環境影響評価制度総合研究会技術専門部会報告書(平成8年6月)
環境影響評価の技術手法の現状及び課題について

目次へ戻る

資料-7 調査対象国における「影響の重大性」の意味

                                   (1/3)

○米国NEPA

 米国NEPAでは、「重大性(Significantly)」の判断としては、1)影響を受ける状況(社会(人間、国家)、地域などの状況)、2)影響の強さの両方を意味するとし、判断において考慮される事項(表-1 NEPA規則1508.27)を幅広く提示している。連邦、州、自治体の法または要求に違反するおそれがないかどうかは、その一つとして挙げられている。


表-1 米国NEPAにおける環境影響の重大性の意味

 {米国NEPA規則第1508、27項(用語の定義:重大性(Significant)}

NEPAで用いられている「重大性」とは、状況及び強さの両方を意味する:

a)状況。
これは行為の重要性が、社会全体(人間、国家)、影響を受ける地域、影響を受ける利益、及び地域性といった状況において、分析されなければならないことを意味している。「重要性」は、提案された行為の背景によって変化する。たとえば、ある場所固有の行為の場合には、「重要性」は、世界全体においてよりもむしろ地域におけるその行為の効果にかかっている。短期的及び長期的影響のどちらもが重要である。

b)強さ。
これは影響のきびしさに関係している。担当の行政官は、1つ以上の機関が大規模な行為の部分的な局面についての決定をなしうることに留意しなければならない。強さを評価するに際しては、次のことが考慮されるべきである:

1]有益であると同時に有害であるかもしれない影響。連邦政府関係機関が、すべてを考慮して、その効果が有益であると信じているとしても、著しい影響が生ずるかもしれない。

2]提案された行為が公衆の健康または安全性に与える影響の程度。

3]たとえば、史的あるいは文化的遺産、公園、優良農地、湿原、自然のままで風光明媚な河川に近接しているといったような得難い地理的特性。

4]人間関係の質に与える影響が大きい論議の的となりうる可能性。

5]人間環境に対しておよびうる影響が非常に不確実である度合い、あるいは稀有な未知の危険性をはらんでいる度合い。

6]その行為が著しい影響を伴う将来の行為の先例となりうる可能性、将来の決定のひな形となる可能性。

7]その行為が、単独では重要でないにしても、累積すると著しい影響を伴うものであるかどうか。累積すると環境に著しい影響を与えることが十分予測される場合には、「重要」であると言える。ある行為の期限を一時的に限定することによって、あるいは小さな構成部分に分解することによって、「重要性」を消滅させることはできない。

8]その行為が、地域、用地、高速道路、構造物、あるいは国内史跡目録に記載されている物、記載するのがふさわしい物に対し、悪影響を与える度合い。

または重要な科学的、文化的、歴史的資源に損失を与えたり破壊する度合い。
9]その行為が、1973年の「絶滅危機種保護法」に基づく絶滅の危機にさらされている種、脅威にさらされている種、あるいは危機に瀕していると指定されている生息地に対してどの程度の悪影響を及ぼす可能性があるか。

10]その行為が、環境保護のために設けられた連邦、州、あるいは地方自治体の法または要求に違反するおそれがないか。


○カナダCEAA

 カナダCEAAでは、FEAROがCEAAのリファレンスガイドとして、「事業が重大な環境への悪影響を起こしそうかどうかの判断(Determining Whether A Project is likely to Cause Significant Adverse Effects) 」を発行している。これによると、以下の要素を考慮するとしている。また、事業者はこれらを判断する情報を提供しなければならないとしている。

1)環境影響が望ましくないものかどうか

 主な望ましくない影響の要素が表-2に示されている。影響が望ましくないかどうか判断する方法としてこれらの要素毎に現状と予測結果を比較する方法がある。

2)環境への悪影響が大きいかどうか

 悪影響の程度(Magnitude)、地理的広がり、持続期間及び頻度、可逆性/非可逆性の程度、影響を受ける地域の生態学的特性(既に悪影響を受けている地域、生態学的に脆弱な地域、ストレスへの抵抗がない地域への悪影響は重大と考えられる)などを判断の規範とする。連邦、州、地方自治体等における基準、指針、目標等もその判断尺度となる。ただし、基準等が適用できる領域は限られている。この場合、リスクアセスメントや専門家会合による検討の手法が利用できる。

3)その影響が生じる見込み(likelyhood)

 影響が生じる見込みについては、影響の出現の可能性とともに、科学的知見の不確実性を考慮する。


  表-2 望ましくない環境影響を決めるための要素

環境の変化 環境変化に起因する住民への影響
・植物、動物、魚類等の生物への負の影響
・希少な、又は絶滅に瀕している種への脅威 
・種の多様性の低下、食物連鎖の破壊
・難分解性/有害な化学物資、機能性微生物、肥料、放射線、熱エネルギーの排出/放
・生息数の減少、とりわけ最上位捕食者、大型、長寿命の種
・環境からの資源の採取
・自然景観の変更
・野生生物の渡りや移動の阻害
・生物物理学的な環境(地表水、地下水、土壌、地盤、大気等)の質又は量に関する負の影響
・人の健康、福祉、生活の質への負の影響
・失業の増加ないし経済の縮小
・レクリェーション機会またはアメニティの質及び量の減少
・先住民の伝統的目的のための土地・資源利用の損害的変更
・歴史的、考古学的、古生物学的、建築学的資源の減少
・産業対象生物種、資源の喪失
・将来の資源利用・生産の権利の争奪

出典:Determining Whether A Poroject is likely to Cause Significant
  Adverse Effects : Responsible Authority's Guide. FEARO, CANADA


○オランダ

 オランダでは、環境影響評価委員会の環境影響評価書の審査にあたって、第1段階として、一般的なクライテリア(法律の規定、国及び地域の環境基準及び目標、技術水準の現状等)が記載されているかどうかを確認しており、これらが許認可の判断において必要な情報であることが示唆されている。


○イギリス

 審査・許認可の段階における、環境影響の重大性・重要性の評価の判断基準として以下のものが示されている(Evaluation of Environmental Information for Planning Ploject)。

・影響を受ける可能性のある地域の範囲

・予測される悪影響及び好影響の大きさ(環境の現状との比較)

・予測される影響の起きる可能性・リスク

・悪影響を回避・消滅し、または補正する環境保全対策としてさらに必要なものがあるかどうか

・調査研究中の事項の重要性


○イタリア

 イタリアでは環境影響評価書の審査は、環境省と文化遺産・環境資源省によってなされるが、審査の目的が環境適合性認可規則(表-3)に示されている。環境基準に適合するかどうかはその一つとなっている。


表-3 環境影響調査書の審査の目的(イタリア)

 {環境適合性認可規則(1988年8月10日法令第377号)第6条第1項}

・提出された環境影響調査書が完全であるか確かめること。

・位置や環境の特徴の記述が事業申請者が提出した文書と一致しているか確かめること。

・液状及び固形廃棄物並びに大気汚染物質に関する環境基準に適合するか確かめること。

・建設過程及び事業操業過程における原料及び天然資源の使用について、事業計画の一貫性を確かめること。

・分析及び判断の方法が正しく使われていることを確かめること。

・環境影響予測に関する技術が適切かを確かめること。

・最終的な質的水準について事業が環境に与える総合的な影響を記載すること。

・環境影響調査時点における環境の状況と事業開始後における環境の状況とを比較すること。

[前のページ]

[次のページ]