通し回遊をするものについては海域との関連に留意する必要がある。
-調査手法
・魚類は、種類ごと、発育段階ごとに様々な環境を選択して生息しており、調査地点の選定 にあたっては、バランスのとれた配置を考える。また、各地点の中でも様々な環境(瀬、
淵、水草帯、流入水、湧水など)の場で調査を行う。
・採捕調査が基本であるが、それぞれの漁具には魚種やサイズに対する選択性があるので、 これを充分に考慮しなければならない。また、透明度の良好な水域では、潜水目視観察も有
効である。
・調査結果については、本来の生息場か、事故的に運ばれてきて、一時的に生息していたも のかを判断することが必要な場合がある。
-調査時期・頻度
・調査頻度は原則として四季調査を行うのが望ましいが、魚類相を把握するには春から秋に かけて2回程度でも充分であることも多い。ただし、短期的に生息場を変える重要種につい
ては、毎月あるいはそれ以上の頻度が必要になることもある。
-留意すべき影響要因
・水路の連続性や湧水等の変化、瀬淵構造の変化等に留意する。
-予測・評価手法
・生理生態や生息場所の環境条件を十分に検討した上で、成魚の生息場だけでなく産卵場、 仔稚魚の生育場というように、生活史を通して影響の予測評価をすることが必要である。
・特に供給源としての産卵場について、予測評価が必要になることがある。
・タナゴ類は繁殖に二枚貝類を必要とするなど、他種との関係についても考慮が必要な場合 がある。
-保全方針検討の観点
・上下流方向、本川支川間、堤外地と堤内地の移動阻害を起こさないよう配慮する。
・充分な流量と適度な流量変動を確保する。
・濁りの負荷や水温の変化を最小限にする。
・特に水際部の物理的な条件を単調にしないよう配慮する。
-事後調査手法
-事後調査期間
底生動物(海域)
-特性
・ここでいう底生動物は、海域(汽水域を含む)潮上帯(飛沫帯)から潮下帯までの基盤(海底) 上に生息する固着動物(一次付着動物)と匍匐動物(二次付着動物)及び埋在(内在)動物とす
る。一般にはマクロベントス、メガロベントスに分け、さらに場所(類型)に分けて調査やデ ータ整理を行う。
・底生動物でレッドリストなどに希少種として取り上げられているものには、造礁サンゴ、 ウミウシ類、貝類、甲殻類などの種類が比較的多い。
-調査手法
・それぞれの種類ごとに生息場所、生活史の異なることが多いので、より多くの場所と潮位 帯、付着基盤の質と形状などに配慮して、調査を行う必要がある。
・潮間帯の一部や汽水域の一部など、局所的に分布するものがあるので、既往知見をよく収 集した上で、底生動物の分類に精通した技術者による全体的な踏査(潜水観察・採集を含む)
を行い、重要な種の見落としがないようにすることが重要である。
・潮間帯のような小規模な生息場所での調査では、あまり広い面積で採集すると調査による 影響が生じることがあるので注意が必要である。1ヶ所の広い面積で採集するより、潮位・
水深・基質などを考して、様々な環境から少しずつの面積で採集するか、目視観察を主とす る方が希少種の調査には適している。
・底生動物には、基質(海底)に深く穴を掘って隠れるため、一般の採集機材では採集できな い種類もあるので、場合によっては巣穴の計数、トラップなどによる調査が必要になること
もある。
・底生動物は、幼生プランクトン期をすごす種が多いので、場合によってはその調査も必要 となる。
・漁業関係者の協力を得て、底曳網、定置網、まき網などの漁獲物を観察し、重要種に関す る情報を得ることは効果的である。
-調査時期・頻度
・底生動物は、種類によって生活史が異なるので、少なくとも季節変化が把握できる程度の 調査頻度が必要である。ただし、冬季に波浪が高くなるような海域では、浅海部での調査に
危険性が伴うことから、省略、または時期をずらす事もあり得る。
-留意すべき影響要因
・生息場所である基盤環境(砂泥の性質など)の変化が重要である。
-予測・評価手法
・潮間帯のように自然環境要素の変化が大きい場所に生息するものは、一般に環境変化に強 いとされるが、潮下帯の種も含めて生理生態のよくわかっていない種が多い。予測・評価に
あたっては対象種の分布場所と非分布場所の環境要素の違いなども参考として、生息できる 環境をよく検討する必要がある。
・重要種の生活史を踏まえた、産卵場・生育場場、あるいは卵や幼生などの供給源(ストッ クヤード)についての予測・評価が必要になることがある。
-保全方針検討の観点
・底生動物は、海域の様々な環境要素のバランスの上に生息しており、特に基盤環境との関 係が重要である。保全に当たっては、生息場の環境要素の保全を最優先とする。
-事後調査手法
-事後調査期間
底生動物(陸水域)
-特性
・一般にはマクロベントス、メガロベントスに分けて調査を行なう。
・底生動物の中には軟体動物、節足動物、環形動物など様々な生物群が含まれる。
・水質等の生物指標として用いられる事がある。
-調査手法
・汽水域の一部など局所的に分布する種があるので、既往知見をよく収集した上で見落とし がないようにすることが重要である。このため定量採集以上に定性採集調査をしっかりと行
った方がよい。
・河川の底生生物は水生昆虫類が多く含まれるが、水生昆虫類については陸上昆虫類とデー タを総合することも必要となる。
-調査時期・頻度
・基本的には四季調査が必要であるが、中上流域の水生昆虫は、春季よりも早春季の方が調 査に適しているなど、調査地域の特徴に応じた時期・頻度を検討する。
-留意すべき影響要因
-予測・評価手法
・底生動物は、発育に伴い大きな移動をするものは少ないが、エビ・カニの仲間では流程方 向にかなり大きな移動をしたり、水生昆虫類では羽化に伴い陸域に生活場所を移すものも多
い。したがって生活史を考慮した検討が必要である。
-保全方針検討の観点
・底生動物は特に基盤環境との関係が重要であり、保全にあたっては、生息場の環境要素 (瀬淵構造、底質粒度など)の保全を最優先とする。
・水温、流速、濁りの条件なども大きな影響を与えるので、これらの変化を最小化させるこ とも重要である。
・水際付近は多くの種が生息するとともに、陸上部の接点として重要であり、水際付近の環 境の多様性を保全することに努める。
-事後調査手法
} ・底生動物は環境指標としてもすぐれているので、事前からのデータの比較により水質汚濁 の状況も推定することができる。
-事後調査期間
動物プランクトン
-特性
・富栄養化などの生物指標としても用いられる事がある。
・動物相の把握以上に、基礎生産物質を上位の栄養段階へ伝達する機能、幼生プランクトン による生物生産機能等の機能への影響が重要であり、重要な種としてより生態系調査項目と
しての重要性が高い。
-調査手法
・重要な種が含まれる可能性が低い場合には水域の動物相を把握する一環として調査を行 う。重要な種である魚介類などの卵・幼生がプランクトンとなるような場合には、必要に応じてその種の生活史に着目した調査を検討する。
・調査地点は、植物プランクトンと同様に水の分布状況から検討する。つまり、水の性状が 均一と推定されるような開放域では、調査点は少なくて良い。また、調査水域が汽水域、海域あるいは開放域、閉鎖域というように水の性状に差のあると推定される場合には、それぞれの水域に調査点を配置することが望ましい。また、鉛直分布に違いがあると想定される場
合には、層別に調査することが望ましい。
・陸水域では通常、止水域で調査を行なう。
-調査時期・頻度
・動物プランクトンは、流れとともに移動するだけでなく、幼生プランクトンが多いため変化の時間スケールが短い。そのため、厳密に動物プランクトン相を把握しようとすれば、時間的に密な調査が必要となる。しかしながら、重要な種が含まれる可能性が低い場合にはそ
の概要を知る程度で良く、季節変化が把握できる程度の調査頻度で良いと考えられる。ただし、冬季に波浪が高くなるような海域では浅海部での調査に危険性が伴う事から、省略または時期をずらす事もあり得る。
-留意すべき影響要因
-予測・評価手法
・生態系の機能に関連して、動物プランクトンの密度変化や生産力変化などの予測・評価を行うことがある。また、多くの動物の幼生プランクトンとしての位置付けが重要になること
がある。
-保全方針検討の観点
・生態系の機能に関連して、停滞域の増加、物質循環への阻害等に対する環境保全措置が必要となる場合がある。
・環境変化に対して一般に脆弱な幼生プランクトンへの影響に関して、環境保全措置が必要となる場合がある。
-事後調査手法
・動物プランクトン相に著しい変化がないか否かを調査する。特に、主要種の変化などに注 意する。
・富栄養化等の生物指標としても用いられることがある。
-事後調査期間
・海域の動物プランクトンは、陸水域に比べて季節変化の周期が安定しておらず、海流等によって年毎に動物プランクトン相や出現量の異なることが多い。そのため、短期間の調査では変化の有無が判定できないことが多いので、できるだけ長期間にわたって調査を継続することが望ましい。