我が国の環境影響評価は昭和47年の閣議決定以来28年の実績を持つが、マニュアルや前例に基づいたアセスが行われることが多かったために内容が固定化し、新たな技術手法が用いられることは少なかった。一方で環境影響評価に求められる内容は多様化・高度化し、例えば大気汚染では、年間を通じた平均濃度と環境基準の対比のみならず、ある特定地点における特異な気象条件下での濃度予測など、より詳細な内容が求められるようになっている。
しかし、環境影響評価には用いられていない、あるいは評価書等には記載されていない技術であっても、環境影響評価に用いることのできる技術も多く、これらの技術の活用により、より効果的な環境影響評価が可能になるものと考えられる。
このためには、環境影響評価に関する技術および今後環境影響評価に求められる内容や条件についてのレビューを行った上で、環境影響評価に用いることの出来る技術の蓄積や、新たな技術開発を促すことが必要である。
ここでは環境影響評価に求められる内容と技術手法についてのレビューを行い、既往の環境影響評価において用いられているか否かを問わず、環境影響評価に際して参考となる各種の技術手法についてとりまとめた。
1 マトリックス表
ここでは、環境影響評価に求められるさまざまな条件に対して、現在考えられる技術がどこまで対応しているか、その状況をマトリックスとして示した。
各マトリクスの上段には、自治体の環境影響評価審査担当部局へのアンケート調査などをもとに、環境影響評価の技術に現在求められる条件、あるいは将来的に課題になると考えられる条件を示した。個別のアセス案件毎にさまざまな技術的課題が発生するが、ここでは整理のためにできるだけ類型化して示してある。
左欄には現在想定される代表的な技術を示した。これらの技術の中にはまだ実用化されていないものや我が国の環境影響評価において用いられたことのないものも含まれているが、上段の条件に対応する可能性のある技術について記載してある。
さらに上段の条件と左欄の技術の対応を○△等の記号で示した。この○△等は表5-1に示すような区分に基づいているが、条件や技術の類型的な整理を行っていること、さらに複合的な条件における技術の適用などが想定されることから、絶対的な区分を示しているものではない。
また、これらの表は、環境影響評価において推奨する技術を示したものではなく、さまざまな技術の適用について検討するための足がかりとして、あるいは今後環境影響評価に用いられる技術が多様化し、技術開発が促進されるための資料となることを目的として示したものである。
技術レビューの結果、大気質におけるディーゼル粉じん(DEP)や白煙現象、騒音における複合騒音の評価手法、地下水における不飽和帯の扱いなど、環境影響評価においてさらに技術開発の望まれる分野のあることが示されている。
表5-1マトリックスにおける区分
記号 | 区分 | 留意点 |
---|---|---|
● | 従来のアセスにおいて用いられている技術でほぼ充足されていると考えられるもの | ・アセスにおいて通常用いられている技術であっても、その適用範囲による制限等があるため、適用範囲等を確認した上で用いることが望ましい。 |
○ | アセスにおいては一般的ではないが対応できると考えられる技術 | ・技術の内容とアセスの目的が合致する場合には、その適用範囲や技術の妥当性を十分に検討した上でアセスに用いることが考えられる。 |
▲ | 従来のアセスにおいて用いられている技術があるが、さらに技術の充実が望まれるもの | ・過去のアセスにおいて適用可能な技術がないために、とりあえず用いられてきた技術が標準化している場合などがあるため、●と同様に技術の適用範囲や目的等を確認することが必要である。 |
△ | 対応する技術はあるがアセスにおいては一般的ではなく、さらに技術の充実が望まれるもの | ・当該技術以外に条件に適合する技術がない場合は、その不確実性を明記した上でアセスに用いることが考えられる。 ・示した技術の中には関連する論文等が発表されているだけで、これらを手がかりにアセスに用いるための検討を進める必要のあるものも含まれる。 |