1 スコーピングの考え方
1)スコーピングとは
スコーピングとは、事業者が、事業計画の概要や事前に把握した地域の特性を基にして、今後行うべき環境影響評価の実施計画(項目及び手法)の案を検討し、これを記載した「方法書」を作成・公告・縦覧して地方公共団体や環境保全の見地からの意見を有する者(以下「住民等」)の意見を聴き(方法書手続)、この手続の結果を踏まえながら適切な環境影響評価の項目及び手法の選定を行うとともに、早い段階からの環境配慮の検討等に生かすプロセスである(図2-1)。
図2-1 スコーピングの流れ
【留意点】 スコーピングと方法書手続
図2-1に示す通り、方法書手続は、スコーピングにあたって地方公共団体や住民等の意見を聞く手続であり、スコーピングの一部をなすものである。一方スコーピングは環境影響評価の調査・予測・評価の実施中においても必要に応じて環境影響評価の項目・手法の見直しを行うものであり、環境影響評価を終えるまで継続される。
従って、本書で述べる「スコーピングの進め方」は、方法書作成時のみならず、環境影響評価を実施する期間中にわたって適用されるものである。
2)スコーピングの目的
このプロセス導入の目的は、第一に環境影響評価の実施方法について多くの者の意見を聴くことによりメリハリの効いた適切な環境影響評価を実施すること、第二に環境影響評価への住民等の参加をできるだけ早め、早い段階からの環境配慮の検討などに生かすことである。
従来の環境影響評価では、マニュアルにとらわれた定型的・非効率な環境影響評価が行われることが多かった。特に大気・水・土壌環境の環境影響評価においては、環境基準等の数値を扱うことが多く、調査・予測・評価の手法が特に画一的、限定的になりやすい傾向にあった。
しかしながら、新しい制度においては基準等との整合のみならず、事業者による環境影響の回避・低減についても評価することとなったことから、調査・予測・評価に多様な手法を要求されることとなった。また、環境問題の多様化と国民の意識の高まりによって、環境影響評価の対象とすべき環境要素は拡大・多様化しており、柔軟かつ効果的に対応する必要が生じている。
このため、個別の事案ごとの事業特性・地域特性や社会情勢の変化等に応じて適切な環境影響評価を創意工夫するためにも、スコーピングが必要である。
一方、「アワセメント」と言われたように、多くの場合、事業計画の内容がほぼ固まった段階で意見を聴く手続(準備書手続)が実施されていたため、環境影響評価の結果を計画の修正に反映させることが難しく、環境影響評価の実効性を失わせていた。この点を改め、事業計画の柔軟性がある早期の段階から環境影響評価への住民等の参加を可能とし、環境配慮の検討を事業計画に反映させていくためにも、スコーピングは重要である。
3)ふたつの目的と方法書手続
このふたつの目的からすれば、どの段階で方法書手続を行うかが問題である。つまり、住民等の参加を早めるためには、方法書手続をできる限り早期に行う必要があり、実施時期が遅れると事業計画の柔軟性が減少する。一方で事業特性・地域特性に応じたメリハリの効いた適切な環境影響評価の実施計画を立案するためには、事業計画の熟度が上がって、その影響がある程度想定されることが望ましい。また、地域特性についても、ある程度の事前調査を行って、それらのデータに基づいて方法書を作成することが必要になるために、あまり早い段階の方法書手続は難しい。
そこで環境影響評価法では、事業ごとの固有の事情を踏まえて方法書手続の時期と方法書の内容を決定できるよう事業者に幅広い裁量を与えている1。一方で、事業者はその他に、例えば事業者の環境保全に関する考え方や従来の経緯を記載する等、事業者の判断によって多様な記載が可能である。
また、公告・縦覧された方法書の記載内容は準備書の内容を制約するものではなく、むしろ方法書手続で得られた意見、環境影響評価段階の調査・予測の実施によって入手したデータや環境保全措置の案等も踏まえて、準備書の公告までに柔軟な見直しをすることが必要である。
なお準備書には、これらの見直しを経て最終的に選定された環境影響評価の項目及び調査・予測・評価の手法、つまりスコーピングの結果を記載し、それを選定した理由やその内容の妥当性を明らかにしなければならない。この際、環境影響評価を実施する段階での見直しも含めたスコーピングの経緯等を記載することが有効である。
1 | 方法書の作成を早期に行うために、調査・予測・評価の手法が決定できない場合にはこれらを方法書に記載せず、環境影響評価の項目のみを記載することができる(法第五条第1項第四号)として、必要最低限の記載事項のみを定めている。 |
4)スコーピングのメリット
事業者が地方公共団体や住民等の意見を聴くために作成するのが方法書である。地方公共団体や住民等は、この方法書によって事業者が実施しようとしている環境影響評価の項目、範囲、手法などに関して、調査・予測対象に漏れがないか、手法が適切かどうか確認し、より適切な項目・手法の選定がなされるよう意見を提出することができる。その結果、事業者は新たに有用な情報を得ることが可能となり、提出された意見を集約・検討することによって、適切な環境影響評価の実施に向けて早い段階で事業計画や環境影響評価の実施計画の方向修正ができ、事前に大幅な手戻り要因となる問題点を回避することができる。
従来の閣議決定アセスでは、住民意見を聴く機会は準備書手続に限られていたために、その段階で調査や予測の手法について多くの意見が出されることは手戻り要因となり、事業者にとっては望ましくないと考えられてきた。しかし、方法書手続の段階でできる限り多くの者から、調査や予測の手法に関する多くの具体的な意見を引き出すことは、環境影響評価を円滑に進め、環境に配慮されたより良い事業計画を作るために有効である。
なお、準備書段階で生じる手戻りのリスクや地元住民等しか持ち得ない有用な情報収集が可能なことなども勘案すると、時間・コスト・労力などの面で、従来より効率的な環境影響評価を行うことができると考えられる。
5)方法書作成にあたっての考え方
事業者は上記ふたつの目的とメリットを理解し、地方公共団体や住民等から有用な意見を引き出し、より良い事業計画と環境影響評価の実施計画を立案するため、事業ごとの事情に応じて、可能な範囲でより早い段階で、わかりやすくポイントを絞り、意見を引き出しやすい方法書を作成することが重要である。
(1)わかりやすい方法書
方法書の作成にあたっては、未確定な計画内容や工事計画など事業計画に係る部分や、あるいは事業計画地の地域特性、さらに調査の結果想定される内容などについて、ある程度の推測があっても具体的でわかりやすくすることにより、具体的で有用な意見を引き出すことが可能となる。この推測の内容は、環境影響評価段階で確認しながら必要に応じ環境影響評価の項目・手法を見直すなど柔軟に対応していくことが大切である。なお、推測の部分については、その不確実性を明記することが必要である。
(2)事業の目的等
環境影響評価は、さまざまな意見をとり入れることにより、環境配慮上よりよい事業計画を策定するためのプロセスである。従って、事業の目的、必要性についての理解を得ることは、環境影響評価の実施の上で大前提となる。従って、方法書において、事業の目的や具体的内容、必要性、そこに至るまでの経緯について十分な説明を行うことが必要である。
また、方法書を読む者に事業者の考えを理解してもらうために、環境保全に関する事業者の考え方を示す必要があり、可能であればさらにそれを具体化するための措置や選択可能な幅を示すことが望ましい。
(3)個々別々の方法書
事業の内容、地域特性はそれぞれの事業において同一ではあり得ないため、スコーピングの内容は自ずと異なるものであり、その内容を記述した方法書も事業ごとに異なるはずである。
従って、事業計画や地域特性を踏まえた十分なスコーピングを行った結果として他事業の例と大きく異なる方法書は、他事業と横並びの内容を記述した方法書と比較して、より優れた方法書であると考えられる。
6)大気・水・土壌環境のスコーピングの留意点
(1)スコーピング段階における調査の留意点
大気環境分野(大気質、騒音、振動、悪臭、風害等)、水環境分野(水質、底質、地下水等)及び土壌環境その他の分野(地形地質、土壌、地盤、日照阻害等)に関する環境影響評価段階の調査では、地域の環境の現状について全体的に把握するための調査を行い、次に特に留意すべきものなどについてより詳細な調査を行うことになる。
スコーピングの段階で地域特性を把握するために行われる地域概況調査においても、上記のふたつの側面からの情報を収集することになるが、この段階では調査・予測・評価の計画立案のために必要な情報を得ることが目的であり、情報収集の手段としては、既存文献調査を中心に現地概略踏査を加え、また必要に応じて専門家等へのヒアリングを行った上で得られた情報を整理することになる。
環境影響評価段階の調査では対象事業が実施されるべき区域及びその周囲(以下、「対象地域」という)全体の詳細な現地調査(例えば大気質の調査)を実施することで、調査内容の熟度が高められていくことになり、方法書の段階では把握することのできなかった重要な要素(例えば局所的な窒素酸化物の高濃度)が確認されることがある。このような場合には、その時点で環境影響評価の対象に加え、その旨準備書に記載することになる。
(2)各選定項目の関連性に着目した調査の実施
「環境の自然的構成要素の良好な状態の保持」に係る項目である大気環境、水環境、土壌環境その他の環境(以下「大気・水・土壌環境」という)は、「生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全(以下「生物の多様性」という)」にかかる項目や「人と自然との豊かな触れ合いに係る項目(以下「自然との触れ合い」という)」と密接な関係を持っている。
スコーピング段階においては、「大気・水・土壌環境」に係る項目の選定、調査・予測・評価の手法検討にあたって、事業実施区域および周辺の「生物の多様性」、「自然との触れ合い」を考慮することが必要である。一方、自然的構成要素に関して収集した「生物の多様性」や「自然との触れ合い」に関する情報は、これらの項目のスコーピングのための資料として用いることにもなるため、調査に先だって各項目間の情報の融通を十分に検討することが必要である。
さらに予測・評価にあたっては、「大気・水・土壌環境」に係る予測結果は、「生物の多様性」、「自然との触れ合い」に関する予測の基礎資料となる。
また、「環境への負荷分野」については、例えば酸性雨のように環境への負荷を総量の側面から把握するとともに大気汚染物質の側面等から検討するなど、同じ対象をそれぞれの視点で扱うこともあるなど密接な関係にある。
環境影響評価の実施にあたっては、これらの項目の相互関係を十分に考慮することが求められるが、影響と被影響の関係を明示することにより、環境影響評価における項目間の相互関係は分かりやすいものとなる。
図2-2 他の項目との関連に着目した自然的構成要素に係る環境影響評価
(3)環境負荷量の整理
温室効果ガス等・廃棄物等の環境負荷分野と同様に大気・水・土壌環境分野においても事業のもつ環境負荷の大きさを定量的に整理することは重要である。(環境負荷分野のスコーピングの考え方と実施手順については第4章を参照のこと)
環境負荷の大きさは、例えば大気汚染物質の日最大排出量と年間排出量を示したり、道路交通騒音では交通量や大型車混入率、走行速度を用いて負荷量を示すことが考えられる。
大気・水・土壌環境分野においては個々の環境影響を見ていくと同時に、環境保全措置の効果の程度や低負荷型の事業形態か否かといったことを理解されやすくするためにも環境負荷の大きさを整理しておくことが望ましい。
2 スコーピングの実施手順
ここでは、図 2-2に示した「環境の自然的構成要素の良好な状態の保持」に係る分野の各項目のスコーピングの実施手順の概略と各項目に共通する事項について述べる。各項目ごとの検討作業の詳細については、第3章の各論において後述する。
1)事業特性・地域特性把握の考え方
事業特性・地域特性の把握は、対象事業や対象地域の特性や位置づけを明らかにし、環境影響評価の項目、調査・予測・評価手法を選定するために必要な情報を得ることを目的として行う。従って、事業特性・地域特性の把握は各項目を環境影響評価の対象として選定するか否かを問わずに総括的・網羅的に実施されるべきものである。しかし、事業特性把握や地域特性把握の途中段階において、環境影響評価項目として選定しないと決定するに足る十分な情報が得られれば、当該項目に関する事業特性・地域特性把握をさらに充実させる必要はない。
なお、項目の選定を行う場合や、標準項目を環境影響評価項目として選定しない場合には、各々その理由を明らかにすることが必要であることから、その理由を説明するに足る十分な特性把握を行わなければならない。
また、項目・手法選定のために必要な事業特性・地域特性は環境影響評価項目ごとに異なるが、事業特性・地域特性としてのとりまとめは項目横断的に行い、方法書等に記載する際には、事業特性・地域特性の全体像が把握しやすいように必要な情報を加えて記述する。
図2-3 事業特性・地域特性把握の考え方
2)事業特性の把握
事業特性の把握は、環境影響評価の項目、調査・予測・評価手法を選定するために必要な情報を得ることを目的として行う。
把握すべき事業特性に係る情報については、事業種ごとに各主務省令において定められている。一般的には、
(1) | 対象事業の種類 |
(2) | 対象事業の位置(対象事業実施区域、施工区域、敷地境界など) |
(3) | 対象事業の規模 |
(4) | 事業計画の概要及び諸元 |
(5) | 供用時の運用計画の概要 |
(6) | 工事実施計画の概要(工法、期間、工程計画、仮設工作物の計画などの工事の実施計画の概要) |
(7) | その他の対象事業に関する事項(特に環境影響が生じるおそれのある事項) |
などである。 |
一 | 事業特性に関する情報 |
イ | 対象事業実施区域及びその面積 |
ロ | 事業の実施に係る工法、期間及び工程計画の概要 |
ハ | 配置計画、種類、操業規模その他の設置されることとなる工場及び事業場の概要 |
ニ | その他の事項 |
(環境事業団が行う宅地造成に係る指針 第五条第1項)
なお、これらの情報については方法書に事業の内容等として記載されるものであるが、対象事業の内容、計画等が明確ではない段階で方法書を作成する場合には、決定していなくても実施される可能性が高いものは、その旨を明らかにした上である程度幅を持たせて記載するなど、方法書を読む者が事業内容を具体的にイメージしやすいように工夫することが必要である。また、事業計画案が検討された経緯や事業者の環境保全に関する考え方を示すことも有効である。これらによって、より具体的、建設的な意見が得られるとともに、スコーピングの目的のひとつである、事業計画への早期段階での意見も得ることができる。なお、これらの情報は、事業計画の熟度を高めていく過程に応じて準備書の手続までに具体化し、環境影響評価の項目、調査・予測・評価手法の選定に反映させていく必要がある。
3)地域特性の把握
(1)地域特性把握の範囲
[1] 地域特性把握の範囲の考え方
地域特性把握の範囲は、以下の事項を満たす必要がある。
・ | 各項目毎の環境影響評価の調査地域を包含すること |
・ | 環境影響評価の項目の選定、調査・予測・評価の手法の選定のために十分な範囲であること |
地域特性把握にあたっては、調査当初に設定した範囲に固執するあまり、範囲外の重要な項目を見落としたり、あるいは必要以上の概況調査に労力を費やすことのないように留意することが重要である。(変更は可能である。)
環境影響評価の調査地域は、「対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域等」(基本的事項)とされている。環境の状態が一定程度以上変化する範囲は、環境項目毎に大きく異なるため、概況調査範囲も項目毎に異なる。また、環境の状態の変化により事物に影響を与える「一定程度以上の変化」もそれぞれの事物によって異なる。このため地域特性把握の範囲の設定に際しては、各事物にも着目した上で、環境の状態が大きく変化する範囲については網羅的に調査を行い、環境の状態があまり変化しない範囲については、影響を受けやすい事物について調査するなどの柔軟な対応が必要である。さらにその周辺についても特に影響を受けやすい事物が想定されれば抽出して把握することも考えられる。
従って、地域特性把握の範囲は地形図等の図幅単位や事業実施区域からの直線距離あるいは行政区画等により画一的に決定するのではなく、各環境影響評価項目あるいは対象とする地域特性を構成する要素に応じて設定されるべきものである。
また、地域特性の把握調査を進める段階で、さらに広範囲の調査が必要と考えられた場合、あるいは概況調査範囲を縮小しても差し支えないと判断された場合には、臨機応変に調査範囲を変更することが必要である。場合によっては、地域特性把握の範囲を設定する前に、あらかじめ仮の範囲を設定して調査を行って範囲設定を行う場合もあり得る。
図2-4 地域特性把握の範囲の考え方(イメージ)
大気・水・土壌環境の環境影響評価項目については、事業実施区域に加え、水系やアクセス道路などの動線、あるいは流域、地形などの自然条件にも十分留意した範囲設定を行う必要がある。
図2-5 地域特性把握の範囲の考え方(イメージ)
[2] 地域特性把握の期間の考え方
地域特性の把握においては、現況を重視することは当然であるが、環境影響評価の対象となる大規模な事業においては、事業実施が将来になることや、供用後の影響が長期間継続することを勘案し、過去の状況を把握するとともに将来の状況についても想定しておくことが必要である。
(2)地域概況調査
地域概況調査は既存資料(文献・地形図・既往調査結果など)の収集・整理、専門家等へのヒアリング、及び概略踏査などにより行う。
[1] 既存資料調査
大気・水・土壌環境の環境の状況に関する既存資料や人口、産業等の基本的な地域特性に関する情報は、行政資料としてとりまとめられていることが多いため、既存資料調査にあたっては、まず対象地域の行政機関による資料を収集整理することが重要である。さらに詳細な情報は、これらのとりまとめられた資料の出典、担当部局等をたどることによって得られることが多い。また、行政機関の他、電力事業者や有料道路等の道路管理者が長期のモニタリングデータを収集していることも少なくない。なお、既存資料の収集整理にあたっては、最新の資料を用いることを基本とする。
地域特性に関する既存資料として、以下のような資料集がとりまとめられていることが多い。
・ | 環境の現況に関するもの:環境白書、○○の公害の現況 など |
・ | 人口、産業等基本的な社会特性に関する情報:県市町村勢要覧、統計白書 など |
・ | 歴史、文化に関する資料:県市町村史 など |
[2] 専門家等へのヒアリング
既存資料調査を補完するために、地域における環境の状況に詳しい研究者等に、必要に応じてヒアリングを行う。
特に、地下水や底質のように既往調査によるデータが十分に得られない場合や、土壌汚染のように、過去の蓄積が重要となる項目については、ヒアリングを行うことが望ましい。
ヒアリングの対象者としては、近在の大学及び高等学校等の研究者及び教諭、博物館の学芸員、地方自治体の職員(公害等行政担当部局、環境影響評価審査担当部局等)、および住民などが挙げられる。
[3] 概略踏査
概略踏査は、一定の調査経験のある技術者(当該アセスメントのコーディネーター及び各環境要素ごとの作業班のリーダー的な存在となるべき技術者等)が現地に赴き、対象地域の大気環境、水環境等の概略の状況を把握・整理し、地域特性や留意すべき社会環境(人間的・生物的・非生物的)などを調べるものである。ここでは、詳細な調査成果を得ることよりよりも、文献等からは得ることができない環境の質や地域特性についてのイメージをつかむことが重視される。また、事業による影響を受けやすい被影響者、被影響物の抽出などを意識して調査することが必要である。
大気・水・土壌環境においては、この段階で環境影響評価の項目が想定される場合には、概略踏査時に調査・予測・評価の対象とする地域・地点等をおおよそ設定することも可能である。
なお、既存資料により情報が十分に得られない、あるいは非常に古いデータしか得られないといった場合には、適切な環境影響評価の実施計画を立案するために必要なデータを得ることを目的として、この段階である程度の現地調査を行うという選択もあり得る。
(3)地域の自然的状況、社会的状況の整理
環境影響評価の項目・手法の選定のために把握すべき対象地域の自然的状況及び社会的状況については、各主務省令において事業種ごとに把握すべき項目が定められている。
二 地域特性に関する情報 | |
イ 自然的状況 | |
(1) | 気象、大気質、騒音、振動その他の大気に係わる環境(次条第三項第一号及び別表第一において「大気環境」という。)の状況(環境基準の確保の状況を含む。) |
(2) | 水象、水質、水底の底質その他の水に係る環境(次条第三項第一号及び別表第一において「水環境」という。)の状況(環境基準の確保の状況を含む。) |
(3) | 土壌及び地盤の状況(環境基準の確保の状況を含む。) |
(4) | 地形及び地質の状況 |
(5) | 動植物の生息又は生育、植生及び生態系の状況 |
(6) | 景観及び人と自然との触れ合いの活動の状況 |
ロ 社会的状況 | |
(1) | 人口及び産業の状況 |
(2) | 土地利用の状況 |
(3) | 河川、湖沼及び海域の利用並びに地下水の利用の状況 |
(4) | 交通の状況 |
(5) | 学校、病院その他の環境の保全についての配慮が特に必要な施設の配置の状況及び住宅の配置の概況 |
(6) | 下水道の整備の状況 |
(7) | 環境の保全を目的とする法令等により指定された地域その他の対象及び当該対象に係る規制の内容その他の状況 |
(8) | その他の事項 |
(環境事業団が行う宅地造成に係る指針 第五条第1項)
[1] 自然的状況 |
|
(ア) | 気象、大気質、騒音、振動その他の大気に係わる環境(「大気環境」 という。) |
・ | 環境を構成する基礎的要素としての気象等の状況 |
・ | 大気汚染等の現状(環境基準の確保の状況を含む。) |
(イ) | 水象、水質、水底の底質その他の水に係る環境(「水環境」という。) |
・ | 環境を構成する基礎的要素としての水象等の状況 |
・ | 水質汚濁等の現状(環境基準の確保の状況を含む。) |
(ウ) | 土壌及び地盤の状況 |
・ | 環境を構成する基礎的要素としての土壌及び地盤の状況 |
・ | 土壌汚染・地盤沈下等の現状(環境基準の確保の状況を含む。) |
(エ) | 地形及び地質の状況 |
・ | 地形及び地質の概要 |
・ | 重要な地形及び地質の分布等の概要 |
(オ) | 動植物の生息又は生育、植生及び生態系の状況 |
・ | 動物相、植物相及び植生の概要 |
・ | 動物相の重要な種の分布、生息状況、及び注目すべき生息地の分布状況等の概要 |
・ | 植物相の重要な種の分布、生育状況、及び重要な群落の分布状況等の概要 |
・ | 全国的な生態系区分における位置づけ及び環境の類型区分 |
・ | 大気、水環境、土壌の状況、地形・地質、植物、動物の状況等から把握される地域を特徴づける生態系の概要 |
(カ) | 景観及び人と自然との触れ合い活動の状況 |
・ | 景観資源・眺望点・眺望の状況から把握される景観の概要 |
・ | 触れ合い活動の状況から把握される触れ合い活動の場の概要 |
[2] 社会的状況 |
|
(ア) | 人口及び産業の状況 |
・ | 地域別人口、年齢構成等 |
・ | 地域における主要産業、主要産業施設の分布等 |
(イ) | 土地利用の状況 |
・ | 面的な土地利用の状況、河川・湖沼等の位置、主要施設の分布等 |
(ウ) | 河川、湖沼及び海域の利用並びに地下水の利用の状況 |
・ | 取水、舟運、レクリエーション利用、漁業等の水域利用の状況 |
・ | 地下水取水状況 |
(エ) | 交通の状況 |
・ | 道路、鉄道等交通機関の位置、経路等 |
・ | 交通機関の交通量(道路交通量、航空機発着頻度 等) |
(オ) | 学校、病院その他の環境の保全についての配慮が特に必要な施設の配置の状況及び住宅の配置の概況 |
・ | 環境の保全についての配慮が特に必要な施設(表 2-1に例を示す)の位置 |
・ | 住宅の配置の状況 |
(カ) | 下水道の整備の状況(浄化槽等を含む) |
(キ) | 環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象及び当該対象に係る規制の内容その他の状況(都市計画等) |
(ク) | その他の事項 |
表2-1 環境の保全についての配慮が特に必要な施設(例)
区分 | 施設の例 |
---|---|
文教施設 | 保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、専門学校、各種学校 等 |
医療施設 | 病院、診療所、療養所 等 |
その他公共施設 | 図書館、児童館、福祉施設 等 |
公園等 | 児童公園、都市公園 等 |
産業施設等 | 研究機関、精密工業、花卉等の農業、畜産業 等 |
4)環境影響評価の項目の選定
環境影響評価の対象とする項目は、各事業毎に主務省令で定められた標準項目に、事業特性および地域特性により項目の追加及び削除を行うことによって選定する。
(1)標準項目
主務省令で定められた標準項目は、対象事業の種類毎の一般的な事業内容を想定して、実施すべき内容を定めたものであり、項目選定の参考として活用される、いわばスタートラインとして設けられたものである。よって、事業の内容や地域特性が変わることにより、常に項目の追加、削除の必要が生じることに留意する。
また、スコーピングの制度が設けられた目的を考えれば、事業特性や地域特性に十分踏み込まずに単に標準項目を選定項目とした方法書は、最も望ましくない方法書内容の一つであるといえる。
なお、標準項目を選定項目として選んだ場合においても、その理由を明らかにしなくてはならない
(2)環境影響評価項目の選定
環境影響評価の対象となる一定以上の規模の事業においては、その事業特性や地域特性が全く同一であることはあり得ない。従って、環境影響評価項目の選定のプロセスは、標準項目の如何に関わらず、全ての事業について必要となる。
環境影響評価の項目の選定は、おおむね以下のようなプロセスに従って行う。
[1] 環境影響を及ぼすおそれがある要因(以下「影響要因」)の抽出
対象事業の事業特性から、事業における環境影響要因を抽出する。影響要因の抽出は、各事業ごとに規定された標準的な影響要因(標準項目の表の上欄に掲げられた影響要因の細区分)に対し、事業特性に応じて要因の削除及び追加を行うことにより実施できるが、標準項目を参照せずに影響要因を抽出し、抽出された影響要因を標準項目等の区分に従って分類し、要因の削除及び追加を行うこともできる。(図 2-6(ア))
[2] 環境要素の抽出
事業実施区域及びその周辺の地域特性から、環境の変化による影響を受けるおそれのある環境要素を抽出する。環境要素の抽出は、各事業毎に規定された標準的な環境要素(標準項目の表の左欄に掲げられた環境要素の細区分)に対し、地域特性に応じて要素の削除及び追加を行うことによる。なお、この段階で影響要因と環境要素の関係を厳密に検討する必要はないが、影響要因に全く関係しない環境要素を選定したり、あるいは影響要因があるにもかかわらず関連する環境要素が選定されないなどの事態が生じないように、影響要因をある程度考慮しつつ環境要素を検討することが必要である。(図2-6(イ))
[3] 項目の検討
影響要因と環境要素の関係から、環境影響評価の対象となる項目を選定する。この際に、標準項目の表において空欄となっている部分(標準項目の表に記載された影響要因と環境要素においては関連しないとされている部分)についても、特に影響要因の内容が若干異なることにより、対象とすべき必要が生じる可能性があることに留意する。(図2-6(ウ))
[4] 不必要な欄の削除
項目として全く選定されなかった影響要因および環境要素を表から削除し、環境影響評価項目選定のマトリクスを完成する。(図2-6(エ)、(オ))
図2-6 環境影響評価項目選定のプロセス(イメージ)
[5] ローインパクトフローによるチェック
マトリックスによる影響要因と環境要素の関連づけは、両者の関係を漏れなく把握することに適している。一方環境要素相互の関係や影響要因と地域特性等の他の要因の関係の把握や、二次的に生じる環境影響の把握には、インパクトフロー型の検討が適している。このため、マトリックス表現によって十分に表現されない環境影響の漏れを防止するため、インパクトフロー型の影響関連図を作成し、選定した影響要因及び環境要素の検討を行う。
図2-7 インパクトフロー型の影響関連図のイメージ
(3)項目の削除と追加
上で抽出された環境影響評価項目と、各事業区分毎に定められた標準項目を比較し、削除された項目及び追加された項目を把握した上で、各々について削除・追加の考え方に合致していることを確認する。項目の削除・追加は、以下のように定められた条件に合致していることが必要である。
[1] 項目の削除を行う場合
4 | 第一項の規定による項目の削除は、次に掲げる項目について行うものとする。 |
一 |
標準項目に関する環境影響がないか又は環境影響の程度がきわめて小さいことが明らかである場合における当該標準項目 |
二 |
対象事業実施区域又はその周囲に、標準項目に関する環境影響を受ける地域その他の対象が相当期間存在しないことが明らかである場合における当該標準項目 |
環境事業団が行う宅地造成に係る指針 第六条)
ここで、「環境影響を受ける地域その他の対象が相当期間存在しないことが明らかである」とは、当該地域の土地利用計画、将来計画、あるいは用途地域等の土地利用区分・規制に照らして、将来的にも存在しないことが明らかであることが必要である。
[2] 項目の追加を行う場合
5 | 第一項の規定による項目の追加は、次に掲げる項目について行うものとする。 | |
一 | 事業特性が標準項目以外の項目(以下この項において「標準外項目」という。)に係る相当程度の環境影響を及ぼすおそれがあるものである場合における当該標準外項目 | |
二 | 対象事業実施区域又はその周囲に、次に掲げる地域その他の対象が存在し、かつ、事業特性が次のイ、ロ又はハに規定する標準外項目に係る環境影響を及ぼすおそれがあるものである場合における当該標準外項目 | |
イ | 標準外項目に関する環境要素に係る環境影響を受けやすい地域その他の対象 | |
ロ | 標準外項目に関する環境要素に係る環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象 | |
ハ | 標準外項目に関する環境要素に係る環境が既に著しく悪化し、又は著しく悪化するおそれがある地域 |
(環境事業団が行う宅地造成に係る指針 第六条)
なお、項目の削除・追加を行うことにより項目を選定した場合には、技術指針にもあるとおり、方法書にその選定・非選定理由を明確に記述しなければならない。
5)調査・予測・評価手法の選定
(1)調査・予測・評価手法検討の考え方
環境影響評価における調査・予測・評価を効果的かつ効率的に行うためには、環境影響評価の各プロセスにおいて行われる作業の目的を常に明確にしておくことが必要である。環境影響評価における最終的な目的は「評価」であることから、スコーピング段階における調査・予測・評価の手法検討では、実際の環境影響評価における作業の流れとは逆に、評価手法の検討→予測手法の検討→調査手法の検討の順に検討を進める必要がある。特に、項目の追加・削除や手法の重点化・簡略化を行う場合には、従来の環境影響評価とは異なった調査が必要になったり、あるいは従来行われてきた調査が不必要になったりする場合があるため、スコーピング段階でこの評価・予測・調査の関係について十分な検討が行われていないと、無駄な調査の実施や調査不足による手戻り等が生じるおそれがある。
図2-8 調査・予測・評価手法検討の流れ
(2)評価の考え方
環境影響評価法における評価の考え方は、大きく下記のア、イの2種類がある。これらのうちアについては評価の視点に必ず盛り込む必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点も必ず盛り込む必要がある。
ア、イの評価を行なう場合には、イの基準等との整合が図られた上でさらにアの回避低減の措置が十分であることが求められる。現状において環境基準を満足していない地域等、イの基準等との整合が図られない場合には、それを明らかにするとともに、アの視点からより一層の回避・低減の措置を検討した上で、双方の評価をあわせて総合的に評価することになる。
ア 環境影響の回避・低減に係る評価
建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。 イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る評価 評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。 ウ その他の留意事項 評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。 |
(基本的事項 第二項五(3))
上の2種類の評価の考え方それぞれにより、調査・予測・評価の内容及び手法等は大きく異なるため、調査・予測手法の検討に先立って、事業特性、地域特性及び上の評価の考え方を考慮し、当該事業の環境影響評価における評価の方針について検討しておくことが必要である。
基本的事項には回避、低減に関する評価手法のひとつとして「実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること」を例示している。
「実行可能なより良い技術を取り入れること」とは、欧米において許認可等に導入されている考え方であり、我が国のアセスメントにおいては電力事業等に導入されてきた実績がある。対象事業に導入される様々な技術を環境保全の観点から性能評価して最高水準と考えられる数種類を抽出し、これを地域特性や事業特性を勘案しつつ事業者が実行可能な範囲で事業に導入するものである。「実行可能」かどうかについては、欧米の事例をみると、まず主に技術的な側面から検討され、さらに経済的な側面等からの検討も加えられ、産業界やNGO等の様々な関係者の意見を聞いた上で決定されている。
我が国のアセスメントにおいては、例えば火力発電所の新規立地の場合、主に燃焼技術や排ガス対策技術について、類似の事例において導入されている技術及び導入される予定の技術やその分野での学術研究及び技術開発の状況などを把握し、その事業が着工される時点までに導入可能な、環境保全の観点から最高水準の技術が導入されるかどうかを目安として評価を行ってきた。
環境影響評価における「回避・低減に係る評価」とは、事業者の環境保全への努力の内容を評価することに他ならず、「実行可能なより良い技術」の導入に関する評価においても、事業者がその導入について努力をしてきたこと、検討してきたこと、考えていることや導入の効果等を明確にした上で住民等や地方公共団体の意見を聴くというプロセスが、今後は重要となる。
発電所事業のみならず、全ての事業種についてこの評価手法は適用可能であり、今後は積極的な活用が求められるとともに、発電所事業についても新たな評価の考え方に対応して、この評価手法を改善する必要がある。
(3)調査・予測・評価対象とする範囲(地域)の考え方
[1] 調査・予測・評価の対象とする地域・地点の考え方
基本的事項において、調査および予測の対象となる地域(以下、調査地域、予測地域)・地点(以下、調査地点、予測地点)の範囲は、下記のように定められている。
イ | 調査地域 |
調査地域の設定にあたっては、調査対象となる情報の特性、事業特性及び地域特性を勘案し、対象事業の実施により環境の状態が一定程度以上変化する範囲を含む地域又は環境が直接改変を受ける範囲及びその周辺区域等とすること。 | |
ウ | 調査の地点 |
調査地域内における調査の地点の設定に当たっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報の内容及び特に影響を受けるおそれがある対象の状況を踏まえ、地域を代表する地点その他の情報の収集等に適切かつ効果的な地点が設定されるものとすること | |
イ | 予測地域 |
予測の対象となる地域の範囲は、事業特性及び地域特性を十分勘案し、選定項目ごとの調査地域の内から適切に設定されるものとすること。 | |
ウ | 予測の地点 |
予測地域内における予測の地点は、選定項目の特性、保全すべき対象の状況、地形、気象又は水象の状況等に応じ、地域を代表する地点、特に影響を受けるおそれのある地点、保全すべき対象等への影響を的確に把握できる地点等が設定されるものとすること。 |
(基本的事項第二項五(1)、(2))
[2] 調査地域
調査地域は、地域特性の把握の範囲において前述した通り、各項目毎の特性に合わせて設定することはもちろん、同一項目内においても調査対象に応じて柔軟に設定される(例えば、同一の調査予測対象について広域と事業地近傍の両方について設定する等)べきであり、必ずしも調査地域の範囲を一本の線で区分する必要はない。
一方、関連性の強い項目については、評価段階での必要性を踏まえて、その調査区域をあらかじめ調整しておく必要もある。
【留意点】事業対象地域周辺の取り扱いと「軽微な変更」に関する規定
施行令に規定される「軽微な変更」(令第9条、第12条及び第13条)については、施行令別表第2、第3において、軽微でない変更についての諸元と要件を定めている。
事業種によっては、諸元として「対象事業実施区域の位置」があり、その要件として「変更前の対象事業実施区域から○○メートル(個別事業種ごとに設定)以上離れた区域が新たに対象事業実施区域にならないこと」と記載されている。
この規定により、対象事業実施区域の中での工事計画などの変更はもとより、周辺○○mまでは事業自体の位置変更もありうることとなっており、区域の周辺○○mまでは事業実施区域と同様の環境影響をいつでも被るおそれがあることになる。このため、事業計画が変更になっても十分対応が可能であるように事業実施区域と同等な調査を周辺○○mまでを含めて行っておく必要があり、調査区域も「周辺○○m」を含むように設定されなければならない。
なお、この規定のない事業種についても、類似の規定があるものもあるので注意が必要である。
[3] 調査時点
調査を実施する時期・時点は、環境の自然変動や人為活動の変動等を考慮して選定する必要がある。また、評価の対象として何を選定するのか(平均値・最大値等)によっても必要とする調査の時期が異なることに十分留意する必要がある。
[4] 調査地点
調査地点は、調査地域に関する情報を重点的に収集することとする場合(大気質等の定点での現地調査が必要な場合等)に設定するものであり、定点での調査等を必要としない場合には、必ずしも調査地点の設定を必要としない。
調査地点を設定する場合の地点選定は、以下のような項目に配慮して行う。
・地域を代表する点
・特に影響を受けるおそれのある地点(大きな影響が予想される地点)
・特に保全すべき対象等の存在する地点
・既に環境が著しく悪化している地点
・現在汚染等が進行しつつある地点
[5] 予測地域
調査実施前のスコーピングの段階においては、特別な理由のない場合には予測地域を調査地域と同一に設定することが考えられるが、調査を実施した結果から予測する必要がないと判断された地域がある場合には、調査地域から予測地域をしぼりこむことができる。
[6] 予測地点
予測地点は、調査地点と同様に環境の状況の変化を重点的に把握することとする場合に設定するものであり、定点での評価を必要としない場合には必ずしも予測地点の設定を必要としないが、事後調査におけるモニタリング実施地点等を配慮して予測地点を設定するか否かは検討する必要がある。
なお、事後調査は予測の不確実性を補うために大切な調査であり、それによって予測の精度が検証され、場合によっては追加の環境保全対策を検討する上で重要な資料となる。
図2-9 事後調査を念頭に置いた予測地点の設定
【留意点】プラス面の評価の考え方
従来の環境影響評価においては、環境に一定程度以上のマイナスの影響を与える可能性のある範囲を環境影響評価の対象範囲としてきたが、事業の実施により環境の状況が改善される場合がある場合には、環境に対するプラスの影響についても環境影響評価の対象として考慮することができる。
例えば図2-10に示すような、市街地をバイパスする道路を建設することにより、現道沿いの市街地における環境の状況はプラスに転じる場合がある。調査・予測・評価の範囲に現道までを含めることによって、プラスの変化についても環境影響評価の対象とすることができる。
図2-10 プラス面を考慮した環境影響評価の範囲の考え方
(4)予測・評価の対象とする時期の考え方
[1] 予測対象時期の考え方
基本的事項において、予測の対象となる時期(以下、予測時期)は、下記のように定められている。
エ 予測の対象となる時期
予測の対象となる時期は、事業特性、地域の気象又は水象等の特性、社会的状況等を十分勘案し、供用後の定常状態及び工事の実施による影響が最大になる時期等について、選定項目ごとの環境影響を的確に把握できる時期が設定されるものとすること。
また、供用後定常状態に至るまでに長期間を要する場合又は予測の前提条件が予測の対象となる期間内で大きく変化する場合には、必要に応じ中間的な時期での予測が行われるものとすること。
(基本的事項 第二項五(2))
工事期間と供用期間が重合しない場合においては、工事の実施にかかる予測の時期は、工事による環境への影響が最大になる時点(通常は排出ガス量等の環境への負荷量が最大になる時点)とし、供用時における予測の時期は、供用される施設が定常状態になった時期とする。(図
2-11 イ)
工事期間と供用期間が重合する場合においては、工事の実施にかかる予測の時期は、工事を含めて周辺への影響が最大になる時点とし、工事による負荷と供用による負荷の合計が最大になる時点とする。(図
2-11 ロ)
ただし、環境への影響が最大になる時点は、必ずしも負荷量が最大になる時点ではなく、たとえば工事期間中に環境の保全についての配慮が特に必要な施設等が新たに出現する場合などは、これらの周辺環境の状況を勘案して予測時点を設定する。(図
2-11 ハ)
また、供用後に定常状態に至るまでに長期間を要し、環境の状況がその間に大きく変化するような場合には、負荷の最大時など中間的な適切な時期に予測を行う。(図
2-11 ニ)
なお、閉鎖性水域の水質や底質のように影響に蓄積性のある場合や、地下水のように事業行ための実施から影響の発現までに長時間を要する場合などは、これらの時間的要素にも留意する必要がある。
図2-11 予測対象時期の考え方
[2] 工事期間と供用期間が重合する場合の複合影響の考え方
工事中と供用時が重合する場合等においては、上記の(図 2-11)に示した時点で、工事による影響と供用時の影響の複合予測を行う必要があるが、評価基準が異なるために予測結果が加算できない場合(工事中の建設機械稼働による騒音と道路交通騒音による影響など)等、それが技術的に困難な場合には、それぞれの評価を行った上で両者の複合影響について評価の際に十分考慮するものとする。
(5)予測手法の考え方
[1] 予測の不確実性
環境影響評価の予測手法選定においては、基本的にはその時点で最新の技術を用い、最も確からしい結果を定量的に導き出す手法を選定することが望ましいが、予測には常に不確実性があることを留意する必要がある。
予測の不確実性の原因には、予測条件の不確実性、計算に用いるパラメーター等の不確実性、予測手法の不確実性等のさまざまなレベルがあるが、これらの不確実要因が予測結果に与える影響を常に考慮し、予測結果の記述にあたってはその不確実性についても記述するとともに、単一の前提条件、予測手法による単一の結果に固執することなく、住民等の意見にも配慮しながら複数の予測条件や予測手法による結果を併記するなどの柔軟性が求められる。(図 2-12(a,b))特に、交通量のように、それ自体が想定を含む予測条件については、その妥当性や不確実性を十分検証して示す必要がある。
また予測手法が複雑で、予測結果が妥当なものであるかどうかの検証を住民等が行うことができないような場合には、簡便な手法の併用により、複雑な手法による予測結果が概ね妥当な範囲にあることを示すことで、より住民等の理解を深めることが出来るものと考えられる。(図 2-12 (c))
図2-12 複数の予測手法による結果提示のイメージ
【留意点】
・二点補正の考え方
予測にあたっては、単に標準手法等に定められた予測式を適用するのみではなく、より信頼性の高いモデルを構築するため、現状と過去の2点のデータを用いた補正(二点補正)による検証を行うなどの工夫が必要である。
予測計算を行う場合には、通常現状の値を用いてパラメーターの設定等を行うが、その結果として現状が再現されても、必ずしも将来を正しく予測できるとは限らない。特にパラメータが多い場合などは式の自由度が高く、現状再現に合わせたパラメータ設定が可能であるため、その傾向が強い。こういった場合には、過去のデータを用いて過去の再現検証を行うことにより、将来予測の精度を向上させることができる。
図2-13 二点補正の考え方
・統計的手法の見直し
大気・水に関する環境影響評価の予測手法は、計算手法の進歩などに伴い、多くの分野で数値計算に主流が移りつつある。しかし、環境の現状に関する情報は近年飛躍的に蓄積が進みつつあり、豊富な情報量を生かした統計的な手法の採用についても積極的な活用を検討する必要がある。
[2] 予測に用いる自然条件
大気・水等のように、ある自然条件の中で汚染物質の挙動を捉えるような場合には、前提となる自然条件を設定する必要がある。自然条件の設定にあたっては、以下のような条件設定が考えられるが、いずれの場合においても自然条件の変動及びその変動幅を考慮することが必要である。また、平均的な条件が必ずしも平均的な環境影響にならないことにも留意する必要がある。
・影響が最大となる条件の設定
・影響が平均的になる条件の設定
(6)手法の重点化・簡略化
事業者は、環境影響評価の対象とすべき要素について、地域特性の把握の結果、あるいは、事業計画から想定される影響要因、事業者の環境保全に対する取組みの姿勢等について勘案し、手法の重点化や簡略化を検討する。どの程度の重点化(重点的かつ詳細に実施する)、または、どの程度の簡略化(簡略化した手法で効率的に実施する)を適用するかどうかは、各要素について検討し、最も適した調査・予測・評価手法を選択することが必要である。
なお重点化・簡略化は、技術的に高度な手法や簡易な手法を用いることだけではなく、調査・予測地点、予測ケースの増減等も含めて考える。
手法の重点化・簡略化を検討する要素としては、以下のような例が考えられる。
[手法の重点化を検討する要素]
[1] | 事業特性により標準項目以外の項目による環境への影響が懸念される場合 |
[2] | 環境影響を受けやすい地域又は対象が存在する場合(表 2-2参照) |
[3] | 環境の保全の観点から法令等により指定された地域又は対象が存在する場合(表 2-3参照) |
[4] | 既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域が存在する場合(表 2-4参照) |
[5] | 地域特性、事業特性から標準手法では予測が技術的に困難と思われる場合 |
[6] | 事業者が環境保全上特に重視したものがある場合 |
[7] | 地方公共団体が環境保全上特に重視したものがある場合 |
[8] | 方法書に対する意見として重点化を求める意見が多い場合 |
表2-2 環境影響を受けやすい地域又は対象が存在する場合の例
区分 | 内容 |
---|---|
汚染物質の滞留しやすい地域 | 大気汚染物質が滞留しやすい気象条件を有する地域、閉鎖性の高い水域その他の汚染物質が滞留しやすい水域 |
人の健康・生活環境に特に配慮が必要な地域等 | 学校、病院、住居が集合している地域、水道原水の取水地点その他の人の健康の保護又は生活環境の保全についての配慮が特に必要な施設又は地域 |
自然度の高い自然環境、野生生物の重要な生育・生息地 等 | 自然度が高い植生の地域、特定植物群落、湿原、原生流域、藻場、干潟、さんご群集、自然河岸、自然湖岸、自然海岸、汽水湖、その他の人の活動によって影響を受けていない若しくはほとんど受けていない自然環境 |
学術上もしくは希少性の観点から重要な動植物の生息地・生育地、渡り鳥の集団渡来地、その他野生生物の重要な生息地若しくは生育地 | |
重要な地形・地質、景観資源の分布地等、またはこれらに相当する場所 |
表2-3 環境の保全の観点から法令等により指定された地域又は対象が存在する場合の例
区分 | 内容 |
---|---|
大気汚染防止法指定地域 | 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)第5条の2第1項に規定する指定地域 |
自動車Nox法特定地域 | 自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号)第6条第1項に規定する特定地域 |
沿道整備道路 | 幹線道路の沿道の整備に関する法律(昭和55年法律第34号)第5条第1項の規定により指定された沿道整備道路 |
水質汚濁防止法 指定水域・指定地域 |
水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)第4条の2第1項に規定する指定水域又は指定地域 |
指定湖沼等 | 湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)第3条第1項の規定により指定された指定湖沼又は同条第2項の規定により指定された指定地域 |
瀬戸内海等 | 瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)第2条第1項に規定する瀬戸内海又は同条第2項に規定する関係府県の区域(瀬戸内海環境保全特別措置法施行令(昭和48年政令第327号)第2条に規定する区域を除く。) |
国立公園、国定公園、都道府県立自然公園 | 自然公園法(昭和32年法律第161号)第10条第1項の規定により指定された国立公園、同条第2項の規定により指定された国定公園又は同法第41条の規定により指定された都道府県立自然公園の区域 |
原生自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域 | 自然環境保全法(昭和47年法律第85号)第14条第1項の規定により指定された原生自然環境保全地域、同法第22条第1項の規定により指定された自然環境保全地域又は同法第45条第1項の規定により指定された都道府県自然環境保全地域 |
自然遺産 | 世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約第11条2の世界遺産一覧表に記載された自然遺産の区域 |
近郊緑地保全地域 | 首都圏近郊緑地保全法(昭和41年法律第101号)第3条第1項の規定により指定された近郊緑地保全区域 |
近畿圏の保全区域の整備に関する法律(昭和42年法律第103号)第5条第1項の規定により指定された近郊緑地保全区域 | |
緑地保全地区 | 都市緑地保全法(昭和48年法律第72号)第3条第1項の規定により指定された緑地保全地区の区域 |
生息地等保護区 | 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号)第36条第1項の規定により指定された生息地等保護区の区域 |
鳥獣保護区 | 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(大正7年法律第32号)第8条ノ8第1項の規定により設定された鳥獣保護区の区域 |
ラムサール条約指定湿地 | 特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約第2条1の規定により指定された湿地の区域 |
名勝・天然記念物 | 文化財保護法(昭和25年法律第214号)第69条第1項の規定により指定された名勝(庭園、公園、橋梁及び築堤にあっては、周囲の自然的環境と一体をなしていると判断されるものに限る。)又は天然記念物(動物又は植物の種を単位として指定されている場合における当該種及び標本を除く。) |
歴史的風土保全区域 | 古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法(昭和41年法律第1号)第4条第1項の規定により指定された歴史的風土保存区域 |
風致地区 | 都市計画法(昭和43年法律第100号)第8条第1項第7号の規定により指定された風致地区の区域 |
保安林 | 森林法(昭和26年法律第249号)第25条第1項又は第2項の規定により指定された保安林(同条第1項第8号、第10号又は第11号に掲げる目的を達成するために指定されたものに限る。)の区域 |
保護水面 | 水産資源保護法(昭和26年法律第313号)第15条第1項又は第4項の規定により指定された保護水面の区域 |
表2-4 既に環境が著しく悪化し又はそのおそれが高い地域の例
区分 | 内容 |
---|---|
環境基準未達成地域 | 環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の規定により定められた環境上の条件についての基準(第5条第1項第2号イ及び別表第2において「環境基準」という。)であって、大気の汚染、水質の汚濁又は騒音に係るものが確保されていない地域 |
騒音規制限度超過地域 | 騒音規制法(昭和43年法律第98号)第17条第1項に規定する限度を超えている地域 |
振動規制限度超過地域 | 振動規制法(昭和51年法律第64号)第16条第1項に規定する限度を超えている地域 |
地盤沈下地域 | 相当範囲にわたる地盤の沈下が発生している地域 |
[手法の簡略化を検討する要素]
[9] | 環境への影響の程度が極めて小さいことが明らかな場合 |
[10] | 影響を受ける地域又は対象が相当期間存在しないことが明らかな場合 |
[11] | 類似の事例により標準手法を用いなくても影響の程度が明らかな場合 |
(7)大気・水・土壌環境に関する手法の整理
スコーピング段階では上記の結果を踏まえ、事業者が適切かつ実施可能と判断した手法を選定する。選定にあたっては、調査・予測・評価に関する計画内容として概ね以下の事項について整理する。
その際、調査・予測・評価手法の選定に関する基本的事項及び技術指針の内容に十分留意することが必要である。
[1] 調査手法
・調査対象・調査項目:調査の対象とすべき要素と調査すべき情報の種類
・調査地域・地点:範囲、位置等(図面情報等)
・調査法:調査対象、調査項目、調査地域の特性に応じて選定
・調査期間・時期:期間、時期、回数等(工程表等)
・調査体制
[2] 予測手法
・予測する影響の種類:対象要素に関して予測する影響の種類
・予測地域・地点:範囲、位置(図面情報等)
・予測法:予測する影響の種類に応じて選定
・予測時期:工事中、存在・供用時等影響の発生時期に応じて設定
[3] 評価手法
・評価及び環境保全措置検討の基本方針
6) 方法書の作成
上記4)及び5)の環境影響評価の項目・手法の選定の過程で、事業者が検討した項目・手法の案について意見を聴くために方法書を作成する。作成にあたっては、前述の「第2章1 3)」及び「第2章1 5)」を参照のこと。
方法書に記載する事項は以下のとおり規定されている。
一 | 事業者の氏名及び住所(法人にあってはその名称、代表者の氏名及び主たる事務所の所在地) |
二 | 対象事業の目的及び内容 |
三 | 対象事業が実施されるべき区域(以下「対象事業実施区域」。)及びその周囲の概況 |
四 | 対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法(当該手法が決定されていない場合にあっては、対象事業に係る環境影響評価の項目) |
(法 第5条第1項)
方法書の作成にあたっては、広く一般からの有益な情報の収集を図るために、以下の点に留意して、できる限りわかりやすく記載することが大切である。
(1)事業の名称
法の規定はないが、事業の全体像を示すものとして、また方法書の表題としても記載する。
(2)事業者の氏名及び住所
【記載上の留意点】
・ | 代表者の氏名・住所のみならず、質問等を受け付ける担当部署の名称、連絡先を明記しておくことが望ましい。特に連絡先には住所、電話番号、ファックス番号、インターネットのメールアドレスやホームページのURL等、できる限り多くの連絡手段が明示されていることが望ましい。 |
・ | 都市計画特例の手続による場合、都市計画決定権者の名称となるが、あわせて事業者の氏名及び住所も記載する。 |
(3)対象事業の目的及び内容
「2)事業特性の把握」の結果から、できる限りわかりやすく具体的に記載する。記載事項については、事業種ごとに主務省令に示されているが、一般的には以下のとおりである。なお、省令に示される記載事項は必要最低限のものであり、事業者の判断で追加できる。
[1] | 事業の目的(事業の背景や必要性の記述を含む) |
[2] | 事業の名称及び種類 |
[3] | 事業実施区域の位置(図面・空中写真情報として提示、位置・区域が未確定の場合には立地を検討する範囲を示すものとし、関連工事の位置・区域も含めるものとする。) |
[4] | 事業の規模 |
[5] | 事業計画の概要及び諸元(方法書作成段階で提示可能な内容) |
[6] | 供用時の運用計画の概要(方法書作成段階で提示可能な内容) |
[7] | 工事実施計画の概要(方法書作成段階で提示可能な内容) |
[8] | 事業計画決定の流れと検討の経緯 |
[9] | 事業者の事業計画や環境保全への考え方 |
[10] | その他 |
【記載上の留意点】
「対象事業の目的及び内容」の記載にあたっては、次の点にも留意する。
・事業計画決定の流れと検討の経緯
本来、調査・予測・評価手法の方針検討にあたっては、環境影響評価手続に際して事業者が合意を得ようとしている事業内容の範囲が明確でなければならない。そのため方法書においては、対象事業の計画決定と事業実施に関する全体の流れの中で、環境影響評価手続がどのような段階から始められたのかを明らかにし、その上で環境影響評価手続を通じて事業者が選択可能と判断する事業計画変更等に関する選択肢の幅と、それが規定されるに至った経緯(事業計画決定・立地選定の過程と手続)については、できるだけ正確に住民等に提示することが望ましい。
・事業者の事業計画や環境保全への考え方
事業の実施による効果について住民等の理解を得られるべく説明することや、事業者の「環境保全・創出に向けての基本方針」や取り組みの姿勢をあらかじめ明確にしておくことは、評価手法選定にあたっての事業者の判断を第三者が理解する上での有効な材料となることから、方法書作成段階でも可能な限り明記しておくことが望ましい。
(4)対象事業が実施されるべき区域及びその周辺の概況
「3)地域特性の把握」において収集・整理した基礎情報に基づき、事業実施区域との関係を整理し、分布図や模式図、一覧表等を用いてわかりやすく解説する。
環境影響評価の項目および手法の選定に必要な地域概況に関する情報は、各環境要素毎に異なるが、方法書への記載にあたっては、これらを総括して周辺の概況として記載する。各項目毎の環境影響評価の項目および手法の選定においては、局地的あるいは断片的な情報をもとに項目および手法が設定されている場合でも、地域の概況として方法書に記載する場合には、第三者が当該地域の状況をイメージするために必要な情報を適宜加えることが望ましい。また、環境影響評価の項目および手法を選定するために用いた情報については、基本的にすべて方法書に記載する。
【記載上の留意点】
・情報の整理・解説にあたっては、次項での環境影響評価の対象とすべき要素の選定根拠や影響可能性の判断材料として参照されることを念頭において、第三者の理解が得られるような手順や表現方法を用いて記載する必要がある。
(5)対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法
「4)環境影響評価の項目の選定」及び「5)調査・予測・評価手法の選定」において事業者が項目・手法について検討したプロセス及びその結果、導かれた項目・手法の案について、図表等を用いてわかりやすく解説する。
【記載上の留意点】
・ | 方法書に示した項目及び調査、予測、評価手法の検討結果が最善かどうかについては、方法書手続を通じて寄せられる意見を参考として判断することとなり、それらの意見を踏まえ必要に応じて項目・手法の見直しを柔軟に行い、対象地域に最もふさわしい適切な項目・手法を選定する必要がある。 |
・ | 調査、予測、評価は一連の作業フローの中で行われるものであり、その過程で環境保全措置の検討、事業計画へのフィードバック等が繰り返される。また調査により新たな要素が発見されることもあることから、随時補足的な調査が必要になったり、調査結果に応じ新たな予測手法の適用を検討する必要性が生じるなど、流動的な側面もある。方法書に示した調査、予測、評価の実施計画は柔軟に変更可能であるが、もし変更した場合には、その内容と変更理由を整理して準備書に記載することが必要となる。 |
・ | 手法の選定結果については、結論に至る過程・理由を含め具体的に記述する 。 |
(参考) | |
・具体性に欠ける例 | |
「拡散シミュレーションによる予測手法を採用する。」 | |
・望ましい例 | |
「事業予定地が谷間に位置しており、過去の大気汚染の状況を踏まえると、逆転層の影響で特に冬期の2月に大気汚染物質の濃度が高くなる傾向が見受けられ、また、当該事業による大気汚染物質の発生量及び特性は、・・・である。 以上の周辺状況と事業特性から、・・・という特徴をもつ○○モデルによる予測を採用し、このモデルが適用できない○○についてはこの条件に適した○○モデルによる予測をあわせて採用する。」 |
|
・ | 調査、予測、評価手法には、現時点では開発途上にある技術も多く、それらの環境影響評価への適応技術の確立や選択にあたっての適性の目安等については、今後の研究や実績の積み重ねを必要とする。しかし、環境影響評価の技術手法をより良いものへと向上させるためには、これらの関連分野の研究や技術開発の進展を迅速に取り入れながら、個々の案件ごとに最新の技術の導入を積極的に行い、環境影響評価への適用の実績を積み重ねていくことが期待される。 |
7)準備書への記載
準備書には、実際に行った環境影響評価の項目・手法、すなわち方法書手続で得られた意見や調査・予測・評価の段階で得られた知見に基づいて方法書の内容を見直した結果としての項目・手法を記載する。
準備書に記載する事項のうち、スコーピングに関する部分は以下のとおり規定されている。
一 | 第五条第一項第一号から第三号までに掲げる事項 |
二 | 第八条第一項の意見の概要 |
三 | 第十条第一項の都道府県知事の意見 |
四 | 前二号の意見についての事業者の見解 |
五 | 環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法 |
六 | 第十一条第二項の助言がある場合には、その内容 |
七 | 環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。) |
(法 第14条第1項)
スコーピングに関して準備書に記載する際は次の点に注意する。
一は事業計画等についての方法書の記載であり、記載の留意点は方法書と同様である。なお、この時点では方法書段階と比べて、より詳細な事業計画を把握していると考えられるため、方法書同様に必要最低限の事業内容に限らず、事業計画の熟度が高まることも踏まえ、それらに関する情報等を追加しながら工夫して記載し、わかりやすい準備書を作成することが重要である。また、選定項目や手法を変更した場合等には、その前提となる事業特性及び地域特性も必要に応じて書き改める。
二、三、四は方法書手続の結果を示すところである。
五の「環境影響評価の項目並びに調査、予測、評価の手法」については実際に実施した結果を記載する。この記載にあたっては、各主務省令により、それらの項目・手法を選定した理由を明らかにしなければならないとされている1。この際、環境影響評価を実施する段階での見直しも含めたスコーピングの経緯等を記載することにより、項目・手法の選定理由がよりわかりやすくなる。
さらに七のイの記載にあたっても、環境影響評価の結果のみならず、スコーピングで選定された調査・予測手法の内容の妥当性について記載が必要とされている2。
1 例えば、道路事業に係る指針 第十八条第2項の規定による。
2 例えば、道路事業に係る指針 第十八条第2項の規定による。