スコーピングの考え方については、「第2章1 スコーピングの考え方」を参照のこと。
1)環境負荷分野の対象範囲
環境影響評価法における「環境への負荷」分野の対象項目は、「環境基本法第二条第二項の地球環境保全に係る環境への影響のうち温室効果ガスの排出量等環境への負荷量の程度を把握することが適当な項目又は廃棄物等」(基本的事項)とされており、「温室効果ガス等の地球環境保全に係る項目」と「廃棄物等」に区分できる。
「温室効果ガス等」としては、二酸化炭素等の温室効果ガス(以下、単に「温室効果ガス」という。)の排出の他、熱帯材など環境との関わりの深い資源の消費、オゾン層破壊物質の排出、有害化学物質(PRTR法の対象物質等)の環境中への排出(大気・水質等の個別分野において扱われるべきものを除く)などが、また「廃棄物等」には一般廃棄物、産業廃棄物の他、建設残土等の建設副産物が含まれる。
なお、この章では扱わないが、大気・水・土壌環境分野における項目についても環境負荷量の低減の観点から検討することとしているので、この章を参考にする。
図 4-1 環境への負荷分野の対象範囲
2)環境負荷分野の特徴
環境負荷分野の項目の特徴として、事業特性から求められる環境負荷の発生・排出量及びその削減量によって予測評価される点があげられる。ただし、地域においてこれらの環境負荷分野に関する計画・目標等が定められている場合には、計画との整合や目標達成に向けての努力についても予測・評価されるべきである。
1)事業特性・地域特性把握の考え方
事業特性・地域特性の把握は、対象事業や対象地域の特性や位置づけを明らかにし、環境影響評価の項目、調査・予測・評価手法を選定するために必要な情報を得ることを目的として行う。従って、事業特性・地域特性の把握は各項目を環境影響評価の対象として選定するか否かを問わずに総括的・網羅的に実施されるべきものである。しかし、事業特性把握や地域特性把握の途中段階において、環境影響評価項目として選定しないと決定するに足る十分な情報が得られれば、当該項目に関する事業特性・地域特性把握をさらに充実させる必要はない。
項目・手法選定のために必要な事業特性・地域特性は環境影響評価項目ごとに異なるが、事業特性・地域特性としてのとりまとめは項目横断的に行う。また方法書等に記載する際には、事業・地域の全体像が把握しやすいように必要な情報を加えて記述する。
2) 事業特性の把握
事業特性の把握は、環境影響評価の項目、調査・予測・評価手法を選定するために必要な情報を得ることを目的として行う。事業計画の内容が固まっていない早期の段階でのスコーピングにおいては、特に工事の実施に係る項目等、詳細の把握が難しい場合があるが、類似事例等を参考に想定される内容について把握する。
把握すべき事業特性に係る情報については、事業種ごとに各主務省令において定められている。温室効果ガス等・廃棄物等に係る事業特性として、以下のような項目について整理する。
なお、発電事業や廃棄物処分場のように、当該事業の実施により他事業を含めたシステム全体(例えば、電力会社における発電の全体計画や地域における廃棄物処理計画等)の効率向上や環境負荷の低減を図る場合等は、システムとして一体的に捉える範囲(System
boundary)をどのように設定するかを明らかにすることが重要である。
(1)工事の実施に係る項目
・工事の内容、期間
・工事に使用する建設機械の種類、台数、稼働期間 等
・工事用車両の種類、走行台数、期間
・工事に伴う掘削量
・工作物に用いられる資材の量、内容
・除却する既往構造物の内容、規模
(2)施設等の存在・供用に係る項目
・施設の内容、規模
・施設の供用期間
・施設からの発生集中交通量
・施設のエネルギー使用量
・原燃料の質と量(例:石灰の灰分等)
これらの情報は方法書に事業の内容等として記載されるものであるが、記載に際しては方法書を読む者が事業内容等をイメージしやすいように工夫することが必要である。
3)地域特性の整理
地域特性の把握は、各環境影響評価項目ごとの調査地域を包含し、かつ項目の選定、調査・予測・評価の手法選定のために十分な範囲において、必要十分な情報を収集することが必要である。
温室効果ガス等・廃棄物等については、基本的に事業計画より求めた発生・排出される温室効果ガス等・廃棄物等の量や種類により予測評価を行うため、事業計画地周辺の地域特性により予測結果が影響されることは少ない。また、事業実施前の当該地域における温室効果ガス等・廃棄物等の発生量・排出量・質等についても、当該事業による影響の予測には直接的には関連しない。
しかし、地域における温室効果ガス等の排出や廃棄物等発生処理等に係る計画や目標の定められている場合や、廃棄物等処理の状況、廃棄物等の処分場が不足するなど、地域特有の課題のある場合には、項目の選定や予測・評価、環境保全措置の検討に当たってこれらの状況を考慮しなければならない。
(1) 地域特性把握の範囲
上記のとおり、地域特性の把握の内容は主に地域における計画・目標や処理状況となるため、地域特性把握の範囲は事業の位置する自治体、あるいは廃棄物等の処理を一括して行う範囲などを勘案して決定する。
(2) 廃棄物等処理等の状況
事業計画地周辺における廃棄物処理施設や残土等処分地の状況として、その位置、処理能力、受入体制等について整理する。
(3) 関連法令等の整理
地方自治体等において、以下に示すような温室効果ガス等・廃棄物等に関する削減計画、目標等を設定している場合は、その状況について整理を行う。
[1]温室効果ガス等に関する法令等
・ | 環境基本計画 |
・ | 地球温暖化対策推進法 |
・ | 地球温暖化対策実行計画 等 |
・ | 特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(オゾン層保護法) |
・ | 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理改善の促進に関する法律(PRTR法) |
[2]廃棄物等に関する法令等
・ | 環境基本計画 等 |
・ | 廃棄物処理計画 等 |
環境影響評価項目の選定
(1)標準項目
主務省令で定められた標準項目は、対象事業の種類ごとの一般的な事業内容について実施すべき内容を定めたものであり、事業の内容や地域特性は全て異なるため、常に項目の追加、削除の必要が生じることに留意する。
環境影響評価法の対象となる各事業ごとの温室効果ガス等・廃棄物等に係る標準項目は表4-1に示すとおりである。
表4-1 温室効果ガス等・廃棄物等に係る標準項目
(2)環境影響評価項目の選定
[1]影響要因の抽出
対象事業の事業特性から、事業における影響要因を抽出する。影響要因の抽出は、各事業ごとに規定された標準的な影響要因(標準項目の表の上欄に掲げられた影響要因の細区分)に対し、事業特性に応じて要因の削除及び追加を行うことにより実施できるが、標準項目を参照せずに影響要因を抽出し、抽出された影響要因を標準項目の区分に従って分類し、要因の削除及び追加を行うこともできる。
温室効果ガス等・廃棄物等に係る影響要因は、図4-2に示すような温室効果ガスの排出状況や、表4-3に示すような廃棄物等の発生状況に留意しつつ選定する。特にCO2、N2Oは物質の燃焼に伴って必ず発生すること、CH4は有機物の分解過程で発生することに留意する。
表4-2 温室効果ガスの発生源
温室効果ガス | 地球温暖化係数 | 排出源 |
---|---|---|
二酸化炭素 | 1 | 建設機械稼働、自動車・船舶・飛行機等の運行 発電所、工場 等 |
メタン | 21 | 燃料の燃焼 廃棄物処分場、下水処理場 等 |
亜酸化窒素 | 310 | 燃料の燃焼、自動車・船舶・飛行機等の運行 廃棄物処分場、下水処理場 等 |
HFC(ハイドロフルオロカーボン) | HFC-134a:1300等 | 工業製品の洗浄、発泡剤製造 等 |
PFC(パーフルオロカーボン) | PFC-14:6500等 | 半導体工業、アルミニウム工業 等 |
六弗化硫黄 | 23900 | 半導体工業、軽金属工業 等 |
注)地球温暖化係数はIPCC(1995)による積分期間100年の値
表4-3 廃棄物等の発生状況
発生状況 | 廃棄物等の種類 | |
工事の実施 | 既設工作物の撤去 | 廃アスファルト、廃コンクリート、廃木材 等 |
土工事 | 建設発生土、伐根、伐採 等 | |
構造基礎工事 | 建設発生土、汚泥、廃コンクリート、廃材 等 | |
建屋工事 | 廃コンクリート、建設木くず、資材残さ 等 | |
工事管理 | 飲食残さ、紙類、し尿・浄化槽汚泥 等 | |
供用時 | 供用 | 飲食残さ、し尿・浄化槽汚泥、生産物の残さ 等 |
メンテナンス | 廃アスファルト、廃プラスチック 等 | |
運営事務 | 飲食残さ、紙類、し尿・浄化槽汚泥 等 |
[2]環境要素の抽出
環境要素の抽出は、各事業ごとに規定された標準的な環境要素(標準項目の表の左欄に掲げられた環境要素の細区分)に対し、要素の削除及び追加を行うことによる。なお、環境への負荷分野においては、基本的には上欄の事業による影響要因により想定される環境要素を抽出することとなるが、事業実施区域の計画等において重視されている環境負荷に係る項目等があれば、これらについても考慮する必要がある。
温室効果ガスに係る環境要素の抽出に当たっては、事業特性から想定される排出量が少ない場合においても、温暖化係数が大きくライフタイムの長い物質については環境要素として抽出することが重要である。温室効果ガスに係る環境要素は、排出ガスにより区分することができるため、表4-2に示した温室効果ガスのうち標準項目以外の物質による影響の有無について考慮する。
また、表4-4に示すようなオゾン層破壊物質、有害物質や熱帯材の使用等についても対象事業との関連の有無について検討する。
廃棄物等に係る環境要素は、表4-5に示すような廃棄物等の種類に応じて影響の有無について考慮する。また、廃棄物等の中間処理によって発生する二次廃棄物についても留意する。
表4-4 主なオゾン層破壊物質
物質名 | オゾン破壊係数 | 主な用途 |
---|---|---|
CCHC (クロロフルオロカーボン) |
0.6~1.0 | 冷媒、発泡剤、電子部品の洗浄剤 |
HCFC (ハイドロクロロフルオロカーボン) |
0.001~0.52 | 冷媒、発泡剤、電子部品の洗浄剤 |
臭化メチル | 0.6 | 土壌薫蒸剤、検疫薫蒸剤 |
ハロン | 3.0~10.0 | 消火剤 |
1.1.1トリクロロエタン | 0.1 | 金属部品等の洗浄剤 |
四塩化炭素 | 1.1 | CFC等の原料、溶剤 |
HBFC (ハイドロブロモフルオロカーボン) |
0.02~14 | 消火剤 |
注) | オゾン破壊係数はオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書 (昭和63年 条約9)による |
表4-5 主な廃棄物等
廃棄物 | 産業廃棄物 | 燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック、紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残さ、ゴムくず、金属くず、ガラスくず・陶磁器くず、鉱さい、コンクリート破砕・アスファルト破砕等、動物のふん尿、動物の死体、ばいじん 等 |
一般廃棄物 | 産業廃棄物以外の廃棄物(家庭ごみ、し尿、その他) | |
建設工事に伴う副産物 | 建設発生土 |
[3]項目の検討
影響要因と環境要素の関係から、環境影響評価の対象となる項目を選定する。この際に、標準項目の表において空欄となっている部分(標準項目の表に記載された影響要因と環境要素においては関連しないとされている部分)についても、特に影響要因の内容が若干異なることにより、対象とすべき必要が生じる可能性があることに留意する。
[4]不必要な欄の削除
項目として全く選定されなかった影響要因および環境要素を表から削除し、環境影響評価項目選定のマトリックスを完成する。
[5]インパクトフローによるチェック
場合によっては、インパクトフロー型の影響関連図を作成し、選定した影響要因及び環境要素の検討を行う。(「第2章2 4)(2)[5]参照)
(3)項目の削除と追加
上で抽出された環境影響評価項目と、各事業区分ごとに定められた標準項目を比較し、削除された項目及び追加された項目を把握した上で、各々について削除及び追加の考え方に合致していることを確認する。項目の削除及び追加は、以下のように定められた条件に合致していることが必要である。
[1]項目の削除を行う場合
4 | 第一項の規定による項目の削除は、次に掲げる項目について行うものとする。 |
一 | 標準項目に関する環境影響がないか又は環境影響の程度がきわめて小さいことが明らかである場合における当該標準項目 |
二 | 対象事業実施区域又はその周辺に、標準項目に関する環境影響を受ける地域その他の対象が相当期間存在しないことが明らかである場合における当該標準項目 |
(環境事業団が行う宅地造成事業に係る指針 第六条)
ここで、「影響がないあるいは著しく小さいことが明らかな場合」とは、標準項目の表の上欄に掲げられた影響要因の細区分に相当する行為対象がない場合や、温室効果ガス等排出量、廃棄物等発生量がきわめて少ないことを説明できることが必要である。
また、温室効果ガス等・廃棄物等は、対象事業実施区域周辺に対して直接的に影響を及ぼさないので、第二号は適用されない。
[2]項目の追加を行う場合
5 | 第一項の規定による項目の追加は、次に掲げる項目について行うものとする。 |
一 | 事業特性が標準項目以外の項目(以下この項において「標準外項目」という。)に係る相当程度の環境影響を及ぼすおそれがあるものである場合における当該標準外項目 |
(環境事業団が行う宅地造成事業に係る指針 第六条)
標準外項目であっても、温室効果ガス等・廃棄物等が多量に排出若しくは発生され、環境への負荷が相当程度にのぼると懸念される場合は、項目の追加を行う。例えば「大規模林道事業における伐採木」や「道路事業等におけるCO2(運輸部門は、二酸化炭素排出量に占める割合が多い。)」等は、追加項目になり得る。
5)予測及び評価の手法の選定
(1)予測・評価の手法検討の考え方
環境影響評価における調査・予測・評価を効果的かつ効率的に行うためには、環境影響評価の各プロセスにおいて行われる作業の目的を常に明確にしておくことが必要である。環境影響評価における最終的な目的は「評価」であることから、スコーピング段階における調査・予測・評価の手法検討では、実際の環境影響評価における作業の流れとは逆に、評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討の順に検討を進める必要がある。特に、温室効果ガス等・廃棄物等については、従来の環境影響評価にない新たな分野であるため、スコーピング段階でこの評価・予測・調査の関係について十分な検討を行っておくとともに、方法書手続等により外部からの多くの意見を取り入れることが必要である。
(2)予測の考え方
温室効果ガス等・廃棄物等については、事業内容から種類ごとの排出・発生量を予測する。さらに廃棄物等については、発生した廃棄物等の種類ごとの処理方法(再生・再利用を含む)についても、可能な限り定量的な予測を行う。例えば、産業廃棄物の種類ごとに検討することが考えられるが、場合によっては、物質の性状や特性等(可燃性・不燃性、再資源化の可・不可、有害性の大小等)ごとに検討することも可能である。(廃棄物の種類については、表4-5参照)
なお、排出あるいは発生した温室効果ガス等・廃棄物等がもたらす環境への影響(当該事業外の廃棄物最終処分場による水質汚濁、廃棄物焼却施設による大気汚染、温室効果ガスによる温暖化現象等)については現時点では予測の対象とはしないが、評価においては後述のとおり、各排出・発生物ごとの環境への影響程度についても考慮した評価を行うことが望ましい。
(3) 評価の考え方
環境影響評価法における評価の考え方は、大きく下記のア、イの2種類の視点がある。これらのうちアについては評価の視点に必ず盛り込む必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点も必ず盛り込む必要がある。
ア 環境影響の回避・低減に係る評価
建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。
なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。
イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る評価
評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。
ウ その他の留意事項
評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。
(基本的事項 第二項五(3))
[1]回避・低減に係る評価1
回避・低減に係る評価は、可能な範囲で最大限の回避・低減の努力がなされているかどうか、及びその結果として環境への負荷量がどの程度低減されたかの2点から評価を行う必要がある。
(ア)各段階ごとの回避・低減措置
回避・低減の努力は、事業への入力・出力の観点からは、事業への入力資材等、事業内のサイクル、事業からの排出のそれぞれのステップについて、十分な回避・低減の措置がなされていることが必要である。また、工事から撤去に至る事業の時系列においても、工事・供用・撤去のそれぞれのステップについて十分な回避・低減の措置の検討が必要である。(図4-2)
図4-2 事業の各段階における回避・低減措置
(イ)削減量の評価
削減量の評価は、発生・排出量の削減及び再資源化2による削減量の両面から評価することが望ましい。
発生量の削減する量をもって評価する方法と、再資源化等による削減量をもって評価する方法がある。
(ウ)削減量評価のベースライン
削減量の評価は、各発生・排出物ごとにベースラインを設定し、ベースラインとの比較によって行う。
A:ベースラインにおける発生・排出量
B:事業からの発生・排出量
C=A-B:事業における回避・低減措置による効果量(→評価の対象)
ベースラインの考え方は、以下の2種より事業又は項目によって適切な考え方を選択する。なお、いずれにおいても複数案の比較による評価もあわせて行うことができる。
1 | 廃棄物等については、循環型社会形成推進基本法の概念に基づき、廃棄物等の発生量の抑制、資源の循環的利用、及び利用されない資源の適正処理について、環境への負荷の回避・低減の措置が講じられることが望ましい。 |
2 | 再資源化には、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)、熱回収(サーマルリサイクル)があり、各々についてその量を評価することが望ましい。 |
[事業において回避・低減措置を考慮しない場合の発生・排出量]
個別事業について評価を行う場合には、当該事業における回避・低減措置を考慮しない場合における発生・排出量をベースラインとする。ベースラインの設定方法は、当該事業と同等規模で回避・低減措置を考慮しない事業を想定するほか、同等規模の類似事例による実績を用いる方法などが考えられる。(図4-3)
[システム全体の現状発生・排出量]
発電事業や廃棄物処分場のように、当該事業の実施により他事業を含めたシステム全体(例えば、電力会社における発電の全体計画や地域における廃棄物処理計画等)の効率向上や環境負荷の低減等を図る場合には、当該事業を実施しない場合のシステム全体の現状の発生・排出量をベースラインとして考える。(図4-4)なお、この場合にはシステムとして捉える範囲(System boundary)及びその設定理由を明確にしておくことが必要である。
図4-3 ベースラインの考え方(1)
図4-4 ベースラインの考え方
温室効果等ガスについては、一般的には対象事業の工事、供用に伴って排出される温室効果ガスの排出量をどのように低減する努力を行っているのか、建造物の構造・配置のあり方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なよりよい技術(「第2章2 5)(2)【留意点】参照)が取り入れられているか否かについて検討することなど、及びこれらの保全対策による削減量により評価する。
廃棄物等については、アの視点を中心として、建設工法や製造方法の改善等による廃棄物等の積極的な減量・減容化や、再利用の推進等の廃棄物等削減対策を複数案比較検討することにより、これらの対策による削減量について評価を行う。また、廃棄物の発生量・削減量に加え、発生した廃棄物の再利用計画や適正な処理計画についても、地域における処理等の実状や計画との関連において評価できる。
削減量の評価にあたっては、発生・排出量の総量だけではなく、以下のような視点から発生・排出物の種類ごとに環境への影響の程度について検討を加えた上で、環境への影響を総合的見地から回避・低減する措置について評価を行う必要がある。
・地球温暖化への影響の程度(温暖化係数)
・有害物質の環境リスク
・廃棄物等の再利用の可能性
・廃棄物等の処理の困難さ、処理処分施設等の容量
・廃棄物として発生する資源の内容(例:石油起源、有機材料、熱帯材 等)
【留意点】 総合的見地からの環境への影響の回避・低減
環境負荷の分野においては、例えば「焼却による廃棄物の減量と大気汚染や温室効果ガスの発生」と「埋立処分による廃棄物の排出量の増大」のどちらを選択するかなど、全く異なる種類の環境への影響を相互比較した総合的判断が求められることが想定される。このような場合には、トータル負荷の考え方として、プラス面とマイナス面の両方の観点から複数案を提示し、それぞれの環境影響を検討した上で、事業者の環境負荷分野における環境保全の姿勢を示し、回避・低減策を講じるに当たって事業者が何を重視したのかを明確に示すことが重要である。
例えば、廃棄物の再処理再利用によりエネルギー消費(温室効果ガスの排出、大気汚染の発生 等)やその他の環境影響が増加する場合において、廃棄物の発生量を抑制することを最重要視する事業者の姿勢を示した上で、再処理再利用を行う方策を採用することにより、温室効果ガス排出量と廃棄物の発生量の増減を評価することが考えられる。
[2]環境保全施策との整合性に係る評価
国や地方自治体において、温室効果ガスの排出削減や廃棄物発生・処理に係る計画・目標等が定められている場合には、これらとの整合性についても評価を行う。具体的には、各自治体の環境基本計画等において温室効果ガス等や廃棄物の発生・排出量削減に係る目標や、廃棄物等の再利用率の目標等が掲げられている場合がこれに該当する。なお、計画・目標等との整合性の検討に当たっては、その量や率のみならず、手段の整合性についても考慮する。
(4)予測・評価の対象とする時期の考え方
温室効果ガス等・廃棄物等の予測・評価の対象時期としては、以下のような時点が考えられる。
A: | 発生・排出等の最大時の予測及び発生・排出等が定常となった状態の予測 |
B: | 事業開始から供用の終了に至るまでの発生・排出総量の予測 |
C: | 建設材料等の調達から事業終了後の撤去を含めたLCA予測 |
事業のロングライフ化による環境負荷の低減や、再資源化が容易な材料を用いるなどの事業者努力を前向きに評価するためには、事業全体にわたる排出総量や、あるいは撤去時まで含めた発生・排出総量も考慮することが望ましい。
図4-5 環境負荷分野における予測時点の考え方
(5)予測手法の選定
[1]手法の選定
環境負荷分野は環境影響評価にとって新たな分野であり、他の分野と比較して、これまでの予測手法の蓄積が少ない。そのため、手法の選定にあたっては、事業特性ごとに個別に検討・選定することが重要となる。以下に示すような資料等を参考するほか、学会等から最新の情報を収集して適切な手法を選定する。
・環境アセスメントの技術 (社)環境情報科学センター
・環境影響評価技術シート(本中間報告書 第5章)
・地方自治体の環境影響評価技術指針
[2]原単位等の検討
予測に用いる原単位等は技術等の要因により常に変化するものであり、最新の資料の有無や内容を確認することが必要である。
(6)手法の重点化・簡略化
温室効果ガス等・廃棄物等において手法の重点化・簡略化を検討する要素としては、以下のようなものが考えられる。
〔手法の重点化を検討する要素〕
[1]想定される環境への影響が著しい場合
環境負荷分野においては、想定される温室効果ガス等・廃棄物等の発生量が著しく大きい場合とする。
[2]既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在する場合
廃棄物等については、事業計画地域における処理が逼迫した状態にある場合等が相当する。
[3]事業特性から標準手法では予測が技術的に困難と思われる場合
〔手法の簡略化を検討する要素〕
[4]温室効果ガス等・廃棄物等の排出・発生が少ないことが明らかな場合
廃棄物の発生が少ないことが明らかな場合には、廃棄物の種類ごとの発生量を予測せず、総量のみを予測するなどの簡略化が考えられる。
[5]類似の事例により標準手法を用いなくても影響の程度が明らかな場合
(7)温室効果ガス等・廃棄物等に関する手法の整理
スコーピング段階では上記の結果を踏まえ、事業者が適切かつ実施可能と判断した手法を選定する。選定に当たっては、調査・予測・評価に関する計画内容として概ね以下の事項について整理する必要がある。
その際、調査手法、予測手法、評価手法の選定に関する基本的事項及び技術指針の内容に十分留意することが必要である。
[1]調査手法
・調査対象・調査項目:調査の対象とすべき要素と調査すべき情報の種類
・調査地域・地点:範囲、位置等(図面情報等)
・調査法:調査対象、調査項目、調査地域の特性に応じて選定
・調査期間・時期:期間、時期、回数等(工程表等)
・調査体制
[2]予測手法
・予測する影響の種類:対象要素に関して予測する影響の種類
・予測地域・地点:範囲、位置(図面情報等)
・予測法:予測する影響の種類に応じて選定
・予測時期:工事中、存在・供用時等影響の発生時期に応じて設定
[3]評価手法
・評価及び環境保全措置検討の基本方針