平成13年度第2回陸水域分科会

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資料2 第3部

(1)調査・予測・評価項目の検討

  調査、予測及び評価手法の設定にあたっては、スコーピング段階で明らかにされた環境保全の基本的な考え方や公告縦覧時の意見ならびに動物相等の調査を通じて把握された対象地域の動物の実態を踏まえ、事業の影響や地域特性等を把握し、適切な環境保全措置を検討するために有効な予測・評価項目を設定する。更に、その予測及び評価のために必要となる具体的な調査項目・手法と必要な調査量(時期、地域、地点数等)を順次検討し設定する。このとき、文献その他の既存資料によって情報を整理・解析した上で、対象地域の動物の現況を明らかにするのに適した手法を選定する必要がある。

なお調査・予測等の手法の選定に際しては、常に学術分野の新しい研究成果や調査技術に注目し、効果的で実用性の高い手法を積極的に導入すべきである。

3)調査地域、期間

  調査地域は事業特性と地域特性に基づき、事業による直接的及び間接的な影響が生ずる可能性があると推定される区域を含み、事業の影響を評価するために必要な範囲とする。事業の実施に伴い動物に影響が及ぶ範囲は、影響要因、地形、季節や、対象となる動物種などにより異なる。このため、調査地域は事業の実施区域から一定の距離で囲まれる範囲として設定するのではなく、地形単位や動物の行動圏などを考慮して設定する。調査地域は基本的には現存植生を調査する地域と同じ範囲とするが、調査対象となる動物群の行動圏がより広い場合には、既存の事例等を参考に適宜調査地域を拡大して設定する。なお、事後調査を想定して事業の実施区域内の残置森林など直接改変を受ける区域に隣接する群落内や、事業の実施区域の水系の流入・流出地点などに事後調査時にも対照区として利用できる調査定点を設ける必要がある事もある。

 調査期間は生息状況の季節変動が適切に把握できる期間とし、基本的に1年間以上とする。調査対象となる動物の生活環において下記に示すような変化が想定される場合は、生息状況が適切に把握できるように調査の時期を選定する。調査方法により生息を把握できる時期が限られている動物は特に適切な時期を逃さぬよう留意して設定する。

・渡り、漂行、遡上降河、回遊等の移動

・繁殖期における特有の形態、行動

・冬眠等による活動の休止

・変態による利用場所の変化

・特定の時期における出現

 なお、現地調査で新たに重要な動物種、注目すべき生息地を確認した場合は、その時点から適切な期間の調査を実施する。

 1)動物相、生息地に関する調査

  動物相、生息地に関する調査とは、対象地域全体における動物相、生息地に関する現況調査を行い、それらの状況等についてまとめるものである。調査は[1]動物相、生息地の地域的特性を把握した上でスコーピング段階で抽出された重要な動物種・注目すべき生息地の追加・見直しをする、[2]重要な動物種・注目すべき生息地の調査・予測・評価のための基礎的情報を収集する、[3]生態系等他の項目の調査・予測・評価のための基礎的情報を収集する事を目的に行なう。

 動物相、生息地に関する調査結果にもとづいて地域特性を把握する際には、対象地域の広域的な位置づけができるよう留意する。

 動物相における調査対象

  動物相においては全ての動物群を調査するのが理想だが、基本的に調査対象とされているのは、一般に分類や調査方法が確立されている魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類等の脊椎動物が多い。これら以外にも必要に応じて軟体類、甲殻類、昆虫類、クモ類、サンゴ類などの動物群も対象となる。また生活形態の視点から、土壌動物、底生動物などの動物群を調査対象とすることもある。

 動物相調査では当該地域の動物相の特徴を捉え、重要な動物種の項目で調査されるべき種を見落としなく拾い上げるために必要な種群を調査対象とする。重要な動物種の生息の可能性がある場合には、調査されるべき種を見落とし無く拾い上げるため、レッドリスト(環境庁自然保護局 2000 など)や日本の希少な野生水生生物に関するデータブック(水産庁 1998)、各地域で編纂されているレッドデータブック等で取り上げられる分類群など、該当する種が含まれる動物群全般について調査の必要性を検討する。検討にあたっては地域特性の考慮も重要である。ただし各地域で編纂されたレッドデータブック等は、地域ごとに選定条件などに差異があるため注意が必要である。

 なお、養殖、飼育されている動物は通常調査対象としない。それらが逸散して野外で繁殖している場合や、漁業対象として放流されている種がいる場合には、それらも動物相の調査対象とする。ただし、養殖や放流の実態は別途把握する必要がある。

●調査項目と調査内容の例

動物相

動物相の概況

各種の生息地の概況:確認地点、生息地の状況など
各種の特性:逸出種・外来種等の区別、環境指標性など

生息地

環境条件:地形、地質、土壌、水象、気象、植生など
汚染の状況:大気汚染、水質汚濁など

●動物相、生息地調査の主な留意点

(種の同定)

・動物相に関する基礎的な調査では、種の同定を確実にするため記録時に個体や生活痕跡に関する標本の採取または写真撮影を行うとともに、確認年月日、地名、確認者名、同定者名を記録する。同定が困難な種類は専門家に同定を依頼する。なお、法律、条例等により採集の規制がある場合や、生息する個体数が少なく標本の採集が生息に影響を及ぼすおそれがある場合は、当該個体(群)の写真撮影と確認位置の記録に留める。

(踏査ルート)

・動物相の踏査ルートは、調査が容易で地形図上で位置が明確な歩道等を主体に設定することが多いが、森林内の林床のほか、河床、池沼、湿原、塩湿地、露岩地、岩 礁、洞穴等、生息範囲が局限される動物種の存在が想定される特殊な環境を網羅するよう設定する。

(生態系項目との連携)

・動物の生息状況や種間関係は生態系の構成要素の一つとして「生態系」項目でも調査対象となる。このため「生態系」項目との連携を想定し、生息地と生態系の類型区分の関連がわかるよう生息確認地点を記録する。

・「生態系」項目との連携を想定し、動物相の調査結果が生態系の類型区分ごとにまとめられるように、地形分類図、現存植生図や水系図などを用いて、生息環境として重要な基盤環境要素を網羅するよう踏査ルートを設定するのも有効な方法である。

(調査時期)

・動物相や生息状況が適切に把握できるよう、調査対象となる動物群の生活環を考慮したうえで調査時期を選定する。生息を把握できる時期が限られている動物は特に適切な時期を逃さぬよう留意して設定する。

・種によって夜行性・昼行性といった違いもあるため、一日のうちの活動時間についても留意して調査を行う。

(その他)

・動物種の生息数及び生息密度は、トラップ類やルートセンサス、コドラート調査などの調査によってある程度まで推定することが出来るが、動物相の調査においても生息種の確認頻度の相互比較により、多い・少ないといった簡単な整理をしておくことが望ましい。

・動物の捕獲を行うにあたっては関連の法律、条例、規則などを守り、必要のある場合には捕獲許可等を事前に得ておくことが必要である。

・動物種の生息確認地点等の位置は、生息環境との関連がわかるように現存植生図や水系図などに示すとよい。

2)重要な動物種、注目すべき生息地に関する調査

  重要な動物種及び注目すべき生息地を対象として調査を行なう。スコーピング段階において抽出された重要な動物種及び注目すべき生息地は、環境影響評価段階の「動物相、生息地」に関する調査結果をうけて追加・見直しする。追加にあたっては現地調査により明かにされた地域特性を踏まえ、法令・条例等において保護等の規制がある種、個体、個体群及び生息地、文献資料等で貴重とされるなど、学術上または希少性の観点から重要である動物種、個体、個体群及び生息地を抽出する。学術上、希少性の考え方については生物の多様性分野の環境影響評価技術(Ⅱ)(生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会, 2000)に詳述されているので参照されたい。特に、現地調査により未記載の種や当該地域で分布の記録されていない種が発見された場合には慎重な検討が必要である。

 調査項目、方法は予測や評価に必要な資料が得られるよう適切なものを選定する。また現地調査は文献その他の既存資料による情報の整理解析を踏まえて、対象地域の動物の現況を明らかにするのに適した手法を選定して行う。調査結果にもとづき調査対象の調査地域における学術上または希少性の観点からみた重要性の程度を確認する。調査項目の例を以下の表に示す。

 ●調査項目と調査内容の例

重要な動物種 分布、生活史、生息数に関する調査:生息地点、行動様式(採食、繁殖、休息、移動など)、生息個体数など生息環境に関する調査:微気象、水質、植生など
注目すべき 生息地 生息状況に関する調査:分布、生息個体数、近傍の生息地など生息環境に関する調査:基盤環境(地形、地質、水質、気候、気温など)、周辺の植生、土地利用の履歴、管理の状況など

●重要な動物種、注目すべき生息地調査の主な留意点

(生息環境の把握)

・生息環境の状況は、地域概況調査や環境影響評価段階の調査により把握する「気象」「大気質」「水質」「地形・地質」等から基盤環境要素の状況を整理するとともに、現地における調査段階では、気温等微気象の状況や水温、水深、流量・流速等のほか、騒音などの人為影響の程度を同時に調査する。

・重要な動物種・生息地の存続という観点からは、他種との相互関係や、重要な種・生息地等と基盤環境要素との関連、特に植生の階層構造、大径木、朽木・倒木、地表や底質など生息の場となる要素についても詳細な調査を実施し、特にどの基盤環境要素が生息の制限要因となっているかできるだけ把握する。

・生息確認地点等の位置は、生息環境との関連がわかるように現存植生図や水系図などに示すとよい。

(調査による影響の低減)

・繁殖に関する調査は対象とする種の行動特性を考慮した方法で行い、対象種の繁殖への影響を極力避けることが重要である。

(調査地域)

・重要な動物種、注目すべき生息地に関して、近傍の生息地で予測に必要な情報が得られる区域については事業による影響が想定されない区域であっても調査を行う。

(調査期間)

・猛禽類などの調査を行なう際には1年半以上の調査期間が必要となる場合がある。詳細については「猛禽類保護の進め方」(環境庁,1996)を参照されたい。

3)調査地域、期間

  調査地域は事業特性と地域特性に基づき、事業による直接的及び間接的な影響が生ずる可能性があると推定される区域を含み、事業の影響を評価するために必要な範囲とする。事業の実施に伴い動物に影響が及ぶ範囲は、影響要因、地形、季節や、対象となる動物種などにより異なる。このため、調査地域は事業の実施区域から一定の距離で囲まれる範囲として設定するのではなく、地形単位や動物の行動圏などを考慮して設定する。調査地域は基本的には現存植生を調査する地域と同じ範囲とするが、調査対象となる動物群の行動圏がより広い場合には、既存の事例等を参考に適宜調査地域を拡大して設定する。なお、事後調査を想定して事業の実施区域内の残置森林など直接改変を受ける区域に隣接する群落内や、事業の実施区域の水系の流入・流出地点などに事後調査時にも対照区として利用できる調査定点を設ける必要がある事もある。

 調査期間は生息状況の季節変動が適切に把握できる期間とし、基本的に1年間以上とする。調査対象となる動物の生活環において下記に示すような変化が想定される場合は、生息状況が適切に把握できるように調査の時期を選定する。調査方法により生息を把握できる時期が限られている動物は特に適切な時期を逃さぬよう留意して設定する。

・渡り、漂行、遡上降河、回遊等の移動

・繁殖期における特有の形態、行動

・冬眠等による活動の休止

・変態による利用場所の変化

・特定の時期における出現

 なお、現地調査で新たに重要な動物種、注目すべき生息地を確認した場合は、その時点から適切な期間の調査を実施する。

(3)予測

1)予測項目と方法

  予測は、事業の実施に伴って受ける主要な影響の種類を特定し、その影響による予測対象の変化の程度を推定する事によって行なう。事業が複数の計画案を持つ場合は各案についての予測を行なって比較する。また、想定される環境保全措置について、行わない場合と行った場合の影響予測を対比して示す。

 予測を行なうにあたっては、まず特定された主要な影響の種類を踏まえて具体的な予測方法を検討し、予測計画を立案する。予測計画にしたがって現地調査、資料調査、ヒアリング調査、類似事例調査、実験、シミュレーションなどの各種調査を行なうことにより影響の程度を推定する。

 予測は可能な限り客観的、定量的に行なう必要がある。動物種、個体群の変化に関する定量的な予測は難しい場合も多いが、生理、生態的な特性を十分に検討して調査で得られたデータに基づいた客観的な予測を行なう。採用した予測方法については、その選定理由、適用条件と範囲を明記しておく。

 予測結果に不確実性が伴う場合はその内容と程度を明らかにし、事後調査により予測結果の確認を行う。なお、予測された以上に影響が生じた場合には追加的な環境保全措置を検討する必要もある。

 ●予測項目の例 

・事業地における生息動物種及び生息環境全般の改変・消失の程度

・重要な動物種、注目すべき生息地の改変・消失の程度

・直接改変地域周辺の生息環境の変化、及びその変化が動物種に与える影響

・改変区域の植栽地など、新たな生息環境の出現による動物への影響

・対象事業の供用に伴う動物への影響  など

●予測の対象と予測する影響の内容

予測の対象 予測する影響の内容
種、個体または個体群  
生息環境  

 

●予測における主な留意事項

(環境の変動)

・気象条件により繁殖率が低下する年があるなどの環境の確率的な変動性が個体群に及ぼす影響は時として非常に大きい。したがって、個体数の変化を予測するにあたっては事業や環境保全措置による影響だけでなく、環境の確率的な変動性を考慮する必要がある。

(個体数変動)

・昆虫類などの動物群は、環境変動に関わらず、そもそも生態的な性質として個体数の年変動が大きいことに留意する。

(新たに創出された環境による影響)

・事業による環境の消失・縮小に伴う影響だけでなく、新たに創出された環境により生じる移入種の侵入・都市型生物の増加などによる影響も考慮する。

(影響の時間的変化)

・工事中は影響が大きくても工事後には植生の回復などにより影響が緩和される場合もあり、逆に時間と共に大きい影響が現われる場合もある。このように影響が時間と共に変化する場合があることを考慮する必要がある。

(類似事例や科学的知見の引用)

・類似事例や科学的な知見の引用は重要であるが、対象事業の影響に当てはめる場合は種や環境条件によって地域的な差がある可能性があるため引用したデータについてはその背景を十分考慮する。

(事後調査における対照区)

・環境保全措置の効果を事後調査により明らかにするため、事後調査における対照区を設けた場合には、対照区として適切であるかどうか検討するためにその調査定点に対する影響の予測も行う。

 予測手法

 影響の予測にあたっては、個体または個体群が消滅あるいは損傷を受けたり、地形改変により生息環境そのものが消滅するといった直接的な影響だけでなく、直接に生息場所は改変されないが水質、水温、潮流の変化、騒音・振動の発生、人為影響の拡大などが生息環境に影響を及ぼし、動物個体の生理面、行動面などを徐々に変化させるといった影響も予測する必要がある。これらの影響の予測には、現在下記に示したオーバーレイが多く用いられている。他にも、事業により影響を受ける個体群が地域の個体群を存続させる上で重要な場合には、個体群存続可能性分析(PVA)等を用いた個体群の存続可能性についての予測も必要である。また、個体群が孤立することによって他の個体群との間の遺伝子流動が無くなり、当該地の個体群の適応度が下がるといった影響が想定される場合には、遺伝解析の手法なども取り入れていく必要がある。以下に示した以外にも、生物の多様性分野の環境影響評価技術(Ⅱ)(生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会, 2000)に調査・予測・評価手法のレビューが記述されており、動物項目において参考としうる手法も紹介されているので参照されたい。既存の手法だけでなく新たな学術知見や手法も取り入れて、考え得る様々な影響に対して予測を行わなければならない。さらに個々の影響に対する予測結果を示すだけでなく、予測対象ごとに個々の予測結果を取りまとめ、予測対象が受ける影響を総合的に評価する必要がある。

 ●予測手法の例

オーバーレイ

現在多用されている手法である。様々な主題図(生息地や行動圏、餌生物などの資源量推定図、生息密度図など)を作成し、事業計画図と重ね合わせることで、直接改変によって消失する個体数や生息地の減少などを定量的に推定する。複数の事業計画がある場合は、それぞれについてこの方法を行うことで事業案を比較検討(シナリオ分析)する。この手法は、動物種の生息地への直接改変の影響を予測する場合に有効な方法である。しかし事業による日照、湿度、風衝等の基盤環境が事業後に徐々に変化し残存した生息地に影響する場合や、生息地への他種の侵入による競争の発生、回遊や移動などの行動に与える影響等については、定性的な予測にとどまる。

遺伝解析

アロザイム分析やPCR法などの遺伝解析手法を用いて、対象地域の個体群の遺伝的特異性や遺伝的多様度、遺伝的関係性の変化を予測する。例えば、個体間での遺伝的距離や、親子関係の推定を行うことで個体群間の遺伝子交流の状態を推定し、事業による生息地の分断化・縮小が引き起こす遺伝的多様度の変化等の予測を行う等が考えられる。ただし、まだ遺伝的多様度についての知見が少ないことから、使用する遺伝子座、遺伝的多様度の解釈などには注意が必要である。また個体数の少ない種では充分なサンプル数が確保できないなどの問題がある。

個体群存続可能性分析

事業地の個体群がどれだけ残存したかというだけでなく、残存した個体群が今後存続可能かどうかを予測する。個体群統計データの取得が可能な種では、個体群存続可能性分析(PVA)のような手法を用いることで個体群の絶滅の危険性を定量的に予測することができる。しかしPVAは確率変動性だけを考慮した場合は得られる最小存続可能個体数(MVP)が過小になるとともに、生存率・繁殖率の低下をもたらす要因が存在する場合、絶滅時期は予測より早くなるなどの点に注意が必要である。また個体群統計データの取得が難しい種についても、生息場所の分断とその種の分散能力の関係や、個体群の生息に必要な面積といった視点から、存続の可能性を定性的に予測することは可能である。

2)予測地域、時期の設定

 予測地域

 予測地域は、基本的に調査地域及び調査地点と同じとする。予測項目のうち、直接的影響については直接的改変を伴う区域を含む事業対象区域について重点的に予測するものとする。なお、一般に動物は移動をするので直接的影響が直接改変を受ける区域にとどまらない可能性があることに留意する。予測の対象となる動物群の行動圏が当初の設定より広い場合には、既存の事例等を参考に適宜調査地域を拡大して設定する。生息範囲、生息環境等が局限される種及び個体、個体群の生息が想定される場合は、それらの現況を把握する地域を設定する。

 予測対象時期等

 予測対象時期は、対象事業に係る施工中の代表的時期及び施工完了後一定の期間をおいた時期のうちで、動物種、生息地の特性及び事業の特性をふまえ、影響を的確に把握するために必要と考えられる時期とする。可能な限り影響の時間的な変化が捉えられるように時期を設定する事が望ましい。また事後調査、環境保全措置も視野に入れ、不測の事態が起きた場合に対処が可能な時期を設定する。

 例えば、施工中の直接改変に関わる影響については、関係する工種の終了時や施工完了時等が必要である。生息環境の変化により次第に現われる影響については、環境を大きく変化させる工種の施工時から、供用後一定の期間をおいて事業活動が安定し生息環境及び動物種の生息状況についても安定した時期までが必要となる。環境保全措置を講じた場合には、当該措置が効果を発揮し生息環境が安定した時期までの予測が必要となる。

 予測対象とする季節は予測対象となる動物の繁殖期、渡り、回遊時期など季節変動特性を考慮し、動物への影響が最大に見積もられるように設定する。

(4)環境保全措置

1)保全方針設定の考え方

  環境保全措置の検討に当たっては、保全方針を設定する。保全方針では、影響の予測される重要な動物種・生息地に関して環境保全措置の対象を選定し、それぞれの重要度や特性に応じた環境保全措置の目標を検討して、回避または低減あるいは代償措置を行う際の観点、環境保全の考え方等を整理する。ここでは、スコーピング及び調査の各段階で把握される事業特性、地域特性や方法書手続きで寄せられた意見等を十分踏まえ、環境保全措置をどのような観点から検討するかについて整理して示す必要がある。

 [1]環境保全措置検討の観点

 環境保全措置は、スコーピング及び調査・予測のそれぞれの段階で把握される以下の観点を踏まえて検討する。

・環境保全の基本的考え方(スコーピング段階における検討の経緯を含む)

・事業特性(立地・配置、規模・構造、影響要因など)

・地域特性(地域の動物相の特性、環境保全措置を必要とする重要な種の分布状況など)

・方法書手続きで寄せられた意見

・影響予測結果 など

 また、スコーピングの初期段階など環境影響評価の早い段階から、あらかじめ事業者の環境保全に関する姿勢や基本的考えかたを示しておいた上で、調査・予測結果を踏まえて段階に応じてより具体的な保全方針を示してゆくことが重要である。

 [2]環境保全措置の対象

 環境保全措置の対象は上記[1]に示した観点を踏まえ、予測対象とした重要な動物種、生息地の中から選定する。環境保全措置の対象の選定にあたっては、環境保全措置を実施する空間的・時間的範囲についても十分に検討しなければならない。また環境保全措置が必要でないと判断された場合には、その理由を予測結果に基づきできるだけ客観的に示す必要がある。

 これらを踏まえた上で環境保全措置の対象とする重要な動物種、注目すべき生息地を選定するが、その際、次のような事項に留意する。

・地方公共団体の地域環境管理計画等において主だった保全対象がリストアップされている場合には参考にすることができる。ただし、環境保全措置の対象や目標は地域性が極めて高いものであるため、リストアップされているものが全てではない事に十分留意して用いる必要がある。

・重要な動物種や注目すべき生息地のうち、現況調査において死滅や消失、またはその価値が喪失しているため環境保全措置の対象として適切でないと判断されたものについてはその旨を明記する。

・各種の渡り鳥が集まる干潟等のように特定の種よりもその複合体そのものが保全すべき対象であると考えられる場合には、環境保全措置の対象は生息地や生物群集となる。

 [3]環境保全措置の目標

 重要な動物種・注目すべき生息地に対して、影響の回避または低減、もしくは代償のための環境保全措置を検討する際には、以下のような事項に留意して、それぞれの対象における具体的な目標の設定を行う。

・目標の設定にあたっては、事後調査によって環境保全措置の効果が確認ができるように、できるだけ数値などによる定量的な目標を設定する。動物項目における定量的な目標の例としては、個体数、分布範囲、現存量、密度、齢構成、繁殖率、餌量などが挙げられる。

・環境保全措置の目標設定にあたっては、現況調査結果を踏まえそれぞれの動物種・注目すべき生息地の重要さの程度等各種の環境保全関連の価値軸に照らして対象ごとに保全水準を設定する。保全水準の設定に関しては自然環境の有する多様な価値に着目することが必要であり、典型性、生態系の基盤としての重要性、希少性、教育的重要性等の自然的価値軸と、歴史性、郷土性、親近性、国土保全等の社会的価値軸に照らして検討する。

・これらの価値軸の軽重は、地域の自然的・社会的条件の違いによって異なる。したがって、どのような種類の価値軸を使用し、どのような種類の価値軸をより重視すべきかについては、調査対象地域の自然的・社会的特性を踏まえて、ケースバイケースで検討することが必要である。

・持続的な人為的管理を前提とするのではなく、個体群が自立的に維持されるような目標とすべきである。

・動物は繁殖場、餌場、ねぐら等、複数の場を利用することが多い。そのため、場合によっては事業地内だけでなく事業地外の生息環境との関連についても考慮する必要がある。

・既存知見や研究例、環境保全措置の検討過程で得られたデータなどを用いて、これらの目標の妥当性をできるだけ客観的に示すことが望ましい。

2)環境保全措置の検討内容

  環境保全措置の具体的な検討にあたっては、対象に及ぼす影響を回避または低減するための措置を優先する。その上で、回避または低減により十分な保全が図られない場合には代償措置を検討する。事業計画の段階に対応して、それぞれいくつかの案を提示し、それぞれの環境保全措置の効果と環境への影響をくり返し検討・評価して影響の回避または低減がもっとも適切に行なえるものを選択する。またそのような環境保全措置の検討過程を明らかにすることも重要である。

 ●環境保全措置の例 

  環境保全措置
工事中

・重要な動物種、注目すべき生息地・繁殖地等を直接改変地域、工事作業用地等から除外する。またはそこでの改変面積を減らす。

・重要な動物種等の繁殖期・繁殖場所を考慮した工期・工法の採用

・工事による改変地周辺の改変量を抑制した工法・工種の採用

・改変地域と非改変地域の境界域の植生への影響の軽減、植生の回復、緑化の実施などによる生息環境の修復

・工事に伴う水質汚濁による水生生物への影響の軽減(排水の高次処理、農薬・肥料等の使用の低減等)

・ゴミの放置、不必要な照明等、工事用地の不適切な管理による動物への影響の除外

・重要な動物種、注目すべき生息地・繁殖地等の代替地の確保

・工事関係者に当該地域の自然環境や配慮事項について施工開始前に教育を行う。

施設などの存在及び共用

・重要な動物種、注目すべき生息地・繁殖地等を直接改変地域、工事作業用地等から除外する。またはそこでの改変面積を減らす。

・重要な動物種、注目すべき対象の生息場所の減少の抑制

・残存する森林面積の確保、周辺の森林との連続性の確保による、動物の移動経路の確保

・分断された生息地を結ぶ移動経路の確保

・代替生息地・繁殖地となる環境の創出・管理や重要な動物種の移殖など

・当該地域の自然環境や配慮事項について施設利用者への教育を行なう。

 

●環境保全措置検討における主な留意点

(周辺への影響の低減)

・残存する生息場所についても周辺部からの影響を抑制する必要がある。例えば森林伐採により生じる林縁部についてはマント・ソデ群落を工事に先だって育成して林内の陽地化や乾燥化を防止する、生息場所への土砂、濁水の流出を防ぐなどの措置が考えられる。

(生息場所の維持)

・動物類の移動経路や生息場所として植栽を計画する場合には、その機能を果たすように植栽密度や階層構造にも留意して計画を策定する必要がある。

(円滑な逃避の促進)

・動物種のうち、特に移動能力に乏しい種の造成区域からの円滑な逃避を促し、残存する生息場所に逃避できるように工区分けを行なうなどして施工計画を立てる必要がある。また、ニホンリス等の樹上営巣性の哺乳類の繁殖期、鳥類の繁殖期における樹林の伐採や両生類の繁殖期における水域の埋め立て等を行なわないよう工期を調整するなど、施工時期への配慮も必要である。

(メタ個体群の考慮)

・個体群の保全には、改変により個体群が完全に孤立することを防ぎ、個々の生息地間の相互関係を維持することが重要である。移動分散可能な範囲に個体群があるか等、周辺個体群の空間的な構造を考慮にいれた検討が必要である。

(移殖)

・両生類や昆虫類などの移殖を検討する場合には、移殖先の水環境だけでなく周辺の森林や林床の状態、移動経路などにも十分留意するとともに、移殖後の管理体制と事後調査についても検討しなければならない。これらの動物は哺乳類や鳥類と比較して移動性が低く、微細な環境条件に強く依存するものが多いため、きめ細かい環境保全措置が必要である。また移殖先で遺伝的攪乱を引き起こす可能性も考えられるため、それぞれの個体群の遺伝的関係性についても注意する。これらの問題が解決できるのか、技術的に移殖が可能か、移殖後に必要な管理体制を確保できるのか等について十分確認する。さらに事後調査を行ない、不測の事態が生じた場合には適切な措置を施す必要がある。

(巣箱の設置などに関する注意事項)

・鳥類の環境保全措置として巣箱や巣をかけやすい構造物などを設置する事が多いが、設置後の管理が十分行なわれない場合は環境保全措置の効果は得られない。営巣場所の創出が有効な種は限定され、問題点も多いが、例外的に営巣場所の創出を行なう場合には捕食者対策、構造物の設置後の管理などが不可欠である。また営巣木が回復するなどして巣箱の必要性が無くなった後には、そのまま放置せず管理者が責任を持って撤去するようにする。

3)環境保全措置の妥当性の検証

 環境保全措置の妥当性の検証は、当該環境要素に関する効果とその他の環境要素に対する影響とを検討することによって行う。複数の環境保全措置についてそれぞれ効果の予測を行い、その結果を比較検討することにより、効果が適切かつ十分得られると判断された環境保全措置を採用する。

 その際、最新の研究成果や類似事例を参照すること、専門家の指導を得ること、必要に応じて予備的な試験を行うことなどにより、環境保全措置の効果や影響をできる限り客観的に考察する必要がある。また環境保全措置が他の環境保全措置の対象へ影響を及ぼすこともあるので、注意しなければならない。特に、ある生物には良い効果をもたらすが他の生物には悪影響を与える場合があるので、生物や環境要素の関連性についても十分な検討を行うことが重要である。

 なお、技術的に確立されておらず効果や影響にかかる知見が十分に得られていない環境保全措置を採用する場合には、特に慎重な検討が必要である。そのような場合には、環境保全措置の効果や影響を事後調査により確認しながら進めることも必要である。

 

4)環境保全措置の実施案

  準備書・評価書には「動物」についての保全方針、環境保全措置の検討過程、選定理由について記載する。その際、環境保全措置の効果として措置を講じた場合と講じない場合の影響の程度に関する対比を明確にする。環境保全措置の効果や不確実性については、環境保全措置の対象となる動物種、生息地と、それらに影響を与える影響要因や環境要素の関連の整理を通じて明らかにする。

 採用した環境保全措置に関しては、それぞれ以下の点を一覧表などに整理し、環境保全措置の実施案として準備書、評価書においてできる限り具体的に記載する。

・採用した環境保全措置の内容、実施期間、実施方法、実施主体等

・採用した環境保全措置の効果に関する不確実性の程度

・採用した環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれのある他の環境要素への影響

・採用した環境保全措置を講ずるにもかかわらず存在する環境影響

・環境保全措置の効果を追跡し、管理する方法と責任体制

(5)評価

 

1)評価の考え方

  環境保全措置の対象と目標に対して、採用した環境保全措置を実施することにより予測された影響を十分に回避または低減し得るか否かについて、事業者の見解を明らかにすることにより評価を行う。事業者はその見解の根拠をできるだけ客観的に説明する。その際には、環境保全措置の妥当性の検証結果を引用しつつ、できる限り客観性の高い定量的な方法で複数の案を比較した結果を提示することが望ましい。更に、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについてもわかりやすく述べるようにする。また環境保全の効果が得られる技術のうち、科学的側面において実用段階にある、近い将来に実用化されるもので、技術的側面においても当該事業に適用可能なものの中から、最も大きな効果を持つものが選択されていることを示す。

 なお、事業地の所在地である地方自治体などが定めた環境基本計画や環境保全条例、各種指針などにおいて、動物の保全に関わる目標や方針が定められている場合には、それらとの整合性についても言及しておく必要がある。

 

2)総合的な評価との関係

  準備書や評価書においては、各環境要素ごとの評価結果は、大気・水環境分野、自然との触れ合い分野、環境負荷分野など、他の環境要素ごとの評価結果とあわせて、「対象事業に係る環境影響の総合的な評価」として取りまとめて示す必要がある。

 それぞれの環境要素間には、トレード・オフの関係が成立するものがあることから、これら環境要素間の関係や優先順位について事業者はどう捉えて対応したのかについて明確にした上で評価する必要がある。

 総合評価の手法及び表現方法には、一覧表として整理する方法のほか、得点化する方法や一対比較による方法などが知られている。合意形成の手段として環境影響評価の目的達成に向け、住民等に、対象事業が及ぼす環境影響に対する環境配慮のあり方を事業者の総合的な見解として、その根拠とともに分かりやすく簡潔に伝えられるよう、個別案件ごとに創意工夫を重ねていく必要がある。

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