大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術検討会中間報告書
大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(I)<スコーピングの進め方>(平成12年8月)

大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(I)TOPへ戻る

3 土壌環境(土壌・地盤分野)

 土壌環境に係る環境影響評価において、従来は土壌の項目においては土壌汚染を、また地盤の項目においては地盤沈下を対象としてきた。
 しかし、土壌が物質・エネルギーフローの重要な構成要素の一つであること、農業基盤、天然資源、保水能力及び地下水の形成、多様な生態系の維持などに必須のものであること、開発事業においては土壌の掘削や移動などが行われ、土壌の持つ機能や構造が変化することなどを鑑み、土壌の生産力、保水力などの土壌の機能についても環境影響評価の項目として取り上げられるべきものであると考えられる。
 また、土壌の中には学術的・希少性の見地から重要なものがあり、これらの土壌の保全についても環境影響評価においては考慮される必要がある。
 地盤の分野においては、開発行為による土地の安定性変化に起因する地すべり、斜面崩壊等の危険度増加や、液状化、地盤陥没といった地盤の変状についても、広く環境影響評価の項目として捉えられるべきであろう。

1)土壌・地盤分野の対象範囲

 土壌・地盤分野においては、以下のような内容を対象とする。
 従来の環境影響評価においては、土壌分野においては土壌汚染、地盤分野においては地盤沈下を主に対象としていたが、土壌の機能や土地の安定性の変化等についても環境の観点から見た場合には、環境影響評価の対象と考えることができる。
(ただし、例えば農業生産や防災及び安全性等の観点からの検討は環境影響評価法の対象ではない。)
 なお、地盤沈下と密接な関係のある地下水の状況については、地下水の項目で扱うこととし、本項では対象としない。

(1)土壌

土壌汚染
汚染土壌の搬出入、事業による土壌の汚染(地下水汚染、大気汚染に起因するものを含む)
土壌の機能
保水機能、通水機能、生産力、地下水浄化 等
貴重な土壌

 

(2)地盤

地盤沈下
開発行為による土地の安定性の変化
地すべり、斜面崩壊、液状化、地盤陥没 等

 

2)事業特性の把握

 土壌・地盤に係る事業特性として、以下のような項目について整理する。
 事業計画の内容が固まっていない早期の段階でのスコーピングにおいては、特に工事の実施に係る項目など、詳細の把握が難しい場合があるが、類似事例等を参考に想定される内容について把握する。

(1)工事の実施に係る項目

工事の内容、工法、期間
工事の位置、範囲
掘削、切土、盛土工事の範囲、深度(高さ)
杭工、山留工の種類、位置、範囲及び深度
仮設工作物の種類、位置、規模
土取場、土捨場の位置、規模
排水工、止水工、圧気工、凍結工、薬液注入工等の補助工法の内容、期間
搬入土砂の由来、資材の材質等

 

(2)施設等の存在・供用に係る項目

施設の内容、位置、規模
施設の供用期間
地下構造物の位置、範囲、深度
揚水施設の内容、位置、規模
法面(切土・盛土)の位置、構造、規模
使用予定物質(非意図的生成物質)の種類、用途、量、位置
非意図的生成物質(ダイオキシン類・ベンツビレン類)の生成及び排出の可能性
土捨場の位置、規模

 これらの情報は方法書に事業の内容等として記載されるものであるが、記載に際しては一般的な事業内容や、他の影響評価項目に係る事業特性の把握の内容とあわせて、方法書を読む者が事業内容等をイメージしやすいように工夫することが必要である。

 

3)地域特性の把握

 地域特性の把握は、基本的に既存資料の収集整理および現地踏査によって行い、必要に応じてヒアリングを行う。

(1)地域特性把握の範囲

 環境影響評価の調査地域は、「対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域」(基本的事項)とされている。土壌・地盤に係る調査対象地域は、周辺地域の地形・地質条件や事業の種類、位置、規模、工法、期間等の事業特性のほか、以下のような周辺状況に特に留意する。

・地盤沈下地域や沈下及び液状化の可能性のある第四系の分布地域
・地下水位の高い地域(埋土地、河川・海岸平野など)
・地盤変形、変状の可能性のある地域(地すべり地帯、急傾斜地、崖錐、石灰岩地、地下採掘場跡地 など)
・(活)断層が接近して分布する地域
・現在、過去の土地利用の状況(特に廃棄物処分場、廃棄物投棄場所、精錬工場、化学工場、クリーニング事業所等の位置)及び汚染の有無又は可能性
・大気経由の汚染物質の着地地点
・土砂流出先等

 なお、調査対象地域の設定にあたっては、「第2章2 スコーピングの実施手順」に示した通り、項目あるいは調査の対象事物によって調査対象地域が異なることに留意する必要がある。
 大気経由の汚染物質(特に、ばい煙発生源)に係る調査範囲として、発生源からの距離の目安を表 3-3-1に示す。

表 3-3-1 大気質(ばい煙発生源)に係る調査範囲の目安(土壌汚染関連)

煙源種類 最大着地濃度距離及び設定方法 対象範囲
ばい煙発生源
(煙突高さ)
50m未満
50~150m
150m以上
0.5km(20m) ~ 2km(100m)
2km ~ 9km(200m)
9km ~ 15km(500m)
1~4km
4~18km
18~30km

注:( )内は対応する有効煙突高さを示す。
((社)環境情報科学センター(1999)

 

 また、地下水位の低下に伴う地盤沈下の調査範囲として、地下掘削に伴う地下水調査範囲の目安を表 3-3-2~表 3-3-3に示す。

表 3-3-2 地下掘削工事に伴う地下水調査範囲の目安(その1)

土質 調査範囲
砂礫地盤 1,000~1,500m
砂地盤 500~1,000m
粘性土地盤 100~500m
(国土開発技術研究センター(1993))

表 3-3-3 地下掘削工事に伴う地下水調査範囲の目安(その2)

           調査区域
地層
精査区域(m) 概査区域(m)
関東ローム層相当の地層 100~150以内 200~300以内
砂礫層相当の地層 150~300以内 300~500以内
注1 :区域は掘削現場外縁からの距離
2 :精査区域:全ての既設井戸の水位測定と水質検査を実施
3 :概査区域:解放井戸の水位測定、必要に応じて水質検査を行う
(東京都建設局(1997)

(2)自然的状況

[1]大気環境の状況

(ア)降水の状況

「第3章2-2 地下水」参照。

(イ)浸透能の状況

「第3章2-2 地下水」参照。

[2]水環境の状況

(ア)地下水の状況

(a)地下水の性状、水位および流動

 「第3章2-2 地下水」参照。

(b)地下水質の状況

 「第3章2-2 地下水」参照。

[3]土壌及び地盤の状況

(ア)土地の履歴

 現状における土壌汚染の可能性の検討には、土地の履歴把握が重要である。土壌汚染に係る土地の履歴把握として、過去における工場・事業所等の存在、農地使用、周辺における大気・粉じん発生源の存在、埋立、盛土用材の出自等について把握する。
 また、土地の安定性に関しては、過去における土地の造成や洪水等の履歴等が土地の安定性に影響を与える場合があるため、これらの状況について把握する。

(イ)地盤沈下の状況

 地盤沈下については、国土地理院及び各自治体が水準基標を設置し水準測量を行っており、その成果は地盤沈下調査報告書等として定期的に公表されている。対象地域内に設置されている水準基標についてデータを収集し、経年変動として整理し、当該地域の地盤沈下の特性を把握する。
 なお、全国の地盤沈下の概況については、「全国地盤環境ディレクトリ」(http://www.eic.or.jp/eanet/jiban/index.html)で把握することができる。
 また、対象地域内に各自治体等の環境影響評価条例、要綱に係る対象事業がある場合には、事後調査等で地盤沈下の状況について調査している場合があり、事後調査報告書等により局地的な地盤沈下の情報を得られる場合がある。

(ウ)土壌の分布と特性

 土壌の分布と特性についての既存資料としては、国土庁、都道府県、営林局及び都道府県の林業、農業試験場で整理されている土壌図並びに土壌分析データがあり、各保有機関において閲覧等により入手することができる。入手したデータは、必要に応じて土壌の種類ごとに分布状況、理化学的性質等をとりまとめ、当該地域の土壌の分布・特性を把握する。土壌図等の所在情報の主な入手先を表 3-3-4に示す。

表 3-3-4 土壌図の所在情報

情報名 情報内容 情報作成保有機関 入手方法
土地分類図 1/20万・1/5万土壌図、表層地質図、地形分類図、土地生産力可能性分級図、土地利用分級図 国土庁土地局
都道府県
表3-2-10参照
国有林土壌図 1/2万、全国有林 各営林局 各営林局で閲覧
適地適木調査土壌図 1/5千、民有林の一部 都道府県林業試験場 都道府県林業試験場で閲覧
地方保全基本調査土壌図 1/5万農耕地土壌図、土壌生産性分級図、地力保全対策図
1/10万耕地土壌図、要土地改良対策図、要土層・土壌改良対策図
都道府県農業試験場 都道府県農業試験場で閲覧
表土改変状況調査報告書 関東地方の表土についての昭和20年代~50年代の改変状況 環境庁 環境庁で閲覧

((社)環境情報科学センター(1999))

(エ)貴重な土壌の状況

 土壌について保全上の重要性や貴重性という観点からの検討は従来あまりなされてきていなかったが、土壌の生成にはきわめて長期間を有することから、学術上・希少性の観点からの重要性についても検討が必要である。貴重な土壌についての資料としては、「わが国の失われつつある土壌の保全をめざして~レッド・データ土壌の保全~」(日本ペドロジー学会 2000年)がある。

(オ)有害物質による汚染の状況

 有害物質による土壌汚染の状況についての既存資料としては、一般にこれまでに各都道府県によって調査した事例の統計データ(業種別項目別の基準超過事例、要因、汚染の規模、対策状況等)は公表されているものの、実際の汚染が確認された場所や詳細な調査データは入手が困難である。また、廃棄物処分場又は廃棄物の投棄跡についても法規制(昭和52年)以前については使用履歴の記録がない場合が多い。そのため、有害物質による汚染の状況については、土地所有者や関連行政担当者への聞き取り調査を主体とする。
 なお、一部の事例では、土壌や地下水、地盤に係る学会等において調査データが公表されている場合がある。

[4]地盤及び地質の状況

(ア)地形・地質の状況

 「第3章2-2 地下水」参照。

(イ)活断層の状況

 活断層については、「新編日本の活断層」(東京大学出版会、1991年)があり、全国の活断層の分布や性状について把握することができる。
 また、三大都市圏と政令指定都市(東京の東部と千葉市を除く)については、1/2.5万都市圏活断層図(国土地理院)があり、いずれの資料についても日本地図センターや書店で購買が可能である。

(ウ)地すべり、崩壊の状況

 地すべり、崩壊については、建設省、農林水産省(林野庁)がそれぞれ管轄する区域について地すべり指定区域や急傾斜危険区域を指定しており、5年毎に見直されている。指定状況については、各事務所の管内図等により閲覧が可能であるが、これらの地域指定は網羅的にではなく、保全対象との関係から指定されていることに留意する。
 また、科学技術庁防災科学研究所による地すべり地形分類図(1/5万、主に東北地方)が公表されており、自治体によっては別途アボイドマップや地すべり調査総括書として公表している場合もある。

 

(3)社会的状況

[1]人口及び産業の状況

(ア)人口の状況

 調査対象地域の人口およびその分布を把握する。

(イ)産業の状況(土壌汚染等の発生源)

 調査対象地域の産業として、土壌汚染等の発生源となるおそれとなる産業の状況について、統計的概要および主要施設の位置等を把握する。

[2]土地利用の状況

(ア)土地利用の状況

 主に土地利用図により、土地利用の状況を把握する。場合によっては、植生図、航空写真等の既存資料や、現地踏査を併用する。

(イ)用途地域の指定状況

 主に都市計画図により、調査対象地域の用途地域の指定状況を把握する。また、将来的な住宅開発等の可能性についても、各地方自治体の土地利用誘導施策等を総合計画等の資料により把握する必要がある。

[3]地下水の利用の状況

 上水道、農業用水、工業用水などとして利用されている地下水の量などを統計量として把握するほか、主要な利用の地点、施設についてはその位置、利用量等を把握する。

[4]被影響施設の配置の状況

(ア)被影響施設の配置の状況

 「第3章2-2 地下水」参照。

(イ)住宅の配置の状況

 住居の配置は、土地利用状況や都市計画法に基づく用途地域の指定状況等に加え、現地踏査により現在の状況についても確認しておくことが望ましい。
 また、将来的な住宅開発等の可能性についても、各地方自治体の土地利用誘導施策等を総合計画等の資料により把握しておく必要がある。

 

[5]法令・基準の状況

 土壌・地盤に係る法律・基準の状況として、以下の法令・条例等から必要なものを選択し、環境基準、規制基準、目標値及びその地域指定等を整理する。

(ア)土壌汚染に係るもの

・環境基本法(土壌・地下水に係る環境基準)
・農用地の土壌の汚染防止等に関する法律
・土壌・地下水汚染に係る調査対策指針および運用基準
・廃棄物の処理及び清掃に関する法律
・地方自治体の環境影響評価条例、要綱
・地方自治体の土壌汚染防止に係る条例、要綱
・地方自治体の土砂の埋立、盛土等の規制に係る条例

(イ)地盤沈下に係るもの

・工業用水法
・建築物用地下水の採取の規制に関する法律
・公害防止計画 等
・地方自治体の公害防止条例 等
・地方自治体の環境基本計画 等
・地方自治体の地下水の取水、汚染に関する指導条例、要綱 等
・地盤変状に係るもの
・学会等における地盤変状に関する指針、設計基準等

[6]その他の事項

(ア)地盤沈下による被害状況

 地盤沈下による被害状況についての既存資料は、一般に地方自治体の苦情統計として整備されている程度である。対象地域の地盤沈下・地盤変状による被害状況については、現地踏査および現在、過去の土地所有者等への聞き取り調査により、当該地域の特徴を把握する。

 

(4)概略踏査の考え方

 概略踏査においては、環境影響評価に十分な経験を有する技術者が、対象地域内を踏査することにより、既存資料調査で把握した地域情報の確認及び修正や、既存資料では把握することのできなかった地域情報の補完を行う。
 土壌・地盤の既存資料は、情報により縮尺が異なるものや点情報のものなど内容や精度が異なるため、既存資料の収集整理のみではその現状を把握することはできず、一定の知見や知識を持った技術者がその内容を解釈することが必要である。このため、現地踏査により既存資料で得られた情報の精度向上と、情報間の地域特性補完を図る。また、地盤沈下・地盤変状による被害の状況等の主に現地でのみ得られる情報や土地利用の状況など比較的短い期間で変化する情報もある。これらの情報を現地踏査により確認することで、その地域の生活の特徴や地盤の状況などを知ることができる。
 なお、地域特性把握のための概略踏査では、後述の調査・予測・評価のための地点設定の踏査を兼ねることができる。この場合には、選定される環境影響評価項目および調査・予測・評価手法について大まかなイメージを持った上で概略踏査を行う必要がある。

 

4)環境影響評価の項目の選定

(1)標準項目

 主務省令で定められた標準項目は、対象事業の種類毎の一般的な事業内容について実施すべき内容を定めたものであり、事業の内容や地域特性は全て異なるため、常に項目の追加・削除の必要が生じることに留意する。
 環境影響評価法の対象となる各事業毎の土壌及び地盤に係る標準項目は表 3-3-5に示す通りである。(土壌については、標準項目としては選定されていない)

表 3-3-5 土壌・地盤に係る標準項目(土地又は工作物の存在及び供用)
fig_12.gif (4566 バイト)

(2)環境影響評価項目の選定

[1]影響要因の抽出

 対象事業の事業特性から、事業における環境影響要因を抽出する。影響要因の抽出は、各事業毎に規定された標準的な影響要因(標準項目の表の上欄に掲げられた影響要因の細区分)に対し、事業特性に応じて要因の削除及び追加を行うことにより実施できるが、標準項目を参照せずに影響要因を抽出し、抽出された影響要因を標準項目の区分に従って分類し、要因の削除及び追加を行うこともできる。
 土壌・地盤に係る影響要因は、対象事業の事業内容や工事内容を表 3-3-6に示す地下水挙動に係る工事内容や、表 3-3-7に示すような業種別土壌汚染超過事例と照らし合わせて選定する必要がある。

表 3-3-6 地下水挙動に係る工事内容

種別 工種
土工 掘削(床堀)工、盛土(埋戻)工
杭打工・引抜工 打撃工・振動工
基礎工 場所杭打工
トンネル工、橋梁下部工 圧気ケーソン工、圧気シールド工
仮設工 水替工、遮水性山留め工、地中連続壁等、仮締切り工、中間杭、棚杭
地盤改良工 載荷工、排水工、薬液注入工、締固め工、地下水位低下工
アンカー工 グランドアンカー
地盤調査 地質調査(ボーリング)

((社)環境情報科学センター(1999)を一部改変)

表 3-3-7 業種別土壌汚染超過事例(平成9年度)
fig_13.gif (17122 バイト)

 

[2]環境要素の抽出

 事業実施区域及びその周辺の地域特性から、環境の変化による影響を受ける環境要素を抽出する。環境要素の抽出は、各事業毎に規定された標準的な環境要素(標準項目の表の左欄に掲げられた環境要素の細区分)に対し、地域特性に応じて要素の削除及び追加を行うことによる。なお、この段階で影響要因と環境要素の関係を厳密に検討する必要はないが、影響要因に全く関係しない環境要素を選定したり、あるいは影響要因があるにもかかわらず関連する環境要素が選定されないなどの事態が生じないように、影響要因をある程度考慮しつつ環境要素を検討することが必要である。
 土壌汚染に関しては、法令等による規制物質以外にも住民等の関心の高い物質などについては留意する必要がある。(表3-3-8)

 

表3-3-8 主な土壌汚染物質

区分 規制物質 未規制物質
重金属 カドミウム、鉛、六価クロム、総水銀、アルキル水銀、銅 ニッケル、亜鉛
有機化合物 有機燐、PCB、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼン、1,3-ジクロロプロペン、チラウム、シマジン、チオベンカルブ 油分
残留性有機汚染物質(POPs)国際条約の指定物質(アルドリン、ディルロリン、エンドリン、トキサフェン、DDT、クロルデン、ヘプタクロル、マイレックス、HCB、PCB、ダイオキシン類、フラン類)
ダイオキシン類 ポリ塩化ジベンゾフラン、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキエン、コプラナーポリ塩化ビフェニル
その他 全シアン、砒素、セレン、ふっ素、ほう素 酸、アルカリ

 

[3]項目の検討

 影響要因と環境要素の関係から、環境影響評価の対象となる項目を選定する。この際に、標準項目の表において空欄となっている部分(標準項目の表に記載された影響要因と環境要素においては関連しないとされている部分)についても、特に影響要因の内容が若干異なることにより、対象とすべき必要が生じる可能性があることに留意する。

[4]不必要な欄の削除

 項目として全く選定されなかった影響要因および環境要素を表から削除し、環境影響評価の項目の選定のマトリックスを完成する。

[5]インパクトフローによるチェック

 マトリックス表現によって十分に表現されない環境影響の漏れを防止するため、インパクトフロー型の影響関連図を作成し、選定した影響要因および環境要素の検討を行う。

 

(3)項目の削除と追加

 上で抽出された環境影響評価の項目と、各事業区分毎に定められた標準項目を比較し、削除された項目及び追加された項目を把握した上で、各々について削除及び追加の考え方に合致していることを確認する。項目の削除及び追加は、以下のように定められた条件に合致していることが必要である。

[1]項目の削除を行う場合

4 第一項の規定による項目の削除は、次に掲げる項目について行うものとする。
標準項目に関する環境影響がないか又は環境影響の程度がきわめて小さいことが明らかである場合における当該標準項目
対象事業実施区域又はその周囲に、標準項目に関する環境影響を受ける地域その他の対象が相当期間存在しないことが明らかである場合における当該標準項目

(環境事業団が行う宅地造成事業に係る指針 第六条)

 ここで、「影響がないあるいは著しく小さいことが明らかな場合」とは、標準項目の表の上欄に掲げられた影響要因の細区分に相当する行為対象がない場合や、事業内容あるいは工事内容等から、類似事例に照らして土壌・地盤への影響が著しく小さいことを説明できることが必要である。
 なお、上記「二」については、土壌・地盤に関しては基本的に該当するケースはないと考えて良い。

[2]項目の追加を行う場合

5 第一項の規定による項目の追加は、次に掲げる項目について行うものとする。
事業特性が標準項目以外の項目(以下この項において「標準外項目」という。)に係る相当程度の環境影響を及ぼすおそれがあるものである場合における当該標準外項目
対象事業実施区域又はその周囲に、次に掲げる地域その他の対象が存在し、かつ、事業特性が次のイ、ロ又はハに規定する標準外項目に係る環境影響を及ぼすおそれがあるものである場合における当該標準外項目
標準外項目に関する環境要素に係る環境影響を受けやすい地域その他の対象
標準外項目に関する環境要素に係る環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象
標準外項目に関する環境要素に係る環境が既に著しく悪化し、又は著しく悪化するおそれがある地域

(環境事業団が行う宅地造成事業に係る指針 第六条)

(ア)標準外項目に関する環境要素に係る環境影響を受けやすい地域その他の対象

例:
農用地(土壌汚染)、精密機械等の産業施設(地盤沈下)、住居(地すべり、崩壊)が分布する地域

(イ)標準外項目に関する環境要素に係る環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象

例:
工業用水法(昭和31年法律146号)第3条1項に規定する指定地域
建築物用地下水の採取の規制に関する法律(昭和37年法律第100号)第3条第1項に規定する指定地域
地方自治体の公害防止条例等に規定する指定地域
地すべり等防止法に規定する地すべり防止区域
急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律に規定する急傾斜地、崩壊危険区域

(ウ)標準外項目に関する環境要素に係る環境が既に著しく悪化し、又は著しく悪化するおそれがある地域

例:
環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の規定により定められた環境上の条件についての基準(第5条第1項第2号イ及び別表第2において「環境基準」という。)であって、土壌の汚染に係るものが確保されていない地域
現時点で地盤沈下による問題が生じている地域
現時点で地盤の変状が発生している、またはこれまでに発生した地域

 

5)調査・予測・評価手法の選定

(1)調査・予測・評価手法検討の考え方

 環境影響評価における調査・予測・評価を効果的かつ効率的に行うためには、環境影響評価の各プロセスにおいて行われる作業の目的を常に明確にしておくことが必要である。環境影響評価における最終的な目的は「評価」であることから、スコーピング段階における調査・予測・評価の手法検討では、実際の環境影響評価における作業の流れと逆に、評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討の順に検討を進める必要がある。特に、項目や手法の重点化、簡略化を行う場合には、従来の環境影響評価とは異なった調査が必要になったり、あるいは従来行われてきた調査が不必要になったりする場合があるため、スコーピング段階でこの評価、予測、調査の関係について十分な検討が行われていないと、無駄な調査の実施や調査不足による手戻り等が生じるおそれがある。

 

(2)評価の考え方

 環境影響評価法における評価の考え方は、大きく下記のア、イの2種類があり、これらのうちアについては評価の視点に必ず盛り込む必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点も必ず盛り込む必要がある。
ア、イの評価を併用する場合には、イの基準等との整合性が図られた上でさらにアの回避・低減の措置が十分であることが求められる。

ア 環境影響の回避・低減に係る評価

 建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。
なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。

イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る評価

 評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。

(基本的事項 第二項五(3))

 環境基準等の基準、目標が設定されている土壌環境については、上記ア、イの評価を併用することとなる。またその他の土壌や地盤については基準、目標が設定されていないことから上記アの視点に基づき評価することとなる。従来の環境影響評価においては、イの視点からの評価が主流であったため、特にアの視点による評価を行うための調査・予測・評価手法の選定には、手戻り等を生じないように十分な検討を行う必要がある。
 ウの留意事項においては、事業計画と事業者以外の者が実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。

 

(3)調査・予測・評価範囲及び地点の設定

[1]調査・予測・評価の対象とする地域・地点の考え方

 基本的事項において、調査および予測の対象となる地域(以下、調査地域、予測地域)・地点(以下、調査地点、予測地点)の範囲は、下記のように定められている。

イ 調査地域

 調査地域の設定にあたっては、調査対象となる情報の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域等とすること。

ウ 調査の地点

 調査地域内における調査の地点の設定に当たっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報の内容及び特に影響を受けるおそれがある対象の状況を踏まえ、地域を代表する地点その他の情報の収集等に適切かつ効果的な地点が設定されるものとすること。

イ 予測地域

 予測の対象となる地域の範囲は、事業特性及び地域特性を十分勘案し、選定項目ごとの調査地域の内から適切に設定されるものとすること。

ウ 予測の地点

 予測地域内における予測の地点は、選定項目の特性、保全すべき対象の状況、地形、気象又は水象の状況等に応じ、地域を代表する地点、特に影響を受けるおそれのある地点、保全すべき対象等への影響を的確に把握できる地点等が設定されるものとすること。

(基本的事項第二項五(1)、(2))

[2]調査地域

 土壌・地盤に係る調査地域は、事業やその影響の特性及び地域の特性を踏まえて設定するものとする。この場合、土壌については地形・地質、植生、土地利用等が、地盤については地形・地質、地下水、集水域等が踏まえるべき地域特性として重要である。

[3]調査地点

 土壌・地盤の調査は、ボーリング調査や土壌調査など定点において行うものと、物理探査や水準測量等のように測線での調査を行うものがあり、調査内容に応じて、調査地点・調査測線を設定することとなる。現地調査を実施する場合の調査地点・測線は以下のような項目に配慮して設定し、また既存資料を用いる場合には、以下のような項目の条件に合致することを確認した上で用いる。

(ア)地域を代表する地点、測線

 周辺の地形・地質、土壌汚染の状況を勘案して、調査対象地域の土壌・地盤を適切に把握できる地点・測線とする。調査地域内に複数の地形を含む場合は、各地形について調査地点や測線を選定し、特に地形や地質の変換点付近については調査地点や測線の数を密にするなどの対応が必要である。土壌汚染については、土地の履歴から推定される汚染の可能性により調査頻度(回数、地点数)を増減するなど調査地域の特性を考慮する必要がある。

(イ)特に影響を受けるおそれのある地点

 事業による影響が特に大きいと予想される地点(地盤沈下の発生や土地の安定性が変化する可能性のある地盤の分布地域、急傾斜地、大気経由の汚染物質の着地地点等)は、事業特性や類似事例からおおまかな地点を予想して設定する。なお、設定した地点には、他の事業や汚染源等の影響が少ないことを確認する必要がある。

(ウ)特に保全すべき対象等の存在する地点

 表 3-3-9に示す例のような、特に保全すべき対象の存在する地点について、事業特性や類似事例から必要に応じて調査地点として選定する必要がある。

 

表 3-3-9 特に保全すべき対象の例

区分 特に保全すべき対象対象の例
地盤沈下 精密機械等産業施設、研究機関、鉄道
土壌汚染 農用地、水源地
土地の安定性変化 急傾斜地、地すべり対策地帯
地盤の変状 埋立地、岩石等採掘跡地

 

(エ)既に環境が著しく悪化している地点

 既に土壌汚染の生じている地点や地盤沈下が問題となっている地域などを選定する。

[4]予測地域

 調査実施前のスコーピングの段階においては、特別な理由のない場合には予測地域を調査地域と同一に設定することが考えられるが、調査を実施した結果から予測地域とする必要がないと判断された場合には、調査地域の一部を予測地域とすることができる。
また、例えば事業の工事内容(土地の改変規模、揚排水量、工法等)や事業汚染物質の排出量そのものにより予測・評価を行う場合には、特に予測地域を定めずに予測・評価を行うこととなる。

[5]予測地点

 予測地点は、調査地点と同様に環境の状況の変化を重点的に把握することとする場合に設定するものであり、定点での評価を必要としない場合には必ずしも予測地点の設定を必要としないが、調査地点における(イ) 特に影響を受けるおそれのある地点や、(ウ)特に保全すべき対象等の存在する地点、(エ)既に著しく影響を受けている地点のある場合には、これらの地点を予測地点とすることが考えられる。また、事後調査におけるモニタリング実施地点等にも配慮して予測地点の設定・選定を行う必要がある。

(4)予測・評価の対象とする時期の考え方

 予測の対象時期は、基本的に「第2章2 スコーピングの実施手順」に示す考え方に基づいて設定する。
 地盤においては、特に工事中と供用時において影響要因の特性が異なるため、工事中と供用後に分けて予測対象時期を設定する必要がある。工事中については、掘削・盛土・切土の深度や揚水量等の影響要因が最大となる時点とし、供用後については、事業活動(取水・排水等)が通常の状態に達した時期とする。また、地盤沈下、液状化や地すべりの発生要因である地下水は気象(降水)の状況により変化するため、降水量が少なく地下水位が年間を通して最も低くなる渇水時期に留意して予測対象時期を設定する必要がある。
 土壌汚染においても地盤と同様、工事中と供用後において影響要因の特性が異なるため、工事中と供用後に分けて予測対象時期を設定する必要がある。工事中については、土壌汚染の処理・対策に伴い周辺への影響が考えられるため、事業対象地域が現時点で土壌汚染の存在する場合に、土壌汚染の処理・対策する時期を考慮して設定する必要がある。供用後については、事業活動に伴う汚染物質の排出による周辺への影響が主であることから、事業活動(排出)が通常の状態に達した時期とする。

 

(5)調査・予測手法の選定

 土壌・地盤分野において、特に冒頭に示した土壌の機能や地盤の安定性の変化など、従来の環境影響評価においては対象とされてこなかった項目を扱う場合には、環境影響評価の事例がない、あるいは少ないため、新たに調査・予測・評価の手法を見いだすことが必要となる。
 また従来より環境影響評価の対象とされてきた土壌汚染、地盤沈下についても、標準手法には、標準項目に関する調査・予測・評価手法しか記載されていないため、標準項目以外の項目に関する調査・予測・評価手法については、事業者が個別に検討・選定する必要がある。なお、他の種類の事業において標準手法が設定されている場合には、これらの手法を参考にするほか、以下に示すような資料を参考に適切な手法を選定する。

環境アセスメントの技術   (社)環境情報科学センター
影響評価技術シート(本報告書第5章)
土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針運用基準 環境庁水質保全局

地方自治体の環境影響評価技術指針

 

(6)手法の重点化・簡略化

 土壌・地盤において手法の重点化・簡略化を検討する要素としては、以下のようなものが考えられる。

 

〔手法の重点化を検討する要素〕

[1]想定される環境への影響が著しい場合

[2]環境影響を受けやすい地域又は対象が存在する場合

地盤沈下や液状化の生じる可能性のある第四系地盤の分布地域
大気経由の汚染物質の着地地点
上水水源となる地下水や湧水の涵養地域
農用地(土壌汚染)、精密機械等の産業施設(地盤沈下)、住居(地すべり、崩壊)等が存在する地域
学術上・希少性の観点から重要な土壌が存在する地域

[3]環境の保全の観点から法令等により指定された地域又は対象が存在する場合

工業用水法(昭和31年法律第146号)第3条第1項に規定する指定地域
建築物用地下水の採取の規制に関する法律(昭和37年法律第100号)第3条第1項に規定する指定地域
地方自治体の公害防止条例等に規定する指定地域
地すべり等防止法に規定する地すべり防止区域
急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律に規定する急傾斜地、崩壊危険区域

[4]既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在する場合

環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の規定により定められた環境上の条件についての基準(第5条第1項第2号イ及び別表第2において「環境基準」という。)であって、土壌の汚染に係るものが確保されていない地域
現時点で地盤沈下による問題が生じている地域
現時点で地盤の変状が発生している、またはこれまでに発生した地域

[5]地域特性、事業特性から標準手法では予測が技術的に困難と思われる場合

複雑な地形・地質等の条件を有する地域
珊瑚礁などの特異な地質条件を有する地域

 

〔手法の簡略化を検討する要素〕

[6]環境への影響が極めて小さいことが明らかな場合

[7]影響を受ける地域又は対象が相当期間存在しないことが明らかな場合

[8]類似の事例により標準手法を用いなくても影響の程度が明らかな場合

 

(7)土壌・地盤沈下に関する項目・手法の選定

 スコーピング段階では上記の結果を踏まえ、事業者が適切かつ実施可能と判断した手法を選定する。選定にあたっては、調査・予測・評価に関する計画内容として概ね以下の事項について整理する。
 その際、調査・予測・評価手法の選定に関する基本的事項及び技術指針の内容に十分留意することが必要である。

[1]調査手法
調査対象・調査項目:調査の対象とすべき要素と調査すべき情報の種類
調査地域・地点:範囲、位置等(図面情報等)
調査法:調査対象、調査項目、調査地域の特性に応じて選定
調査期間・時期:期間、時期、回数等(工程表等)
調査体制
[2]予測手法
予測する影響の種類:対象要素に関して予測する影響の種類
予測地域・地点:範囲、位置(図面情報等)
予測法:予測する影響の種類に応じて選定
予測時期:工事中、存在、供用時等影響の発生時期に応じて設定
[3]評価手法
評価及び環境保全措置検討の基本方針

 

参考文献

国土開発技術研究センター(1993)地下水調査および観測指針(案).山海堂、東京、pp330.

(社)環境情報科学センター(1999)環境アセスメントの技術.中央法規出版、東京、pp1018.(環境庁編 環境影響評価技術マニュアル(暫定版)の市販本)

環境庁(1999)平成9年度土壌汚染調査・対策事例及び対応状況に関する調査結果の概要

東京都建設局(1997)工事に伴う環境調査要領.(財)東京都弘済会、東京、pp188.

大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(I)TOPへ戻る